本年度もよろしくお願いします。
今回は過去編です。時間的にはクロム君が独立して数年後くらいです。
これは少し昔のお話。
「明けましておめでとうございます」
バンッ!と音をたてて扉を開きます。
「あ〜、おめでとうごぜーやす。何ですかい?急に来て?」
扉の近くにいたアーサーさんが返事を返しながら聞いてきます。部屋の中にはクロム君、ヴァネッサさん、アーサーさんの3人がいて暖炉を囲んで各々の作業をしています。書類仕事だったり道具の手入れだったりですね。3人共事前連絡も無しに突然やってきた私に胡乱な目を向けてきます。永い付き合いです。私に対して相応の警戒心を持っています。結構結構。
「何って新年の挨拶ですよ。それにしても元旦から辛気臭いですね、もうちょっとパーッとお祝いとかしましょうよ?」
そう、3人共に元旦から祝い事もせず、ちょっと豪勢な食事を作ったりもせずに、部屋の中で黙々と内職作業をしているのです。
「いや、普通はこんなもんですって。新年の祝い事なんてやっているのはお貴族様ぐらいなもんですよ」
まぁ、そうなんですよね。この時期、普通の人はお祝いなんてしません。何せ冬は外で食料が取れませんからね。秋までに準備した備蓄をくずしながら大人しく部屋の中で内職作業をして冬を越すのが一般的です。下手に外で仕事をしても寒くて体調を悪くしますし、無駄に動いても食料の消費量を増やすだけです。家畜の世話以外は大人しくしているのが賢い選択です。寒さと飢えを耐えながら春を待つのはある意味当然の帰結です。
現在、このクロム領はようやく軌道に乗ったばかり、色々な問題とぶつかりながら前へと進み出したばかりです。贅沢出来る程の余裕はありません。ここに来るまでに見た家々もどこも似たようなものでした。
しかし
「いや、あなた方は一応お貴族様なのですが?」
私がそう突っ込めば
「……確かに」
と、アーサーさんは思わず同意してしまいます。
「確かにじゃない。貴族とか関係ない。この町はまだまだ開発途上、余計な事をする余裕は無い」
しかし、ヴァネッサさんはスパッと切り捨てます。
まぁ、そうですよね。当然そうなりますよね、分かっていました。しかし……。
「はい、勿論それは私も理解しています。そこでこの状況を改善するとても良いお話しを持ってきました」
私が手を、パンッ!と叩いてそう言えば、3人共に露骨に嫌そうな顔をして此方を見てきます。
「帰れ!」「余計な事するな!」「姐さん退散」
3人はそう言って先程まで書いていた書類を投げつけてきます。
「ははは、もう遅い。最早私が何も言わずともあなた方は巻き込まれる運命なのです」
私がそう言いながら書類を避けると3人は肩を落として話を聞く姿勢を取ります。こうなっては話を聞いて対応した方がマシだと判断したようです。長い付き合いです、流石の慣れです。
「それでは町の中心の広場になるべく人を集めて下さい。事は私達だけの話ではありませんので」
私がそう言えば3人はため息を吐きながらコートを着て家から出て行きます。
それから大体1時間後、広場には50人以上の人達が集まりました。私は1人、壇上に立って皆を見ています。
「皆さん、良く集まってくれました。先ずは感謝を。本当は色々話したいのですが、時間がありません。早速本題に入ります」
私はそう言って待っている間に作った看板(結構大き目)を立てます。
『第一回、クロム領格付けチェック‼︎』
そう書かれた看板を皆さんに見せます。
「これより皆さんに生きる資格があるかチェックいたします。近いうちにここ最近、近辺の村々を襲っていた大規模な盗賊団がこの町を襲撃に来ます。皆さんはこれを見事に撃退してください」
私がそう言えば集まった人々はざわつき始めます。
「盗賊団に敗北すれば皆さんは生きる資格無しとして地べたに骸を晒す事になるでしょう。しかし、見事に彼等を壊滅出来れば、彼等がこれまでに集めてきた食料や金品は全て我々の物として良いことになっています。そうすれば豪勢な新年が迎えられますよ」
私が力強く宣言すれば、皆さん聞いているのかいないのか、更にざわつきが大きくなります。
そんな中でクロム君が手を上げます。
「はい、クロム君どうぞ。皆さんお静かに」
そう言ってクロム君を指名すれば
「あー、色々聞きたいが先ず、盗賊団が来ると言うのは本当ですか?」
この場の全員が思っていることの代弁ですね。嘘であってほしいと。
「はい、本当です。この前まで隣の領地で暴れていたのですが、現在は此方の方に向かって進んで来ています。近いうちにこの町に来るのは確実でしょう」
ここ近辺でこの町以外に目ぼしい村や町はありませんからね。
「規模はどれくらいだ?」
「少なくとも50名以上。元は傭兵くずれが始めた集団で、食い詰めた農民や商人なんかを吸収して大規模になった連中です。本当はもっと大きな経済規模を誇る地域にいたのですが中央から派遣された騎士団から逃げて、道中の村々を襲いながら此方まで来た感じですね」
話を聞いていた人の中の幾人かはこの場を離れて行きます。急いで偵察兵を送って事実確認をしたり、武器や防具の確認などをしに行ったのでしょう。
「くそっ、運が無い。何でよりにもよってこっちに来るんだよ」
町人の1人がボヤきますが
「いやいや、運なんかではありませんよ。此方に追い込むのがどれだけ大変だったか」
私がそう言えば
「今、何て?」
ヴァネッサさんが聞き返してきます。
「ですから、追い込むのがとても大変だったんですよ。いやー、私が中央から派遣された騎士団の指揮をとったんですけどね、上手く此方に流れる様に誘導するのが大変だった事大変だったこと」
「お前のせいかー!」「何してんだテメー!」「馬鹿かテメー‼︎」
といっせいに私に向かってのブーイングコールの合唱です。
「寂しい冬の経済状況を少しでも良くしてあげようと言う私の善意ですよ。それでは皆さん頑張って下さい」
私はそう言って台から降りると全力で逃げ出しました。
その後の話をすると、盗賊は見事撃破されました。よくよく考えればあの町の人々の前職は傭兵だった人が沢山いるのでこの結果は当たり前ですね。
更に翌年以降、クロム領では新年は皆で祝い事をするのが決まりになりました。何でも盛大に祝って厄病神を追い払うためだとか。