色々ありました。
人生色々、メンタルズタボロ。
再開します。
「次の方、どうぞ〜」
受付のミルファちゃんが患者を呼んでいる。
僕はモラモラ病院で先生の助手をしながらずっと考えている。
「今日はどうされましたか?」
先生は患者さんといつも通り相対している。
いつも通りの日常、いつも通りのみんな。そんな中で僕だけが上の空でぼんやりしている。
つい先日、教会で聖女様を見送った日の夜を思い出す。
『シン君、貴方への2人目の課題です。デッドオアアライブ、お好きにどうぞ』
そう言ってアンリは一枚の手配書を手渡してきた。
『これって⁈』
そこに描かれていた人相書きには見覚えがあった。
『はい、モラモラ医師ですね』
手配書に書かれていた事がとても信じられなかった。先生がこんな事するとは思えなかった。だって先生はスラム街でタダ同然で医者をしていて、みんなに好かれていて、誰からも頼られている、そんな人なんだ。それが……
『信じられないかもしれませんが、それが現実です。気になるならご本人に聞いてみては?』
それだけ言ってアンリは興味をなくしたのか何処かに行ってしまった。
そして今朝、ミルファちゃんが来る前に来て、先生に直接尋ねてみた。これは本当なのかと。すると
『シンさん、その話は長くなりそうなので今日の仕事が終わったら少し残って下さい』
それだけ言っていつも通りに仕事を始めてしまった。
そうして今、先生はいつも通りに過ごしている。
僕は、先生は気にならないのだろうか?本当はこの手配書は何かの間違いなのではないだろうか?そんな事ばかりが頭をよぎって一人上の空だ。
そうして夕方になり今日の最後の患者さんが帰って行った。
「お疲れ様でしたー‼︎」
ミルファちゃんが元気に挨拶をしてくる。
「はい、お疲れ様。ミルファちゃん、これ今日の分ね。後これはいつものね」
そう言って先生はミルファちゃんに今日の分のお給料と薬の入った袋を渡している。ミルファちゃんは昔から身体が弱いらしくて定期的に薬を処方してもらっているらしい。
「ありがとうございます!それじゃあ先生、また明日ね!バイバーイ‼︎それじゃあシン君、今日もよろしくおねがいします‼︎」
「了解」
そう言ってミルファちゃんは手を振って孤児院に帰って行く。夕暮れ時に女の子が一人で出歩くのは危ないからと、僕も孤児院まで一緒について行く。このお見送りも僕の毎日の仕事だ。
「シンさん、戻って来たら今朝の話の続きをしましょう。待合室で待っています」
ミルファちゃんの後をついて行く僕の背に先生がそう言って病院内に戻っていった。
ミルファちゃんを送って戻ってくる頃にはすっかり日が暮れて辺は暗くなっていた。病院の建物からは待合室の閉められた窓から薄っすらと光が見えている。
玄関を開けてなっ中に入れば
「お疲れ様、少し待っててください。今コーヒーを淹れてきますから」
そう言って先生が出迎えてくれた。
待合室の椅子に座ってしばらく待っていると
「はい」
そう言って先生がコーヒーの入ったカップを渡してきます。
「ありがとうございます」
それを受け取りながら、何と切り出そうかと考える。
「さて、今朝の話の続きでしたね」
そう先生から切り出して来る。
「……はい」
緊張で手が震える。
「結論から言いますとその手配書に書いてある事は大体本当です。間違いは犠牲者の人数が15人ではなく、未発覚の7名を合わせて22名だといったところだけでしょうか」
思わず苦しくなって胸を抑える。
「そんな、……どうして」
先生はいつもと変わらない表情で
「そうですね、あの頃の私はどうかしていました。順を追って話していきましょうか」
そう言って先生はコーヒーを飲みながらゆっくりと話し始める。
「元々私はノチウドラで医者をしていました。特別目立ったところは無い、普通の町医者でした。評判は悪くはなかったですけどね」
話しながら先生は昔を懐かしむように目を細めます。
「当時、私には娘がいました。丁度今のミルファさん位の年齢でした。快活で元気な子でした。事故で妻に先立たれた私にとって、唯一の家族で何より大切な宝でした。彼女が笑っている。ただそれだけで私の全ては満たされていました」
先生の声には今まで聞いた事が無い優しい色があった。
「しかし、幸せな日々も長くは続きませんでした。娘が流行り病にかかってしまったからです」
淡々と話す先生の胸中はいかほどのものか、想像もできない。
「その年に流行った病気はかなりの猛威をふるってね、正確な人数は分からないけど最終的な死者は万を軽く超えました。私の娘もその中の1人でした」
ゆっくりと話すのは多分、今でも自分の中で整理しきれない想いがあるのだろう。
「仕方のない事です。我々の想定を超えていました。薬が足りない事も、十分な看護が出来ないのも仕方のない事でした。それでも、これ以上感染が広がらないようにと隔離され死んでいったあの子の事を思うと今でも気が狂いそうになる」
そこまで言って先生は僕の方を見てくる。
「とまぁ、ここまでならば身も蓋もない言い方をしてしまえば、何処にでもある、ありふれた単なる悲劇で終わったのですがね。私はここで間違えた」
その瞳は、見たこともない、何と言っていいのか分からない光を宿していた。