ブルーアーカイブ〜からくり仕掛けのメシア編〜 作:名を失われた天使
第8話 破
どこか、見たことのある場所にいる。
傾いた太陽が雲を橙色に染め、青空と共に虹色のような空を作り上げている。
私は電車の中で、シートに座っている。隣のスペースには、血の跡がついている。どのシートにも、血の跡がはっきりとついている。
「…………」
無くなっていた腕がある。足もある。
あれは、夢だったのか。
『夢ではありません』
突然の声に驚く。声の聞こえてくる方を見る。
『あれは、あらゆる可能性の先。あらゆることの基です、先生』
赤い。赤いアロナ。
『突然のことで状況が飲み込めていないのでしょう。安心してください』
赤いアロナは、胸を張ることもなく、機械的に喋る。
『先生のご活躍は私も理解しています』
何をだ。何を理解しているのか。私はまだ何をしたのかを理解しきれていない。
『そこで起こったことは、すべてが奇跡と言っても、先生の行動によって変わったことばかりです』
何が。何が変わったのか。私にはわからない。
『私は今、この危機を乗り越えるための力を、願いを持ち合わせていません』
淡々と、ただそう呟くその姿が、とても痛ましい。
『ですが、先生なら、乗り越えるための力を、願いを叶える力を使えます』
何が君をそうさせた?何がここまで変わらせた?
『もし、計画通りに動かなくても、諦めないでください』
『きっとそれが、彼女たちを本来の姿へと戻すでしょうから』
『全ての切っ掛けは、先生、貴方ですから』
『先生、目覚めてください』
「ーー!ー生!先生!!起きてください先生!!」
身体を揺すられて目が覚めた。
先ほどまでのと違い、普通にシャーレの休憩室のソファの上で横になっている。
「ユウ、カ……?」
「もう、お昼になりましたから昼食をとりに行きましょう、先生」
そうか、あれは夢だったのか。
「?どうかしたんですか、先生?」
「なんでもないよ、ユウカ」
あの夢が、正夢とならないよう祈ろう。
『対象、移動中』
「了解した」
通信を切り、目の前のことに集中する。
「ふーっ……まさか、こんなにも早いとはな」
チャンバーチェック、良し。サイトにキズ、クモリ無し。
「……突入」
私の合図と共にドローンが数機、先生が入った店へと向かう。
歩道橋から飛び降り、生垣越しに先生を見る。
「こちらF02」
『こちらC。用件をどうぞ』
「対象の安全を確認。店内にて不穏な動きなどはあるか」
『今のところ見られない』
「了解」
やることはただ一つ。先生の保護。
深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
「いざとなったら、コレもあるからな……」
コレを投げたら良い。その許可ももらっている。
『F02!!個室トイレに動きあり!!』
「!!」
Cからの通信を耳にしたと同時に生垣を飛び越えて、店内へと突入する。
ユウカと共に食事が届くのを待っていた。
後ろに気配を感じて振り向くと、そこはキヴォトスの一般人のロボ市民が立っていた。
「シャーレの先生で合ってますか?」
そして、こう問いかけて来た。
私は普通に「はい、そうですが」と答えた。
するとその市民は腕を振り上げて、私の頭目掛けて勢いよく振り落とした。
「あぶなっ!?」
「先生!?」
とっさに椅子をその市民にぶつけ、転倒させる。
店内がざわつく。
「ちっ……まぁ、いい。生徒には、黙ってもらおうか」
腰付近に手を回し、銃を取り出した市民、いや、敵。
「ちょっ、お客様!?」
店員も慌てているようだ。ここは早く収めなければ。
シッテムの箱を起動して、防護フィールドを張らなければ。
だが、相手の方が早かった。生徒を狙うかのように誘って、私を狙った。
「遅い!!」
「お前が、な!!」
飛び蹴りが飛んできた。その蹴りは顔に当たって、ロボの頭を砕いた。
飛んできたのは少女だった。どこの生徒なのかわからないが、敵ではないのはわかった。
赤い、赤い印象がとても強い少女は、私に背を向けて、今さっき蹴り飛ばしたロボを見ていた。
「ったく、バレてたのかよ……」
頭部は市民のあの楕円形ではなく、角ばった、よく見る傭兵に似たものが見えた。
「ユウカ」
「はい!!」
「戦うよ!!」
シッテムの箱を取り出し、指揮を始める。
シッテムの箱の画面上が俯瞰した戦場を映す。
ユウカが椅子や机の陰に隠れる中、赤い少女の名前を確認する。
小花シュウ。
装甲タイプは神秘か。
ん?
「ユウカ、とりあえず敵の数は1。シールドを貼って突撃」
「了解!」
とりあえず、目の前の傭兵を倒すことに専念する。シュウには後で聞けば良い。
『先生!他の生徒さんを呼びますね!!』
アロナがモモトークに一斉送信を行い、近くの生徒を呼び出す。
ん、やら今すぐ行くねー☆、などが通知欄に沢山来る。
『先生!!敵の増援です!!』
店の奥からゾロゾロと出てくる敵たち。
狭い店内でこれ以上戦い続けるのは不利だ。
「アロナ。フィールドをお願い」
『了解しました!!』
出入り口を目指して駆ける。
「ユウカ!!後退!!」
「了解!!」
敵へと撃ちながらも私の背を追うユウカを確認して、急ぐ。
店内には、シュウと傭兵達が残った。
『大丈夫でしょうか……』
「多分、大丈夫」
シッテム上ではHPが減っていないことを示している。
「あなた様、こちらです」
ワカモがこちらに手を伸ばしていた。
「ワカモ、少し手伝ってくれる?」
「えぇ。勿論でございます」
ワカモが膝をついて大袈裟に答える。
「このワカモ。あなた様の為ならどんなところへでも、どんな内容でも従うと誓い[ドォォォンンン]………」
音のした方を見ると、店からシュウが爆風と共に飛び出して来ていた。
「……あの女……私の先生へ送る言葉の邪魔をして……」
ワカモがお面越しに物凄い目でシュウを見つめる。
そして、店からゾロゾロと傭兵達が20、40と……。
「多くない!?」
狭い店内には入りきらない人数が出てくるなんて。
そして、そんな数の敵を前にしても、シュウは戦おうとしていた。
「シュウ!!撤退だ!!」
大きな声で読んでみたものの、シュウはこちらに振り向くことすらしなかった。
「世話の焼ける女だこと……」
隣からその声が聞こえた途端、ワカモが駆け出した。
「さっさと失せなさい」
正確に頭を打ち抜き、動かない機械の山を増やしていく。
「サポート、オン」
シュウもライフルでレンズと思われる部分を狙い撃つ。
敵の数がみるみる減っていく。
「ワカモ、あれがラスト」
「わかりました、貴方様」
残骸の山に隠れた敵をワカモに教えて、周囲の被害を確認する。
「店舗1件、歩道、街路樹、ガードレール……」
今回は市街のため、シャーレがその弁償をしないといけない。
またお金が溶けていく。
ふと視線をシュウに向ける。
「………」
「………」
ワカモがシュウの目の前に立って見下ろして睨んでいる。
シュウもそれに対抗してワカモを見上げて睨……睨んではいない。
「ワカモ、お疲れ様。シュウも」
試しに肩に手を置いて労う。
だが、気まずい空気は変わらなかった。
「ユウカ、ヘルプ」
「私にはどうにもできません」
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