2.擬態の魔法
ヴェクセルとして生きるようになってから、早いもので数年が過ぎた。
この数年の内に何度か人間に会うことがあったが、
自分の姿を一目見た直後、全員が逃げていった。
私が人間だったころも、道中魔族にあったらそうしていただろう。
今日もまた人間に出会った。
溜息をつき、剣を構えた人間の男の戦士を見遣った。
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逃げた人間の誰かが話したのであろう。
『あの森には魔族がいる』
逃げた人間の誰かが乞うたのだろう。
『森の魔族を殺してくれ』
どうやら今日来た人間の戦士は、ヴェクセルという魔族を討伐しにやって来たようだ。
私が何かを考える暇もなく、電光石火の如く動き、私の首を跳ねようと水平に剣を振るった。
反射的に後ずさろうとして、つんのめり、体制を崩してころんだ。
自分の首があった場所を幅広の剣がヒュンと言う風を切る音を立てて通り過ぎた。
人間の戦士は私にとどめをさそうと大上段で剣を構えた。
切られると思い、反射的に頭をかばうように腕を掲げた瞬間、
腕から、牛のような獣を倒したのと同じ、光の槍が飛び出した。
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≪自動で襲撃者を射抜く魔法≫とでも言うのだろうか、
自分の意に反して発動したその魔法は、剣を掲げた人間の胴体に樽の太さ程の大きな風穴が空けていた。
剣を構えた戦士の身体が力を無くし、ドサリと音を立てて倒れ込む。
なぜこうなってしまったのだろうか。
身体は魔族となってしまっても人間を殺さないよう努め、
今まで来た人間は追うこともなく、
なんとか会話しようとも試みていたのに。
このままでは、次々に魔族を殺すための刺客が送り込まれてくるだろう。
もうこの地には居られない。
自分を襲った戦士のもとに歩み寄る。
私が近寄っても何の反応を示さない。
戦士の顔に手を掲げて『擬態の魔法』と呟いた。
魔族ヴェクセルの作ったこの魔法は、顔と姿形を手の平で読み取った相手に変えることができる。便利な魔法を作ったものだ。
ヴェクセルの記憶からは、このような魔法を作った理由も読み取ることが出来たが、私にとってはどうでもよいことだった。
襲ってきた戦士の服、装備を奪った私は、
久方ぶりに人らしい姿かたちを得ることが出来た。
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戦士の亡骸を埋葬した後、戦士が来た方向を引き返すようにこの地を去る。
不本意ではあるが、魔族ヴェクセルの魔法書とその魔法に救われることとなった。
なんとか人里に帰れそうだという安心感と初めて人を殺めてしまった罪悪感の間で葛藤しつつも、
久方ぶりに角がない自分の頭をさすり、歩きながら笑みをこぼした。
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一週間ほどかけて歩いている内に、村が見えてきた。何度か人を見かけたのは近くに村があったからだったのか。
村に住んでいる人と思わしき女性がいた。
こちらを見遣ると笑みを浮かべて、挨拶をしてきた。
久しぶりで上手く声が出せなかったが、つっかえながらもなんとか挨拶を返すことが出来た。
満面の笑みを浮かべて女性の傍を通り過ぎていく、村の入口は直ぐそこだった。