ひきこまり吸血姫の執事   作:神無月 優

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ようやく一章書き終えたー!
二章を書く前に番外編を書くか迷うなぁ。


後日談、というか今回のオチ

「知らない天井」

 

 宮殿内にある治療院。

 その病室のベットで寝ていたコマリ様は目を覚まされた。

 

「コマリ様。目が覚めましたか」

 

 目を覚ましたコマリ様は声のする方を向く。

 いつものメイド姿ではなく、自分と同じ病人服を着ており、身体中に包帯をぐるぐると巻きつけていた。

 これでは変態メイドではなく、ただの変態だ。

 

「──ヴィル!? だ、大丈夫なの!? 痛────ッ!?」

「じっとしていてください。手術したとはいえ、神具で抉られた部位はまだ癒切っていませんので」

「ヴィルが手術してくれたの?」

「いえ、私とコマリ様はそこにいるアルク大尉に手術されたのです。私とコマリ様を運んでくれたのも彼ですよ」

 

 コマリ様はそう言われて、ヴィルヘイズの少し後ろの床頭台に皿を敷き、リンゴの皮を剥いている俺の方へ向く。

 

「・・・・・・アルク、お前がミリセントを倒してくれたのか?」

「いいえ、コマリ様が勝利されたのですよ」

「何に?」

「ミリセント・ブルーナイトにです。私は負傷したあなたとヴィルヘイズを運んで治療をしただけです」

 

 俺は皮を剥き終えたリンゴを二人に配ると、戦闘の様子を事細かに説明する。

 初めは半信半疑だったコマリ様も、詳細に説明を受ければ信じざるを得ないだろう。

 

「烈核解放をご存知ですか?」

「ああ、風呂の時に言ってたやつ?」

「はい。烈核解放とは、魔法とは別系統の特殊能力のことです。これを保有する者は魔核とのパスを切断することで、普段魔核の魔力で封じられている真の力を発揮できます」

「付け加えると、烈核解放使用時は魔核の魔力による再生と蘇生は無効化されます。二人ともボロボロなのに烈核解放を使うものだから焦りましたよ」

 

 それを聞いてコマリ様は顔を青ざめていた。

 さらにそんな状態で逆転したということが信じられないと口を開く。

 

「やっぱりまだ信じられないなあ。アルクが嘘を言っている可能性もあるだろ?」

「私はコマリ様に対して絶対に虚言は吐きませんよ。隠し事はしますけどね」

「とにかくコマリ様は最強なのです。どんな敵も余裕で屠れます。事実ミリセントも余裕で死にました」

「そっか・・・・・・」

 

 ミリセントの死亡。

 それを聞いてコマリ様の表情が曇る。

 そんなコマリ様にヴィルヘイズは淡々とした声で言う。

 

「あのテロリストは捕らえられ、今は地下牢に繋がれています。もう襲ってくることはないでしょう。だからもう過去に縛られる必要はないんですよ」

「・・・・・・あいつを倒したからって、心の傷が無くなるわけじゃない」

「それはそうかもしれません。ですが──」

「後でミリセントと話してみるよ」

 

 ヴィルヘイズは驚きに目を見開いた。

 

「あいつは私を憎んでいる。たぶんそれは未来永劫変わらない。だけど──少なくとも私のほうは変わりたいんだ。あいつを怖がるんじゃなくて、なんとか理解しようと努力してみるのも必要なことだと思う。そうしなくちゃ過去と決別できたとは言わない」

「・・・・・・ご立派です。しかし綺麗事ですね」

「私もそう思うさ」

 

 コマリ様は苦笑される。

 あの戦いは間違いなくコマリ様を成長させた。

 それは誰かが手を貸したり、代わりに戦っていては得られない糧だ。

 

「・・・・・・これからは、少しくらい外に出てみるのも悪くないかもな」

「わかりました。では二日に三度のペースで戦争の予定を入れておきましょう」

「やることが極端すぎるんだよお前は!!」

 

 ヴィルヘイズに呆れてコマリ様は不貞寝する。

 そこでコマリ様はある事に思いを巡らせる。

 

「──ところでお前たちはこれからどうするんだ」

「「え?」」

「三年前の件には片がついたんだ。もう私に使える必要はないだろ」

「そこのメイドはともかく、私は三年前の件とは関係なくこの屋敷に仕えています。これからも変わらずお仕えしますよ」

 

 コマリ様は安堵した様子でこちらを見ていた。

 まあ今後手助け無しであの第七部隊を纏めるのは苦労されるからだろう。

 次にコマリ様はヴィルヘイズの方を向くと、変態メイドはこの世の終わりのような顔をしていた。

 

「そんな・・・・・・私はもう用済みってことですか・・・・・・」

「いや、そういうわけじゃないが」

「ひどいですコマリ様、私から働き口を奪うおつもりなんですね。これでは盗賊になってコマリ様の部屋に押し入って下着を盗むしかないじゃないですか!」

「せめて金目のものを盗めよ!? そんなこと言ってると本当に解雇するぞ!? それにアルクがいるならお前も簡単には侵入できないぞ」

「コマリ様、あまりその男を信用しすぎるのも良くないかと」

「お前と違ってアルクは変態行為に走らないから安心できるんだよ」

 

 俺はそれを聞いて少し後ろめたい気持ちになる。

 

「コマリ様、もしかして気づいていないのですか? 全身を負傷した私たちはその男によって手術を受けました」

「ん? そうだな。それがどうかしたの?」

「つまり、アルク大尉は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()はずなのです」

「!?!?!?」

 

 コマリ様は両腕で身体を覆い、顔を林檎のように紅色に染め、涙を浮かべこちらを睨んだ。

 

「なのでコマリ様、私たちはこの男に責任を取ってもらう必要があるとは思いませんか? きっと今後はこれまで以上に馬車馬のように働いてくれることでしょう」

「・・・・・・お前なぁ。まあどんな責任も取るつもりですよ」

 

 揶揄うヴィルヘイズの頬は少し赤みがかっていた。

 コマリ様は少し落ち着いたのか、深呼吸をして口を開いた。

 

「・・・・・・なら責任取ってずっと私の側にいろ! 勿論ヴィルもだ! これからもよろしくな!」

「コマリ様、それってプロポーズ・・・・・・!?」

「んなわけあるかっ!」

 

 コマリ様はヴィルヘイズに大声でツッコミを入れて、痛んだ治りかけの傷を押さえた。

 

 ⭐︎

 

「──急報! アルク大尉が敵将を討ち取りました! 繰り返します! アルク大尉が敵将を討ち取りました! 我が軍の勝利です!」

 

 伝令役の声が響き渡った瞬間、吸血鬼たちが喧しいほどの雄叫びをあげた。

 その雄叫びに包まれながら、コマリ様は隠れて安堵の溜息を吐く。

 

「危ないところでしたね。まさか一斉に突撃してくるとは」

「まったくだな。死ぬかと思ったぞ・・・・・・」

 

 コマリ様は肩から力を抜いて椅子に深く座り込んだ。

 核領域の紛争地帯。

 コマリ様率いるムルナイト帝国軍第七部隊は、ラペリコ王国のチンパンジー軍団と三度目の戦争を行っていた。

 当然宣戦布告してきたのは相手方。

 どうやら敵将のハデス・モルキッキ中将はコマリ様に執着しており、リベンジしたくて仕方ないらしい。

 再戦を仕掛けてくるのだから相応の策を練ってきたのでは──というコマリ様の警戒は悪い意味で無駄となった。

 やつらは自暴自棄になっていた。

 戦争が始まると同時に敵将が下した命令はまさかの全軍突撃。

 目を血走らせた獣人どもが理性をかなぐり捨てて特攻してきた。

 先陣を切っていたのが敵将であるチンパンジーご本人だったので、俺はミリセントの得意とする【魔弾】を見様見真似で発動し、眉間を貫かれたチンパンジーは呆気なく死んだ。

 

「──ケッ! 僕の出番はナシかよ」

 

 ヨハン・ヘルダース中尉は盛大た舌打ちをした。

 そして心底残念そうに青空を見上げた。

 

「あーあー、せっかく久々の戦争だってのに。僕の中で燃え盛るこの炎はどこにぶつければいいんだ?」

「──おいクソガキ。なぜ貴様がこの隊に戻ってきている?」

 

 腕を組んで立っていたベリウスが、ギロリとヨハンを睨んでいた。

 ヨハンは小馬鹿にしたように鼻で笑う。

 

「おいおいベリウス、文句があるなら大将軍閣下に言えよ。僕の第七部隊復帰を決めたのはそこに座っている閣下なんだぜ?」

「「なッ」」

 

 ベリウスのみならず、近くで話を聞いていたカオステルまでもが驚愕した目でコマリ様を見下ろした。

 まあ二人の言い分も理解できるが、ヨハンは蘇生後にコマリ様に対面して言った。

 

 ──悪かったよ。もうお前を殺そうとは思わない。というか、その、あれだ。僕がお前を守ってやるよ。お前はゴミのように弱いけど根性だけはそれなりにあるようだしな。お前が七紅天として強者ぶれるように協力してやる。か、勘違いするなよ! べつにお前のためじゃない! これは僕が第七部隊に戻るための交換条件だ。僕がお前を守ってやるから、そのかわり、ぼ、僕をお前の近くに、いさせろ!

 

 などとツンデレ台詞を捨て吐いていたが、どう考えてもコマリ様に対して気があるとしか思えない。

 経緯は単純で、ミリセントに利用されるだけされて捨てられたヨハンが負傷しているのを見たコマリ様は、「助ける」と言い切ったそうだ。

 自分よりも弱いと思っていた女の子に身も心も救われたヨハンは、無自覚ながらも恋心を抱いたというわけだ。

 

「閣下! なぜヨハンをお許しになるのですか!」

「こやつはテロリストに与していました。危険です」

 

 コマリ様は「フッ」と不敵に笑うと、なるべく呆れた様子で言った。

 

「お前たちは一度の失敗で他人を咎めるのか?」

「・・・・・・しかし閣下。ヨハンの失敗は度を越していますよ」

「たかがテロリストに誑かされた程度のことだろう。諸君はいちいち細かいことを気にしすぎなのだよ」

「ッ!?」

 

 吸血鬼たちの表情に衝撃が走った。

 

「なんて心が広い」

「デカすぎる・・・・・・器が!」

「あの方は我々とは見ている世界が違うのだ」

 

 コマリ隊の吸血鬼たちはコマリ様へ尊敬の眼差しを向ける。

 まあ自分の境遇を知りながら味方してくれる人が一人でも多い方が良いからヨハンを許したというのがコマリ様の本心なのだが、結果的に部下たちからのコマリ様への印象は良い方へ高まった。

 

「なるほど。ヨハンは閣下の寛大な御心に救われたということですね」

「そういうことだ。でも安心したまえ、もしこいつがまたテロ行為をしたら、その時はもう絶対に許さない。〝仏の顔も三度まで〟というが、私の顔はそんなに無いのだ! 私自身が責任持って殺害してやろうではないか!」

 

 うおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ────────ッ!!

 吸血鬼どもは雄叫びをあげた。

 熱狂しきった部下たちがお馴染みのコマリンコールを始める。

 熱狂のど真ん中に屹立しながら、コマリ様は諦めのような気分を抱えて天を仰いだ。

 

 ⭐︎

 

 宮殿内に存在する地下牢。

 ここには過去にテロ行為や違法殺人、変態行為、などの様々な罪状で捕縛された囚人たちが収容されている。

 暗く淀んだ空気が流れる地下牢はいつ訪れても慣れない。

 俺はある囚人が捕えられている牢の前に立って言った。

 

「ミリセント・ブルーナイト。貴方を条件付きで釈放します」

 

 牢の中で手足を鎖で繋がれている青髪の少女──ミリセント・ブルーナイトは驚愕の表情を露わにしていた。

 俺はその鎖を持っている鍵で一つ一つ解錠していく。

 鎖から解き放たれたミリセントはしばらく会話ができずにいて口角が硬直しているのかゆっくりと言葉を発した。

 

「あんた、テラコマリの執事よね。何の権限があって、私を釈放させるわけ? 私が何したか分かってんの?」

 

 ミリセントは特に睨んでくるわけでもなく、無感情で淡々と口を開く。

 

「そっか、あんたもテラコマリを崇拝してる口でしょ? 直接私をぶち殺したいのね。いいわ、その望み叶えてあげるわ」

「・・・・・・一旦ここを出ますよ。ここの空気を吸っていると気分が悪くなります」

 

 俺はミリセントに手を差し出した。

 振り払われるかと思いきや、素直に手を握り返してきた。

 俺はミリセントを連れ、地下から外へ出る。

 暗い地下牢とは対照的に外の世界は夕陽が照らす時刻にもかかわらず眩しかった。

 

「これを皇帝陛下から預かっています。中は後で確認して読むように」

 

 皇帝の親書であることを示す、国章の封蝋がされた豪奢な封筒をミリセントへ手渡した。

 

「・・・・・・これは?」

「貴方には本日より条件付き釈放の命が下されました。一つ、帝都から外へ出ることを禁じます。それ以外の範囲であれば自由に行動していただいて構いません。二つ、近いうちに七紅天の席が一つ空きます。貴方にはいずれ七紅天として部隊を率いてもらいます」

「は?」

「さらに三つ、貴方に監視をつけます。監視するのは私──アルク・エルヴェシアスです。今後とも宜しくお願いします」

「は!? あんたあの皇帝の血縁なの!?」

「養子ですよ。義姉が現皇帝陛下であるカレン・エルヴェシアスなので、お使い感覚で任務を言い渡されるんですよ」

 

 俺は呆れたように溜息を吐く。

 まだミリセントは困惑している様子だった。

 

「貴方はコマリ様と似ています。環境こそ違えばきっと貴方とコマリ様は親友になれたはずです。いえまだ遅くはありません。歩み寄ってみてはいかがですか?」

「あんたの目はどこに付いてるの? 私とテラコマリが似てるだなんて、何を根拠に──」

「好きな食べ物はオムライス」

「!?」

「ぬいぐるみが好きで、愛読している書物は恋愛小説。幼少の頃は犬を飼っており、大の動物好き。それから──」

「そ、それ以上言うのをやめなさいッ!? 殺すわよッ!?」

 

 ミリセントは興奮気味に叫ぶ。

 顔は茹で上がったように真っ赤にしており、涙目でこちらを睨んでいた。

 こういうところもコマリ様そっくりだ。

 

「皇帝陛下は貴方に機会を与えたのです。環境のせいで人生を悪変させたのであれば、今度は自ら環境を作れば良いのです。これから先の長い人生で貴方が何を成していくのか、それを陛下は期待されているのですよ」

「あの皇帝が、私に期待?」

 

 何を馬鹿な、とミリセントは苦笑したが、その眼には光が宿っていた。

 

「私はブルーナイト家の再興がしたい。うちの家族はロクでもないやつばかりだったけど、それでも・・・・・・私の生まれた家だから」

「そうですか」

「何他人事みたいに言ってるの? あなたは私の監視役でしょう? ならあなたにも私の躍進に協力してもらうわよ! 早速私がこれから拠点とするブルーナイト家の廃墟を掃除をしてもらうわ!」

 

 そう言って俺の手を引くと、ミリセントはまるで幼子のようにはしゃいで沈みかかっている夕日に向かって走り出した。

 ガンデスブラッド家にブルーナイト家と、結果的に俺の仕事量は増したわけだが、少女たちの笑った顔が見れるならそれも良いとさえ思えてくる。

 

 かくして、吸血鬼の執事の日々は続いていく。




今の所分かっている執事の情報【一章時点】
名前:アルク・エルヴァシアス(エルヴァシアス家の養子)
性別:男
役職:ガンデスブラッド家執事、ムルナイト帝国軍準二位大尉、ブルーナイト家執事?
魔法:見聞きしたものなら何でも使える(例外はある)
烈核解放:使えない
過去:六年前にテラコマリ・ガンデスブラッドに救われる事件があった。三年前に帝立学院に通うが中退し、ガンデスブラッド家の執事として雇われる。
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