コマリ隊のイカれ具合を書くのは難しいんだよなぁ。。。
「ではこれより閣下グッズの制作にあたり計画を立案しようと思います!」
ムルナイト帝国軍第七部隊の訓練場。
その端にポツンと位置する倉庫は、普段エンタメ戦争の作戦会議にも使用されたり変態どもの密談の場としても使用されたりしている。
主催のカオステル・コント中尉を筆頭に、長机に囲むように座るのはテラコマリ・ガンデスブラッド将軍に忠誠を誓った者たちばかりで、どいつもこいつも面構えが違う。
または自らの変態性を顧みない、面の皮が厚い連中の集まりとも言える。
ちなみに本日は珍しく第七部隊の活動は休止している。
というのも、コマリ様は先のミリセント・ブルーナイトとの戦闘により負傷したため、休暇を取って療養しているのだ。
ゆえに暇を持て余したコマリ隊の吸血鬼たちは考えた。
この機会に閣下の偉大さを喧伝するグッズを作って販売活動を行おうと。
「本日閣下は休暇を取っており、邪魔なアルク大尉も別任務でこの場に来られない。この千載一遇の機会を逃す手はありません! 今こそ我々の悲願を果たす時です!」
静かに拍手が鳴る。
普段は興奮止まない雄叫びをあげている吸血鬼たちが、一丁前に知的ぶって、中には伊達メガネをくいっ、と上にあげる吸血鬼もいた。
ちなみに俺ことアルクは現在ミリセント邸廃墟の清掃、内装の修繕、合間を縫ってコマリ様の世話やガンデスブラッド邸の家事全般を行っている。
【転移】門さえ刻んでおけば移動に不都合はない。
このまま関係がギクシャクしている二人を引き合わせても良かったのだが、当人たちの心の整理がまだついていないと思う為やめておいた。
ヴィルヘイズがいればガンデスブラッド邸の仕事は分担できる。
だが、コマリ様が休暇を取られたタイミングで有給を使い、彼女も休暇に入っている。
そしてそのヴィルヘイズはというと、
「書記はこのヴィルヘイズが務めます。皆さん存分に意見を出してください」
ホワイトボードの前に立つメイドもまた伊達メガネをかけており、吸血鬼たちの意見をボードにまとめ、議事録を書類用紙に綴っていく。
俺は【遠視】で会議の様子を覗いているわけだが、魔力を使用した形跡を感知できるミリセントには「何してんの?」と訝しむような目つきで見られた。
声までは魔法で聞き取ることはできないので、予め盗聴器を天井に仕掛けておいて、耳に装着したイヤフォンから音を拾う。
「栄あるグッズ第一弾は『コマリン耳かき』がいいと思います!」
「ほう、その心は」
「閣下に耳かきされる気分を味わえるのは至高かと思います。しかし・・・・・・それをご本人にお願いするのは恐れ多いためグッズとして提案した次第であります!」
「なるほど。一理ありますね。ヴィルヘイズ中尉『コマリン耳かき』です」
ヴィルヘイズはボードに言われた通りに記載する。
まあ動物をパーツに使った耳かきも売ってるし、これは許容できるか。
「私は『閣下うちわ』をご提案します」
「うちわ──ですか? それは一体何に使うのです?」
「我々はたまに闘技場で行われるアイドルのコンサートに行くのですが、うちわにそのアイドルの顔写真やイラストを書いて応援するのです。目的はそのアイドルのファンであることアピールすることにあります」
「なるほど。戦争勝利時に喝采をあげるだけの第七部隊にさらにうちわでのアピールが加われば──」
「ええ。我々第七部隊の最強ぶり、ひいてはコマリン閣下の最強ぶりを世に知らしめることができるのです!」
発言した吸血鬼とカオステルが互いに手を取り合う。
ヴィルヘイズはそれを見て淡々とボードに書いていた。
「テ、テラコマリの、『刺繍入りハンカチ』、とかどうだ?」
「却下です。閣下のお手を煩わせるなどと言語道断。それよりもヨハン、閣下をファーストネームで呼ぶのをやめてもらえませんか? 虫唾が走ってうっかり殺したくなります」
「やれるもんならやってみやがれ」
結局ヨハンは周囲の吸血鬼たちに取り囲まれて袋叩きにされて死んだ。
その場の騒ぎは収まり、つつがなく会議は進行する。
「ふぅ、これだけ沢山意見が出るとどれを商品化するのか迷いますね。ヴィルヘイズ中尉、貴方はどう思いますか?」
「……ふと思ったのですがコント中尉、グッズ制作に掛かる費用はどこから充てるつもりなのですか?」
「当然第七部隊に充てられた軍資金からです。なぜならグッズの売上金は次のグッズ制作及び軍資金へ還元されるからです。であれば先に使ってしまおうと問題ないでしょう」
問題大アリだ!!
カオステルは国が割り当てる軍資金の横領に手を染めようとしていた。
幸いまだ実行前だが、横領の事実が国にバレればコマリ様の首が飛びかねない。
物理的に。
「ん? アルク次はお前の番だぞ」
「あっ、申し訳ございません。ではここに置かせて頂きますね」
「うわあああぁぁぁーっ! また角取られたーっ!」
昼を過ぎてから早四時間が過ぎようとしていた。
俺とコマリ様はオセロで遊んでいた。
最近オセロに夢中になられているコマリ様の妹君であるロロッコ様が、コマリ様の部屋に押しかけては勝負を仕掛けてくるのだ。
ロロッコ様は負傷したコマリ様を心配されて様子を見に来られているのだろうが、コマリ様は姉としての威厳を示す為に俺の手が空いた時には対戦を申し込んでいる。
俺がすでに角を三つ取った時点でコマリ様は長考に入られた。
「コマリ様、私は少し席を外します。夕食の支度もありますので」
「うん。私も次の一手を考えるのに時間がかかるから、戻るのは遅くなってもいいぞ」
「あの……大変言いにくいのですが、すでに盤面は詰んでいます。四手先でコマリ様の打つ手が無くなりますね」
「……え? マジ?」
俺はトントンと黒白の石を並べていき、実際に詰みになるところまで演出する。
コマリ様は対局盤を乗せている机に両手をつきサレンダーされた。
俺はオセロの教本を差し出すと、コマリ様はそれを食いつくように見ていた。
しばらくはガンデスブラッド家のブームになりそうだ。
⭐︎
七紅府最上階にあるガンデスブラッド大将軍の執務室。
ここの金庫には国から支給された軍資金が保管されている。
流石にバカな犯罪者に資金管理を任せられないので、金庫の鍵は俺かヴィルヘイズ、そして軍のトップであるコマリ様が所有している。
ヴィルヘイズも暴走はするが、バカでは無い。
国家反逆の罪を背負ってまで協力しようとは思わない、筈だ。
「ん? なんか煙臭い」
俺は執務室のある部屋へ向かうと、扉は少し開いておりその隙間からは煙が廊下へ漏れ出ていた。
俺は急いで執務室に入ると金庫の鍵部分だけ器用に破壊されており、恐れていたことに中は空だった。
同時に俺はイヤフォンからメラコンシーの言葉を聞き取った。
「イエーッ! 金庫の鍵だけ即爆散。中身の有り金だけ奪取。犯罪行為キモチイイ。俺ってやっぱり超有能!」
強盗の実行犯からの確かな宣言。
それを賞賛するかのごとく静かに拍手が鳴る。
「くそッ! 関わりたく無かったけど行くしかないか」
俺は執務室の戸締りを済ませると、廊下の窓から地に飛び降りる。
そこから全力で走り抜け、第七部隊の訓練場へ到着。
件の会議場へと押し入る。
「コント中尉、さすがに軍資金にまで手をつけるのはやり過ぎです。我々の給料からグッズ制作の費用に充てれば良いではないですか」
「それだと生産数に限度がありますし、我々の給料を使ってしまえばグッズが手に入れられなくなる。あなたもそれは望むところではないでしょう、ヴィルヘイズ中尉」
どうやらヴィルヘイズを筆頭に軍資金の横領に反対する勢力が抗議を行っていた。
俺が中へ入ると吸血鬼たちは青ざめた顔で道を譲る。
「さてこの場の馬鹿騒ぎも良い加減お開きにしてもらいたいですね。ああメラコンシー大尉、そちらの軍資金は回収させて頂きますね」
「!? OH……いつの間に」
「アルク大尉、それを渡してください。これは全て閣下のためなのです。閣下のグッズを作り、世に閣下の偉大さを喧伝する足がかりなのです」
俺は深く溜息を吐いた。
「俺は何もグッズ制作を反対しているわけじゃない。ムルナイト国民に親しみを持ってもらう意味も含めれば良い施策だと思う。けど、そのために犯罪に走ってコマリ様を陥れるようであれば、その時はお前ら全員俺の敵だ」
会場内が騒つく。
発言者がヨハンであれば即リンチして黙らせることができるだろう。
だが以前のベリウスとの手合わせが印象付いているのか、吸血鬼たちは誰一人動こうとはしなかった。
「……では我々は諦めるほか無いと?」
「軍資金は回収する。だが、これはお前らにやる。それを使って好きにグッズ制作すれば良い」
俺は空間魔法【魔界の扉】を発動し、異次元から軍資金ほどではないが大量の札束を取り出し、机に重ね置いた。
「こ、これは一体……」
「皇帝陛下に奏上した。第七部隊の活躍及びテロリスト捕獲に尽力した報奨を用意して欲しいと。無論それだけでは納得してもらえなかったから金の使い道を伝えると許可してくれたよ。グッズが完成したら皇帝陛下に献上することを条件にな」
「それではアルク大尉、この資金は──」
「ああヴィルヘイズ、グッズ制作になら使って良いし、その売上金を次のグッズ制作もしくは軍資金に使っても良い。悪用しないのであれば自由にしたまえ、だとさ」
うおおおおおおおおおおぉぉぉぉ──!
コマリ隊の吸血鬼たちは踊り騒ぐ。
もう日も沈むし近所迷惑だからやめてほしい。
「アルク大尉、感謝します。私はあなたを誤解していたようです」
「そうだよなあ。俺は
「ぐっ、聞かれていたのですか!?」
「まあ気にしてない。それよりもどうするんだ? 今手元にある金額だけではあまり大した品を顧客に提供出来ないと思うが。大量生産を考えているんだろう?」
吸血鬼たちは騒ぐのを止めると、皆思い思いに考え込む。
そんな中ヴィルヘイズが右手を頭上へあげる。
「プリントTシャツはいかがでしょうか? 私はコマリ様の写真を数多く保有しています。それらを使っていただければコストもかからず、費用対効果を算出してみても十分な利益が期待できるかと思います」
「なるほど。Tシャツとは盲点でした。『閣下Tシャツ』があれば常に閣下と共にいる気分を味わえますし、街ゆく人々がいずれ日常的に着こなすようになれば、閣下に対する忠誠心を推し量れるというわけですね。素晴らしい! アルク大尉はいかがでしょう?」
「うん、いいんじゃない。金の管理はカオステルに任せるから後は好きにして。陛下に献上する分は取っておけよ」
「勿論です。アルク大尉の分も確保しておきますので、ご心配なく」
正直これ以上面倒ごとに関わりたく無かったので適当に返事をして踵を返す。
俺は手をひらひらと振り会場を後にすると、七紅府の執務室に戻り軍資金を金庫の中へ入れ、金庫の鍵の修繕する。
修繕に思いの外時間がかかり、急いでガンデスブラッド家の夕食の支度をする。
「コマリ様夕食の支度が出来ました。今日はお部屋で召し上がられますか?」
「ん、ああ、食堂で食べようかな」
コマリ様はぴょんっと可愛らしくベッドから飛び降りると、俺の隣に並んで歩き食堂へ向かう。
コマリ様を席に座らせると、俺は完成した料理をサーブする。
「おおー! オムライスだ! しかもこれ卵がくるくる巻かれているやつ!」
「はい。『ドレスドオムライス』と言います。まあ見た目が綺麗なだけでただのオムライスなのですが、喜んで頂いて何よりです」
「そんな事ない。ヴィルもだが、お前が作る料理はとっても美味しいから本当に感謝してるんだ。いつもありがとう」
周りを囲むデミグラスソースを一緒に掬いながらオムライスを頬張るコマリ様は幸せそうな表情を浮かべていた。
怪我が治ればまた慌ただしい日々がコマリ様を待ち受けているだろう。
束の間の平穏を有意義に味わって頂くべく、俺は身を粉にする労力を惜しまず働くのだった。