ひきこまり吸血姫の執事   作:神無月 優

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アニメひきこまり吸血姫の悶々の8話を何度も視聴していたら投稿するのを遅れてしまいました。
サクナのダストテイルの箒星が、想像以上に作画が良くて感動しました!
ハーフ蒼玉種の血であの強さのコマリ様は異常ですね!
次回アニメはゲラ=アルカ編に突入です。(水着回もあるかも?)

アニメに追いつくのは諦めていますので、のんびり投稿します。


夜の闇に浮かぶ月

 御前会議が終わる頃にはすっかり日が暮れていた。

 テラコマリの父であるアルマン・ガンデスブラッドは、長時間椅子に座っていたせいで凝り固まった全身を解しながら宵闇のムルナイト宮殿を歩く。

 ちなみに会議の議題は「いかにしてテロリストを殲滅するか」である。

 テロリスト──逆さ月の脅威は計り知れない。

 やつらは《烈核解放》という既存の魔法体系とは異なる秘技を研究・利用している。

 何の手も打たなければいずれムルナイト帝国に──魔核にやつらの刃が届いてしまうかもしれない。

 家族が安心して暮らせる場所を作ることこそがアルマンの至上目標。

 それ以外はどうでもよかった。

 

「陛下と秘密裏に打ち合わせをするか・・・・・・」

 

 アルマンと今上皇帝──カレン・エルヴェシアスは学生時代からの知り合いである。

 昔から変な女だとは思っていたが、皇帝に即位してからはいっそう奇人っぷりに磨きがかかってしまった。

 会議中にも何やら怪しげな謀略を巡らせている素振りがあったので、事前に彼女の意思を確認しておかなければ後で目の飛び出るような思いをすることになるだろう──

 

「ん?」

 

 闇の奥に誰かが立っている。

 背丈はそれほど高くはなく、暗闇のせいで顔は見えない。

 服装は──ムルナイト帝国の軍服だろうか。

 この時点でアルマンはそれほど警戒しなかった。

 武器を手に持っていないし、魔法を使う気配もない。

 アルマンはいつもの営業スマイルを顔に張り付けて口を開いた。

 

「どちら様でしょう。お名前をうかがっても──」

 

 人影がふと消え、嫌な寒気を感じて冷や汗を垂らした瞬間──腹部に激痛を感じた。

 

「ぐっ、」

 

 口の端から血が滑り落ちる。

 何者かがアルマンの腹部に背後から腕を突き刺していた。

 

「お、ま、え、は──」

 

 先ほど見た影そのものであり、まるでそうするのが当然のことであるかのようにアルマンの腹を貫いている。

 そいつの右目が赤く光る。

 それは烈核解放使用時の兆候──

 

「まさか、」

 

 それ以上考えることはできなかった。

 視界が霞み、呼吸が乱れ、はやく皇帝に報せなければとぼんやり考えているうちにアルマンの心臓は止まった。

 

 ⭐︎

 

「あらら。死んでるわ」

 

 義姉である皇帝陛下に呼ばれた俺は暗がりの宮殿内を歩いていると、道中に倒れている死体を発見した。

 死体からは血が絶えず流れて出ており、血色はそれほど悪くはない。

 死んでから間もないのだろう。

 死体の顔を覗くとそれは見知った顔だった。

 敬愛するテラコマリ・ガンデスブラッドの父──アルマン・ガンデスブラッドである。

 実のところ俺はアルマン卿のことを好ましく思ってはいない。

 家族思いではあるが、それ以外に対してどうでもいいと思っている節があり、非情で冷酷な手段を取ることも辞さない。

 三年前。

 当時齢十二であったミリセントは、ブルーナイト家の話は置いておくとして国家反逆の濡れ衣を着せられ国外追放された。

 ミリセントがコマリ様を虐めていたという事実は決して許せる行いでは無かったが、自分の娘と同じ歳の少女に下した罰としてはあまりに重かった。

 ミリセントはテロリストとなって舞い戻り、コマリ様と一悶着あったのがつい先日のこと。

 虐めは早いうちに発覚しており、すぐに助け出すこともできた筈だ。

 だがアルマン卿はコマリ様へ手を差し伸べるのでは無く、己の家族を害する敵、さらにはムルナイト帝国に裏で反旗をを翻すブルーナイト家の完全排除を優先した。

 結果二人の少女は三年前から今に至るまで心に傷を抱えて生きており、その傷は未だ消えることは無い。

 既に終わった話だし、当事者でない俺がこれ以上深入りするのは良くないだろう。

 

「取り敢えず陛下のところへ持って行くか」

 

 俺はアルマン卿の左腕を持ち上げて抱えようとした瞬間──背後から気配を感じた。

 自動防御魔法が発動し、カーンと何かを弾いたような音が鳴る。

 振り返るとフードを被った人物が一人。

 

「あなたですか。ここ最近宮殿内で政府高官や元老を殺していたのは」

「・・・・・・」

 

 アルマン卿を殺害したであろう人物は沈黙を貫いている。

 一定の間合いを保ち、こちらの出方を警戒していた。

 少しの膠着状態が続いた後に、殺人者は【転移】の魔法石でその場から離脱した。

 俺の目は少し特殊で暗闇の中でも昼間のようにはっきりとした視界をしている。

 当然犯人の外見はおろか顔までしっかりと目撃していた。

 

「あれがサクナ・メモワールか・・・・・・」

 

 ベリーチェイスの勘案は的をいていた。

 淡々と標的を殺害する危うさと、去り際に見せた悲痛な表情。

 彼女の行動と心情には矛盾があるように思える。

 宮殿内の魔力を探り、俺は陛下のいる場所を確認する。

 彼女が今居るのは謁見の間。

 全てを見透かしているかのように椅子に座して待っているであろう姿を浮かべると思わず笑みが溢れてしまう。

 謁見の間入り口に着いた頃にはアルマン卿の血は止まっていた。

 魔核の効力で傷口も再生しつつあるので、明日中には蘇生出来るだろう。

 扉を開けると部屋の奥で座しているカレン・エルヴェシアスが大福アイスを頬張っていた。

 

「ほ、ひたは。ほまへもふうは?」

「食べるか話すかどちらかにしてください」

「ん、はむ・・・・・・来たか。お前も食うか?」

「・・・・・・頂きます」

 

 今の時期は少し暑く冷えたものを食べたい気分だったので陛下からの恩賜品を素直に受け入れた。

 

「ところで抱えているのはアルマンか? ここ一週間で既に四人が殺害されているから次は誰かと思っていたが、まさかアルマンが殺されるとはな・・・・・・」

「やはり学生時代からの知り合いが殺害されるのは・・・・・・あまり気分が宜しくないですよね」

「ん? 別にそんな事はないぞ。殺したやつにはあっぱれと言ってやりたいくらいだ。あ、そいつは適当に隅にでも転がしておけ」

 

 この人家族以外からは嫌われすぎだろ、と抱えているアルマン卿を見ながらやや不憫に思う。

 

「今日お前を呼んだのはコマリとミリセントの調子はどうか聞きたかったからだ」

「え? テロリストの犯行を止めてほしいから呼んだのでは?」

「それは些末なことだし、コマリに頼むから良いんだよ。それに犯人はもう分かってるしな」

「サクナ・メモワール・・・・・・ですよね? 先ほど宮殿内の廊下で目撃しました。向こうは暗闇で顔を見られていないと思っていそうですが、夜目の効く私の前で姿を見せたのは悪手でしたね」

「そうかサクナ・メモワールだったのか。朕は知ったかぶりをしていただけだが、犯人が特定できたのならなによりだ」

 

 「ハッ、ハッ、ハッ!」と高笑いをする陛下だが、この人の発言からは真意が読み取りづらい。

 実は最初から犯人を知っていたと言っても何も不思議ではない。

 俺は一先ずコマリ様とミリセントの近況報告をする。

 変わり映えのない生活状況を語るだけではあるが、陛下は満足気に聞き入っていた。

 

「さてこれで朕は本日の公務を終えたわけだが──これから家族水入らずの時間を過ごすとしないか? 一緒に風呂で体を流し合うのも良いし、同じベッドで寝付くまで語り合うのも悪くない」

「私はまだ仕事が残ってますので謹んでお断りいたします。あと家族であろうと男女で入浴するのは一般的ではない事をご存知ですか?」

「可愛げがないなあ。朕と二人きりだというのに堅苦しい話し方をするし、お前は朕のことが嫌いか・・・・・・?」

「公私を分けているんです。陛下のことは尊敬してますし、エルヴェシアス家は私を受け入れてくれました。感謝こそすれ嫌うなどありえません」

 

 陛下は「そうか。そうか」と顔を緩める。

 この人は歳を重ねるごとに無邪気さが増してるように思える。

 それから俺は陛下に手料理を振る舞い、少しだけ歓談した。

 時折コマリ様の母君であるユーリン・ガンデスブラッドの話をすると寂寥感が漂う。

 彼女は魔核社会において極めて珍しく、戦場で亡くなられたとされている。

 あくまで俺の予想だがユーリン様は亡くなられてはいない。

 かつて七紅天として無類の強さを誇った彼女が()()()()()()()死ぬのはありえない。

 きっと今もどこかで戦い続けているのだろうと俺は思うことにした。

 

⭐︎

 

 ムルナイト帝国の都市近郊。

 夜もすっかりと更け、静寂に包まれた雰囲気とそれに相反するように陽気に賑わう二つの空気感で満たされていた。

 後者は酒の提供がある店々が主で、吸血種が元々夜の強い種族である故か成人を優に過ぎた大人たちで溢れかえる。

 俺が今訪れているのは少し洒落た感じのレストラン。

 この店は個室空間があり、その部屋の中央に備え付けられているテーブルにつく。

 テーブルマナーは執事教育で学んでいるから問題ないが、行き慣れていない店は落ち着かないものだ。

 

「──あまりそわそわしない。毅然に振る舞いなさい」

 

 声がするのはテーブル向かい側。

 青髪の少女──ミリセント・ブルーナイトは貴族然とした所作で紅茶を飲んでいた。

 

「この店には以前に来たことがあるのですか?」

「・・・・・・まあね。小さい頃に一度だけ。お父様とお母様に連れられて・・・・・・この店で初めてオムライスを食べたわ」

「そうですか。それは良い思い出ですね」

「・・・・・・あんた変わってるわね。調べたんなら分かるでしょう? ブルーナイトは政治家の家系で、他を蹴落とすことを強いられていた。そんな家族が団欒しての食事なんてあり得ると思う? 交わす言葉なんてほんの僅かで、今にして思えば冷め切った関係だったわ」

「でも──食べたオムライスは温かくて美味しかった・・・・・・違いますか?」

 

 ミリセントは一瞬目を丸くしていたが、過去を思い返すかのように「そうね」と微笑する。

 

「お待たせ致しました。ご注文の品でございます」

 

 ウェイターは二つの皿をそれぞれの眼前にサーブする。

 トマトソースの上に刻んだパセリが振り掛けられている、シンプルなオムライスが皿に盛り付けられていた。

 さらに付け合わせのサラダとスープが並べられ、料理の両端にカトラリーが置かれる。

 ウェイターは一礼するとその場を退席した。

 オムライスを食してみると、普遍的な味ではあるが素材や調理法に拘りを感じる。

 想像に過ぎないが、このオムライスは過去一度も味付けを変えず、代々受け継がれてきたのだろう。

 俺はかなり好みの味だが、ミリセントの方はどうかと気になり顔を見ると──彼女の瞳からぽろぽろと雫が溢れ出ていた。

 

「ミリセント嬢?」

「え、あれ? なんで、私、泣いてなんか・・・・・・」

 

 次第に涙の量は増していき、ミリセントは嗚咽を漏らして泣き喚く。

 俺は念の為に部屋に防音魔法をかけておき、外に声が聞こえないようにする。

 個室にしておいて良かった。

 

 

 暫くして泣き止んだミリセントは自分のハンカチで目元を拭う。

 

「・・・・・・取り乱してごめん。見苦しい姿を見せたわね」

「いえ、良いものが見れました」

「・・・・・・ほんといい性格してるわね。それで、今日は私に聞きたいことがあったんでしょう? 話してみなさい」

 

 ミリセントは心を落ち着けんばかりにティーカップに口をつける。

 瞑目しながら茶飲するのが常である彼女は、時折り目を開けてこちらが話を切り出すのを待っていた。

 

「サクナ・メモワールという人物に心当たりがありませんか?」

「・・・・・・知ってるけど、どうしてサクナ・メモワールについて聞きたがるの・・・・・・?」

 

 なんだか室温が少し下がった気がした。

 だが、俺は気にする事なく話を続ける

 

「実は最近帝国宮殿内で殺人事件が起きてまして、その犯人がサクナ・メモワールである事は分かっているのですが、彼女が進んで殺害するような性格には思えません。一時的とはいえ裏に通じていたあなたなら何か知っているのではないですか?」

「──そういう事ね。サクナ・メモワールは逆さ月の構成員よ。とは言っても接点なんてほとんど無かったけどね。私には無い才能を持っていたから気になってはいたわ」

「烈核解放・・・・・・ですか?」

「確か【アステリズムの廻転】って烈核解放が使えた筈よ。殺した相手の記憶を操作する力だったかしら」

 

 政府高官や元老を殺害していたのは魔核の在処を知るという狙いがある事はおおよそ察しがついていた。

 彼らは皆殺された際の記憶が欠如していた。

 犯人が精神干渉系の力を扱えるのなら魔核の在処を記憶から探る可能性も容易に考えられる。

 まあこの際それはどうでもいい事だ。

 

「サクナ・メモワール──というか逆さ月の目的はわかりました。結局のところ彼女はなぜ逆さ月の一員になったのでしょうか?」

「家族を人質に取られているそうよ」

「・・・・・・それは妙ですね。彼女の家族は既に亡くなられている筈です。だからこそ彼女は幼少の頃から孤児院で育ってきたわけですし、バラバラに切断された遺体を処理した記録も残っていました。このネタで彼女を脅迫するのは不可能では?」

「知らないわよ。そのあたりも烈核解放で記憶操作すればどうとでもなるんじゃない? 私が知ってるのはここまでよ」

 

 そこからは無言で料理を食していた。

 ミリセントはやや分かりづらいがオムライスを口に入れた瞬間は頬を緩めていて年相応の表情をしていた。

 

「それじゃあ私は帰るから」

「家まで送りますよ」

「そこまで監視する必要ある? 真っ直ぐ家に帰るだけよ?」

「夜道の一人歩きは危険ですから」

「────ふっ、あはっ、あははははははははっ!」

 

 ミリセントは一瞬笑いを堪えていたが、堪えきれずに吹き出し笑っていた。

 何かおかしな事を言っただろうかと思ったが、よくよく考えたらミリセントの実力なら七紅天クラスの敵でも現れない限りは脅威などまず無いだろう。

 すっかりコマリ様に接するのと同じ対応をしてしまっていた。

 

「そうね。じゃあ家に帰り着くまでエスコートしてもらえるのかしら?」

「言い出したのは私ですので、僭越ながら責任持って送り届けますよお嬢様」

 

 未明──まだ日が昇るには早い時刻。

 二人の影は暗闇に消えるように吸い込まれていった。

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