ひきこまり吸血姫の執事   作:神無月 優

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七紅天闘争が終わったらいくつか番外編を書こうと思うのですが、案がある方がいましたら是非感想欄にコメントください。

私はハッピーエンドが好きなので、七紅天闘争のラストは原作改編するつもりでいます。
どんな展開になるかは引き続きお楽しみください。




サクナ・メモワールと七紅天たち 後編

 陛下との謁見から一時間が経過し、俺たちは今第七部隊の訓練場に居る。

 目の前で部下たちが奇声をあげて殺し合っている中、コマリ様は木陰のベンチに座り、サクナから受け取った手紙を読んだ。

 手紙の内容を要約すると、

 

 ・口下手だから伝えたい事を手紙に記しました。

 ・一週間前に七紅天になりましたが、それに相応しい力は持っていません(自称)。

 ・偶然七紅天を殺害し、そのまま下剋上として地位を引き継いでしまいました。

 ・七紅天をやめたいけど、勝手にやめようとすると爆死する契約が履行されてしまうからやめられません(痛いのは嫌で、死にたくないです)。

 ・七紅天がテロリストに殺されるのは帝国の名誉に傷をつけたようなものなので、汚名返上しないと爆死の未来が待ち受けています(罷免されるのは大歓迎だけど、死にたくないです)。

 ・一緒にテロリストを捕まえましょう。精一杯頑張ります。

 

 以降余白には自己紹介が記載されていた。

 ラブレターかな?

 

 ・名前はサクナ・メモワール。

 ・帝都生まれ。

 ・母方祖母が白極連邦出身で、クォーター。

 ・戦うのは得意ではないが、杖を振るい魔法を扱うメイジ。

 ・趣味は読書で、好きな本は『アンドロノス戦記』。

 ・好きな食べ物はオムライス。

 ・好きな動物はカピバラ。

 ・好きな季節は夏。

 ・好きな星座はいるか座。

 ・小さい頃は家族で天体観測に行くのが好き()()()

 

「なんだ、これは・・・・・・!」

 

 文面を読んだコマリ様は驚愕していた。

 サクナの境遇が似通っていたからだろう。

 

「・・・・・・なあヴィル。サクナって有名なのか?」

「十二分に有名かと。なにせ彼女は久方ぶりに真っ当な下剋上で七紅天に任命された吸血鬼ですからね。聞いた話によれば前の七紅天を公衆の面前で爆殺したとか」

 

 俺はその話を爆殺された当人(ベリーチェイス)に聞いた。

 殺されたことは根に持ってそうだ。

 

「嘘だろ。手紙には間違って殺しちゃった、みたいなことが書いてあるぞ」

「下剋上が故意なのかは関係ありません。しかし一介の兵卒が帝国最強の七紅天を打ち倒すというのはロマンがある話です。民衆が惹かれるのも無理はないでしょう」

「そういうロマンに憧れていたからこそヨハン中尉は下剋上しようと思ったのでしょうね。今ではコマリ様に忠実な犬ですが」

「ふーむ。なるほどなあ・・・・・・それにあの容姿だもんなあ。人気が出るのも頷けるよ」

「コマリ様はああいう娘が好みなのですか?」

「好み? うん、まあ好きかな」

「!? !? !? !? !? !? !? !? !? !?」

 

 ヴィルヘイズは獲物を横から掻っ攫われた捕食者のような表情を浮かべていた。

 そんなヴィルヘイズを気にも留めない様子でコマリ様はテンションを上げていく。

 境遇だけではなく趣味も合いそうだし友達ができるかも、と思っているのだろう。

 

「よし! これからサクナのもとへ行こうじゃないか。テロリスト退治なんてまっぴらごめんだが、彼女とは話してみたいこともあるしな」

「ダメです。メモワール殿とお会いするなら、きちんとテロリストを捕まえるための会議をしなくてはなりませんよ」

「う。わ、わかってるさ。・・・・・・でも、よく考えたら私にできることってないよね? だって相手は何人も殺している凶暴なテロリストなんだぞ?」

「ならば部下を上手く使えばいいのです。コマリ様には五百人もの凶暴な部下たちがついているではないですか」

「メラコンシー大尉の爆発にのまれて、もうすでに百人ほど死んでますけどね」

 

 訓練場の方へ目を向けると、血走った目をギラギラさせて暴れ回っているやつ、血の涙を流して頭を掻きむしっているやつ、辺りは血や積み上げられた死体でまさに死屍累々だった。

 

「さあ、命令してください」

「命令といっても・・・・・・こいつら、忙しそうだぞ」

「大丈夫です、声をかけてみてください」

 

 コマリ様はベンチからおもむろに立ち上がると、深呼吸をしてから声を張り上げた。

 

「諸君、ちょっといいか!」

 

 ぴたり。

 殺し合っていた連中の動きが完全に停止した。

 まるで時間が止まったかのような光景である。

 ヴィルヘイズは大きく咳払いをした。

 

「これよりテラコマリ様からこ指示があります」

 

「指示」と誰かが呟いた。

 その呟きは波紋のように広がっていく。

 

「耳の穴かっぽじれ!」

「一言も聞き漏らすな!」

「誰を殺せばいいですか!?」

 

 部下の連中は餌を与えた鯉のようにコマリ様の元へと群がる。

 その中には顔面が半分消し飛んでいるやつもいて、コマリ様はドン引きされていた。

 

「閣下! もしや例の連続殺人事件でしょうか?」

 

 横から唐突に話しかけられてコマリ様はビクつく。

 声の主はカオステルで、不敵な笑みを浮かべている。

 

「う、うむ。実は先ほど皇帝から勅命があってな。なんでもこの私に犯人を捕まえてほしいそうなんだ」

 

 おおっ!と吸血鬼どもが声をあげて狂喜乱舞する。

 いつも騒がしいなこいつら。

 

「諸君には是非とも率先して下手人を捜索してもらいたいと思う。忙しい中こんなお願いをするのは恐縮だが、できればテロリストのやつを捕まえて貰いたいのだ」

 

 うおおおおおおおお────────と、相変わらずの雄叫びがこだまする。

 第七部隊の訓練場は七紅府から近い位置にある。

 七紅府の窓から業務に勤しんでいたメイドたちが何事かと見下ろしていた。

 ハッキリ言って近所迷惑である。

 

「恐れながら閣下、一つご提案が」

「なんだカオステル」

「テロリストを捕まえた者には褒賞を与えるというのはいかがでしょう。彼らの士気も百倍になります」

「褒賞か、うーむ・・・・・・」

 

 これ以上士気を上げる必要あるのかとは思ったが、コマリ様はその意見を無下にせず思考を巡らせる。

 こいつらの欲しいものって何だろう・・・・・・?

 

「わかった。──諸君、聞きたまえ! 見事テロリストを捕まえた者には三日間の特別休暇をやろうっ!」

 

 しんと沈黙が舞い降りた。

 

「閣下、恐れながらそれでは褒賞になっていないかと」

 

 カオステルが慌てたようにコマリ様に耳打ちする。

 

「え? なんで?」と可愛く首を傾げるコマリ様に俺は助言をする。

 

「やつらの趣味は殺人及び爆破による破壊活動です。休暇を与えられたところで暴れられなくなり不満が溜まるだけでしょう。──ご覧下さい、信じられないことに彼らの表情が失望一色に・・・・・・」

「もはやあいつらがテロリストじゃないか!? ──た、ただの休暇ではないぞ! そうだな・・・・・・えっと・・・・・・あれだ! 休暇と一緒に動物園のチケットも進呈しようではないか!」

 

 コマリ様は苦し紛れに言葉を捻り出し、チケットを二枚空に掲げた。

 あのチケットには見覚えがある。

 コマリ様の妹君であるロロッコ様が「彼氏と言ってくるわ」とコマリ様に自慢げに話していた。

 だが行く直前にフラれたらしく、慰めようとしたコマリ様にチケットを押し付けていた。

 俺は動物園に行ってみたいからチケットを貰っても嬉しいが、目の前にいる連中はどうだろうか。

 そう思っていると部下の一人がおずおずと手を挙げた。

 

「あの。もしかして・・・・・・閣下と一緒にですか?」

「ん? まあ、それがお望みなら・・・・・・」

 

 とんでもない爆弾発言が容認され、部下たちのボルテージは一気に上昇する。

 

「で・・・・・・デートだ・・・・・・」

「休日デートだ」

「逢引きだ・・・・・・!」

 

 閑散とした雰囲気の中ざわめきが波紋する。

 近くにいるヴィルヘイズは「・・・・・・コマリ様。いくらなんでもやりすぎでは」と謎のオーラを放っていた。

 それをコマリ様が問い詰めようとした、次の瞬間。

 感情が爆発し、熱狂の渦がその場を立ち込めた。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

「ああああああああああああああああああッ!」

「ふおおおおおおおおおおおッ!」

「デート! デート! デート!」

「待ってろやテロリストめがああああああああ!」

「閣下と逢引きするのはこの俺だああああああああっ!」

「テロリストは政府要人を狙ってるんだろ? なら俺が先に政府要人を殺しちまえばいい!」

「なるほど『木を隠すなら森ごと焼け』戦法だな!」

 

 目の前一帯が動物園と化していた。

 最後のやつらは馬鹿を通り越してアホである。

 

「・・・・・・やっぱりこいつらがテロリストじゃねえか!?」

「もう手に負えませんね。どうするんですかコマリ様」

「ヴィル、こいつらってそんなに動物が好きだったの・・・・・・?」

「コマリ様も手に負えませんね」

「そうだよ、手に負えないよ! どうすりゃいいんだよ!」

 

 野獣のごとき奇声を発しながら散り散りに走り去っていく隊員たち。

 何かしらの問題が起こるのは必至だろう。

 

「閣下。やつらの行動は可能な限り私が監督しておきましょう。このままでは暴動が起きるやもしれませんゆえ」

 

 犬頭の獣人ベリウス中尉が口を開く。

 この部隊で戦闘狂であることを除けばまともな部類に入る隊員で、コマリ様はそうだが俺も信頼を置いている。

 

「コマリ様この後のご予定ですが」

「サクナに会いに行く」

「部下はいいのですか?」

「・・・・・・・・・・・・ベリウス。カオステル。頼んでいい?」

「「承知いたしました」」

 

 二人が去る前に通信機器を持たせた。

 仮に何か問題が起きても、連絡さえもらえれば事が大きくなる前に対処できるかもしれないからだ。

 だが俺の勘は囁いていた。

 今回もきっと面倒ごとは発生するだろうと。

 

 ⭐︎

 

 七紅府。

 七紅天が公務の場として使用するこの建物は七階建てで、一階は第一部隊、二階は第二部隊と各隊ごとでフロアが割り当てられている。

 六階は当然ながら第六部隊──つまりサクナ・メモワールの執務室があるフロアである。

 廊下を突き進んでいくと執務室の扉が見え、表札が「在室」になっていることから察するに、執務室に戻っていたのだろう。

 中からは話し声が聞こえる。

 魔力の波長は二つあり、一つはサクナ・メモワール。

 もう一つの魔力にも心当たりはあった。

 

「誰か来てるのかな?」

「魔力の波長から察するに一緒にいるのはヘルデウス・ヘブン様ですね」

「ヘルデウス・ヘブン? 誰それ?」

「会ってみれば分かりますよ。少し変わった・・・・・・独特な方です」

 

 俺は一応フォローを入れておいた。

 変人だけど・・・・・・宗教勧誘とかしてくるけど・・・・・・悪い人ではないんだ。

 

「そっか。でも話の邪魔しちゃ悪いよな」

「私が確認してみましょうか?」

「どうやって?」

「こうやって」

 

 バゴォン!とヴィルヘイズが扉を足蹴にした。

 いとも容易くあらわになる室内。

 驚いたような顔でこちらを向いているサクナ。

 そして彼女の側に立っている神聖教の祭服を着た中年の男性──ヘルデウス・ヘブンも何事かという表情でこちらを見ていた。

 ヴィルヘイズの破天荒な行動は今さらだが、一体どこで教育を間違えたのだろう。

 訓練内容が厳し過ぎて反骨精神が変な方向に目覚めてしまったのかなぁ。

 

「・・・・・・テラコマリ、さん?」

「や、やあサクナ。突然ごめん。テロリスト退治の打ち合わせをするために来たんだけど・・・・・・お取り込み中だったか?」

 

 コマリ様はちらりとヘルデウスの方を見る。

 しかし彼は「いえいえ!」と大袈裟に首を振った。

 

「まったく問題ありませんぞガンデスブラッド殿! 私はそろそろ退散するといたしましょう! ──ではメモワール殿、よろしくお頼み申し上げましたよ!」

「・・・・・・はい」

 

 そう言ってヘルデウスは扉の方へ歩いていく。

 コマリ様が道をあけると、にわかに立ち止まってコマリ様に微笑みかけた。

 

「お会いできて光栄ですぞガンデスブラッド殿! ところで神を信じますか?」

「・・・・・・え? いや、まあ、人並みには・・・・・・」

「おお! おおおおおっ! なんという信仰心! ガンデスブラッド殿は敬虔な神の徒でいらっしゃるか! なるほどなるほど貴殿が異常なまでに大活躍なさる所以は神のご加護があったからなのですね納得です。貴殿はよくご存知でしょうが神はすべてを見知っており人の善行には賞でもって報い人の悪行には業でもって報いるのです。この信賞必罰の理論は天地のあらゆる現象に比してもっとも迅速かつ正確であり──」

 

 ヘルデウスは恍惚とした表情で語り始めた。

 この人話し始めると長いんだよな。

 コマリ様の方を見るとすでに圧倒されつつあった。

 

「──おっと失礼。熱く語るには時間が足りないようです。今後機会があれば天地創造と神の御業について議論を戦わせたいものですな! その時は是非アルク殿もご参加くださいね」

「ご無沙汰してます、ヘルデウス様。議論につきましてはコマリ様との協議を重ねた上で、前向きに検討させていただきますのでご容赦下さい」

 

 やんわりと断ったつもりなのだが、何を勘違いしたのかヘルデウスはニッカリと嬉しそうに微笑み、「それでは今度こそ失礼します! アーメン!」と絶叫して去って行った。

 

「・・・・・・サクナ、あの人と知り合いなの?」

「あの人は・・・・・・ヘルデウス・ヘブン。私を七紅天に推薦してくれた七紅天です」

「あの人がヘルデウス・ヘブンか。たしかに変わった人だったけど・・・・・・あの人も七紅天なの?」

「はい。・・・・・・ですが、本業は神父で、帝都の外れで教会と孤児院を運営しています。実は私もその孤児院出身なんです」

「な、なるほど」

 

 突然ごーん、ごーんという大きな音が響き渡った。

 帝都の時計塔から発せられる音声魔法、正午を告げる鐘の音である。

 

「コマリ様。お昼はどうなさいますか」

「うむ・・・・・・」

 

 ヴィルヘイズが聞くと、コマリ様は頭を捻らせた。

 せっかく訪問したのに、「じゃあご飯食べてくるから」と退散するわけにはいかないだろう。

 

「サクナ。きみさえよければ、い、一緒に・・・・・・お昼を食べないか?」

 

 勇気を振り絞って自然を装うように誘うコマリ様。

 それに対してサクナは消え入りそうな声でこう呟いた。

 

「・・・・・・はい。是非、テラコマリさんが、よければ」

 

 ⭐︎

 

 ムルナイト宮殿に併設されたレストラン〝沃野の果実〟。

 宮殿に出入りする高官や貴族が利用する高級店に俺たちは足を運んでいた。

 コマリ様の対面にサクナ、横にヴィルヘイズと席についている。

 

「何してるの、アルクも座ったら?」

「主人と同じ席に座るのは憚られますので」

 

 俺はちらりとヴィルヘイズを見る。

 先ほどはメイドの矜持云々言ってコマリ様の背後に控えていたのに、今では適当な理由を述べて席についている彼女はきっと面の皮が厚いのだろう。

 

「私は気にしないから。ほら、座って」

「え? こ、コマリ様?」

 

 コマリ様に袖口を引っ張られて俺は無理矢理席につかされた。

 ちょうどヴィルヘイズが対面にきて、左にコマリ様、右にサクナという位置だ。

 サクナは俺が席につくと、「ひっ!」と声を漏らす。

 よく見るとテーブル下にある拳がぶるぶると震えていた。

 そんなあから様な反応をされるとこちらも対応に困る。

 料理の注文を終えると、コマリ様は口を開いた。

 

「さて、改めて自己紹介をしよう。私はテラコマリ・ガンデスブラッド。十五歳。これから色々とお世話になると思うので、まあ、えっと・・・・・・よろしくお願いします」

「こ、こちらこそお願いします。私はサクナ・メモワールです。・・・・・・あの、手紙は読んでいただけましたか・・・・・・?」

「うん、読ませてもらったよ。私も読書が好きなんだ。サクナとは気が合いそうだな」

 

 サクナは耳まで赤くなって俯いた。

 しかし、蚊の鳴くような声で言葉を続ける。

 

「ありがとうございます。嬉しい・・・・・・です。けど、それよりもその・・・・・・私の趣味とかよりも・・・・・・私が七紅天になった経緯について、どう思いますか? 軽蔑しましたか・・・・・・?」

「参考までに聞きたいんだが、どういう具合で下剋上してしまったんだ?」

「爆殺です。・・・・・・私は弱いので、もっと強くならなきゃって思ってて・・・・・・それで魔法の練習をしていたんですけど、たまたま通りかかった七紅天さんに当たっちゃって。それで死んじゃって・・・・・・」

 

 第七部隊の魔法訓練でもよくある誤爆。

 訓練中に側を百回歩けば一回は魔法が直撃することもあるだろう。

 それでも七紅天(ベリーチェイス)が不意打ちとはいえ、一撃のみ受けて死ぬのは想像できない。

 サクナは自身が思っている以上には強いのではないだろうか。

 

「そ、そうか。それはなんというか・・・・・・運が悪かったな」

「はい。・・・・・・普通、このくらいのことじゃ七紅天にはなれないと思うんですけど、さっきのヘルデウスさんがはりきっちゃったんです。『絶対にサクナを七紅天にするのです!』って感じで皇帝陛下に直訴して、なぜかそれで受け入れられちゃいました」

「あの変態皇帝は可愛い女の子なら誰でもいいからな」

「か、可愛い・・・・・・ですか?」

 

 サクナは驚いたように瞬き、ヴィルヘイズは魚類のような真顔でコマリ様を見つめている。

 

「とにかくだ! サクナの事情はだいたいわかったよ。──でも、何より大変なのは部下に実力を隠さなきゃいけないところだよな。もし上司が弱いってバレたら、あいつら絶対下剋上してくるもん」

「? そんなことはないと思いますが」

「え?」

「部下の皆さんは、私がそんなに強くないって知ってます。でも、こんな私でもちゃんと七紅天をできるようにサポートしてくれるんです。大丈夫だよ、心配しなくていいからねって励ましてくれるんです。みんないい人たちで・・・・・・だから、やめたいって気持ちはもちろんあるけれど、それでも頑張らなくちゃって思うんです」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 コマリ様は無言で「どういうこと?」と言わんばかりに俺の方を向いてくる。

 第七部隊もヨハンを除けば下剋上は今のところないわけだし、説明を求められても困る。

 それにコマリ様の強さを知っている連中(ヨハンを除く)が叛旗を翻すとは考えにくい。

 きっとコマリ様が弱いと言っても聞く耳持たないだろう。

 

「私なんかに比べて、テラコマリさんはすごいですよね。いえ、比べるのも失礼なんですけど・・・・・・あんなに強くて、七紅天としていっぱい活躍していて・・・・・・まさに天職って感じです」

 

 コマリ様がどう返すか考えていたところ、ヴィルヘイズが急かすように視線を投げかけた。

 

「コマリ様。そろそろ仕事の打ち合わせを」

 

 明らかに機嫌が悪そうだ。

 

「そ、そうだな」

「犯人は記憶を操作する烈核解放を所持しているようです。メモワール殿、烈核解放をご存知ですか?」

 

 一瞬サクナの目が泳いだ。

 

「・・・・・・はい。噂くらいしか聞いてませんけれど」

「烈核解放は魔法とは異なる絶対的な異能です。もし本当にテロリストが烈核解放を持っているなら注意してしすぎることはありません」

「あの。私、すごく弱いんですけど、大丈夫でしょうか?」

 

 ヴィルヘイズはコマリ様の方へパチリとウインクをし、サクナはキラキラとした目を向けていた。

 

「何も心配しなくていいぞ。サクナのことは私が守るから!」

「本当にすみません。りんごを片手で潰すくらいの力しかなくて・・・・・・スイカぐらい割れなくちゃダメですよね」

 

 やはり非力だと思い込んでいる線で間違いなさそうだ。

 そんなに握力強い少女がぽんぽんいてたまるか。

 

「でも食べ物は粗末にしちゃだめだぞ」

「はい。全部食べます」

「よろしい」

 

「コマリ様、話が脱線しています」とヴィルヘイズが窘めるように言った。

 

「目的も手段も不明のテロリストですがテロリストが出没する時間は夜に限られており、また場所もムルナイト宮殿だけ。つまり──夜間に宮殿をパトロールすればいいのです」

「犯人のおおよその特徴と目的くらいは分かりますよ」

「「「!?」」」

 

 俺が言うと他三人は驚愕の色を露わにしていた。

 特にサクナメモワールは冷や汗がすごい。

 動揺し過ぎだ。

 

「犯人は記憶操作の力を保有し、政府要人や七紅天を狙っている。さらには最近活発化している逆さ月の動き。これらを踏まえると犯人は魔核の在処を探っている逆さ月の一員で、宮殿内にも精通している吸血鬼。さらにはアルマン・ガンデスブラッド卿の刺し貫かれている傷の位置。女性による犯行の可能性が高いと思われます」

 

 ちらりと目線だけサクナの方に移す。

 血の気が引いたような真っ青な顔だった。

 

「まあこれはあくまで私の推測なので、夜間パトロール自体は大いに結構かと」

 

 そう言うとホッとしたように血の気が戻っていくサクナ。

 

「ってことは昼間の仕事はナシ? お昼は寝てていい?」

「何を言っているんですか。昼は昼。夜は夜です。朝九時から夜の八時くらいまで働いていただかないと」

「冗談じゃないぞ! そんなに働くのは絶対に嫌だからな!」

「コマリ様」

「なんだよ!」

「周囲の視線を浴びています」

 

 啞然とした表情のサクナ。

 こちらに視線を向けてヒソヒソと言葉を交わし始める貴族たち。

 

「閣下は七紅天であろうに」

「実は働くのが嫌だったのか?」

「あれが本心なら七紅天失格ではないか」

「いや待て。口が滑っただけという可能性も」

「口を滑らせてあれが出てくるなら駄目ではなかろうか」「確かに」

 

 ──コマリ様は気持ちを落ち着けてから、再びヴィルヘイズのほうに向き直った。

 

  「──冗談じゃないぞ! そんなに短い時間働くのは絶対に嫌だからな!」

 

 貴族たちがどよめいた。

 コマリ様は心の涙を流しながら続けた。

 

「八時なんて子供でも起きている時間だ! もっと遅くまで巡回せずしてどうして狡猾なテロリストが捕まえられようか! そうだ、事件は我々の目の届かない場所で起きているんだ。ならば目の届かない場所にも目を向けるのが七紅天としての責務だろうに!」

 

 ビシィッ!と人差し指をヴィルヘイズに向けてポーズを決めるコマリ様。

 誰かがぱちぱちと拍手した。

 それにつられて別の誰かも手を打ち鳴らし、やがてはレストランを包み込むかのような大喝采が巻き起こってしまう。

 

「それでは本日から夜の十時くらいまで一緒にパトロールと参りましょう。メモワール殿もそれで構いませんね?」

「大丈夫です。私もテラコマリさんを見習って頑張ります」

 

 一旦打ち合わせも終わり、コマリ様が空腹に限界をきたしスプーンとフォークを握って待機していると、不意に外で何かが爆発する音が聞こえた。

 通信機器を確認するとノイズは走っているが「フレーテ・マスカレールが」とベリウスの声が聞こえた。

 事後報告用に渡したんじゃ無いんだけど、と思いながらコマリ様たちと共に現場へと向かった。

 

 ⭐︎

 

 宮殿内の庭にはそこかしこに死体が転がっていた。

 コマリ様とのデート権利をかけて暴走していた第七部隊の連中だった。

 

「ベリウス! カオステル! これは一体どういう状況なんだ!」

 

 カオステルは横たわり、ベリウスは負傷で膝をついていた。

 

「すみません・・・・・・閣下・・・・・・」

 

 ベリウスは傷は浅いものの、喋るのは困難な様子であった。

 

「だ、大丈夫です。私に任せてください」

 

 サクナは一歩前に出ると持っていた杖を両手で構え、それをベリウスに向けながら呪文を唱える。

 

「──中級回復魔法【供給活性化】」

 

 杖の先端から発せられた淡い光がベリウスを包み込む。

 外傷が見る見るうちに消えていく。

 

「回復した! すごいじゃんサクナ!」

「そうですか・・・・・・えへへ・・・・・・」

 

 回復系統の魔法は蒼玉種が得意としており、吸血種が蔓延るムルナイト帝国では見かけることのない魔法。

 やはりサクナは気付いていないだけでかなりの才能を秘めていそうだ。

 

「ベリウス。大丈夫か」

「・・・・・・はい、なんとか」

 

 そこでハッと思い出したかのようにベリウスは中空を仰いだ。

 

「閣下、申し訳ありません! フレーテ・マスカレールです。我々はやつに遅れを取りました」

「フレーテだって・・・・・・?」

 

 そのとき、耳をつんざくような爆発音が響き渡った。

 正面を見上げると、建物の上で二人の人物が戦いを繰り広げていた。

 一方は剣を持った女性。

 艶やかな髪を風になびかせながら舞踊を舞うように幾度も刺突を繰り出している。

 英邁なる七紅天、〝黒き閃光〟フレーテ・マスカレール。

 そしてもう一方はチャラついた男で、フレーテの剣技を流れるようにいなしながら機を見計らってお得意の爆発魔法を撃ち込んでいる。

 第七部隊幹部、メラコンシー大尉。

 

「チッ、小賢しいですわね──これでも食らいなさいッ!」

 

 フレーテの剣に漆黒の魔力が滞留した。

 上級暗黒魔法を放つ気なのだろう。

 この二人が戦うと周囲の建物や装飾品がぶち壊されるので、上級魔法【虚無の御神楽】で魔力攻撃は霧散させる。

 

「なっ!? (わたくし)の魔法がかき消された!?」

 

 直後、どすん!とすぐ近くにメラコンシーが降り立った。

 

「お、おいメラコンシー! 何やってんだよ!」

「イエーッ! フレーテ怒って大暴走。震えてブチギレて皺増えそう。黒き閃光ふざけんなマジマジ。地獄へ連行してやんぜマジメに」

「普通にしゃべれ!」

「あいつが襲ってきたので戦ってました」

「普通にしゃべれるのかよ!」

「──ひどい言いがかりですわ。私は自分の職務を全うしただけですのに」

 

 フレーテがふわりと地面に舞い降りた。

 

「ふ、フレーテ! いったいどういうわけだ? 返答によっては怒るぞ! 一週間くらいは無視して──」

 

 フレーテが動いた。

 

「ふぇ?」

 

 俺は指で摘むように、サクナは杖を横に構えてフレーテの剣を受け止めた。

 

「・・・・・・あら? メモワールさんと・・・・・・執事のほうが反応するんですの?」

「あ、あの・・・・・・いきなり斬りかかってくるのは、どうかと思います・・・・・・」

「ふん、ちょっと手が滑っただけですわ」

 

 コマリ様の実力を確認したいという意図があったのは分かるが、寸止めする気は無く、止めなければ間違いなくコマリ様を傷つけていただろう。

 少しお灸を据えておくか。

 

「あー私も手が滑りました」

 

 ボキンッ!と鈍い音が鳴る。

 指で受け止めていた箇所からフレーテの剣を折ってやった。

 

「・・・・・・・・・・・・は? あなた何してますの・・・・・・? この剣・・・・・・いくらすると思って・・・・・・」

 

 フレーテは呆然と立ち尽くした。

 やや目頭に涙を溜めているが、それをぐっと堪えていた。

 若干周囲の女性陣からの視線が痛かった。

 

「・・・・・・ガンデスブラッドさん、あなたは部下にどんな教育をしてるんですの? 器物損害に殺人未遂──これでは第七部隊がテロリストのようではありませんか!」

「・・・・・・ごめんなフレーテ。剣のことは謝るからさ。執事も悪気は無かったんだ。それより殺人未遂ってどういうことだ?」

 

 コマリ様には申し訳ないけど悪気はあった。

 でも後で弁償はするつもりだった。

 決してフレーテが泣いて気まずかったからではない。

 

「ここで死んでいるあなたの部下たちが! ムルナイト宮殿内で傍若無人に暴れ回っていたから私が止めて差し上げたのですわッ!! それなのにこんな仕打ち・・・・・・あんまりですわ!」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 コマリ様はベリウスの方を見た。

 彼は耳をぺたんとさせて言った。

 

「申し訳ありません。連中の暴走を止められませんでした」

 

 どう考えても悪いのは第七部隊だった。

 その怒りの矛先が上司であるコマリ様へと向くのは何ら不自然ではない。

 

「申し訳ございません。後日剣は弁償します」

「・・・・・・それならいいですわ。あれは斬りかかった(わたくし)にも責任があるわけですし」

「お心遣い感謝します」

 

 思っていた以上に良い人だった。

 泣き止んでくれたようだし一先ず安心した。

 

「──さてガンデスブラッドさん。あなたの監督不行き届きで宮殿に甚大な被害が出たのですよ? この責任をどう取るおつもりですか?」

「お、お金払うから・・・・・・」

「お金で何でも解決できると思ったら大間違いですわ!」

「さっきと言ってること違うじゃん! じゃあ、何でもするから・・・・・・」

「そういうことは軽々しく口にするものではありませんわ!」

 

 フレーテが言うことはごもっともだった。

 少なくともコマリ隊の面々に「何でもする」なんて発言は絶対にしないでもらいたい。

 コマリ様が途方に暮れていると、フレーテはニヤリと笑って言った。

 

「まったく実力が不鮮明なうえに、自分の隊を管理することすらままならない。こんな七紅天な未だかつて存在したことがありませんわ」

 

 ヴィルヘイズにベリウス、メラコンシーが身構えるが、俺はそれを手で制止する。

 これ以上問題は起こさないでほしい。

 

「決めましたわ。(わたくし)は七紅会議においてテラコマリ・ガンデスブラッドの不信任決議案を提出いたします。ふふふふ──どんな判決が下るのか、今から楽しみですわね」

 

 ⭐︎

 

「なるほど。『血みどろまんじゅう』、ようやく召し上がっていただけたようです」

「どういうことだ?」

 

 ムルナイト宮殿の夜間パトロール中。

 ヴィルヘイズの目が紅く爛々と輝き出した。

 

「私の烈核解放【パンドラポイズン】は私の血を飲んだ者の遠くない未来を見る異能です」

 

 サクナはぎょっとしたようにヴィルヘイズから一歩離れた。

 

「三日後に開かれる七紅天会議でコマリ様は糾弾され、最終的に七紅天による多数決が取られます。結果──コマリ様は爆発します」

「嘘だろ?」

「本当です」

「嘘だと言ってくれよおおおおおおおおっ!」

「大丈夫です! 多数決なら私はテラコマリさんに味方しますから!」

 

 サクナは大きく片手を上げる。

 しかしそれでも一票。

 残る七紅天は五名だから安心はできない。

 

「さ、サクナ・・・・・・! サクナはやっぱりいい子だなぁ。あ、ごめん、つい頭を・・・・・・嫌だったか?」

「嫌じゃないです。嬉しいです・・・・・・お姉ちゃんができたみたい」

「私もサクナみたいな妹なら大歓迎だよ」

「そ、そうですか・・・・・・? えへ・・・・・・コマリお姉ちゃん」

「む・・・・・・その響きはちょっといいな。もっと呼んでくれ」

「コマリお姉ちゃんっ!」

「アルク大尉、私たちは何を見せられているのでしょう?」

「さ、さあ?」

 

 ヴィルヘイズは冷徹な目をサクナに向けていた。

 目つきだけなら暗殺すらやりかねないようだ。

 

「コマリ様イチャイチャしている場合ではございません。メモワール殿の援護があったとしても、七紅天はあと五人。おそらくその大半がコマリ様に反感を抱いているでしょう」

「うぅ・・・・・・どうすればいいんだ?」

「私にお任せください」

「そ、そうか」

 

 コマリ様が淡い希望が芽生えるのを感じていると、ヴィルヘイズはコマリ様へと頭頂部を突き出した。

 

「私もいい子です」

「う、うん・・・・・・」

 

 コマリ様はヴィルヘイズの頭をさわさわと撫でる。

 近くにいたのでラベンダーのような香りが鼻腔をくすぐる。

 

「あの・・・・・・テラコマリさんって、戦うのが好きじゃなかったりするんですか?」

「え? な、ななななななんで?」

「だって・・・・・・普通の七紅天だったら、もっと暴力的な手段で解決したがると思います。フレーテさんのように逆らってくるやつがいたら、その場で力を見せつけて黙らせるとか・・・・・・」

「──も、もちろんそうしてやるのがいちばん効果的だと思うけどな! でも私は無益な戦いはしない主義なんだ! できることなら話し合いで解決したいと思っている」

「へえ・・・・・・やっぱりそうなんですね」

 

 サクナは安心したように笑った。

 当然ながらこの日テロリストが見つかることは無かった。

 




ベリウスはミリセントの一件以降ヴィルヘイズとともに主人公に訓練で扱かれているので、フレーテとの戦闘で重症は負っていません。
これだけ鍛えても勝てない七紅天に善戦しているメラコンシーって何なんでしょうね。
偵察もこなすし、火力もあるし、大尉という軍位は飾りではなさそうですね。
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