ひきこまり吸血姫の執事   作:神無月 優

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休題とか書いておいて文字数かなり多くなりました。



休題 百人のコマリと内気な少女

「──非難してくる者に負けたらいけないよ。心を強く持つことだ」

 

と、しばしば姉は言った。

 イジメられていたわけではない。

 しかし吸血鬼が住む国において蒼玉種の血を引くサクナの姿は浮いており、ゆえに心ない陰口を言われることが多々あった。

 そんなサクナのことを、姉は温かな笑顔で迎え入れてくれる。

 

「どうしたんだ? また嫌なことがあったのか?」

 

 サクナは事情を話した。

 学院のグループを作ることになり、自分だけ仲間外れになったこと。

 クラスメートが独りぼっちのサクナを見てくすくす笑っていたこと。

 

「そっか。ひどいやつらだね。私がぶっ殺してやる」

「やめて。本当にやめて。それに・・・・・・アルくんって男の子は優しいんだよ。髪や肌が白くて綺麗って褒めてくれて・・・・・・課外活動のときはクラスも学年も違うのに、私と一緒に組もうって言ってくれるの」

「それはね・・・・・・それはきっとナンパだよ。サクナが可愛いからちょっかいかけようとしてるのさ。今後は関わらないほうがいい。それかお姉ちゃんが殺してやる」

「やめて。殺しちゃだめだよ・・・・・・」

 

 慌てて姉の腕を引いて止めた。

 喧嘩っ早いのが玉に(きず)だった。

 サクナは困ったように姉の顔を見上げた。

 

「なんで、こんなことになるのかな」

「仕方のないことかもしれないな。国家というものは引きこもり体質なんだ。魔核があるから自然とそうなっちゃうんだろうけど──自分の国の種族のことしか考えていないから、私たちみたいなちょっと変わった人間は排除されがちなのさ。ひどいひどい」

「私はどうすればいい・・・・・・?」

「うーん、サクナは引っ込み思案だからね。ちょっと勇気を出して行動してみるといいよ。もしかしたら何もしないでいるよりマシだ。何かあったらお姉ちゃんがなんとかする。きみにひどいことをするようなやつは殺してやる」

「殺さなくていいから・・・・・・」

「殺してやる、くらいの気持ちでいたほうがいいんだよ。心の強い人には特別な力が宿る。そしてサクナには十分な資質がある。──私にはわかる」

 

 だんだんと勇気が湧いてくるのを感じた。

 だけど姉の言葉は少々具体性に欠けている。

 

「・・・・・・あのね、私はね、どうしたらいいの。教えて」

「きみが次に泣いたとき。それが合図だ。きっと苦しい思いをするだろうけど、決して挫けてはいけない。自分をこんな不幸に陥れた原因は何なのか、それをしっかりと考えて、自分の思うように行動すればいい。そうすればサクナは幸せになれるから」

 

 サクナと姉はそれほど年が離れているというわけではない。

 だのにこの少女は妙に抽象的で衒学(げんがく)的な言い回しを好むのだ。

 この浮世離れた空気が、サクナは好きだった。

 そして何より、姉は、きれいな星座の形をしているから──

 

「・・・・・・わからないけど、わかった」

 

 やっぱり彼女の言うことはちんぷんかんぷんだったけれど、それでもサクナは尊敬する姉に対し、心からのお礼を言うのだった。

 

「本当にありがとね。・・・・・・コマリお姉ちゃん」

 

 それが数年前のこと。

 優しかった姉は、もういない。

 

 ⭐︎

 

 夜間パトロールは成果なしのままお開きとなった。

 コマリン閣下やメイドのヴィルヘイズ、執事のアルクと別れたサクナは、暗闇に包まれた帰路を軽やかなスキップでたどっていく。

 朝九時から夜十時までの労働は辛いといえば辛い。

 しかしサクナ・メモワールの精神は疲れを知らず高揚していた。

 ──だって。

 だって、だって、テラコマリ・ガンデスブラッド大将軍に会えたのだから。

 しかも頭を撫でられたんだぞ。

 優しく、丁寧に、ナデナデと!

 これで心がさざめかないやつはムルナイトの吸血鬼として失格だよ!──と、サクナは思う。 

 

「くふ。くふふふふふふふふ・・・・・・・・・・・・」

 

 知らず知らずのうちに顔がにやけてしまう。

 サクナにとって、テラコマリ・ガンデスブラッドは憧れの的だった。

 まず可愛く、きれいで、そして強い。

 カリスマ性もある。

 最強の吸血鬼なのに、暴力に頼ったりせず話し合いで物事を解決しようとする平和な心を持っている。

 こんなすごい人と一緒に仕事ができるなんて夢みたいだ。

 七紅天になっても嫌なことばかりかと思っていたけど、これは予想外の幸運だなあ──そんなふうに万感の思いを抱きながらサクナは自宅の扉に鍵を差し込んだ。

 自宅、といっても帝国軍の女子寮である。

 ムルナイト宮殿の中心から川をはさんだ反対側に建っているぼろ家だ。

 七紅天にはもっと上等な宿舎が与えられるのだが、サクナはこの狭くて古いワンルームが気に入っているので引っ越す予定はない。

 

「ただいま!」

 

 ギィー、扉を押し開ける。

 当たり前のことだが真っ暗だった。

 サクナは微力の魔力を練ると、天井に備え付けられた魔灯に注いでやる。

 ぱっと周囲が明るくなった。

 目の前にコマリが立っている。

 ただのコマリではない。

 サクナの手作り人形で、中級造形魔法【マッドクリエイション】で作製した等身大のコマリン人形。

 目を凝らせば作り物だとわかるが、ぱっと見では本人がそこにいるのかと見紛うような出来栄えである。

 それが狭い部屋のあちこちに突っ立っていた。

 全部で十五体。

 

「ただいま、コマリお姉ちゃん」

 

 満面の笑みを浮かべてコマリン人形に挨拶する。

 ただし、一体だけに挨拶すると他のコマリお姉ちゃんが拗ねてしまうかもしれない。

 だから全員に挨拶するのだ。

 十五体すべてに挨拶を終えたサクナは、軍服を脱ぐこともせずにそのままベッドに倒れ込んだ。

 コマリン閣下の全身がプリントされた抱き枕にしがみつきながら、今日の出来事を反芻(はんすう)しては身悶えする。

 ああ──やっと憧れのテラコマリさんとお話しすることができた。

 サクナの心を包み込むのは絶大な歓喜。

 サクナはふと天井を見上げた。

 そこにべたべたと貼られているのは闇市で買ったコマリの盗撮写真。

 目覚めた瞬間に憧れの人の顔が視界いっぱいに広がっていると「今日も一日がんばろう」という気持ちになれるのだ。

 

「くふふ。ふふふふ」

 

 天井から視線を外しても、必ず何かしらのコマリが目に入る。

 等身大のコマリ人形は言わずもがな。

 クローゼットの中の閣下Tシャツ、コマリン閣下の活躍が掲載された新聞の切り抜き、自分で描いたコマリン閣下の似顔絵──どこを見渡してもコマリ。

 コマリコマリ。

 コマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリコマリ。

 総勢百個のコマリグッズ。

 何を隠そう、サクナはコマリン閣下のことが大好きなのである。

 当の本人が見たら金切り声をあげて失神しそうな光景であるが、見せるつもりは毛頭ないので問題ない。

 

「はあ・・・・・・コマリお姉ちゃん」

 

 仕事はいやだ。

 殺すのも殺されるのも好きではない。

 だけど・・・・・・この仕事に就いているおかげであの人と知り合えたんだ。

 

「明日も会えるよね・・・・・・」

 

 もっと言葉を交わしたい。

 もっと仲良くなりたい。

 だが・・・・・・一つ問題があった。

 コマリン閣下の側にいるメイド──ではなく、執事のほうだ。

 先日の夜。

 闇夜に紛れて不意をつき、背後から確実に殺したと確信していた。

 けれどいとも簡単に防がれた。

 まるで七紅天や皇帝陛下を前にしているような威圧感があって怖かった。

 さらにはあの執事、テロリストの正体に勘づいているのではないかと思わせる言動が目立つ。

 関係ないことだが盗撮──げふん、隠し撮りが最近うまくいかないのもあの執事が邪魔しているせいだ。

 

「殺さなくちゃ・・・・・・」

 

 枕元に置いた通信用魔鉱石が淡い光を発した。

 サクナは顔面蒼白になった。

 先ほどまでの高揚感は一気に霧散してしまった。

 また嫌な記憶が呼び起こされてしまう。

 でも応答しないわけにはいかない。

 応答しなかったら後でどんな目に遭わされるかわからない。

 鉱石は光続ける。

 まるでサクナを責めるかのように。

 深呼吸をして、震える手で魔力を注いだ。

 

『──何をやっているサクナ・メモワールッ!!』

 

 身が(すく)んでしまった。

 暴力的な罵詈雑言が反響する。

 

『お前は馬鹿か、愚図か、腰抜けかッ! もう三日も経つのに七紅天の一人も殺せていないではないか。愚図愚図していると皇帝のやつに感づかれてしまうぞッ!』

「ご、ごめんなさい。・・・・・・でも、私なんかで勝てるかどうか・・・・・・それに七紅天の人たちは、一人でいることがほとんどないんです」

『ならば決闘でも何でも仕掛ければよいだろうが。やつらは文官とは違う、公の場で殺してしまっても問題はなかろうに。その程度の頭も回らんのか!?』

「て、帝国軍法が!あります・・・・・・、第十一条三項、『七紅天同士の私的な決闘はいかなる場合においても禁ずる』、って」

 

 通信相手は言葉を詰まらせる。

 そうしてサクナは余計な口答えをしてしまったことに気づいた。

 すぐに嵐のような怒声が飛んできた。

 

『ならばそこを何とかするのがお前の仕事であろう!』

「ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさい・・・・・・」

『ええい鬱陶しい、軟弱な声をあげるなッ!──もういい、わかった、お前の愚鈍さはよぉくわかった。お膳立てはこちらで済ませておいてやる』

「お膳、立て・・・・・・?」

『その通りだ。ちょうどフレーテ・マスカレールが面白い催しを企画しているようだからな、それに乗ずることにする。言っておくが失敗は絶対に許されんぞ。もし失敗したら──我々逆さ月の看板に泥を塗るようなことがあったら──そうだな、罰が必要だな。お前の家族は何人だったか?』

 

 ニヤリと笑う気配がした。

 サクナは壮絶な寒気を感じて身震いする。

 

『何人だったかと聞いているんだッ!』

「さ、三人でした! 父と、母と、お姉ちゃんが・・・・・・」

『ならば全員殺す。お前が失敗するたびに我が神具で全員殺してやる。家族を失いたくなかったら必ず七紅天を殺し尽くせ、サクナ・メモワール』

 

 ブチリ、と通話が切れた。

 しばらく身動きすることもできなかった。

 ぼすん、とベッドに倒れ込む。

 殺さなければ殺される。

 こんなに理不尽なことがあるのだろうか。

 

「コマリ、お姉ちゃん」

 

 サクナは彼女の名前を呟きながら抱き枕にしがみついた。

 知らず知らずのうちにこぼれた涙がシーツに染みを作っていく。

 自分もあの人のように強くてきれいで勇猛果敢だったら、この理不尽な境遇を粉々に破壊することができるのだろうか。

 あるいは過去サクナに優しくしてくれたあの男の子のように、誰かが手を差し伸べてくれれば救われるのだろうか。

 いや──

 

 ──自分を陥れた原因は何なのか、それをしっかりと考えて、自分の思うように行動すればいい。

 

 ──君はもう少し自己を強く主張した方が良い。俺は尊敬する人のように頼られたらつい助けてしまうけど、本来なら自分自身で解決すべき悩みだ。無駄になるかもしれないけれど前に踏み出さなければ何も変わらないよ。

 

 そうだ。

 二人は言ったじゃないか。

 まだ、自分には、できることがあるはずなのだ。

 

「・・・・・・五十一。五十二。今日で五十三。これで全部」

 

 引き出しから輝く石を取り出す。

 大して珍しくもない【転移】の魔法が封じ込められた魔法石だ。

 この行為は無駄に終わるかもしれない──しかし無抵抗でいることは我慢ならなかった。

 これはささやかな反逆だ。

 憎きテロリストに対する意趣返し。

 サクナは深呼吸をすると、魔力を込めて【転移】を発動させた。

 コマリだらけの部屋から、少女の姿がふっと消えた。

 

 ⭐︎

 

 旧ブルーナイト邸。

 現在はミリセント宅として扱われている廃墟。

 ミリセント・ブルーナイトの監視任務で訪れると怪しげな連中と交戦になった。

 尋問した結果、奴らは逆さ月の末端兵で任務に失敗したミリセントを始末しに来たとか。

 【転移】の魔法石で監獄に直接送り、ミリセントの様子を確認するために中へ押し入る。

 中へ入ってすぐのところで彼女は腕を組んで立っていた。

 魔力反応を感知して俺が戦っていたのを知っていたのか、ニヤついた面立ちをしている。

 聞くところによるとこれまでも刺客は送られてきていて、その度に返り討ちにしていたそうだ。

 現状警備は必要無さそうだが、逆さ月の動向はより警戒すべきだろう。

 

「紅茶を淹れました」

「そこに置いてちょうだい」

 

 ミリセントは読書に耽る。

 読んでいるのは恋愛小説で、先週発売された続編モノの新刊だ。

 声をかければ反応するが、集中している時は口数が極端に減る。

 俺はミリセントと対面するように席に着く。

 さして監視以外にやる事も無いため、ここ最近やれていなかったことをやろう。

 俺は手刀を自らのこめかみに突き刺し、脳を直接(いじく)る。

 膨大な量の記憶を一つ一つ整理していき、俺はある記憶を見つけた。

 

「そうか! サクナ・メモワールだ!」

「──うっさい! あと・・・・・・何それ、キモい」

「あ・・・・・・すみません」

 

 元テロリストとはいえ淑女の前でする事でもなかったか、と俺は慌てて脳内から手を引き抜く。

 引き抜いた拍子に脳脊髄液(のうせきずいえき)や血液が飛び散るが、時間が巻き戻るように身体が再生されていく。

 

「あんたの再生早すぎない・・・・・・? 魔核による再生速度は皆一律のはずでしょ」

「まあ当然ですね。魔核由来の再生ではありませんので」

 

 疑問符を浮かべるミリセント。

 だがすぐに思い出したかのように口を開く。

 

「──で、サクナ・メモワールがどうしたのよ?」

「おや、気になりますか?」

「だから問い詰めてるのよ。早く話しなさい。私は小説の続きのほうが気になるのよ」

 

 ミリセントは栞を挟み、閉じた本を机に置く。

 そしてこちらをじっと見つめてきた。

 悪いけどそれほど面白い話でも無いんだけどね。

 

「あれはまだ私が学生の頃でした──」

 

 ※

 

 幼少の吸血鬼の多くが通う帝立学院。

 その特別クラスに在籍していた俺は暇を持て余していた。

 俺は教師たちの間では『教師泣かせ』という異名で噂され、最初の一、二回の授業を除いて常に自学自習をしていた。

 理由は俺が質問する内容に教師が答えきれなかったことにある。

 俺は見聞きした魔法を全て扱えるが、構造や原理などを全て把握する必要があった。

 だから俺よりも有識者であろう教師に質問して、魔法への見聞(けんぶん)を深めることはごく自然なことなのだ。

 仕方がないので学院内の図書室や研究室から本や資料を拝借して学ぶほか無かった。

 ある程度自習を続けていると飽きていくもので、教室の窓から外の様子を眺めるようになった。

 魔法実演や生態調査などの課外活動に取り組んでいる生徒の様子が窺えた。

 コマリ様を見かける事もあったが、彼女はいつも木陰の下で見学していた。

 奇数であぶれたから──ではなく、彼女はあのような集団活動が苦手なのだろう。

 何とかしてあげたい気持ちはあったが、苦手な事を無理矢理にでも矯正することは親切でも優しさでもない。

 自己満足なのだ。

 ゆえに何もせずに見守ることにした。

 コマリ様たちのクラスが実習を終えると、別のクラスが現れる。

 全体的に背丈が大きいため、一つか二つほど上の学年のクラスだろう。

 やってる事は練度を除けば先程のクラスと相違はない。

 ふと見ると、集団の中で孤立している生徒が一人。

 吸血種にしては珍しく、白い肌に白銀の髪を持つ少女。

 彼女は誰とも班を組めずにオロオロとした様子で彷徨(うろつ)いていた。

 彼女の周囲を見ると気づいていないわけではなく、敢えて距離を置いているような雰囲気がクラス全体で広がっていた。

 

「さすがに見てられないな」

 

 俺は窓から地面に飛び降り、見るからに内気な彼女に近づいて声をかけた。

 

「ねえ君、良かったら俺と班を組みませんか?」

 

 彼女は目を見開いていた。

 まさか声を掛けてもらえるだけではなく、一緒の班になってくれる人が居るとは思わなかったのだろう。

 彼女はゆっくりと口を開いた。

 

「あ、あの・・・・・・多分、クラス・・・・・・違います、よね?」

「アルクと言います。あなたの一つかニつ下の学年です。以後お見知りおきを、美しい肌と髪をお持ちのお嬢さん」

 

 今にして思えばかなりキザなセリフ過ぎたかもしれない。

 読書ばかりで対話を疎かにしていた弊害だ。

 こんな歯に浮いたセリフを聞いたら羞恥で相手の方も顔が熱くなりそうだが、驚きの方が強かったのか唖然とした表情は変わらない。

 

「家族以外で・・・・・・そんなこと言われたの・・・・・・初めて、です」

「先輩なんですからもっと砕けた感じで話してください。俺なんかに気を遣わなくて結構ですよ」

「はい──う、うん・・・・・・わかった、よ・・・・・・アルくん」

「アル・・・・・・クン? 俺はアルクですよ」

「うん。だからアルくん」

「うーん・・・・・・まあいいか。では先輩、俺たちも行動開始しましょう」

 

 課外活動の内容は魔法薬の材料となる薬草の採取。

 二人以上で組んで探す理由は、万が一毒草や痺れ草に触れて倒れた時に他の人が助けを呼ぶことができるからだ。

 勘違いする者も多いが魔核の力で死んでも生き返るとはいえ、死に至るまでの痛みや苦しみが無くなるわけではない。

 死なないにこしたことはないのだ。

 

「アルくん・・・・・・これ、どうかな?」

「毒草です。駄目ですね」

「じ、じゃあ・・・・・・これは?」

「それも毒草ですね」

「えーと・・・・・・これなんかは・・・・・・どう、かな?」

「駄目。毒草です」

 

 ある意味才能なのか彼女が見つけてくるのは全てが毒草。

 たまに違うものを見つけたと思えば痺れ草で、どれも事前に知ってなければ危険なものばかりだ。

 知識がある俺が矢面立って行動するのが一番効率的なのは分かっている。

 しかし俺はあくまで彼女の助っ人(サポート)だ。

 彼女の成長する機会を奪ってしまっては同じことの繰り返しだ。

 

「・・・・・・ごめんね。せっかく、手伝ってもらっているのに・・・・・・私が足を引っ張ってるよね・・・・・・」

「そんなことは・・・・・・」

「ううん。・・・・・・私が悪いの。実は私、四分の一だけ蒼玉種の血を引いてるの。だから・・・・・・他の子たちと見た目が違くて・・・・・・そのうえ何をやっても、うまくいかなくて。きっと全部中途半端だから・・・・・・みんな私と仲良くしてくれないと思うの」

 

 彼女の目から涙がこぼれ落ちる。

 彼女は自分の欠点を理解している。

 けれど克服することを自ら諦めて蓋をしているのだ。

 俺がこの子にしてやれる事は何だろう。

 意を決して俺は彼女の頭頂部に軽く拳を当てた。

 

「・・・・・・痛い? 何するの・・・・・・アルくん!?」

「君はもう少し自己を強く主張した方が良い。俺は尊敬する人のように頼られたらつい助けてしまうけど、本来なら自分自身で解決すべき悩みだ。無駄になるかもしれないけれど前に踏み出さなければ何も変わらないよ」

「でもどうすればいいのか・・・・・・わからないよ」

「俺に出来るのは諦めるなと君を励まし続けること。そして君が採取した薬草を鑑定することぐらいだ。毒草や痺れ草もそこら中に生えているわけではない。君がすでに引いたハズレ以外を根気よく探せば、いつか当たりに辿り着くさ」

 

 いつの間にか敬語は崩れていたが、俺は言いたい事を全て吐き出した。

 彼女は裾で涙を拭うと、

 

「・・・・・・ありがとう。最後まで、足掻いてみるよ・・・・・・」

 

 弱々しくも目の奥の光は輝きを増していた。

 それから俺たちは課外活動終了ギリギリまで探して、規定量の指定薬草採取に成功した。

 それ以降俺は彼女に会わなかった。

 ──否、会う必要が無かったのだ。

 窓から見かける彼女が同じクラスの子と笑い合う姿を見かけるようになったからだ。

 つまり寂しくはあるがお役御免というやつだ。

 これが俺と、吸血種と蒼玉種のクォーターである名前を聞きそびれてしまった少女の話だ。

 

 ※

 

「名前を聞きそびれたって・・・・・・それじゃあ、その女がサクナ・メモワールかどうかなんてわからないじゃない?」

「そうですね。ただ外見も中身も類似してますし、蒼玉種とのクォーターなんて珍し過ぎて該当する者が他に見当たりません」

「それもそうね・・・・・・にしても本当に大した話じゃなかったわね。要は相変わらずあんたがお節介を焼いたって話でしょう」

 

 ミリセントは興味なさそうに俺から恋愛小説へと視線を移す。

 もしあの時の少女がサクナ・メモワールだとすれば。

 あの時俺が言った言葉がほんの少しでも胸に留まっているなら。

 サクナが無理矢理逆さ月として働かされているとしたら。

 俺はある一つの結論に辿り着く。

 

「そうか。サクナ・メモワールは機をうかがっているんだな」

「何の話?」

「いえ、何も。少し安心しただけです」

 

 テロリストが動くのなら間違いなく七紅天会議で何らかのアクションを起こす筈だ。

 対策を練るのはその後でも遅くはなさそうだ。

 

 

 

 

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