早く七紅天闘争を書きたいけど丁寧にストーリーを追っていきたいので、このペースで書いていくきますが悪しからず。
ムルナイト宮殿、『血濡れの間』。
かつてコマリ様と第七部隊が顔合わせをした部屋である。
広い空間の中央には大きな円卓が設置されており、それを囲むようにして七紅天大将軍が席についている。
「あらあらガンデスブラッドさん! それにサクナ・メモワールさんも! 二人そろって見事な重役出勤ですわね。皆さん待ちくたびれていますわよ?」
部屋に入るなり聞こえてくる声は〝黒き閃光〟フレーテ・マスカレールから発せられたものである。
彼女はコマリ様に好戦的な眼差しを向けるが、コマリ様はそれを嘲笑うかのような笑みを浮かべる。
「ふ、ふん! まだ時間は過ぎてないから文句を言われる筋合いはないな! お前こそもっとゆとりをもって行動したらどうだ?」
「・・・・・・ッ、言うじゃありませんの」
フレーテの手が腰に携える剣に伸びようとしている。
俺はフレーテに対し弁償として、最高級の剣と鞘を買い与えている。
今身に付けているのがまさにそれだ。
強度は以前のものを遥かに超え、剣に埋められた魔石は魔力を貯蓄できる。
値段は下級貴族の屋敷一件相当。
札束を数えるのが趣味と言えるほど守銭奴なフレーテは大層喜んでいた。
だからこそかフレーテはある程度俺に対して心を開いてくれている。
俺がフレーテを見れば握っている剣の
「コマリ様、はやく席につきましょう」
「う、うん」
コマリ様は背後のヴィルヘイズに急かされつつ、震える足を動かして円卓の方へ近づく。
コマリ様が座る席の左隣(本来は第一部隊隊長の席)にはカレン・エルヴェシアス皇帝陛下が悠然と腰掛けている。
陛下の隣。
第二部隊隊長──ヘルデウス・ヘブン。
七紅天でありながら孤児院も経営する聖職者。
彼はコマリ様と目が合うと、高速で十時を切って両手を合わせた。
まだ早いし縁起でもないからやめてほしい。
ヘルデウスの隣。
第三部隊隊長──フレーテ・マスカレール。
マスカレール家は 歴史上ガンデスブラッド家と対立してきた名門であり、コマリ様に敵対心を持つのはそれも関係しているのだろうか。
ブルーナイト家といい、ガンデスブラッド家は些か周囲に敵を作りすぎな気がする。
フレーテの隣。
第四部隊隊長──デルピュネー。
異国風の仮面を被っており、素性は殆ど明かされていないミステリアスな雰囲気を醸し出す女性。
分かるのは理由があって仮面を身に付けていることと、フレーテとは軍学校時代からの友人関係らしい。
間違いなくコマリ様に反対票を入れるだろ・・・・・・ん?
何となく違和感を感じた。
他の七紅天(コマリ様とサクナを除く)と比べて覇気が無さ過ぎて・・・・・・あれ、生きてるのか・・・・・・?
デルピュネーの隣。
第五部隊隊長──オディロン・メタル。
見るからに歴戦の猛者感のあるおっさん。
齢は四十半ばから後半。
筋骨隆々の体躯に、皺のよった眉間、渋い男らしさを強調する髭、そして相手を射ぬかんばかりの視線。
この場にいる誰よりも戦場が似合いそうな男だ。
オディロンの隣。
第六部隊隊長──サクナ・メモワール。
彼女はコマリ様と同じく七紅天になりたてだからか緊張した面立ちで座しているが、コマリ様の方へ向くとそれまでが嘘かのようにニコニコと笑顔を向ける。
そしてサクナの隣。
第七部隊隊長──テラコマリ・ガンデスブラッド。
これで第一部隊隊長のペトローズ・カラマリアを除く七紅天が集結したわけだ。
「──さて、遠征中の第一部隊隊長ペトローズ・カラマリア様を除いて全員が揃いました。会議を開く条件は『七紅天が六人以上出席すること』。ご覧の通り条件は満たされましたのでこれより七紅天会議を開催したいと思います。異論はありませんね?」
フレーテの言葉に一同が頷く。
七紅天会議の開催を決定づけた彼女が進行役を務めるようだ。
「本日の議題はたった一つ。すなわち『テラコマリ・ガンデスブラッドが七紅天の地位に相応しいか否か』というものです。彼女は本年五月に七紅天に就任して以来、連戦連勝を重ね、先日のラペリコ王国戦でついに十連勝を成し遂げました。これは新人七紅天の活躍としては史上類をみないほどに目覚ましいものでしょう。テラコマリ・ガンデスブラッドの活躍には目を見張るものがありますわ。──そう、実績だけを見るならば!」
フレーテは、キッ!と鋭くコマリ様を睨みつける。
「皆さんは彼女が戦う姿をご覧になったことがあるでしょうか? いいえ、ないはずですわ。テラコマリ・ガンデスブラッドは戦争の際でも本陣の椅子に座って指図するだけ。部下たちに戦わせるばかりで、本人が敵将を討ち取ったという話は一度も聞きません」
「確かに聞いたことがないなッ!」
フレーテに同調し地鳴りのような声を発したのは第五部隊隊長オディロン・メタル。
「七紅天とは武の象徴! 鍛え上げた己の肉体で敵を討ち滅ぼすことこそ宿命! ガンデスブラッド殿はその辺りを理解しておられるか?」
「も、もちろんわかって──」
「ええわかっておりますとも!!」
コマリ様の声を遮り絶叫したのは第二部隊隊長ヘルデウス・ヘブン。
いや、何であんたが弁明してるの?
「わかっていないのはメタル殿のほうですよ。真の強者は弱者など相手にしません! ガンデスブラッド殿はそれを重々承知しておられるのですよ!」
「ならばもっと強者に戦いを挑めばよかろう! ガンデスブラッド殿の戦績を見たまえ、十戦のうち四戦が野蛮国家のチンパンジーではないかッ! 弱者を相手にしないという主義を持つのならそれはそれで納得だが、ではなぜ弱者ばかりと戦争をしているのだッ!」
「それはコマリ様がまだ新人だからというのもありまして──」
「わかっていませんねえ! これだから神を信じぬ野蛮人は!」
俺がコマリ様を庇おうと口を開いた矢先、またしてもヘルデウスは声を遮る。
本当に何なんだあんたは・・・・・・。
オディロンの額には青筋が立っており、明らかにブチ切れている。
しかしヘルデウスは構わずに言葉を続ける。
「ガンデスブラッド殿は敵国に宣戦布告された際、大海のごとき広い
「それにしてはチンパンジーを選びすぎだろうが!!」
「獣ですから考えなしに何度も宣戦布告をしてくるのでしょう。そういう心情はあなたなら理解できるのではないですか? チンパンジーに匹敵する野蛮人のメタル殿ならね!」
ドン!!とオディロンの拳が机に叩きつけられる。
サクナが「ひいっ!」と悲鳴をあげ、コマリ様は青ざめている。
オディロンは怒気混じりに叫んだ。
「もういっぺん言ってみろヘルデウス!! その小汚い祭服をひっぺがして細切れにして炭焼きにして豚どもの晩飯のオカズにしてやろうかッ!」
「
「この糞神父がああああああああああああッ!!」
「──おやめなさい、二人とも!」
オディロンが大剣を抜き、ヘルデウスも立ち上がりまさに一触即発という状況であったが、フレーテが放った暗黒魔法が両者の間を勢いよく突き抜けていった。
さらにその漆黒色の魔法はコマリ様の方へ向かってきた為、コマリ様の頬を掠める前に上級魔法【虚無の御神楽】で魔力攻撃を霧散させる。
「なッ!?」
「フレーテ様。喧嘩の仲裁をなさるのは御立派ですが、コマリ様の肌に傷がつくところでした。さらにはそのまま突き進めば後方の壁を破壊しかねません。修繕させられるのはいつも私なんですよ。公の場では特に魔法の使用には気をつけてください」
「・・・・・・公共物を破壊しかねなかったことに関しては謝罪いたしますわ。──ですが、ガンデスブラッドさんが真の強者であるならばあの程度の魔法軽くいなせるのではなくて? それよりも──先日もそうでしたが、私の魔法を消したのはあなたでしたのね。もしや第七部隊の十連勝にはあなたが大きく関わっているのかしら?」
「いえ、私は今のところコマリ様同様本陣から動いていませんし、大して戦果をあげていませんよ。十連勝は第七部隊全員で掴み取ったものです」
本当に俺は戦場では大した働きをしていない。
本陣まで攻めてきた敵は掃討していたが、第七部隊のイかれた連中が勝手に突撃して得た功績だ。
「フレーテ、話が逸れてるぞ」と陛下が口を開くと、フレーテは「申し訳ございません、カレン様」と、慌てて軌道修正する。
「──こほん。ヘブン様。メタル様。お二人の振る舞いはこの場に相応しくありません。そもそも七紅天同士の私闘は禁じられていますわ」
「・・・・・・チッ、そうだったな。忌々しいことに私闘は厳禁だったな」
オディロンが舌打ちして剣を収め、ヘルデウスも笑顔で頷いて席に座る。
「話を戻しますが──以上のごとくテラコマリ・ガンデスブラッドには実力詐称の疑いがかけられています。ガンデスブラッドさん、これに対して何かご反論は?」
「う、うむ。私は最強だ」
「それは反論になっていませんわ」
フレーテは冷たく一蹴する。
「そういえば、あなたは一ヶ月前に逆さ月の刺客ミリセント・ブルーナイトを殺害したそうですけど、それはどうやったんですの?」
コマリ様は答えられない。
なぜならその時の光景を覚えていないからだ。
「あら、ご自分のことですのに答えられないと? それとも忘れてしまった?」
「・・・・・・忘れるはずがないだろう。あれはすごい戦いだった・・・・・・具体的に言うと色々な魔法がびゅんびゅん飛び交ってすごかった・・・・・・」
オディロンが失望したかのように溜息を吐く。
さらに「どこが具体的なんですの?」とフレーテは呆れる。
「私はあなたのそういうところが気に入りませんわ。何を聞かれても適当なことばかり──それにもうちょっと知的な言葉を使えませんの? 仮にもあなたは七紅天でしょう、これではまるで子供の言い訳ではないですか」
十五歳はまだ子供ではないのだろうか?
「違う。間違えた。詳しく説明すると──」
「実力も無ければ語彙力もない! もっと本を読んだ方がいいですわ。──ああそうだ、私のお姉様が書いた『アンドロノス戦記』という本があるんですけれど、これがとても知的で戦略的で子供の教育にはもってこいの一品でして。よろしければ貸して差し上げましょうか? 全巻お読みになればあなたの頭も少しはマシに──」
「──フレーテ様、唐突ですが今度マスカレール家に伺ってもよろしいでしょうか? 『アンドロノス戦記』は私も愛読してまして・・・・・・是非とも作者であるあなたのお姉様とお会いしてみたく思います」
「それ・・・・・・今話すことですか? まあ別に・・・・・・構いませんが」
「だそうです。良かったですね。コマリ様。サクナ様。今度遊びに行きましょう」
「なんでガンデスブラッドさんに、メモワールさんまで来る流れになってるんですの!? 今の状況をわかっていますの?」
コマリ様は無言でぶんぶんと首を振り、サクナは「えっ、私もですか?」と狼狽していた。
陛下がこちらを見て口を開く。
「──うおっほん。話を脱線させるなアルク」
「申し訳ございませんカレンちゃん」
「「「「!?」」」」
陛下を除く一同の視線が俺に向き、目を見開いて固まる。
おそらく自分達は何か聞き間違えたのだと思っているだろう。
だがこの場にいる全員の耳は間違いなく正常だ。
実はフレーテに弁償した剣の支払いが手持ちだけでは足りなかった。
なので年甲斐もなく皇帝陛下に小遣いをせがんだ。
結果、軍備増強も兼ねて最高級品を買ってやるようにと言い渡され、想定していた額を大きく上回る金銭を受け取った。
ただし、この義姉と取引する時にはいつも対価を求められる。
その対価とは、『朕も七紅天会議に参加するから、会議中は朕のことをカレンちゃんと呼ぶこと』というなんとも馬鹿らしいものであった。
「さあフレーテ、話を戻したまえ」
「スルーですか!? 今のやり取りはスルーなのですか、カレン様!?」
「会議自体には関係ないだろ。名前の呼び方一つで狼狽えているようでは七紅天は務まらんぞ」
「わ、かりました。──ではテラコマリ・ガンデスブラッドが七紅天に相応しくないという物的証拠をお持ちしました。──これをご覧ください。彼女が帝立学院に通っていたときの成績表です。魔法も基礎体も一ばかり。こんな落ちこぼれが七紅天になれると思いますか?」
「そんなの・・・・・・どこから・・・・・・!」
「マスカレール家の力を持ってすれば簡単に調べることができますわ。──いずれにせよあなたはどうしようもない劣等生だった。しかも学院を中退してますわよね? この三年間どこで何をしていましたの? まさか引きこもり?」
理由はあったがその通りである。
だがコマリ様は声を振り絞る。
「どうだっていいでしょ、そんなこと・・・・・・」
「あなたコネを使ったのでしょう?」
「・・・・・・・・・・・・」
「ガンデスブラッド卿は大貴族ですものね。実力も実績もない娘を七紅天に就任させることくらい造作もありませんわ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ふん、どうせ人気ものになりたかったんでしょう? ちやほやされたかったんでしょう? なにせ下品なグッズを大量生産して売りさばいていますものね。よくあんなことができますわ──面の皮が厚いったらありゃしない!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
俯いているが、コマリ様の目に涙を浮かべている。
グッズに関してはコマリ様は関与すらしていないが、それ以外は正論だから反論し辛い。
いっそミリセントとの戦闘を映像記録に残しているからそれを見せるのも一つの手だが、テロリストが紛れている状況で曝け出せるものでもない。
「どうして俯いているのかしら? もうすぐ辞任するとはいえ、あなたは現時点では七紅天大将軍。もっと覇気を持ちなさい。そんなだから学院で──」
「それくらいにしておけ」
議場に響き渡る雷のような声。
全員の視線が、頬杖をつきながらフレーテを見つめている皇帝陛下に集まる。
フレーテは目に見えて狼狽した。
「それは本当に事実なのかね? きちんと確認をとったか? 成績表はさておき他の点──たとえばコマリが『人気者になりたいから七紅天になった』などという話に具体的な証拠はあるのかね?」
「そ、それは・・・・・・状況証拠的に・・・・・・」
「きみは人の心を読めるわけではなかろう。七紅天会議を開いて弾劾裁判を行うのなら、もっと調査を徹底することだ」
と、陛下はフレーテの落ち度を指摘し始めた。
「カレン様・・・・・・確かにカレン様の仰ることにも一理あります。しかし、テラコマリ・ガンデスブラッドが七紅天として相応しい実力を示していないことだけは確実ですわ!」
「その憶測を
「皇帝。もういいよ」
コマリ様は勇気を振り絞ってそう呟いた。
陛下も予想していなかったのか驚いたようにコマリ様を見る。
コマリ様はハンカチで涙を拭うと、背後のヴィルヘイズへ振り返る。
「ヴィル。私は爆発しないんだな」
ヴィルヘイズは驚いたような顔をしつつ、すぐにいつもの不敵な笑みを浮かべて笑う。
「私を信じてください」
どこまで
コマリ様も信じることにしたようだし、俺も信じることにしよう。
コマリ様は深呼吸をすると、まっすぐフレーテの方を睨みつけた。
そして腕を組み、両足をテーブルの上に乗せ、嘲笑しながら言った。
「好きなだけ
フレーテは凍りついたように動きを止める。
俺と陛下は「フッ」と吹き出した。
フレーテ以外の七紅天はきょとんとしてコマリ様を見つめている。
「・・・・・・ふ、ふふ、うふふふふふふふふふふ・・・・・・ガンデスブラッドさん、・・・・・・それは、何の冗談ですの・・・・・・?」
「冗談? それこそ冗談だろう。お前は自分の実力が理解できていないのか? ちょっと暗黒魔法がスゴイからって調子に乗ってもらっては困るぞ!」
バキッと、何かが割れる音がする。
フレーテの拳が木製の机に穴を開けた音である。
公共物を壊すなと言った矢先にコレだ。
後で修繕しないとな。
「この私を・・・・・・この英邁なる七紅天〝黒き閃光〟フレーテ・マスカレールを前にしてなんと無礼な物言いッ! 撤回なさいッ!」
「うるさいうるさい。何が〝黒き閃光〟だ、何が英邁なる七紅天だ、よくもそんなケッタイな二つ名を二つも自称できるな! 恥ずかしくないのかよ、この自意識過剰!」
「この・・・・・・小娘がぁッ・・・・・・! あなたこそ・・・・・・あなたこそ〝一億年に一度の美少女〟などという愚かにもつかない笑ってしまうような二つ名を自称しているそうではないですかッ! これについてはどうお考えなんですか、あァ!?」
「事実を言って何が悪いんだ! お父さんが毎日言ってくれるんだから間違いない! 勝手に自称しているお前とは違うんだッ! 私は〝一億年に一度の美少女〟だよな、アルク?」
「ええ、まったくもってその通りです」
「親バカと執事の戯言を真に受けるやつがありますかッ! そうですわ、私とあなたは月とスッポンほどかけ離れているのです! なぜなら私には七紅天として申し分ない実力と実績を兼ね備えているという自負がある! 周囲からの評価もある! あなたのような愚劣極まりない
「何が違うんだ! 私はお前のことなんて全然知らなかったしお前が将軍として敵国と戦っている姿なんて一度も見たことないんだよ! 地味すぎて全然気づかなかったよごめん! でもこれって私とお前はお互いに相手のことを全然知らないってことで対等だろ! もっとよく話してみたら相手が本当にすごいってわかるかもしれないじゃないか! こんなわけわからん裁判モドキで適当に決めるなんてやっぱりおかしいよ! 脳みそ腐ってるよお前!!」
「誰の脳みそが・・・・・・腐ってるですってえええええええええええええええ!!」
腰に携えている剣をフレーテが抜く。
「そこまで豪語するのでしたらこの場で剣を交えようではないですか! そうすれば全てがわかります!」
「の、のの、のののののの望むところだッ! かかってこいフレーテ・マスカレール! 私の超すごい魔法であっという間にオムライスの具にして食ってやるわッ! と言いたいところだがまずはお前が私と戦うのに相応しいかどうかのテストも兼ねてメイドのヴィルヘイズが相手をしてくれるそうだ! 頼むぞヴィル!」
「嫌です」
即答だった。
「だそうなので剣を交えるのは別の機会に・・・・・・」
「ふざけやがってええええええええええええええええええええッ!!」
「よせフレーテ」
剣先に暗黒の渦が発生し、あとほんの僅かでコマリ様へ向かって発射されようかというところで陛下の制止がかかった。
フレーテも流石に陛下には逆らえないらしく、涙目になって陛下を見つめる。
「カレン様もどうかしておられますわ! なぜこのような小娘にそこまで肩入れなさるのですかッ!」
「決まっているではないか。コマリが可愛いからだよ」
「そ、そんな・・・・・・そんな私的な理由で! でしたら私も十分に、か、かか、かわいい、でしょう!? カレン様だって、私が小さいとき、そう仰ってくれましたわ! ですから私の意見にも少しは耳を傾けていただけると・・・・・・」
「ムルナイト帝国国民は全員が朕の可愛い子供たちだ。べつにお前が特別というわけではないよ」
「なッ・・・・・・」
「それと一つ訂正しておくが、朕はコマリに肩入れするつもりはない。お前の行き過ぎた言動を
フレーテはハッとしたように目を見開いた。
きょろきょろと辺りを見渡した後、取り繕うように咳払いしてから「・・・・・・申し訳ありませんでした」と頭を下げる。
コマリ様以外に。
「この場で争いを始めるなど野蛮人がすることでした。そもそも争う必要すらありませんもの──なぜならガンデスブラッドさんは今ここで
「ぐっ・・・・・・」
「では、これより七紅天による多数決でガンデスブラッドさんの進退を決定したいと思います。ああ、もちろんガンデスブラッドさんに表決権はありませんよ? 裁かれる対象なのですからね。──先ほど私とテラコマリ・ガンデスブラッドのやり取りを踏まえたうえで、まだ彼女が七紅天大将軍に相応しいと思っている愚か者はいませんよね?」
「こ、こにいますっ!」
勢い良く手を挙げたのはサクナ・メモワール。
「──私も彼女は七紅天に相応しいと思いますな!!」
ヘルデウス・ヘブンがコマリ様を擁護する。
これで二票、あと一人手を挙げれば罷免されずに済むのだが、続けて手を挙げる者はいなかった。
「これでガンデスブラッドさんの命運は決定しました。あなたを支持する者は二人だけ。この意味がわかりますか?」
「ぐ、う、うううううううっ・・・・・・!」
「あっはっはっは! ザマアですわね! テラコマリ・ガンデスブラッドは七紅天失格ですわ!」
「──異議ありッ!」
ヴィルヘイズが突如大声を上げる。
彼女は珍しく真剣な表情を浮かべていた。
「異議ありでございます。多数決はまだ終わっていません」
「いきなり何を言ってるんですの!? メイドの分際で!」
「コマリ様の七紅天留任に賛成してくださっている方は二人。それはわかりました。しかし反対している方の人数が不明瞭なままです」
「そんなことはわかるでしょうに! 三人ですわ、三人!」
「ふむ──確かに挙手したわけではないから明確に三人と決まったわけではないな。では逆に、テラコマリ・ガンデスブラッドが七紅天に相応しくないと思う者は手を挙げよ」
陛下が言い終えるやいなやピンッ!とフレーテが右手を天に向かって突き出した。
他に挙手している者はいるが、
「ご覧ください。二対二ではないですか」
ヴィルヘイズが誇らしげに言う。
フレーテを除き挙手している者はオディロン・メタルただ一人。
自然な流れで挙手していない一人の七紅天に視線が集まる。
「・・・・・・デル、手を挙げなさい。あなたもガンデスブラッドさんがムカつくんでしょう?」
「・・・・・・・・・・・・」
フレーテが声をかけるが、デルピュネーから返事が返ってこない。
「まさかあなた居眠りしていたのではないでしょうね!? ねえデル。いい加減に・・・・・・」
「待て、マスカレール殿」
オディロンは立ち上がり、そのままデルピュネーの元まで歩み寄ると、「失礼!」と断ってから彼女の手首を握った。
十秒ほどの沈黙の後、オディロンは唐突に叫んだ。
「死んでるな! こいつは!」
「「「「は?」」」」
大勢の声が重なる。
やはり死んでいたのか。
サクナが「ひいいいっ!」と叫んで顔を青くするが、
突然ガタンッ!と椅子をひっくり返したヘルデウスがビブラートのきいた声で「悪魔だぁぁぁぁ〜ッ!」と叫んだ。
「ああ、なんということか! これは悪魔の仕業ですぞ!」
「悪魔なんて存在してたまるもんですか! こんなのテロリストがやったに決まっております!」
「そ、それはないと思いますけど・・・・・・」
「サクナ・メモワール。あなたに何がわかるんですの!? とにかくデルがいつどこで誰に殺されたかを調べる必要がありますわ!」
七紅天たちは
互いのアリバイや使える魔法等の探り合いが始まり、憶測が重ねに重なり、各々周囲への敵意が高まっている。
「・・・・・・どうしようヴィル、なぜかミステリー小説みたいになってきたよ」
「本当に滑稽ですね。犯人が私だとも知らずに」
「「え? なんだって?」」
俺とコマリ様の声が重なる。
「すみません。栄えある七紅天の方々に対して『滑稽』は無礼ですね」
「そこじゃねえよ! もっと重要なことを言っただろ絶対!」
「コマリ様。ヴィルヘイズがデルピュネー様を殺害したそうですよ。恐らく毒殺で」
「はあああああああああああああああああ!?」
コマリ様は度肝を抜かれて絶叫した。
ヴィルヘイズは「しっ」とコマリ様の口に人差し指を添える。
「お静かに。デルピュネー殿を殺害した私は死体をこの『血濡れの間』に設置しておきました。七紅天会議は二人以上欠けていると開催できませんから、デルピュネー殿を出席させることは必須事項だったのです」
「死体でも参加したことになるの?」
「ならないとはどこにも書かれていません」
「いや、でもさ。会議が開催されないのならそれでよくないか? 私が死ぬこともなくなるんだし・・・・・・」
「いえ、コマリ様。フレーテ様は日を改めて会議を開催するでしょう。そして延期になれば遠征中の第一部隊隊長ペトローズ様が戻られます。彼女は戦闘狂ですから、コマリ様に実力が無いと思われれば罷免に追いやるでしょう。だからヴィルヘイズはペトローズ様が返ってくる前にあれこれ工作を施して、会議で票が同数になるような状況を作り出したのでしょう」
ヴィルヘイズはドヤ顔を決めるが、そもそも君がフレーテを挑発しなければこんな
他の七紅天を見るとまだ論争を続けている。
「見たまえ。デルピュネー殿には外傷がない。つまり毒殺か何かということだ」
「では誰の仕業だと仰るつもりですの?」
「それはガンデスブラッド殿、貴殿がよく知っているのではないか?」
「そうですわ! あなたがデルを殺したに違いありません! 多数決の阻止という動機もありますわ」
「なら証拠を出せ証拠を! 証拠が無ければ言いがかりだぞ!」
コマリ様それは犯人が言うセリフです。
「犯人がコマリだと言うのは憶測にすぎんと思うが──ふむ。仮にコマリがデルピュネーを殺したとして、それでお前はどうするつもりなのかね?」
「こうしてやりますわッ!」
フレーテは手に装着していた手袋を外し、渾身の力でコマリ様へ目掛けて投げつける。
手袋はコマリ様の顔面に向かって進むが、当たる寸前で俺はそれを掴み取る。
フレーテは「なに決闘の申し出を邪魔してくれてますの!」と憤慨していたので、手袋を優しくコマリ様の頬に当てて机にそっと置いた。
「フレーテさん。七紅天同士の私闘は禁じられて・・・・・・」
「これは私闘ではありませんわ。正式な〝戦争〟の申し込みです。──カレン様、同じ国の将軍同士が戦争することは法的に認められていますわよね?」
「問題ないな」
「問題ないのかよ!?」
コマリ様は助けを求めるようにヴィルヘイズの方を向く。
「望むところですマスカレール様! さあコマリ様、あのような勘違い弱小貴族などけちょんけちょんにしてやりましょう!」
誰がフレーテと戦うと思ってるのだろう。
そしてなぜそんなに自信あり気なのだろう。
フレーテは優雅な微笑みをコマリ様に向けて言った。
「あなたが負けたら七紅天をやめていただきます。私が負けたら──そうですね、あなたの言うことを何でも一つ聞いてあげましょう」
この人先日「そういうことは軽々しく口にするものではありませんわ!」とか言ってなかったかな?
「チンパンジーからの誘いを何度も受け入れているガンデスブラッドさんですもの、まさかこの英邁なる七紅天〝黒き閃光〟フレーテ・マスカレールからの宣戦布告を捨て置くはずがありませんわよね?」
コマリ様はちらりとこちらを見る。
俺はコマリ様にだけ聞こえるように小声で言った。
「大丈夫です。もし戦争になっても私があなたをお守りしますので」
コマリ様はフレーテに向き合うと、
「私は最強だ! どんなやつが相手でも構いやしない! この戦争、受けて立────」
「待たれよマスカレール殿ッ!」
突然広間にオディロンの大音声が響き渡る。
「わざわざ七紅天会議を開催しておいて結論がそれか!? 生ぬるすぎるぞフレーテ・マスカレール! テラコマリ・ガンデスブラッドならびに新人のサクナ・メモワールの腕試しも兼ねて、俺は〝七紅天闘争〟の開催を提案するぞッ!」
「なんですって・・・・・・?」
フレーテが
コマリ様とサクナは互いに向き合うと、七紅天闘争が何なのか分からずに首を傾げ合う
陛下は「ふむ」と自らの
「七紅天闘争か──面白いではないか。よかろう! 開催を許可する! 知っての通り七紅天闘争とは七紅天によるエンターテイメントだ!」
「あの・・・・・・カレンちゃん、知らない者も数名いますが・・・・・・」
「わかってる。細かなルールの設定はフレーテ、お前に任せる。決まったら早めに部隊全体に周知するようにしろ」
「は、はい!」
こうして七紅天会議はお開きとなった。
なおデルピュネーの死体をそのまま放置するわけにはいかないので彼女の部屋まで送り届けた。
その際にヴィルヘイズが毒殺に用いたと思われる『こまり』と書かれた小瓶が置いてあったので、回収してその場を去った。