ひきこまり吸血姫の執事   作:神無月 優

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アニメも終わって寂寥感に浸っていると思いますが、今後も小説は書き続けますのでお楽しみください。
そして今年度は最期の投稿です。
こんな自己満足作品を読んでくださりありがとうございます。
良い年をお過ごしください。


休題 疑惑の第六部隊と祈りを捧げる者たち

『七紅天闘争』開催のお知らせ。

 皇帝陛下の勅命により第八回七紅天闘争を開催する。

 ⚫︎開催情報

 ・日時・・・・・・七月一日 午前九時から正午

 ・場所・・・・・・核領域・メトリオ州古戦場

 ・参加者・・・ ペトローズ・カラマリア七紅天大将軍

       ヘルデウス・ヘブン七紅天大将軍

       フレーテ・マスカレール七紅天大将軍

       デルピュネー七紅天大将軍

       オディロン・メタル七紅天大将軍

       サクナ・メモワール七紅天大将軍

       テラコマリ・ガンデスブラッド七紅天大将軍

 ⚫︎ ルール    

 ・各将軍が率いるべき軍勢は百名までとする

 ・本大会は基本的にフィールド内〝古城〟の頂上に設置された〝紅玉〟の奪い合い    

 ・闘争終了時に〝紅玉〟を所持していた者が優勝者となる    

 ・なお今回は優勝者以外の順位を決める必要があるためポイント制を採用する    

 ・ポイント獲得条件は以下の通り

  自軍が敵軍の兵士を一人殺害する────── 1P

  自軍が七紅天を殺害する───────── 50P

 ⚫︎備考

 ・最下位の将軍は七紅天を退任する    

 ・優勝者には皇帝陛下から褒賞が下賜される

 ・異論のある方はフレーテ・マスカレールまで

 ・異論は認めません

 

 ※

 

 ムルナイト宮殿七紅府の掲示板に突如として貼り出されたその〝お報せ〟が帝国軍関係者の間に激震をもたらしたのは言うまでもない。

 当時の事は知らないが七紅天闘争の開催は一世代前の大英雄ユーリン・ガンデスブラッド様が大々的に開催して以来、実に七年ぶりになるらしい。

 さらに此度の闘争はただのエンターテイメントではなく、最下位となった七紅天は辞任を余儀なくされる。

 つまり戦争で死に、辞任されて爆死、と二度も死を味合うこととなる正真正銘の闘争なのである。

 軍人たちは色めき立ち、帝国の住民は優勝者予想で盛り上がる。

 ちなみに七紅天闘争は六国中に中継され、他国の軍人や政治家たちもムルナイトの戦力を推し量るべく、事の成り行きを興味深く見守っていた。

 

「──七紅天か。相手にとって不足はないな!」

 

 七紅天会議の翌日。

 先のラペリコ戦でハデス・モルキッキ中将の重い拳を顔面にモロに受けて撲殺されたヨハン・ヘルダースは、戦争から一週間ほど経った今日、ようやく頭部が再生して蘇った。

 

「そうですね。不足があるとすればあなたの実力でしょうかヨハン中尉」

「あァ、お前歳下のくせにちょっと階級が上なくらいでなに偉そうにしてんだッ! ──まあいいや。僕の炎ですべてを焼き尽くしてやるぜ! そうすればテラコマリのやつも──」

「ふん、獣人王国の猿に後塵を拝する輩が七紅天に太刀打ちできるとは思えんがな」

 

 シニカルに笑うのは犬頭の獣人ベリウス・イッヌ・ケルベロ。

 普段であれば皮肉を全て受け入れて喧嘩をおっ始めるヨハンだが、ほんの少し雰囲気が変わっていた。

 

「そうかよ。まあ何を言おうとお前の勝手だぜ。僕のやることは変わらない──敵将をぶっ殺す、それだけだ」

「貴様、何か変なものでも食ったのか?」

 

 ベリウスは奇妙なものでも見るような目をヨハンに向ける。

 実際、ヨハンは少し変わった。

 大人に近づいたのだ。

 先日ミリセント・ブルーナイトに煮湯を飲まされ、愚かさと無力さを悟ったのである。

 自分よりも実力が劣る(と思っている)コマリ様に救われた。

 しかしながらコマリ様の行動は無謀であり勇敢だった。

 次にあんな事をすれば間違いなく彼女は死んでしまう。

 危なっかしくて見てられない。

 そんな庇護欲(ひごよく)がヨハンを変えたのだ。

 

「なあベリウス。テラコマリは七紅天闘争について何か言ってたか?」

「さあな。まだお会いしていない。それに聞くならアルクにだろう。閣下は何か言ってたか?」

「コマリ様は七紅天闘争自体知らなかったが」

「閣下ならきっとこう仰るでしょう──『どいつもこいつも私が息の根を止めてやる!』と」

 

 変態男カオステル・コントが話に加わる。

 先日フレーテに呆気なく殺害されたようだが、失血死のため蘇生は早かった。

 例によって犯罪計画を立てるような怪しい顔で言う。

 

「歴代最強の七紅天たる閣下にかかれば他の将軍など軽く一捻りでしょう。七紅天闘争といえど、実際は閣下による虐殺ショーになるでしょうね」

「コマリ様の力に期待しすぎるのは軍人としていかがなものかと思いますが」

「そうだな。ムルナイトの将軍は粒ぞろいだ。いくら閣下といえど一方的な虐殺は厳しいのではないか」

「何を言っているのですか、あなた方も見たでしょう──閣下の強大な力を! テロリストを一瞬で屠る雄姿を! あんなことができる七紅天が他に存在するでしょうか?」

「うむ、あれが凄まじかったのには同意だな。上手く言葉では表せないが・・・・・・全身が逆立つような感覚だった。確かに他の七紅天があれと同じことをできるとは思えんが・・・・・・」

 

 二人の話を聞いていてヨハンは思った。

 こいつら何言ってんだ、と。

 眉を(ひそ)めるヨハンに気づいたカオステルが、嘲笑するように言った。

 

「おっと失礼。ヨハンは閣下の活躍を見ていませんでしたよね。死んでいたので」

「はぁ? お前ら幻覚でも見たんじゃないのか? テラコマリは弱──」

 

 ヨハンは一瞬黙り込む。

 コマリ様の身の安全を考える上では実力を勘違いしている方が好都合だから話を合わせよう、とでも考えているのだろう。

 

「はっ、知ってるさ。知ってるに決まってるだろ! テラコマリは最強だ!」

 

 ヨハンは哀れみの目を俺たちに向ける。

 考えている事は分かるのだが、見ていてなんだか腹が立つ。

 

「・・・・・・なぜ同情するような目で見るのですか?」

「べつにぃ? 無知は悪いことじゃないぜ。むしろテラコマリのためになる」

「前々から思っていたのですが閣下のことをファーストネームで呼ぶのはやめませんか? 虫唾が走ってうっかり殺してしまいそうになるのですが」

「やれるものならやってみやがれよ。今の僕はこれまでの僕とは違うぜ」

「やめろ二人とも。七紅天闘争の前に仲間割れをしてどうするのだ」

「そうですよ。どうせ七紅天闘争に参加する百名を殺し合いで決めるのですから、()るならそこで()ってください」

 

 ベリウスと俺に(たしな)められ、「わかっていますよ」とカオステルはつまらなさそうに言う。

 

「いずれにせよ閣下が最強なのは事実。第一から第六までの部隊など敵ではありません」

「しかし舐めてかかると痛い目に遭う可能性もある」

「ええ、それは重々承知しておりますので情報収集を怠るつもりはありません。現時点でもっとも脅威なのは第一部隊でしょう。やはり世間で〝最強の七紅天〟謳われるペトローズ・カラマリアは侮るべきではないかと」

「ふむ・・・・・・それ以外では?」

「これは脅威とは違う話ですが、フレーテ・マスカレールには是非ともご挨拶したいものです。受けた借りは倍にして返さなければなりませんから──」

 

 ベリウスとカオステルが他の部隊や七紅天について議論をしている側で、ヨハンは興味なさそうに窓から見える訓練場へと視線を移す。

 そこでは大声をあげながら模擬戦をしている部隊が目に入る。

 俺は異様な光景をを見ながら口を開いた。

 

「あれは第六部隊ですね。先日七紅天が入れ替わったこともあり世間から注目されている部隊です」

「入れ替わった? そんなの聞いてねえぞ」

「あなたは世間に疎すぎるのですよ。──新七紅天の名はサクナ・メモワール。十六歳の少女です。雪のような白い肌と幸薄な顔立ちが非常に可憐なお方でありまして正直言って一瞬だけ素足を舐めたくなりましたがよく考えたら考えるまでもなく閣下のほうが一億倍は可憐だったのであれは気の迷いだったのでしょうね間違いなく」

「貴様の所感はどうでもいいが、やつらの強さは如何(いか)ほどなのだ? こうして見ると・・・・・・少々変わった連中に思えるのだが」

「第六部隊副隊長であるバドワ・ガガーリン大尉は優秀な方ですよ。──というかベリウスは元々第六部隊から殺人の罪で左遷されてきたわけですから、あなたの方が詳しいのでは?」

「昔の話だ。もう忘れた」

 

 改めて第六部隊を見ると、その訓練風景には鬼気迫るものがあった。

 隊員たちは口々に「サクナ様ァ!」と叫んで戦闘を繰り広げている。

 

「サクナ様のためにィ────────ッ!」

「サクナ様に栄光あれェ──────ッ!」

 

 俺が想像していた以上だった。

 サクナ・メモワールの烈核解放は個人のみならず、複数人へ同時に洗脳を施すことが出来たのだ。

 さらには効果期限が存在しない。

 彼女がその気になれば世界すら支配し得るだろう。

 そんなふうに考えていると、不意に誰かが近づいてくる気配があった。

 

「な、なあ。お前ら第七部隊のやつらだろ?」

 

 俺と他三人が気配がする方へ向くと、そこに立っていたのは見知らぬ吸血鬼の男だった。

 軍服から察するに第六部隊所属の軍人だろうか。

 カオステルは男の問いに「ええ、そうですが」と答える。

 男は少し躊躇ってから開口する。

 

「俺は第六部隊所属なんだが・・・・・・あれを見てどう思う?」

「第六部隊の演習ですか? 気合いがあるのはよろしいことかと」

「そうじゃねえんだよッ!」

 

 急に怒鳴られてカオステルはきょとんとした。

 男からは不安や疲労のようなものを感じられ、(わら)にも(すが)りたい気持ちなのだろうが明らかに人選ミスだ。

 第七部隊の軍人が見ても日常的過ぎて違和感など無いに等しいのだから。

 

「おかしいだろあいつら。急に人が変わったようにサクナ様、サクナ様って」

「あなたが何を仰っているのかわかりかねます。それだけサクナ・メモワールに人望があるということでは?」

「そんなはずはないんだ。だってあのサクナ・メモワールという小娘は、第六部隊の末端も末端、単なる雑兵でしかなかったんだぞ。だのに七紅天になった途端あの人気だ」

「そういうものでしょうに。我々も忙しいのでこの辺で──」

 

 しかし男はカオステルの肩を掴んで引き留める。

 

「いいから聞いてくれよ。──俺はサクナ・メモワールが将軍に就任した日、ちょうど死んでいたんだ。だからやつが七紅天になった瞬間を知らない。そこで何が起きたのかも知らない。ただ一つだけわかることは、俺が蘇生して隊に復帰したとき、第六部隊の連中は揃いも揃ってサクナ・メモワールの狂信者になっちまってた、ってことなんだ」

 

 カオステルが腕を組み、ベリウスは訝しそうに第六部隊のほうを見やる。

 

「・・・・・・精神操作の魔法だろうか?」

「それはありえない。魔法には〝効果の期限〟が必ず存在する。あいつら全員を同じ魔法にかけて、しかもサクナ・メモワールが就任してから──そうだな、二週間くらいか。二週間も効果を持続させるなんて、歴史上の大魔法使いでもできない芸当だ」

 

 男は頭を抱えてその場に蹲ってしまった。

 

「俺がおかしいんじゃない。現に異常に気づいているやつは何人もいる。あいつらにも家族がいるからな。・・・・・・なあ、俺はサクナ・メモワールが怖くって仕方がないんだ。あいつはただの七紅天じゃない。もっと何かヤバい何かなんだ。・・・・・・俺は、どうすりゃいいんだ?」

 

 男の問いに答えるものはいない。

 俺も洗脳された第六部隊に解除魔法をかけ続けているが、効果はない。

 烈核解放は世の理から外れた力だという事を改めて思い知らされた。

 

 ※

 

 ムルナイト帝国の端にある墓所。

 そこには数多くの吸血鬼の魂が眠る場所とされている。

 死因は様々で、寿命が尽きた者、核領域の範囲外で死亡した者、そして・・・・・・神具によって殺された者。

 吸血鬼の死後は死体を灰にされ、骨瓶(こつがめ)に収めてた後に墓所へと運ばれ、家族ごとに建てられた墓へと収納される。

 身寄りのない孤児や家族をもたない者たちの遺灰は、巨大な墓石の下で区分けされる事なく収納される。

 この中には稀にムルナイト帝国で魔核に登録した他種族も混じっていたりする。

 魔核の存在もあり墓参りする習慣が薄れているものの、管理人が生真面目ゆえか手入れが行き届いている。

 俺はとある墓石の前に(しゃが)み、目を閉じつつ両の手を合わせる。

 その背後に大きな魔力が一つ。

 

「──おや、先客がいましたか」

 

 声の主は祭服を着た長身の七紅天大将軍──ヘルデウス・ヘブン。

 彼は相変わらずの柔和(にゅうわ)な微笑みで見下ろしていた。

 

「こんにちは。ヘルデウス様」

「ええ、こんにちは。今日も心地良い天気ですね。これもきっと神が我々の営為を祝福してくれているからなのでしょう」

 

 そう言ってヘルデウスは片膝をつき、両指を絡めて黙祷する。

 その姿はまさに聖職者を体現していた。

 ふとヘルデウスが開口した。

 

「あなたは何故ここに来られたのですか?」

 

 墓参りしに、と野暮な事は言わない。

 彼が聞きたいのはそういう事では無いのだろう。

 

「知り合いの家族がここで眠っているので、様子を見に来ました。そういうヘルデウス様はどうしてここに?」

「友人とその家族に会いに来ました。最近は七紅天の業務と孤児院の活動に追われていて足を運ぶことができませんでしたがね。折角来たのですから目一杯(めいっぱい)祈るとしましょう」

「神に祈るのですか?」

「いいえ。彼らの安寧を祈るのです」

「・・・・・・既に亡くなっているのにですか?」

 

 ヘルデウスは目をゆっくりと開けてこちらを向く。

 

「彼らはきっと死後は天国へと向かうでしょう。なので私は彼らが天国で幸せに暮らせている信じて祈るのです。勿論神の御業(みわざ)にて彼らが生き返ってくれるかもしれない、と期待することもありますがね」

 

 ヘルデウスの表情は夕焼けに照らされているからか、少しだけ寥々(りょうりょう)たる表情が際立った。

 

「もし・・・・・・もしもの話ですよ。死んだ人が生き返るとしたらどうしますか?」

 

 俺の問いにヘルデウスは真剣に悩み込み、

 

「私の友人が生き返ったら・・・・・・きっと私は年甲斐もなく泣いてしまうでしょうね。みっともなく泣き続けると思います」

「ハハッ。似合いませんね。ヘルデウス様のそんなお姿を是非とも見てみたいものです」

「そうですね。私も神に祈り続けるとしましょう。──では私はこれから行くところがありますので失礼しますよ」

 

 ヘルデウスは「アーメン!」と十時に切ると、その場を(あと)にした。

 俺も墓に〝サルビア〟の花を添えてその場を去った。

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