ひきこまり吸血姫の執事   作:神無月 優

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コマリ隊登場です。





第七部隊(コマリ隊)

 ムルナイト宮殿七紅府(しちぐふ)・血濡れの間。

 皇帝の居城から徒歩で戻り、俺が向かった目的地。

『血濡れの間』なんて物騒な名前がついているのは勿論理由がある。

 ここでは殺人が頻発する。

 血の気の多く、歯止めの効かない馬鹿たちが殺し合いをすることからそう揶揄されているらしい。

 ほら、俺の目の前にある扉の前に血溜まりができている。

 俺は扉を開け、血溜まりを踏まないよう飛び越えて入室する。

 

「閣下。私は感服いたしました。この第七部隊でもとりわけ血の気の多いヨハン・ヘルダースを、こともあろうに一撃で殺害なさるとは」

 

 枯れ木のような吸血鬼── ムルナイト帝国軍第七部隊所属、準三位中尉、カオステル・コントがテラコマリ閣下に対して歓喜していた。

 あとあの血溜まりはヨハン・ヘルダースのものだったらしい。

 遺体は収納袋に入れられて適当に放置されていた。

 

「ふん。あの程度の吸血鬼なんて小指一本で始末できるぞ」

 

 部隊からどよめきが上がる。

 おいおい……大丈夫か?

 

「こ、小指ですか?」

「そうだ、小指だ」

「しかし、ヨハンとてそれなりに鍛えた吸血鬼であり……」

「私も鍛えてるんだよ! お前らは知らないだろうけどな、私と指切りげんまんしたやつは全員もれなく複雑骨折するんだ!」

「なんと……」

 

 と閣下とカオステルのやり取りを聞いていたのだが、状況の飲み込めない俺はゆっくりとヴィルヘイズへ近づく。

 

「おい、これは一体どういう状況だ」

「ん? ああ、アルク大尉ですか。遅刻ですよ。一体どこをほっつき歩いていたのですか?」

「自分のしたことを覚えていないのか? お前の胸に手を当てて聞いてみろ」

「……すみません。胸が大きいので心音すら聞こえないようです」

 

 悪びれもせず(とぼ)けるこのメイドをどうしてくれようか。

 

「閣下がヨハンを殺したのは本当なのか?」

「ええ、事実ですよ。まあ自滅でしたが」

 

 経緯(いきさつ)を聞くと、閣下が扉を開けた途端にヨハンが襲いかかり、驚いた閣下が扉から手を離し後退りをした際に、閉じた扉がヨハンの首を挟み殺したようだ。

 

「ちなみに、コマリ様は幼少の頃に百人の吸血鬼を小指一本で殺害しました。コマリ様が本気を出せばここにいる吸血鬼なんて五秒で全員ブチ殺すことが可能なのです」

 

 親指を上に立てるヴィルヘイズを見て、閣下は顔を青ざめる。

 同時に俺の存在に気づいた閣下は小さく手を振ってくれた。

 

「それにしてもコント中尉。先程から図が高いですよ。恭順の意思を示すのであれば、まずはコマリ様の靴をお舐めなさい」

「おい馬鹿、コイツの資料に目は通しているだろ! そんなこと言ったら──」

「──考えが及びませんでした。閣下、靴を舐めてもよろしいでしょうか?」

「ダメに決まってるだろっ!」

 

 閣下がつっこむと、カオステルは光の如く土下座姿勢を取る。

 

「失礼いたしました。私のような下賤の者が閣下のおみ足に触れるなど、考えるまでもなく極刑に値する大罪でございます」

 

 第七部隊は様々な犯罪に手を染めた者や容疑をかけられた者ばかりが集うのだが、実際の言動は目も当てられない。

 さすがに閣下もドン引きしていたが、上官として余裕を取り戻しつつ平静を保つ。

 

「まあ……顔を上げたまえよ。それよりも、全員揃ったようだし全体に挨拶してもいいか?」

「ハッ! もちろんでございます! 第七部隊の──いえ、コマリ隊の隊員たちは、閣下のご挨拶を心から待ちわびております!」

 

「コマリ隊」というパワーワードに恥ずかしさから閣下は頬を染めるが、俺は語呂も良いしアリだと思った。

 

「皆の衆! 私こそが新しい七紅天、テラコマリ・ガンデスブラッドである! 私がお前たちの将軍になったからには、もう今までの甘っちょろちょろ……」

 

 噛んだ。

 今まで引きこもって他人との会話を絶っていたから無理もないが、空気は鎮まりかえっている。

 

「コマリ様は緊張して噛んでしまわれました。どうです、可愛いでしょう」

「いや……そのフォローはどうよ。可愛いことには同意するが。閣下、どんな偉人であろうと噛むことくらいあります。どうぞ続きを」

「う、うむ。もう今までのような甘っちょろい生活に戻れると思うな! これからは戦争の毎日だ。血の流れない瞬間はない、殺戮の毎日なのだ! だが安心しろ、お前らは私についてくるだけでいい。決して下剋上とか裏切りとか馬鹿なことは考えず、可憐で強大で天才すぎるテラコマリ・ガンデスブラッド様についてくるだけでいいのだ! 約束してやる。お前らが私に従って戦争を続ける限り、果てしない悦楽の毎日を享受させてやると!」

 

 おおおおお!と歓声が上がる。

 犯罪者集団にとって、毎日が戦争というのは至福なのだろう。

 それにしても閣下はよくアドリブで演説できるな。

 歓声は徐々に大きくなっていき、

 うおおおおおおおおおおおおおおぉぉ──────

 と、鼓膜が破れそうな程の大声援が巻き起こる。

 

「え? な、なんだこれ」

 

「コマリン! コマリン!」とアイドルコールが始まり、吸血鬼たちは麻薬中毒者のように熱狂して大声をあげていた。

 困惑で石化している閣下に、ヴィルヘイズが謎のウインクをぶちかます。

 

「おめでとうございます。どうやら部下達はコマリ様に心酔したようです」

「まあ、あとは実力を隠し続けられるかですね。閣下、目先の問題が一つ解決して良かったですね」

「いや、実力が大したことないってバレたら殺されるだけじゃ済まないような……」

 

 閣下が憂鬱な気分に浸っていると、数人の吸血鬼が近づいてきた。

 一瞬閣下に賛同しない不埒者がクーデターでも起こすのかと思い、俺は閣下をお守りすべく身構えていた。

 だが、彼らの口から発せられた言葉は想像を遥かに超えるものだった。

 

「閣下! 靴を舐めてもいいですか!?」

「閣下閣下! 僕を踏んでください!」

「閣下閣下閣下! 俺もヨハンみたいに圧死させてください!」

 

 別の意味で危険な奴らが寄ってきた。

 資料に目を通した限りではここまで異常な集団では無かったはずだが──いや、犯罪歴は持っていたか。

 とにかくこの妄信ぶりが異常なのは間違いないので、調査は必要か。

 あと最後のやつはこの後焼死させた。

 

 ⭐︎

 

 どうしてテラコマリ・ガンデスブラッド閣下がこれほど支持を集めることができたのか。

 その理由を、第七部隊──通称コマリ隊の吸血鬼に聞いてみた。

 

「ああ、閣下ね。だって、すごく可愛いんだもん」

「いやもう、一目惚れだね」

「むさ苦しい軍隊生活に咲く一輪の花」

「糞餓鬼を容赦なく殺した冷徹さ──私はそこに覇者の資質を見出したのだ。どれほどの戦闘力があるのか知れないが、前任者よりマシだろう。まあ、しばらくは様子見だな」

「コマリたんマジ覇者」

「踏まれたい」

「ペロペロしたい」

「血を吸いたい」

「イエーッ! コマリン閣下センス絶頂、知謀があって魔法最強!」

「声が美声で萌えボイス」

「名前で呼んでほしい」

「正直なところを申し上げますと、一目見た瞬間に圧倒されました。部下を何の躊躇いもなく処分する鉄の理性。天使もかくやという可憐な容姿。あの方こそ私が仕えるにふさわしい人物です。いずれは靴どころか素足をげふんげふん。何でもありません。とにかく今後に期待ですね。あの七紅天が小指で敵を屠る姿を是非とも拝見したいものです」

 

 これまでの七紅天大将軍がむさ苦しいオッサンだったという事実も影響しているのかもしれないが、大半の連中は可愛い女の子が来たというだけで狂喜乱舞していた。

 つまりアウトローだ何だと恐れられている第七部隊の犯罪者集団に、新たに変態性が付与されてしまったわけだ。

 取り敢えず俺は、変態度合いが一定ラインを超えた吸血鬼を閣下に近づけないようにニ、三日氷漬けにした。

 

 ⭐︎

 

 吸血種・ムルナイト帝国。

 獣人種・ラベリコ王国。

 神仙(しんせん)種・夭仙郷(ようせんきょう)

 翦劉(せんりゅう)種・ゲラ=アルカ共和国。

 蒼玉(そうぎょく)種・白極連邦(はっきょくれんぽう)

 和魂(わこん)種・天照楽土(てんしょうらくど)

 

 世界に存在する六つの国はそれぞれ魔核を一つ保有している。

 魔核は特級神具と呼ばれる、神から授けられた宝物(ほうもつ)の一つ。

 無限の魔力を生み出し、無限の再生機能を持つ器である。

 生後二週間経つ吸血鬼は、血液の一部を魔核に捧げる儀式を行う。

 これにより血を捧げた吸血鬼は魔核の一部として認識されるらしい。

 つまり、魔核の一部と化した吸血鬼は()()()()()()()()()()()()()無限に魔力を扱えるし、どれほど深い傷を負っても、どんなに惨たらしい死に方をしても、一定時間の経過で完全回復する。

 そんな世の中だからこそ、生きるか死ぬかの戦争など起こり得ない。

 今俺たち第七部隊が居るのは、世界の中央《核領域》で各国にある魔核の効果範囲がちょうど重なる特殊地域。

 唯一自国で無くとも再生効果が及ぶ地域で、国同士の戦争はもっぱらこの地で行われる。

 そして、今日も核領域の大地は流血で潤う。

 敵は獣人ばかりの屈強な戦士たち、ラペリコ王国軍。

 四聖獣の中でも曲者のリオーナ・フラット率いる軍かと警戒していたが、今回は同じく四聖獣のハデス・モルキッキが率いるモンキー軍団だ。

 調査によれば知能指数が低い連中らしいから、戦術次第では早々に決着がつきそうだ。

 

「閣下、火力重視のメラコンシー隊に正面から突撃させ、素早さに定評あるベリウスに敵将を暗殺させましょう。他の部隊はメラコンシー隊の援護でよろしいかと」

「う、うむ」

 

 閣下は俺が耳打ちして伝えた作戦を自称参謀のカオステルに伝え、それをさらにカオステルが全部隊に伝令する。

 前任の七紅天が予定した戦争を引き継いで出陣しなければならないことに憂鬱だった閣下だが、自分の部下たちが思いのほか強く、敵に討たれる心配が無さそうでやや安堵していた。

 

「急報! ベリウス中尉が敵将を打ち取りました! 繰り返します! ベリウス中尉が敵将を打ち取りました! 我が軍の勝利です!」

 

 伝令役が大声を張り上げた瞬間、閣下は腰が抜けるようにへたれる。

 まあ部下たちは作戦が上手くいかない時は閣下に出陣を懇願していたから、その必要性が無くなり喜ばしいことだろう。

 

「は、ははは。よくやったなぁ、ベリウス。あとでご褒美をあげようかな」

 

 閣下の言葉を聞いたコマリ隊は舌打ちしだす。

 

「ちっ、閣下の出番が……!」

「空気読めよベリウス」

「は? ご褒美? あいつ死ぬべきなんじゃないか?」

「よし、やつの靴に画鋲を仕掛けてやろう」

 

 コイツら仲間を仲間として思っておらず、蹴落とすことしか考えていない。

 

「おめでとうございます、閣下。初陣はめでたく我々の勝利となりました」

 

 部下のノリについていけていない閣下に、カオステルが深々と頭を下げる。

 変態性を抜けば比較的協調性のある枯れ木男が隊のまとめ役を担っている。

 昨日氷漬けにしたはずだが、どうやって抜け出したんだ……。

 

「と、当然だ! 私が指揮する部隊だからな!」

「さすがです、閣下。確かに今日の作戦は素晴らしいものでした。閣下の実力を拝することができなかったは残念ですが、それはまた次の機会としましょう」

「そ、そうだな! よしっ、みんなよくやってくれた! 言っておくが、休んでる暇はないぞ! 私の部下になったからには、流血なき瞬間はない享楽の毎日が約束されているのだ!」

 

 閣下が言い終えるやいなや、

 うおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉ──────

 と、鼓膜が破れそうな歓声が巻き起こる。

 

「あの! ちょっとよろしいですか!?」

 

 戦場に似つかわしくない高い声が聞こえ、その場にいる者は声のする方へ向く。

 ペンと紙とカメラを携えた小柄な女の子が溢れるような笑みを浮かべていた。

 雪のような真っ白な肌は、白極連邦の蒼玉種の特徴によるものだろう。

 

「私は六国新聞のメルカ・ティアーノと申します! 失礼ながら、取材をさせていただいてもよろしいでしょうか!?」

「わ、わかった。何でも聞きたまえ。それと、取り敢えず離れてくれないか」

「ありがとうございます!」

 

 閣下の言葉を無視するように、ずいっと鼻と鼻が当たる距離まで近づく。

 

「ズバリ、どういった経緯で七紅天になられたのでしょうか!? ご出身がガンデスブラッド家ということですが本当ですか!? 皇帝陛下とのご関係は!? 好きな食べ物は!? 恋人とかっていますか!? 初めてのキスは──」

「失礼ですが、閣下がお困りになられています。離れて取材してください」

 

 流石に閣下が限界に近いので俺は記者との距離を離す。

 メルカは何故か興奮増して紙に筆を入れる。

 

「代弁感謝する、アルク。そこの記者、強者は言葉で語らないのだ! だが、それではお前が困るだろうから、ちょっとだけ語ってやる。私がこれからすることは覇業の連続だ! 他国の将軍を武力で全員ブチ殺し、ムルナイトの国威を全世界に喧伝してやるのだ! 分かったか! ちなみに好きな食べ物はオムライス! 以上!」

 

 閣下は肩で息するほどの疲労を感じていたので、椅子をお持ちすると「ありがとう」とその椅子に腰掛ける。

 

「す、すごい……」

 

 メルカは尻餅をついたままあんぐりと口を開けていた。

 それだけではなく、コマリ隊の面々も目をキラキラさせて呟き始めた。

 

「ああ、これこそ七紅天だ」

「まさに最強の吸血鬼」

「神に感謝します。閣下と同じ時代に生まれたことを」

 

 聞いていて閣下の演説力は見事なものだ。

 この調子なら下剋上は起きないだろう。

 そう思っていたが、閣下がヨハンに決闘を申し込まれることになるのはそう遠くない未来だった。

 

 

 ⭐︎

 

 

「──というのが、テラコマリ閣下の初陣の結果となります」

「そうか。朕たちでも手に負えなかったあの第七部隊を手懐けるとは、コマリも中々やるではないか」

 

 皇帝陛下は戦争結果を聞いて、我が子を思うかのように満面の笑みになる。

 三ヶ月に一度戦争に勝ちさえすれば、閣下の首が吹き飛ばなくてすむ。

 俺は陛下に戦争を行う回数を減らしてもらえるか打診してみようと思った。

 

「陛下、初陣で敵軍を圧倒する勝利を納めました。閣下に休みを与えることも兼ねて戦争のスケジュールを調整できないでしょうか?」

「駄目だ。敵軍を圧倒したんだ。その勢いで他国を潰してしまえば良いではないか。それに他の七紅天が早々に皇帝になる権利を手にしてしまったら、コマリを皇帝にすることは叶わなくなるぞ」

「……」

 

 それを言われて俺は黙ってしまう。

 俺は閣下に戦ってほしくはなかった。

 別に普段が弱々しくてすぐに殺されそうだから、という理由ではない。

 昔から優しい閣下に戦場は似合わない。

 ()()()()()()()()()()を知っている身としては尚更だ。

 それでも人の上に立つ才は誰よりも高いとも思っている。

 きっと閣下が皇帝になれば、俺の願いも叶うかもしれないと淡い期待があるのも事実。

 ならば俺は閣下を脅威から守り続けよう。

 あの優しい笑顔が絶えないように。

 

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