ひきこまり吸血姫の執事   作:神無月 優

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七紅天闘争で書きたいことが多すぎて、これでもだいぶ削っているのですが文字数が多くなりました。
アニメリスペクトも入っているので、原作と少し変わっている点はあると思います。
どこかのタイミングで七紅天闘争のタイトルは変更します(面白みのないタイトルのため)




苛烈な戦場、死屍累々な惨状

 時は少し遡る。

 俺は愛馬であるドゥンスタリオンの背に跨ってフレーテ率いる第三部隊の陣営へと向かっていた。

 軽く背後を見るとコマリ様は第四部隊デルピュネー隊に追われていた。

 理由は七紅天会議の場で起きたデルピュネー毒殺事件。

 その犯人がコマリ様であるという噂が七紅府で出回っていた。

 当の本人は今頃「冤罪だ!」と抗議していることだろう。

 あちらにはコマリ隊やヴィルヘイズ、蛟竜(こうりゅう)──ブーケファロスも付いているのだから問題ないはずだ。

 俺は俺の責務を全うしないとな。

 ふと岩陰から魔力反応を感じた。

 中級光魔法【光撃矢】が不意をついて岩陰の奥からこちらに目掛けて飛んでくる。

 だが俺の自動防御魔法を貫通する威力はない。

 そして──

 

「バカな! たしかに騎獣にも当てたはず!?」

 

 白極連邦産であるドゥンスタリオンは原住民──蒼玉種と同様に鉄壁の肌をもつ。

 並大抵の攻撃では傷一つ付けることはできない。

 隊服を見るに第三部隊の隊員。

 然程人数もいない上、陣営から離れた位置にいることから察するに・・・・・・彼らは偵察部隊か。

 本来偵察に重きを置いているはずの彼らは偶然にも一人(と一頭)でいるところを見かけて、手柄欲しさに手を出したといったところだろう。

 このまま無視して突き進むのも良いが、ポイントも稼いでおきたい。

 

「初めての試みだが・・・・・・やってみるか」

 

 先程受けた中級光魔法【光撃矢】を応用し、魔法弓を一つ生成する。

 そこに矢をセットする。

 その数およそ十。

 

「おい・・・・・・アイツ何するつもりだ?」

「まさかあれだけの矢を同時に放つつもり・・・・・・なのか?」

「まともに飛ぶわけがない・・・・・・よな?」

 

 そのまさかで、俺は光の矢を彼らの頭上目掛けて篠突(しのつ)く雨のように降り注ぐ。

 流鏑馬(やぶさめ)は初めての経験だったが思いの外上手くいった。

 流石に全員には的中せず、半数ほどは生き延びていた。

 残った連中は転移の魔法で姿を消す。

 リタイア──というわけではなく、第三部隊の陣営に戻ったのだろう。

 

「障害は無くなった。先へ進もうかドゥンスタリオン」

 

 俺たちは歩みを進めようとした──その時。

 俺たちの周囲を囲むように水壁が現れる。

 どうやら全員が戻ったわけではなさそうだ。

 

「お前を足止めしておけばすぐに応援が駆けつける。お前だけはここで倒しておかなければいけない!」

「なるほど。第三部隊の連携は見事なものです。うちの隊も見習ってほしいものですね」

「こ、この状況でその余裕は何だ!?」

「余裕──というわけでは無いですよ。冷静に状況を分析しているだけです。ではそろそろ抜け出すとしましょうか。中級氷結魔法【薄氷の羽衣】」

 

 俺が水壁に手を触れるとその壁は氷壁へと変貌する。

 ドゥンスタリオンの手綱を引き、氷壁を破壊。

 その先にいた偵察部隊の残党を轢き殺してミンチにした。

 

 「・・・・・・お見事でしたよ。どうやらあなた方は私の足止めに成功したようです」

 

 眼前には先程とは比にならない人数。

 ざっと二十名ほどの隊員が待ち構えていた。

 

「少尉! 隊の配列完了いたしました!」

「うむ。偵察部隊からの話だとヤツはこちらが使った魔法を模倣してくるそうだ。十分に注意して魔法は放て」

 

 少尉と呼ばれた男は優秀らしく、こちらの出方を窺っている。

 個別に撃破する手もあるが、あまり時間はかけたくない。

 七紅天闘争で相手しなければいけないのは第三部隊だけではなく、同盟を組んでいる部隊も含めれば四つ残っている。

 気力も魔力も温存しておきたいが、出し惜しみもしてられない。

 そんな時こちらの目をじっと見てドゥンスタリオンが(いなな)く。

 

「ああ。そうだよな。せっかく広い場所に出たんだ。存分に走り回りたいよな。お膳立ては俺がしてやる。全力で駆けろ!」

 

 俺は重力魔法【横流廻天】を発動する。

 彼らの側面から重力が迫り、目の前の隊員たちが縦一列に並ぶ。

 

「何だコレはッ!? ぬ、抜け出せない!?」

「少尉! 魔法を放っても横に飛んでいきます!」

「相手の魔法をコピーするだけ・・・・・・ではないのか?」

 

 動けなくなった敵目掛けてドゥンスタリオンは光となって疾走する。

 全力で駆け抜け通った後の地面は焼き焦げ、第三部隊の隊員たちは肉片を殆ど残さず死んでいた。

 

「これで第七部隊は三十ポイントほど獲得したわけだが、これ以上相手にするのは無謀だろうか。でも・・・・・・このままフレーテと戦わずに帰れば第七部隊の連中が暴走しかねないからなあ」

 

 乗り気ではなかったがそのまま歩みを進める。

 ある程度進んだ先で複数の魔力反応を感じ取った。

 そして──目の前の地面にも微かに魔力を感じる。

 フレーテからの指示で騎獣対策として地雷系の魔法を設置しているのだろう。

 

「ドゥンスタリオン。ここまでありがとう。先に帰っていてくれ」

 

 転移の魔法石を使ってドゥンスタリオンを七紅府近くの厩舎小屋へ帰す。

 目の前に向き合うとご丁寧なことに魔法の設置範囲はかなり広そうで、回り込んで進むのは手間がかかりそうだ。

 慣れていない飛行魔法を使えば狙撃部隊の餌食となる。

 どうしたものかと頭を悩ませていると敵を一網打尽にする方法を思いついた。

 

「そのためには──」

 

 躊躇うことなく歩みを進める。

 遠くで魔法に気づいていないと思っている俺を見てほくそ笑んでいる第三部隊隊員の姿が思い浮かぶ。

 ある地点に足を踏み入れた瞬間──ドオオオオオオオオォォォンッ!と派手な音が辺りに鳴り響く。

 一つが爆発すれば次が、そのまた次が。

 設置されていた爆発魔法が次々と誘爆して、爆発の帯が出現する。

 爆発が収まると辺りに砂塵が舞う。

 隠れ潜んでいた第三部隊の隊員たちは死亡確認を行おうと爆心地に恐る恐る近づく。

 隊員の一人が風魔法を発動し、砂煙が消える。

 

「・・・・・・死体が見当たらないぞ」

「肉片も残さず塵になったんじゃないですか? 見てくださいよ中尉。このありさまを。この爆発で生き残れるはずありませんよ」

「油断するな。なぜ一人相手にこれだけの人数が駆り出されているのかを思い出せ。確実に死んだことを確認するまでは気を抜くなよ」

 

 中尉と呼ばれた男の発言の後に宙でパチパチと拍手音が鳴った──いや鳴らした。

 第三部隊隊員たちは頭上を見上げた。

 

「貴様・・・・・・やはり生きていたか」

「油断してくれるような方々でしたらもっと楽に行動できたのですが。よく教育が行き届いていますね」

「あれだけの爆発の中でなぜ五体満足でいられた!?」

「一度たりとも設置された魔法を私は踏み抜いていないからです」

「そんなはずはない! 我々は間抜けにも貴様が罠に気づかず爆発に巻き込まれた姿を目撃している!」

「ああ。それは私が作り出した土塊の人形ですね。中級造形魔法【マッドクリエイション】。さらに遠隔で人形を操作して爆発を引き起こし、あなた方がその爆発で視線が釘付けになっている隙に私は飛行魔法で宙に避難していたのです」

 

 ネタバラシをしたところで、造形魔法【マッドウォール】を発動する。

 巨大な土壁が第三部隊隊員を囲む。

 

「さてあなた方には特別に選ばせてあげましょう。ここで悲惨な死を迎えるか、それとも転移魔法で棄権をするか」

「我々はフレーテ様に忠誠を誓っている。敵の甘言に乗せられる愚か者は一人もいない」

「中尉の言う通りだ! 死ぬならお前を道連れにして死んでやる!」

「今日は何度か第三部隊の方々とお話しましたが、誰も彼もが軍人としての誇りを持っていました。素直に尊敬しますよ」

 

 俺は上級魔法【魔界の扉】でとある紙袋を取り出して、彼らの頭上に振りかける。

 

「な、なんだコレは!?」

「人体には無害なただの小麦粉ですよ」

 

 二十袋分の小麦粉をかけ終えた後、造形魔法【マッドウォール】で完全に封をする。

 外からは円柱状に見えるドーム。

 そして彼らの足元には魔法が設置してあった。

 発動する魔法は風魔法と火炎魔法。

 俺はその場を離れると設置してある魔法を起動した。

 円柱のドームが熱を帯びて膨らみ轟音を立てて大爆発を引き起こす。

 粉塵爆発──風魔法で宙に舞った可燃性である小麦粉に火炎魔法が引火し爆発を起こした。

 魔力反応で生存者を確認したが、閉じ込められていた全員が爆撃に巻き込まれて死亡していた。

 あるいは一酸化炭素中毒だろうか。

 これで半数以上は撃破したことになる。

 残り半数、そして七紅天大将軍を相手取らなければならないと思うと憂鬱になる。

 各地の戦局が気になるところだ。

 

  ⭐︎

 

 ──絶対に勝たなきゃ。

 サクナ・メモワールは意志に燃えている。

 逆さ月の支部長からの脅迫によって燃え上がる、後向きで消極的な(くら)い意志だった。

 

「サクナ様! 戦況を報告いたします! 第二部隊ヘブン隊と第五部隊メタル隊が古城西門にて交戦中。第三部隊マスカレール隊と第七部隊ガンデスブラッド隊も古城北門にて交戦中! さらには第四部隊デルピュネー隊もガンデスブラッド将軍を狙っています!」

「テラコマリさんが・・・・・・?」

「第四部隊に応戦しているのは彼女の部下三十名のみで、ガンデスブラッド将軍は古戦場東方面にてデルピュネー将軍一騎打ちを繰り広げているそうです!」

「それじゃあ・・・・・・フレーテさんの部隊は誰が相手をしているの?」

「それが・・・・・・第七部隊の執事服を着た隊員が単騎で応戦しているようです。囮を使った陽動作戦かとも思いましたが、すでに第五部隊の半数が撃退されています」

 

 サクナは感嘆の吐息を漏らしてしまった。

 部下とは別行動をしてそれぞれ別の隊を狙う──そんな並外れた芸当、自分にはできるとは思えなかった。

 テラコマリ・ガンデスブラッドは尋常の七紅天ではない。

 同時にアルクも並の吸血鬼ではなかった。

 一人で一部隊を相手取るなんて普通はできない。

 数の暴力をものともしない圧倒的な力があってこそだろう。

 どうしよう、とサクナは悩む。

 現在、サクナの第六部隊のみが取り残されているらしい。

 迷ったサクナは連絡を取ることにした。

 魔鉱石はすぐに応答した。

 サクナは震える声で指示を(あお)ぐ。

 

「すみません。私は、どうすればいいでしょうか」

『やかましい!』

 

 急に怒鳴られてサクナは身を(すく)ませてしまった。

 

『それどころではない! 自分で考えろ! ええいあの男、小癪な・・・・・・! おい何をやっている、そんなところ──』

 

 忙しそうだったので、サクナは通信を切る。

 やり取りを聞いていた部下は困惑したように口を開いた。

 

「あの・・・・・・通話の相手はどちらでしょう? 我々はテラコマリ・ガンデスブラッドと同盟を組んでいるのでは・・・・・・?」

「──そうだね。でも、そんなことはどうでもいいでしょ?」

 

 サクナの右目が紅く光った。

 そうして部下たちの表情が消え、壊れた絡繰り人形のように棒立ちになり、「失礼しました」と声をそろえて謝罪する。

 (はた)から見れば異様な光景であろう。

 

「・・・・・・テラコマリさんの助けにならなくちゃ。そのためには──」

 

 そこでふとある言葉がサクナの頭に思い浮かんだ。

 

 ──私は魔核に登録されていませんから。

 

 たった一人で第三部隊と対峙する執事(アルク)は、二度と復活できない。

 すでに半数を倒しているとはいえ、さすがに七紅天であるフレーテを相手にして生き残れる保証はない。

 どの道テラコマリの戦いを邪魔する可能性があるなら、その障害は取り除かなければならない。

 つまり──狙うはフレーテ・マスカレールである。

 殺せるかわからない。

 でも殺さなきゃ。

 サクナは深呼吸をしてから盲目的な兵士たちに命令をした。

 

「──標的はフレーテ・マスカレール。捕まえて私の前に差し出せ」

 

 ⭐︎

 

『──標的はフレーテ・マスカレール。捕まえて私の前に差し出せ』

 

 ムルナイト宮殿、皇帝の間。

 部屋の中央に設置されたテーブルの上には水晶玉が転がっている。

 そしてその水晶玉の表面には特殊な遠視魔法によって核領域の戦況がリアルタイムで映し出されていた。

 ムルナイト帝国皇帝カレン・エルヴェシアスは、それを見ながらニヤリと笑う。

 

「──見たかアルマン、サクナ・メモワールのこれは間違いなく烈核解放だぞ」

「見ればわかります! 一刻も早く彼女を捕縛しましょう!」

 

 大声で皇帝に進言したのは帝国宰相アルマン・ガンデスブラッドである。

 カレンは「ふん」と鼻で笑ってアルマンを流し見た。

 

「捕まえるといってもどうするのかね。今は七紅天闘争の最中だぞ?」

「中止させればいい。このままだとコマリに危害が及びます」

「まあ待て。今ここで介入してもトカゲの尻尾しか手に入らん」

「まさか・・・・・・サクナ・メモワールの裏で手を引くものがいると?」

「その通り。朕はあの子が政府高官連続殺人事件の犯人であることをすでに知っていた。あの精神操作系の烈核解放で殺した相手を洗脳していることもな」

「だったら! なぜ陛下は行動を起こさないのです!?」

「まだ動くときではない。そもそも朕の出る幕はないよ。なぜならあの場にはコマリがいるのだからね」

「また・・・・・・コマリに何かさせるおつもりですか?」

「朕がさせるのではない。運命がそうなるように律動しているのさ」

 

 無駄に気取った台詞を吐きやがってこのババア──と思ったがアルマンは押し黙る。

 喧嘩を売ったらボコボコにされるのはアルマンのほうと昔から決まっていた。

 

「・・・・・・そもそも、なぜサクナ・メモワールを七紅天に任命なさったのですか? 彼女の経歴を調べてみましたが、七紅天に相応しいほどの功績をあげたとは思えません」

「理由は六つある」

「ありすぎです」

「一つ目の理由は久方ぶりにスカッとする下剋上だったから。二つ目はヘルデウスに推薦されたから。三つ目はサクナの容姿が優れているから。そして四つ目は──コマリの友達になってくれそうだったから」

「は?」

「二人は趣味も性格も似ている。そのうえ境遇すらも同じにしてしまえばこれはもう友達になるしかないだろう」

「そ、それは・・・・・・」

「あの子には同年代の友人が必要なのさ。ヴィルヘイズは友人という側面よりも主従の関係性が強いしな」

 

 何も言えなかった。

 コマリのためと言われては強く反論できない。

 しかしアルマンは無理にでも反論する。

 

「テロリストを友達にするなど言語道断です」

「テロリストだからこそ、だよ。サクナを七紅天にした五つ目の理由は彼女が逆さ月の一員だからだ。そして六つ目は彼女が烈核解放をもっているから。あの子を味方に引き入れれば逆さ月の情報が手に入る。これは法外の利益だと思わないかね?」

「逆さ月の一員を懐柔できるとは思えない」

 

 カレンは腕を組んで天井を見上げた。

 

「サクナを我々の味方にするには一つの障害を取り除くだけでいい。あの内向的な少女が自発的に殺人などするはずもない──あの子を操っている誰かを見つけ出す必要がある」

 

 アルマンは開いた口が塞がらない。

 せめて帝国宰相である自分には予め情報を共有しておいてほしいものだとアルマンは思う。

 

「ではその〝操っている者〟がどこかにいるということでしょうか?」

「そうなるな。しかもあの戦場にいる」

「では・・・・・・それまで彼女を泳がせると」

「ああ──どいつが怪しいと思う?」

「ヘルデウス・ヘブンではないですか? あの男はサクナ・メモワールがいた孤児院の運営者ですし、何より彼女を七紅天に推薦している」

「一理あるな──お、」

 

 カレンは目を輝かせて水晶玉に顔を近づけた。

 

「見ろアルマン! コマリがデルピュネーに襲われているぞ!」

「なんだって!?」

 

 アルマンは慌てふためき水晶を覗き込んだ。

 その隣でカレンがニヤニヤと笑みを浮かべている。

 何が面白いのか微塵も理解できないアルマンだった。

 

⭐︎

 

 七紅天大将軍テラコマリ・ガンデスブラッドとそのメイドであるヴィルヘイズは、白色の蛟竜(こうりゅう)──ブーケファロスの背に(またが)り、追撃者からの攻撃を回避しつつ紅玉のある古城へと向かっていた。

 追跡者は同じく七紅天大将軍である第四部隊隊長デルピュネー。

 普段から仮面を着けている彼女は、その仮面の奥から復讐心と殺意を覗かせていた。

 理由は七紅天会議でデルピュネーが殺害された件にある。

 誰もが七紅天闘争の準備で忙しく有耶無耶にしていたのだが、テラコマリがデルピュネーを毒殺した噂は軍部内で広がっている。

 当然蘇生したデルピュネーはその噂を耳にし、七紅天闘争の場で自分を死に追いやったテラコマリ・ガンデスブラッドを直接この手で殺してやろうと躍起になっていた。

 

「いたぞ! テラコマリ・ガンデスブラッドだ!」

「死ね!」

「よくもデルピュネー様を殺してくれたな!」

「七紅天の恥さらしめがッ!」

 

 第四部隊デルピュネー隊の軍勢はその全員が不気味な仮面を装着している。

 どう見ても不審者集団なのだが、その誰もが獲物を狙う獰猛な肉食獣のような勢いで第七部隊へと襲いかかってくる。

 

「閣下! ここは我々にお任せください!」

「ベリウスの言うとおりです。ここは私たちに任せて、閣下は紅玉の元へ向かってください」

「ベリウス・・・・・・カオステル・・・・・・」

 

 ベリウスとカオステルに続くようにコマリ隊の面々は興奮気味に雄叫びを上げる。

 

「あんな仮面ども蹴散らしてやりますよ!」

「アルクだけにいい顔させられないからな。閣下、是非俺の勇姿を目に焼き付けてください」

「あっ、ズルいぞ! 閣下、俺は敵をたくさんぶち殺してやつらの首を差出しますので!」

「何だテメェ! 抜け駆けは許さねえぞ!」

「こうなったら敵をたくさん殺したやつが勝ちってのはどうだ!」

「望むところだ!」

 

 さすがは身内どうしでの殺し合いで生き残った精鋭だけあるのか、第四部隊の猛者どもを次々と撃破していくコマリ隊の隊員たち。

 今やつらの頭にあるのは誰が一番多くの敵を屠れるか、それのみである。

 テラコマリは頭を抱えたが、こういう時には頼りになると思った。

 ヴィルヘイズが手綱を引きブーケファロスが風となった瞬間。

 テラコマリの背後から巨大な魔力反応が一つ。

 第四部隊と第七部隊の乱戦から抜け出し、猛スピードで駆けてくる吸血鬼が一人。

 異国風の仮面。

 準一位を表す〝望月の紋〟があしらわれた軍服。

 七紅天・デルピュネー。

 ブーケファロスのスピードに生身で追いついてくるという化け物じみた脚力である。

 

「な、なんか来てるよヴィル!」

「わかっています──しかしこれ以上速度をあげることはできません」

「──逃がすものか」

 

 デルピュネーの高い女声がした。

 魔力が膨れ上がり、地に手を翳したデルピュネーはブーケファロスの前方に巨大な壁を出現させる。

 造形魔法【マッドウォール】である。

 行く手を阻まれたブーケファロスはその場に急停止する。

 慣性の法則に従ってテラコマリの身体は落馬、あわや壁に激突するんじゃないかというギリギリのところでヴィルヘイズが抱き止める。

 テラコマリが辺りを見渡すと、前方百八十度が高い壁で塞がれている。

 

「まずいですね」

 

 ヴィルヘイズの白い首に一筋の汗が流れていた。

 テラコマリはデルピュネーの方へ視線を向ける。

 デルピュネーはじっとテラコマリの方を見つめてたたずんでいた。

 

「──ガンデスブラッド。私を殺したのはお前か」

「わ、私じゃない! たぶん食中毒か何かで死んだんだ!」

「お前からは嘘をついている香りがする。それも一度や二度の嘘ではない、人生すべてが嘘で塗り固められている。フレーテが毛嫌いするのもよくわかる。どこを見ても嘘。嘘。嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘」

 

 デルピュネーは懐からナイフを取り出して、切っ先を躊躇なく己の左手に突き立てた。

 

「特級凝血魔法【アルティメット・屍山血河(しざんけつが)】」

 

 腕から噴水のように飛び散った血液が上空へと昇っていく。

 デルピュネーの頭上に形作られたのは波打つ血液の川。

 

「コマリ様、逃げますよ」

「え、おい──」

 

 ヴィルヘイズに腕を引かれてテラコマリは走り出す。

 次の瞬間、デルピュネーの血河から高速で何かが射出された。

 テラコマリのすぐ背後の壁に突き刺さったそれは──凝固した血液のナイフ。

 標的が辛うじて回避したと見るや、今度は雨あられのようにナイフを射出する。

 

「いッ、」

 

 突然テラコマリに焼けるような痛みが走った。

 手首にナイフが掠っていて薄皮が裂けており、じんわりと赤い血が浮かんでくる。

 

「あの変態仮面・・・・・・よくもコマリ様の柔肌を!」

 

 ヴィルヘイズが走りながらクナイを投擲する。

 しかし向こうから飛んできた血のナイフに阻まれ地面には墜落、お返しと言わんばかりに全方位から大量のナイフが飛んでくる。

 ヴィルヘイズは両手に構えたクナイを巧みに駆使して飛んでくるナイフを器用に弾いていく。

 物量が多いのにもかかわらず一つ一つ的確に対処していたのだが、運悪く弾き漏らしたナイフが一つ脇腹に突き刺さってしまった。

 ヴィルヘイズは苦悶の表情を浮かべてその場に膝をつく。

 

「・・・・・・コマリ様、逃げてください」

「お前を置いていけるわけないだろ! よくもヴィルに怪我を負わせてくれたな! だいたいお前は卑怯なんだよ! 遠くから飛び道具を飛ばすだけじゃないか!」

 

 デルピュネーは呆れたように息を吐いて言った。

 

「挑発など私には効かない。だが〝卑怯者〟と罵られるのは心外だ。覚悟しろこのクソ生意気なクソザコ小娘が」

 

 デルピュネーは血河に膨大な魔力を注いでいく。

 デルピュネーが指を動かした。

 

「死ね」

 

 次の瞬間、巨大な血の塊が降ってきた。

 同時に後方から風のような速度で何かが近づいてくる気配。

 ヴィルヘイズは九死に一生を得たような顔で叫んだ。

 

「ブーケファロス!」

「え? ──ぐえッ」

 

 ヴィルヘイズにいきなり首根っこを掴まれてカエルのような声を出してしまうテラコマリ。

 二人はブーケファロスの背に腰かける。

 虹色の蛟竜は力強く地を蹴って疾走を始める。

 

「──逃すかガンデスブラッドッ!」

「しっかり掴まっていてくださいコマリ様」

 

 ブーケファロスが大ジャンプをして顔面を壁に激突。

 そのまま土の壁をぶち破って反対側に突き抜けた。

 

「・・・・・・・・・・・・大丈夫なのか? ブーケファロス」

「大丈夫です。紅竜の鱗は鉄製の剣をも弾きますから──きゃう!?」

 

 ヴィルヘイズが珍しくも女の子らしい悲鳴をあげたのを揶揄う余裕はテラコマリにはなかった。

 ブーケファロスは大跳躍を繰り返し、軽やかな身ごなしで屋根から屋根へとジャンプで移動しながら古城へと驀進を始めるのであった。

 その際に火柱のようなものが遠くで見えたが見間違いだろう、とテラコマリは思った。

 

「すごいぞブーケファロス・・・・・・!」

「まったくです・・・・・・! シチューの具にするのが惜しいくらいです!」

「具になんかしないからな!」

 

 その時、ひゅん、とテラコマリの真横を真っ赤な刃物が通り過ぎていった。

 途方もない絶望を感じながら振り返る。

 変態仮面がブーケファロスと同じように屋根を伝いながら追跡してきていた。

 テラコマリは顔面蒼白になって叫んだ。

 

「あいつ人間じゃねえ!!」

「コマリ様見えてきましたよ。ヘルデウス・ヘブンとオディロン・メタルの隊です。あそこを突っ切って一気に城まで突撃しましょう」

 

 いつの間に古城の西門にまで来ており、その西門では第二部隊と第五部隊が激しい戦いを繰り広げていた。

 どすんっ!とブーケファロスが大地に着地する。

 テラコマリの口内には激痛が走り、涙をこぼす。

 

「い〜ら〜い〜っ! しらかんらぁ〜っ! 絶対口内炎になる〜っ!」

「あとで私が舐めてあげるので我慢してください! さあブーケファロス、ラストスパートです!」

 

 ブーケファロスは高く嘶いて本当にスパートをかけた。

 

「おおっ!! ガンデスブラッド殿ではないですか!!」

 

 ヘルデウスが気づいて、敵兵の顔面を素手でトマトにしながら嬉しそうに笑う。

 祭服姿の第二部隊ヘブン隊の面々もテラコマリの登場に大騒ぎ。

 

「ガンデスブラッドだと!? おい貴様ら、やつをひっ捕えろ!!」

 

 オディロン・メタルが素手で敵兵をザクロにしながら叫んだ。

 第五部隊メタル隊の連中が血走った目でテラコマリたちのほうへ向かってくる。完全に挟み撃ちだった。

 

「もうだめだよヴィル・・・・・・一緒に降伏しようよ・・・・・・」

「弱気になっては駄目ですコマリ様! 私にお任せください!」

 

 ヴィルヘイズは懐から紫色の小さな玉を取り出して、それをぎゅっと握りしめると、メタル隊の吸血鬼どもに向かって容赦なく投擲した。

 次の瞬間、ぼわんっ!と玉が爆発して毒々しい色の煙が辺りに蔓延する。

 煙を吸った者たちが断末魔の叫びとともにバタバタと倒れていく。

 

「おまっ、これ毒じゃん! 私たちも死んじゃうだろ!」

「ご安心を。男だけを殺す毒ガスです」

「そんな毒あるの?」

 

 騎獣に効かないらしく、ブーケファロスは少しもスピードを緩めることなく、ぐちゃぐちゃと何かを潰しながら毒の煙幕を切り抜けた。

 

「コマリ様! ここから先は騎獣を使えません。徒歩で行きますよ」

「え? わっ、」

 

 ブーケファロスを転移の魔法石で厩舎小屋へと帰し、ヴィルヘイズはテラコマリをお姫様抱っこして先へ進もうとした。

 その直後に遠方から「させるかッ!」とオディロン・メタルが上級火炎魔法【爆真炎】を発動。

 その爆風に二人の身体は古城内部へ吹き飛ばされる。

 幸い直撃はなかったがヴィルヘイズの呼吸が荒い。

 脇腹はデルピュネーに抉れたままで、表情は苦悶に満ちていた。

 

「ヴィル! もう休んでろ、私一人で行くよ!」

 

 テラコマリが立ち上がった瞬間、足元に複数の紅いナイフが突き刺さる。

 

「絶対に逃がさん。特級凝血魔法【インフィニット鮮血淋漓(せんけつりんり)】ッ!!」

 

 デルピュネーはまたしても頭上に血の塊を出現させる。

 

「くそ、どうしたらいいんだ・・・・・・!」

「私は大丈夫です。コマリ様はお逃げください」

「ばかぁーっ! そんな自己犠牲はいらないよっ! お前も一緒に逃げ──」

「そうはさせない」

 

 濃密な殺気。

 デルピュネーが地でできた大剣を力強く放り投げた。

 まるで矢のような速度で飛んでくる真っ赤な刃。

 

「上級魔法石・【超新星爆発】」

 

 ヴィルヘイズが懐から輝く石を取り出して投げつけた。

 石は大剣と空中で激突し、すさまじい爆発を起こす。

 デルピュネーの魔法が打ち消されて、凝固した血液がまたたく間にもとの血液へと戻っていく。

 テラコマリは呆然と中空を見上げるばかりで身動きすることもかなわず、そのままおびただしい量の血を頭からかぶってしまう。

 そうして世界が紅色に染まった。

 




「僭越ながらメイドのヴィルヘイズが次回予告をさせていただきます」

『お願いです。死なないでくださいアルク大尉。あなたが今ここで倒れたらコマリ様や私、第七部隊の方々との約束はどうなるのですか? まだライフは残っています。ここを耐えれば生き延びられるはずですから。次回アルク死す? デュエルスタンバイ、です』
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