「…… …… …… …… …… …… …… ……▼」
第八回七紅天闘争 結果発表
※紅玉が破壊されたのでポイントにより順位を決定する。
優勝者 テラコマリ・ガンデスブラッド・・・・・獲得ポイント 523
第二位 ヘルデウス・ヘヴン・・・・・・・・・・・・・・・獲得ポイント 32
第三位 サクナ・メモワール・・・・・・・・・・・・・・・獲得ポイント 18
第四位 フレーテ・マスカレール・・・・・・・・・・・獲得ポイント 0
第四位 デルピュネー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・獲得ポイント 0
失格 オディロン・メタル
六国新聞 7月2日 朝刊
『七紅天闘争 大荒れ
【帝都──メルカ・ティアーノ】ムルナイト帝国七紅天による一大興行「七紅天闘争」が1日、核領域メトリオ州にて開催された。結果は以下の通り(表1参照)。闘争序盤からテラコマリ・ガンデスブラッド大将軍の執事が単騎で第三部隊へ奇襲を仕掛け、大将軍閣下自身も爆発魔法を古城へ炸裂させて観客を大いに沸かせた。……(中略)……闘争終盤、オディロン・メタル大将軍自らが「逆さ月の構成員である」と宣言。ガンデスブラッド大将軍はこれを捕縛するために身を粉にして奮闘した。……(中略)……敗色濃厚を悟り
⭐︎
「まったく爽快だわ。オディロン・メタルは前から気に入らなかったのよね。それにこそこそと何か企てようとしていたのは知っていたし。あの無駄にデカい図体でバレないとでも思ったのかしら」
そう言ってカップのホットチョコレートを啜るのは、第六部隊の元七紅天大将軍──メイジー・ベリーチェイス。
前回同様コマリ様がまだ起床しない早朝にガンデスブラッド邸を訪ねてきた。
ヴィルヘイズは付きっきりでコマリ様の看病をすると聞かなく、俺が客人の相手をすることになった。
「今日はどのような要件でお越しになられたのですか?」
「あら? いつでも来ていいって言ったのはあなたよ」
「言いましたが……まさかホットチョコレートを飲みに来ただけ──とは言いませんよね?」
「まあそれも期待していたけれど──あなたにお礼を言いに来たの」
「お礼……ですか?」
俺がそう尋ねると、ゴスロリ風の軍服を着た少女は頭を下げて言った。
「私のお願いを聞いてくれて、あの子を気にかけてくれてありがとう。私にはどうすることもできなかったから」
〝あの子〟というのはサクナ・メモワールのことだろう。
それほど親交は無かったと聞いているが、元とはいえ部下思いなところもあったのだろうか。
「私は何も……」
「そんなことないわ。あなたのおかげでサクナにいい変化が見られた。操られていた部下たちはともかくとして、あの子自身は七紅天闘争で誰も殺さなかったのよ? 病院に転移させられたフレーテ・マスカレールもそのことは不思議がっていたわ。それと、今回の七紅天闘争の結果に納得いかないって、フレーテが頬を膨らませていたのは見ていて滑稽だったわ」
真面目な表情を一転させ、人を嘲るようなニヤついた笑みを浮かべる。
「あなたとテラコマリ閣下には感謝しているの。だからしてほしいことがあったら何でも言ってちょうだい。ただし卑猥なことはダメよ。そういうのはちゃんとお付き合いをして段階を踏んでからすることなんだから」
「そんな要求しませんから! あと意外に
「あらぁ? それはどういう意味かしらぁ? 私が恋愛慣れしていないのがそんなにもおかしい? 前にも言ったけど、あんまりおちょくっているとチョコにして食べちゃうぞ⭐︎」
「すみません……失言でした」
ベリーチェイスの声色や表情は変わらず明るいのだが、目が笑っていなかった。
何なら一瞬殺意すら感じた。
⭐︎
「行ってくるね、コマリお姉ちゃ────────ううん。テラコマリさん」
サクナ・メモワールは自室にある等身大のテラコマリ人形に声をかけてから家を出る。
テラコマリのもとへお見舞いに行くのだ。
これからサクナは一生をかけて贖罪をしなければならない。
なのに皇帝陛下は「情状酌量の余地あり」と強く糾弾するつもりはないらしい。
だがそれではサクナの気が済まなかった。
昨日、サクナは一日がかりで第六部隊の隊員を殺し直し(ものすごく嫌な作業だった)、再び記憶を操作して洗脳を完全に解いた。
彼らは意外にも「気にするな。お前が強いことがわかったから十分だ」と言ってくれたが、気にするに決まっている。
今後の彼らへの接し方を考えていると七紅天をやめたくなる。
鬱屈して歩いていると、ふと見知った黒服が目に入り足を止める。
ヘルデウス・ヘブン。
買い物帰りなのか果物の入った紙袋を抱えており、こちらに向かって歩いてくる。
彼の記憶はまだ修復していなかったことを思い出す。
「おや、サクナじゃないか。お出かけかい?」
「……うん、そうだよ。お父さんは何をしてるの?」
「買い物さ。今日は安息日だから。──どうだい、一緒に街を歩かないか」
笑みを浮かべるヘルデウスを見ると罪悪感で胸を締めつけられる。
彼のことを「お父さん」と呼ぶのに相当な精神力を必要とした。
この場で記憶を戻してしまおう。
なるべく人通りの少ないところに誘導して、そしてそれから──いつものように心臓を貫いてしまえばいい。
その後でたっぷりごめんなさいを言おう。
それで許してもらえるとは思えないけど、そうしないと新しい一歩を踏み出せないから。
「うん。お父さん、ちょっとあっちのお店の裏に行こうよ」
サクナは彼の手を引いて歩き出す。
しかし意外にもヘルデウスはその場に踏み止まった。
「──その必要はないですな!」
びくりとして振り返る。
黒服神父はお父さんの仮面を脱ぎ捨て、七紅天に相応しい面立ちでこちらを見つめる。
「私を殺しても意味はありませんぞメモワール殿! 当方もとからヘルデウス・ヘブン。神父ではありますが、あなたの本当のお父さんではありません」
「な、……」
サクナは驚愕し、震える唇を
「いつ、から……?」
「最初からです」
「烈核解放が、効かないの……?」
「はっはっは。数年前に教会の物置であなたに殺されたときは死ぬかと思いましたが、しかしこれでも七紅天大将軍。精度の低い烈核解放では支配しきれませんよ」
最初からお父さんのフリをしていたという事実にサクナは愕然とした。
ヘルデウスは申し訳なさそうに笑う。
「あなたが私を殺した真意を知ったとき、この子のためなら父親にでも何でもなってやろう、そう思ってしまいました」
「どうして……」
「これは隠しておこうかと思ったのですが。あなたの父親は、私の親友だったのです」
驚きが駆け抜けた。
サクナは思わずヘルデウスの顔を見上げる。
「まったく奇特な方でした。彼とは神聖教の学院でいっしょに学んだ仲でしてね。私のような変わり種は他人から排斥されるのが常なのですが、あの男だけはこんな阿呆にも分け隔てなく接してくれました。私は彼から神聖教の平等心を学んだのです」
お父さんは昔から変わらず優しかったんだ。
「あなたはに〝精神の形質〟よって家族にするべき人を選んでいたようですが、私が選ばれた理由はおそらく、あなたの本当の父親と一緒に神の道を目指したからでしょうね」
ヘルデウスはお父さんに似ている。
その夜空のような優しさが──
「……だからこそ、メモワール一家が何者かに惨殺されたと知ったとき、私は是が非でも復讐してやろうと決意したのです」
「ちょっと待ってよ……! わからない、本当にわからない……あなたは、私が逆さ月だってことを知っていたの? 人を殺していたのに、どうして私を引き取ったの……?」
「本当なら放っておくべきではなかったのかもしれない。私がすぐにでもオディロン・メタルを殺してあなたをお救いするべきだったのかもしれない──でもそうしてはいけなかった。なぜなら、あなたは最初から自分で逆さ月に復讐するつもりだったからだ」
どきりとした。
そんなつもりはなかった──とは言い切れない。
「神とは逆境を跳ねのけようとする心に宿るもの。あなたが自分の意志で苦難を乗り越えることを望んでいるならば、私が出しゃばってオディロン・メタルを殺しても意味はない。この復讐はあなた自身のものなのですから。だから、せめて父親として心の支えくらいにはなってあげようと思ったのですが……これはやはり思い上がりですな」
サクナは思わず拳を握りしめる。
この優しい人に、こんなにも気を使わせてしまっていたのか。
「なんで……なんで笑っていられるの。私はあなたを殺したのに……おかしいよ」
「でしょうな。昔から『お前は頭がおかしい』と言われて育ちましたゆえ」
ヘルデウスは天を見上げて言う。
「──さて、あなたは私に構っている場合ではありません。行くべきところがあるのでしょう?」
「え?」
「あなたに復讐を遂げる心意気があろうと、苦痛ばかりが続けば心が萎んでしまう。そして偽の父親である私にはあなたを癒すことができなかった。──すべて、あの深紅の吸血姫と、その執事のおかげですね」
「どういう、こと……?」
「あなたに七紅天を偶然爆殺させるのは、なかなか骨が折れました」
思えば、サクナのことを強く七紅天に推薦したのは彼だった。
そのおかげでサクナはあの吸血姫と出会うことができ、執事となっていた少年と再会し、そして──
ヘルデウスは心なしか、少しだけ寂しそうな顔をして言った。
「よき友ができて良かったですね。あなたの味方になってくれる人は、あの吸血姫を始め、いくらでもいます。それでも辛くなったら言ってください。お父さんをリベンジさせて頂くとしましょうか」
「ううん。必要ない。ありがとうございます、……ヘルデウスさん」
神父の柔らかい眼差しを背に感じながら、テラコマリのいるであろう場所へ足早に駆けていく。
意外にもサクナのことを思ってくれる人は身近に存在していた。
それが、どうしようもなく嬉しかった。
⭐︎
「コマリ様、あーん」
「い、いいよ。自分で食べるよ」
「だめです。コマリ様は大怪我をしたのです。メイドの私には看病する義務があります」
「怪我はアルクに治してもらったから大丈夫だよ! それにお前だって怪我してただろ! 看病されるわけにはいかないから!」
「では私に『あーん』してください。口移しでもいいです」
「自分で食え! 私も自分で食う!」
テラコマリはメイドのヴィルヘイズの手からりんごの刺さったフォークを奪い取ると、ぱくりと口に含んでもぐもぐ
七紅天闘争の二日後。
アルクの回復魔法で怪我は完治したテラコマリだったが、全身の魔力がごっそり失われるという謎の異常に陥り、自宅療養を余儀なくされた。
魔法の専門家によれば完全回復まで一週間近くかかるらしいが、魔力のことを除けば快調である。
つまり合法的に引きこもれる──のだが、テラコマリの自室に入り浸る変態メイドのせいで希代の賢者らしく読書や崇高な思索に耽る暇がない。
そんなことを考えているとコンコンと扉を叩く音がした。
それに返事すると、黒服の執事が入室する。
「コマリ様、お身体の具合はどうですか」
「もう平気だよ。怪我も完治して、完全復活パーフェクトコマリってところだな!」
「何を言っているのですか、コマリ様。烈核解放を発動したのですから、しばらく安静にして様子をみておかないと」
「ヴィル、またそれかよ……」
テラコマリは呆れたように溜息を吐く。
七紅天闘争で【
オディロンの件やゲラ=アルカ共和国にあった逆さ月のアジトが消し飛んだ件も、すべてテラコマリのおかげだと周囲が騒ぐ。
「コマリ様に無理をさせてしまったのは私の責任です。あんな変態仮面に後れを取るなど一生の不覚です」
「気にしてないよ。ヴィルがいなきゃ、その変態仮面にやられてたわけだし」
「できることならオディロン・メタルも私が仕留めてやりたかったです」
「戦ったとしても敵いませんよ。やつは腐っても七紅天ですから」
「そういえばアルク大尉はオディロンに負けたのでしたね。悔しいですか?」
「言い訳するつもりはありませんが、魔力が少しでも回復していれば勝てない相手ではありませんでした」
「それを世間では負け惜しみというのですよ」
ヴィルヘイズとアルクが言い合っている中、テラコマリは表情を暗くする。
それに気づいたアルクはテラコマリの方を見やる。
「コマリ様、どうかされましたか?」
「……フレーテに、聞いたんだ。お前が……私のせいで死にかけたって。──それって本当なのか……?」
泣き出しそうだった。
普段自分を守ってくれる大切な部下を自らの手で傷つけてしまったのではないかという不安で胸が押しつぶされそうだった。
そんなテラコマリの様子を見て悟ったアルクは優しい口調で語りかける。
「実は…………突如隕石が降ってきまして、それを防ぐために死力を尽くしたのです。フレーテ様は異なる事実をコマリ様に伝えることで動揺を誘ったのでしょう」
嘘だ。
だってそれはテラコマリが普段都合の良い解釈をするときに使う常套手段。
つまりフレーテが言っていたことは少なからず事実を含んでいるということだろう。
それをテラコマリに悟られないように普段通り接してくれているのだ。
ならばその優しさを汲みとってやらなければ、むしろ彼に失礼だろう。
「そ、そうだったのか。ともかくありがとう。今回も色々と助かったよ」
「いえ、当然のことをしたまでですよ」
ヴィルヘイズは暗い雰囲気を感じ取り、それを変えるべく話題を変える。
「ところでコマリ様。七紅天闘争で見事優勝されたコマリ様に皇帝陛下から褒賞が与えられるそうですよ」
「何がもらえるのかな。お菓子一年ぶんとか?」
「二週間の休暇です」
「……は?」
「テロリストの捕縛で一週間の休暇。捕縛というよりサクナ・メモワールの改心ですがね。そして七紅天闘争の優勝によってさらに一週間の休暇。これでしばらく休めますね」
「な──なんだってええええええええええええええええ!?」
テラコマリは思わずベッドの上に立ち上がる。
二週間の休暇は、正直お金を一億もらうより百倍嬉しかった。
つまりこれは百億メルの褒賞ともいえるだろう。
「おめでとうございます。これで夏休みですね」
「やったあ! 思う存分引きこもるぞ!」
「せっかくなのでどこかへ遊びに行きましょう。海とかどうですか? 実はコマリ様用の水着を十五着ほど買ってあるんです。寝てる間に着せてみたのでサイズはぴったりですよ」
「気が早いし、俺の預かり知らぬところでそんなことしてたの?」
ヴィルヘイズの奇行ぶりに引いていたアルクだったが、扉を叩く音に気付き、戸を開いた。
そこには白銀の少女が立っており、その少女はぴょんぴょんぴょんとベッドで飛び跳ねているテラコマリを見てバツが悪そうに目を逸らした。
「あ、あの……お邪魔でしたか?」
「邪魔じゃないぞ! 全然!」
入室した少女──サクナ・メモワールは、消え入りそうな声で「失礼します」と言った後、震える足取りでテラコマリの方へ近づく。
彼女は緊張した様子で「テラコマリさん」と名前を呼んだ。
「あなたには迷惑をかけてしまいました。……もう、テラコマリさんをお姉ちゃんにするとか言いません。……本当にごめんなさい」
「そっか。私は全然気にしてないよ」
サクナの表情が崩れる。
それまで必死に堪えてきた激情が
「みんな……そう言ってくれるんです。……でもそれだと気が済まないんです。テラコマリさん、私に、罰を与えてくれませんか」
「わかったよ。じゃあ、私と付き合ってくれ」
場に緊張が走った。
サクナは顔を真っ赤にして、魚のように口をぱくぱくさせていた。
ヴィルヘイズが
「それはどういう意味ですかコマリ様。まさかメモワール殿と──」
「ごめんごめん。私に付き合えの間違いだった。──サクナ、私はこれから二週間の長期休暇に突入する。もちろん引きこもる予定だが、ときどき誰かと遊びたくなるかもしれない。だから私が呼んだら来てくれ。仕事をさぼってでもな」
少し傲慢すぎるお願いだったかな──と思ったが、サクナは泣き笑いのような顔をして「わかりました」と頷いた。
「でも、そんなの罰になってません。改めて言われなくても、テラコマリさんに呼ばれたら、すぐにでも駆けつけますから」
「そ、そうか? あ、そうだ! じゃあ小説執筆の相談に乗ってもらおう! まだまだ書きたいテーマがたくさんあってな……これは自分で言うのもなんだがかなり面倒くさいぞ! 覚悟しておけよ!」
「はい。わかりました、テラコマリさん」
そこでテラコマリは少し引っかかってしまった。
『テラコマリさん』はなんだか他人行儀すぎる気がしたのだ。
「その呼び方はやめたまえ。私とお前は…………その、あれだ。友達、なんだ」
「え。じゃあ、何とお呼びすれば……」
「コマリって呼んでよ。親しい人はみんなそう呼んでるから」
テラコマリは勇気を振り絞って右手を差し出した。
感情をぶつけ合ったあとは握手をして仲直りするのが王道と物語に書いてあった。
サクナは少しだけ躊躇っていたが、やがてゆっくりと手を伸ばし、腫れ物に触れるよう感じでテラコマリの手を握り返す。
サクナは輝くような笑みを浮かべ、掠れた声でこう言った。
「──よろしくお願いします、コマリさん」
こうしてテラコマリは新しい友達を得たのだった。
⭐︎
ムルナイト帝国の最端にある墓所。
俺やコマリ様、ヴィルヘイズはとある墓標に手を合わせていた。
墓石には『メモワール』と刻まれている。
サクナ・メモワールの家族が眠る場所。
「すみません。お待たせしました」
少し離れたところから駆け足でサクナとヘルデウスが近づいてくる。
二人とも手には大きな袋を抱えていた。
「二人とも注文の品を持ってきてくれたのですね」
「ええ。しかし一体何をするおつもりですかな。私には成人男性用の服を、サクナには女性用の服を用意させるとは。まるで真意がわかりません」
「見ていれば分かります。それとお約束してください。私がやる事に一切手出し、口出しをしないと」
俺はその返事を聞く前に墓標へ近づき、そこに収められている骨壷を取り出した。
数は三つ。
父親、母親、そして姉。
俺はそれを持って歩き、何もない大地に置く。
そして壷を一つ手に取ると、封を切り、口から遺灰を地面に流す。
「アルくん、どうして……!?」
「何をなさっているのですか、アルク殿!?」
「黙って見ていてください。事が終わればいくらでも殴られる覚悟はできてますから」
すべての骨壷から遺灰を吐き出し終えると、俺は左手を手刀にして、右腕に勢いよく切れ目を入れる。
腕からは血が流れ出し、遺灰にかかる。
そうして俺は唱えた。
「我が真名アルカードの名において命じる。汝らを我が下に。汝らの命運は我の為に。この意に従うのであれば、再臨せよ」
魔力を込める。
血は遺灰を吸う。
それがやがて骨となり、肉がつく。
そして──
「──嘘。お父さん……お母さん……コマリ、お姉ちゃん……?」
「こ、こんなことが……」
その場にいた誰もが驚愕の色を露わにする。
遺灰があった場所に姿を現したはメモワール夫妻、そしてサクナの姉であるコマリ・メモワール。
その姿を見たサクナはぽろぽろと涙を流して姉に駆け寄る。
「コマリお姉ちゃん…………だよね?」
「ふわぁ……ん? やあサクナ。しばらく見ないうちに大きくなったね。でも、泣き虫なのは相変わらずのようだ」
「ッ、コマリお姉ちゃん! 私、辛かった、怖かった。でも、頑張ったんだよ」
「……ごめんね。私がもっと強ければ君を守れたのに。よく頑張ったね、サクナ」
大声をあげて泣きじゃくるサクナの頭をコマリ・メモワールが優しく撫でる。
それはサクナがもう二度と得られないと思っていた温かさだった。
「ヘルデウス。娘が世話になったようだね」
「……いいえ。いいえ。私は何もしてあげることができなかった。彼女が自身の力のみで成長したのです」
「そんなことないさ。君は昔からお人好しで面倒見が良い。そんな君に私も救われていたよ。ありがとう私の友人ヘルデウス」
「ああ…………私は、これほどまでに神に感謝したことはありません。再び、あなたに会える日が来ようとは」
ヘルデウスは年甲斐もなく涙していた。
メモワール夫妻はヘルデウスの肩にそっと手を置く。
俺はその様子を見て安心した。
そして背中から地面に倒れる。
「おい、アルクどうしたんだ?」
「ははっ、少し貧血気味で。大量の血を彼らに与えたので。後で輸血パックから血を補給します」
「何を言っているのですか? 血ならここに新鮮なものがあるではないですか?」
そう言ってヴィルヘイズが自らの首筋を晒してこちらへ向けてくる。
吸血鬼であれば別に何らおかしくない行為ではあるが、どうにも気が進まない。
「女性の、ましてや首元に牙を立てるのは抵抗があります。私なら心配無用ですのでどうかお気になさらず」
「お前はいつも頑張りすぎなんだよ。首が嫌なら腕とかならどうだ」
「それならまあ・・・・・・」
「では・・・・・・はい、どうぞ」
ヴィルヘイズが服の袖を捲し上げて右腕を突き出す。
俺は腕に歯を立てて、傷口から血を吸い込む。
ヴィルヘイズが顔を若干赤らめて、短い声を漏らす。
「おい、そのわざとらしい反応やめろ。吸いにくいだろ」
「お好きかと思いましたので」
横でコマリ様が様子をじっと窺っているのだ。
言葉には言い表せない気まずさがあった。
「なあアルク。私からも血をやるよ」
「流石にそれは・・・・・・」
「ヴィルがよくて私がダメな理由はなんなんだよ」
「コマリ様は上官で、仕えるべき主ですので」
「なら上官命令だ。私の血を吸え」
「はあ・・・・・・ずるいですね。コマリ様は」
突き出したコマリ様のか細い腕に俺は歯を立てた。
少し痛そうにしていたので、回復魔法をかけながら血を吸い上げていく。
失った血を全て補給──とはいかないが、それでも歩ける程度には回復した。
ヘルデウスとサクナがこちらへ駆け寄ってくる。
殴られる覚悟をしていたのだが、想像とは異なり二人は俺に肩を貸してくれた。
否、分かっていたはずだ。
優しい彼らならきっとこうすると。
俺はその優しさを噛み締めながら胸に誓った。
心優しい人たちの安寧を守れるようにもっと強くなると。
二章完となります。
私が特に書きたかったのが今回の話のような、原作では実現できなかったパッピーエンドなのです。
サクナへの誕生日プレゼントになったかな。
以降は、復活したメモワール家もどこかに織り交ぜた番外編を更新してから三章へ移る予定です。
只今かつてない繁忙期で感想を確認する時間や小説を書く時間がありません(本当ならサクナの誕生日当日までに今回の話を投稿したかった……)。
しばらくは不定期更新と思ってください。
投稿をやめるつもりはないのでご安心を。
この機会にBlu-ray修正版よろしく、過去から現在までの投稿を見直す時間にあてようと思います。