ひきこまり吸血姫の執事   作:神無月 優

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ベリウス「俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ! だからよ、止まるんじゃねぇぞ……」
という展開にはならないのがひきこまり吸血鬼の悶々です。


逆さ月

 ヨハン・ヘルダース中尉との決闘で、地雷による爆死者の血液が付着したり、汗で服をぐっしょりと濡らした閣下は、自宅に帰宅してすぐにベッドに潜り込むことを我慢して、湯浴みをしに脱衣所へ向かう。

 その後ろを追うようにヴィルヘイズ中尉も脱衣所へと向かった。

 俺は二人が戻るまでの間に夕食の準備を済ませる。

 閣下の好物はオムライスだ。

 頑張った閣下にご褒美があっても良いと思い、俺は閣下の好物を作る。

 オムレツ生地には砂糖を少々加え甘さを引き立たせる。

 採れたての新鮮なトマトから作り出すケチャップはグレイビーボートへ入れる。

 そして出来た料理を食堂へと運んでいく。

 そこには閣下たちよりも先に食堂へ来ていた閣下の妹君──ロロッコ・ガンデスブラッドの姿があった。

 当然夕食はガンデスブラッド邸に居る者皆へと作るため、俺とヴィルヘイズは献立にはかなり気を遣っている。

 

「ねえ、アルク。コマ姉は帰ってきてるの?」

「ええ、今は浴場で疲れを取られている頃でしょう。ヴィルヘイズも一緒ですよ」

「そうなんだ。最近のコマ姉は引きこもっていないけど、ちゃんとお仕事やれてるの?」

「心配ですか?」

「っ、違うッ! 私はただ……コマ姉が外で迷惑かけてないかな、って思っただけで……」

 

 そう言ってすぐに否定をするロロッコ様だが、実のところは毎日閣下のことを気にされている。

 しかし、年頃で上手く気持ちを伝えられないのか思っている事とは逆の言葉が出てしまうのは相変わらずのようだ。

 

「まあでもコマ姉のことだから、きっとヘマやらかすよね。その時は私が慰めてあげようかな。ごちそうさま、おいしかったわ」

 

 ロロッコ様は食堂から出るとそのまま自室に戻られた。

 食べ終えられた食器を片付け終えた頃、湯浴みを終えた閣下とヴィルヘイズが食堂へ入ってきた。

 二人の様子は普段とどこか違和感を感じた。

 仲が深まったとでも言うべきだろうか。

 

「お二人とも随分仲良くなられたようですね」

「そうです。先ほどまで私とコマリ様は愛を語らっていたのです。ねえ、コマリ様?」

「いや、語らってないし。ヴィルとアルクにはいつも助けられてるって話をしてたんだよ。アルク、いつもありがとう」

「勿体なきお言葉です」

 

 平然と礼を返したつもりだったが、俺の両膝は床に崩れていた。

 閣下には心配され、ヴィルヘイズには鼻で笑われた。

 料理を並べると閣下は自分の好物であるオムライスだったことに大層喜ばれていた。

 夕食が済んだ後使用人たちの食事も終え、食器を洗っている俺のもとに閣下がやってきて言った。

 

「アルクは《烈核解放》って知ってるか?」

「……その言葉はどこで知ったんですか?」

「ヴィルが使える特殊な能力だって。アルクも使えたりするの?」

「私は使えませんよ。《烈核解放》を使える者は限られています。発動条件や能力はそれぞれ異なり、中には世界を変える力を持つものもあるとか。言えるのは才能がある者にしか使えない力ということでしょうか」

 

 閣下は納得されたご様子だったが、さらにもう一つ質問する。

 

「ヴィルが私に執着する理由を知ってるか? まあアルクもなんだが、私に対しての忠誠心が強すぎて逆に不安になるというか。何か特別な理由があるんじゃないかって気になっているんだ」

 

 なるほど、浴場ではそういった話をしていたわけか。

 けれど肝心の所までは話していないといったところだな。

 

「──申し訳ございません。詳細を知ってはいるのですが、ヴィルヘイズのプライベートに関しては本人が話してくれるのを待つしかないかと。ただ閣下を裏切るような事は絶対無いとだけ言っておきます」

「じゃあ、お前は?」

「私は……閣下に返しきれない大恩があるのです。今私が生きていられるのは閣下のお陰なのですよ」

「大げさじゃないか? ──悪いけど、私は覚えてないぞ」

「いえ、それで良いかと。私もその方が都合が良いです」

 

 閣下は可愛く小首を傾げながら自室に戻り、そのまま就寝された。

 

 ⭐︎

 

 決闘騒ぎから一ヶ月間は戦争続きだった。

 先日の六国新聞による捏造報道が六国中に流布されたことによって、意気盛んな他国の将軍たちが宣戦布告してきた。

 決闘のニ日後にラペリコ王国との再戦が行われた。

 将軍は同じくハデス・モルキッキで、記事のこともあってか本陣にまで乗り込んできた。

 狙いは閣下のみだったらしく、執拗に閣下へ当たれば異臭がまとわりつく【臭い玉】を投擲してきた。

 俺は空間魔法【魔界転移】を使い、閣下に当たる前に【臭い玉】は異次元に消え、ハデス・モルキッキ正面に空間が出現してそれらが全て投げた当人に命中する。

 異臭で混乱しているところにメラコンシーが得意の爆破魔法で仕留めた。

 その後も戦争は続いた。

 翌日にはゲラ=アルカ共和国戦、さらに翌日は白極連邦戦、少し空いて天照楽土戦。

 いずれも全て閣下へ危害が及ぶ事なく勝利した。

 戦った将軍が弱いとか言わないが、各国で最有力とされている将軍が挑みに来なかったのは救いだ。

 まだ様子見といったところだろうな。

 戦争後、第七部隊連勝の知らせを受けたムルナイト帝国では、政界・世論を問わずお祭り騒ぎに発展した。

 新聞には毎日閣下の記事が掲載されており、軍事のことだけでなく、閣下の個人情報まで掲載される始末。

 さらには催しの好きな第七部隊の連中は一ヶ月で十二回も宴会を開き、閣下のストレスは限界にまで達していた。

 俺は疲労回復効果のあるハーブティーを閣下に入れると、少しやつれた顔で「ありがとう……」とお礼を言う閣下を見るのは居た堪れなかった。

 下剋上を危惧した閣下はご機嫌取りのために、自分の趣味である菓子作りをして慰労と称して配り歩いた。

 これが意外にも効果があったようで、「俺たちのことも気遣ってくれる閣下ヤサシー!」などと感涙に咽んでいた。

 ちなみに俺も閣下と一緒に菓子作りをして、閣下にも味見をしてもらって「美味しい!」と太鼓判を押してもらったのだが、男にもらう菓子は気に食わなかったのか隊の連中には舌打ちされたので、配るのを諦めた。

 戦争以外の分野でも部下たちの支持を獲得した閣下に新たな問題が発生した。

 閣下との距離が縮まり、心優しい上司に親近感を覚えた部下たちが交代で執務室に顔を出すようになり、他愛ない話をするようになったのだ。

 最初のうちは趣味の話や好きな料理の話とかだったのだが、時が経つにつれ悩みを打ち明ける人生相談所へと変貌していた。

 閣下は真摯に応えようとするのだが、十五年の浅い人生経験でその内の三年は引きこもっていたため、自信無さそうに自分より年上の男たちにアドバイスをしていた。

 それがまた大好評となり、執務室前は毎日長蛇の列となった。

 俺はアイドルの握手会よろしく整理券を配っていた。

 

「──やってられるかアホ!!」

 

 ばーん! と机を叩いて椅子から立ち上がると、隣に侍っていたヴィルヘイズが不思議そうな顔で閣下を見ていた。

 俺はそろそろ限界が爆発する頃だと思っていたので、さして驚いてはいない。

 

「どうしましたか? サイン会はもうすぐ始まりますよ」

「そのサイン会っていうのもおかしいッ! どう考えても将軍の仕事じゃないだろ! 他の将軍を見ろ、誰一人としてこんなことやってないぞ!」

 

 ムルナイト宮殿の大講堂。

 ヴィルヘイズによって連れられた閣下は豪華な椅子に座らせられ、理由を詰問する。

 これまでもそうなのだが、閣下の業務量は他七紅天と比べると多い部類だ。

 本来の業務に加え、度を超えた残業。

 閣下以外の七紅天なら唾を吐いてその場を去っているであろう仕事を、断りきれずに引き受けた結果でもある。

 

「需要と供給ですよ。他の七紅天は暑苦しい男性ばかりですが、コマリ様は天使もかくやという可憐な美少女。需要抜群です」

「いえ、閣下が需要あるのは分かります。けど何年前の話をしてるか分かりませんが、現七紅天は閣下を含めると五人が女性ですよ。他四人がこのような活動をしているのは見たことありませんね」

「ほら、見たことか。いい加減私も騙されないぞ。他にも仕事はいっぱいあるんだ。マルコが魔法の教本のオススメを聞いてくるから調べておかなくちゃだし、テレッサがお菓子のレシピを教えてくれって言うからまとめておかなくちゃいけないし、ダニーロが友人の結婚式でスピーチをするらしいからその文面を考えなくちゃいけないし、ロランと奥さんが仲直りする方法もまだ思いついてないし、あとはペコルが」

「無駄な残業背負ってますね。素敵です。」

「どこが素敵なんだよ! 休暇をくれよ!」

「ご安心ください。本日は書類の上では休暇扱いですので」

「最悪のブラックじゃねーか!」

「さあ、お客様が入場してきますよ」

「え、ちょ、まっ……」

 

 閣下が不平を唱える暇もなく大講堂の扉が開いて、大勢の吸血鬼たちが入室してきた。

 それにしても俺が把握しているよりも多く閣下は残業を抱えていたようなので、いくつかはこちらで処理しておこう。

 入室してきた吸血鬼は閣下と同年代くらいの女性客も居れば、年齢層がバラバラの男性客も多く居た。

 

「あの、俺、閣下のファンです! さ、サインください!」

 

 第一号の客は顔を真っ赤にした、閣下の年より幼い少年だった。

 七紅天との対面しているからか、やや緊張で震えている様子だった。

 さすがに閣下もこのような相手には肩肘張らずに済むのか、少年から色紙を預かると、さらさらと手慣れた手つきでサインを書く。

 日頃小説家になることを夢見ている閣下は、デビューした時に備えて練習していたに違いない。

 そして閣下は少年に渡す際に笑顔を作り出す。

 

「ありがとう、次の戦争も君のために頑張るよ」

「ッ!?」

 

 少年は色紙を受け取ると、何かを言いたげに口をぱくぱくさせた。

 その耳は真っ赤に茹で上がっていた。

 

「どうした、熱でもあるのか?」

「あ、い、いえ、──ありがとうございましたっ!! さようなら!!」

 

 少年は脱兎のごとく走り去っていく。

 気持ちは分かるぞ、少年。

 俺もサイン会が終わったら、閣下からサインを貰おう。

 笑顔付きで。

 

「コマリ様。あまりファンをからかわれるのはどうかと」

「からかう? 何かいけないことした?」

 

「こいつ天然か──」とヴィルヘイズは一瞬だけ表情を引きつらせたが、すぐに普段の表情に戻り、「とにかくファンとの過度な接触はおやめください。──次の方どうぞ」

 それからも延々とサイン会は続いた。

 客の多くは「応援してます!」「頑張ってください!」と真摯な声をかけていた。

 中には「毎朝僕に味噌汁を作ってください」とか「毎朝僕の味噌汁を飲んでください」とかプロポーズ紛いのことを言う客もいた。

 下剋上を挑む愚か者は一人もいなかった為、概ね和やかな雰囲気でサイン会は進行していた。

 ただ最後の方で、

 

「閣下! この後ぜひ拙者と愛のまぐわグュペグィ!?」

 

 ヴィルヘイズの中での許容ラインを超えた客が首を絞め殺されるという事件は発生していた。

 時は既に夕暮れを迎え、最後の客が講堂を出ていくのを確認すると、閣下は机にぐでーっと、倒れ込んだ。

 

「もうやだ。くたびれた。帰りたい」

「お疲れ様です、コマリ様。今日はもう仕事はありませんのでさっそく帰りましょう。一緒にお風呂に入って色々なところを洗いっこしましょうね」

「うん…………うん、じゃねえ! 間違えた!」

 

 閣下がだいぶお疲れの様子で空返事していたところを、ヴィルヘイズはすかさず狙っていく。

 俺はダメ元で閣下にサインを笑顔付きでお願いすると、思いの外要望を聞いてくれた。

 それを見ていたヴィルヘイズも「私にも、私にも笑顔付きでお願いしますッ!」と鬼気迫る勢いでお願いしており、閣下はやや引いた様子だったが、ヴィルヘイズにもサインを書いていた。

 

「そういえば、閣下。渡すタイミングが無くて今になってしまうのですが、皇帝陛下からこちらを預かっています」

「え、あの変態皇帝から?」

「ぶふッ! は、はい、その変態皇帝から閣下宛にパーティの招待状が届いています」

 

「変態皇帝」というパワーワードに思わず吹き出してしまった。

 閣下は心底嫌そうな顔をしていたが、文面をしっかりと確認するのだった。

 

 ⭐︎

 

 サイン会の翌日のことだった。

 俺は陛下主催のパーティーに同行できなかった。

 理由は『闘技場破壊』の件をこのタイミングで持ち出してきたのだ。

 閣下とヨハンの戦いが少しでも長引くように徹底的に破壊した為、国が多額の損害費用を請求してきた。

 閣下は七紅天特権で地雷での爆破は不問とされた。

 当然そんな費用を払えるわけないので、皇帝陛下に直訴したところ、最近調子づいているゲラ=アルカ共和国の視察に日帰りで行ってこいと無茶振りな命令を受けた。

 そして俺はゲラ=アルカ共和国に潜入しているわけだ。

 刀剣に愛された鉄の戦闘民族──翦劉(せんりゅう)種。

 六国で最も野蛮な種族とされ、恋人を得る時も相手を力づくで従わせるとか。

 国民は皆腰に剣を携えているのが日常化しており、気に食わなければすぐに斬りかかって来そうで怖い。

 だが、こうして国中を視察してみると模擬戦闘や武闘大会以外で人に斬りかかる姿は見ない。

 少し歩き疲れた俺は喫茶店に寄り紅茶を嗜んでいると、同年代くらいの桃色の髪の少女が側付きの少女を連れて俺の座る席の対面側に座ってきた。

 

「あなた、ムルナイト帝国の人よね。色々この国を嗅ぎ回っているようだけど、何が目的なの?」

「目的と言うほどのものはありませんよ。この国の視察という名目の観光、といったところでしょうか」

 

 桃色髪の少女は意外そうな顔でこちらを見る。

 観光くらいで驚かれるようなものだろうか。

 いや、現状()()=()()()()()()()()()()()()()()だ。

 そんな中やって来た吸血鬼に警戒するのは不自然でもないか。

 

「あら、そうなの。ところでその紅茶のお味はいかがかしら?」

「ええ、とても美味しいですよ。このフレーバーティーはムルナイト帝国で味わえないような香りを立たせていますね。確か、この国の西側でこれと似た香りの花を見かけました」

「へー、さすがはテラコマリの執事ね。味に理解力がある人は好きよ」

「私の事をご存知だったのですね」

「『テラコマリ・ガンデスブラッド大将軍が侍らせている執事とメイド』のうちの、執事があなたでしょう? 六国新聞の記事に載っていたからすぐに分かったわ」

「閣下の名誉の為に言いますが、別に侍らせているわけではないですよ。私たちはただお側にいるだけです」

 

 「一緒だと思うけど」と顔を竦める桃色髪の少女。

 

「まあこの店は私が経営しているお店のうちの一つなの。喜んでもらえたなら良かったわ」

「店舗経営までされているとは、流石は〝月桃姫(げっとうき)〟と名高いネリア・カニンガム将軍ですね」

「……私の事知ってるんだ」

「当然です。戦争した相手国の将軍は全員調査済みです。先の戦争であなたの部隊と戦うことが無かったのは幸運ですね」

 

 俺はそう言って残った紅茶を飲み切る。

 正直言うとすぐにでも離席したいところだ。

 この国でネリアと戦闘にでもなったら国際問題に発展しかねない。

 

「警戒しなくてもいいわよ。私はただ挨拶に来ただけだから。あなたがここに居るってことはテラコマリも居るのかなって思ったけど、どうやら居ないようだしね。もし時間に余裕があるなら()()テラコマリのこと教えてくれない?」

「あなたも閣下と旧知の仲というわけですか。良いですよ。その代わりこの国のことを色々と教えてください。」

「機密情報は教えられないけど、それでも良いかしら?」

「構いません。何かしらの情報を持ち帰ればそれで十分ですので」

 

 俺とネリアは互いに情報を与え合った。

 話してみて分かるが、好戦的ではありつつも彼女は閣下と同じように優しい心を持ち合わせているようだ。

 

⭐︎

 

 用事は済み、ムルナイト帝国七紅府に戻ると何やら慌しかった。

 今の時間帯は陛下主催のパーティーが催されている最中なのでは。

 俺は近くを走るカオステルを捕まえて事情を聞く。

 

「アルク大尉! 今まで何をしていたのですかッ!

 ──いえ、それよりも閣下がテロリストに襲われました! 相手はあの〝逆さ月〟の女です!」

「そうか。閣下はご無事なのか?」

「閣下は無事です。しかし……ベリウスが閣下を庇い負傷しました。何故か傷の治りが遅いようで、今は治療院へ運ばれています」

 

 ミリセントが仕掛けてきたか。

 宮殿に出入り出来るという事は、内部の誰かが手引きしたのだろう。

 襲撃犯がミリセントだけなら閣下がすぐに殺されることはない。

 彼女の真の目的は別にあるだろうから。

 

「カオステル、俺は治療院に行きベリウスの様子を見てくる。その間閣下の警護と隊の指揮はお前に一任する。良いな」

 

 俺はそう言い捨てると急いで治療院へと向かった。

 魔核が存在しなかった時代には〝医者〟という専門的役職が社会的地位を獲得していたらしい。

 だが、どんな傷でも魔核によってすぐに治ってしまう現代ではもはや廃れた職業と化しており、いたとしてもかつての医療技術と比較するとかなり腕の落ちたものとなる。

 もしベリウスが魔核と同等の力を持つ──神具で傷を受けたのだとしたら魔核の効力は無効化されて、最悪死に至る。

 

「ベリウス、無事か!」

 

 俺はベリウスの居る治療室に押し入る。

 刺された箇所は脇腹付近。

 幸い致命傷ではないが、治療処置が甘い。

 完治までに時間を要するだろう。

 

「待ってろ。ちゃんと手術してやるから」

 

 俺は医療用の服装に着替え、必要な医療機材を全て揃えた。

 俺はベリウスに麻酔注射を打ち、傷口に下手に縫い付けられた糸を解く。

 表面上皮膚の傷だけ縫われており、血管などの内臓部分の治療までは施されていなかった。

 それらを縫合手術で止血、溜まった余分な血は排出し、皮膚を糸で繋ぎ直す。

 後は点滴と輸血で回復するはずだ。

 単純な治療だが、何も処置を施さないよりは治りが早いだろう。

 

「大義だベリウス。よく閣下を護ったな」

 

 ベリウスの顔色を確認した俺は治療院を後にして、閣下の居るもとへ向かった。

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