魔法最強のゲーム世界に転生したけど、居合しかできない! 作:削り板
意識を取り戻し、目を開く。
辺りを見渡すと、そこは.....
「………教室?」
前世で自分が通っていた学校の教室だった。
自分の体を見下ろすと、制服を着ていることに気づく。
体の痛みも感じない。
「………夢か、そういえば前世でも結構学生時代の夢見てたなぁ」
よくよく思い出すとこの光景は何度も見たことがある、気がする。
確かに俺にとって学生時代は印象深いことばかりだった。
そう思って、少し過去を振り返ってみる。
自分は学生時代、はっきりいってただの無能だった。
いつからそれを自覚したのかは覚えていない。
だが、自分は会話も苦手だったし、運動も勉強も大してできなかった。
いじめられてはいなかったものの、クラスの端にいる主体性のないモブ隠キャとして生活していた。
よく一つ上の兄と先生に比べられては、苦しい気持ちになり、吐いてしまったこともある。
俺はそんな自分を激しく嫌悪していた。
無能で弱いことへの負い目や、優秀な人達や兄への強い、強い劣等感に苛まれた。
言語化出来ない感情がそこにいた。
兄の活躍をみると、悪い妄想が広がり眠れない時もあった。
暗い感情に襲われて、過呼吸になったことだって一度や二度では無い。
だから、自分なりに変わろうと思って色んなことをやった。
体力をつけようとランニングをしたり、毎日5時間は予習復習を欠かさなかった。本を読んで話し方を勉強して、クラスメイトに話しかけたりもした。
WORLD STORYに出会ったのも友達と話を合わせる為だ。
その日々は死に物狂いだったんじゃないかと思う。
毎日ひたすらに取り組んだ。
妄執を振り払うように、全力で。
そうして、自分はマシな人間へと変わることが出来た。
体育はオール5になったし、成績も良かった。
話をするときに、えっとかあっとか言うことも無くなった。
クラスの中でもそこそこの立場に立てていたと思う。
そこそこの彼女も出来た。
その間も、誰も俺の暗い劣等感情には気付いて無かったと思う。
上手く取り繕えていたはずだから。
随分陽気なフリも上手くなった。
そして変わったのだ、
俺が必死に走っている中、兄は複数の部活を兼部してエースだった。
俺がペンを握っている時、兄はゲームのコントローラーを握っていたが、テストの点数で勝てたことはない。
俺が数人と仲良くしているとき、兄は生徒会長として全校生徒に慕われていた。
俺が見て見ぬふりをしたいじめも、兄は持ち前の正義感で救ってみせた。
兄は
誰にでも優しく、俺は何度も助けられてきた。
俺が蟻なら兄は象で、俺が人なら兄は神。そういう風に感じていた。
別に兄を妬んだり、嫌ったりしていた訳じゃ無い。むしろ俺は優しい兄のことを好いていたし、関係は良好だった。
でも、兄がいる限り俺はどこまでいっても凡人で、弱者で、
それに気づいてからは、嘔吐の回数が増えた。
毎日毎日寝具の中で妄執に襲われて、泣き喚いた。
弱者の自覚は日々増していき結局はなんの感情も拭えず、むしろより濃く心に染み込んでいった。
それは、多分今も深く残ってる。
俺はこっちに来ても、結局はただの弱者だった。
兄こそいなかったがその代わり、強者ばかりの世界だ。
よく考えてみるとこの世界でも、俺は強くなろうとしていた。
強さが無意味なのは
その、はずなのに。
夢の中の体が勝手に動き出す。
人生を振り返ったことでこの何度も見た夢の続きを思い出した。
確かこの後学校が終わり、自分は兄に呼ばれて兄と一緒に下校する。
そして、その後......。
何度も見た夢のはずなのに冷や汗が出てくる。
呼吸も荒くなる。
体が、コントロールできない。
家の近くの公園まで来た。
もう少しで家に、ついてしまう。
慣れているはずなのに、何度見てもあれは苦しい。
拒絶したくても体が動かない。嫌だ、嫌だ。
ついに家の前についた。
そして、兄がドアノブに手を掛けてドアを開く.....。
嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、
「嫌だ!」
目を覚ます。
自分は気を失って、やはり夢を見ていたようだ。
背中に嫌な感覚がある。汗が気持ち悪い。
気持ち悪さを拭うように、頭を動かし周りを見渡して見ても、碌なことは分からない。
分かることは、自分がおそらく木で出来た部屋の中にいて、布団に横たわっていること。
それと、腹部の痛みから察するにこれは夢ではないということだ。
(ここは.....多分気を失う前に会った人の家か。確か、赤手さんだったか?悪い人では無さそうだし、殺す気なら助けないだろうからひとまずは大丈夫.....かな?何より
腕を動かそうとして気付いたが自分の体、主に腹の辺りが糸でぐるぐるに布団に巻きつけられている。
痛くはないが、かなり強く巻き付いており動くことはできない。
おそらく回復糸だろうか。少し色褪せていることから察するに古いものなんだろう。
(自分からは動けないし、あの人が来るまでは何もできないな。これまでの状況の整理でもしとくか。………それにしても短期間で二回も意識を失うとか初めてだ。………いや、修行中にも何回かあったな)
(そういや俺よく生きてたな、絶対肋骨とか折れて内臓に刺さってたと思うんだけど。それに、今思い出したらあの時他にも色々勝ち筋あったよなぁ。まじで疲れてたんだな、多分)
そんな風に取り止めのないことを考えていると部屋の扉が開いて、赤手さんが入ってきて、自身の枕元の辺りに座った。
「おっ、意識を取り戻したんだね君。君を拾ってから多分丸1日くらい経ったかな?外から見たよりも傷が酷かったから実はちょっと焦ったんだけど、でも助かってよかったよ、本当に」
「助けてくれてありがとうございます。回復糸も使ってしまってちょっと申し訳ないですね」
「あぁ、気にしないでいいよ。それもここじゃあまり使う機会も無いからね」
(ここじゃ使う機会が無いってことは、俺みたいな奴が何度も来る訳ではないんだな.....ちょっと色々探ってみるか)
「いえ、本当にありがとうございます。………あの、現状について色々聞きたいことがあるんですけどいいでしょうか?」
「あぁ、勿論いいよ。でもこっちにも聞かなきゃいけないことがあるんだよね、例えば」
「何であそこにいたのか、とかね」
一気に眼光が鋭くなり、纏う空気も心なしか変わっている。辺りの空気が冷たく感じて、正に肝が冷えるという感じだ。
おそらく返答によってはまずいことになる予感が漂っている。
(多分この人はかなりの強者だ、俺では絶対に敵わない。どう答えるべきだ?考えろ、考えろぉ.....)
必死に思考を回す。
最近は一難去ってまた一難みたいな状況が続いているが、考えるのを止める訳にもいかない。
だがここで長考したらさらに怪しまれることだろう。
そんな板挟みになった答えは
「………僕も分かりません、気づいたらあそこにいました。信じ難いでしょうけど、それ以上もそれ以下もないんです」
正直に答えることだった。
ここで嘘をついてその場を凌ぐことは可能だろうが、その場合嘘がバレた瞬間に俺はこの人に何をされるか分からない。
というかそもそも短時間じゃそんなに色々考えられないし、長考するのは怪し過ぎる。だから正直に答えることにしたのだ。
「……………成程ねぇ、ま、信じにくくはあるけどそれについて証明なんか出来そうにもないし、何より君が嘘ついてても私なら力でねじ伏せられるからね。一旦信じることにするよ」
「……ありがとうございます」
若干の怖さを感じる発言もありつつも、一応の信用を得ることに成功する。本当に一応は信じてくれたのだろう、場の空気が柔らかくなっていくのを感じた。
「じゃ、次は君が質問していいよ。あぁでもその話し方はやめてね?よく見たらそんなに年齢も離れてないでしょ?」
(はぁ?どうやって見たら6歳のガキが20近そうな大人と歳が近いように見えるんだ?………まぁ普通に話した方が楽だし普通に話すけど、何を聞こうか.....結構大事な情報源になるからな.....)
少しの間逡巡するが決断し、質問を口にする。
「分かったよ、素で話すことにする。それで質問なんだけど、あなたが何者かを聞かせてくれ、もちろん言える範囲でいいけど」
(まぁ、まずはこんな質問でいいだろ。よくよく考えてみたら嘘つかれても分からんし、俺にほんとのこという意味もないしな)
(………ただ、これは俺の予想だけどこの人は侍系なんじゃないかなぁ。俺より明確に強いってことは多分戦闘関係だろうし、なんか服にどっかで見た家紋が見えるんだよな。多分ゲームで見た国の侍的な人だと思うんだけど........。国の侍なら火砕の侍がいいなぁ、ゲームでもいい人多かったし。
逆に水樹だったら終わってる、あそこは大体の人が水神教の狂信者なんだよな。まぁ神の時代前だからそんな激しくないだろうけど.....さ、この人はどこのだれかな?)
「………うーん、そうだね。私は一応国の下で侍をやっててね」
(お、やっぱりそうなんだ。でも大切なのはどこの侍かだからなぁ。正直水樹以外だったらどこでもいい!こい、水樹以外!)
「水樹っていう国で働いてるんだよね」
(オワタ!どうせこの人も狂人だぁ!)
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