魔法最強のゲーム世界に転生したけど、居合しかできない!   作:削り板

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ただ筆者は絶対に失踪はしません。
完結はさせるのでご安心ください。


山 壱

 

大雨の中急に現れた巨大な山に目を奪われる。

視界が悪くはっきりとは見えないが、山脈は木々に覆われており、摩天楼のように聳え立つそれの頂上は黒雲へと吸い込まれていた。

 

依然、雨は止まない。

 

 

 

(………まじで何なんだこれ、山が俺の前にワープしたのか?それとも俺がワープしたのか?)

 

(………もう色んなことが起きすぎて、何も考えたくないな。第一考えても仕方がないだろうし)

 

(とにかくまずは雨を凌ごう。その為には、山に入るしかないか......。ま、浅い所なら遭難もしないだろうし、何かあったらそれはその時その時でやってくしかないな)

 

 

叩きつけるような雨は未だに体へと突き刺さるが、山へ入ると少しはましになるだろう。

そう考えて少年は山中へと足を進めた。

 

 

 

 

 

木々が生い茂る山の中へ入っていくにつれ、雨音の様子が変わって行く。

多分地面に落ちていた雨の大体が葉に当たるくらいに、この辺りは植物が密集しているということだろう。何はともあれ、これで雨を凌ぐことが出来そうで一安心だ。

 

 

 

(とりあえず短期的な目標をたてよう。死なない為に俺は次にどうするべきだ?……………まずは生活できそうな場所を見つけないと駄目か、今の状況がいまいち把握出来ないからいつまでここにいるかも分からないし、っ!)

 

歩きながらも思考を巡らせていると、足元の小石につまづきフラついてしまう。

幸いにも近くの木を支えにすることで倒れはしなかったが、体にガタが来ていることは明白だ。

 

 

(よくよく考えてみれば修行が終わってから寝っぱなしで、起きてから一回も休まずにここまで来たんだよな.....。このままじゃ魔物と出会ってもまず太刀打ちできないし.....うーん)

 

 

(ま、寝るか!回復魔法糸なんかも持って無いし、体力回復させようと思ったら寝るしか無いよな。よし寝よう。すぐ寝よう。即寝よう)

 

(……流石に地面で寝るのは危ないから木の上の方で寝るか)

 

この時、少年は体だけではなく脳もかなり疲労しており、正常な判断が出来ない状態であった。

そんな状態で木の上に登ろうと、刀を幹に刺していると何か小さな物音が聞こえて来た。

 

 

(なんだこの音?………何か引きずっているような.....)

 

 

音は段々とこちらへ近づいてくる。

 

 

(等間隔にタッ、タッ、タッと聞こえて、その間に引きずる音が混じってる。多分足音だ、それも怪我をしてる)

 

 

敵か、味方か、人か、魔物か、あるいはそれよりも恐ろしいものか。

 

何も分からないが、刀を幹から抜き鞘に納める。

 

居合の準備だ。

 

 

着々と音はこちらに近づいている。

心なしか速度も上がっている。

 

もう音は辺りに響く程の大きさになり、周りの小鳥も逃げていく。

 

 

目の前の茂みが揺れ

 

そして、一筋の白い閃光が飛び出した。

 

 

 

「ぐっ.....!がはっ.....!」

 

衝突は一瞬だった。

白い閃光と黒い居合が閃き、勝ったのは白光だった。

 

腹に強い衝撃を喰らい、後ろに撃ち飛ばされ木に衝突する。

肋骨でも折れたのだろうか、腹の中が酷く熱い。

 

(何だ.....!?白い、犬?いや狼か!)

 

自分に突撃した物体の正体を見る。

それは白銀の体毛を備えた狼であった。

よく見ると、右後ろ足が赤く染まっている。怪我しているのだろう。 

 

その痛み故か、それとも余裕があるだけなのか、少年にはあまり近寄らず距離を保って唸っている。

 

(ふぅ......ふぅ......痛いが動けない程でも無いな)

(……この狼は魔物か、頭の*1魔石のサイズを見るにかなり強いな)

 

 

(どうする?居合よりも速い技は持ってないのに、それを躱された。攻撃が当たらないことにはどうしようもない、このままじゃ......負けて、死ぬ)

 

白狼は未だこっちを伺っている。

 

(ここで、死ぬのか?何も出来ずに、意味も分からないまま?ただの愚図の雑魚のまま?こんな暗い森で独りでひっそり朽ちていくのか?………嫌だ、嫌だ!考えろ、考えるんだ!父さんも確か言ってた筈だ)

 

 

 

 

 

 

『ステータスやスキルが自分に全て勝っている相手と戦うことになったら、お前はどうする?』

 

『何をしても地力で劣っている。そんな相手にお前ならどう勝つ?』

 

 

『父さんは地力の差を埋めるのは、技術や作戦などの数字には出ない部分だと思う。……確かにステータスには出ないものを鍛える必要は無いかもしれん』

 

 

『だが、いつかは壁に当たるはずだ。それを破るには数字だけでは無い、()()が必要なんだ。そしてそれこそが武術なんじゃないかとな』

 

 

『いいか?お前が壁に当たったとき、まずは考えてみろ。そして絶対に諦めるな!それが俺達の、いや弱者の武器なんだ』

 

 

 

 

 

(そうだ、考えるんだ!諦めるな!ここで俺は死なない、死にたくない!相手をよく見て考えろ!勝ち筋はきっとある筈なんだ!)

 

(………そうだ、こうすればもしかしたら勝てるかも.....!)

 

 

策を思いつくと同時に白狼の方を見る。

再度こちらに突撃してくるのだろう。下半身に力を入れているように見える。好都合だ。

 

 

一発で決める。そうで無いとお陀仏だ。

 

(ふぅ………………………来い!)

 

再度白と黒が閃き合う。

 

今度は居合が速かった。

 

 

 

だが、速すぎた。

白狼は遥か手前にいるのにも関わらず、既に刀は振り切ってしまっている。タイミングを合わせようとして速くし過ぎたのだろう。

 

 

白狼は、突進は、止まらない。

 

 

 

 

 

(いや、これでいい)

 

少年の狙いは()()にあった。

振り切ったかの様に思えた刀をそのまま振り続ける。

 

そして刀は背後にあった巨木を断った。

 

一度目の突撃の際、自分が勢いよくぶつかったことで木には亀裂が入っていた。

その為、多少勢いが足りなくとも木を斬り落とせたのだ。

 

 

木はまっすぐ、自分と白狼の方へと倒れてきた。

 

 

これが少年の狙いだったのだ。

 

このままいくと、白狼が自分に到達するよりもほんの少しだけ早く、自分達に木が直撃するだろう。

 

白狼はもう向きを変えられない

 

 

 

 

 

 

はずだった。

 

木が倒れてくると見た白狼は、両前足を全力で地面に突き立てブレーキをかけ、残った左後ろ足で右へ飛んだのだ。

 

おそらく怪我をしている右後ろ足を庇って飛んだのだろう。飛距離は少なかった。

 

 

だがそれでもギリギリ、木から逃れた白狼は再度下半身に力を込めている。

この後、木は自分にのみ倒れてくる。

支えられなくは無いだろうが、その隙は見逃してくれないだろう。

 

次の突撃で少年は死ぬ。

作戦は失敗した。

 

 

 

 

 

 

 

(よし!これでいい!)

訳では無かった。

木は頭部の直前まで迫っているが、そんなことは気にしない。

既に少年はモーションに入っていた。

 

少年は、木を断った後右手に持っていた刀を、全力で投擲した。

 

足の怪我から木を避けた後どちらに飛ぶかは予測できていたのだ。

狙うは右後ろ足の一点のみ。

 

戦闘の継続を不可能にさせるのだ。

それだけに賭けた作戦だった。

 

 

 

 

そしてそれは、成功した。

投げた刀は見事に狙い通りに当たり、白狼の右後ろ足は付け根から断たれた。

 

 

白狼は痛み故か、怒り故か、感情を露わにしながら唸り、残った足をバタバタさせていた。

 

が、それもすぐに終わりこれ以上は戦えないと判断したのか、前足で地面を掻き、それも何とかといった様子で茂みへと逃げていった。

 

 

 

 

 

一方で勝者の少年には、巨木の重みがのしかかってきていた。

 

(お、重すぎて、潰れる......折角勝ったのに、木の重みで死ぬなんて冗談じゃない.....)

 

そうは思うが、現実は非常である。

疲労が重なった上に、体の内部もバキバキな状態では今支えているのだけでもかなり限界が近い。

 

あと数分もすれば重みに耐えきれず、木に潰されて、赤いシミになるのは明白だ。

 

(く、くそ、嫌だぁ、どうすればいいんだ.....)

 

そのときだった。

 

 

「おや?私は狼を追いかけてきたんだが、これは......もしかして君が狼を撃退したのかい?君」

 

 

「い、いいから、助けてくれ」

 

「おっと、ごめんね。この木が邪魔なんだろ?今退けてあげよう」

 

突然現れた怪しい女性は、そういって木に手を添えると軽い荷物をずらすかのように、すっと木を地面に落とした。

 

 

(おいおい....勘弁してくれよ......こっちは...今にも...気絶しそうなのに)

 

「そんなに小さいのに魔狼を倒すとは凄いね。名前を教えて貰ってもいいかな?」

 

 

「ちなみに私の名前は赤手狩理(あかずしゅり)だよ。その他の情報は.....すまないけど守秘義務があってね」

 

 

「………あぁそうですか。良い、名前ですね。………俺は」

 

 

 

 

十束灼葉(とつかしゃくは)だ。十束流の....十束灼葉。よろ.....し..,.く」

 

 

 

「あら、挨拶したら気絶しちゃった。ま、怪我してそうだしとりあえず私の家に運ぼうか。どうしてここにいたのかとかは後で詰めないといけないな」

 

 

 

そういって赤手はその*2七尺はありそうな体躯で楽々と灼葉を持ち上げ、自分の家へと歩き出した。

*1
魔物と獣を分けるもの。これがある事で魔物はステータスを得ている。大きければ強いとされる。(例外あり)

*2
約2m20cmくらいのこと






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