「リリオール聖典教国国王、宝来ユキさん?」
くらまーれは、笑みを貼り付けてユキにそう言った。
くらまーれにとって、所詮これはジャブだ。
自分が宝来ユキの正体を知っていることを相手に伝え、なおかつ宝来ユキが自分の元に来た理由を探るためのもの。
自分の身を守るための、ただの情報収集。そうとわかっていても、尚くらまーれの手の平はじとっとぬめっていた。
それもこれも、くらまーれの今までの旅の経験からくるものだ。
どんな規模の国であれ、国王という人種は良くも悪くも一筋縄では行かない。何人もの国民を従える王を、ただの人間に務まるわけがないのだ。
しかも、相手は「物語と百合の国」と称している割に、大国デコンポポを含んだ神聖レストランド同盟に加入し、なおかつ非常に高い国力を所持している。
その上、様々な国との太いパイプを持っているという話も聞く。
だからこそ、くらまーれは目の前にいる可憐な少女が恐ろしかった。戦えば自分が勝つであろう。しかし、それ以上に本当に戦って良いのかわからなくなる恐ろしさ。
それが、くらまーれを緊張させた。
宝来ユキは、少しの間表情を変えず沈黙した。
内容はわからないが、考えている。ということは、自分になんらかの意図を持って近づいて来たということは確定した。
面倒ごとに口を突っ込む趣味はない。ここは離れて別の国へ──
「全く、くらまーれはお馬鹿さんだにゃあ」
「……タマ? どうしたんだい、いきなり」
「くらまーれはこれからも、面倒ごとに合わないために旅をしていく予定なのかにゃ?」
「……それは、そうじゃないけど」
「それに、リリオールは同盟を結んだばかりで安全って、昨日自分で言ってたにゃ。トラブルと言っても大したことじゃないにゃ」
「──はぁ。わかった。僕の負けだよ、タマ」
くらまーれは大きく息を吸い込んで、吐き出した。
ローブのポケットからハンカチを取り出し、手を拭う。
宝来ユキは、ガラス玉のような美しい瞳を少しだけ楽しげに染めて、くらまーれとタマを交互に見る。
「──自問自答の答えは出たのです?」
「……うん。僕たちをリリオールに連れてってくれ、ユキさん」
くらまーれは握手のため、右手を宝来ユキに差し出した。
ユキは、リリオール聖典教国の象徴たる大図書館を背に人懐っこい笑みを浮かべ、こう返した。
「では改めて。リリオール聖典教国の、一応国王をしている宝来ユキです! よろしくなのですよ〜!」
そう言って、くらまーれの右手をちょんと触り、ニコニコと笑った。
タマは、「食えないにゃぁ」と呟き、大きく欠伸した。
次回、ようやく国に入ります。
私ごとですがいくつか宣伝を。
一つ目、11月3日の21時からリリオール聖典教国でオークションを開きます! なんと全ての出版物に物語がある!
……ちなみに私も物語を書いて出品します。暇な人は覗きに来てね。
二つ目、11月5日の13時ごろからあるけみすと公式Discordにて、私の大好きな『ご注文はうさぎですか?』の同時視聴会が開かれます! 私も参加して作品解説を行うので、良ければぜひ来てください!
詳しくはあるけみすと公式Discord内のイベントフォーラムにある、「『ご注文はうさぎですか?』を学ぼう」をチェック!