最強のヒーローと最凶の怪人に挑む少年のお話~怪人VSヒーローの戦いに乱入するバグ一般人~   作:霧夢龍人

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赤いハートの風船

「アンチヒーローが怪人をまた討伐?……凄いなぁ」

手狭な机上に最小限の荷物を置いて、テレビから流れてくる情報に思わず感嘆の声を漏らした。

アンチヒーローというのは、最近何かと話題のヒーローだ。

 

中学生なのにも関わらずあの“ケプラー”を単身で倒し、一躍話題になった。彼の戦っている光景が映された映像はSNS上で出回り、すぐさま拡散された。

当時は中学生が怪人を討伐したという情報の真偽が交わされ、そんな危険な場所で未成年が怪人と戦ったことへの不満を上がったものだ。

かくいう僕もそのうちの一人で、初めは中学生が倒したとは信じていなかった。

 

だがトップヒーローである“レッド”さんがその真偽を真と認め、自分の後継者に足る人物だとも発言していた。

 

そして今日また、新たに怪人を倒したらしい。

新種の怪人らしくその能力の詳細を現在調査中とのことだが、新種の怪人相手に勝てるなんて、流石はヒーローの憧れであるレッドさんの後継者だ。

 

しがないヒーローをやっている僕からすれば、彼もまたレッドさんのように憧れの的。今年でアラサー間近だけど、中学生ヒーローに憧れるなんてちょっと悔しいと思ってしまうのは秘密にしたい。

……まぁ悔しいも何も、弱い能力しか持ってないからヒーロー事務所もかなり小規模なんだけどね。

 

広川(ヒロカワ) 託心(タクミ)』、29歳。特出すべき点は特になし、と書かれたヒーロープロフィールが僕の存在感のなさを示していて少し悲しくなった。

 

「……考えても仕方ない、見回りに行くとしよう」

 

少し現実逃避をしながらヒーロー事務所を出て、日課の見回りに勤しむ。この辺りは比較的平和だけど、時折犯罪が起きたりすることがあるからだ。

 

とはいえ今日もどうやら、特に問題は───。

 

「うぅぅ……ひっく」

 

───あるようだね、うん。

 

「どうしたんだいお嬢ちゃん?」

 

公園のこの前で立ち竦んで泣いている女の子を見つけ、怖がらせないように屈んでから話しかける。

見たところどこも怪我はしていないようだ。

 

「あ、あのね……あのね…」

 

「大丈夫大丈夫。ゆっくりでいいから、話してごらん?」

 

理由を話そうとしてくれている少女だが、泣いているせいで上手く喋れていない。こういう子は、喋りたいのに喋れないという理由でまた泣き出しちゃうから気をつけないとね。

 

「……うん。あのね、風船が飛んでいっちゃった」

 

「あぁ、あれかぁ」

 

悲しそうな顔で告げる少女の視線の先を辿ると、木の幹の間に挟まってふよふよ浮いているハート型の赤い風船があった。

大人の僕でも取れるかどうか怪しいほど高い位置にあるため、少女が取れずに泣くのも頷ける。

 

……だが、あれくらいの距離なら。

 

「よしっ、お兄さんに任せなさい!」

 

「え?で、でも危ないよ?」

 

腕をがっしりと突き上げ、力こぶを見せて微笑むと、少女は心配そうな表情で僕に視線を向けた。

ううむ、自分の利益だけじゃなく相手の不利益を考えられるとは、将来なかなか有望な少女だ。とはいえ、僕もヒーローである。

 

心配いらないよ、と少女の頭をポンポンと優しく叩いたあと、風船がある場所に手を翳した。

するとふよふよと漂っていただけの風船が、徐々に下へ降りてくる。

 

やがて僕の視線の高さまでやって来た風船。僕はそれがまた飛んでいかないように掴み、少女へ手渡した。

 

「す、凄い!どうやったの!?」

 

「ふふふ、ちょっとしたマジックだよ」

 

目をキラキラさせて喜んでいる少女の前でカッコつけるけど、ぶっちゃけマジックでも何でもない。

僕の能力───念力手(サイコハンド)の力だ。能力を簡単に表すなら、手の届かない場所にあるモノを動かせること。効果範囲は視認出来る所までだけど、僕が手で動かせるものに限定されている。だから、車とかは動かせない。物の運搬などにしか使えない能力だ。

 

戦闘においては役に立たない能力のおかげで、ヒーロー育成学校じゃ落ちこぼれの方だった。

卒業と同時に貰った二つ名は『十人掌(カクタス)』でなかなかいい名前だと思うが、縮めてカスなんて揶揄されたこともしばしば……まぁ、今思い出しても仕方ないことなんだけどね。

 

「おじちゃん!風船取ってくれてありがとう!」

 

「お、おじちゃん……大丈夫だよ、うん」

 

何気ない少女の一言にダメージを受けつつも、悟られないように笑顔で隠す。そして、本当に若ければ受け流して笑っているところでダメージを受けている自分に、再びダメージを負った。

おじさんとはめんどくさい生き物である。

 

「じゃあまたね!!」

 

「あぁ、気をつけるだよー!」

 

そんなこんなで少女と他愛もない話をした後、大きく手を振って去っていく少女を見送った。

……結婚してたらあれくらいの娘がいたのかなぁ。

 

「いやでも、まだ何とかなる……なるかなぁ」

 

ここで自信満々に何とかなる!と言えない自分に少し呆れつつ、見回りを再開する。のんびりと足を進め、地域に異変がないか、くまなく見渡していく。

 

こんなことでも、立派なヒーローの業務だ。

まぁ、僕が怪人と戦えるほど強くないってだけなんだけど。

 

「異変は特になさそうだね……そろそろ戻るか」

 

短い時計の指針が一周しそうなくらい辺りを巡回して、特に異変がないことを確認。踵を返してそのまま事務所へ戻る。

 

「あーあ暇だ。けど暇な方が平和だからありがたいね」

 

ヒーローをやっている以上、やはり常人よりはトラブルには巻き込まれる。でもあくまで常人よりはってだけで、並のヒーローと比べても僕は少ない方だと思う。

 

だからたまに、ヒーローっぽいことをしてみたいな、なんて考えてしまう時がある。

 

「きゃぁぁぁあーー!!ひったくりよぉー〜!」

 

「……へ?」

 

───そんな、ヒーローとしては失格なことを考えていたせいか、トラブルが舞い降りてしまったようだ。

 

声のする方を振り向けば、高級そうなバッグを手に持ちフルフェイスマスクを付けて逃走している黒服の男と、精一杯追いかけている若い女性がいた。

咄嗟に能力を発動させてバッグを引っ張った。

 

「っうぉ!?な、なんだよこれ!」

 

驚きの声を上げて速度を緩める男だが、止めるには至らない。僕の能力はモノを対象に“動かせる”だけで、生き物には反映されないからだ。

 

「くぅ、ダメか!」

 

依然走り続ける男の背中を視界に捉え、能力の行使を諦めて走って追い掛けることに切り替える。ヒーローだから一般人よりかは走ることに優れているつもりだ。

 

身体能力が低下していく歳とはいえ、僕もヒーロー。風を切ってぐんぐんと加速していき、男との距離がみるみる縮まる。

このままならあと少しで追いつける、そう確信した。

 

だがここでイレギュラーが起こる。

 

「ち、近寄んじゃねぇ!!」

 

男は諦めたのかバッグを投げ飛ばすと、どこに隠し持っていたのか、大物のナイフを手に持って走り出していた。

そして、その男が進む先には───生身の中学生らしき少年と少女が、何も知らずに歩いている。

 

「まずいっ!?」

 

走りながら男の手元のナイフに向けて能力を行使する……が、間に合わない!!

男はこちらを振り返ってニヤリと笑うと、少年の方へとそのナイフを突き刺そうと振りかぶった。

 

瞬間。

 

「あ?なにすんっだよ!」

 

「……え?」

 

───男が弾け飛んだ。

もう一度言おう。襲いかかったはずの男が、中学生の少年に弾け飛ばされていた。何を言っているか分からないと思うが、僕も今見た光景が信じられない。

もしかしたら僕は、今夢を見ているのかもしれない。

だって人が軽く十メートル以上飛ぶなんてこと、有り得るだろうか?

 

いや、ない。絶対にない。ヒーローの僕が思いっきり投げ飛ばしても、あんなに飛ぶことは無い。

 

「あ、やべ……し、死んでねぇよな?」

 

「多分?でも、流石にやりすぎだと思うなぁ」

 

「思ったより力が出ちまってさ……けどいきなり襲ってきたあの人が悪いだろ!?」

 

「そうだけどさ、過剰防衛だよ?」

 

……なにあれ、近頃の子ってあんなに強いの?もう僕みたいなヒーロー必要なくない?とヒーローの存在価値に疑問を見出しつつも、投げ飛ばされた男の元へ向かう。

 

微動だにせずお尻を上に向けたまま倒れている男性に近付き、呼吸を確認する。規則正しい呼吸音が帰ってきたため、完全に伸びているようだ。

後はこいつを警察に突き出せば、ヒーローの業務は終わり。

 

捕まえるのはヒーローだが、逮捕するのは警察の管轄である。

 

「あ、多分あの人ヒーローじゃない?」

 

「そうっぽいな……あれ、もしかして俺も捕まえられる?」

 

「“ノア”が警察に捕まっても、僕は友達のままだよ」

 

「仏みたいな顔で捕まえることを前提に話すんじゃねぇ」

 

背後から二人の(多分)心配げな会話が聞こえてくるのを感じながら警察に連絡。その後満を持して、僕の様子を伺っていた二人組へ向き直った。

 

「やぁ、ちょっといいかい?」

 

ビクリ、と震える少年と少女。何故投げ飛ばしていない少女の方も震えてるのか分からないが、僕は事情を説明する。

女性がひったくりにあったこと、そのバッグを投げ捨て凶行に走ったことなどを事細かに話した。

 

「というわけなんだ。君があの男を投げ飛ばしてくれて助かった」

 

「本当ですか?それなら良かったっす」

 

「友達が犯罪者にならなくてホっとしたよ」

 

僕が全てを説明すると、少年は明らかに安心したような表情を浮かべていた。隣に立つ少女も口ではそう言うつつ、肩の力が抜けているようだ。

 

「お前はその友達を犯罪者にしてたけどな?」

 

「てへ、なんの事だか分からないなぁ」

 

やいのやいのと騒ぐ少年少女二人。

どちらも満更でもない楽しそうな雰囲気を醸し出しているのが、とても青春だ。お兄さん微笑ましいよ。

 

この距離感なら付き合うのもすぐ……いや、もう付き合ってるのかな?なんて変な邪推をしてしまうあたり、僕も歳をとってしまった証拠なのか……。

 

「ご協力ありがとうね。それじゃ、気をつけて」

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

最後にお礼を告げて、少年と少女が僕を追い越して歩き出す。何だろう、ただ歩いているだけなのに若々しさに溢れているような気がする。

 

僕が守っていくべきは、ああいう若い子達なんだと思うと誇らしいね。いずれあの子たちが大人になった時、もっといい世界になっていればいいなと心の底から思う。

 

「ありがとうございます、だって!あはは、やっぱりノアって敬語似合わないなぁ」

 

「うるせぇぞリオ」

 

「いたっ!?もう、暴力はんたい!!」

 

「ふん、デコピンの刑だ」

 

その後も二人は、見ているこっちが甘酸っぱくなってしまうほど楽しそうに談笑を続けていた。あの子たちの年齢は分からないが、あの制服はここの近くの中学校のものだ。

 

そういえば、アンチヒーローも中学生らしいが……。

 

「案外、あぁいう子がアンチヒーローだったりして……ハハッ、そんなワケないか」

 

やはり僕はもうおじさんになってしまったのかもしれない。

あんなに普通の少年が世間を騒がすヒーローな訳が無いというのに、何故かテレビで見たアンチヒーローと似た雰囲気を感じてしまう。

 

まぁ、どう考えても気のせいだろうが。

 

「さて、僕も仕事に戻るとしよう」

 

中学生二人組が見えなくなるところまで見送り、歩き出す。

まだまだやるべき仕事が残ってるから、憂鬱になりそうだ。だけど、僕はこの仕事を辞めようとは思わない。

 

だって───僕はヒーローだ。

市民の味方であり、平和を体現する存在だ。

 

「今日も僕は、正義を全うできた」

 

それってとってもカッコイイ事だと、僕は思う。

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