最強のヒーローと最凶の怪人に挑む少年のお話~怪人VSヒーローの戦いに乱入するバグ一般人~   作:霧夢龍人

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土下座

夕日が沈み、茜さす帰り道。

坂を下った先にある俺の家は日に照らされ、薄橙色に輝いている。リオとは途中まで一緒だが、それ以降の帰り道はいつも一人だ。

 

今日は色々ありすぎた。忖度なしに、ほんとに多すぎる。

 

新種の怪人と戦ったし、帰り道では怪しい男に襲われた。その前はリオと引っ付いてる所を医務室の先生に見られたし……。

 

大体、アイツ(リオ)は俺の事を好きすぎるんだよ。さっき帰り道で何であんなことをしたのか聞いたら、友達と離れ離れになりたくなかったとかほざきやがった。

だとしても近すぎるんだよ!

 

リオが裏でなんて呼ばれてるかアイツは知らないようだが、クラスメイト達には『性別不明』って呼呼ばれてるくらいには、“どっち”か分からない。なのに距離感がバグってるから、友達の俺としてはかなり困る。

 

思春期真っ盛りの中学生には刺激が強すぎる。この前なんか、「俺、アイツが男でもいけるかも……いや、男だからいけるのかもしれねぇ」なんて言ってる性癖狂い(変態野郎)がいたくらいだ。

 

「……はぁ、まぁ今考えても仕方ないか」

 

ナイフやら銃やらが入ったバッグを背負い、我が家へ帰宅する。鍵を開けて中へ入り、玄関へ上がる。

 

「ただいま」

 

返事が返ってこないのはいつも通り。母方の祖父母の家に引き取られた俺は、ある程度一人で生活出来ると判断されて以降、この家で一人で暮らしている……と言えば聞こえはいいが、簡単に言えば追い出されたのだ。

 

初めは大変で仕方なくて、祖父母を恨んでいた時もあった。だが今にして思えば、あの人たちも辛かったんだと思う。俺の顔を見つめて辛そうにしていたから、俺の顔と死んだ母の顔が重なっていたんだろう。

追い出されたのは悲しいが、責めることは出来ない。

 

それに家賃やら光熱費やらの諸々の生活に必要なお金は払ってくれるし、銀行にお金を入れておいてくれるため、不自由ない生活を送れている。

 

服を脱いで風呂に入り、簡単な料理をつくって食べる。その後は筋トレしたり、SNSでヒーロー達の行動を観察したりなど、身体作りと情報収集を主として過ごしているのだ。

 

そして俺は今日も今日とて筋トレを行い、ヒーローの情報収集をしていた……その時だ、普段は掛かるはずのない電話が鳴ったのは。

 

「ん?こんな時間に誰から……ってアンタか」

 

スマホに映されていたのは“イデア”の三文字。

最近何かとお世話になっているが、こんな時間に一体何の用事だろうか?

 

「もしもし、どうしたんだ?」

 

『あ、もしもし。君に持ち掛けたい話があるんだけど……まずは二体目の怪人討伐おめでとうと言っておこうかなぁ?』

 

「流石だ。もうその話が出回ってるのか」

 

まだ一日も経っていないが流石情報屋と言うべきか、情報の早さと正確さを重要視しているだけはある。

 

「もっちろん!私達情報屋を舐めないで貰いたいわね。この情報のお陰でガッポリだゾ☆」

 

「……そりゃよかったな、話はそんだけか?」

 

「まぁまぁ、そんなに面倒くさがらないでいいじゃない。君にとってもいい話だと思うからさ?」

 

「いい話?」

 

「あぁそうさ。しかもこの話は、今後ノア君が怪人と相対する上で、かなり実りあるものになってくれる……お姉さんはそう思うなぁ」

 

あのイデアがそこまで言う“良い”話。少し怖い気もするが、乗りかかった船だ。ここまで来たなら、どんなモノだろうと利用すべきだろう。

それに、短い付き合いだがイデアは“嘘”をつかない。

 

情報屋としてのプライドなのか分からないが、良い話という点で言えば誰よりも信用出来る人間だ。

 

「分かった。イデアがそこまで言うなら聞かせて欲しい」

 

「ふふ、いいよ!素直な子はお姉さん大好きさ!……それで、話を戻すけどね。一応確認なんだけど、ノア君の今の武器って何を使っていたっけ?」

 

「諸々あるけど、主に使うのは拳銃とナイフだな。だがナイフはともかく、拳銃に関しては少し攻撃能力に欠けているから、これからはナイフで怪人を倒そうと思ってる」

 

怪人討伐をする時に役立てばいいかと、閃光弾やら手榴弾。催涙ガスにスタンガンなどの小道具は揃えている。だがケプラーと戦った時は使う隙がなかったし、ゴルギスと戦った時には所持していなかった。

お陰で在庫はあるが、もはや無用の置物と化している。

 

「ふむふむ、拳銃に問題があるのか……よし分かった。君に渡したいものがあるから、とりあえず私たちの拠点まで来て貰えるかな?後で場所を君のスマホまで送るからさ」

 

「あぁ、それは良いけどな……」

 

完全に俺の連絡先割れてる……まぁ、今更なんだが。

それに拠点までって、一体向かうのにどれくらいかかるんだろうか?

明日は休日だからいいが、何日か掛かるんだったら非常に困る。

 

「よし!なら明日の12時によろしく頼むね。そこまでの道のりは組員に連絡して無料にしてもらうから……まぁ、君の家からかなり近いから大丈夫だと思うけどね」

 

当然の如く俺の家の場所も知っているのは置いといて、どうやらさほど遠くないらしい。とは言え、油断は禁物。

何があるか分からない場所に向かうからには、武器の所持は必須だろう。

 

「分かった。12時までには着くように向かう」

 

「うん!詳細は会ってから話すよ。それじゃ!」

 

「っあ、おい!……切りやがった」

 

ツーツーと流れる和中音を聞きながら、俺はため息を吐いた。

一体何のつもりかは分からないが、話から察するに武器をくれそうだ……が、それで何を要求されるか考えたくない。

 

ひとまず今日は寝て、疲れを癒すのが先決だ。細かいことは明日の自分に任せればいい。

そう考えた俺はベッドに潜り、朝日の訪れを待った。

 

───

 

予定通りの時間に起床し、そそくさと着替えて指定の場所へむかったのだが……。

 

「ここ、近所のスーパーだよな?」

 

送られてきた情報によると、ここの二階のトイレからイデアのいる情報屋の施設に繋がるらしい。流石に信じられずに三回も確認したが、やはり間違いはなさそうだ。

 

「となると……このトイレだな」

 

エレベーターを上がってすぐ右隣にあるトイレに入り、奥から二番目の個室に手を掛けてドアを閉めた。

トイレの蓋を上げて、脇に置いてあったトイレットペーパーの芯を投げ入れてそのまま流す。その後、準備されているペーパーホルダーを下にスライドさせるように押すと、パスコードを入力する画面が出現した。

 

「……マジで出てきた」

 

俺がしていた奇妙な行動は全て、イデアから送られてきたメッセージに記載されていたモノだ。やっている最中、俺は一体何してるんだろうという気分にさせられたが、流石に虚偽の情報ではないらしい。

信用しているとはいえ、信じ難い内容で面食らってしまったのはしょうがないだろう。

 

パスコードを入力し終わると、トイレの便座が“下”に沈み、丸椅子に小さな背もたれがついた椅子が新たに出現した。

あとはこれに座ると、イデア達のいる本拠地に行けるらしい。

 

「座るだけでいいんだよな……」

 

恐る恐る椅子に座る。すると目の前の壁が開き、奥へ続く道になった。真下にはレールのようなものがあり、恐らくこれで移動するのだろう。

 

しかしどうやって出発するのか分からない。なにか他にボタンでもあるのか、と押せる可能性のある場所を探そうとした。

 

───瞬間。

 

「ッッ!?うぉぉぉぉ~~~!?!?」

 

俺の乗っていた椅子がレールの方向に動き出したかと思うと、凄まじい重力が身体に掛かる。どの程度の速さか分からないが、かなりの速度で移動しているようだ。

気分はジェットコースターだが、どこまで続くか分からない以上怖さは上回っている。

 

断言しよう。俺は今、とてつもなく後悔している。

 

「いつまで続くんだよォッ!?」

 

五分以上経っても着く気配がない丸椅子に恐怖を覚えつつ、少しずつ減速していっているのを感じた。体感的にも重力が和らいでいるような気がする。

 

(多分そろそろ着く頃だよな……あ、光が見えるぞ!)

 

薄暗い道の先に光が見え、出口と確信する。

そして予想通り、椅子はそのままその出口へと直行した。だがこの速度だと、椅子が止まった時に俺は吹っ飛ばされるのでは……?

 

と、脳裏に過ぎる不安。

流石にそんなことはないか……と高を括っていた、その時だった。

 

「なっ!?」

 

「あら?」

 

椅子が急に止まり、慣性の法則に逆らえずに身体が宙へ投げ出される。その先には───下着姿で着替えようとしている“女性”がいた。

顔は薄いヴェールに隠れて見えないが、驚いているのが何とかわかる。

 

(このままじゃ直撃するぞっ!?)

 

見たところ、女性は完全に無防備。避けようとしているのは分かるが、この速度じゃどう考えても間に合わない。

避けるよりも、衝撃を殺して女性に被害が及ばないようにするのが先決だろう。

 

俺は吹っ飛ばされた勢いそのまま、下着姿の女性に“抱き着いた”。女性が潰れないように衝撃を押し殺し、俺の位置を壁際にする。

 

「ガハッ!?」

 

瞬間、襲い来る衝撃。

あまりの強さに、肺の中の息が全て吐き出されたと錯覚してしまいそうだった。

 

「ぶ、じですか……?」

 

「大丈夫、だけど……君の方こそ大丈夫なの?」

 

「大丈夫っす……」

 

嘘である。

流石にゴルギスの大鎌ほどの威力はないが、女性を傷つけないようにする分衝撃はモロに喰らっている。

 

(う、恨むぞイデア)

 

普通に考えて、あの速度で止まったら人が飛んでいくに決まっている。もし俺が事前に準備していなかったら、無事ではすまなかった。

何で昨日の今日で、怪人やら乗り物やらで死にかけないといけないのだろうか?

 

苦悩に満ちたため息を吐きながら、心臓を落ち着かせる。

すると抱き締めていた女性が、少し恥ずかしそうにしながら声を掛けてきた。

 

「あー、独り身だから抱き締めてくれるのは嬉しいけど───そろそろ着替えていい?」

 

「ん?あぁ、すみません!」

 

慌てて後ろを振り向いて、女性の下着姿を直視しないように視線を背ける。背後では女性が着替えを再開したのか、シュルシュルと衣擦れの音が部屋に響く。

 

(事故とはいえ、思いっきり胸を触ったんだけど……流石に痴漢とかセクハラにならない……よな?)

 

手には柔らかい感触と温もり……いやいや、流石にキモすぎるぞ俺。願うのならこのまま部屋を出たいところだが、どこが出口か分からない。

なので俺は大人しく、女性が着替え終わるまで耳を塞いで待っているしかないのだ。

 

「はい、もう大丈夫だよ」

 

「……す、すみません」

 

「ふふ、謝らなくてもいいんだゾ?ここで着替えていた私も悪いしね」

 

着替え終わった女性が、笑いながら俺の謝罪を聞き入れる。背格好は俺より少し高いくらいで、少しスリットの入った司令官のような服装をしている。相変わらず顔はヴェールで見えない。

 

……いや、待てよ。どこか癪に障るその喋り方、それに司令官みたいな服装……この女性、もしかして“あの人”なんじゃないか?

 

(はは、まさかな?そんなことある訳が……)

 

心の中で否定しつつ、どうか違ってくれと女性の姿を見つめる。

だが現実は残酷だ。ヴェールのしたから覗く口許がニヤリと笑ったかと思うと、女性はカツカツとハイヒールの音を響かせて近付いてきた。

 

「さて、私も着替え終わったことだし……自己紹介といこうか」

 

「や、やっぱりあんた」

 

「うふふ。そうさ、“ノア君”の想像の通り私が【怪人情報統制局局長(リデル・ノーティティア)】の“イデア=ウィルメス”だよ。以後、お見知り置きを」

 

やはり世の中は理不尽だ。

まさか下着姿を見た挙句、胸まで触った相手がイデアだなんてことがあるだろうか?

……いや、もしかすればこれもイデアの作戦なのかもしれない。俺の弱点を握ることで操りやすくしているとか、そんなところか?

 

「何が目的だ……」

 

「ふふふ、そう怖がらないでほしいな。お姉さんは優しいから、特に要求するようなことはないよ?」

 

「そ、そうか。良かった!」

 

どうやら違ったらしい。安堵のため息とともに、緊張の糸を解く。

まぁ流石に事故だったから、そんな要求するようなことはしない───「けど、一つ質問があるの」

 

「質問?」

 

嫌な予感がして、思わず聞き返す。

するとイデアは壁際にいる俺に近付いて壁においやると、俺の頭の近くにドンと手をついた。

そして耳元に顔を寄せ、囁くように俺に問いかける。

 

「うん、質問。ねぇ、ノア君───私の下着姿はどうだったかな?あぁ待って、胸も触っていたわよねぇ?しかも思い切り!あの時はお姉さんも思わず驚いちゃった。ふふふ……さぁ、答えて?」

 

「……ええとだな」

 

拝啓、天国の父さんと母さん。そして姉さん。

俺はまだ夢半ばだというのに、どうやら生きて帰れないようです。

 

実際にはそう言ってないが、意味的には脅迫しているのと一緒だろう。

耳を擽る吐息に、別の意味で背筋が凍ってしまうのはしょうがないと思う。あのイデアの下着姿を見たとなれば、俺は一体何を要求されるのだろうか?

 

それを想像して顔が青くなるが、一先ず俺は最終手段に出るとしよう。

 

「取り敢えず、土下座すればいいか?」

 

全身全霊の土下座である。

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