最強のヒーローと最凶の怪人に挑む少年のお話~怪人VSヒーローの戦いに乱入するバグ一般人~   作:霧夢龍人

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嫌な予感

「それじゃあ行ってくるぞ」

 

「渚ちゃん、小学校頑張ってね!」

 

「うん!お兄ちゃんとリオ“ちゃん”、送ってくれてありがとう!」

 

暖かな日差しの温もりを感じる中、渚が通う小学校まで送った後に俺達の中学校まで足を進める。

結局昨日は、リオと渚で三人一緒にお泊まりした。

 

渚がリオのことを“ちゃん”付けで呼び出した時は大丈夫か?と思いもしたが、当の本人は名前を呼ばれて嬉しそうにしていた。リオ君じゃなくて良かったのか?と聞けば、「小さい子に呼び方は強要できないよ」と笑っていた。

 

……いよいよもって、リオの性別が分からない。

別に男だろうが女だろうが対応は変わらないが、もし万が一女だった場合は、昨日リオを家に泊めたことをしっかりと親御さんに言うべきだろう。

 

長い付き合いになるがリオの両親を見たことがないため、リオの両親も俺を見た事がない。ならば、何処の馬の骨とも知らない奴の家に泊まっていると知ったら、普通なら怒りそうだ。

 

「昨日、本当に泊まって大丈夫だったのか?」

 

「ん?なんで?」

 

「いやほら、お前の両親とか心配してないかなって」

 

「あぁ……もちろん大丈夫だよ。というか、兄弟が沢山いるから心配することはないかな。それこそノアの家に泊まっても、ね」

 

そう言われて、余計に頭の中がこんがらがってしまう。だが、渚はリオが男か女かどうか知っている。

なぜなら一緒にお風呂に入っていたからだ。リオから俺も一緒にお風呂に入らないか誘われたが、鋼の意思で断った。

 

それを加味した上で、渚はリオが女と知っているからこそちゃん付けしたのか……だがそれなら、中学生とはいえ一緒に入ろうと誘うだろうか?

 

「分からない……分からないッ!」

 

「どうしたの?自分の正義が間違ってるって気付いた時の主人公みたいな反応してさ」

 

「全然違うからやめてくれ」

 

そんな談笑(?)をしながら学校の門をくぐる。すぐ側には銃を持った雇用兵が佇んでいた。

ここは比較的安全だが、ゴルギスの襲来でセキュリティが厳しくなったのだろう。かくいう俺もいつでも変身出来るようにベルトと伊達メガネ、バッジを身につけている。

伊達メガネはリオに「目、悪かったっけ?」と心配されたが何とか誤魔化して、それとなく黒いナイフも腰に提げている。

 

黒いナイフが少し嵩張るため、おっさんにコンパクトにして貰おうか悩んでいるくらいだ。

 

俺達はそのまま教室に入り、前半の授業を受けた。残りは昼休憩を挟んで午後の授業が残っている。

勉強が苦手なリオは少し眠そうで、欠伸を噛み殺しながら机の上でうつ伏せになっている。

 

「の、ノア一等兵……応答セヨ」

 

「どうした、リオ二等兵。腹ぺこで購買のパンを所望されても買いに行かねぇぞ」

 

「何故それを!?てか僕の方が階級低いし!……せめて飲み物をお恵みくだされ」

 

死にそうな声でおねだりしてくるリオ二等兵は実に滑稽だが、昨日いきなり呼び出した後ろめたさもあるため、しょうがなく飲み物を恵んでやることにしよう。

 

「はぁ、1本だけだぞ?」

 

「ほんと!?やったぁー!」

 

飲み物一本で大喜びするもんだから、言うことを聞かざるを得ない。

そもそもおねだりを拒否出来た試しが無いので、俺はだいぶリオに甘いのかもしれない。

 

欲しい飲み物の種類を聞き、自販機で飲み物を選ぶ。指を翳すだけで銀行から勝手に精算してくれるんだから、便利な世の中になったものだ。

キャップを開いて匂いを嗅げば、芳醇ないちごの香りが鼻腔をくすぐる。

 

「やっぱりいちごミルクは至高だ……」

 

暫く香りと味を楽しみながら中庭のベンチに座り、ボーッと空を眺める。どこまでも広がる青い空は、全国数百万人の頭上を爽やかに照らしているんだろう。

(そら)(こいねが)うと書いて希空(ノア)。今は亡き両親に名付けられた俺の名前だ。一体何を思ってこんな名前にしたのかは分からないし知る由もないが、俺自身はかなり気に入っている。

 

「渚は大丈夫だといいんだが」

 

ふと思い出したのは、愛くるしい少女『渚』だ。

あんなに明るい子が友達作りに失敗するとは思えないが、一応兄として友達作りをレクチャーするべき……いや、逆に俺が渚から教わるべきなのかもしれない。

 

もし教えるなら俺ではなく、もっと友達がいてクラスメートに囲まれている人物で、実力もあって外見もピカイチのやつがいいだろう。

 

「例えばそう、『優希 隼人』みたいな奴だな」

 

クラスの中心人物で、神がいるとしたら限りなく寵愛を受けているだろう人物。前回の射撃訓練でリオを抑えて満点を叩き出したのは、ハヤト以外にいなかった。

加えて頭脳も明晰で、学年順位は一位を常にキープしている。この前の全国模試なんかは三位だったらしい。

それに何かいい匂いもするし、外見が良いリオと唯一タメを張れるレベルの顔面偏差値を誇っている。

 

話したことはないが、機会があるなら居なくなっても悲しくならないくらいの交友関係を築く方法を教えて貰おう。

 

「……ま、話し掛けれたらとっくの昔に話してるよな」

 

そう愚痴を零しながら、いちごミルクを口に流し込む。

空になったボトルをゴミ箱の中に投げ入れて、教室へ戻ろうした。

 

その時だった。

 

「さすが優希くん!やっぱり芸能事務所目指すんでしょ!?」

 

「でもでも!運動神経いいからヒーロー志望じゃないの?」

 

『えーと……ま、まぁ悩んではいるかな』

 

遠くの廊下から歩いてくるのは、遠目で見ても分かる凄まじいイケメンオーラを放つ男と、その両脇で何やら言い合っている女二人。

……どうやら厄介な場面に遭遇(エンカウント)したらしい。

 

だが生憎両脇の女達は俺に目もくれていないので、このまま通り過ぎるのを待つとしよう。目を閉じて完全に情報をシャットダウンする。触らぬ神に祟りなしだ。

 

「優希くんカッコイイから何にでもなれるよ!」

 

「それなー?てか今度一緒にカラオケ行こうよ!」

 

『あ、あはは。考えておくよ………あっ!』

 

前も思ったがモテるというのはやはり大変だ。その点、俺は話せる女子すらいないのでモテることは無い。ちなみにリオは性別が分からないので、今回は省いている。

 

『探したよ〜!どこにもいなくて焦ったんだから』

 

「ちょっ、優希くん?」

 

「なになに、友達?」

 

どうやらハヤトは人を探していたらしい。誰かに話しかけているが、話しかけられてる奴は全く反応を返さない。可哀想だから返してやれよ、と閉じた目を開いて声のする方に視線を向ける。

 

ハヤトの声掛けを無視するなんて、後で女子から総スカン喰らいそうなものだが……。

 

『ほら行こうか!一緒にランチ食べに行くって約束したもんね』

 

「……え?」

 

あれ、気のせいか?

すっげぇイケメンが俺に向かって話し掛けてる気がするんだが……いやいやまさかな。

踵を返して歩き出そうとしたら、ガチッと肩を掴まれて逃げられなくなってしまった。

……完全に俺に向けて話してるよな、これ。いつの間に俺はハヤトと一緒にランチを食べに行く仲になっていたんだ?

 

「ほんとに友達?」

 

「なんかビックリしてない?」

 

『そ、そんなことないよ!ほら、行こうか!』

 

怪訝な表情を浮かべる二人の女の言葉に冷や汗を垂らしながら、俺の腕を掴んで無理矢理連れていこうとするハヤト。

当の俺は何が何だか分からず、ズルズルと引き摺られていく。

 

「お、おいちょっ!?」

 

『ごめん、話合わせてくれない?』

 

「……っ、お前な」

 

隼人(コイツ)ッ、女二人が面倒臭いからって俺を盾にしやがった!

気持ちは分かるが、交流がない俺に協力を求めるか普通!?

 

……だがまぁ、恩を売っておくのは悪くない。

 

「すまんすまん!先生に呼ばれててな。それじゃ、学食行くか!」

 

『ひゃっ!?きょ、距離近くない?』

 

「何言ってんだ。話合わせろって言ったのはお前だろ?」

 

咄嗟に思い付いた言葉で誤魔化し、肩を組んで学食の方まで行くように仕向ける。後ろの女達は何が何だか分かっていないようで疑問符を浮かべていた。

肩を組んでいるハヤトは何故か顔を赤くしながら、肩を組み返してきた。

 

なんかこう、思ってたのと違うというか……肩を組むだけで顔を赤くする辺り、実は人見知りなのかもしれない。いやでも、人見知りなら話す機会がなかった俺に話しかける訳ないよな?

なら何でこんなに動揺してるんだろうか。

 

「早足で行くぞ」

 

『う、うん……』

 

とりあえずこの状況を打破するために、ハヤトにだけ聞こえる声量で囁いて女達が着いて来れないように歩くスピードを上げる。このまま食堂まで行って、大勢の生徒たちに隠れるつもりだ。

木を隠すなら森の中、人を隠すなら人混みの中だろう。

 

やがて───。

 

「よし、ここまで来れば大丈夫だろ。走らせて悪かったな」

 

『いやいいんだ。“私”の方こそ付き合わせて悪かったね』

 

「ほんとだぜ全く。でも気持ちは理解出来るから、これ以上言うのはやめとくわ」

 

『アハハ……はぁ』

 

奇跡的に空いていた食堂のテラス席に座りながら、それとなく買ったメロンパンを頬張る。疲れた表情をしているハヤトには、『特製デカマシヤサイ炒め焼きそばパン』を手渡した。

 

『いいの?』

 

「もちろん。十倍にして返せよ」

 

『……うっ、いただきます』

 

手を合わせた後、大きく口を開けてパンを頬張るハヤト。当たり前のことだが、一見完璧超人に見えたって中身は普通の人間だ。それはヒーローだって例外ではないだろう。

 

だからこそお腹は空くし、あんまりにもしつこかったら逃げ出したくなる。こうして美味しそうに顔を蕩けさせているイケメンもきっと、俺達一般人と何ら変わりない中学生なんだ。

 

そう思うと、どことなく親近感が湧いてきた。

 

「いつもああやって追っかけられてんのか?」

 

『んグッ……うん、大体ね。でも今日は少ししつこかったかなぁ』

 

「んで、クラスメートの俺に擦り付けたって訳か」

 

『ごめんね?でも丁度いい機会かなって。クラスで話したことないの、ノア君とリオさんだけだし』

 

……つまり、ハヤトは俺と話したかったということだろうか?

 

トゥンク♡とオノマトペが付きそうな鼓動が、心臓から迸る。

何だろうこの胸のトキメキ♡は……もしかしてこれが、恋?

 

何ていう冗談は置いといて、こんなセリフを言われて信用出来てしまうのは、このイケメン顔のせいに違いない。

なるほど確かに、クラスメートが休み時間に集まる気持ちも理解出来る。

 

コイツはきっと()()()だ。しかも無自覚でやっているタイプで、かなりタチが悪い。

 

「おらおら!」

 

『ちょっと!な、何するんだよノア君!?』

 

「なんかムカつくから」

 

『理不尽!』

 

このまま話してたら俺もタラシこまれそうなので、頭をワシャワシャと掻き乱して誤魔化す。文句を言っているハヤトも、どこか嬉しそうだ。

友達が多いように見えて、案外こういう距離が近いタイプの馴れ合いをすることが少ないのかもな。

 

「お前も大変だな……」

 

『何か憐れに思ってるねそれ!?折角話せたと思ったのに、ここまでいじられると思ってなかったよ……』

 

「まぁまぁ……話聞いてやるから、少し休憩してから教室戻ろうぜ」

 

「くぅ、ここまで同級生にムカついたのは初めてかもしれない。お詫びに聞いてもらうからね?」

 

その言葉に頷いて、大きく欠伸をする。

 

まだ昼休憩も時間があるし、モグモグとハヤトの話を聞くのも悪くないのかもしれない。『特製デカマシヤサイ炒め焼きそばパン』を食べるのにももう少し時間が掛かるだろうから、丁度いいだろう。

 

暖かい日差しを浴びながら、走ったせいで落ちかけていた伊達眼鏡をかけ直し、つらつらとハヤトが語る話に耳を傾けていた。

 

その時だ。

 

───「聞こえるかな、ノア君」

 

「っ?……イデアか?」

 

伊達眼鏡に突如ノイズが走ったかと思うと、画面にイデアのホログラムらしきものが出現した。眼鏡のテンプル部分に内蔵されたマイクからは、イデアのハッキリとした音声が鼓膜を刺激する。

 

一体何だ?なんの用事だ?

 

───「いきなり連絡してごめんね。でも時間がないから説明は端的に話すよ」

 

マイクから聞こえる音声が周りの音をシャットダウンし、急に静かになったように感じる。体の毛が急に逆立ち、嫌な直感が身体を駆け巡る。

 

何故だか俺はこの瞬間、時が遅くなったように感じた。

そしてイデアが話した内容を聞いて、俺は嫌な予感が正しかったことを確信した。

 

なぜなら───。

 

 

 

 

 

 

 

 

───「君のクラスメート、『優希 隼人』君を殺してくれ」

 

そう言っていたのだから。

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