最強のヒーローと最凶の怪人に挑む少年のお話~怪人VSヒーローの戦いに乱入するバグ一般人~   作:霧夢龍人

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赤への邂逅

「怪人が出現してかなり時間が経ってる……なのに今更来たのかよ、アンタ」

 

俺は吐き捨てるように言葉を告げ、赤いマントとヒーロースーツを身に付けた人物───レッドへ視線を向ける。

仮面を被っていてその顔は伺えないが、幼い頃に見ていた姿と全く変わっていない。

 

だが、レッドに抱く気持ちは幼い頃とは真反対だ。

 

「電子機器がダメになっていてね。先程復旧が終わったみたいで、通報を受けて私が来た頃には……時既に遅し、だったよ」

 

なるほどな。恐らくケプラーの電磁パルスに近い電力妨害は、ケプラーが死なない限り解除されない。

俺がケプラーを殺したから、電子機器も復旧してレッドが来れたのだろう。他のヒーローだと逆にやられてしまう可能性を考慮した結果だと思う。

 

で、だから何だというんだ?

間に合わなかったからしょうがない、とはならないだろ?

 

少なくとも全国に何万とヒーローがいるんだから、レッドが来るまでの足止めをしていればもっと被害者は減っていた。

こんな大都市なんだ、近くにヒーローが居ないなんてことはありえない。もしヒーローが避難誘導していれば、混乱と動揺で逃げ道が滞ることはなく、悲しむ人は減っていただろう。

 

様々な人の死に顔を思い出し、思わず強く握り締めていた拳から血が滴る。

 

ヒーローならヒーローらしく───いや、違うな。

これはただの俺の願望(エゴ)だ。皆を助けて、敵をやっつける強いヒーロー……それは、フィクションの中でしか存在しない。

 

命が惜しいのは誰だって当たり前だ。他人を助けて自分が死んでしまったとしてもいい、と思える人間はいない。

 

「ところで君、怪人の行方を知らないか?出来れば逃げてしまう前に捕まえたいんだが、どうか私に協力してくれないかな?」

 

男とも女とも分からない声色でレッドが告げる。

顔を覆っているヒーローマスクから表情の判断はつかない、がかなり焦っている様子がうかがえた。

 

ケプラーは半年前に現れ散々暴れたあと、レッド達が通報を受けて向かったところ、戦わずに逃げ帰った記録が残っている。そのため、今回こそはと急いでいるのだろう。

 

だがもう焦らなくていい。

 

「ケプラーのことか?」

 

「あぁそうさ」

 

いち早く教えてほしそうに俺ににじり寄るレッド。

 

「なら、そんなに焦る必要はない」

 

「……なぜだい?」

 

俺は疑問符を浮かべているレッドに近づいて、笑みを絶やさずにこう言った。背後で屍となっているケプラーが分かるように、そしてそれを成したのが俺であると分かるように。

 

「───怪人ケプラーは、俺が殺した」

 

刹那、首に刃を突き付けられる。

隠されたヒーローマスクから、凍てついた視線を俺に向けるレッド。背後で倒れているケプラーを黙認したのか。

 

「……キミは何者だ?ヒーロー腕章もつけていないみたいだし、野良のヒーローにしては強さを感じられない」

 

「ッ!?」

 

(は、や……ッ!?)

 

刃が首の薄皮を削ぎ、紅の血がタラりと垂れる。

早過ぎていつ動いたか全く視認できなかった……それに加え、呼吸が止まりそうなほどの重厚な“圧”がレッドから発せられていた。

ケプラー以上の死の気配に気絶しそうになるのを、舌を噛んで耐え忍ぶ。

 

「その上でもう一度聞こう───キミは何者だ?」

 

そしてさらに濃密となる死の気配。正直舐めていたかもしれない。

これが現ヒーロー数万人の頂点に立つグループのリーダー……ケプラーなんかとはレベルが違う。

 

声を出そうとしても、身体が動くことを拒否しているように動かない。

 

「ただの一般人だと言ったら?」

 

それでも俺は声を絞り出し、何とか声を発した。

気絶しそうになるのを痛みで誤魔化し、精一杯の虚勢を張る。

冷や汗が頬を伝い、喉の奥が乾いて思わず生唾を飲み込んだ。

 

「……一般人、だって?それはつまり、ヒーローでもないただの人が、数万人を虐殺した怪人ケプラーを倒したってことかな……冗談でしょ?」

 

帰ってきたのは、呆れとも驚きともとれる台詞。

首に触れる白刃の位置はかわらないが、何となく雰囲気が和らいだのを感じた。

 

俺はその言葉に黙って肯定する。

 

まぁ、でもその反応になるのも仕方ない。

ただのそこら辺にいる中学生が怪人を倒したなんて、デマかガセだろうと疑って信じないだろう。かという俺だって、多分この目でしっかりと見ない限り信じることはないだろう。

 

「……ハハ、マジかぁ。いやぁうん、疑っちゃってごめんね?流石に信じられなくてさ。ていうかキミ、どうやって勝ったの?」

 

「アイツの特性を利用しただけだ」

 

「将来有望すぎでしょ……じゃあさキミ、うちの事務所に来ない?」

 

「断る。絶対に断る。というか俺ばっかり質問答えすぎなんだよ、一つだけ質問させろ」

 

自分の体に降り掛かっていたプレッシャーが解かれ、幾分か喋りやすくなった。おかげで毅然な態度を崩さずに話すことが出来る。

ここで下手に出るのではなく、あくまで俺が演じるのはクソ生意気な糞ガキだ。

 

織田信長もそうだったが、馬鹿で調子に乗っている奴として振る舞うことで、相手に油断を誘うことが出来る。

俺の目標は一般人でも怪人を倒すことが出来るという証明をすることで、怪人とヒーローを否定するだから、いずれヒーローとも戦うことになるだろう。

 

レッドがどんな情報網を築いているかは分からないが、ここで下手に出るよりは馬鹿を演じていた方がマシなはずだ。

まぁ、レッドに俺の下手くそな演技が通じるかは分からないが。

 

「あぁいいよ。なんでも聞いてくれ」

 

俺に対しての緊張を完全に解いて、柔らかな態度で応答するレッド。

そんなレッドに対して、俺は質問を投げかけた。

 

「なあ───あんたの正義って、なんだ?」

 

ヒーローをやっているものが抱く正義。それがどんなものなのか、見定めたい。ただそれだけだ。

そしてその問いに対して、レッドはあっけらかんと答えた。

 

「───弱き者を護る、かな?ちょっとカッコつけすぎな気もするけど……“僕”達みたいな強い力を持つヒーローは、その分責任が伴うんだよ。だから私は皆を護らないといけないんだ」

 

レッドは照れ臭そうにしながら、自分の掲げる正義を主張した。強い力を持つものは弱き者を助け護る必要がある、それがレッドの正義なんだろう。

俺の考えていた正義と全く同じだが、ヒーローらしいと言えばヒーローらしい、流石はトップヒーロー。

 

「そう、か」

 

だが、レッドは少し勘違いをしている。

 

「俺はそう思わないな」

 

「……そうなのかい?」

 

「あぁ」

 

まず、レッドは強い力を持つものは弱き者を助ける責任があると言っていた。だがそもそも、そんな責任はどこにもない。

それに───。

 

「そもそも、俺たち一般人はヒーロー達に護られっぱなしなほど弱くねぇ」

 

「だが、君たちは何の力も持ってないじゃないか」

 

「だからなんだ?俺はケプラーを一人で……いや、ほぼ一人で倒したんだぞ?」

 

「そ、それはキミが強かっただけだろう?」

 

「ハッ、俺が強い?……いいか、俺は一度アンタに助けられたことがある」

 

レッドが困惑したような表情で告げた言葉に、思わず笑ってしまう。だって、俺は一度たりとも自分が強いと思ったことはない。

頭も良くは無いし、身体能力もせいぜい他の人よりは優れてる程度。

 

そんな俺がケプラーに勝てたのは、運が良かったからだ。

情報屋の長に気に入られてなかったら、核という部分が弱点であることに気づけなかっただろうし、そもそも何日も練り込んでいた作戦があんなに上手くいくこと自体ありえないと言っていい。

 

もし電柱をつかんでいなかったら、もしケプラー以外の怪人が現れていたら、もし遺体を盾にしていなかったら……そんなタラレバが全て上手くいったお陰で俺は生きている。

 

「その時俺は何も出来なかった。姉が死んでも、俺は泣きわめくことしか出来なかった、だから……ッ!俺みたいな餓鬼でも怪人を倒せると証明したかった!!」

 

込み上げてくる気持ちを抑えながら言葉を絞り出す。

レッドには感謝している。こんな俺を助けてくれてありがたいと思うし、その命があってこそ今もこうして思いを叫ぶことが出来る。

でもだからこそ、俺は。

 

「だがら俺は───あんたの正義を否定する。俺たちはただ護られるだけの存在じゃねぇんだよ」

 

「……そう、かい。あぁ、そうかい」

 

ヒーローなしでも、弱い俺でも怪人を倒せる。

ならもっと多くの人が怪人を倒せるはずだ。知恵を振り絞り、思いを載せて戦えばきっと。

 

そんな思いを込め俺はレッドを睨みつけると、レッドは面白いものでも見たようにくつくつと笑い出した。

今はいい。今はまだヒーローの仕事があるうちはな。

 

だがいずれはヒーローの仕事をなくして、皆が平等に生きていける世界にしてやる。そうして、ヒーローの仕事をなくして泣かせてやる。

 

「覚えとけよ。俺はあんたらヒーローの存在を否定する」

 

だから今ここで宣言しよう。

 

「アンチヒーローだ」

 

俺はレッドをヒーローマスク越しに見つめて、そう宣った。

 

「ふふっ。アンチ、ヒーローね。あぁ、覚えておくとしよう」

 

笑いを堪えているのか、プルプルと震えているレッドをまた睨んだ後、俺は銃と結局使わなかったナイフを腰に引っ提げ、路地裏へと消えた。

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