ワンダー「………………」
キタサン「………………」
ダイヤ「………………」
誰がなにを言うでもない帰り道、たった3切れ、たった3切れのケーキが今の私の心を写す様に重く、箱から伝わる保冷剤の冷たい熱が私自身の心の温度を写すように冷たい、そのまま誰が何を言うでもないまま、3人はトレセンに辿り着く、周りを見渡せば休日にも関わらずまだ練習している娘が数人いる
ワンダー「………………」
私にとってあの事故で何かが変わったわけではなかった、周りの対応、ネットや記事に乗った自身への称賛の声、両親や友達の心配、変わった事はあれど自身の何かが変わった訳では無い
ワンダー「…………ああ、1つだけ変わったか」
キタサンとサトノダイヤに気付かれないよう小さく呟き自身の足元に視線を移す
本来ある筈のものは無く、ただケーキの箱が車椅子の動く振動と一緒にカタカタと音を立てるだけ、つい数ヶ月前までは確かにそこにあったものを思い返すがもうどんな風に立ってどんな風に歩いていたのか記憶が曖昧で、何より自分がどんな風に走っていたのかすら今の自分には分からない
分かっている、そんなことあの親子には関係無い、偶々あの親子が事故に遭いそうになって、偶々自分がその場にいて、勝手に飛び込んで自滅して、入院中に何度も何度も見舞いに来て謝ってくれて、当たり前の事をしただけだから大丈夫って言った、汚い話、保険金と賠償金でお金にも余裕がある、今日も偶々あの親子と再会して勝手に変な気持ちになってるだけ、自分もあの親子も皆生きている、それだけで幸せ、ハッピーエンドだ、それで良い
ワンダー「………………うん、それで良い」
キタサン「何が良いの」
どうやら声が大き過ぎた様だ、2人に聞かれたみたい
ワンダー「別に、何でもない」
キタサン「何でもなくないよ!!」
ワンダー「………………」
キタサン「どうして、どうしてワンちゃん、いつもそうやって隠そうとするの!?、私やダイヤちゃんの悩みは聴く癖に自分の悩みは全然話してくれない!!、どうして、どうして私達に相談してくれないの!?」
ワンダー「………………分からない、自分でも何に悩んでいるのか、毎日2人と一緒にいて、毎日美味しい物食べて、毎日好きに歌って、好きに生きて、ただ」
空を見れば名前も知らない鳥が堂々と空を飛んでいる
ワンダー「時々ふと我に返った時思うんだ、ああ、私はもう、走れないんだなって、それで無性に虚しくなる」
2人は何も言わない、1秒の静寂が1分にも1時間にも感じる
ワンダー「…………ごめん、忘れて」
それだけ言って中に入ろうとした時
???「あ!!、おねーちゃんだ!!、ママ!!おねーちゃんいたよ!!!!」
ワンダー「…………何で」
振り返るとそこにはランドセルを背負い黄色い帽子から2本の耳が突き出したウマ娘の少女とその母親、少女はブンブンと手を振っており母親は1度お辞儀をする、同時に少女は走り出し私の胸に飛び込んでくる
少女「おねーちゃん!!私ね!!今日ね!!、レースで1番になったの!!おねーちゃんみたいに!!」
母親「この子、貴女のファン何です、レースでも、歌でも」
ワンダー「そっか、良かったね」
少女の頭を撫でると耳がピコピコと揺れる
少女「うん!!、おねーちゃんがあの日助けてくれたから1番になれたよ!!、だからね」
ワンダー「???」
少女「ありがとう!!、おねーちゃん!!」
ワンダー「ッ!?」
少女「???、おねーちゃん?」
ワンダー「…………ううん、何でもない」
そうだ、私はあの日言って欲しかったんだ、ありがとうって、英雄扱いでも、天才扱いでも無い、ただ一言、誰かにありがとうって、だから何をしてもずっとモヤモヤしてた、歌っても、笑っても、だからずっと見栄を張ってた、自分は大丈夫って、私は強いからって、誰にもこの気持ちを知られたくなかったから、でももう良いよねちょっと位みっともなく泣いたって
少女「???おねーちゃん大丈夫?泣いてるの?」
ワンダー「グスッ、グスッ、ありがとうもうちょっとだけこのままで居させて」
少女「???うん!!良いよ!!」
ワンダー「ありがとう」
少女と抱き合い私は誰が見ていようと構わず泣いた、今まで溜め込んでいた全てを吐き出す為に