転生者が好き勝手生きようとするけど曇らされる話   作:じゃがありこ

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第4話

緋色は他人の技能をトレースできる。わかりやすい表現でいえば、能力のコピーだ。故に、コピー以上のことができない。録画されていたプロのピアニストの技能、心を打つと言われた芸術家の業、多くのものをトレースしビデオテープのように技能を再現する。だから、彼にはオリジナリティがない。トレースした技術の継接ぎでしか、自分を表現することができない。皮肉にも彼の転生特典は彼の望みとは対極にいた。

 

曲が作れないわけではない。引けないわけではない。しかし、多くに称賛される代物ではない。だから、彼はどこまで行ってもトレースに頼る。

 

それでも彼の演奏は少女の心を僅かには揺らした。まふゆの心には何がきくのか理解していたから。

 

演奏が終わりカフェの客から賞賛を受け、しばらくあいさつ回りをした後にまふゆの前に座った。

 

カフェの中でも最も端の席で唯一の個室でもあるその場所で、彼は一つの言葉を投げつける。この薄氷の関係に一石を投じる。他人でありながら、少女の心を踏みつける。決して後戻りがきかない手だと知りながら、迷いはない。

 

朝比奈まふゆの心は限界に近い。完全に折れてしまう前に、完全に自分を見失う前に、荒療治だとしても本心を引き釣り出す。

 

自分ならできると緋色は過信していた。

 

「君の人生はこれと一緒だな」

 

緋色は一枚のテスト用紙を取り出した。

 

「このテストの解答用紙には模範解答が並べられている。万人が見ても納得する正解で、だから丸しかついていない。だけど、一か所だけ致命傷がある。名前がないんだ。100点だけど、誰のものかわからない」

 

「………」

 

「満点だけど0点。君の生き方と同じだ。お前、誰の人生を生きてるんだ?」

 

心底侮蔑するかのように緋色は悪人顔で笑う。役者のトレースをした結果だった。

 

「ッ」

 

ようやく、朝比奈まふゆという優等生の顔に罅が入り大きな闇が這い出る。

 

「そんなことを言うために呼び出したの」

 

その表情はどう形容すればいいのか。冷たい微熱を帯びた無表情だった。

 

「誰の人生かなんて……わからない……私は何が好きだった……?何が、したかった……?」

 

声が震えだす。

 

「毎日生きてるはずなのに楽しいことも嬉しいことも感じられない、全部他人事みたい、でも何かが決定的に足りてないこともどんどん自分が欠けていくのもわかってる!怖いよ!でもわからないの!」

 

「………わからない?そんなはずないだろ。お前、あのゲーセンで遊んだ日。最後だけは本心で笑ってたはずだろ!?」

 

「わかんないよ!私もわからないし、他人も私をわからない。私だって探してる!だけど………見つからないの」

 

自分の腕をもう片方の腕で抱いたまふゆを見て、緋色は認識が甘かったと悟る。自分が思うよりもこの少女は壊れているし、自分が知っている子供よりも壊れ方はひどく、ここまでやった人間に対して緋色は腸が煮えくり返っていた。

 

「もうわからない、けどそれは緋色も同じでしょ」

 

思わぬ反撃に緋色が固まる。

 

「さっきの演奏もそう。うまいけどそれだけ。他人の猿真似。どうしようもなく空っぽで虚しいだけ」

 

「それ、は………」

 

少女の口元に浮かんだ笑みはひどく酷薄そうで冷たい。それからまふゆは立ち上がり、虚空を見て悲鳴を零す。

 

「緋色も自分が見つからないんでしょ?空っぽなのに中身がある振りして、人形が人間の振りして馬鹿みたい。何がしたいの?」

 

カフェを出ていった彼女を眺め、緋色はため息をついた。壁に体重を預け、彼女の言葉を反芻する。

 

何がしたいの………か。さてな。何がしたいんだろうな?

 

「俺が知りてえよ」

 

 

 

 

 

 

目を覚ましたら異世界に来ていた。

 

1:イッチだぞ

ジャンル代わった?帰宅してスマホを見ると、いつの間にか【untitled】という曲が入っている事に気づく。不思議に思いながらもその曲を再生すると、白い光に包まれ、見知らぬ場所に来てしまう。

虚無の表情でワイを眺めるバーチャルシンガーの初音ミク。

 

ファンタジー世界だったのか。

 

2:名無しの転生者諸君

情報量が多い

 

3:名無しの転生者諸君

ファンタジーだったか。ようこそこちら側へ

 

4:名無しの転生者諸君

魔物とかいる?

 

5:名無しの転生者諸君

時代は?

 

6:名無しの転生者諸君

ナーロッパ

 

7:イッチだぞ

あー、何というか色んなものが宙に浮いている。ピアノとかギターとか、カメラ、タブレット、マイク、エトセトラ。

中心にでかい観覧車がある。この世界で生まれてから、一番眺めてきた観覧車。

 

8:名無しの転生者諸君

どんな世界や

 

9:イッチだぞ

ここはセカイ。

ミクさん曰く、現実の世界とは異なる、人々の本当の想いを映し出した不思議な世界。

想いの数だけセカイは存在し、想いに応じてその姿かたちを変える。

このセカイが俺の世界らしい。

 

10:名無しの転生者諸君

非日常に足を突っ込んできたな

 

11:イッチだぞ

【実況モード】

視界を少しの間、共有します。

 

12:名無しの転生者諸君

イッチの心象風景なのか?

 

13:名無しの転生者諸君

 

 

14:名無しの転生者諸君

 

 

15:名無しの転生者諸君

 

 

16:名無しの転生者諸君

想像以上に混沌としていて草

 

17:イッチだぞ

浮いてるものに触るとすぐに壊れるんだよね。何か中身がないみたいな。

 

18:名無しの転生者諸君

ここに来て、イッチの闇深さが露見してきたぞ

19:名無しの転生者諸君

み、ミクが可愛いなー

 

20:名無しの転生者諸君

い、インナーカラーの女の子いいよな

 

21:イッチだぞ

何で優等生ちゃんを救いたいのか、考えてみてだってさ

 

22:名無しの転生者諸君

観覧車がマジで異質なんだけど、何を基準に物が置いてあるんや?

 

23:名無しの転生者諸君

何さらっと、ミクと観覧車に乗って話し込んでんだよ

 

24:名無しの転生者諸君

イッチ、とりあえずミクのスカート捲ろう

 

25:名無しの転生者諸君

シリアスについていけないわ

26:名無しの転生者諸君

スカートを捲って解決するか?

27:イッチだぞ

俺がうれしいからやる

28:名無しの転生者諸君

欲望に忠実だ

29:名無しの転生者諸君

空気がより地獄になるだけなのでは、ボブは訝しんだ

30:名無しの転生者諸君

シリアスが別のシリアスになるだけだと、ボブも思いますよ

 

 

 

 

 

 

70:イッチだぞ

今日の収穫は、女の子の平手打ちは痛いけど赤面はテンションが荒ぶるということですね。

71:名無しの転生者諸君

人って処理が追い付かないと、本当にフリーズするんだよね。バーチャルの存在でも同様なんだね。

 

72:名無しの転生者諸君

反省しろ。

 

イッチ、よくやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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