呪術世界の結界術師   作:ペンギンくん

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9.渋谷駅北口 -終/始-

 近接戦闘を基本としている虎杖はその容貌を目にした時、少しばかり厳しそうだと考えた。

 腕が四本、硬質な皮膚、後方を守るためのブレード。

 腕が四本あるのはシンプルに近接不利となってしまう。バッタの呪霊も腕が複数あったがレベルが全く違う。

 

(腹部の口……あれは一体どんな用途で使うつもりなんだ)

 

 ここまで来て見せかけのものではないはずだ。何らかのために使う予定だろう。

 

(…………)

 

 ふと、そこであることに思い至るが、気取られないよう振舞う。

 右腕を前に、左腕を少し下げて構える。ボクシングの構えに似ているが虎杖は我流であるため、ボクシングのスタイルにこだわる予定はない。

 対して真人は四本の腕を広げて迎えるような構えをとりながら、腰を低く下ろしている。

 虎杖よりも背丈が高くなったはずなのに虎杖と目線を合わせているようにも見える。

 バッタの呪霊は四本腕で殴ってきたが、どちらかと言えば四本の腕で殴られることよりも二本の腕で掴まれて、残りの二本腕で殴られることの方が厄介だ。

 一方的な攻撃と言うのは戦いにおいての理想だ。

 攻撃を食らわず、攻撃をし続けられる。

 動物の形を得ても当然のように使いこなしていた真人ならば、腕を増やしても普通に戦えるだろう。

 

(問題は本物の手だな)

 

 何本腕が増えようが、真人が無為転変を発動出来る手は増えることはない。

 虎杖に対して無為転変を使われることはないが、改造人間は真人の戦闘の幅と自由を大きく広げることが出来る力だ。

 今の真人は近接戦闘に特化した見た目であるが、無為転変で飛び道具に出来る改造人間を用意されても困る。

 

「……すぅ」

 

 息を一つ吸い、駆ける。

 真人は動かない。その四本の腕でしっかりと虎杖の攻撃を受けるつもりなのだろう。姿勢を低くしているのも下からの攻撃に備えるため。

 だが虎杖は上体を回転させ、その勢いを足に乗せて真人の顔面に向けて左足で蹴りを放つ。

 それを右の上腕で受け止めるが、さらに虎杖は上体の力だけで体を起こし殴り掛かるが左の上腕で止められる。

 右膝で顔面を狙うがそれも右の下腕で止められる。

 

「ははっ、このまま()いでやろうか?」

 

 虎杖が何かするよりも先に彼の残った腕を、真人も残った左の下腕で掴む。

 傍から見れば虎杖が横向きに真人に捕まっている様子となる。

 腕二本を掴まれて一方的な攻撃を受けるどころが、四肢を掴まれ虎杖にはもう何も出来ることが無いだろう。

 そう真人は思ったが虎杖は頭を後ろに下げて、そして思いっきり頭を前に出しきた。

 

(頭突き?)

 

 顔の部分も硬質化のコーティングをしているため頭突き程度ならダメージにならない。

 そう考えてあえて受けることも考えたが、自身の体が後ろへと崩れていくことに気づいた。

 

(コイツ、頭突きじゃなくて全体重を寄せたのか……!)

 

 今更ながら虎杖が隙を晒すような全身での攻撃の意味を理解する。

 わざと真人の上体部分に自身の体重を掛けるように動き、真人の体を倒すためだった。

 なんとか耐えようとするが優勢になって一瞬気が緩んだことから隙を突かれ、踏ん張りが効かず後ろへと倒れようとする。

 

(ちっ。マズい……!!)

 

 虎杖の四肢を掴んでいるが、上を取られるとなるとまた話は変わる。

 地面に押し付けられている状態だと肘を引いて力を込めることが出来なくなる。

 舌打ちをしながら倒れる体を回転させて虎杖を下側にしようとするが、その回転の勢いを利用して虎杖は真人の手を払い拘束から脱出する。

 そしてそのまま両足で着地し膝を曲げ、地面スレスレの状態で倒れないよう維持しながら真人の胸に目掛けて拳を振る。

 ドン、と言う鈍い音が響く。だがそれだけでダメージは与えられていない。

 

「…………」

 

 虎杖の攻撃の反動を利用してすぐさま体を起こし真人は手を伸ばすが、虎杖は足の力だけで後方転回して回避する。

 

(思った以上に対応速度が早いな。このままだとすぐに攻略されそう)

 

 直情的で直進的。パワー系なのもあって誘導しやすい猪タイプにも見えなくもないが、虎杖はバカではない。むしろ戦闘IQは高めである。

 有利になったからと言って胡坐をかいていたら撃破されてしまうだろう。

 

(今の攻防で自分が不利だと理解したはずだ。腕の数もそうだが、俺の装甲に関してもただの呪力を強化しただけの攻撃じゃ突破出来ないって。……となれば、狙ってくることはわかりやすいな)

 

 最大出力の呪力強化を施した黒閃。

 四本の腕で防ごうとしようが硬い装甲で受け止めようが、貫通して真人を祓うだろう。

 

(俺があのチョンマゲゴリラを倒した時みたく、今の虎杖は狙って黒閃を出せるだろう。それだけの気迫を感じる。なら、それをどうにかすれば勝てるはずだ)

 

 脇腹を槍で貫通したダメージがあるが、逆に言えば虎杖は今のところそれ以外のまともなダメージを受けていない。

 無為転変による必殺が使えない以上、黒閃で戦闘不能にした東堂と同じように総合的なダメージ量ではなく致命的な一撃を重視した攻撃を与えるしかないだろう。

 

(――殺す順序は整った。さぁ、虎杖(アイツ)を殺そう)

 

 上の両腕は空手のまま構えつつ、下の両腕を腹部の口に添える。

 そこからストックした小型の改造人間を取り出す。

 

「…………」

 

 腹部を鋭い目つきで見つめながら虎杖は構える。対して今度は真人の方が駆ける。

 走るのと同時に手の中にあったいくつもの改造人間を上に放り投げる。

 先程と同じで空から飛んでくる槍だ。

 改造しても視覚聴覚嗅覚を残し、それ以外は全て敵を貫く槍としての機能に費やす。

 物量で()すと言う真人の根本的なスタイルは変わらない。

 四本の腕と落ちてくるいくつもの追尾する槍。それも槍に関しては落ちてくるタイミングをズラしており、全てを一回の動きで回避されないように設定している。

 後ろに大きく後退する? 虎杖の性質上、東堂が倒れた方面に逃げることはないだろう。

 

(つーか横にも逃げるとかないか。このまま俺が真っ直ぐ進めばチョンマゲゴリラの場所に行く可能性あるし)

 

 つまり虎杖に残された選択肢は、このまま真人を迎え撃って戦闘位置を維持しなくてはならないのだ。

 槍に関してはそこまで期待していない。ただ虎杖の意識を割ければ良い。

 どれだけ目の前の真人に目線を送ろうと、上からの攻撃に心が向いてしまうはずだ。

 逆に槍のことは無視することを決め込み真人に集中するのであれば、五本の槍が虎杖の体を貫くだろう。

 

(さぁ、どうする虎杖……!)

 

 口の端を笑みの形に歪めながら虎杖が藻掻く姿を待ち遠しく思う。

 そして虎杖は一瞬だけ上の槍に目をやってから駆け寄ってくる真人に接近し、体勢を低くしながら頭から突っ込む。

 

(コイツ、俺を傘にするつもりか?)

 

 真人の下に潜り込み槍の雨を回避するつもりなのだろう。

 腕を伸ばして虎杖を掴もうとするが、さらに頭を低くしてスライディングするかのように速度を上げながら潜り込む。

 伸びてきた腕を掴みながら体を翻し、真人の足を蹴りながら思いっきり腕を引っ張る。

 

 背負い投げ。

 

 勢いよく真人の体が宙を舞う。

 その巨体が降ってくる槍を弾き飛ばす。

 

(いや、それよりも……またこれか!!)

 

 槍はどうでもいいが、この状況は良くない。

 先程と同じようにまた地面に叩きつけられようとしている。

 地面に叩きつけられようが呪力的攻撃でないのであれば死にはしないが、上から押さえつけられるのは良くない。

 基本的に格闘と言うのは身長が高い方が有利である。極端な例になるが、相手の顔を蹴りたいと思っても相手の身長が高ければ足が届かない、などの不利がある。

 身長が高いと出来ることが増えると言うよりも、身長が低いと出来ることが増えないと言う方が正しい。地面を這いずることしか出来ない生物は、空を飛ぶ生物に手が届くことはない。

 だが、地面に押し付けられるのであれば話は別だ。

 

「ふんぐぅ!!」

 

 なんとか両足を地面に着地することが出来た。

 下の両腕も地面に着けて安定させ、掴まれていない腕を虎杖の顔面へと伸ばす。

 真人を蹴って虎杖は距離を取るが、体勢を崩している真人の不利は変わらない。

 虎杖の拳が迫る。それに何とか持ち直した真人も対抗して拳を振るう。

 そして真人の拳が虎杖の腕に当たり、彼は後ろに飛ばされた。

 

「あン?」

 

 一瞬のことであったが、真人は虎杖が拳同士による激突ではなく腕で防いだのをちゃんと見た。

 わざわざ攻撃をしかけておいて直前で防御に変更し、そして距離を取った。やっていることが無茶苦茶でいつもとは違う動きを見て怪訝に思う。

 だが、今の攻防以上に異常な動きを虎杖はする。

 ヒットアンドアウェイとして一時的に距離を取ったのかと思ったが、虎杖はまだ真人に届かない距離から腕を勢いよく振った。

 

「……?……っ!?」

 

 何をしているんだ、と思うと同時にその拳が開き中から呪力が込められた小石が投げられる。

 刹那、東堂の不義遊戯が真人の脳裏に過る。

 

(移動して避ける……いや、真横や真後ろに位置変えされるよりも真正面で術式を発動される方が対処は楽!!)

 

 目の前に迫る小石を瞬時に判断して殴る。

 この状態なら入れ替わったとしてもそのまま殴ることが出来る。

 

(――しまった)

 

 だが、殴る直前になって気づく。

 目の前に迫る小石以外にも遅れて三個、呪力が込められた石が飛んできている。

 二個は真人の正面に飛んできているが、一個は真人の頭上に向けて飛んでいる。

 頭上への投擲……先程の領域内での黒閃の痛みを真人に蘇らせる光景だ。

 

(全部落とす……っ!)

 

 使える腕は四本あり、さらには肘にブレードが付いている。手数は足りている。

 正面に飛んでくる石を腕二本で対処し、残りの腕は警戒のために構えておく。

 そして最初に殴った腕の肘から生やしたブレードを最大まで伸ばし、上の石に攻撃する。

 

(どこからでもかかってこい……!!)

 

 全てに対応する。

 そして石に攻撃し――そのまま砕けた。

 

「…………」

 

 位置変えは?

 あの煩わしい拍手音は?

 あえて位置変えをしなかったのか?

 隙を埋め尽くしたはずなのに、思わず思考が渦巻いてしまう。

 真人を現実に戻したのは、虎杖が防御の構えをしていた彼の腕を取った時であった。

 腕を引っ張り真人の体勢を崩し、反対の手で拳を構える。

 そこでようやく気付く。

 

 ――ブラフ。

 

 呪術師は嘘ついてなんぼ、とは誰かの言葉。

 そもそも東堂は真人の黒閃で完全に戦闘から脱落している。だが呪力が込められた小石だけで、彼の存在感を虎杖は匂わせた。彼自身が何かをせずとも、その戦場にいるだけで敵を警戒させる。

 それが東堂葵と言う術師である。

 術式で翻弄されて刷り込まれた警戒心こそが、東堂と言う術師の厄介さを物語っている。

 

「真人……」

 

 ようやく出来た隙。まともに攻撃出来るチャンス。

 何かに邪魔されることなく大打撃を与えられる瞬間を、虎杖は掴んだ。

 

「真人ぉおおおおおおお!!」

 

 今まで黙っていた虎杖が溜めていたものを爆発させたように、大声を出しながら殴るための一歩を踏み出す。

 絶対に目の前の存在を殴ると言う決意が虎杖の集中力を限界まで高め、全ての想いを乗せ、拳を振りかぶる。

 

 そして攻撃が当たる直前――腹部の口が大きく開いた。

 

 固体化されてないセメントが流れるように虎杖の目の前に改造人間が出現し、彼の攻撃を妨げる壁になる。

 真人はもう虎杖の実力を舐めてはいない。きっと自身に迫る攻撃を放ってくるだろう。そう理解した上での準備。それが腹部の口であった。

 だがそれを超えるために今、虎杖悠二は拳を振るう。

 

【黒閃】!!!

 

 黒い火花が迸る。

 改造人間による壁が砕かれ、その先にある異形甲冑に手が届く。四本の腕は対応に間に合わず、そして鎧の胸を打ち砕いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 砕かれる異形甲冑の腹部から、ソイツ(・・・)は現れる。

 右手を鋭い刃のような形に変え虎杖の首元へ伸びる。

 虎杖が戦っていたのは真人であるが、正確には真人そのものではない。改造人間を薄いが硬質な甲冑に変化させ、その中に真人は入り込んでいた。

 

「ハハハッ!」

 

 仕組みは甲冑を着込んだ騎士と言うよりも機械に搭乗した操縦士、と言う扱い寄りである。

 四本の腕の中に本物は存在せず、全てが操作で動く偽腕。

 最後に虎杖の前に出した壁は自身を守るためのものではなく、虎杖の視界を遮り枷にするためのものだった。

 異形甲冑もブラフ。

 改造人間の壁もブラフ。

 何だったら四本腕も接近戦中心だと見せかけるためのブラフであった。

 すでに真人の生命力は1割を切っている。黒閃なんて食らえば祓われてしまうだろう。

 故に、潜在資質を覚醒させた真人は虎杖が得意としている近接戦闘よりも術式と騙し合いの方を注力することにした。

 

 嘘と呪術。

 

 覚醒した真人は、そちらの道を選んだ。殺すことを徹底したスタイルを取ることにした。

 そして策通りに虎杖を動かし、黒閃を決めた彼の腕は改造人間の壁と甲冑を貫通させた結果、それが重りとなっている。まるで人を救おうとして、人を殺してしまった虎杖を表すかのように。

 そんな真っ直ぐを見続けた愚か者を殺すため、人の呪霊は凶刃を振るう。

 

()ったァ!!」

 

 勝利の声が笑み共に口から零れる。

 ようやく手に入れられる美酒の味を想像し、涎も口の端から流れる。

 そして顎を下から蹴られ、体が上に飛んだ。

 

「アっ…………ハ?」

 

 ――何が起こったのかわからなかった。

 顎を蹴られた痛みで腕は下がり、少しでも情報を欲し眼球が反射的に下を向く。

 視線の先には虎杖の顔があり、先程までの激情を宿した表情は消えていた。

 虎杖悠仁は、ただただ冷徹に真人を見つめていた。

 

(なんで!? どうし——)

 

 蹴り上げられて僅かに浮いた真人の顔面を拘束されていない方の腕で思いっきり殴り飛ばす。

 疑問が頭を埋め尽くすよりも先に激痛に襲われ、真人は後方に吹っ飛ぶ。

 

「あ……が……が……」

 

 自分が殺そうとしたはずなのに、逆に自身が攻撃を食らったことへの疑問。そして痛み。

 それらが真人の体を動けなくしていた。息を切らしながら、ただただ虎杖の方に顔を向けるしかない。

 

「…………」

 

 拘束を砕き、真人を冷徹な目で見つめながらゆっくりと歩いている。

 そして動けない真人の傍に来て立ち止まり、口を開く。

 

「どうして、って顔をしているな」

「…………」

「別に不思議なことじゃないだろ。結局のところお前と同じことをしただけだ」

「俺と……同じ?」

 

 頭が働かない。何を言っているのか理解出来ない。

 

「ずっとお前は俺が嫌がるだろうことを考え、俺に対し嫌がらせをしてきたんだ。……ここまで来るとお前がどんなことをしそうか、俺もわかってきた。ただそれだけだ」

 

 虎杖悠仁が嫌がりそうなこと。

 それを中心軸に虎杖の精神を揺さぶり、誘導してきた。

 人を傷付け、貶し、騙し、冒涜し続けた。

 その経験から真人はここぞと言う場所で真正面からの戦いはせず、ブラフやフェイクを中心とした一撃を放ってくるだろうと読んでいた。

 だから、あえて相手の思惑通りに動いているよう見せることにした。

 真人の異形甲冑に攻撃が効かないとわかりながらも手を止めなかったのは中身を探るため(・・・・・・・)だった。

 揺らし、叩き、持ち上げて確かめ続けて中にいることを確信して、カウンターを入れることにした。

 真人が異形甲冑を見せ札として使ったように、虎杖も黒閃を見せ札として元より使う予定だった。

 

「お前がずっと俺を傷付けたかったように、俺もお前を殴りたかった。俺の全部を否定して殺そうとしていたように、俺もお前の全部を否定して殺したかった。……残酷だとか人でなしだとか言われそうなことだけど、もう俺はそんな心を隠そうとしない」

 

 

「俺は呪術師だ。だから、お前を呪うことを躊躇わない。残酷だと言われようが人でなしだと言われようが……躊躇いなく拳を振るうよ」

 

 

   ◆◆◆

 

 

 なんとか改造人間を取り出そうとする真人であるが、虎杖に腹を蹴られる。

 そのせいで口から吐き出した改造人間を掴み損ねる。

 残念ながらこれ以上、吐き出せるものはない。

 逃げようとするがもう呪力が無い。立ち上がることすら出来ず、真人は体を震わせるしかない。

 それは呪力(たいりょく)が尽きたからか、それともまた別の要因か。

 何にせよもう真人は動けず詰んでいた。虎杖も真人も、両者ともに終わりを感じていた。

 だからこそ、動く者たちがいる。

 

「なっ!?」

「え?」

 

 突如、地面が消えた。

 そう虎杖は認識し大きく体勢を崩すが、真人からしたら何故か彼がいきなり倒れ始めて呆然としてしまう。

 何が起きたのか。少なくとも真人が原因ではない。つまり敵の仲間の奇襲。

 瞬時に判断した虎杖は体勢を崩しつつも真人に向けて拳を振るうが腹部に衝撃が襲い掛かり、体が吹っ飛ばされる。

 

「がっ……!?」

 

 咄嗟に目を向けると額に縫い目がある、袈裟を着込んだ男が真人の横に立っている。

 感覚からして跳び蹴りされたらしく、真人の槍で貫かれた傷口がかなり痛む。

 

「お、まえ……!」

 

 救出された。

 こいつ、メカ丸から聞いた五条先生を封じたやつか。

 痛みを無視して反射的に体が接近するための姿勢に移り、駆けようと足に力を入れる。

 

 ぬるり、と何かが真人の足元から出てきた。

 

 その存在は片手に丸い何かを持っており、それを手の中から落とした。

 それから反対の手に呪力を込め、真人に手を伸ばす。

 

「先輩……!?」

「ここで来るか。……おっと」

 

 地面から玻座真護良が現れ、虎杖と真人は驚く。

 だが事前に玻座真が物質透過能力を使えることを知っていた夏油傑の姿を持つ何某は特に驚かず対処しようとするが、地面に落ちたそれを見て動きを止める。

 刹那、玻座真が落としたものから耳障りな音と夜の闇を切り裂くような閃光が発生する。

 閃光手榴弾(スタングレネード)

 事前にサングラスを拾って襲撃してきた玻座真に対し、他の者たちはまともに食らう。

 距離が離れていた虎杖は眩しく思ったがダメージは少ない。だが夏油何某と真人は浴びるように食らう。

 鼓膜が破れるほどの音は反転術式で対応する。閃光が発生する直前の動きを止め、呪詛師に防がれないよう少し回り込むような形で展延を纏わせた拳を振るう。

 

「悪くない奇襲だと思うよ。ただ君の近接技能がもっと高ければ、の話だけど」

 

 視界が潰れているはずであるが、玻座真は呪詛師に蹴り飛ばされ虎杖の場所までぶっ飛んでしまう。別に呪霊や術式で補ったわけではなく、長年と戦闘経験と格闘技術で玻座真の思惑を上回っただけだ。

 吹き飛ばされる玻座真を虎杖は受け止めながら、真人と呪詛師を視界から外さなかった。

 それにより、青髪の少女が呪詛師の斜め後ろから奇襲している姿が目に入った。

 

「――――」

 

 鬼気迫るという言葉が合うだろう、その表情。

 振り絞るように溜めてから、刀を思いっきり抜いた。

 そして少し離れた場所から見ていた虎杖は、奇襲は刀の少女に留まらないことがわかっていた。

 どこかからか銃弾が。どこかからか風の刃が。どこかからか血が付着した矢が。

 呪詛師の四方を囲むように攻撃が放たれていた。

 その光景を見て、虎杖は交流会の時に京都校の人たちに襲われたことを思い出した。

 だが、呪詛師は素手で刀を受け止め、そのまま刀身を折って銃弾を弾く。

 そして矢に関しては呪霊を手元から出現し、盾にする。

 

「先程の玻座真護良と言い、奇襲のタイミング自体は悪くないと思うよ。ただやっぱ実力が足りてないけど」

 

 折れた刀でなんとか追撃をしようとする少女、三輪を呪詛師は蹴り飛ばす。

 そして未だに立てないでいる真人に近づく。

 

「お疲れ、真人」

「夏油……」

 

 ポン、と労わるように彼の肩に手を置く。

 慈しみすら感じられるその光景だが、彼の呪詛師が次に行うことを……呪術師たちは止められない。

 呪術師たちが見ている中――呪霊操術によって真人は黒い玉になっていく。

 

「……回収されたか」

 

 厄介な特級呪霊を祓い切れず、逃がしてしまった。

 それが呪術師たちの考えであったが……下手人の考えは違った。

 

「続々と集まっているね。それもあって潜っていたけど、顔を出したのかな」

「攻め時だろ。対結界呪霊や最大威力のうずまきを俺は止められないが、余程じゃなければ俺と呪霊操術は相性悪くねーよ」

「そうか。乙骨憂太からうずまきのことは聞いているのか。……クク」

 

 唐突に笑う夏油の姿の呪詛師に眉を顰める。

 

「いや、なに。うずまきは呪霊を攻撃に転用するだけの術式じゃないんだ」

「なに?」

「術式を持っている呪霊をうずまきに使った場合、その術式を抽出出来るんだ」

「……あぁ、なるほど。欲しかったのはその呪霊じゃなくて、その術式か」

「欲張りでね。本当はどっちも、と言いたいんだけどね」

 

 ――極ノ番『うずまき』。

 

 手に入れた真人を飲み込み、すぐに呪霊操術の奥の手によって使い潰す。

 圧縮された真人は呪力の塊となり、玻座真と虎杖に向けて放たれる。

 

「…………」

 

 自身と虎杖を結界で囲い、うずまきを防ぐ。

 想定より威力が低かった。真人の呪力がほぼ底を突いていたからだろうか。

 そう考えつつも領域の準備を始める。

 今回の下手人は目の前の呪詛師と氷凝呪法の呪詛師であろう。要するに今までの事件の首謀者がようやく前に出てきたのである。

 さらに周囲には味方が何人もいる。

 術式が焼き切れても構わない。そう考え発動準備をするが、それを見破った呪詛師は笑う。

 

「言っておくけど、君が期待している九十九由基は来ないよ」

「――――」

「彼女、天元と仲が悪いからね。君だけだとか私だけならともかく、君と私が一緒にいるこの場には顔を出さないんじゃないかな。……自分の領域を囮に特級呪霊を引き出して九十九由基に祓ってもらおうとする考えはちょっと健気だと思うけど」

 

 くすくすと笑ってから、視線を横にズラす。同時に玻座真も同じ方向に目を向ける。

 二人の動きに釣られて虎杖も目を横に向けると、そこには知っている人物が立っていた。

 

「あいつは……」

「加茂の人間、だったか?」

 

 全速力で走ってきたのか。それとも別の要因か。

 その人物は汗を流して息を荒くしながら、苦しそうな表情で三人の元に近づいてきている。

 

「おい、玻座真」

 

 探査結界に引っかかったやつだな、と思っていると後ろから声を掛けられ玻座真はそちらを向く。

 

「日下部さん。待機してたんじゃ」

「おめーと同じで状況見て前に出て来たんだよ。どうにも場が乱れたようだし」

「……気になることを言ったな、玻座真。あれが加茂の人間だと」

「大丈夫か? 虎杖。……宿儺の方じゃないよな」

「あ、パンダ先輩! はい、戻ってるっす」

 

 日下部と京都校の加茂憲紀、そしてパンダが合流する。

 少し離れたところでは三輪の元に西宮桃と禪院真依、そして歌姫の姿がある。

 

「探査結界で見た時に加茂の呪力と似ていたんだが……違うのか?」

「えっと、確か呪胎なんとかってやつだった気がする。赤血も使ってた」

「……呪胎九相図か。厭わしい話だが、確かに加茂家と繋がりがあるな」

「おい、玻座真。さっきから結界使わないでなんか倒そうとしているっぽいが、術式焼き切れてんのか?」

「……対結界能力持った特級呪霊持ちです。真依に急造してもらった*1閃光弾(スタグレ)で隙を突いたんすが、駄目でした」

「マジか」

 

 玻座真ほど依存しているわけではないが、簡易領域を中心に戦う日下部としても厳しい敵がいることを知る。

 警戒しながら再び呪胎九相図と夏油何某を見ると、話が進んでいる。

 

「貴様……やはり……」

「おや、脹相。気づいた様子だね」

「なら、お前は虎杖を……俺たち兄弟とわかって殺し合いをさせていたのか……!!」

「……んん?」

 

 対応は他の人に任せて今のうちに怪我の手当てをしていた虎杖が、脹相の言葉に思わず困惑を見せる。一瞬自分が聞き間違えたのか、もしくは何らかの言葉を聞き逃したのかと思ったのだが、周囲の人間も奇妙そうな表情をしている。

 

「それは当然、わかっていたさ。足りない駒を補うため、そして君のやる気を持たせるためにも壊相と血塗を派遣した。虎杖悠仁なら勝てるだろうしね」

「目的はなんだ、加茂憲倫! 虎杖を……弟をどうするつもりだ!!」

「んんんん??? 弟!? 俺が!?」

「わ、私!?」

「なんだこれ」

 

 脹相とやらが一言しゃべるごとに混乱が加速していることに思わず玻座真は呆れにも近い言葉が漏れてしまう。

 だが、すぐに切り替えて日下部と小声で話す。

 

「……分解して情報を拾うと、あれの中身は史上最悪の呪術師と呼ばれた加茂憲倫ですよね。そこの加茂と名前の呼びが同じだから面倒ですが。んで、虎杖は奴に作られたと」

「無い話じゃねーな。黒幕の人選としちゃ妥当だし、宿儺の器も天然ものじゃねーってことなら納得がいく」

「何がやばいって、加茂家は保守派の母体ですよ。これ総監部もマズいんじゃ……」

「な!?」

 

 日下部と玻座真の会話を聞き、加茂は険しい顔をする。

 加茂憲倫に攻撃をし始めた脹相に指さしながら悲鳴にも近い声を上げる。

 

「馬鹿な、あの二人の会話が本当だとしても150年も前の話だぞ!」

「悪いけど、あの手のやつは何年経とうが発動させられる布石って言うのを仕組んでいるタイプに見える。本家に戻るんだったら警戒しながら戻った方が良い」

「くっ……」

 

 玻座真は知らぬことであるが、加茂は嫡男であり次期当主の身分であるが側室の子である。相伝の術式を継いで生まれたため嫡男として迎え入れられたが、次期当主の身なれど家の人間に全てを明かされていない可能性はある。

 意図的に加茂家の全てを引き継がれていない、奥底が明かされていない。

 その懸念が払拭出来ない以上、玻座真の言葉を言い返せなかった。

 

「落ち着け。要するに目の前のアイツをここで倒せれば布石も何も意味を無くすって意味だろ。……玻座真が言っていた特級呪霊が出てきたら俺とパンダ、加茂で対応する。玻座真と虎杖で加茂憲倫を叩け。よくわからん戦力追加もあるしな」

「もう一人強い呪詛師がいるはずです。氷凝呪法と言う凍結術式を持ってます。加茂憲倫の近くに来たら巻き込んで倒しますが、裏から来たら逃げてください」

「…………心するよ」

 

 今の玻座真の発言に、思わず日下部は面倒臭そうな表情を浮かべる。

 玻座真が『強い』と言うレベルの呪詛師がいること。

 そして感づいていたことだが……玻座真が探査結界を解いていることが今の言い方からしてわかった。

 

(自己強化の縛りの材料に使っているのか、それとも呪力がもう無いのか……?)

 

 玻座真は不意打ち警戒のため戦闘中は探査結界をよく飛ばすのだが、それを止めているとなると彼にも限界が来ているのかもしれない。

 渋谷の異変に招集された面子ではないが、途中合流と言えどかなり働いているのを日下部は人伝に聞いている。

 勝てるのだろうか? 日下部の脳裏に一抹の不安が過ぎる。

 元々五条のフォローとして呼び出されていたが、その五条が封印された。

 次に日下部は玻座真のことを耳にして彼を中心とした戦略を組むことにした。だが、それも玻座真から聞いた特級呪霊の件で破綻気味となっている。

 高専組はかなり消耗している。対して加茂憲倫は今まで呪霊たちや改造人間、そして仲間に加えた呪詛師たちを利用していた。それにより後方の位置にいたため、体力に余裕がある。

 玻座真が言及していた対結界能力を持つ呪霊以外の、特級呪霊も呪霊操術で確保している可能性は極めて高い。凍結術師のこともある。

 いつもであれば日下部は逃げる判断をするのだが……加茂に自身が言ったように今、加茂憲倫を殺さないと後が怖い。

 そう……後が怖い。

 呪術師とは、他人のために命を投げだす覚悟を仲間に時として強要する必要がある、と言ったのは誰だったか。

 全滅する可能性が高くとも、後のことを考え目の前の敵に切りかからなくてはならない。

 ゆえに日下部は、せめてこの中で一番歳を食っている自分が言うべきだと考えて掛け声を発する。

 

「行くぞ!」

「――何処へだ?」

 

 だがその覚悟に対して水を差すよう、上空から氷の槍が大量に降ってきた。

 玻座真からその存在は聞いていたため四人と一匹は奇襲を回避出来たが、その時に虎杖と玻座真は気づく。

 

(なんか……俺は少ない? いや、ほぼ攻撃されてない?)

(虎杖……? 俺とパンダも少な目だな。日下部さんと加茂を中心に攻撃されてないか?)

 

 偶然とは思えない偏り。

 先程戦った玻座真は自身に集中攻撃されるだろうと考えていたからこそ奇妙に映った。

 

(………………やべ。虎杖の死刑賛成派ばかり狙われてね?)

 

 そして交流会で虎杖を殺そうとした加茂と、先程虎杖を死刑することに対して賛成であると口にしていた日下部が集中的に狙われていることに、パンダは気づく。

 呪詛師たちが今後も虎杖を利用しようとしているためかもしれないが、虎杖の印象操作に使われそうだなとパンダは内心呻く。

 

「さっきぶりだな。あんま仲良くしている感じじゃなかった気がするが、出てくるのか」

「否定はしない。あんな奴と仲良くする者なんていない」

「おいおい、酷いじゃないか裏梅」

 

 脹相の攻撃を余裕のある表情で避けながら加茂憲倫は軽口を叩く。

 元々脹相はここに来るまでに消耗していたのもあるだろうが、それ以上に加茂憲倫が全体的に勝っていることがわかる。

 攻撃を躱された脹相は蹴り飛ばされ、日下部にぶつけられる。

 だがそちらを向かず玻座真はしゃべり続ける。

 

「弱みでも握られているのか? そう言うの好きそうだもんな、あいつ」

「好きそうと言うことに関しても否定しないでやる。が、これ以上はお前の軽口にも付き合うつもりはない。私としてもさっさと次に移りたいのでな」

 

 白髪の術師――裏梅は強力な術を発動する準備をする。

 それに対して玻座真も前に出ながら片手印を作り、呪力の解放準備をする。

 

「その凍結術式、少しでも攻撃ミスってみろ。――呪霊操術を対象に領域を発動してやる」

「…………」

「へぇ……」

 

 玻座真護良は四種の領域を持っている。

 無地の領域。黒の領域。白の領域。

 そして、未完の領域。

 発動は出来るが完成の目途が立たない白の領域と違って、まだ理論だけしか完成していない領域のため不発や失敗に終わる可能性が高い。

 そのため使いたくなかったが……そうも言っていられない。

 高位の呪術師である以上、例え自身が不利な状況だったとしても勝ち目を掴み取れる切り札を持っている。

 そして、今が切り時である。

 失敗して死ぬかもしれない。それでも覚悟を決めて前に進む。

 そんな玻座真の覚悟に加茂憲倫は苦笑する。

 

「いや、悪いけど君に付き合うつもりは無いよ。君に付き合うのが一番無駄だからね。……そして、本当に探査結界を閉じているんだね」

 

 凍結術式を警戒し、初手から全てをすり抜ける結界術――空身(うつせみ)を使用する。

 波洞(はどう)と言う空間のすり抜け術の完成系であり、相手の攻撃すらもすり抜けられる技術である。

 【結界師】を参考に玻座真は結界術を使っているが、そもそも神様などに出会って特典として【結界師】の技を貰っているわけではない。そのため解釈で【結界師】の技を再現しているわけだが、流石に限度がある。

 他者の結界をすり抜けるのは結界術の範疇であるが、物理的な壁をすり抜けるのは結界術なのか? と言う問題に行き付いてしまう。それをなんとか結界をすり抜ける技術から発展させ、さらに縛りなどを課して無理やり拡張術式として『空身』を再現出来た。

 結果的に呪力消費が馬鹿にならないためいつもは使わないのだが、四の五の言っていられなかった。

 

 ――氷凝呪法『直瀑』

 ――シン陰流・簡易領域

 

 裏梅の広範囲に渡る凍結術式が発動される。

 空身を発動している玻座真には攻撃が当たらないが、後ろにいた虎杖たちには届いてしまう。

 玻座真が捨て身の攻撃を仕掛けていることを理解した日下部は三人の前に出て簡易領域を発動して中和を狙い、玻座真がこちらの心配をして隙を作らないよう対処する。

 領域展延と違い完全に中和出来るわけではないため多少体が凍り付くが、敵の攻撃を防ぐことに成功した。

 そう一瞬日下部は考えたが、すぐに違うことに気づく。

 

「クソッ……!」

 

 すでに裏梅をすり抜けて加茂憲倫の元に玻座真は駆け寄っている。

 そしてその上空に、強力な呪霊が佇んでいるのを目にする。

 

(野郎、すでに待機させていたのか……!)

 

 生き残るため日々呪術や呪霊を調べることを怠らない日下部は、その正体を看破する。

 高専の名簿に登録されている、蜚蠊(ゴキブリ)への嫌悪や恐怖から特級の格を得た呪霊……黒沐死。

 黒沐死が何かを呟いたと思うと同時に、どこからか大量のゴキブリが現れ玻座真を襲う。

 

「キッショ……」

「ちっ」

 

 蠢く黒い悪魔たちの姿に襲われようとしている玻座真と、料理人である裏梅は純粋な嫌悪感を表情に滲ませる。

 その裏梅の姿に日下部は理解する。

 

(攻撃を中和出来たのは、俺らに攻撃したわけじゃないからか……)

 

 呪霊操術によってゴキブリたちの司令塔である黒沐死は操られているが、万が一にでもゴキブリが近づいてこないよう裏梅は凍結術式を展開した。いわば防御用に張った術の余波によって、日下部たちは多少なりとも凍結させられたのだ。

 凍結範囲を避けるようにゴキブリたちは動く。

 食欲に従い玻座真を襲うが、玻座真の体はすり抜けていく。

 

「まだ手元に残しておいて正解だったよ。このゴキブリたちほどの量の呪霊を放って祓われたら嫌だしね。本来君なら黒沐死を祓えるだろうけど……その透過術式を使いながら他の術は使えるのかい?」

 

 攻撃が当たらないとわかっていながらも、ゴキブリたちは玻座真を食らおうとし続ける。

 その群れから抜け出そうとしても、追い続ける。

 襲われ続ける限り玻座真は空身を解除出来ず、そして日下部たちは裏梅に牽制されて彼の手助けが出来ずにいた。

 先程玻座真の物質透過による逃走を見た時から、加茂憲倫はこの策を考えていた。

 結界術が得意な玻座真と言えど高等術式と領域の同時使用は不可能だろう、と。

 

「さて、ようやく落ち着いた時間が出来たんだ。さっさと次に移ろうか」

「待て!!」

 

 玻座真が封じられ、日下部が凍結させられた。

 それを目にした虎杖は咄嗟に前に出て、加茂憲倫を止めに動いた。

 裏梅がそれを止めようかと悩むよりも先に、最悪の呪詛師は手を下ろした。

 

「無為転変」

 

 虎杖にとってそれは聞き慣れた術式の名前。

 それが今、別の者の口から放たれ、そして術式が発動した。

 術式の効果が黒いナニカへと形を変え、それが空を飛ぶようにどこかへ向かう。

 そしてその光景を見た玻座真は……絶句している。

 

「あらかじめ呪印などでマーキングしておいた者たちに対し、遠隔で無為転変を発動させてもらった。彼らは今後術式が覚醒し、さらには呪物を取り込ませた者たちは受肉体として目覚めるだろう。……呪霊操術で取り込んだ呪霊の精度は、その時点で成長が止まる。回収前に君たちが真人を強くしてくれて感謝するよ。虎杖悠仁、そして玻座真護良」

「お、お前……!」

「玻座真護良。君、許可なく天元の結界に干渉出来ない(・・・・・・・・・・・・・・・・)よう天元と縛りを結んでいる(・・・・・・・・・・・・・)でしょ。結界術への理解度の高さが仇になったね。君に制御権があったら私の無為転変はここで止められてたかもしれない」

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべる加茂憲倫を玻座真は睨むしか出来なかった。

 そして玻座真から視線を移し、鬼の形相で向かってくる虎杖に……もしくは中の存在に向けて、手を差し出す。

 

「返せ! 五条先生、返せ!!」

「さぁ、帰るよ裏梅。――そして再び始まるよ、宿儺」

 

 最悪の呪詛師の下から大量の呪霊が出現する。

 虎杖は呪霊たちに道を阻まれ、手を伸ばすが届かずに終わる。

 

「呪術全盛、平安の世が」

 

 大量の呪霊に呪術師たちは飲み込まれる。

 払いのけ、退け、呪霊たちは夜の闇へと溶け込んでいく。

 そして呪詛師たちの姿は……消えていた。

 

 

*1
構築術式で丸々閃光弾を作るとなると燃費が悪いので、必要な部分だけ作ってもらった




渋谷事変、主人公がどう言う立場の人間かの紹介編終了。
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