呪術世界の結界術師   作:ペンギンくん

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01.リスタート

 白で塗り潰された空間に座り込みながら、玻座真は天元から渡された呪具を見つめていた。

 手よりも少し大きいぐらいのサイズである黒い不気味な箱。蓋の代わりに縫い目のようなものが面の一つに存在している。

 その姿は難解なルービックキューブに苦戦している挑戦者にも見えるだろう。

 実際、玻座真としては似たようなものだった。

 

「……これは無理だな」

 

 スマホを見て経過した時間を確認し、思わず呟く。

 溜息を吐きながら天を仰ぎ、立ち上がって硬くなった体を解す。

 ここは天元が身を隠している『薨星宮(こうせいぐう)』の本殿。その端に現在玻座真はいる。

 数時間前に玻座真は薨星宮に訪れ天元とある程度会話をして、彼の存在から渡された呪具の解析をしていた。

 時間を掛けて解析をしたが、今のところは得るものが少ないので一旦中断することにした。

 そして戦闘とはまた違う疲労感から体をぐったりとさせながら移動を始める。

 

「…………」

 

 薨星宮はいつも白で染まっているわけではない。数十分前に薨星宮は白い世界に変貌したのだ。

 呪具の解析に集中していたとは言え、さすがに空間の変性に気づく。そのことから何が起こったか玻座真は察していた。

 九十九由基が来たのだ。

 どう言う心情からか、隠された奥底にあるはずの薨星宮をさらに白色で塗り潰して見えなくしてしまったのだ。

 偶然なのか、それとも技術があるとみんなそう言う道を選んでしまうのか。玻座真も自身の領域展開の時、生得領域を隠蔽している。そのためあまり他人のことをとやかく言えないんだよな、と複雑な気持ちになりながら目的の場所へ向かう。

 

「大勢連れてきましたね、九十九さん。……乙骨? 帰国してたのか」

「久しぶりです、先輩」

「久しぶり。……みんなも久しぶり」

 

 薨星宮では探査結界を閉じている。さらに天元の呪力で満たされた場所なので、呪力がわかりやすい乙骨が来ていることに気づけなかった。

 声を掛けながら皆の様子を窺う。

 

「…………」

 

 数日前に別れた虎杖と脹相はあまり変わった様子はない。制服が若干切られているが、それ以外の変化は乏しい。

 伏黒も渋谷で負った怪我は大丈夫そうであるが、どこか焦燥したような顔をしている。

 一番変化があるのは真希であった。

 

「知ってはいたが、改めてみるとよく生きてたなって感じだな」

「おかげさまでな。呪詛師どもを追いながら、無事だった補助監督に回収指示出してくれたんだろ」

 

 全身に火傷がある。

 勇ましさを多分に含んだその美貌は見るも無残なものになってしまっている。

 真希自身は気にしないだろうが、彼女と仲が良い者たちからすれば痛ましさを感じてしまう。

 だが、それは彼女への侮辱になるため、怪我のことは労わっても容貌のことを口に出すようなことはしない。

 それから渋谷での出来事に関して伏黒から感謝と謝罪を受けてから、玻座真の手の中にある呪具について話し始める。

 

「……それが天元様の言っていた獄門彊・裏ですか?」

「数時間前に来て解析をしているんだが、どうにも集中して取り掛かっても最長で半年、最短で三ヶ月は掛かりそうなんだよな」

「三ヶ月……って確か二ヶ月ぐらいで死滅回游の同化の儀式が終わるとか天元様言ってなかったっけ!?」

「ついでに言うと所感だが、その死滅回游を安全に解体するには同じく三から六ヶ月掛かると思う。……獄門彊と死滅回游の並列解析はさすがに無理なのもあって、どちらかを選ばなくちゃいけない状態だ」

 

 伏黒の質問に答えると、その内容に虎杖が先程天元から聞いた言葉と比較して拙いのではないかと話す。

 追加で入る説明も合わせ、全員が苦い顔をする。

 

「壊せないの?」

「壊せないな。死滅回游は羂索のやつが天元様の浄界を下敷きにして作った梵界で……」

「……?」

 

 羂索――加茂憲倫の中の者が仕掛けたことに関して話そうとする。

 だが虎杖に質問されてわかっていることを説明しようとしたが、結界に関する専門用語に呪術的知識があまり無い虎杖は目を白黒させるばかりである。

 そのことに気づいたので、表現を変えることにする。

 

「……日本全土に張られている天元様の結界を、大結界と称する。この結界は“帳”とかよりもかなり質が高く優秀な結界だ」

「ふむ」

「次に死滅回游の結界だが、天元様の大結界よりも質が上の結界だ」

「えっ、そうなの!?」

「あぁ。だがさっきも言った通り死滅回游は天元様の大結界を下敷きに張られている結界だ。天元様の一存で大結界を壊してしまえば死滅回游は終了する。羂索が千年掛けて始めた計画もあっさりと瓦解するってわけだ」

「おぉ!……でも、話の流れからすると大結界を壊しちゃ駄目だよな?」

「駄目だな」

 

 続きを聞きたそうにしている虎杖を置き、一旦話を中断して玻座真は天元に向き直る。

 

「それで、事前に聞きましたが護衛は誰になったんです?」

「私と」

「俺だ」

 

 玻座真の質問に九十九と脹相が答える。

 視線を九十九に向けてジッと彼女を見つめる。

 

「……大丈夫っすか?」

「あぁ、心配ないよ。私もちゃんと天元と話したいと思って、残る算段だし」

「そうですか」

 

 きっと来るなら特級呪霊や縛りによって命令を受けた泳者ではなく羂索のはずだ。

 九十九は特級術師であるが、最強の肩書きを得ているわけではない。同格である特級術師:夏油傑の肉体を持つ羂索は千年の呪術的経験値を持つ以上、特級+αぐらいの実力を持っている可能性は十分ある。

 無論……術式相性などもあるだろうが、その相性を埋められるのが呪霊操術だ。

 広範囲に結界を出して大量の呪霊を囲って祓うことが出来る玻座真の結界術と本来なら相性が良いはずなのに、それをたった一匹の特級呪霊で逆転されてしまっている。

 五条悟のような相性なんて問題ない、と言うような圧倒的強者でなければ厳しいはずだ。

 一級相当の脹相が加わったとしても辛いはずだ。

 

 何より、領域が問題だ。

 

 千年のノウハウを持ち、さらには高い結界術を持つ羂索の領域は恐ろしいものとなっているだろう。高い結界能力を持つ相手に領域勝負を挑むのは勝ち目がない戦いに向かうのと同義だ。

 そのため漏瑚は宿儺に領域を使わなかったし、羂索は自身よりも高い結界術を持つ玻座真に対して領域勝負を避けた動きをしている。

 ……それでも大丈夫だ、と言うのであれば玻座真は信じるしかない。

 

「では、俺たちは死滅回游へと向かいます。冥さん……と言うより憂憂を見つけたら連絡ください」

「ああ。渋谷の時のようにならないよう、縛りは解いておいた。私は携帯電話を持たぬから、九十九由基と番号を交換しておいてくれ。……また顔を合わせて話せたら、よろしく頼む」

「えぇ。お互い」

 

 目が四つある異形頭の偉人と別れの挨拶をする。

 顔を合わせた回数は両手で数えられる程度であるが、師と弟子に似た関係だった。

 だが相手が相手だけに、お互い今回の事で永遠の別れとなってもおかしくない。

 獄門彊・裏を天元に返却してから電話番号を交換する。

 ここでやるべきことを終えたので、四人に声を掛ける。

 

「時間もないし、地上へ向かいながら話そう」

「……脹相。気をつけてな」

「お前も気をつけろよ」

 

 お互い親しい者に一言言ってから、白い部屋を出る。

 地上へと向かうエレベーターに乗り、先程の話を再開する。

 

「すでに天元様から聞いているだろうが、獄門彊・裏に関しては天使の術式破却で対応したいと思う。虎杖と伏黒、それと真希には東京の結界二つを中心に捜索して欲しい」

「いや、私は先に武器を取りに行く。それもあって東京結界以外の場所を狙う予定だ」

「……なるほど。てことは人手が純粋に足りないな。狗巻は?」

「硝子さんと一緒に潜伏中だ。通達内容からして上層部はもはや敵だと判断した時点で人質にならないように潜ったってわけだ。棘の呪言は強力だが、その分だけ消耗が激しいからな」

「そう言うわけで秤先輩に声を掛けようと思いまして」

「あー……金次なぁ」

 

 乙骨の言葉に対して微妙そうな声を出す玻座真に、伏黒は怪訝な表情をする。

 

「何かあるんですか?」

「あいつ、保守派と揉めたことがあって……上層部から要らんこと言われて停学になっているんだよ。だから高専から来たってだけであんま良い顔しないかも」

「……天元様から呪術規定に違反した賭け事をしているとは聞きましたが」

「それは知ってる。ちなみにあいつが好きなのは冥さんと違って金そのものじゃなくて、賭け事で発生する人間の情動ってやつだから、金での解決は無理だぞ」

 

 まぁ普通に金は好きだが、と付け足してから同期の面倒臭い部分に溜息を吐く。

 交流会での調査の後、時間があったので秤と綺羅羅と会ってきた。

 秤の停学の件に関して玻座真としては理不尽な内容だと同情しているが、そこから違法賭け事に至るのはさすがに呆れた。

 

「まぁ何か言ってきたら『玻座真先輩が「いつもは俺が後ろで引きこもってるけど、今回はお前が引きこもるんだ。ふーんw」って笑ってました』って言えば良いよ。あ、ここ単芝ね」

「言いませんよ……。いや、最終手段としては使う可能性あるか」

「まぁそれでも断ってきたら一生ネタ擦りするだけだし」

 

 煽りよりもそっちの方が鬱陶しいだろうな、と伏黒と玻座真の話を聞いていた真希は思いつつもわざわざ口には出さない。

 

「さて、とりあえず追加の人材に関しては置いておこう。もしかしたら覚醒型の中には俺らの手伝いをしてくれるやつも出てくるかもしれないし。重要なのは追加する総則だ」

「その件に関して、ちょっと話したいことが」

 

 どう言った総則を追加するべきか話を詰めようとしたところで、伏黒が手を挙げる。

 

「実は俺の姉貴が泳者として目覚めてしまって……」

「マジか」

「今のところポイント変動が無い場合の術式剥奪……総則8に対する総則を追加しようと考えています。それと出来れば死滅回游から他の総則に抵触しない安全な離脱が可能になる総則も追加したいのですが」

「…………となると結界の出入りを自由にする総則の追加も必須だな」

 

 エレベーターが止まり降りる。

 そのまま歩きながら話し続ける。

 

「総則1の泳者は結界に入って参加宣言をする必要がある、と言う部分ですよね」

「絶対に入らなくちゃいけない以上、脱出は必要だ。シンプルに結界内の物資だけじゃ限界もあるし、避難も出来ないしな」

「……結界脱出の総則の追加は本当に出来るのか?」

 

 そこでふと、真希は思いついたことを口に出す。

 

「死滅回游って結界からの脱出と言う目的を泳者に与えて殺し合いさせるための儀式だろ? そう簡単に脱出用の総則って追加出来るのか?」

「……ポイントの移動も出来るようになれば、安全性が確立する。そうなると総則7の永続に接触する可能性があるから、そう簡単には追加出来ない可能性はあるか。……いや、追加は出来ると思う」

 

 忌庫の前を通り過ぎる。

 

「ただ、総則の内容には口を出されるかもな。結界の出入りにはポイント消費が必要、みたいな」

「……そっちは確かにありそうだな。と言うか何をするにしてもポイント消費の内容が組み込まれる可能性が死滅回游の特性を考えるとあるのか」

「あの、話に割って入るようですが……個人的には連絡手段に関する総則も必要だと思っています」

 

 ある程度話がまとまってきたので、追加の総則に対し乙骨も口を出す。

 

「連絡手段? さっきにポイント消費云々にもよるけど、結界の出入り出来るようになれば必須ではないと思うが」

「泳者の中には無差別に得点稼ぎを行う人もいると思います。古い術師の中には殺すことに躊躇いがない人もいるかと。そう言う泳者を先に見つけて情報共有する必要があると思います」

「……そうか。危険因子を外に出すわけにはいかないよな」

 

 頭が痛いと言うように額を押さえる。

 

「ポイント消費が総則の実行に組み込まれる可能性も考えると……かなりの得点が必須ですね」

「……いや、だが方針は変わらない」

 

 扉を開けると、とある寺院に出る。

 天元の薨星宮に繋がる扉は毎回変わるため、侵入は難しくなっている。

 その性質を利用して天元に頼み敵がいないであろう扉に繋げてもらった。

 

「乙骨。お前は俺と一緒に各地の結界に行くぞ」

「先輩とですか? と言うか先輩も参加するんですか?」

「獄門彊・裏もそうだったが、あれは裏側からだったから解析が難しいものとなっている。死滅回游も外側からじゃ解析に何年掛かるかわからん。そのためにも内側に入る必要がある。それ含めて必須時間数ヶ月って話だ」

「ちなみに解析ってどんな感じなの?」

 

 興味が湧いて虎杖が尋ねると、少し考えてから話し始める。

 

「パズルみたいなものだな。表側には絵が描かれているが、裏側は無地だ。普通に表からやればすぐにパズルは完成するが裏側からやるとなると無地の状態で完成させる必要があるから時間が掛かるって感じだな」

「あーそう言えば少し前に流行ったよね。牛乳パズルってやつ」

「あれは真っ白なのが前提に作られているが、これの場合は表を見ながら完成させることを前提に作られている難易度、と思ってくれればありがたい。……悪いが千年掛けて作り上げられた結界である以上、そう簡単に解除するのには無理がある」

 

 むしろ千年単位の計画を数ヶ月で解体出来る方が異常なのだが、わざわざそのことを触れず話は進む。

 

「話を戻すが、死滅回游を壊すだけなら天元様の大結界を解除すれば無理やり終わらせることが出来るんだ。だがそれをすると天元様が築き上げた千年の呪術ノウハウが失われてしまうんだ」

「……例えば?」

「わかりやすい部分だと……本来なら結界術は修得が難しいんだが、補助監督とかは“帳”を発動出来るだろ? あれは天元様の大結界があるからこそなんだ」

「……やべーじゃん」

 

 虎杖の質問に答えながら頷く。

 

「羂索を倒してハッピーエンド、なわけじゃない。明日がある以上、俺らはその明日を前提に動かなくちゃいけない。……と言うか、総則が怖いんだよな」

「総則が、ですか?」

「さっきの話と同じで総則1と2、それと7が怪しい」

 

 人の目を気にしつつ移動し、目的地を目指す。

 

「大結界を壊しても死滅回游が終わらなかった場合が最悪だ」

「終わらないことなんてあるんですか?」

「刑事もののドラマとか見て、壊れたパソコンやスマホのデータを復旧させて中身を確認したりするだろ? 羂索が念入りに計画している以上、壊されたとてデータは残ったりする可能性があるんだ。残念ながらそれらを俺らはまだ認識出来ない」

「…………」

「大結界を壊しても総則が残った場合、入るための結界が無くなって1と2のコンボで死亡とかもあるな。あとは……後入りはともかく羂索によって強制参加者となっている泳者たちは結界壊しても総則が残る可能性ありそうなんだよな」

「と言うと?」

「先の伏黒が言ったみたいに正式な方法で離脱出来たならともかく、大結界破壊での強制終了は明らかに正式とは言えない。……総則は死滅回游の結界に付与されているものだが、参加前提の者たちには縛りのように最初からルールが体に付けられている可能性も無くはない」

 

 ありえない話ではなかった。

 受肉型の泳者は縛りによって呪物化した以上、死滅回游が開始する前から総則と同じルールが刻まれていた可能性はある。

 覚醒型に関しても彼らは羂索に呪印を刻まれた被害者である以上、縛りとまでいかなくても同じような内容が体に植え付けられた可能性はある。

 散々玻座真が言っているように死滅回游から本当の意味で終わらせるためには、結界を壊すのではなく安全に解体する必要がある。

 

「フラグみたいで嫌だが……まぁ改めて口に出す。羂索の儀式は二ヶ月で慣らしが終わるようだが天元様の奪取と言うピースが埋まらなくてはいけない。他にも五条先生の解放さえすれば潜伏されて倒せなくなっても、その間に死滅回游を終わらせられる。千年掛けて作り上げている計画である以上、小さなミスぐらいならなんとか修正出来ても大きな欠落は取り返しがつかないだろう」

「そして死滅回游を解体出来るかもしれない存在である先輩を僕が護衛しつつ得点稼ぎをする、と言う形ですか」

「つってもこれは瞬間移動出来る憂憂がいること前提だけどな」

 

 駐車場が見えてきたのでポケットから鍵を取り出す。

 奥にあったバイクに近づき鍵を挿し、そしてヘルメットを取り出して乙骨に渡す。

 

「俺と乙骨で遠い場所から攻める。金次との交渉が駄目だった時は素直に天使がいる結界に二人で行け。天元様が勧める以上、危険思想を持っているようなやつじゃないと信じたいが……まぁヤバそうなやつだったら放置して俺らに任せて良いから」

「うっす」

「わかりました」

 

 話を終えたので自身もヘルメットを被ろうとしたところで、ふと手を止めて椅子に置く。

 なんだ? と言うように皆が玻座真を注視する中、懐からペンを取り出して虎杖に近づく。

 

「虎杖、ちょっと手を出せ。どっちでも良い」

「え。あ、はい」

 

 虎杖の右手を取り、その手のひらにペンで何かを書き始める。

 くすぐったさを感じ思わず笑みを浮かべそうになるが、書いている文字を見て虎杖は止まる。

 

「何やってんだ?」

「自分を見失わないためのおまじない、みたいなものさ」

 

 真希に聞かれ答える。

 他の人間も虎杖の手を覗く。

 

「……なぁ、先輩。ペン貸して」

「ん? いいけど」

「……おい、なんだ。手を掴むな」

「良いから良いから」

 

 虎杖が伏黒の手を無理やり取り、彼の手の平にも自分のと同じ内容を書く。

 鬱陶しそうにしながらも伏黒は受け入れ、その文字を見る。

 

『私の名は悠仁』

『俺の名は伏黒恵』

 

 それを見て玻座真は小さく笑みを浮かべるが、ペンを懐に戻しながら表情を引き締める。

 

「これからは対呪霊だけじゃなく、対人間との戦いになる。それも改造人間のような異形ではなく、そのまんまの造形だ。虎杖としてはあんま変わらないと思っているかもしれないが、意識している以上に消耗するはずだ。……何より覚醒型は未知数の存在だ。古くからの伝統が残る術式と違い、文字通り新しい可能性に満ちた術式に目覚めている可能性もある。対処の仕方に戸惑いが出る以上、やり過ぎる(・・・・・)こともある」

「…………」

「過酷な状況を乗り越えろ、飲み込めとは言わない。ただ自分を見失うようなことだけは無いようにしろ。最悪難しいことは考えず、俺たちの目的だけを果たすことに集中すれば良い」

「……うっす。ありがとうございます」

 

 頭を下げる虎杖の肩を軽く叩いてから、今度こそヘルメットを被りバイクに乗る。

 

「んじゃ、また」

「またね」

 

 言葉を交わしてバイクを発進させる。

 久しぶりの運転に最初は様子見的な速度で運転をしていたが、慣れてくると速度が出てくる。

 人里離れた位置にある高専から、多くの人がいるはずの都心を通る。

 そう……いるはず。

 現在の東京は人気(ヒトケ)が全くなく、日本の絶望的な状況を表していた。

 

「先輩。一つ聞いて良いですか?」

「なんだ」

 

 ヘルメットで遮られているし、風を切る音で声が聞こえ辛い。

 それをわかった上でも乙骨は玻座真に質問をする。

 

「先輩は先程、五条先生の解放か天元様の護衛成功さえすることが出来れば羂索の計画を阻止出来ると言いましたよね」

「言ったな」

「それってつまり……天元様を奪われた状態だと、先輩は死滅回游を終わらせられないってことですよね」

 

 死滅回游を終わらせることが出来るだけの力を玻座真が持っていることを、羂索なら思いつくはずだ。そのために天元と同じように乙骨を護衛としても連れて行った。そう他の者は考えたはずだ。

 だが、乙骨は玻座真の言い方に違和感を持ち、もしかしたらと聞いてみた。

 玻座真を放置していても羂索は平気な理由があるのではないか、と。

 

「……死滅回游は大結界に敷かれた呪術舞台だ。天元様は死滅回游に運営はいないと言っただろうが、ある意味天元様が運営と言う立場に近いんだ」

「…………」

「大結界を壊せば強制終了させられるって言うのはそう言う意味なんだが。……もう少し言うとネットのサーバーだとかの母体の運営に近い」

「ネットのサーバー?」

「インターネットが大結界で、死滅回游は悪質サイトだ。インターネットを消せば悪質サイトも一緒に消えるが、そんなこと出来るはずもないって話だ。……で、だ」

「…………」

「当然ながら天元様の権限は極めて大きい。子権限を持つ俺でも親権限を持つ天元様が拒めば干渉は出来ない」

「それってつまり……」

「そうだ。――例え死滅回游を解体出来るようになったとしても、高度な結界術を使える羂索が天元様を手中に収めた場合、俺ですら出力負けして干渉出来なくなる。ただただ壊すことすら良くて数年、解体だと数十年は費やされるだろうな」

 

 思わず乙骨は苦い顔をする。

 例え天元が奪われたとしても大本の大結界をなんとかすれば良い、と言う考えは甘かったらしい。

 

「……追加の総則で儀式を無効化することって出来ると思いますか?」

「遅延すら無理だろうな。そもそも死滅回游は羂索の儀式のために組み立てられた結界だ。総則自体が死滅回游を動かすためのものである以上、土台(ぜんてい)を崩すような総則の追加は総則7(えいぞく)の件が無くても無理なはずだ。……得点移動や離脱はギリ行けそうだが。殺し合いではなく儀式の完了が目的だし」

 

 五条を解放出来たとしても、先に死滅回游の儀式が行われれば日本は終わりである。

 少しでも儀式の方をなんとか出来ないかと意見を聞いてみたが、無情な答えが返ってきた。

 

「と言うことは……どちらにせよ羂索を倒さないと話にならないってことですね」

「…………」

「どうかしましたか?」

「いや? 別に」

 

 乙骨の想いをなんとなく察しながらも、口には出さずアクセルを回して加速する。

 目的地……仙台結界までは、まだ時間が掛かる。

 




一応再開。ただ忙しくなりそうなので不定期更新になりそう。
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