呪術世界の結界術師 作:ペンギンくん
……ところで前話を見直してたんですけど、天元様と玻座真の縛りの詳細の文章、消えてますね。文章の添削中に間違えて消してから投稿したかもしれない。どこかで改めて入れます。
「――――っ」
結界内に入った瞬間、死滅回游の総則化されていないルールによって自身がランダム転送されることを理解した。
抵抗しようとするが術式を構築するよりも先に転送されてしまう。
上空に飛ばされた。ドームのような建物が目に入り、その周囲を二体もいるビルよりも巨大な齧歯類の怪物が荒らしている。近くには乙骨はおらず、代わりに翼竜のような生物が何体も飛んでいる。
「“黒姫”」
空から落ちながらも気にせず決めていたことを行う。
黒姫が空間に潜ると、その波紋が広がり仙台に薄い淀みのような呪力が伝播する。
「『
乙骨の場所や他の術師たち、そして生物たちが式神であることを把握。
さらに巨大な式神が通った空間がおかしなことになっていることを理解。
……そしてすぐに自身ごと覆う結界を展開する。
パン、と言う音と共に結界内に何かが侵入してくる。
舌打ちしつつ集中的に壁用の結界を三重に張るが、それらも突破されていき貫通する。
「…………」
手を向けて防ごうとするが、それすらも貫く。
そして額に向かう――ところで、さすがに限界が来る。
「『絶界』」
自身の体を覆う程度の範囲で消滅の結界を展開する。
それによって侵入してきたものは削れていき、この世から去った。
(銃弾だったよな、今の。しかも偏差射撃を回避するためにも足場作ってその場に留まったのに……曲がった? いや、術者の位置からして狙撃と貫通特化の術式だ。となると最初に聞こえた声が怪しい)
反転術式で手を治しつつ結界を解き、警戒しながら再び空から落ちていく。
その玻座真を追うように周囲を飛んでいた飛竜たちが襲ってくる。
(てかなんか聞こえたよな。ウォンテッド……指名手配? ヘイトやタゲを集めさせる術式ってところか。タゲ狙う奴らに
飛竜たちを結界で囲い滅する。
足場の結界を細かく作って下りながら、地上に着地する。
(第二弾が来ないし、そもそも術式宣言が上空にいた俺にはっきりと聞こえたのがおかしい。どちらも縛りか?……こっちに向かってきているやつもいるな)
探査結界による呪力の動きからして積極的に動いている術者は九人。
その場から動いていないが、いつでも動けるよう呪力を抑えながら滾らせているのが内二人。
黒沐死が探索に引っかからないことから、結界に入る前に考えていた潜伏状態は当たっていたかと少し面倒臭く思う。
「コガネ。結界内の得点持ちを高い奴から順番にリストしろ」
『はーい』
コガネが出現して体がモニターに変化する。
名前・得点・総則追加回数・滞留結界・生存について。それらが表示される。
一覧には突出した得点保持者である三人と一体を除き、20点に満たないながらもそこそこポイントを持っている泳者が六人表示される。
あとはいても1点や2点程度。
「いやー君強いね。もしかして
「…………」
建物の陰からお迎えがやってきた。
長方形の盾を持ったガタイの良い男と、痩せ型のニヤケ面の男。
痩せ型の男はヘラヘラしながらも警戒したように拳銃を手にしている。
(ライオットシールドに……拳銃? てかあれ、警察が持っている拳銃じゃないか?)
ドラマなどで機動隊が持っている姿を見ることがある、長方形の盾。
そして玻座真はニューナンブだとかなんとかの正式名称を知らないが、偶に呪霊が関わる異常事件の通報を受けて駆け込んでくる警察官が手にしている回転式の拳銃。
その二つを見てある考えに至る。
「アンタら……警察か?」
「
まぁ当然警察もいるか、と玻座真は嫌な気持ちになりながら考える。
警察の中には突然の死滅回游の開始に正義感から動いた人間もいるはずだ。わざと結界内に残って一般人の避難をしようとした者もいるだろう。
だがその姿がないことから、善徳な警察は殺され術式に覚醒した不良警察が暴力を振るっているのだろう。
(羂索が選んでいる以上、ある程度は馬鹿やってくれそうなやつに呪印を刻んだんだろうな)
伏黒の姉のように呪術師の身内を狙って死滅回游に巻き込まれるようにしてゲームが活性化するようにしているパターンや、あまり深く考えず殺し合いに参加してくれる人間を選んでいる可能性は極めて高い。
後輩たちは受肉型の古い術師は躊躇いなく殺してくるだろうと考えていたが、こうして見ると現代の術師も普通に殺してくるよなと玻座真は溜息を噛み殺す。
現代は平和であるが、破壊衝動を含めた
法によって抑制されているが、法が機能していないなら話は変わる。
暴力を抑える力は法側には無い上に結界内では無法がまかり通る。
殺し合いを強制されている以上、何をやってもしょうがない。そう言う免罪符を得た者たちが活き活きと動くのだ。
古い術師の方が躊躇いはないと言うだけで、現代の覚醒型術師も普通に殺してくる可能性があることを後輩たちに言わなかったことを少しばかり反省する。
どの時代にも、どの環境にも。救えない奴と言うのは存在する。
「5点刻みじゃなくて半端な辺り、一般市民を殺しているよな」
「そうそう。呪霊に襲われているところを助けて、安堵しているところを殺したり。逃げまどっている奴らを後ろから撃ったり。ゲームやっているみたいで楽しいよ」
「ゲームねぇ……」
悪趣味が過ぎる。
27点保持しているやつが会話をしている相手だろう。
いわゆる弱い者虐めが大好きなクズ。警察になった動機も不純なものを勝手ながら感じる。
ガタイの良い男も鼻を鳴らすだけで、痩せ型の言葉を否定しない。
「なに? 君たちは正義の味方で僕らを倒しに来たの?」
「……いや、正義の味方じゃないさ」
君たち、という言葉から何人かは乙骨の方に向かったなと玻座真は考える。
いくら玻座真が目立つように動き乙骨が呪力を潜めても初狩り*1や着地狙いで得点稼ぎをしようとする者がいる以上、転送位置を見張られているはずだ。
(こう言う部分を伏黒たちにも情報共有出来れば良いんだが……)
乙骨が想定していた通り、通常の“帳”と同じで電話など使えないだろう。渋谷事変の時のような通る存在を限定する結界でない限り、通信も遮断されてしまう。
結界内も連絡を取れるか怪しい。通信と同じで電波が遮断されてしまうのか乱れてしまうのか不明であるが、携帯電話が使えなくなることが度々ある。
こうなるとランダム転送が厄介だ。
『ギャァ! ギャア!』
「……お前ら、ドルゥヴの支配下に下っているのか」
「そ。さすがにあの翁との実力差ぐらいわかっているよ。殺されないためにも得点稼ぎの手伝いをしているんだよ」
翼竜型の式神が集まってくる。このまま行くと巨大式神も一体は来るだろう。
「六人いるよな。最後は殺されて30点になるんじゃないのか?」
「翁は約束してくれたよ。手伝ってくれれば殺さないでくれるって。獲物は結界外にもいるから、得点集まれば総則追加して結界の外に行くからって」
「…………」
その言葉に玻座真は思わず半眼になるが、あえて思ったことを口に出さずに終える。
「さて、そろそろおしゃべりは終わりにしようか。お仲間を待っているのかもしれないけど、残念ながら来ないよ。そっちにも僕たちのグループの人間が向かっているし」
「いや、特に待ってないが。どちらかと言うとお前らに興味があっておしゃべりしてた」
「うん?」
ニヤケ面から不思議そうな顔に変えるソイツに向けて、
「ほら、お前みたいなクズなら俺の方もゲーム感覚で特に心を痛めずに殺せそうだなってわかったしな」
「――『
玻座真の殺害宣言を聞くと同時に、痩せ型のニヤケ面は真顔になりガタイの良い男に向けて術式を使用する。
術式発動と同時に玻座真の視界に異変が発生する。
涙で視界が歪んだ時のようにぼやけ、ガタイの良い男だけがはっきりと見える。
超集中していると時間が引き延ばされたような感覚に陥る、異質な状態。
時間と距離の感覚がどんどん狂っていくのを感じながら、
(もう一種のタゲ集か。どう考えても後方から撃った方が良い術式内容だが……距離が近いほど効力が増すのか、それとも対象の近くにいないと発動出来ない縛りが術式に最初から組み込まれているのか?)
肉体と呪力の動きが鈍くなり、脳もどんどん思考が目の前の男に偏っていく。
その情報から完全に鈍くなる前に、頭の中で整理する。
一つ目の術は相手を指定して、意識をその者に集中させた上で襲い掛かるなら強化が乗る。
二つ目の術は相手を指定して、意識をその者に集中させた上で襲い掛かるなら弱化が乗る。
前者が玻座真に使われた術で、後者がガタイの良い男に使った術。
(狙撃の銃弾が俺の方に曲がったのも、このタゲ集の術式によるものか? 翼竜たちも強化されているだろうな)
普通に強い術式なんだがな、と思いつつも付き合うつもりもないので玻座真はさっさと抜け出すことにする。
盾役・支援役・狙撃役のコンボによる足止め。
これによって確実に獲物の動きを封じ、自分たちの主であるドルゥヴの式神によって対象を抹殺する。
今の立場に不満が無いと言えば嘘になるが、傘下にいれば殺されないし他の強力な術師から護ってもらえる。
(ゴキブリ野郎はばっちいし、リーゼント野郎は大砲がやべーし。全裸女には銃弾も盾も効かねーし。受肉型って言うやつらは化け物ばっかかよ)
対して今回の獲物は覚醒型の現代人らしい。
受肉型は得点を稼ぐために死滅回游が開始すると同時に、さっさと結界内に入ってしまっている。
遅れて入ってくる泳者は戦う覚悟が今まで持てず結界に入る勇気を持てなかった者か、結局覚悟は無いが総則による罰が怖くて渋々入ってくる者だ。
(それにしてはこのガキ、落ち着いていると言うか……)
翼竜が集まってくるのを待つために話の種として言ったことが合っていたのだろうか。
外で戦ってきて覚悟が出来た覚醒型か、ただただ遅れて入ってきた受肉型か。
何にせよこれで終わりだ。翼竜で倒せなくても待っていれば巨大な式神がやってきて押し潰すだろう。
油断するつもりはない。だが術中にはまった以上、もう目の前の存在はただ死ぬのを待つだけだ。
空中にいるのであれば狙撃し、地上にいれば敵愾術式と防禦術式で完封する。
パターン化した手法によってこのまま得点を稼ぐ。それはこれからも変わらない。
「――領域展延」
そして変わらないものを終わらせるものは、いつだって自分たちの想定の上を行く者だ。
特殊な呪力を纏ったのは理解出来た。突如自身が掛けた術式が遮断されたのは理解出来なかった。
術者はもちろん、敵愾術式の強化の恩恵を受けていた者たちは目に見えて動揺する。
その隙を突くように玻座真は動く。
「『
人差し指と中指を立てて横に振るう。
それと同時に敵愾術式も復活するが、その効力を受けるよりも早く術者である痩せ型の男と翼竜たちは長細い結界に体中を串刺しにされる。
「な……なんだ!?」 『5点が追加されました』
盾持ちの男がここに来て声を出すが、気にせず行動に移る。
動揺している男の盾を蹴り飛ばし、自分よりも背の高い男の顔を掴む。
何か言おうとする。だが聞く必要を感じない。
「『絶界』」
展開個所を限定する縛りによって出力を上げた黒い結界が玻座真の右手に纏う。
防御能力を上昇させる術式を持っていると思われる男の呪力を超え、男の頭は消滅する。
『5点が追加されました』
◆◆◆
「はぁ……! はぁ…………!」
息が切れているが、止まらず走り続ける。立ち止まって休憩したいと体は訴えているが、心は早く早くと足を無理やり動かす。
握り締めている拳銃は今まで自身を支えてくれていたが、今では心許無い武器にしか思えなかった。
上空に現れた新しい泳者を撃つ役割を持っていた。時々それによって殺して自身に得点が入ってたことがあった。それは想定内のことであったため契約違反ではなかった。そのため傘下に入っても得点を得られる仕事を貰えて彼は喜んだ。
装填出来る弾の数を減らし、さらに撃つまでの時間を溜めれば溜めるほど射程距離と貫通能力を増加させる縛りが組み込まれた術式に彼は覚醒した。そのため扱ったことがない狙撃銃を用意しなくても彼は強力な遠距離攻撃が出来た。
前に出る危険性もない。安全な場所から撃てばいい。そんな立ち位置を獲得した。
それが、あっさりと崩壊した。
「死にたくない……! 死にたくない!!」
気づかぬうちに口から言葉が漏れる。
この仙台結界に君臨する強者たちと同じで、殺せるなら殺すを躊躇いなく実行出来る強者が今更現れたのだ。
その力量差がわからず今まで通り、で手を出してしまったから制裁を受けた。
「死にたくな……あぐっ!?」
勢いよく体が何かにぶつかる。
衝撃により体が跳ね返り倒れる。
「あ……」
それによって何が起こったのか理解する。
気づかなかっただけで、自身を囲う青色の壁が出現していたのだ。
そして蓋をするように、上部が目の前で閉じて箱が出来た。
「嫌だ……」
青色の箱が歪んでいく。
何が起こるのかわからない。だが目の前の壁が殺意によって歪んでいるのはわかる。
「死にたくな――」
そして青色の結界は圧縮され、破裂する。
中に閉じ込められていた存在は……血だけを残して消えてしまった。
『5点が追加されました』
「…………」
「…………」
その様子を玻座真は探査結界により。
そして彼の目の前にいる術師は式神との視覚共有によって把握した。
「酷い者だ。私の可愛い部下たちを……」
「そう思うんだったら縛りの説明するだろ」
受肉型と覚醒型の一番の差は、呪術知識の量だ。
ある程度は覚醒型にも知識の補助が入っているのかもしれないが……縛りについての補足がされていない様子である。
結果、術師同士であっても騙されるケースが発生する。
「これは用意された殺し合いだ。今後に備えて得点を稼ぐことは、何か悪いことなのか?」
「別に? ぶっちゃけ戦時中も同然な状態なんだ。戦争は善悪じゃなく、どっちが強いか弱いか比べられるから、頭の隅には入れておくけど重視はしないかな」
ドルゥヴ・ラクダワラ。
サークレットのようなものを頭に付けた、パンツ一丁の老人。
仙台のスタジアムを陣取っている受肉型泳者。
二体の巨大な生物と多くの翼竜の式神を操り、その式神の軌跡の空間を呪力で汚染する術式を持つ。
それによって死んだのは術師だけではなく、結界内から逃げなかった大勢の一般市民も巻き込まれている。
乙骨の言っていた『危険な奴』に当てはまる術師だ。
「つーか、逃げないんだな。どう考えても相性悪いだろ」
「生意気な小童め。貴様程度に逃走するわけなかろう」
言うと同時に、壁を壊して巨大な式神が一体だけ入ってくる。
結界の展開を利用して後ろに跳躍して回避すると、ドルゥヴも翼竜の式神を使って後退している。
式神使いに多いらしい、前に出ないタイプ。
特にドルゥヴは強力な式神を持っている上に自身の周囲を不可侵に出来る、侵犯術式の持ち主。
自身が築き上げた領土から動かず、式神で敵を倒すと言うスタイル。
「まぁ、俺には関係ないが」
倭国大乱にて列島制圧を成し遂げた怪物に対し挑む若い術師……と言う図ではない。
果てしない支配欲を持つ最古の術師が、史上最高の空間支配者にこれから挑むのだ。
・『尖結』
細長く突き刺すための攻撃用結界。今までも使っていたが、現在は名前を与え宣言(呪詞)によって他の人間にもわかりやすくする縛りの代わりに、展開速度と鋭さを増した技。
本家【結界師】のように今までは名前を付けていなかったが、渋谷事変を経て呪術世界の縛りを使って名前を付けた。