呪術世界の結界術師 作:ペンギンくん
玻座真護良は自身の生得術式が結界術だと判明し、間流結界術の再現をすると決めた日から自身へのキャラ付けを決めた。
解釈によって術式を拡張させられる上に、呪力とは感情から発露されるものだ。
思い込みによって強くなれると言っても良いことから、玻座真は理性と認識を分別することにした。
【結界師】において結界術は限定的ながらも支配した空間を結界と呼ぶ……と言う設定になっており、さらに間流結界術は空間支配の特色が強いものとなっている。
作る・切る・通る・直す。
劇中でも他の空間能力への干渉を見せる描写が多く、それだけで【結界師】における主人公たちが使う結界術が、単なる四角形の壁を作る能力でないことがわかる。
自分が使っている結界術は、その結界術だと玻座真は思い込むことにした。
理性では【結界師】の結界術と、この呪術世界の結界術は本質が違うと理解している。
だが常に思い込むことにより自身が扱っている結界術は間流結界術のものと考えるようになっていた。
メソッドや憑依型の演技が近い。
浅い言い方をすると好きなゲームをやっていてそのことばかり考えていると、無意識に現実でも同じような意識や行動を取ってしまうようになる、と言うもの。FPSばかりやっているゲーマーが、現実でも曲がり角を見て「この角は上手く隠れつつ相手側を視認出来そうだな」とぼんやりと考えてしまうようなもの。
そんな感じにどんどん自身の中に写していくことにより、自分が使っている結界術は呪術世界のモノと言うよりも【結界師】のモノに性質が近い、と言うところまで掘り下げていくことが出来た。
今では澱みなく再現した間流結界術を使えるようになり……それにより玻座真には一つの変化が起きた。
呪力の特性が変質したのである。
やり方は違うが、術式によって玻座真も呪力の特性が変化したのだ。
秤の
シンプルなもので周囲の空間の性質を把握しやすくなる、と言うものだ。
術師であれば呪力の流れを感知することが出来る。玻座真の場合はその精度がより高く、さらに呪力以外のことも探査結界を使わずともある程度感知することが出来ると言うものとなっている。
要するに他の術師よりも感知能力が高くなる程度のものだが……相手が玻座真と同じように空間への干渉をする術式持ちであれば話は大きく変わる。
「『結』!」
広いはずのスタジアムの中を窮屈そうに、巨大な式神が走る。
動きは素早くないが威圧と破壊力を十分に感じられるその光景を見て、玻座真は真正面から戦わないことに決めた。
倒せないこともないが、時間を掛けるのも面倒臭い。
玻座真が片手印を掲げると式神の足元に巨大な囲いが発生し、下から上に向けて巨大な結界が出現して、押し上げられた式神は上空へと飛ばされる。
「『結』!!」
さらに空中にも角度をつけて結界を展開し、スタジアムの外に押し出す。
邪魔な存在が消えた。どちらかと言うと後方型の玻座真であるが、敵の性質的にも近づいて戦った方が良いと考え、呪力強化した足で接近する。
「…………」
そして当然のように式神が通った道を走り抜ける玻座真を見て、ドルゥヴは苦い顔をする。
他者の領土を侵犯して自身の領域にするドルゥヴの術式だが、分類上は結界術に当たる。
式神が通った場所に見えない結界が敷かれ、触れたものを傷付ける力を持つ。
だが玻座真に対してはその術式効果は発揮していない。それも防いでいるわけではないのだ。
走りながらドルゥヴによって歪まされた空間を修復しているのだ。
「あやつ、腹立たしい真似を……!」
術者であるドルゥヴには見えている。
1秒にも満たない時間で玻座真は空間に触れて直している。
正確には玻座真の体を覆っている肉体強化用の呪力が、ドルゥヴの領域に触れた時点で玻座真の意思に従い修復してしまっているのだ。
相性が悪いと玻座真は言った。
領域を広げるためにリソースが振られている式神は体当たりをする以外の攻撃方法は存在せず、玻座真が展開した結界にろくな対処も出来ず退場させられてしまった。
実際は触れたモノを傷付ける結界を纏いながら、その質量に任せた体当たりだけで大抵の相手は殺せてしまう。ゆえに追加の攻撃方法なんて必要なかった。
だが、その必勝の戦力はあっさりと攻略された。
想定していたことだが、確かに相性は悪い。
それでも……ここで逃げることをドルゥヴは自身のプライドが許さなかった。
(……やっぱり伏黒の影みたく回収のために式神を消滅されられない感じか)
対して接近しながら、玻座真は予想した通りだと安堵している。
遠くに行ってしまっている式神を解除し、改めて自身の近くに再召喚する。
それが出来たら多少面倒であったが、ドルゥヴが使役する巨大な式神がスタジアムの外からやってきた時点で当たりは付けていた。
領土を広げる術式の性質上、式神には歩き続けてもらう必要がある。
その辺りに縛りが組み込まれているだろうと考えた上での行動。
(術式依存型は術を封じられるときついよな。身に染みているよ)
ドルゥヴは見た限り、後ろのさらに後ろから式神を操り敵陣を殲滅するタイプだ。
自身の周囲を配下で固め、神官や巫女のように前に出ることなく安全圏から式神によって領土を広げて制圧。それが本来の戦い方だろう。
死滅回游のように戦場にいることを強制されるような状況でなければ、ドルゥヴの勝率と危険性はもっと高かっただろう。
総合評価を考えると特級術師にまではいかないが、国家転覆を狙えそうなぐらいには術式効果が広域制圧に向いている。
そうなると乙骨でも厳しかったかもしれない。彼の忠告通り、結界の外に出すとマズイ泳者がいたわけだ。
「術式封じて巨体の方も退場。後は雑兵とお前の身一つしかないが」
後ろに下がろうとしているが、やはり動きは鈍い。
玻座真も同じタイプだからわかるが近接戦闘能力が低いと、肉体強化の上昇値も共に低いことが多い。さらにドルゥヴは後ろでふんぞり返る術式な以上、尚更だろう。
式神が肉盾になる以上、近づかないといけないのでいつものように体術は不得意と言っていられない。
足元に結界を展開して、その勢いを利用して急接近する。
「『尖結』」
片手印をスライドさせるように横へ動かす。
ドルゥヴが逃げようとしていたスタジアムの入り口を傷付け崩壊させて塞ぐ。
無論、彼なら式神を使わなくても呪力だけで瓦礫を退けられるだろうが、その間は背中を向ける必要がある。
歩兵では全く敵わない上に飛車と角行は近くにない。
将棋であれば王手と言える状況である。
もっとも、これは将棋ではなく呪い合いの戦いである。
「……!?」
ドルゥヴの足元から、式神が出現する。
また翼竜か、と思って無視しようとしたが……込められた呪力量が違う。
「マジか」
巨大式神が現れる。
反射的に探査結界でスタジアムの外を確認すると、飛ばした巨大式神だけではなく遠くを走っていたもう一体の方の姿も消えていた。
(推測が間違っていたか? いや、スタジアムの外に飛ばした方が戻るよりも先に
一体しか出せない代わりに再召喚出来るようにする、って感じだろうと当たりをつける。
どちらにせよやることは変わらない。同じようにスタジアムの外にまた飛ばすだけだ。
「――ん」
だが、結界を展開して気づく。
重い。
同じ式神であるはずだが、重量が増えている。それだけではなく……異様に踏ん張れている気がする。
(重量を増やした……いや、二体分の重量か? これ。んで後者は術式の応用かな)
「どうした? また飛ばそうとでもしたのか?」
「……あぁ。まぁ、そうだな」
口では強がっているが、ドルゥヴは表情には出さず必死に思考を回転させ打開策を練っている。
確かに相性が悪いことはわかっていたが、ここまで悪いとは思っていなかったのだ。
結界術を生得術式に持つ術師は過去にも殺したことがあるが、玻座真ほどの空間干渉能力は持っていなかった。
自分を追い詰めた者は幾人もいたが、それでもドルゥヴは打倒してきた。
しかし……ここまで劣勢な状況に追い詰められたことはない。接戦や多少の劣勢はあっても、圧倒的な劣勢は無かった。
だが今は、足りない手札を駆使しても勝てない状況だ。
本来であれば領域を使って逆転の可能性を掴みとるのだが、目の前の相手は高度な結界術を使う。
領域勝負になったら絶対に負ける。
何より……術式が焼き切れれば他の泳者が襲撃しに来るに決まっている。
今は眠っている黒沐死と違い、ドルゥヴを襲撃するタイミングを窺っている敵が仙台結界にいる。
石流龍と烏鷺享子。
ドルゥヴと同じく仙台結界にいる高得点保持者であり、少しでも気を抜けば首を狙ってくる敵たちだ。
烏鷺の方はドルゥヴの存在が黒沐死への抑止力となっているので消極的であるが、石流の方は関係なく虎視眈々と狙っている。
であれば領域は使えない。持っている手札で戦うか。
もしくは
(……今更拡張術式を引っ張ってきたのか? それとも今ここで編み出したのか?)
玻座真はドルゥヴを追い詰めた。……そう、追い詰め過ぎた。
どう足掻いても勝てないような相手の出現に、ドルゥヴは生命の危機を覚えた。
その逆境に抗うためにドルゥヴは覚醒し始めている。
今まで安全地帯から式神を放つだけであった強き老人は、目の前に迫る脅威に対抗すべく今まで使い切れていなかった実力を極限まで搾り出す。
まるで死地に飛び込んでしまった若者が必死に目の前の状況に抗い、藻掻くように。
(術式による領地拡大の性能を大幅に下げる代わりに、領土の絶対的確立性を上昇! さらに自律操作から思考操作に変更したことにより私への負荷が増える代わりに領土での絶対性を上昇!! そして今まで広げてきた領地から徴収する拡張術式を構築――!!!)
今までは攻撃性のある呪力を広げて領土として放置するだけであった。何故ならそこに触れるだけで不可視の攻撃を食らうため、ドルゥヴ以外の人間は最終的に生きる場所を失うからだ。
だがそれが通じない敵が出てきた以上、やり方を変えるしかない。
拡張術式『九公一民』。
ドルゥヴの術式によって彼の領地と化した空間内にある呪力を徴収する。
それをドルゥヴ自体は使えず、全て式神に注がれる。
当然だが多大な徴収によって土地は枯渇し、死に絶える。
今後ドルゥヴはスタジアムの外で築き上げた領地と同じ場所を、縛りによって自身の術式で汚染することが出来なくなった。
……死滅回游は羂索が儀式のため、結界内に呪力が満ちるように作った舞台だ。
そして仙台結界は特に殺し合いが活発であったエリアの一つだ。
そう――羂索が儀式のために空間内に満たした大量の呪力を、ドルゥヴは勝手に使ったのだ。
強力な効果であるが、ドルゥヴが仙台結界から出られない現状だからこそ成立している縛りだ。今後自身の術式に制限を課せられた状態で他の強い泳者たちと戦わなくちゃいけないという
「なるほど」
齧歯類の見た目の巨大な式神は若干サイズが縮小した。術式による領土拡大の必要性がなくなった今、圧縮させたのだろう。もはや術式効果は式神の足の裏だけに限られている。
注がれた呪力や縛りの分だけシンプルに強くなっている。
術式で勝てないゆえに、式神の質量攻撃に集中させた。
玻座真の結界ごと砕き潰すつもりだ。
「死ね!! 劣等民が!!!」
玻座真の後ろからは翼竜の式神が襲い掛かる。
翼竜では玻座真を倒せないが、逃げ道を塞ぐ。
これで終わりだ。勝ちだ。
勝つ。勝つ。勝つ……!!
「消え!!……ろ?」
式神が玻座真に向かって突っ込む。
スタジアムを吹き飛ばすような威力を発揮し、砂煙が飛び散るのと同時に地震のような大きな揺れが仙台結界を……いや、結界外すらも襲う。
確実に死ぬ威力と被害。
絶対に勝った……はずなのに。
目の前に玻座真が迫っている。
式神の隙間を縫って接近した?
いや、そんな感じではなかった。まるでその巨体を無視したように見えた。
手段はわからない。だが、わかることはある。
その手に黒い必滅の呪力を纏ってドルゥヴの首を掴もうとしている。
詰み。
今度こそ
背筋が凍る。
死が迫っているからではない。自分の全てを出し切っても敵わなかったことが、ドルゥヴの矜持を粉微塵にした。
相性が悪いとはわかっていた。だがここまで敵わないことに、ドルゥヴの高慢な精神には耐えられなかった。
故に――
「――領域展開」
何もかもを投げ出して、目の前の存在を抹消すると言う妄執に身を任せた。
◆◆◆
「……めんど。座標ズラして逃げやがって」
ドルゥヴの領域内に入れられ億劫そうに玻座真は呟く。
木で造られた建物の中。
現在の木造建築とは圧倒的に違い木をある程度加工して、ほぼそのままの状態で建築に使った、と言う感じのもの。
そう言う味の建物と言うよりも、シンプルに技術が未発達の時代の建築物と言う印象を玻座真は受けた。
(……コイツ、いつの時代の術師なんだ?)
住居ではなく、神事などを行う儀式場のような生得領域。
壊れた建築物の修復依頼を何度か受けたことがあるが、歴史への興味は高校生レベルで止まっているため各時代や文明への造詣は深くない。そのため呪術師として平安時代辺りについては学んでいても、それより前の時代に関しては教科書で読んだ程度だ。
それでも縄文だとか弥生だとか、そのぐらい古い時代の建物に見えた。
観察をしつつも玻座真は片足を軽く上げて、爪先で地面を小突く。
――簡易領域。
玻座真の足元に小さな円状の結界が展開される。
真人と戦った時よりも圧倒的に狭いが、玻座真としては十分だった。
「……で?」
術式効果を考えれば領域内に入れた敵を不可視の攻撃が必中で襲う内容だったのだろう。
だが熟練の術師であるドルゥヴの領域であっても、玻座真の簡易領域はビクともしなかった。
翼竜型の式神が五体ほどいるが、巨体の式神の方はさすがにいない。
このままであれば先程の焼き直しになるだけで、翼竜の式神を倒しドルゥヴを殺して終わりとなる。
玻座真に対して領域を使ってはいけない。
領域同士の押し合いに負ける……どころか簡易領域すら超えられる者はいない。
渋谷での宿儺のような他者を巻き込むような領域でなければ、同じく領域を展開して対応することすらない。
呪術の最奥である領域は本来なら使えば絶対に勝てる手札であるが、玻座真を相手に使えばむしろ負け筋を作ってしまうこととなる。
「……このまま耐えて私の呪力が尽きるのを待つのも良い。普通にこのまま殺しても良い。貴様はそう考えているんだろう」
「その小型の式神は出せる数に制限は無さそうだけど……そろそろ呪力が持たないだろ」
「全て認めよう。だが! 勝つのは私だ!!!」
叫びと同時に、ドルゥヴの領域が壊される。
そして――結界の外から巨体型が玻座真に頭突きをする形で飛び込んできた。
(
ドルゥヴは玻座真が使った先程の回避術を結界の拡張術式だと判断した。
領域を使うことにより座標をズラして多少移動することが出来るのだが、それを応用したものだろう。
だが強力な術であるほど条件が厳しいことが多いか、もしくは何らかの致命的な弱点があるはずだ。
探知能力が高いのはわかっている。だが濃い呪力で満ちた領域内であれば中和されるはず。
そのため領域の結界は外側からの攻撃に弱い、と言う特長を活かして奇襲を仕掛けることにした。
当然だが領域が壊れる以上、術式と紐づけされている式神も消える。それでも消えるまでの時間の間に、目の前の結界術師を潰す。
例え再び回避術を使われたとしても……
生き埋め。
巨大な質量に押し潰されるのだ。
攻撃を避けても足場となっている地面が崩壊し大穴が作られ、玻座真は落ちる。
そしてそのまま土と瓦礫が雪崩れ込む。
地面の下でずっと回避術を使い続けるわけにもいかないはずだ。
唯一の負け筋は回避術が自身の推測以上の性能を持っており、瞬間移動のように大きく移動出来た場合だ。
だが、勝つためには賭けるしかない。
自分の作戦が成功することを――――。
「『
「…………大丈夫ですか? 先輩」
「あぁ、平気だ」
乙骨が大きいが
スタジアムは壊れているが、もう静かになっている。
乙骨は玻座真から自身の後ろに視線を移す。
両目の間に小さな長方形の穴が出来ていた、ドルゥヴの死体が倒れていた。
「とりあえず避難民をここに呼びたいので、この死体は処分しちゃって良いですか?」
「任せるが……っと」
癖となってしまっている探査結果の展開によって、スタジアムの外の状況を把握する。
仙台結界を制していた一角が落ちたことにより、盤面が大きく変動している。
二人の術師がスタジアムに意識を向けつつも、これから目覚める存在を注視する。
「ゴキブリ野郎が目覚めた」
「連戦になりますし僕が行きましょうか?」
「いや、まだまだ余裕があるから俺が行くわ。私怨あるし」
「了解しました」
苦笑する後輩を置き、玻座真はスタジアムの外に出る。
次なる敵手は黒き悪魔。
死滅回游での殺し合いは続く。
・『九公一民』
収入の九割を税として納めろと言うこと。余程の補償でもない限り課せられた側は餓死が前提にしか見えない重税。仙台結界内やもっとドルゥヴの術式が広がってない限り、取れる税(呪力)は低かったはず。
これによって予定になかった仙台結界への外国軍派遣の追加が発生する。
基本的に玻座真にとって大抵の存在は敵にすらならない。
圧倒的な相性有利で勝ってしまうためと言うのもあるが……本来ならそれを覆すための領域が、それすらも玻座真には通じないためである。
そんなの知らね、って言うのが特級術師たちであり、どれだけ相性有利であっても彼らには届かない。実際五条の無下限を玻座真は攻略出来るが、地力で敗北してしまう。
ちなみに特級の中で玻座真にとって一番相性悪いのが九十九さん。
まだジャブ。