呪術世界の結界術師 作:ペンギンくん
玻座真護良は転生者である。
生前のことは適当にしか覚えてないし、何だったらいつどうやって死んだのかまともに覚えてない。
転生者としてそれなりに優遇された幼年期を送っていたが、ふと家の裏手にある霊園にいた異質な存在を見つけ、何も無かった時間は終わりを遂げた。
「なにあれ。幽霊? 嫌だなぁ、死んだらあんな感じになるの」
右足だけが生えた、巨大な目玉。
何も動かずある墓の上に突っ立っているが、どちらにせよそのビジュアルにゲンナリする。自分は死んだら生まれ変わったが、次に死んだらああ言う見た目の存在になるかもしれない。そう考えると怖く思うよりも、憂鬱になった。
それと同時に、この世界はそう言う世界なんだな、と考えた。
「幽霊や妖怪の世界? じゃあ霊力とかで戦ったりするんかね」
転生者なんだから自分もなんか特殊能力使えないだろうか、とそれっぽいことをしてみたが……、
「あ、なんか出た」
生まれ変わり時代が遡っているため、あらゆる機器が古くなっている。
そのことをふと忘れてしまい、見ようとしていたアニメが録画されていなかった。
憂鬱になりながらも日課となっていた幽霊へ魔法みたいの出ないかなの訓練をしていたところ、透明な四角い何かが幽霊にぶち当たった。
「出来たのは良いけど……二週間。これは霊能者としては才能はある方なのか?」
ここまでやっていた自分に若干呆れ、そして魔法みたいなものは使えたが才能はあるのだろうか。
とりあえず特殊能力は使えたので、腕を磨くことにした。
仮称:魔法の発動条件の検証から始め、仮称:霊力の練り方とかを探る。
今の人生を送る片手間に練習をしていたところ、
「なにこれ。霊力=マイナスエネルギー……なのか?」
異様なほど魔法の発動条件がシビアなので検証に時間が掛かったが、ようやく全貌が掴めてきた。
大体が嫌な気持ちの時に発動していることに気づき、それを察してからは意識して嫌な気持ちの状態で魔法の発動感覚を掴むことに移行した。
何が酷いって、嫌な気持ちの時は普通練習をしない……と言うよりも何もしたくない気持ちになりやすいので、発動感覚を掴むタイミングがさらに後ろに下がってしまうのだ。
そのため、ある程度感覚を掴むのに二ヶ月ぐらい掛かってしまった。
「負の感情を霊力に変換している……いや、変換と言うよりも練り出しているのか? にしても気分が沈んだ状態で戦う必要があるのか? これ」
怒っている時とか練り易いのか? いやでも怒っているってことは冷静じゃないってことで……と考えたところで、思考を止める。
「やめた。こう言うのって効率化とかがあるはずだから、深く考えるよりも上手く練るやり方を考える方が良いよな」
専門家とかがいるのかもしれないが、今のところ合流する気が起きない。
騙されて人体実験にされたりするの嫌だなぁ、と言う警戒心もあるが……どちらかと言えば子供の姿で専門家に会っても相手にされない可能性がある。
少なくとも自分なら相手にしない。
「いや、才能持ちと言うことでスカウトされたりするか?」
でもスカウトされて無理な訓練させられたりしてもなぁ、と考えつつ……結局自分以外の霊能力者なのか魔法使いなんかを探さずに、二度目の小学時代と言うものを送っていた。
「お兄ちゃん、一緒に肝試し行ってくれない?」
「肝試し?」
小学五年生の夏休み。三年生の弟に肝試しに誘われた。
弟は肝試しと言ったが、どうやら弟の友達が見つけた廃屋を探検しようと言う話になったらしい。
たださすがに危ないってことで、念のためと言うことで呼ばれたとのこと。
「んー」
少し悩む。
霊園以外にもあの幽霊は、いわゆる“よくない”と場所に出現するらしい。
念動力みたいなもので相手を吹っ飛ばしたり潰したりすることが出来るようになってきたが、今のところちょっかいを出せているのは小物だ。強かったり大きかったりするのは見かけたことがないから、対応出来るかどうか不明である。
「まぁ、いっか。とりあえず俺が危ないと判断したらすぐに帰るってことで」
「はーい」
最悪、二度目の人生を過ごしている自分がなんとかすれば良いか、と考える。
むしろ自分がいないところで変なことが起きては困る。
「なんだあれ」
四人の少年に同行し件の廃屋に訪れたのだが、黒い幕のようなものに覆われていた。
さすがに異常事態なので、廃屋の中に入ろうとしている弟たちを止めている。
「…………」
そう、弟たちは廃屋に入ろうとしているのだ。
となると視認出来ていることからあの幕は霊能関係のものだ。
(これ……結界、だよな? 結界を張っているやつが近くにいる気がするんだが……)
そのことにおかしいとも思わずに周囲を見て、結界の源を探す。
少し目を動かしていると、向こうからやってきた。
「君たち、ここに肝試しに来たのかい? 駄目だよ、ここは……ええっと、ちゃんと人の手で管理されている場所だからね」
「え、つまり今も誰かの家ってこと?」
「住んではいないけど、そう言うことだね」
夏なのにスーツを着込んだ、眼鏡の若い男性が近づいてきて柔らかい表情で注意をしてきた。大きな声で廃屋探検と言っているから阻止してきたのだ。
弟たちが男性と話しているのを横目に、玻座真は黒い幕を見つめている。
「…………」
「ええっと、君はこの子たちのお兄さんかな? 君も――」
すぐ横から男から声を掛けられるが、その情報以上のものが見ているだけで頭の中に入ってくる。
『黒い幕は結界』『自分は念動力ではなく結界に係わる術を使える』『あの結界の効果は一般市民から中の様子を隠蔽する効果がある』――そこで一度、手で目を覆って視界を閉じた。
三秒ほど意識して瞑目し、吐息を零す。
「……お兄ちゃん?」
「いや、悪い。ちょっと暑くてね。帰りにアイスでも買おうか」
心配そうに覗き込む弟に苦笑しながら誤魔化す。
ちらり、ともう一度黒い幕を目にし、それからその結界を発動しているのである眼鏡の男性を見てから、帰路に移る。
帰路に移る前に男性を見た時、彼と目が合った気がした。
――◆◆◆――
「よぉ坊主、ちょっと隣いいか?」
次の週の土曜日。玻座真が公園のベンチで考え事をしていたところ、コンビニの袋を持った体格の良い男性が声を掛けてきた。
「……どうぞ」
「あぁ、すまんな」
そう言ってから腰を掛け、中に入っているおにぎりや緑茶を取り出し食べ始める。
時刻は朝の十時であり朝食にしても昼食にしても半端な時間だ。
「ん、あぁ。悪いな。朝食がまだなんだ」
「出張ってやつですか?」
「あぁ、いきなり出ることが決まってな」
玻座真が怪訝に見ていることに気づいたのか、何で今の時間に食べているのか教えてくれる。
「突然の出張……ここ最近ずっと言われているブラックってやつですか」
「ブラックだな。ブラックもブラックだ。突然休日が消えたんだから」
はぁ……と大きな溜息を男は吐き、疲れたような顔をする。
それからおにぎりを食べ終え、残ったお茶を一気に呷った。
「ふぅ……さて、本題だ」
空になったペットボトルを開いている袋の中に置き、男は玻座真の方を見る。
「坊主、幽霊とかは信じる
「……言いたいことは察しましたが、続けてどうぞ」
「簡単に言えば俺は幽霊を祓う仕事に就いている。お前さんが廃屋で会ったスーツの男もそうだ」
大人しく男の話を静聴する少年の姿勢に内心コイツ本当に子供だろうか、と訝しむ感情が芽生えるが、今は放置する。
「はっきし言うが俺らはお前さんが呪力を扱えることは見てわかっている」
「……じりょく? 磁石とかの磁力ですか?」
「磁力じゃなくて呪力……呪いの力だ。ついでにさっきは幽霊ってわかりやすく言ったが、本当は呪霊――呪いの霊って呼ぶ」
「ふーん……呪霊に呪力、ね」
何かに納得したように小さく頷いている。
「呪力ってことは、これ使える人は呪術師って呼ばれるんですか?」
「まぁな。……本当に何も知らないのか?」
「この瞬間まで霊力だとか魔法だとか、そう呼んでました」
魔法、ってことはすでに呪術を使用出来るようになっている、と言うことだろう。
どこか年不相応に冷めた様子の少年に男は心の中で呻く。
幼い上に非術師の生まれな以上、術が暴走して大怪我を負う可能性もあっただろう。だが隣にいる少年は、そのような危険性をちゃんと回避して検証していたに違いない。
ここまでの会話で男は少年に対し、奇妙な信用を抱いていた。
「……俺が来たことに関してはどう考えてる」
「スーツの人が自分のことを見ていたんで、これバレてるなーとは思ってました。なのでスカウトか排除かどちらかが来ることに関しては想定していました」
「お前何歳だよ」
「小学五年生ですよ。ちなみに夏休みなので毎日コンビニ近くの公園で待ってました。おかげで汗も酷いし日焼けしないかビクビクしてました」
「夏休み……そうか。そう言えば普通の学生は夏休みか」
夏だけど夏休みと言う存在を忘れてたようで、ショックを受けたように両手で顔を覆っている。
「社会人だと夏休みが学生と変わるのは普通なのでは?」
「一応これでも学校関係者だからな。それで学生の夏休みの感覚を忘れているのも……っと、そう言えばまだ名乗ってねぇな」
会話がスムーズに進み過ぎてたため、お互い名乗ってないことを思い出す。
「日下部篤也だ。東京都立呪術高等専門学校二年担当候補だ」
「玻座真護良です。……教員が直接来るんですか? てか候補?」
「後方に回れるってことで教職としての仕事を受けようと思ってたんだが……人材不足ってことで休日消えての仕事だ」
呆れたような表情を浮かべる玻座真に、思わずと言ったように男――日下部は懐から棒付きの飴を取り出し口に含んだ。
「で、結局なにしに来たんですか?」
「どんなやつかの確認と、場合によってはスカウトだな」
「抹殺ですか? それとも記憶消去ですか?」
「スカウトだっつってんだろ!」
呪術に目覚めた子供が悪用していたらと考えられて灸をすえるために日下部が選ばれたのは確かだ。だが、あまりにも言いたい放題な少年に思わず大声を出す。
「どんな人生送ればそんな考えになるんだよ……」
「フラッシュと共に記憶を消す、ペン型の装置とか」
「あー最近は缶コーヒーのCMに出ているよな」
「……それはともかく。スカウトってことは、その呪術小学校か中学校に来て欲しいって話ですか?」
「いや、呪術師の学校は高校だけだ」
「ん?」
不思議そうな表情を玻座真は浮かべるが、それが見る見るうち苦い表情になる。
「え、人材が足りないって言ってましたが……教員出来る人間が少ないってことですか?」
「半分……いや総合的な意味では正解だが。まぁ基本的に高専に来るまでは普通の学校だな。裏で教えるって感じで」
「ふーん」
人材不足ならば呪力を操る方法を多くに教えればと考えなくもないが、ようするに呪力を練ることにも才能が必要なのだろう。
そのため教員どころか呪術師の芽である生徒すら少ないのかもしれない。
そこまで考え、日下部が見ているのに気付く。
「どうしました?」
「いや、べらべらしゃべっちまったなって。……いいや、とりあえず今はそう言う組織があるってことだけ覚えてくれてればいい。こんな炎天下の中、ゆっくりと話したくないだろうし」
そう言いながら名刺を渡される。
「ひとまずこれだけ言っておく。呪術師って言うのは呪霊を倒すのが仕事で、場合によっちゃまともに死体が残らないような死に方をすることがある。最悪なことだが、呪術を私利私欲に使って悪事を働く呪詛師ってのと戦うこともある。……そんな呪術師に興味はあるか?」
「興味云々はともかく、なるつもりですが」
「え、マジ?」
気を引き締めた声音で日下部は話してきたが、玻座真の軽い答えに誘っておいてドン引きしている。
「いや、ちゃんと理解してないだろ。呪術師の仕事がどれだけ悲惨なのか」
「と言っても呪術師としての才能あるんですよね? なら結局、どこかで巻き込まれると思うし、何よりそんなに危険な仕事なのに人が少ないって致命的な以上、呪術師にならなくても世の中が危ないってことですし」
「お前本当に小学五年生かよ……」
慄いている日下部を尻目に、玻座真は本当の考えを口にしない。
――転生者なんだし、どうせ呪術師の事件とかに巻き込まれるでしょ。
後に出会う高専の教師の一人が口にする、呪術師とは頭がイカレた存在に該当する思考回路。
大義もなく、強い道徳心があるわけでもなく、何らかの願望を抱えているわけでもない。
どちらかと言えば家系の人間の思考に近いだろう。呪術師の家系に生まれたからには、呪術師になるべきだろう、と言うものに。
だが家系の人間ではないからこそ、傍目から見れば異質な存在に映る。
実際、後に面接を行った高専の学長である夜蛾正道は語る。
『中身がないわけではないんだが……一般人どころか呪術師である私たちですら持っていないような考えをしている気がする。核がある部分が違うんだろう』
そう評価されるとは今は思わず、ただただ転生者だからと言う理由だけで死が溢れる世界に飛び込もうとしている。
そして、その心は悲惨な現実に直面しても……変わらずに呪術師として生きていくこととなる。
これが呪術師、玻座真護良の始まりである。
高専では常識人寄りであるが、どこかおかしいやつ。一見まともに見える上にその性質が露呈し辛いもののため、質が悪い。
現代日本で死に、呪い蔓延る別の現代日本に転生した少年。
現代日本から現代日本への転生だが、思考回路が異世界人そのものなので、どこか他人と感覚が一致しない。
日下部が派遣されたのは対応が比較的常識人なのと、高い戦闘能力。何より才能があることが確定しているが呪術に関してかなり不特定である以上、万が一を考え『簡易領域』を使える日下部が人選として抜擢された。
術式にデフォルトで領域が紐付けされている呪術の存在が確認されている以上、才能ある上にかなり知的な様子を見せる少年を警戒するのは当然である。
危機感を持てる日下部とは違い、軽く考えて軽くスカウトしてくるだろう五条悟は人選として今回は外された。そもそも多忙。
※一部文章を変更。