呪術世界の結界術師   作:ペンギンくん

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05.過不足

 

「――グラニテバースト」

 

 石流の呪力の流れが変わったのを感じた。

 集中・集束していた呪力が体表に流れる。

 ただ今まで通りの肉体強化のための呪力ではなく、砲撃に使っていた呪力の質と同じだ。

 咄嗟に手に纏った絶界を解き防御用の結界で自身を覆う。

 

 刹那、石流の呪力が爆発した。

 

 威力自体は高くない。そのため玻座真にはダメージが入っておらず、中心にいた石流にもボロボロになった見た目ほどダメージは入っていないだろう。

 だが距離は取られ、二人は着地する。

 攻め続けられている時ならともかく、落ち着いて構えられる今の状況だと同じ戦法は利かないだろう。

 

「…………」

 

 お互い相手の動きを様子見するための構えに入る。

 屋上や空中にいた時と違い、接近戦や遠距離戦の選択肢が出てきた。

 だが少しの沈黙の時間を置き去りにし、唐突に石流は吐息を零しながら懐から煙草を取り出した。

 

「……おいおい」

「いいだろ別に。本気で殺し合いしているわけじゃねーんだし」

 

 ふぅーと煙を吐き出して本格的に吸い始めた石流の姿を見て、玻座真も体勢を弛める。

 少しでも回復したい、と言う感じのものではなく特に何も考えず一旦休憩ぐらいの感覚で行動しているように見える。

 玻座真としても反論出来ないので、相手のおしゃべりに付き合うことにする。

 

「玻座真、お前はどうして戦っているんだ?」

「名前……あぁ、コガネか。どうして戦っている、ね」

 

 当然のように呼ばれて一瞬疑問を覚えたが、すぐに自分たちと同じように保有得点から名前を導いたのだろうと理解する。

 

「どうしてって部分はどこに係ってる? この死滅回游の参加だけか、呪術師やっていることか。もしくはもっと初期的な部分か」

「どこでもいいさ。ただ死ぬかもしれねぇ戦いに身を投じている理由はあるのかって話さ」

「……まぁ、受肉組は動機があるからこそ死滅回游の強制参加を飲み込んで現代で復活しているわけだしな」

 

 何故戦うのか。この死滅回游での根幹(テーマ)と言えるものだろう。

 現代は日常と非日常の区別が出来るくらいには『平和』と言うものが存在する。

 受肉組は大体が日常の中に『争い』が組み込まれた時代に生まれた者が多い。

 戦乱の時代、もしくは盗みなどを強いられた飢えの時代。

 戦うことが前提の時代があるものからすれば、今の時代は平和そのものだろう。

 その中で「じゃあ何で戦うんだ」と疑問を持つ者がいても特段おかしくない。

 

「言っとくけど、重い理由を背負って呪術師になっているやつは……一般家庭出身では半々ってところで、んで俺は才能あってスカウトされたから……ぐらいだな。肉体的な痛み精神的な痛み、そして異形の怪物だろうが相手を傷付けることへの痛みから呪術師をやめる奴だって普通にいる。残ったスカウト組は、まぁ頭の螺子が外れているような奴ってだけだよ。俺と一緒に仙台結界(ここ)へ来たやつは重い過去背負っているやつで、俺は特段強い理由もなく呪術師やってるタイプ」

「金回りとか良いのか?」

「まぁまぁじゃないかな。命懸けるほどのものかと言われると微妙……どころか評価は下回りそうだけど。ま、使命感で働いている部分はあるさ」

 

 一服を終え性格や見た目とは裏腹に、律義に煙草を携帯灰皿に入れながら石流は玻座真に目を向ける。

 

「なんつーか適当だな。今の時代の術師ってそう言うもんなのか」

「少なくとも俺はそうだよ。……同期のやつもまぁ、適当とは言わないが凄まじい背景があったりしないで呪術師やっているな」

 

 そう考えると二年生と一年生は家系と重い背景持ちばっかだな、と嘆息を零す。

 

「無辜の民を死なせたくないとか、力を持った責任だとか……もあるっちゃあるけど。まぁ普通に家族や仲間に迷惑が掛からないよう自分が動いている、ぐらいの認識だよ」

「熱がないんだな」

 

 石流の言葉に玻座真は片眉を上げる。

 

「俺の同期みたいなこと言うなよ。一人で十分だわ。……自分で言うのもなんだが全く無いわけじゃなくて、伝わり辛いだけだ」

「悪かったよ。本当に自分で言うようなことじゃねーことを言わせちまったな」

 

 玻座真の反応にせせら笑いながら雑に謝る。……そして、表情を変える。

 

「――領域使わないのは、俺との戦いに必死じゃないからか?」

「……まぁ、言われるわな」

 

 結界術を得意としている以上、実力を加味すると領域を使えないと言うことは無いはずだ。

 玻座真が近づいてきて領域を警戒したが、実際には黒い結界を纏っての近接戦闘であった。

 さすがに気づかないはずがない。

 

ドルゥヴ(ジジイ)やゴキブリ野郎は相性勝ちしてたから領域を使わないのも納得出来る。ついでに言うと俺やゲロ女がいたから術式の焼き切れ警戒の可能性もあったしな。だが今は違う。もう後は無く、ゲロ女はお前の連れが戦ってる。こっちからすりゃ役満って感じだわ」

 

 真剣に殺し合いをしていない。

 そう言われても仕方がない動きをしているのは自覚していた。

 

「ぶっちゃけた話、領域使うつもりあんのか?」

「ない」

 

 石流の質問に即答する。

 

「自分で言うのもなんだが、能力値自体は高いんだが戦闘経験は少なくてさ。だからいま、ゲームで言うところの経験値稼ぎのために領域使わず戦っているんだよ」

「舐めてるってことだろ」

「舐めプの縛りプレイと文句言われてもしょうがないな。……あぁ、ここで言うところの縛りは呪術的な意味じゃなく、ゲーム的な意味。あーあと、勝ったらポイントを譲って欲しいってのもある」

 

 パキリパキリ、と指を鳴らしながら玻座真は答える。

 そろそろおしゃべりを終えて戦いを再開する、と言う意志である。

 

「……俺の方の動機は話してなかったな」

「これ以上はおしゃべりに付き合わないが」

「戦いも女も悪くなかった。だが腹八分目の、少しだけ食べ足りない。……デザートが無かった人生さ」

 

 言いながら石流も構え始める。

 呪力が彼の体を覆う。

 

「だから欲しているのさ。あまーいデザートを」

「……はっ」

 

 挑発するように鼻で笑う。

 

「未来永劫、伝説と呼ばれるような超神作にそうそう出会えるわけないだろ。クソゲークリアした達成感で満足しとけ」

「うるせぇ。オタクが!」

 

 

 

 

 

 ――簡易領域。

 

 腰を下げる動作をして、玻座真は小規模な領域を展開する。

 半径20mほどの結界。本来の必中領域から身を守る、弱者の領域とは思えないほどの広さ。

 無論その結界は石流を当然のように巻き込んでいる。

 展開速度が速すぎて回避が遅れた。すぐさま領域内から出ようとするが、

 

「うおっ!?」

 

 細い結界が出現して石流の足を貫こうとする。

 咄嗟に避けて掠るだけで済んだが、さらに追加で細い結界が石流に襲い掛かる。

 舌打ちと共に避けながら簡易領域から再び出ようとして……少しだけ手を先に出す。

 予想通り細い結界が手に突き刺さった(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

(やっぱ領域外に出ようとする者に対し問答無用で突き刺さる結界が展開される仕様か)

 

 玻座真は術式を行使する際、片手印か呪詞を使っていた。

 足場のような性能が求められていないような結界はともかく、攻撃用に使われる結界では必ずと言って良いほど、どちらかが組み込まれている。

 だが、通常の攻撃時はともかく外に出ようとした時には掌印も呪詞も使っていない。

 

(小規模とは言え、領域は領域。縛りとかを使わずとも術式性能は上がるってわけか。基本的なものは微強化程度、領域から逃げようとする者に対しては展開速度と貫通能力がかなり上昇する縛りが組み込まれてるな)

 

 縛りの内容を考えるとメインは逃走防止であり、微強化は勝手に付いてきたおまけ。

 その代わり玻座真は腰を下げた体勢を維持することにより、この簡易領域を成立させている。見た限りだと中心地点から動けないようだ。

 

(……本当か?)

 

 短時間の戦闘であるが、石流は玻座真の結界術の高さを理解している。

 だがこの程度の強化のために不動の縛りを使うかどうかと言うと、石流としては疑わしいところだ。

 逃亡禁止の簡易領域は確かに石流の戦闘能力を大きく削るものだ。

 近接戦闘は得意だ。少なくとも玻座真よりは体の使い方が上手い自信はある。

 だが近接戦闘が得意なのと、遠距離戦闘が封じられているとでは訳が違う。

 簡易領域の広さを考えれば中距離からの砲撃は行えるが……そもそもこの簡易領域の広さは石流を巻き込むためだ。

 今後は狭めていく可能性もある。狭めれば力を抑えられる、もしくは圧縮して術式の効果もさらに強化出来るかもしれない。

 圧縮して術式効果が上がれば不動の縛りを不要になるかもしれない。そうじゃなくても逃亡禁止が組み込まれたまま領域が狭まれば、最終的には玻座真が望む距離での戦いを強いられる。

 この簡易領域内で戦う限り、玻座真の戦略は自由自在だ。

 

(一番やべぇのは領域を収縮した状態であの黒い結界を使われることだ。逃げ場無しで火力特化の結界を食らう。……実質必中の領域みたいな状態だな)

 

 この簡易領域を抜けるのであれば玻座真に結界維持出来ないほどダメージを与えるか、大砲(グラニテブラスト)で場を壊すしかない。

 石流の呪力出力での防御なら無理やり出ようとしても重傷程度に抑えられるかもしれないが、その選択肢はない。

 

 石流は反転術式を使えない。

 

 玻座真の強さを考えればこんなところでの重傷は今後の戦いでの致命傷になる。

 それに玻座真の戦い方を見る限り、領域展開での決着を除けば……彼は大技で相手を一気に倒すのではなく細かく手札を切って相手を削るタイプに見える。

 きっとこの簡易領域を攻略したとしても、次の手札が来るだろう。

 

(圧倒的格差があるわけじゃねぇ。本来だったら俺の方が優勢だった。それでも地の利を細かく活用して優劣を逆転させた)

 

 相性有利だと言うのに序盤に倒せなかった時点で石流に非がある形だ。

 

「…………」

 

 呪力の放出。

 それが石流の術式であり、彼の呪力操作や出力の高さの土台となっている。

 だが逆に言えば呪力操作の一環の術式であり、他の生得術式のような変換能力がない。要するに基礎の底上げをする術式であり、新たな力を手にする術式ではないのだ。

 他の術師のような可能性を広げる余白がない。

 その諦めは生前からあった。

 だが、目の前の相手はどうだ?

 自分と同じように基礎の底上げの術式。

 結界術の生得術式。それでここまでの自由を見せている。

 

 ――お前、ここで自分の上限を超えないでどうする。

 

 自分で無意識に作ってしまった天井。

 それを超えられると見せられてしまっている。

 なら、燻っている必要なんてない。

 限界を……超えろ!!

 

   ◆◆◆

 

 玻座真が展開した簡易領域は守りのための小さな領域ではなく、攻めのための小さな領域だ。

 必中領域から自身を守るための弱者の領域のシン陰式ではなく、特殊なルールを相手に強要する結界だ。

 今回の効果は簡易領域から出ようとする者への問答無用の攻撃と言うものだ。

 実のところ玻座真にもこれは適用されており、玻座真も簡易領域から出る素振りを見せると自身の術式に攻撃されてしまうと言う無差別の仕様となっている。

 とは言え、術の主である玻座真はこの簡易領域の大きさや広さを自由に変更出来る。そのため縁の位置を変えられる玻座真は実質このルールを無視出来る。

 

「…………」

 

 この空間は玻座真が支配している。

 そのため簡易領域内での変化に敏感であった。

 石流の呪力が変質した。それも自己強化や砲撃、自爆技などとは違う……今までに感じたことがない感覚。

 間違いなく石流の中で何らかの変化が起きた。

 

(十中八九石流の術式は呪力操作の派生、もしくは出力を上げるタイプだ。それも射撃のような小規模な呪力放出は出来ず砲撃だけに限定している縛りを組み込んでいるタイプだ。……ついでに砲口の位置も縛りだ。さっきの自爆技のような威力が高くないものならリーゼント以外からも出すことが出来るらしいが、ぶっちゃけあれは制御の放棄によるもの。……手札を増やすとしたら、何だ?)

 

 解釈――拡張術式の開発。

 単純な術式だとしても、それに新たな形を与えることにより別の力に変化させることが出来る。

 玻座真の【結界師】の技は全部拡張術式である。本来は結界の質を上げる程度の生得術式だ。

 つまるところ、石流も場合によっては玻座真と同じだけの技と生み出せる潜在資質が存在していると言える。

 自分が同じ能力を持っていたら、どのように拡張する?

 

(……駄目だ。呪力操作が下手だから、他にどのぐらいのことが出来るのか思いつかん)

 

 ゲームを基にイメージしてみたが……『魔力刃』だとか『魔力鎧』だとか、それっぽいものしか思い浮かばない。

 ここにいたのが乙骨だったらわかったかもしれない。

 他に呪力の射出が出来るほど操作が得意なのは五条先生と――

 

(――宿儺)

「グラニテファースト!」

 

 弾丸のような勢いと速度で石流が玻座真に急接近する。

 呪力による肉体強化だけではない。

 石流の背面に流れる呪力が爆発したように放出され、彼の体を前面に押し出している。

 似たような光景を、宿儺との戦いで見た。

 

「『絶界』」

 

 両手に圧縮した絶界を纏う。

 殴りかかろうとしている石流に対し迎撃の構えをする。

 

「…………」

 

 ニヤリと石流が笑みを浮かべる。

 やはり動けるか、と言うような表情だ。

 実際、不動の縛りを必要としたのは簡易領域を発動した序盤だけであり、石流が脱出禁止のルールの確認をする頃には調整を終えていた。

 ただし動くとなると、簡易領域の広さの調整が出来なくなり固定化されてしまう。サイズ調整するには再び動かない状態にならなければいけない。

 

(そこはまぁ良いが)

 

 石流の拳を、同じく玻座真も拳で迎え打つ。

 虎杖や真希なら敵の腕を払ったり出来たかもしれないが、玻座真では見えるものに対して直線的な動きしか出来ない。

 拳と拳がぶつかり……玻座真の方が勝った。

 

(……今の)

 

 呪力を纏った石流の拳は火傷したように若干赤くなる。

 だがそれを気にしていないかのように反対の拳も振り上げる。

 

「セカンド!!」

 

 再び拳と拳が打ち付け合う。

 今度は石流も狙って玻座真の拳とぶつかるような軌道を見せた。

 再び玻座真が勝ち石流の拳にダメージが入るが……先程よりも傷口が浅い。

 

(まずっ……!)

「サード!!」

 

 怪我なんて気にせず石流は拳を振るう。

 だが玻座真はそれに付き合わず、結界を展開して石流の足を跳ねて体勢を崩そうとする。

 

「ふん!? ぐ……!!」

 

 だが膝の部分の呪力を爆発させ、無理やり体勢を戻した。

 そのせいで自身の膝が内側から破裂したような怪我をしているが、それすらも石流を止める要素にならない。

 右肘の後ろの呪力が爆発し、石流の右拳は加速する。

 呪力の爆発による加速だけではない。今までよりも石流の早さが上がっている。

 体感的なものだが違いを覚える。

 体勢を崩すことを失敗した時点で玻座真は右腕に絶界を圧縮させ、左手で支えるようにしながら防御の構えを取る。

 

 グギリ、と嫌な感触がする。

 

 右腕の骨が折れた。

 石流の手も絶界によって怪我を負っているが、今回の拳撃は当然のように絶界の防御を超えられた。

 殴打に体を浮くのを感じながら足が離れる前に簡易領域を解く。

 吹き飛ばされながら反転術式で腕を治す。

 ……治しながら、それ(・・)を見る。

 

 ――グラニテブラスト!!

 ――『絶界』

 

 今まで玻座真が見せなかった隙。

 それをようやく手に入れた石流は自信の大砲を放つ。

 黒い結界で体を覆い防御するが……最初と違い距離が近いのもあって、食らうダメージの量が違う。

 致命傷は避けたが、それでも大ダメージを負った。

 大砲に押された勢いは止まらず、そのまま玻座真は地面を転がる。

 

「……ふぅ」

 

 隙を埋めるための接近戦。そのため少しでも相手の勢いが上がれば再び向こうが優勢になることは理解していた。

 立ち上がりながら息を整える。

 

(単純な拳撃に見えて、実際のところ石流(アイツ)は俺に対し純粋な呪力攻撃が当たらないよう細心の注意を払っているように見えた。となるとあの加速のための爆発、敵に対して当てることが許されない縛りを結んでいるな)

 

 先程見せた自爆技(グラニテバースト)の派生技だろう。

 

(加えて攻撃を途絶えることなく続けることによって出力が上がっていく縛りだな。最初はむしろ出力が低かった気がするから……ギアを上げるように一気にじゃなくどんどん上げていく感じだな。……ジャブってところか? これは)

 

 石流の現状はドルゥヴの時とは違う。

 あちらは圧倒的相性差から生存本能が新たな可能性を生み出さざるを得なかった状態。

 石流は自身と同格の存在を相手に負けが見え、そして同時に限界を超えられると言う保証と理解を手にしたような状態だった。

 縛りや新たな解釈。連続攻撃による縛りはそれの感触確認のように玻座真は感じた。

 もっと大きなものへの布石。

 今まで使ってこなかった部分や部品の調子を確かめるための、肩慣らし。

 

「フゥ……」

 

 反転術式で体を治しながら、呪力残量の確認をする。

 縛りプレイをしているが本当に駄目な時は領域を躊躇いなく使う予定だ。

 乙骨が負けるとは思わないが、念のため烏鷺の分を含めて二回分は残しておきたい。

 現状は総量の三分の二。連戦が続いているが石流以外は苦戦をしていなかったため呪力の節約は出来ている。

 

 問題は絶界だ。

 

 石流と戦うまでは細かくしか使っていなかったが、彼との戦いでは攻撃でも防御でもずっと使っている。特定の感情から生み出した呪力でしか結界を作れないと言う縛りにより例え総呪力量ではまだまだ余裕があっても、術式構築が出来なくなってしまう危険性がある。

 シンプルな結界術だけでは石流に致命傷を与えられない……どころか、彼の攻撃を防ぐことすら厳しい。

 

 ――グラニテブラスト。

 

 いつもは放置している感知能力を、意識的に高めて感度を上げる。

 大砲が飛んでくるが、それよりも早く石流の呪力を察知して回避行動に移り、範囲から逃れる。

 

(ほんと、苦手なタイプ……)

 

 いつもであれば防御力の高い相手に対しては領域展延で対処しているのであるが、石流の術式は呪力の放出。

 展延は呪力を中和しているのではなく術式を領域の空き枠に取り込んで無効化している。

 そのため純粋な呪力だけで戦うタイプには通じない。

 石流も術式を使っているが呪力を術式で何かに変換して攻撃しているのではなく、術式で呪力を飛ばしている。領域展延は術式と言う剣を壊すことは出来ても、術式と言う銃から放たれた呪力の弾丸に対処は出来ない。

 そこも石流とは相性悪い部分である。

 

「『方囲』――『定礎』」

 

 石流の周辺を覆うぐらいの中規模な囲いが三つ出現する。

 彼は警戒するが行動に移るよりも先に結界は出現し、中に閉じ込められる。

 

「『結』――『滅』!!」

 

 三重結界が歪み、石流を圧殺しようとする。

 多くの呪霊を祓ってきた結界による圧殺術。だがそれを石流は、

 

 ――グラニテブラスト

 

 大砲で全てを壊す。

 やはり絶界以外は無理か、と結論付けながら避けて……そして気づく。

 

「――っ」

「はん!」

 

 舌打ちしながら自身の目の前に結界を展開するが簡単に殴り壊される。

 呪力強化した腕で防ぐが、皹が入る痛みを感じながらあっさりと殴り飛ばされる。

 強化値は最初より若干下がっている気がする。少なくとも簡易領域中に見せていた出力よりは減少している。

 それでも単純に玻座真が出力負けして負傷した。

 だがこの時点で大きな負傷をするとなると、先程とは逆に近接戦は厳しくなる。

 距離を取っての砲撃だと回避される。それを理解して今度は石流が接近戦主体に切り替えてきた。

 『尖結』で攻撃したり結界をぶつけたりするが、呪力強化による防御や迎撃であっさりと砕かれる。

 それでも汎用的な結界での攻防を続ける玻座真に、さすがに石流も疑問を抱く。

 

(……限界か?)

 

 露骨に黒い結界を使ってこなくなった。

 連戦を続けている玻座真であるが、石流からしてもまだ呪力はあるように感じる。

 ようするに呪力切れによって黒い結界が使えなくなっているわけではない。

 

(どう考えても縛りだな。回数制限か何かはわからねぇが、諦めて逃げないで戦っているってことはまた使えるまで回復を待っているってことだな)

 

 殴る裏で玻座真の結界術について考えるが、同時に自身が冷めていくのを感じていた。

 別に玻座真が再びまともな戦闘が出来るようになるまで待っても構わない。

 だが底がわかってしまったことに、石流は身勝手と分かりながらも高揚していた熱が下がっていく。

 煌びやかな店の裏側を見てしまったような失望。

 ずっといたいと思うほど楽しかったはずが、急速に去りたくなるような感情に襲われていた。

 

「グラニテ――」

 

 玻座真を蹴り飛ばし、大きく距離を作る。

 そして決着をつけるために大技の準備を始める。

 無論、玻座真もそれを見逃すことはない。

 距離的に逃げることは無理だと判断して妨害することにする。

 

「『結』!」

 

 再び三重の結界。

 ただし今度は大砲が放たれるよりも早く結界術を行使する。

 

「『滅』!!」

 

 結界が歪む。

 結界の多重展開による圧力の増加。

 それを石流は、

 

()りぃが、これで終わりだ」

 

 笑みを浮かべ、今までしていたように結界へ砲撃をせず……そのまま食らう。

 その光景に玻座真は目を見張る。

 石流がそのまま食らったことに驚いたのではない。

 

「――チャージ」

 

 石流の呪力が砲口に集まる。

 肉体強化に使っていた呪力も全て集束する。

 

 縛りだ。

 

 簡易領域での戦いを経て、石流は不動の縛りを利用した強化をしたのだ。

 呪力強化だけで玻座真の攻撃を耐えた。

 無論、石流の防御力が高いとは言え大ダメージは入っている。

 圧力により皮膚が裂け、骨に皹が入り、血管が破れ右目は血で汚れ使えなくなってしまった。

 だがそれでも石流はそこに立ちながら、玻座真との戦いに区切りを付けることを優先した。

 

「……ほんと、悪いな」

「――っ!!」

 

 石流の言葉に、彼が何をしようとしているのか理解する。

 特殊な回避術は許さない。

 あまり使わないが条件がわからない回避術であるが、大技を避けられないためにはどうするか石流は考えた結果……自分でも卑怯だと思うことすることにした。

 

 玻座真の後ろには、仙台スタジアムがある。

 

 後ろと言っても数百メートルの距離はある。さらに石流は知らぬことだが、乙骨のリカが一般人を守っている。何なら真っ直ぐ撃てば仙台スタジアムにはギリギリ当たらない方向である。

 だが石流の大砲の威力と射程距離を考えれば、万が一もある。避ければそちらを撃つぞと言う警告もある。

 その万が一と言う可能性を消すためには、玻座真は真っ向から大砲に立ち向かわなくてはいけないと言うことだ。

 

「ギガ……グラニテブラスト!!」

 

 生前を含めて石流が今まで撃ったことがないような破壊力の呪力砲。

 それを見て玻座真は腰を下げながら防御の構えを取る。

 

「…………」

 

 ただ今まで通りに結界で防御するのでは足りない。

 呪詞を呟きながら手を何度も何度も組み変え、いくつもの掌印で強度を上げる。

 迫る大砲。

 それを見つめながら直前まで呪術の足し算を行っていき……そして不動明王の印を結ぶ。

 

「――『絶界』――」

 

 回復したなけなしの拒絶の呪力を使い、絶界を展開する。

 強力無比に等しい黒い結界。

 だがそれすらも石流の呪力砲は呑み込み………………。

 

 …………。

 

   ◆◆◆

 

「あんがとよ。玻座真護良」

 

 石流は玻座真に近づく。

 左腕が失われ、地面に倒れている彼に……感謝の言葉を口にした。

 




今のところの玻座真の主人公っぽい要素。
敵の潜在能力を引き出し。


再来週と次の週は正月休みと言うことで。また次回に触れます。
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