呪術世界の結界術師 作:ペンギンくん
プロットに無かった文章がどんどん増えていく……。
「……そうだ。言い忘れてたことがある」
仙台に向かう途中のサービスエリアで休憩していた時。
トイレ休憩と共に結界内へ侵入する前に何かを腹に入れておこうと言う話になり、自動販売機で色々と買ったのだ。
場所にもよるが飲み物だけではなく菓子パンや総菜などを売っている自動販売機がある。誰もいないからと勝手に棚から商品を持っていくわけにはいかないため、そちらをありがたく使わせてもらい、適当な席に座りながら食事をしていた。
そこで乙骨から里香が成仏したことによる模倣術式の変化に関して聞いていて、ふと玻座真は話を変えた。
「乙骨、俺とお前は出来るだけ領域禁止な」
「……え? どうしてですか?」
大勢の術師が参加しているため不意打ち対策に領域を出来るだけ使わないようにしよう、と言うことなら理解出来る。
だが禁止という強い言葉に首を傾げる。
「元々俺は今回領域を使わず死滅回游で戦おうと思っていたんだが……天元様に雑談の一環でしゃべったら、その方が良いだろうって肯定された」
「その方が良いって……領域を使わない方が良いってことですか?」
「そうだ。天元様と話し合った結果、羂索は十中八九呪霊と視覚共有が出来るだろうって結論に至った」
視覚共有。
自身の下部と視界を繋げることが出来る技術であり、式神などに偵察させて情報収集すると言う手が取られることが多い。高専で代表的と言えるのは冥冥の黒鳥操術によるカラスとの視覚共有であり、彼女は他者にカラスが見ている光景を映像としてアウトプットすることも可能としている。
「羂索の手先が派遣されていた八十八橋任務で領域を獲得した伏黒や、そもそも保守派から目をつけられていた秤はともかく、俺や乙骨はあんま人前で領域使わないしな」
最近まで外国にいた乙骨と、前線に出ることが少ない玻座真。
生得術式は公開されているが五条のように領域に術式を付与した結果、新たな内容が浮かぶパターンもある。そうじゃなくても能力が120%発揮されることにより、術式の拡張がされることが多い。
伏黒の影による分身体がわかりやすい例であり、通常時であれば出来ない技だ。
……そして玻座真と乙骨が認知することはないが、とある術師が呪霊化して桜島結界にて領域を披露するのだが、その術式は効果の上昇と必中化により致死性が高まることとなった。
領域展開とはただ術式の必中化が為される結界奥義ではない。新たな可能性への拡張でもあるのだ。
「特に俺はわかりやすいしなぁ。『絶界』を中心とした拡張術式とかがあるし」
「そうですね……百鬼夜行の時は僕も領域を習得していませんでしたし、何より里香ちゃんが成仏したことによって色々と変わりましたし」
里香の成仏によって乙骨は呪術師としては弱体化したと言えるだろう。
だが弱体化と言えど、それは変化だ。
戦力の変化であるのであれば再調査の必要が出てくる。ただただ弱くなったのか、あるいはそこからまた別の可能性が増えているのか。
特に乙骨の生得術式は他者の術式の模倣だ。コピーされた術式にまで影響が発生している可能性もあるとすれば、考えることが多くなって頭が痛くなることだろう。
「僕らに監視がつくってことですか。……先輩の探知結界で把握して先んじて祓うことは出来ないんですか?」
「向こうも高度な結界術の使い手だ。呪霊に結界を付与しておくだろうな。……あと、出来れば結界の解析に関しては死滅回游の方だけにしたい」
どうせ結界の
「死滅回游の目的を考えるなら、結界内は呪力で満たされているはずだ。そんな中から特定の存在を探知出来るとしたら、自身の存在を隠蔽していないか結界術を習得してないか。あるいは隠し切れないほどデカい呪力を持っているかって感じだろうな。……つーか、積極的に
要するに事前対処は無理と言いたいのだろう。
基本的に玻座真は万能であるが、さすがに彼でも対処が難しいものはある。
領域の中は普通なら外から見ることが出来ないが、呪霊操術の使い手である以上、透視の術式を持った呪霊を飼っているだろう。
そのことは乙骨も予測出来るため、対抗することにリソースを割り振らないと言う意見に納得する。
「と言うことは領域使われたら、先輩が簡易領域で対処する感じですか? そうなると常に一緒に行動する形か、先輩が基本的にメインで戦う形になりますが」
「そうなるな。まぁ俺が結界術師って分かれば、大抵のやつは領域勝負を嫌がるだろうけど。……まぁ場合によっては【封身淵祇】を使うさ」
「確か攻撃性能が全くない領域でしたっけ?」
「そ。術式効果も最低限。実質外殻がある簡易領域みたいなもんだな。こっちは渋谷で使っているし。……まぁそれでも術式の焼き切れ云々はあるんだが」
そもそも玻座真の領域【封身淵祇】は簡易領域で耐えるよりも、相手の領域を破壊した方が良い時に使うための、領域としての最低限の機能だけを詰め込んだ結界だ。
伏黒のように未熟でなければ、領域使いならやろうとすれば誰でも展開出来る技だ。
もっとも……必中効果も攻撃能力もない、そして環境強化も最低限の領域なんて他に誰が使うかと言う話ではあるが。
「…………」
「…………」
「……今更ですが」
「ん?」
領域についての取り決めについて話し合いが終わったので食事に集中していたが、乙骨は少し前から気になっていたことを質問することにした。
「先輩って天元様の引き継ぎ役なんですよね? 前線に出る理由はわかりましたが、それはそれとして良かったんですか? それこそ解析に関しては結界の隅っこでやって、僕が戦うでも良いですし」
「それに関してはさっき言っただろ。俺も前に出ないと領域が面倒だって」
「えぇ。ただそれでも……立場的に前に出て良い人材じゃない気がするんですが」
「ふぅん」
それか、と言うようにカレーパンを食べ終え、飲み物も一気に飲み干して一息つく。
食べ終えたところで一度背を反らして伸びをする。
慣れない長時間運転からの話し込みによって硬くなってきた体を解し、改めて説明をする姿勢に戻る。
「五条先生も勘違いしていたんだけど、本来なら俺のポジションってそこまで大事な立ち位置じゃなかったんだよな」
「……じゃなかったって言うのは羂索が現れたからですよね?」
「まあな」
「元々の想定だと、どのような感じだったんですか?」
「変なことをしないでねっていう言いつけと単純なバックアップだけだよ」
言いつけ、と首を傾げる乙骨に頬杖をつきながら話す。
「そもそも天元様が俺に目を付けたのは引き継ぎ役としての選出じゃなくて、下手に天元様の結界に干渉しないようにって言う縛りを結ぶためだ。ぶっちゃけ引き継ぎ云々はおまけに近い」
「……渋谷でのやつでしたっけ」
「そ。……ただ干渉不可の縛りも何か起きた時用のバックアップも、今にして見れば羂索を懸念したからだろうな。進化による異形化に対する不安があったとしても、どうにも自分が殺されるか行動不能にされることを想定したような動きなのは確かなんだよな。不死身が殺される心配をするのか、って話だが羂索なら特殊な呪具とかで殺せそうって言うのは確かだから懸念もわかるが」
星漿体への転生が出来なかった天元は不死の術式によって新たなる存在へと変貌した。
その数年後に玻座真の存在を認知し、楔を打つ。
「具体的な数字は聞いていないが、もしかしたら羂索が獄門彊を探しに外国へ行ったのと同じ時期ぐらいに俺を見つけたのかもな」
「……外国に行ったのは偽装で、本当は肉体を入れ替わってたかもしれないと疑われていたと?」
「かもな。探りを入れて、念のため結界への干渉を拒否するための縛りを結んだのかもな」
やることが多いため時間が無く、共有出来ていない情報も多い。
特に乙骨と玻座真は途中合流であるため知らない事も多く、特に資料化されていない内容や本人が感じたことなどに関しての情報は直接聞くしかない。
そして何が大事か重要か、話す側の主観で選ぶしかないため、何らかの欠落が発生していてもおかしくない。
天元様から羂索の今までの動きを聞けば何かわかることもあるだろうが、聞く暇がないため推測するしかない。
「ま、縛りの対価として総督部への立ち入りや結界術に関するノウハウを教えてもらったって感じだな」
「へぇ。上層部の方がよく許可しましたね。やっぱ天元様の声って大きいんですね」
「いや、天元様からは許可だけもらって後は勝手に侵入している」
「えっ?……あっ。なるほど……?」
感心したような表情を浮かべていた乙骨だが、玻座真の言葉を聞き思わず目を泳がせる。
「…………」
秤がルールを破って自身の欲求を遂行するのであれば、玻座真はルールの中で自分のやりたいことをやる。例えるのであれば、ゲームの外で
気質が違う玻座真と秤。
あの二人が仲良く出来ているのは中間に綺羅羅がいるからだと思っていたところもあるが……実際には『やる時は(酷い意味で)やる』のが合っているからかもしれない、と乙骨はしみじみと思った。
「あとはまぁ“帳”とかの基本的な結界術や天元様が運用している大結界の管理方法とかだな」
「簡易領域とかは教えてもらってないんですか?」
「ないな。俺の簡易領域は日下部さんのやつを
『1+1=2』と『4-2=2』ぐらいの違いだが、それでも言い訳が出来るようにした上で簡易領域を習得している。
そのため日下部が自身の簡易領域に仕込んだ自動反撃のプログラムも、玻座真の簡易領域には組み込まれている。
「戦闘系の結界術は教わってないんだよな。領域展延もそう言うものがあるとだけ聞いて、俺が自前で再現したし」
「領域展延……って、確か術式を中和するやつですよね」
「それ。てかさ……羂索って言う土台があったんだろうけど……どう考えてもあのツギハギが展延使えるようになったのは俺が原因っぽいんだよなぁ。虎杖と東堂にはまーじで申し訳ないことしたわ」
生得術式を付与していない領域の結界を自身に纏わして他者の術式を中和する技。
乙骨も玻座真との鍛錬の時に使われたことがあるので弱点と……その凶悪さを理解している。
ちなみに乙骨は使えない。
「そう言うものがあると聞いただけって、天元様からやり方を教わったわけじゃないんですか?」
「天元様はそもそも領域使えないからな。派生技の展延も使えないんだよ」
「…………あ、そっか。確かに不死の術式では領域展開は出来ませんよね」
結界術の権威とも言える存在が領域を使えないと聞いて一瞬驚くが、彼の存在の術式を思い出して納得する。
あまり殺傷力が高くない術式でも、領域として展開することにより効力が上がるケースはある。
だが不死と言う内容は、どれだけ効力が上がっても『不死』のままだろう。最初から内容の上限が高い術式は、領域として展開しても効果が変わることが少ないことも多い。必中に関しても不死と言う効果である以上、付与したところでどうしたと言う感じになる。
何より、領域展開することによる術式の焼き切れが問題だ。
不死の術式により
それが不良状態になれば問答無用の死に襲われる可能性だってある。
そのことを踏まえると天元は領域を使えるようになるよう練習をすることすら許されないのだ。
「だから俺の使っている領域展延はイメージから再現したもので、本来のものと全く同じものかはわからんのよな。ほぼ同じだとは思っているんだが」
「……結果は同じだろうけど、過程は違うかもしれないと気にしているんですか?」
「そんなところ。……そろそろ出るか」
食べ終えてから少し休憩を挟んだ。
立ち上がり最後にトイレを済ませて、再び仙台への道を走りだす。
「…………」
ふと、そう言えば……と乙骨は今更ながら疑問を浮かべる。
(どうして元々領域を使おうとしていなかったのか、聞き忘れたな)
とは言え、すぐに聞きたいわけでもないので運転の邪魔をするような質問は控える。
もう少しで仙台に着く。……もう少しで、戦闘が始まる。
陰謀の渦の中に自分たちはこれから飛び込むのだ。
◆◆◆
空間が蠢く。
仙台結界の強者たちは四人とも領域を使えるまで結界術を伸ばした術師である。
ゆえに何が起きたのか理解する。
領域が仙台結界内を埋めるように高速で広がり、そしてそれ以上の速度で結界は収縮した。
乙骨と烏鷺の座標は無理やり変えられ、
「なっ……」
玻座真のことを理解している乙骨と目の前で領域展開された石流は、何が起きたのかわかっていた。そして唯一状況の変化に対応出来なかった烏鷺はただただ絶句するしかない。
……1キロ以上離れていたはずの玻座真と石流、乙骨と烏鷺が僅か5メートル以下の空間に詰め込まれていた。
「乙骨!」
「……了解です」
片腕を失っている。珍しく笑みを、それも牙を剥いているような笑顔を浮かべている。
何があったんだと気にしつつも、玻座真の思惑を読み取って即座に行動に移る。
(つまり、先輩は……先輩風に言えば、自分では
玻座真の方も乙骨の方に走り出し、彼と入れ替わるように烏鷺へと向かう。
状況の理解に時間を費やしてしまった烏鷺は対応に遅れ、忌々しそうな表情を浮かべながら玻座真を迎える体勢に移る。
対して石流の方は歓迎するように乙骨を待ち受けている。
「よぉ。次はお前か?」
「えぇ。消耗し切っているところ申し訳ありませんが」
「良いさ良いさ。むしろありがたく思うね。ただここにいるだけで、豪華な料理が運ばれてくるんだからな!!」
ちらり、と一瞬だけ玻座真と烏鷺の方を石流は見る。
まだまだ元気一杯の烏鷺と、片腕を失い重傷を負ったまま戦い続けている玻座真。
二人の様子を見て、彼は判断する。
(――あれはすぐに終わるな)
どっちが勝つかなんて、見てわかる。
そのため戦いが終わりこちらへ来る前に、乙骨憂太と言う術師を味わう尽くすべきだ。
全力だ。本当の意味での全力を、出し切るべきだ。
区切りの関係で今回は短め。
仙台結界終わったらオリジナルとして青森の恐山結界編をやる予定です。
まぁ、結界名に入っている恐山で戦うわけではないですが。
正直ちょっとやること多く執筆に時間取れてないので、本格的に隔週投稿から不定期更新になりそうです。ただまぁ更新するのは確定で月曜1時のままにする予定。
エタるつもりはないので、どれだけ時間掛かっても完結はさせます。
・玻座真の『簡易領域』と『領域展延』。
日下部さんの簡易領域との違いにしろ、本来の領域展延との違いにしろ、正直なところあまり変わらない。二つの水の入ったコップの片方に砂糖一粒入れたぐらいの違い。
誰が使っているかと言う部分の方が重要。