呪術世界の結界術師   作:ペンギンくん

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08.Cross the line

 

 玻座真護良の領域が一瞬、仙台結界の内部を埋め尽くした。

 展開から1秒にも満たぬ時間で結界を広げ、さらにそれよりも短い時間で圧縮がされた。

 玻座真と石流が戦っていた場に拳ほどの大きさにまで圧縮された領域が浮いている。

 奇しくもそれは正史における彼の恩師である五条悟が両面宿儺の閉じない領域対策に行った手法と同じ技だった。

 外側からの攻撃対策に硬度を上げた五条と、内側からの攻撃対策に硬度を上げた玻座真。

 至るまでの過程は全く違うが、行き着いた先は同じであった。

 もっとも……この世界における五条悟は、この技を披露することはないのだが。

 

「…………」

 

 玻座真の領域に吞み込まれた乙骨・石流・烏鷺の三人に、この結界に設定された必中効果が襲い掛かる。

 内容は『領域に付けられた設定の開示』と言うもの。彼の同期である秤の領域を参考に組み上げられたものだ。

 

 内容は『この領域は結界の硬度を上げるために術式性能の向上及び他者の術式の中和効果を極限まで削る縛りで作り上げたものである』と言うもの。

 

 要するに派手な防壁であると言うことが開示されただけに過ぎない。

 そのことを理解した彼の仲間である乙骨はすぐに動けて、加害者(・・・)である石流も余裕を持って待ち構えることが出来た。

 そして唯一玻座真と関わってこなかった烏鷺は……常識的に、困惑した。

 

 ――他者の位置を無理やりズラせるほどの結界術。

 ――だがその内容は単なる逃亡禁止と外側に攻撃が行かないよう作られた防壁と言うもの。

 ――必中必殺の奥義を、そんなことに使う……? 何故?

 ――そしてそんな知られたら不利になることを何故開示した……?

 

 市民の、そして仲間の安全を守りたいのであればさっさと石流と烏鷺を領域で倒せば良いのだ。

 なのにやっていることは単なる性能の高い防壁作り、と言うもの。開示に関してもそこまでして得られているメリットがあるかと言うと微妙だ

 攻撃能力どころか術者優勢効果すらも削がれた領域に烏鷺は、歴戦の術師として真っ当に戸惑った。

 ゆえに、反応に遅れた。

 

「……クソッ!!」

 

 対戦相手の変更。

 戦いたくなかった相手と強制的に戦うことになり、強く悪態をつく。

 同じ空間系の術式持ちである……以前の問題だ。

 囲い、閉じ込め、圧殺する。

 空間を歪めて自身の姿を隠す。相手の攻撃を逸らす。防御を無効化して打撃を放つ。

 相手の戦法は何一つ自身と相性が良いものが存在しない。

 戦うことになった時点で詰みに等しい。

 

(クソ……いや。少しでもこっちが優勢を取れるよう戦うしかない!!)

 

 結界の中に入れた相手を圧殺(こうげき)すると言う仕様上、術者は自身と敵を一緒の結界内に入れないはず。

 接近戦で相手の長所を潰すしかない。

 格闘術は自分よりは低いのが遠目からでもわかるレベルだったし、何なら今は片腕しかない。

 領域を壊せない以上、術者にダメージを与えて強制解除させるしかない。

 

(……少し面倒臭いな。これ)

 

 対する玻座真も駆けながら、頭の中で烏鷺への対処法を考えていた。

 確かに烏鷺は玻座真より基礎体術能力が高いし、彼女の術式と合わせた防御無視の打撃は脅威である。

 だが彼女の戦法は術式が中心軸である以上、玻座真の十八番である領域展延が刺さる。

 ……のだが、今回限りは使うか悩んでいる。

 

(裸なんだよなぁ。術式の関係で服を着ず素肌の範囲を広げているんだろうけど、これ術式中和したらやばいよなぁ)

 

 少年誌(・・・)的に考えて展延を使うことを躊躇っていた。

 敵と言えど乙骨は終わった後に文句を言うだろうし、玻座真としても道徳的な(そういった)ことを無視して実行出来るほど戦闘だけに常識(のうみそ)を偏らせていない。

 

「……ま、いっか」

 

 要するに、術式中和を行う展延を使わず戦えば良いだけの話だ。

 例えその結果、もっと容赦がない展開になっても……仕方がないことだ。

 

「――『絶界』」

 

 残る手に黒い呪力が宿る。

 石流と戦っていた時に使っていた、攻撃用の結界を近接戦闘用に調整した技だ。

 片手になっていることから脅威度は下がっている。

 だが、と烏鷺は目を細める。

 

(遠目からしか見ていないかはっきしとはわからないけど……片手に集中しているから、もしかして濃くなっているか?)

 

 黒い結界と共に汎用の青い結界を使えることは知っている。だがあれには片手の掌印か呪詞、あるいは両方が必要なのがわかっている。

 しかし……手の形が見えないほど黒色が濃いように見える。

 

(厄介ね。体術(こぶし)なのか片手印(じゅつしき)なのか判別し辛い。何より集中したあの手が直撃すれば私の呪力強化じゃ大怪我どころじゃ済まない)

 

 石流レベルの呪力強化だからこそ、玻座真の絶界を纏った拳と殴り合えていた。

 だが烏鷺の防御は術式に依存している。呪力強化して受けるよりも、術式で逸らす方が楽だし確実性が高いためだ。故にそちらを今まで伸ばしてきた。

 

(突破されたら削られて風穴を開けられる。なら、こちらから向かって攻撃するように見せかけて、反撃(カウンター)を誘発させて逆に反撃(カウンター)を仕掛ける!!)

 

 『宇守羅弾』を叩き込みぶっ飛ばして体勢を崩し、そこに連撃を当てる。

 反転術式が使えるし乙骨と言う仲間がいる以上、殺すまでには至らないだろうが……十分だ。領域を維持出来ないほど攻撃を食らわせるのが目的なのだから。

 術式で空間を歪ませて体を隠し、さらに乙骨と追走した時と同じように空気抵抗を減らして加速し、出来るだけ相手の反撃レベルを下げる。

 呪力効率を無視して肉体強化を施しながらトップスピードで駆ける。

 

(行く――)

「――『絶槍』」

 

 ぞ、と心の中で宣言する直前に玻座真の手から何かが放たれた。

 それが何か考えるよりも先に……烏鷺の思考は熱によって侵された。

 

「な……? がっ、、、、がががァ…………!?」

 

 痛みだ。

 痛みが烏鷺の意識を埋め尽くす。

 何が起こった、と反射的に痛みの源に目をやると……左腕が根元から千切れかかっていた。

 

(赤……赤色……違う。黒だ。黒色だ。黒色の何かが私の腕を……。……!!)

 

 烏鷺の戦闘経験が、彼女の体を突き動かす。

 咄嗟に空間を掴んで『何か』を逸らそうとするが、それを突き破って烏鷺に突き刺さろうとする。

 クソッ、と呻きながら半ば倒れながらなんとか回避して……それをようやく視認した。

 

 黒く細い刃。

 

 カッターナイフの刃のような形状。

 黒色であることから、玻座真が散々使っている『絶界』の派生技であることがわかる。

 地面を転がるようにしながら起き上がりつつ彼を見ると、先程と違ってしっかりと手が見えるようになっている。

 代わりに……黒い刃が片手印の中から出現している。

 

「悪いが俺の『絶界』は五条先生の無下限呪術の防御すらも削れるんだ。それを圧縮した『絶槍』なら、あんたぐらいの空間防御の貫通なんて訳無いさ」

 

 何を言っているのかわからないが、少なくとも今の自分には要らない情報だと言うのはわかる。

 彼の独り言に付き合わず状況の改善を考えるが……思い浮かばない。

 

(まずい。まずいまずいまずい……!)

 

 逆転の可能性が全く見えない。

 敵の方が強いのであればいつもなら領域を使うのだが、今回は無理だ。玻座真の領域を超えられる気がしない。

 詰み。

 その言葉が烏鷺の頭を占める。

 敗北が目の前に迫っている。

 ……最悪だ。

 こいつら二人はどう見ても公僕……政権側の人間だ。

 ようやく藤原の手から離れられたって言うのに、また正義面した奴らに行く手を塞がれるのか。

 

「ふざけんな!! 私の、邪魔をするなぁああああああああ!!!」

 

 前方の空間を歪ませながら突進する。

 悪足掻きだとわかっているが、何もせずにはいられない。ここから命乞いをすることなんて出来ない。しない。

 結界を張られ進路を遮断されても、それすらも砕く気概で突き進む――――!!

 

「…………やっぱ、無理してこっちに来て成功だったな」

 

 ぽつり、と玻座真は呟いた。

 その意味を烏鷺は理解することなく……ただただ自身の頭上から声が発せられたことに意識が向く。

 寸前まで目の前に立っていたはずの玻座真が、いつの間にか烏鷺の頭上に出現していた。

 どうやって移動したのかわからない。だが自分がどうなるかは理解出来た。

 憎しみにも似た言葉を、何か口にしようとした。だがそれを吐き出すよりも先に、彼女は上から思いっ切り蹴られ……意識を奪われた。

 

 

   ◆◆◆

 

 

 ジャブとして少し叩き合った感想は、戦車みたいな人だ……と言う自身の先輩と同じものだった。

 常に膨大な呪力を纏っている乙骨は敵からしたら「強くて堅い」と言う存在だ。

 だがそんな乙骨にしても「強くて堅い」と言う感想を石流に対し抱いた。

 

(呪力量は僕の方が上だけど、出力は向こうの方がかなり上。ガードしても上からダメージを入れられている)

 

 情報共有は出来ていないが呪力に関する術式を持っていることは察せられる。

 さらには玻座真の『絶界』を超えられている様子から秤のようにある程度、相手の性質を無視出来るほどの呪力強度が高い可能性がある。

 

(あれだけの呪力砲を出せるなら、そっち系の術式かな。射出か集束か、もしくは単純に出力を上げる術式か)

 

 術式か、縛りか。

 どちらにせよここからさらに呪力出力が上昇していく可能性もある。それだけの実力があるのは相対しただけでもわかった。

 

(リカちゃんは出来れば呼びたくないな。先輩が一度領域を広げたのが気になる)

 

 乙骨と烏鷺を巻き込むために広げたのはわかるが、いくらなんでも広すぎたように思える。

 まるで烏鷺や石流以外の脅威を探しているようだった。しかし、領域内には四人しかいないように見える。

 警戒は必要。だが……術式も使わず勝てる相手だろうか。

 

「ふぅー……」

 

 一呼吸。

 そして――駆け出す。

 顔面に向けてストレートを放つが肘で軽く弾かれ、さらにその腕を引いて逆に乙骨へカウンターパンチを打ってくる。

 それを乙骨は逆の手で受け流して逸らし、石流の胴体に向けて肘打ちをする。

 肘打ちに対して膝で弾き、そのまま乙骨に顎に向けて蹴り上げるが、少し後ろに跳んで回避する。

 

「…………」

 

 想定以上に石流が攻め気を見せてこない。見た目以上にダメージが入っているのかもしれない。

 呪力出力を前面に出してダメージを食らいながらも攻撃してくると考えていたか、どちらかと言うと受けの姿勢を見せている。

 

(もしくは、何らかの縛りの影響だろうか……?)

 

 後遺症か何かで、石流は自身のいつも通りが出来ていない可能性がある。

 となると……乙骨は耐えているだけで石流に勝ててしまう。

 

(それはあまり良くない気がする。何のために先輩が交代したのかって話になる)

 

 死滅回游に参加した以上、勝つことは前提だ。

 だが玻座真が今回重要視したのは……どう勝つかと言う部分だ。

 そして玻座真自身では無理だと判断したため、素直に乙骨と交代したのだ。

 

 領域を発動した時点で、玻座真は勝てたのだ。

 

 しかし実際には石流の攻撃に一般人が巻き込まれないよう、硬度が高い領域結界を展開するだけに終わらせている。

 そこまで来ると乙骨にも玻座真の思惑が読み取れた。

 そしてそれは……石流も同じだった。

 

(……不甲斐ないな)

 

 石流は自嘲の笑みを浮かべる。

 ここは玻座真が構築した闘技場(コロッセオ)だ。

 存分に闘士たちが戦えるように整えた舞台であり、その対戦者として乙骨を連れてきたのだ。

 自分では足りない(・・・・)と判断して彼と入れ替わった。

 心遣いすらも感じる行動だが……楽しむ余裕は石流にはもう無かった。

 

(ここまでお膳立てされたって言うのに、終わらせちまうのか? この戦いを)

 

 満足出来ない、どころの話ではない。

 生前では巡り合いが無かったと嘆いていたと言うのに、今度は巡りが良くても自分の方が応対出来ていないと言う状況に陥っている。

 不足で。

 不満で。

 もはや未練どころの話ではない。まさしく己を呪いそうだ。

 

「……ははっ」

 

 甘いモノを求め、羂索の甘言に乗った。

 だが甘えて良いわけではないし……何より自分が甘ったれな存在になってはならない。

 

「せっかくだ。試してみるか」

 

 一歩、石流が下がった。

 乙骨はイメージとは違う彼の行動に若干怪訝そうな表情を浮かべるが、それに対して笑みだけを返し……手の平を見せる。

 両手を組み、ひっくり返して、手の平を見せる。

 その行動に乙骨は驚く。

 

「まさか……」

 

 ありえない、と言う感情(ことば)が乙骨の中に浮かぶ。

 当然だ。

 玻座真のことをよく知る乙骨からすれば。そしてこの場で戦っている者であれば……それは無理だとわかることだからだ。

 例えそれは彼らの恩師、五条悟であっても無理なことだ。

 

「そんなの……あり……?」

「……ははっ。そりゃ優秀な教本が目の前にずっとあったんだ。もしかしたらと思ったが、出来るかもなァ。……あぁ、思いついた自分を褒めたくなるなぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――【領域展開】!!」

 

 それは、孔雀明王印の掌印であった。

 

   ◆◆◆

 

 領域に対抗する最も有効な手段は、同じく領域を展開することである。

 相性や呪力量によっても変わるが、基本的にはより洗練された領域が相手の領域に打ち勝つ。

 そして……領域は結界術が基となっている。

 最高位の結界術師である玻座真に対し、実力では何段階も勝る五条悟や両面宿儺でさえも、領域の競り合いと言う点においては絶対に勝つことが出来ない。

 そのことを理解している乙骨だからこそ玻座真の領域内で領域展開を行おうとしている石流に驚愕した。

 領域展開出来るほどの結界術の使い手であれば、玻座真の領域に勝つことは出来ないとわかるはずだ。それでも使った石流に乙骨の動きは思わず止まった。

 驚愕から……また違う感情を宿した驚愕が乙骨を襲った。

 

 石流の領域は、発動し続けている。

 

 だがそれは普通の領域ではない。

 石流の体を外殻として領域が発動されている。薄っすらと結界の呪力が漏れて消えているが、少なくとも押し合いとして領域自体が消されているわけではないらしい。

 

「ぐっ……はぁ……はぁ……」

 

 普通ではない、成立するかどうかすらも怪しい領域展開。

 発動維持自体は出来ている様子だが石流の様子はおかしい。

 片手と片膝を地面につき、息を切らしている。

 

「はぁ……。ハッ、ははははは!」

 

 だが少しすると持ち直し、立ち上がる。

 今にも倒れそうなそうなほど顔は蒼褪めているし、膝も若干震えている。

 それでもファイティングポーズをとり笑みを浮かべている。

 例えそれが、傍目から虚勢だとわかるような笑みだとしても

 

「悪いな、待ってもらって」

「……いえ」

 

 隙だらけだったのに攻撃せず石流が立ち上がるのを待ってくれた。

 今までのことを踏まえて石流はそう考えて礼を言ったが、別に乙骨は待ったわけではない。

 威圧された。

 ただそこで息を荒くして膝を崩していたというだけと言うのに、乙骨は思わず立ち竦んでしまった。

 発動方法が違うだけの、ただの領域だとは思わない方が良い。

 改めて乙骨は気を引き締める。

 

(結界が広がっていないから必中と閉鎖の効果は無い。ただその分のリソースは別に使われている可能性は高い)

 

 環境によるバフ効果の部分が変に強化されている可能性がありそうだ。

 

(…………少し、まずいかもしれない)

 

 後先のことを考えず呪力を使いこの戦いに臨むことにする。

 ズタボロだし、何より見た目は全く違う。なのにどこか……似たような気配を感じる。

 

(似てる? 誰にだ。似てる……似てる……)

 

 ふと、自身の脳裏に過ぎった言葉に意識が奪われる。

 見た目が似ているわけじゃない。ならば、状態が誰かに似ているのだろう。

 異様な領域の展開をしていることから玻座真を重ねてしまったのか?

 一瞬そう思ったが……すぐに違うと思い直す。

 

「さぁ……行くぜ!!」

 

 石流が乙骨へ駆ける。

 ダッシュと共に彼の足元が爆発したような衝撃と音が響く。

 一瞬で距離を詰めた石流は体の痛みを無視して乙骨の目の前に急停止する。さらに彼の懐に潜り込むよう体勢を低くした状態から踏み込み、乙骨の顎に向けて拳を振り上げる。

 鋼鉄の塊。あるいは徹甲弾。

 石流の拳をそのように思わず乙骨は幻視しつつ回避する。

 避けた勢いを利用し、体ごと回転して蹴りを放つ。

 

(……っ)

 

 乙骨の蹴りは石流の腕で防がれるが、体勢は崩れる。

 そのまま連続で左右の拳を振るい、そして再び蹴りを放つ。

 

(これは、本当にまずい……!!)

 

 今までのダメージによってか、石流の防御が脆くなっている。

 だがそれは体術の話であり……むしろ呪力強化による堅さが増しているように感じた。

 それも殴る度に硬度が上昇しているように感じる。

 

(怪我のおかげで攻撃を喰らってないからわかり辛いけど、攻守ともに呪力の出力がどんどん上がっているはずだ。だけど、これは……)

 

 時間経過と共に石流の動きが悪くなっている。

 それは怪我だけが原因ではない。明らかに領域が石流の負担となっている。

 呪力だとか発動方法に問題があるとか……ではない。

 際限無く上がり続けている呪力出力に石流の肉体が耐え切れなくなっている。

 

(早く倒さないとまずいことになる……!)

 

 このまま石流の出力が上がり続ければ彼の体は圧壊し、自滅してしまうだろう。

 だが乙骨は術者である石流以上に、この後の展開が読めていた。

 知ってる。

 似ている。

 ゆえに、油断は出来ない。

 油断なんて……してられない。

 

「おうらああああ!!!」

 

 石流の攻撃が迫るが、乙骨はそれを避けて反撃する。

 どれだけ堅くても全くダメージが徹らないと言うわけではない。

 ただでさえ石流は元からダメージを受けているため、小さくてもダメージを与え続ければ勝てるだろう。

 だが――そのままなわけがない。

 

「――――っ!」

 

 石流の動きが、露骨に良くなった。

 さらに乙骨の想定通り呪力の出力はかなり高い。掠っただけで乙骨の体が大きく弾かれた。

 

「お……? んん?」

 

 そして動きが良くなった石流も、そこで自身の状態を理解する。

 ただ領域の発動に慣れてきた。出力に体が適応し始めた。

 そんな話ではない。

 

 石流の肉体が、治り始めたのだ。

 

 反転術式。玻座真も乙骨も使える肉体の回復高等技術。

 他にも使い道はあるが、今は体を治せるぐらいの認識で良い。

 問題は石流が反転術式を使えないはずなのに、回復が始まったこと。

 

「なんだ? 反転術式の機能があったって感じか?」

「…………いえ」

 

 際限無く上がり続け、そして反転術式が術者の意思に関わらず回り始める。

 その現象に、乙骨は心当たりがあった。

 

「留まることなく上がり続ける呪力の出力に耐え切れなくなった肉体が、反射的に反転術式を発動し始めたんです」

 

 こうなることがわかっていたから、乙骨は早く戦いを終わらせようと思っていた。

 きっと、目の前の術師は進化するだろうから……と。

 そう己のもう一人の強き先輩を石流に重ねながら、左手の薬指に目を向けた。




・『絶槍』
身に纏い展開するタイプの結界である絶界を手(片手印の形)の中に圧縮させ、それを細い棒状に伸ばす。
結界の性質上、体から術を切り離すことは出来ないため槍を握るような形で突き刺すことになる。そして展開した位置から動かしたりすることが出来ないため、槍と言う名前を与えているが武器として振ることが出来ない。そのためどちらかと言うとレーザーに近い。
圧縮することにより威力は集中することになった。だがそれだと上記の特性もあって相手に当てることも困難であるため、さらに範囲を絞り形状の自由度を限定する代わりに射程と展開速度を上昇させる縛りを付けている。
千鳥鋭槍みたいなイメージ。

・乙骨の日本刀
さらっと描写から消しているけど、今回の戦いでは使わないので仙台結界編ではもう出ません。使わないけど回収描写だけ出しました。
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