呪術世界の結界術師   作:ペンギンくん

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09.勝利条件

 東京都立呪術高等専門学校三年生、秤金次。

 玻座真の同期であり、乙骨の先輩であり……数少ない領域使いの一人だ。

 彼の領域はいわゆる賭け事(ギャンブル)を題材にしたものであり、領域内で行われるパチンコの演出で大当たりを引けば無制限の呪力と回復を得られると言うボーナスが発生する。

 ただし、回復に関しては領域に付与された効果ではなく、無制限に溢れる呪力に肉体が崩壊しないよう、生存本能が反射的に反転術式を回して治療を行っているのだ。

 

「…………」

 

 乙骨は勘違いしたが、石流の出力は時間経過と共に上昇している……と言うのは正しくない。

 彼の生得術式は『呪力の放出』。

 実際に上がり続けているのは放出能力であり、出力自体は引っ張られるように上がっているに過ぎない。

 そして本来の領域とは違い自身の体を外殻として使ったことにより……想定していなかった代償を石流は負うことになった。

 呪力の放出……つまり石流の体内から呪力が無理やり放出されようと勝手に動いているのだ。

 領域と言う性質上、常に術式が発動している。

 普通に術式を使うのとは違い石流の体と言う外殻がどうやっても一旦突っかかってしまう。限界まで空気を詰め込まれた風船のように、いつ内側から崩壊してもおかしくない状態に見舞われていた。

 かろうじて石流の呪力操作能力による制御で崩壊はしていないが、いつ限界が来てもおかしくはなかった。

 

 そして耐え続けた結果……ついに臨界点を超えた。

 

 秤の領域【坐殺博徒】と同じ、本人の素質とは無関係に反転術式が発動する域に至った。

 問題点としては秤とは違い呪力の無制限化ではない。いつかは反転術式の消費量に追いつかなくなり、呪力が底つくだろう。

 石流の出力は高く、少ない呪力でも比例して回復量も高くなっている。

 それでも勝手に発動する反転術式によって、石流の呪力は5分もしないうち終わりを迎える。

 だが……終わりが見えても、今の石流は自分自身に対する不満はない。

 文字通り自分は今、全力を出せている。そんな心地の良い状態だ。

 勘違いだと理解しているが、それでも全能感を覚えるほどの絶好調。

 

「グラニテファースト!!」

 

 自身の出力を一時的に下げつつ、段階的に出力を爆発させる縛りを使う。

 今の状態なら多少出力が下がっても問題ない。むしろ恩恵の方がデカい。

 

「…………」

 

 そしてそれを、乙骨も感じ取った。

 出力が若干下がったが……すぐにこれが縛りによるものだと理解した。

 ここからさらに出力を上げてくるだろう。

 場合によっては恩師である五条を超える可能性すらある。……いや、超えるだろう。

 

 覚悟を、決めるべきだ。

 

(――リカ)

(……憂太)

 

 心を通わせた相手と、指輪を通じて文字通り心を繋げて会話をする。

 心が繋がっているからこそ……彼女は乙骨が何を言おうとしているのか、言葉にせずとも察していた。

 

(そっちを任せても良いかな)

(…………)

 

 乙骨の言葉に対し、リカは拒絶の感情を見せる。

 だがそれでも彼女は乙骨の想いを優先したいと思っている。

 だから渋々であるが……。

 

(……わかった)

(ごめんね。リカちゃん)

(ううん。……憂太も、頑張って)

(ありがとう)

 

 心が温かくなるような想いを感じて笑みが漏れるが、すぐに気を引き締める。

 もう『外』のことは考えない。

 そして今後絶対に使わないだろう縛りを、今回限りは使う。

 戦うことに対して敵を倒す、誰かを守る以外に意味を見出していない乙骨だが……この戦いだけは違う。ゆえに、乙骨は石流に対して真っ直ぐ戦うことを選んだ。

 

 

 

 

 

「――リカ。また、会おう」

 

 

 

 

 乙骨の言葉を、石流の耳が拾った。

 それと同時に――乙骨の様子が変わった。

 大雑把に乙骨に纏っていた莫大な呪力が、一気に圧縮される。

 栓が閉まった、と石流は直感的に思った。

 ずっと漏れていた水の元栓を閉め、それにより操作性を上げたように見えた。

 先程の言葉が何らかの呪詞か、それとも縛りの合図か。

 何にせよ……改めて、戦いが始まる。

 

「――シィ!!」

 

 乙骨の鋭い拳撃が石流に伸びる。

 先程の攻防では出力が下がった状態でも石流が優勢だったが、今は違う。

 あれだけの呪力が圧縮された結果、石流の出力を押し返すほどの密度を得たのだ。

 

(コイツ……どんな縛りを……?)

 

 発言からして離別を思わせるものだから、それ関係のものだとは推察が出来る。

 見た目が派手に変化したわけではない。それでも死滅回游の泳者の中でも呪力操作を高等技術レベルで修得している石流だからこそ、その変化の幅を理解していた。

 ……どれだけの代償を支払ったのか。

 戦慄しながらも、乙骨は自身に対してそれだけ真摯に向かってくれることに、思わず笑みを浮かべる。

 

「…………」

 

 乙骨が支払った代償は、孤立の縛り。

 自分一人だけで戦うと言う、仲間がいることが前提の縛り。

 何も知らない仲間が助けに来てもペナルティが発生する。他者を使い、達成の不安定さを高めた強力な縛り。察しが良く領域展開中で内部の状況を把握出来る玻座真が相方でなければ、このような縛りを使わない。

 そして乙骨の背景を知らぬ石流は、その孤立の縛りがどれだけの代償となっているのかわからない。何故ならこの仙台結界での戦いにおいて、石流は乙骨と顔を合わせたのが数分前だから。

 

 故に、乙骨がリカとの接続が確実に出来なくなる孤立の縛りがどれだけ強力なものなのか、石流はわからない。

 

 接続することによってリカの完全顕現。それによる強力な戦力の追加、呪力の供給と模倣してきた術式の解放。

 それら全てを遮断し、ただただ呪力強化に全てを注ぎ込んだ状態だ。

 勢いが付いた乙骨の拳を石流は腕を構えて防ぐが……骨が砕ける痛みが走る。

 

「ぐっ……は。ははは!!」

 

 反転術式が回る。

 調子は維持されるが反転術式が回れば回るほど、残量呪力と言う名の戦いの時間(タイムリミット)は削られる。

 もっと、もっと。

 そんな言葉が頭に浮かび続ける。

 もっとこの時間が続けば良いのに、と言う意味か。

 それとももっと高まり合った戦いがしたい、と言う意味か。

 わからないが、それでもわかることはある。

 この戦いは……楽しいと言うこと。

 

「…………っ!?」

 

 乙骨の蹴りが弾かれ、体勢が崩れる。

 石流はカウンターではなく防御の構えだったはずだ。なのに……何かに弾かれた。

 

「今のは……」

「昔見た技を、再現したものさ!!」

 

 羂索の言葉に乗り呪物になる前、戦った一人が使った呪力操作の一種である。

 持っている技の量を増やそうと石流は生前から練習していたが、結局その技術を習得することが出来なかった。

 だが、今の石流であれば見様見真似でそれっぽいことは出来る。

 呪力の放出。それを圧縮した領域による潜在能力120%の解放。

 それによって今まで出来なかったことも、出来るようになった。

 そう……接触式の攻撃をしてきた相手に、纏った呪力が自動的に放出され反撃するようプログラムを組み込むことが出来たのだ。

 これによって出来るだけダメージを抑えられるようになった。少なくとも反転術式よりも生得術式の発動の方が呪力消費は低い。呪力の節約と共に、相手の攻撃を崩す役割としてこの場で再現した。

 

 落花の情。

 

 それがこの場にいる誰も知らない、技の名前。

 御三家直伝の領域対策の技である。

 だが別に領域にしか効果がないわけではなく、普通の戦闘でも使うことが出来る。ただし高等呪術操作技術であるため、戦闘中に発動の維持が出来るかどうかは本人の実力に依存してしまう。

 石流の技は術式が絡んでいるため同じことをしているだけの別モノであるが、質としては同じ域に達している。

 

(……秤先輩と似ていると思ったけど、ここだけは違うな)

 

 石流は秤と同じ反転術式の自動発動の域に達したが、彼と違い無制限の呪力を得られているわけではない。そのため最後(おわり)が存在している。

 だがそれはデメリットばかりではない。

 

(秤先輩は僕と同じでその呪力量によって繊細な呪力操作が苦手だ。特に秤先輩に至っては呪力が湧き続けることから僕以上に難易度が高いはず。勝手に増え続ける呪力を固定化させるよう操作をするのは大変だってことは、訓練の時に見ている)

 

 乙骨が入学した頃、玻座真と秤が特訓に付き合ってくれた時のことだ。

 玻座真が簡易領域を乙骨に教えようとしてくれたのだが、呪力操作が苦手な乙骨は習得出来なかった。

 秤の方も同じで、その無制限に湧き続ける続ける呪力をなんとか強化以外に使えないかと話し合ったことがあるらしいが、無制限に湧き続けるからこそ繊細な呪力操作が必要な簡易領域を秤は使うことが出来なかった。

 なお、秤の【坐殺博徒】は領域同士の押し合いに強いのもあり、戦いの手札としてならともかく領域対策の手札として簡易領域を覚える必要はない。そのため結局のところ、秤と乙骨は簡易領域を覚えることは無かった。

 

(この技に関しては石流の術式だからこそ出来たことだけど……このまま行くと日下部さんの域にまで行かれかねない)

 

 五条悟すらも認めている、生得術式を持たず呪力操作だけで一級術師にまで到達した抜刀使い。

 自分たちの教師である日下部は呪力を使った加速による居合を得意としており、さらには武器が壊されたとしても呪力で刀身を形作れるほどの操作技術を持っている。

 石流も呪力操作の技術は高いが、日下部の方がまだ高いように乙骨は見えた。

 見えたが……それも時間の問題のようにも見えた。

 

「グラニテセカンド!!」

「……っ」

 

 出力が上がるが、まだまだ乙骨には届かない。

 呪力出力が低い玻座真と違って乙骨の出力は高く、さらに縛りによって大幅に上がっている。

 領域を使って出力を最大限にまで上げた石流ですら、今の乙骨の密度には届かないと悟っていた。

 呪力出力では誰にも負けたことがない石流はその事実に思わず笑みを浮かべながら……加速する。

 

「グラニテサード!!」

 

 玻座真の時は妨害されそうになったが、今の石流は反発防御が呪力に付与されている。そのため反撃を気にせず迷わず攻撃を続ける。

 それは乙骨が最初にイメージした石流の動きそのものであり……自身の装甲に自信を持ち被ダメージを気にせず走り続ける戦車そのものだった

 

「フォース!!」

 

 ただでさえ出力が高く堅い石流の防御力に反発術式。それによって石流を止めること出来ず、縛りによる出力上昇は進み続ける。

 

「グラニテ……ファイナル!!」

 

 そして、出力の最大上限に辿り着く。

 その出力は規格外の無敵を誇る五条でなくては誰も防げないほどの域に達した。

 最強の拳が乙骨に迫る。

 

「――――」

 

 だから、乙骨も対抗するためにさらなる選択をする。

 乙骨の呪力がさらに圧縮される。

 ……拳だけに。

 

「…………」 

 

 その光景は玻座真の『絶界』を思い出させる。

 乙骨は玻座真のその姿を見ていない以上、偶然同じようなことをしているだけだろうが……先輩後輩揃って同じことをしているのを見て石流は思わず微笑む。

 かつての玻座真と同じように拳と拳がぶつかる。

 互角。

 乙骨と石流の呪力出力と密度は互角だった。

 ただし、それは拳だけだ。

 

「ふぐっ……!」

 

 乙骨の体が……特に腕が軋む。

 体の骨全てに皹が入ってしまったなんじゃないかと言うほどの痛みが走る。

 肉体強化用に呪力の全てを拳に集中させたわけではないが、それでも手以外は薄まっている。

 無論、乙骨の呪力量は膨大である。そのため今の薄い呪力による肉体強化と言えど他の術師以上と言えるだろう。

 だが……乙骨が戦っている相手は石流である。

 拳撃で抑えきれなかった余剰ダメージだけで、乙骨の体が軋むレベルのダメージが入った。それは並の術師であれば致命傷レベルだった。

 反転術式があるが、それに頼りっきりでは駄目だ。

 縛りによって得た恩恵は出力ではなく密度。要するに石流のように呪力出力による回復量上昇の恩恵は得られていないのだ。それはつまり、反転術式の消費量の節約は出来ないのだ。

 ただでさえ雑な呪力操作。仙台結界での戦いは玻座真がメインだったため乙骨は呪力がまだまだあるが……反転術式を乱雑に使いながら戦えば一気に底つくだろう。何より今は呪力の供給も無理になっているため保険が利かない。

 

(……どうする?)

 

 このまま時間切れまで殴り合いをするのか?

 いやそれじゃ駄目だ。何のために交代したんだ。

 模倣と言う生得術式を持っていることから多くの手札を乙骨は持っているはずだが、術式が使えなければ自身の手札を全然持っていないことを実感する。

 呪力操作が未熟であるとここまで何も出来ないのか。

 そう歯噛みしそうになるが……あることを思いつく。

 手札が無い? 本当か?

 ただ自分が出来ないと思っているだけじゃないのか……?

 やる前から諦めるどころか、選択肢に入れてすらいなかった。

 それは駄目だと……目の前で見せられたじゃないか。

 

「……すぅ」

 

 一度、立ち止まる。

 その動きを見て石流は乙骨がまだ何かをしようとしているのを理解する。

 石流の攻撃をし続ければ出力が上がる縛りを妨害するために動きを変えた……なんて粗末(チャチ)なものではない。

 次の戦いに移るための、リズムの変化。

 片手は拳を、もう片手は手の平を添えるような形。

 茶吉尼天の掌印を掲げる。

 その動きに……石流は覚えがあった。

 

「――領域展開」

 

 

 

 乙骨の領域【真贋相愛】はリカとの接続がなくとも模倣術式が解放される効果を持つ。

 ただし彼の結界術の腕では展開したところで玻座真の領域が障害となり、押し合いとなって砕かれてしまうだろう。……石流はそれを何とか回避する術を見せた。

 見本と言えば見本であるが、乙骨の結界術では圧縮した状態で維持展開など出来ない。そのため工夫することにした。

 必中効果と術式効果を削り、さらに展開速度を最低値まで下げる縛りを付けた。

 展開速度とは領域を使う上では有利に働くものだ。速ければ速いほど『簡易領域』や『彌虚葛籠』のような領域対策の術を発動させるタイミングを遅らせられる。そして領域と言うものは対策が遅れれば遅れるほど致命になる。

 その速度を遅くすると言うのはデメリットとして縛りが機能する。

 

 だが、今回に限ってはメリットに繋がる。

 

 展開速度が遅ければ遅いほど、乙骨の領域が壊れるまでのタイムリミットが延びるのだ。

 感覚的には玻座真の結界にぶつかるのは4秒ぐらい。それまでの間に乙骨は石流との戦闘を終わらせる必要がある。

 

「行きます」

「……来いっ!」

 

 クライマックスだ。

 石流は終わりを感じ取り、拳を構えながら駆けてくる乙骨に向けて同じく拳を放つ。

 この戦いで何度も行われてきた行為。どちらの拳が競り勝つかの殴り合い。

 どれだけ相手を超えられるかの戦いであり――

 

 

――【黒閃】――

 

 どれだけ自分が最高点を叩き出せるか。そしてそれを更新出来るかの戦いでもある。

 

「……っ」

「はははっ!!」

 

 もっとだ。もっと見せろ。そして魅せろ。

 そう言うかのように黒い火花が二人を祝福する。

 お互いがお互いの拳の威力と反発によって後ろに押される。

 もう一発――そう殴り掛かろうと踏み込もうとしたところで……乙骨が今までのとは違う構えをした。

 左手を右腕に沿え、その右手はまるで銃のような形にして石流に向けている。

 

「――――」

 

 最上の笑みを、石流は思わず浮かべる。

 本当に……ありがたいやつだ。

 そう思い石流も踏みとどまり……呪力を集中し始める。

 乙骨の指先に、そして石流のリーゼントの先に呪力が集束する。

 

「……乙骨」

「…………」

「あんがとよ」

 

 思わず石流は感謝の言葉を口にしていた。

 それに対し乙骨も笑みを浮かべながら、

 

「今回限りのことですよ。感謝なら先輩にしてください」

「……だな」

 

 お互いの、今出せる最大火力の呪力砲を……撃った。

 

 

   ◆◆◆

 

 

『5点が追加されました』

 

 大の字になって地面に寝転がっていると、コガネが出現して加点の報告がされる。

 念のためリストを確認するが、石流の欄は死亡扱いにはなっていなかった。

 

「……黒沐死の名前が二つある」

 

 大量のポイントを得たゴキブリ呪霊と、全くポイントを持っていないゴキブリ呪霊。

 同名の泳者がリストに載っており、そのどちらも死亡扱いになっていた。

 ボーっと眺めていると、玻座真とリカがやってきた。

 

『憂太……大丈夫?』

「うっす。悪いな、押し付けちまって」

「いえ。平気です。……リカちゃんも、大丈夫だよ」

 

 苦笑しながら体を起こし、周囲を見る。

 すでに玻座真の領域は解除されており、自分たちがいる場所だけ地面が抉られていると言う異様な光景が出来上がっている。

 

「……先輩は黒沐死が復活すること察してたんですね」

「うん? あー……いや、あいつの呪力が変な残り方してんなぁーとは思ってたから警戒はしてたのは確かだが。復活……いや、再誕してたのか」

 

 乙骨に聞かれ玻座真もコガネを表示して見るが、そこで初めて黒沐死二世の存在を知ったようだ。

 先程の乙骨の得点追加からして、外にいたリカが倒してくれたのだろうと考えていると……声を掛けられる。

 

「……よぅ、玻座真。腕はもう治ったのか」

「まーな。こっちはすぐに戦闘終わったし」

 

 すでに完治した腕を上げながら、声を掛けてきた石流に返答をする。

 石流の方も地面に寝そべっている。そして彼は乙骨と違って起き上がるつもりはないらしい。

 反転術式も止まり、さらには呪力も尽きている。

 まだギリギリ呪力が残っている乙骨と違い、立ち上がるのも大変なのだろう。

 

「それじゃ、俺たちの勝ちってことで。1ポイント残して後は全部貰うぞ」

「おいおい……どう見ても引き分けだろ」

「確かにダブルノックアウトだけど……ま、わかるだろ?」

「わーってるさ。ただ言ってみただけさ」

 

 苦笑しながら何とか上体を起こし、石流は煙草を取り出して火を点けながら、コガネを呼び出す。

 

「コガネ。こいつらに俺のポイント、1点だけ残してあとは全部渡す。……どっちに渡せば良いんだ?」

「乙骨で」

「僕ですか? じゃあ、僕で」

『了解しました』

 

 やることを終え、石流はもう周囲のことを気にせず煙草を吸い始める。

 煙を口から吐き出しながら、しみじみと呟く。

 

「まったく……大満足だよ」

 

 

 

 

 

 

「烏鷺としゃべらなくて良いのか? なんかあったぽいけど」

「えーっと……その。まぁ、色々ありまして。ちょっと僕じゃ彼女と話にならないと言うか……」

「ふーん。ま、お前五条先生とはまた別の方向で空気読めないし、相手の気持ち考えるの下手だしな」

「ちょっ、先輩言い過ぎでは!?」

 

 石流と烏鷺、二人と戦闘の意思がない者を殺さない縛りを結び、仙台結界を出るために縁を目指している。

 戦いが終わった後、仙台結界内を巡り隠れていた生存者を見つけ、一般市民たちには仙台結界での殺し合いが終わったことを告げた。

 それから外での保護体制が整ったら結界を通れるようにすると伝え、次の仕事先へむかうことにしたのだ。

 今の玻座真と乙骨ではすぐには一般市民全員を動かすことは出来ない。申し訳ないがしばらく待ってもらうしかない。

 

「空気読めないって言いますけど、先輩の意図はちゃんと察したつもりなんですが」

「あぁ、あれはマジで助かった」

 

 急遽始まった交代戦。

 碌な情報共有も出来てないどころか、何もかもわからない状態からの石流戦。

 乙骨も玻座真ほどではないが一般術師並みの呪力に対しての探知能力は持っているため、玻座真が真正面から戦っていたことはわかっていた。

 乙骨はとりあえず真正面から倒すことにして、戦い始めて石流の性格を読み取り……彼が何を求めているのか理解したのだ。

 

「満足させること……ですか」

「確かに俺たちはやべー泳者を倒すことも目的だが、ポイント集めも大切だからな。烏鷺のようなタイプならともかく、石流のようなタイプだと死にそうになっても自分が納得しなきゃ譲渡してくれない可能性が高いし」

 

 死滅回游における勝利条件の設定。

 ただ殺すだけなら玻座真であれば容易く出来た。『絶界』を付与した必中必殺の領域【独理隠望】を使えば、領域対策を使われようと問題なく塵芥に出来る。

 だが総則10の追加により、相手を殺すよりも相手を生かす条件でポイントを貰った方が良いと、旨味が出てきたのだ。

 ドルゥヴのような件もあるためある程度の選別は必須だが……それでも殺す必要が無いのであれば殺しはしたくない、と言うのは当然のことだ

 ただし石流のように目的が第二の人生を送る、だけを望んでいるわけではない泳者の場合は多少動きを変える必要がある。

 

「もしかしたら他の呪物化した相手に因縁を持っていて、同じように現代に蘇ろうとしているやつもいるかもしれないな。聞く限り羂索はそう言うやつを見つけて話に乗せるのが上手いっぽいし。……あ、これだな。東京第一の日車と第二の鹿紫雲ってやつ。多分この二人のどっちかだな」

「ほんとだ。一回使用済みになってる。どっちでしょうか」

「総則9の内容を考えると、そっちを追加したのが鹿紫雲ってやつじゃねーかな。100使ってもまだポイントある以上、こっちの方があの総則を追加しそうだ」

 

 コガネのリストを使い途中で追加された総則について二人で話し合う。

 自分たちも烏鷺と石流から貰ったポイントを合計すれば一つ追加出来るようになったが、これに関しては他の高専メンバーと合流してから話し合う予定だ。

 

「そう言えば先輩」

「なんだ?」

「途中から一般人のこと、忘れてましたよね。領域使うの渋ってたのは理解していますが……でもあのケースなら最初から使ってた方が良い気がしますし」

「あー……」

 

 それか、と嘆息を零し思わず猫背に玻座真はなる。

 

「前線に出てきて気づいたんだが、どうにも俺は……視野が狭いらしい」

「視野が狭い?」

「基本的に俺は探知結界とかで俯瞰して情報収集出来るんだが……どれだけ事前に情報を集めても目の前の状況に集中してしまうっぽいんだよな。渋谷の時も奇襲喰らったし」

 

 渋谷では真人に奇襲を食らい、仙台結界(ここ)では石流に奇襲を食らった。

 自身の見えてなかった性質が露呈してきて、思わず玻座真は考え込む。

 

(いや、視野が狭いって言うよりも……俺の生得領域のことも踏まえると……)

「どうしました?」

「なんでも。さて、出るぞ」

 

 乙骨を伴い死滅回游の結界を出る。

 すでに仙台結界の解析は終えているので、次の場所に向かうのだ。

 

「ん?」

「お」

「……うん? あれ、偶然か?」

「少なくともこっちはさっき、やること終えてきたんだが」

 

 再びバイクに乗るため最初に入ってきたところから結界を出るが……そこには憂憂が立っていた。

 誰かと電話をしていたらしく、スマホをポケットにしまっている。

 

「ここにいるってことは、運び屋の仕事を受けたってことだよな」

「五条悟のツケでな。……とは言え、次は青森の恐山結界に行ってもらうが」

 

 次の行き先を指定され思わず二人は首を傾げる。

 それに対しコガネを出せと憂憂に言われ乙骨が呼び、恐山結界の欄を表示する。

 そしてリストを見て……二人は顔をしかめる。

 

「高専側で確保した泳者にコガネのリストを見せてもらったところ、恐山結界の状況が悪いらしい」

「これは……」

「ちょっと、荒れてんな」

 

 仙台結界以上に悲惨な状態らしい……恐山結界。

 生存者はギリギリ20人を超える程度。

 あとは……三体の呪霊らしき名前の存在。

 そのうちの一体は異様なほどのポイントを保持している。

 

「恐山結界は元々呪術連の面子の名前があると姉さまも注目していたんだが、日に日に消えていったらしく……残りは一人だけらしい」

「……こいつら特級か?」

「推定だと特級だが、登録されているのは一体だけだ。残りは未登録だ」

「このポイントを多く持っているのが?」

「いや、むしろ一番ポイントが低いやつが特級として登録されているやつらしい」

 

 乙骨が顔を上げ玻座真を見るが、口を開く前に。

 

「いや……さすがに今日は休もう」

「……そうですね」

 

 疲労し切った玻座真は、そう提案した。

 体力も呪力も無くなった状態で、激戦は続けたくなかった。

 




完全に忙しくなる前に仙台結界編を終わらせることが出来ました。改めて、今後は不定期で。
次回からはオリジナル結界編。羂索が死滅回游を始めたことによって生じた問題を見に行く話。
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