呪術世界の結界術師 作:ペンギンくん
00.この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ
「あれ……?」
ふと、自分がいる場所がわからなくなり、辺りを見渡す。
まるで夢から覚めた時のように一瞬、自分がどこにいるのかわからなくなる現象のようだった。
そして意識がはっきりしてきて「あぁ、自分がいる場所はベッドの上で……もう朝か」と状況を理解するのだ。
「……学校じゃん。ここ」
今は夕方だし、なんならベッドの上ではなく教室の自席で寝ていたようだ。
「お、やっと起きたのか」
「あ……真希さん」
「ほら、嫁さんが見えてるぜ」
クラスでも仲の良い禪院真希が乙骨の肩を揺らして起こしたようで、窓から学校の門の方を指差す。そこには一人の少女が佇んでいる。
「あっ、ま……まずい!」
「この後デートか?」
「で、デートと言うか……す、すみません真希さん。起こしてくれてありがとうございます!」
「おう。また明日な」
荷物を急いで鞄に入れて先生に注意されないレベルの速度で校門に向かう。
慌てていたせいか靴に足が半端にしか入っておらず、思わず転びそうなところを誰かに掴まれる。
「うお。大丈夫っすか、乙骨先輩」
「うわっと……ありがと。虎杖君」
自分を支えてくれた人物、後輩の虎杖に苦笑しながら礼を言う。
友人である伏黒と釘崎とどこかに行くらしく、三人一緒にいる。
「三人もどこかにお出かけ?」
「これから別校の友達も呼んで映画観に行くんすよ」
「聞く限りなんか変な内容の映画っぽいんですけどね……」
「つまんなかったら承知しないからね!」
「大丈夫大丈夫。保証するって」
挨拶をして三人から離れ、そして校門で佇んでいる少女に声を掛ける。
「ごめん、里香ちゃん。待たせたね」
「……おっそい」
別の高校の制服を身に着けた可憐な少女、乙骨の幼馴染である祈本里香がムスッとした表情で立っていた。
乙骨は彼女と今日の放課後にお買い物の約束をしていたのだ。
「それで、五条さんはどうだって? 私の転校認めてくれた?」
「やっぱり無理っぽいよ。学長曰く普通の子は普通の学校に行くべきだって」
折本が通っている学校は普通の場所であるが、乙骨が通っている学校は少しばかり特殊である。
授業内容自体は普通であるが、普通の生活を送れなくなってしまった子供たちが通う学校なのである。
社会差別を受けないよう一部の層しか知られていない場所であるが、別に完全隠匿されている学校ではない。
乙骨の保護者である五条悟がここの学校の教師であり、彼の事情を鑑みて通わせているのである。
「うー。私も憂太と青春を送りたいのに~」
「ははは。まぁまぁ」
苦笑しながら愛しの幼馴染を宥める。
確かに自分はあまり人並みの幸せを送れているかどうかと言われると微妙なところだが、自分を支えてくれる人が大勢いる。
そして乙骨は今の人生に満足をしている。
「幸せ過ぎて、贅沢だな……」
◆◆◆
「くそっ。鬱陶しいこの霧!!」
霧の中を玻座真は走り続ける。
彼の傍には乙骨の式神モドキの術式であるリカがいる。
本来であれば付いていく相手は最愛の乙骨のはずであるが、現在は玻座真と共に行動をしている。
『憂太……憂太……』
「……そっちか」
震える声音で乙骨の名前を呼ぶ彼女の向く方に玻座真は行く。
本当はすぐにでも乙骨の元に行きたいのだろうけど、玻座真とペースを合わせなくては今の彼女は動くことが出来ない。
『簡易領域』。
玻座真の足元には広く展開された対領域用結界術『簡易領域』が敷かれている。
このエリアから出れば強力な存在であるリカですら、乙骨と同じ目にあってしまう。
「…………」
青森の位置にある死滅回游の舞台、『恐山結界』。
恐山と名前が入っているが霊場の結界発生原点と言うだけであり、結局のところ殺し合いのゲームを行う以上、エリアの大抵は人が多くいる場所となっている。
ゆえに戦いの舞台は街である以上……人的被害は大きく発生する。
恐山付近の街に住んでいる住民はもちろんのこと、観光に来た人間もいる。
恐山と言う場所の関係で非現実的なことが起こってもおかしくないと言う考えにより、
羂索によって強制参加させられた泳者及び羂索の提案を蹴って残った非泳者。
結果的に数百人の人間が残り……現在まともに生きている人間は二十人程度である。
恐山結界内にいた六割の人間がたった一体の呪霊に殺された。
もう一体が二割の人間を殺し……そして高専に登録された特級呪霊と共に侵入してきたアイヌの呪術連の術師たちを殺した。
そして玻座真と乙骨も侵入し……現在は対応に追われている。
乙骨がいなくなった。
恐山結界に入った瞬間、乙骨がいなくなった。
死滅回游のランダム転送……ではない。事前に玻座真が対抗結界を張りながら入ったからだ。
だが対策していたのは死滅回游の罠だけであり……攻撃に対しては足りなかったのだ。
不意打ち用の防御用の結界は展開していた。だがそれでは駄目だったのだ。
……入った瞬間、対策が足りなかったことを理解した。
領域常時展開【霧幻包溶】
羂索が侵入してきた呪術師対策に用意した罠。それを読み取った玻座真は瞬時に簡易領域を発動したが……必中化した術式を食らった乙骨は自ら姿を消した。
そう、何らかの術式を食らい自分からどこかへ行ったのだ。
乙骨の心配をしたリカが顕現し、繋がりを基に彼の場所へ案内してくれいるのだ。
「……なんだ、この
リカと共に乙骨を探しながら、玻座真は探知結界を走らせる。
だが上手くいっていない。
自分たちがいる場所は呪力による濃霧に包まれている。簡易領域が敷かれた場所には入り込んでこない以上、濃霧は領域によるものなのだろう。
だが必中効果に呑み込まれなくて安全と言うわけではなく、簡易領域の外側は霧が漂っている。そのため視覚情報は遮断されているし、呪力によるものだからか探査結界の効き目も微妙だ。探知をどれだけ走らせても霧の呪力に反応してしまうため、乙骨の居場所が特定しづらい。
問題なのは乙骨がいるだろう場所……の、逆側。
(さっきから探知結界を飛ばしている端から呪力が消えている。……食われてんのか? これ)
探知結界を使うことによってわかったことは多い。
まず霧のエリアが極めて広く、もう一体もエリアを広げているが広くはない。恐山結界の7:3ぐらいの割合だろう。
そして狭い方のエリアが……極めて危険だ。
「…………いくら何でも広すぎる」
霧のエリアよりも狭いと言うだけで、術式範囲が異様に広い。
霧の方は死滅回游の結界との繋がりが見えることからまだ理解は出来るが、もう片方はどうやってそこまでの範囲を支配出来ているのかわからない。
そしてずっとそのエリア支配をし続けられている呪力量。
正直、不気味だ。
乙骨が反対の方に行ったのは偶然だろうが……まだ良かった。
『憂太……!』
「いた」
姿を見つけた。
ふらふらと霧の中をまるで夢遊病患者のように歩いている姿を、玻座真とリカは見つける。
自身の中で想定難易度の上方修正をしながら、彼を簡易領域に入れた。
要するにこの恐山結界は蟻地獄であり、ある程度外側からこのコロニーのことがわかれば入らないと言う選択肢一択になるんですよね。この作品では各結界に行く理由があるから入るんですが、本当は犠牲に目を瞑って放置が安定。