呪術世界の結界術師   作:ペンギンくん

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短いですがプロローグが昨日投稿されてますので、見逃している場合はそちらからどうぞ。


01.牢獄

 

「食糧と薬は持ってきたが……悪いがあまり役立つかわからないな」

「いえいえ。正直なところ、まともな水と食べ物だけでもありがたいでござる」

 

 頭の中がぼんやりとしているが、それでも何とか沈もうとする意識を引っ張り、体を起こす。

 

「おはようございます……。すみません、何があったんですか?」

「ん? あー、おはよ。呪霊が展開していた領域の術式喰らって、意識失ったお前をこの避難所……病院に連れてきたんだ」

「病院……」

「あぁ、反転術式で体内に残った呪霊の呪力を排除しておけよ。リカがここに来るまでの間に反転術式で治療してたが、さすがに傷を癒すのとはやり方が違うっぽくて完全には中和出来ていなかったようだし」

「わかりました……」

 

 どうやらこのぼんやりとした感じは呪霊の術式効果が原因らしいと理解し、反転術式で体内に残った呪力を中和する。

 そして自分が病室のベッドで寝ていたことを覚めてきた脳で理解する。

 

「と言うか、すみません。戦力として同行を頼まれたのに……足引っ張ってばかりですね」

「仙台の方は俺がメインで動かなくちゃいけなかったし、そもそも今回に関しては俺の方が悪い。対領域術師として一緒にいるのに抵抗するのが遅れたんだしな」

 

 侵入に察知して領域を発動したのならばともかくずっと領域を展開している(・・・・・・・・・・・・)のだ。死滅回游の結界の性質上、入るまで中のことが観測出来ないため問答無用で領域を食らうに等しい。

 玻座真にしても常に展開している自己補完の防御結界で領域効果が遅れていなかったら、その術式を食らい乙骨と同じ状態になっていただろう。

 

「……とりあえず食らった術式に関しての議論は後回しにして、集めた情報を話す」

「はい。……それで、そちらの方が?」

「初めまして、乙骨殿。拙者は呪術連の久本時則(ひさもとときのり)でござる」

「乙骨憂太です。えっと……忍者?」

 

 目元以外を赤い頭巾で隠し、服も赤色の青年が玻座真の隣に立っており、挨拶をしてくる。

 全身赤色とは目立つが、格好と口調からいわゆる『忍者』と言うものに見える。

 

「拙者の術式は生存能力が高いものでして。わざとこうして目立つ色にして敵の注意を引く役割を担っており、なおかつ忍者っぽく振る舞えばいざ一般人に見られても撮影と誤魔化せるため、こう言うキャラ付けをしているのでござる。それが日常となった結果、戻らなくなったのでござるが」

北海道(アイヌ)の呪術連は全くってわけじゃないが、天元様の加護が届いていない場所だしな。呪術の隠蔽をしながら呪霊退治するには工夫いるんだよなぁ」

 

 補足説明を玻座真はしているが、彼も久本と会った時は強すぎるキャラ立ちに引いていた。

 

「……死滅回游が開始され、我々呪術連も調査のために付近である青森の結界に入りました。高専で言うところの一級術師相当の術師を含めた五人、先遣部隊を出したでござる。ですが死滅回游の結界の特性により連絡が途絶え、今度は一級二人準一級を四人の部隊が作られました。生存能力が高いと言うのもあり拙者も編成され、第二部隊として派遣されたでござる」

「…………」

「これで駄目だったら一旦調査を中断しよう、と話し合った上での派遣でしたが……結果的に生き残れたのは拙者だけでした」

 

 内容は悲惨な結果と言えるだろう。

 話を聞く限り、呪術連が編成した呪術師の部隊は彼を除き全滅したと言うことだ。

 

「現在はこの結界内で生き残っている人間を集め、持ってきた拠点用の結界呪具で呪霊共から隠れながら事態の変性を待っていました。追加された総則の内容からして高専の方たちも動いていることは察しましたので」

「……んで、さっきも言った通りここは病院だ。デカい病院だ。ただ結界呪具の範囲の関係で全部は囲えてない感じだな。とは言え、生存者が少ない関係で使える場所が少なくても済んでしまっている感じだが」

 

 人がいないからスペースが足りてしまっている。

 そのことに乙骨は思わず苦い顔をする。

 

「それで、だ。起きたばかりで悪いが……さっそく仕事だ」

「……僕が必要ってことはもしかして」

「あぁ。反転術式での治療を頼みたい」

 

   ◆◆◆

 

 電気で明るく照らされた廊下を歩きながら、乙骨たちは目的の病室を目指す。

 自分たち以外がいないのに電気を点けているのかと不思議そうに思っていると、久本が話してくれる。

 

「今回の件で暗い場所を恐れる人たちが出まして。出来るだけ歩く可能性がある場所は電気を点けることになりまして」

「あぁ、なるほど」

呪術師(オレら)はその辺の感覚、麻痺しがちだからなー。慣れと言うかなんと言うか」

 

 死滅回游が行われている最中、日本政府は結界内の生存者への配慮として電気が止まらないよう手配してくれている。それにより結界呪具の範囲内の病棟の電気は点けっぱなしになっている。

 それでも万が一を考え無駄使いするわけにはいかず、結界外の病棟の電気は切っている。

 

「恐山結界に君臨している呪霊の数は三体。『山岳大人(さんがくだいじん)』『災王臥馬(さいおうがうま)』……そして(おおはまぐり)の登録済み特級呪霊『心棄弄(しんきろう)』。お前が食らった術式は心棄弄のものだな」

「……夢を見せられていました」

「夢、ね。やっぱり幻覚系の術式か」

 

 どこかおかしな、だが楽しい夢……だった気がする。

 心を壊すような悪夢ではなく楽しい夢だった辺り、何らかの縛りがあるのかもしれない。

 

「ただ夢を見せるだけなら非殺の縛りが適用されるはずだ。……秤の領域のような術式開示が必中効果として適用されているのと同じ感じかもな」

「非殺……そう言えば心棄弄自体のポイントは低かったですね」

「実際、恐山結界内で人間を殺し回っているのは残りの呪霊でござる」

 

 乙骨と玻座真を案内している久本が会話に加わる。

 

「山岳大人は名前の通り、巨人の呪霊でござる。術式は未だ不明でござるが、その巨体で夢遊病状態の人間を潰している。災王臥馬もあまり自身のエリアからは動きませんが、それでも入り込んできた人間を殺戮しているでござる」

「つまり、三体の呪霊は協力していると?」

「ポイント使って総則の追加していない辺り、知能自体は普通の呪霊と変わらなさそうだが……」

 

 そもそも死滅回游に参加させられている呪霊たちが総則をちゃんと理解しているかすら怪しい。

 呪霊は基本的に生まれた場所から離れたりはしない。それこそ高い知能を持ち合わせていなければ、術式や縛りで無理やり連れて行くしかない。

 それと同じで羂索の呪霊操術から解放された呪霊は、あまりその土地から離れようとしないのかもしれない。そしてそこから離れることをしないので、死滅回游に参加状態となる。後は本能に従い人間を殺すので、ポイントを取得しないと術式が剥奪される総則もクリアすることが出来る……と言うことだ。

 

「一緒に戦っているわけではないでござるが、お互いがお互いの役割を勤めることで結果的に協力しているような形になっているのかと」

「……どちらにせよ一体と戦っている時に乱入してくる可能性はあるってことですよね」

「はい。特に山岳大人は結界内を不規則に徘徊しているので、その可能性は高いかと」

 

 説明している間に目的の場所に着いた。

 そこは病室であり、中から呻き声が聞こえてくる。

 

「重傷者ですか?」

「傷ではなく、症状の方だな」

「えっと、残念ながら僕は家入さんと違って医学知識はそこそこなので病気の類は厳しいですが……」

「それでも、今は乙骨殿の力が必要なのです」

 

 こんこん、と久本が扉をノックする。

 「はい……」と力の無い返事がされ、扉が開かれる。

 中からくたびれた様子の白衣の中年男性が出てくる。

 

「あぁ、久本さん。そちらの方たちは確か……」

「追加で来た呪術師でござる。こちらの乙骨殿は反転……他者を回復させる能力を持っているので、来てもらったでござる」

「乙骨です。自分が出来ることがあれば言ってください」

「呪術の……助かります。ではこちらに……」

 

 久本の話を聞き乙骨は病室に招かれる。

 そこは大きな病室でありベッドが六つ置かれており、患者が横になっている。

 元々四人部屋のようだがベッドをどこかからか持ってきたようで、六人部屋として無理やり使っているようだ。

 一瞬不思議に思ったが、すぐに理由がわかった。

 

「…………」

 

 異貌。

 患者たちは体のどこかが変形している。固定物が熱で溶け、そして固まったような異形と化している。変形した部位が痒いのか、ガリガリとその場所を掻こうとしているが……手袋に阻まれている。

 

「細菌とウイルスを撒き散らす疫病の呪霊『災王臥馬』の被害者たちだ」

「疫病の呪霊……」

「詳細は後で話すが、コイツが恐山結界で一番殺戮しているやつだ」

 

 恐山結界に侵入すると同時に意識を奪われた乙骨とは違い、玻座真はしっかりと情報収集をしていたようだ。そのことに心の中で自身へ落胆しながらも、せめてと思い苦しむ者たちへ近づき反転術式を行う。

 

 

 

 

 

 

「すみません。完治どころか、ある程度の治療しか出来ませんでした」

「いや、あれだけでも正直ありがたいです。私らでは何も出来なかったも同然でしたので」

 

 あれから二十分が経過した。

 場所を変えて宿直室に移動し、三人は適当な椅子に座り話し合いを始める。

 

「…………」

 

 医学に精通していない乙骨では知識面の関係で全部の治療は無理だとは理解していた。

 だが結果はそれ以上に芳しくない。

 彼らの中にあった呪力は中和することが出来たが、病気などは消せたわけではない。確かに彼らの苦しみは緩和出来たかもしれないが……乙骨からして見れば誤差の範疇にしか感じられなかった。

 

「実際、体内の呪力を中和出来ただけでも助かっているでござる。疫病馬の術式は呪力で細菌やウイルスを活発化させるもの。そのため中和さえすればある程度は落ち着くでござる」

「……先輩の結界でなんとか出来たりは?」

「自分の体にならともかく、さすがに他人の体の中に結界はやりたくねーな」

 

 トントンと自身の胸を小突きながら(・・・・・・・・・・・・・・・・)玻座真は嘆息を零す。

 

「早く呪霊……特に災王臥馬を祓わないといけないですね」

「…………」

「久本さん?」

 

 呪術が関わっている病気であれば早く根源を祓うのが一番いいだろう。

 そう思っての言葉だったが、久本の様子がおかしい。

 

「……いえ。正直に話しましょう」

「…………」

「疫病馬を祓っても治るとは限らない可能性があるでござる」

 

 その言葉に乙骨の表情が強張る。

 

「もしかして、既存の病原菌を操る術式なんですか?」

「仮想の病気を生み出す術式ではなく、現実に存在する細菌やウイルスを強化・変質させる術式でござる。それも疫病馬が望んだ性質の方向性になる様子でござる」

 

 呪術による病気であれば、術者本体を殺せば消える可能性がある。

 だが既存の物を使っているのであれば……残るかもしれない。

 式神ではなく、黒沐死のゴキブリ使役・強化に近い内容だ。

 

「いくつか確認出来ていまして、奴から外側に近い場所は毒のような病気。そして奴の近くは肉食性の高い細菌が展開されております」

「展開……」

「それについては俺が心棄弄の件も含めて話す。……探知結界の調子からするに、呪力を食らう細菌……」

 

 説明していた玻座真が突如しゃべるのをやめる。

 不思議そうに乙骨と久本は見るが、玻座真は肩をすくめる。

 

「いや、細菌やらウイルスやら区別して話すのが面倒臭くなって。総合して呪病で良いか?」

「別に僕は構いませんが……」

「病院なので医師の先生とはちゃんと区別して話してましたが、まぁ確かに毎回しっかりと分けて話すのは話し辛いでござるか」

 

 苦笑する乙骨と頷く久本。

 

「んで、呪力を食らう呪病もある。ただこちらは一気に食われる感じじゃなくて蝕まれる感じだな。……それと寄生型もある」

「寄生、ですか?」

「いわゆるゾンビを作る病だ。……最悪なことに、この呪病に罹患した人間は死んでいるけど生きている(・・・・・・・・・・・・)状態になる」

 

 最悪なことに。

 その言葉で玻座真が何を言おうとしているのか乙骨は理解する。

 

「……殺す必要がある、と」

「動かされている死体、と考えるしかない」

 

 動く病原菌の塊みたいなもんだしな、と玻座真は言う。

 

「ゾンビたちは馬の目と鼻と耳であり、呪病を撒き散らす存在だ。さらに馬の呪力の源となっている」

「源……?」

「恐山結界の7割が心棄弄の術式支配地域で、残り3割が馬の術式支配地域なんだが……心棄弄の方は死滅回游の結界と接続されているからともかく、馬の方は別にそう言うわけでもないのに広範囲に術式を維持発動しているのがどう考えてもおかしい」

「つまり、ゾンビたちの呪力を回収して使っているってことですか?」

 

 一般人と言えど呪力を持っていないわけではない。

 余程の例外でない限り、どんな人間も多少は呪力を持っている。

 

「それも悪夢か何かを見せているのか、負の感情を増幅させる仕込みをしているように見える」

「…………」

 

 そのやり口は真人の改造人間を思い出すが、向こうの悪意増し増しの思考回路と違い災王臥馬の動きは生物としての習性に思える。

 だからと言って何の救いもないが。

 

「……どうやって祓いますか?」

「ウゼェことにコイツは最後だ」

 

 一刻も早く祓わなくては。

 憤りと共に乙骨は聞くが、無情な答えが返ってくる。

 

「巨人の乱入が鬱陶しいから先に祓う必要があるが、そうなると貝のエリアに入る必要がある」

「……僕が山岳大人を。先輩が心棄弄をってことですね」

「一番楽なのは貝のやつの領域を壊すことなんだが、それが出来ないからなぁ。だから本体を祓って領域を終わらせるしかない」

「――玻座真殿は心棄弄の領域に関して原理を察しているようですが、どのようなものなのでしょうか? 拙者としても気になっているでござるが」

 

 乙骨と玻座真の会話に途中から黙っていた久本だが、心棄弄の領域は壊せないと言う玻座真の発言に質問してくる。

 乙骨としても壊せないという言い分に対して今までの話から何となく推測は出来ているが、聞くことにする。

 

「……推測だらけだが、心棄弄と恐山結界は繋がっていると思われる。位置的に呪術連対策なのかもしれないが、どちらにせよ入ってきた相手に対して(・・・・・・・・・・・)の殺意を感じる設計だ」

「死滅回游とは、中にいる泳者同士による殺し合いの場なのでは? 我々呪術連への罠として用意した場所、と言うのは納得行いくでござるが……」

「羂索の思惑としては心棄弄の領域によって無抵抗状態にされた泳者を配置した他の呪霊が襲うと言う計画だったんだと思う。さっきも言った通り、死滅回游の結界と繋がっているってことは、心棄弄には実質この霊場の呪力を注がれ続けているってことだ」

「つまり恐山結界自体を領域の外殻にしていると……?」

 

 思わず乙骨は唸る。

 今までの話を聞く限り、羂索の結界術の腕は相当高いとわかる。

 普通ならありえないような領域であるが、千年も生きている怪物なのだ。この領域だって数年どころか数十年、もしくは百年以上の時間を掛けて築き上げたものなのかもしれない。

 改めて羂索の執念を感じる。

 

「ですが、さすがに無条件で成立させているわけではないですよね? 非殺設定辺りが僕は怪しいと感じていますが」

「だろうな。術式開示自体に必中効果乗った応用な気がする。要するに無理やり情報を与えて相手に幻覚状態を見せている、って感じだな」

「それに関してなんですが……もしかしたら精神的苦痛を与えるような内容は無理とかもあるかもしれません」

「うん? 楽しい夢を見せるみたいな感じか?」

 

 乙骨の発言を聞き彼がどんな幻覚を見ていたのか察する。

 

「うーむ……残念ながら領域に呑まれた者は今のところ乙骨殿以外は生きていないので、あの貝の呪霊の術式に関しての情報は無いに等しい。そのため比較が出来ないでござる」

「……食らわないことに越したことはないが、まぁ食らっても平気かもしれないのは悪くない情報だな」

 

 玻座真は少しだけ考え込むような様子を見せるが、すぐに話を戻す。

 

「話を戻すが、多分だが中にいる人間よりも外からやってきた人間の方が術式の効力は高いと思う。……相対的に高いと言った方が正しいか」

「相対的ですか」

「必中効果を相殺するタイプとはまた違う簡易領域とかに見られる、承諾の縛りがあるんだと思う。結界に仕込まれた術を受けることを承諾することによって発生するもの。……高専の資料に載ってた仮想怨霊『口裂け女』の簡易領域とかにもあったやつだな」

「中より外の方が……なるほど。そう言うことですか」

 

 玻座真が言っていた中の人間よりも外の人間の方が狙われてそうと考えたのか、理解出来た。

 

「死滅回游への参加表明。それが承諾の縛りに利用されているってことですか」

「そう考える。……もしかしたら最初から結界の中にいた泳者に対しては効果が低い、あるいは効果が無いとか。そうだとすると領域の術式を食らったことすら気づいていなかったかもしれないな」

「……効果が無いなんてあるのでしょうか。非術師や覚醒型はどっちにしろすぐ死ぬと羂索が考えて放置した可能性はありますが、受肉型なら気づき心棄弄を祓いに行くのではないでしょうか」

 

 何らかの大規模な術が発動している。今のところは平気かもしれないが、万が一を考えて祓っておこう。

 そう考えてもおかしくないはずだ。

 

「そもそも受肉型が配置されていなかったと見ているが」

「もしくは巨人や馬がその護衛として配置されたのではないでござろうか」

「だとすると……心棄弄は本当に外からやってくる術師対策に配置した特級呪霊ってことになりますが」

 

 悩む様子を見せる乙骨だが、すぐに別の疑問が浮かび……一旦違和感を端に置くことにする。

 

「そう言えば……心棄弄以外の呪霊も特級クラスですよね。呪術連の方に情報は?」

「残念ながら」

「……羂索が外から連れてきた呪霊かもしれないな」

 

 玻座真の言葉に、二人の視線が集中する。

 

「外でござるか?」

「あいつは呪霊操術って言う調伏した呪霊を手持ちに加えられる術式を持っているが……外国を巡っている時に捕獲した呪霊かもしれない。巨人の方は日本各地にも巨人伝説があるからなんとも言えないが、馬の方は黙示録に出てくる蒼褪めた馬が下敷き臭い」

「そう言えば、先輩が戦った特級呪霊も外国の神が元となったやつでしたっけ」

 

 玻座真から聞いた障害を取り除く術式を持つ象頭の呪霊。

 羂索が千年掛けて集めてきた呪霊たちよりも、外国の呪霊の方が未知の存在に思える。

 過去に存在していた以上、資料に載っているかもしれない。伝承や逸話から存在を仮定出来る。

 だが……国外には呪霊が発生しにくいことから、呪術師は外の国の情報をあまり集めない。全く集めないと言うわけではないが程度が知れる。

 そうなると生態や術式傾向が日本の呪霊と変わる可能性があるため、対応が遅れる危険性が高い。

 

「特級呪霊を三体もこの結界に配置したと言うことですか。そこまで本格的にここに注力している、と」

「……恐山結界(ここ)に力を入れているのは間違いないだろうが、二体が特級呪霊だったかは怪しいと個人的には考えてる」

 

 黒沐死のこともあるため、各結界に特級呪霊を一体以上配置しているのだろうかと考える乙骨だったが、玻座真の言葉に首を傾げる。

 

「どう言うことですか」

「さすがに特級呪霊を何体も死滅回游に使わないだろう。特級術師と戦うことを想定するなら強力な配下は手元に置いておきたいはずだ。……ある程度かき乱すための装置として強力な呪霊を配置しているのは確かだろうが、限度があるはず」

「……つまり?」

「あいつらは一級クラスだった。だが、死滅回游の最中に特級クラスに昇華した。そう考えてる」

「……確かに災王臥馬の方は特級クラスになれるほどの災害を振りまいていますが」

「あー……それもあるだろうが、違う。それ以前の問題だ」

 

 乙骨の言葉を玻座真は完全ではないが、否定をする。

 目を向ける場所が違うのだ、と口を開く。

 

 

 

「渋谷事変で一般人たちにも呪霊の存在が知られてしまった。人間に対して極めて凶暴的な存在が、見えないし反撃出来ない。ただただ非術師は殺されるしかない。そんな存在を認知した以上、『呪霊と言う存在自体に“恐怖”が向けられる』事態になってしまったんだ」

 

 

 

 ……玻座真の言葉に乙骨は思わず呆然としたように口を開いてしまう。

 呪霊と言う存在は人々の恐怖から生まれる。大体はその恐怖の対象となる象徴をモデルとした存在が生まれるのだが……今回は違う。

 

「つまり、今後呪霊の全体の強さが上がってしまう……ってことですか?」

「呪霊と言う存在自体が恐れられるのであれば、注がれる呪力も上がるはずだ。今更隠すことも出来ないしな。……天元様が結界で呪力が漏れないよう封じるわけだ」

 

 玻座真の言葉に乙骨は頷く。

 日本人の恐怖だけでも強力な呪霊は生まれるのだ。世界中の人間の恐怖が集まった呪霊なんて生まれてしまえば、特級術師でさえも手に負えない可能性が出てくる。

 

「…………」

 

 漏瑚、と言う呪霊がいた。

 あれは大地への恐怖から生まれた呪霊だと言うが、術式は地面を操ると言う内容ではなく見た目通りの炎熱やマグマを操るものだったと言う。

 何故あそこまで大地の呪霊だと言うのにマグマに偏ったかと言うと……日本が火山国だからだろう。日本以外で生まれたらもっと直接的に大地に関する術式を得ていたかもしれないが、ここが火山……富士山と言う象徴を持つ日本だからこそ、大地への恐怖があのような形になったのだろう。

 再び大地の呪霊が生まれてきたら、今度は地震に関する術式かもしれないが。

 このように日本だけであれば考察もしやすくなるが、世界中となると大変なんてものではない。

 何よりただでさえ呪術師は人員不足だと言うのに、世界のどこかで呪霊が生まれてそれを祓いに行かなくてはいけないと言うのも……考えたくない話だ。

 

「すみません。呪霊全体の脅威度が上がると言う問題は理解出来たでござるが、貝の呪霊の領域を壊すことは出来ない理由についての話が流れてしまったでござる……。シンプルに結界の強度の関係で壊せないって話でござるか?」

「……俺なら時間を掛ければ壊せる自信があるが、今回は駄目だな。久本さんには言ってなかったが、死滅回游の結界を壊すと後発的に参加した泳者はともかく、覚醒型や受肉型はその体に総則と同じ縛り(ルール)が刻まれているんじゃないか。そうすると総則1・2・8で死ぬ可能性があるんじゃないか、と俺らは危惧している」

「……っ! なる、ほど。確かにそれは」

 

 思わずと言ったように布で覆われた口元に手をやりながら、久本は呻く。

 今回の黒幕の動きを考えれば、そのぐらいの悪質なことをしそうだと思ったのだろう。

 

「さらに大規模結界の性質上、一箇所破壊するだけで連鎖的に死滅回游の大結界が壊れる可能性があると考えている」

「地面が陥没し、そこからどんどん穴が広がっていく感じですか?」

「まぁそんな感じだな。だから破壊じゃなく術者を祓うことによって領域を停止させる方針で行く。外殻として利用しているだけだろうしな」

 

 心棄弄と恐山結界が完全に繋がってない証拠として、心棄弄の霧が結界内全域に広がってない。

 単純に呪力が足りてないだけかもしれないが、もっと死滅回游の強制力を使えば術式範囲を広げられるはずだ。

 それが出来ていないことから……結界の機能が死滅回游の根幹部分である儀式の方を最優先に使われているのが原因だろう、と玻座真は考える。

 

「んじゃ、改めて計画を説明する。俺が簡易領域を発動しながら巨人に近づき、乙骨がメインで戦う。可能であれば領域使って良いぞ」

「仙台結界に入る前のアレは良いんですか?」

「今回は良い。貝の霧が広いし濃すぎて羂索が監視用の呪霊を置いていても見えてないはずだ。ただ無理そうなら俺の方が領域使って対処する。領域終了後に術式が焼き切れても、簡易領域は使えるしな」

「わかりました。……確認ですがそこから災王臥馬の方ではなく心棄弄を優先するのは、災王臥馬は万全な状態で戦うからですよね?」

「そうだ。さすがに特級クラスの呪霊を三体連戦ではきついし、何より話を聞く限り一番脅威度が高い。呪病の種類もまだまだあるかもしれない。反転術式を全力で使う可能性が高い戦いになるだろうから、しっかりと休んでからにしたい。それとコイツがいる限り簡易領域を使いっぱなしにしないといけないのが面倒だ」

「……そうですね。心棄弄がいる限り僕と先輩は別行動出来ないですし、無いとは思いますが外から新しく来た人たちも術式を食らうことになりますし」

 

 今日は乙骨が自身と患者を治すために呪力を大量使用した。

 無論、乙骨の呪力量とリカの備蓄からまだ呪力は使えるが……出来れば完全な状態で戦いたい。

 

「つまり明日、明後日と戦っていく形だ。……久本さんはどうする?」

「出来れば手伝いたいでござるが、領域対策能力も持っていないので。『分身』の術式を持つがゆえに囮や情報収集能力を持っており、そのため評価され高い等級を頂いておりますが……直接的な戦闘能力で言えば二級相当ですので。正直言って厳しいですな」

「オッケー。じゃあ、今日はもう休んで明日に備えるか」

 

 話は終わり解散となる。

 自分たちが休む場所を教えてもらい、乙骨は礼を言ってからシャワーを浴びに行く。

 

「…………」

 

 呪力を多く使った疲労感……とはまた違う虚脱感を覚えていた。

 心棄弄の術式から目覚め、どこか惨たらしい現実にぐったりしている自分がいることを感じ取る。

 

「……早く、シャワーを浴びよう」

 

 濃霧のせいで体中がベトベトしている。

 熱いシャワーを浴び、さっさと寝たかった。

 

 




乙骨「そう言えば資料によると呪霊操術に取り込まれた呪霊は成長が止まるらしいですが……」

玻座真「逃がしてるんじゃね? 死滅回游に参加させるためにも自分の支配下から外していると思う。羂索の支配下にいる間は『羂索の戦力』って括りになるから、各結界に個別登録出来ないんだと思う。羂索も一度結界に入ったら出られなくなるだろうから、侵入してから配置……ってことは出来ないから、自分から入るよう指示だけ出して契約解除してるんじゃねーかな」


医者の先生は覚醒型であり自己保存の術式に目覚めていて防菌服みたいなのは必要が無い、みたいな出す必要のない設定はある。

※ちょっと補足。「山岳大人」に関して「だいじん」じゃなくて巨人と言う意味ならば「たいじん」なのでは、と誤字報告として複数来ていますが、本来はそっちが正しいです。ただしこの呪霊に対しては「だいじん」の読みで合っているので、誤字として直す予定はないです。
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