呪術世界の結界術師   作:ペンギンくん

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02.禁獄

 

 拠点に使っている病院は恐山結界の南西位置に存在しており、呪霊たちと戦うためには北上する必要があった。

 呪霊たちは北海道から来る呪術連のメンバーを罠にはめるために配置された存在であり、南側はある程度安地となる場所があった。ただしそれも完全ではなく、災王臥馬が使役するゾンビたちによって呪病たちの生息範囲が広がっているのだ。

 食糧や患者の限界などもあるが、それだけではなく安全地帯の侵蝕と言う時間制限も恐山結界の生存者たちには存在した。

 羂索の儀式の完成と言う時間制限もある。タイムリミットばかりだとうんざりしながらも、玻座真と乙骨は対象を探し……見つけた。

 

 巨人型呪霊『山岳大人』。

 

 今までは心棄弄の霧のせいでわかりづらかったが、見つけたことによりわかったことがある。

 山岳大人の呪力は……かなり多い。

 恐山結界と繋がっている心棄弄と呪病被害者から呪力を奪っている災王臥馬。その二体が外部から呪力を供給していなければ、保有呪力量は山岳大人がトップだっただろうレベルだ。

 無論、呪力量=戦闘力ではないためいくら呪力が多くてもそれを上手く活用出来なければ無価値と化す。そのことを乙骨自身がよく知っている。

 

「…………」

 

 玻座真が簡易領域を発動しながら濃霧の中を歩き続け、その巨体を発見出来た。

 呪力で生成された濃霧のせいで探知はし辛かったが、それでもある程度距離が近づけばその巨体は見つけられた。

 膨大な呪力も目印には一応なったが、それ以上にもっとわかりやすいものがあった。

 地響き。

 それが歩くたびに大地は揺れ、空気が震える。

 震源地に近づけば近づくほど、呪力で肉体強化してなければ立っていられないほど地面が揺れている。

 

「これは……いくらなんでも……」

「東堂のやつが百鬼夜行の時に巨大鎧武者の特級呪霊を祓ったらしいが……」

 

 乙骨と玻座真は呆然とソレを見上げる。

 呪霊は必中効果を受けていないためか霧はあまり漂っておらず、ある程度その姿を確認出来た。

 腰蓑を履いており、肌の色は灰色で筋骨隆々。背丈はビルよりも高いことはわかる。

 

 問題は重さだ。

 

 その地響きからわかるようにその体格に見合った体重を保持していることがわかる。いや、もしかしたら見えている以上の重さを抱えているかもしれない。

 乙骨と玻座真が気にしているのはその“重さ”と言うものである。

 呪霊は重力の概念にとらわれていない個体が多い。低級呪霊ですら高度の限界はあるが飛行・浮遊能力を持つモノが多い。

 無論、地に足をつけて生きる呪霊もいる。人型の呪霊ほど人間と同じように地面を歩くモノが多い気がする。

 ただし、彼らが気にしているのはそこではない。……体重の概念がしっかりとある、と言うことだ。

 

「確かに想定はしていましたが……これ、フィジカル全振りかなぁ」

「パワーも堅さもあって、んでこれデカいのもあって早いよなぁ」

 

 山岳大人はまだ玻座真達に気づいていない様子で、街の中をいつも通り歩き回っている。そのため二人も少し会話する余裕があった。

 観察する限り乙骨が言ったようにフィジカルが振り切っているように見える。重さとは質量であり、それはパワーに繋がるからだ。

 少し腕を振り回すだけで……いや、足踏みするだけで大量の生物を殺せそうだ。

 さらにその巨体の歩幅を考えれば、少し走るだけで大きな距離を稼げる。玻座真の早いと言う評価は、そこから来ている。

 

「割と良い位置で見つけたんだけどな」

 

 玻座真のボヤキに、乙骨は頷く。

 災王臥馬がいるエリアから離れた位置で発見出来たが、逃走されたら厄介だ。

 何よりこれだと……

 

「作戦変更、プランCだな。俺が領域使って、乙骨がリカと接続しながら祓う感じだな」

「ですね……」

 

 乙骨が領域を使って祓い、リカとの接続と言う余力を残した状態で心棄弄に挑みたかった。

 だが乙骨の結界術ではこのサイズの存在を領域に内包するのは難しい。

 いくら領域が外部と内部で空間の広さが違うとは言え限度がある。対象を領域に取り込めるイメージが具体的に出来なければ術として破綻してしまう。対象を入れられるほどの空間がある(・・・・・・・・・・・・・・・・)ことが前提だからだ。

 領域を使えるようになったとしても術の調整が上手く出来ない、と言う術者は少なくない。状況に合わせて領域の設定を変えられるような術師は多くないのだ。

 心棄弄の領域に抵抗するため、そして災王臥馬がいる方へ逃げられないようにするため、玻座真は領域を使う。

 仙台で使ったようなバトルフィールドの形成のためだけの領域とは違い、今回は相手の術式を中和する効果もしっかりと付与した内容にする。

 極めて広く、自分たちにバフを、そして相手にデバフを与えるオーソドックスな領域。

 乙骨もリカを顕現させ、すぐにでも接続状態になれるよう準備をする。

 それを見て玻座真も不動明王の印を組む。

 

「領域――」

 

 玻座真が領域を展開しようとする。

 その瞬間……ギロリ、と睨まれる感覚がした。

 呪力の起こりから山岳大人も玻座真たちの姿を捉えた。

 だがある程度の距離は置いているし、何より乙骨が護衛として警戒している。

 そのため玻座真は気にせず領域を発動しようとする。

 

「――展か……っ!?」

 

 寸前、玻座真に異変が起きる。

 山岳大人を警戒しながらも乙骨が彼に視線を向けるが……玻座真の姿が無い。

 

「てん……かいっ!!!!」

 

 だが、領域は中断されず発動された。

 声がした方を見れば……そこに玻座真の姿があった。

 小さい。あまりにも小さく……多分、20㎝にも届いていない。

 子供ではなく、小人。

 玻座真を無理やり縮小化したような姿に乙骨は目を見張る。

 

 術式『磊落降臨(ブロッケン)』。

 

 対象の大きさを変える術式。内容としては対象の体格を10分の1にすると言うシンプルなもの。

 180ある玻座真の身長は18に小さくされてしまった。身長差と言う攻撃範囲(リーチ)などの問題はある。

 だが今回は元から玻座真ではなく乙骨がメインで戦う予定だったため、玻座真の近接戦闘能力の弱体化はそこまで支障はないはずだった。

 ――玻座真が領域展開をしている状態でなければ。

 

(クソッ、まずいまずいまずい!! 不思議の国のアリスじゃねぇんだぞ!?)

 

 周囲が自身を置いてどんどん大きくなっていく。だが傍らにいた乙骨とリカは変わっていない。

 周囲が変わっているのではなく、自分だけが変わっている。

 そのことにすぐ気づいたが……問題はただ体格が低くなったことではない。

 

(駄目だ。このままだと領域が破綻する……!)

 

 発動中に無理やり自身のサイズが変えられた。

 それにより空間認識能力に支障が発生し、サイズ感が一気にわからなくなった。

 そして……術の展開範囲も変わってしまっている。

 体が小さくなってしまったことにより、呪力の出力や展開範囲も縮んでしまっている。

 玻座真の出力が本人の目線では今まで通りであったとしても、サイズ比による弊害が発生している。

 単純な話、小さいモノは大きいモノに力負けしてしまう。

 子供がどれだけ頑張って走っても、大人の方が早いに決まっている。

 小さくされたことによって出来ることが縮小された。二重苦によって玻座真は領域が完成せず、失敗に終わることを危惧した。

 

「悪い……乙骨」

 

 だから玻座真は乙骨に謝罪し、

 

「――逃がさないの項目も、お前に任せる」

 

 領域の仕様を大きく変更して……玻座真の白紙の領域【封身淵祇】は発動した。

 

 

 

 

 

「リカ! 先輩を頼む!!」

 

 玻座真の領域が発動したことを理解し、乙骨はすぐに動く。

 体格が小さくなった以上、戦闘の余波で飛ばされてしまう可能性があるためリカに掴んでもらう。

 そしてビルの壁を蹴って山岳大人に接近しながら……乙骨は状況を確認する。

 

(外殻が無い。先輩から聞いたやつか)

 

 玻座真から聞いた、両面宿儺が使ったとされる閉じない領域。

 玻座真はそれを一度見ただけで模倣し領域形成の破綻を防いだ。

 それによって心棄弄の領域を中和出来ているが……逃走されてしまう危険性が存在する。

 領域範囲は半径400m。だが山岳大人の足であれば、すぐにでも抜け出せてしまう。

 

(ただ小さくされているわけじゃないはずだ。出力と術の範囲も一緒に小さくされているはず。……多分、先輩は領域を成立させるためにかなり呪力を注いでいるはずだ)

 

 いくら結界術に優れている玻座真と言えど展開範囲を狭められているのであれば、無理やり発動するために大量の呪力を消費する必要がある。

 玻座真は一日に領域を四回ほど発動出来るだけの呪力量と効率を誇る。

 だがそれは万全な状態であり、このままであれば呪力が底をついてしまう可能性すらある。

 

「――リカ、全部だ――」

 

 繋がる。

 里香との遺品である指輪を通じてリカと接続し、乙骨は完全解放される。

 五分間。されど五分間、乙骨憂太は特級呪術師の肩書きに相応しい力を振る舞える存在となる。

 里香が成仏したことにより乙骨には様々な制限が発生した。そのうちの一つとして模倣した術式のいくつかが失われてしまったのだ。

 友人である狗巻の術式も以前は無制限に使えていたが、今ではもう何度か使えばストックが失われてしまう。むしろよく見ていた術式であるため、彼女が成仏した後もストックが残ってくれたと言える。

 

「『動くな』」

 

 相手が大き過ぎる上に特級呪霊として膨大な呪力を持っている。

 そのため乙骨も相応の呪力を込めて『呪言』を使う必要がある。

 強すぎる言葉だと通じてくれない可能性がある。そのため殺傷能力の高い言葉ではなく、動きを封じる程度にとどめる。

 

『GiGi……』

 

 乙骨を叩き落とそうと上げていた腕ごと山岳大人の動きは止まる。

 ビルの屋上を蹴って大跳躍し、刀を構える。

 狙うは頭部。反転術式のエネルギーを纏わせた刀で一気に祓う。

 

「はぁっ!!」

 

 一閃。

 横一文字の斬撃を放ち、その首をぶった切ろうとする。……が、腕に阻まれる。

 

「クソ……」

 

 呪言が抵抗された。

 体全体を動かせるほどではないらしいが、それでも腕を動かせるぐらいには拘束力が弱かった。乙骨の力量が低かったのではなく、相手が想像以上に強いのだ。

 さらには乙骨の反転術式による正エネルギーが宿った一閃だが、その腕すらも切り飛ばせなかった。

 切り傷のような消滅痕が出来ているが、その傷痕が逆に敵の実力を示していた。

 首を刈るほどの威力を込めたはずだっただが、首どころか腕すらも消すことが出来なかった。

 呪言のことも含め、敵の強さを上方修正する必要がある。このままだとそこまで時間を掛けずとも拘束を解くだろう。

 

 ――乙骨の周囲に小さな結界がいくつも展開される。

 

 一撃で祓えなかったのを見た玻座真が空中移動用に用意してくれた。

 いつもよりも小さく足場としては安定しなさそうだが、乙骨としては十分だ。

 複数の結界を蹴って複雑に動き、山岳大人の後ろに回り込む。

 リカと繋がっている今、呪力に糸目をつけず今度こそ致命の一撃を振るう。

 

 

 

 

 

 

   ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

「え?」

 

 異なる場所で、玻座真と乙骨は驚きの声を同時に漏らす。

 だがその驚愕の感情は別々のものであるが、本質は同じものであった。

 刀を振ったが、目の前から突如……山岳大人が消えた。

 拘束が解けて避けられたのかと思ったが、周囲を見てもあの大きな姿は存在しない。

 そして玻座真の方は突然自身の体の大きさが戻り……目の前に一つ目の鬼が現れたのだ。

 

『…………』

 

 角は生えておらず、どちらかと言えばオーガと表現した方が良い存在。

 2m弱ぐらいの大きさの、灰色の単眼怪人(サイクロプス)

 それが玻座真の目の前にあるビルの壁に張り付き、ニヤニヤと笑みを浮かべながら彼とリカを見ていた。

 

 理解する。目の前のコイツは……あの馬鹿みたいにデカかった山岳大人だ。

 

「しまっ――グゥぶぁ!?」

 

 まずリカの顔面が殴られ、次に玻座真の胴体が殴られた。

 ただ殴られただけであの堅いリカは地面に叩きつけられ、玻座真はビル二つを貫通したところでようやく止まることが出来た。

 

「あ……ぐぁ……」

 

 口と鼻から大量の血が零れる。

 内臓はいくつか破裂し、骨は何本も砕けた。

 たったの一撃で、玻座真は致命的な状態に追い込まれた。

 

『GiGi……?』

 

 そして当の鬼人は不思議そうに玻座真を殴った方の手を握る、開くを繰り返している。

 殴った感触に違和感がある、と言うような確認だ。

 実際、玻座真は拳を振り切られる前に『空身』を使い、終盤の攻撃を回避したのだ。

 『空身』を発動していなかったら体は上下に分かれていただろうと玻座真は慄く。

 

「シィ――っ!!」

 

 玻座真たちの異常を感じ取り、乙骨も鬼人に接近して刀を振る。だが反転エネルギーが纏ったその刃をその鬼人は片腕で受け止める。

 

「……!?」

 

 消滅はちゃんとしているのか、鬼人の腕から呪力が消えていっている。だが刃は進まず、その腕で止められている。

 

(これは、僕が石流にやったものと似たような感じか……!)

 

 膨大な呪力の圧縮。

 それによって鬼人の腕を構成する呪力の密度が上がり、正エネルギーでさえも消滅し切れず刃の進行が止められる。

 乙骨の場合は縛りによって行ったことだが、目の前の鬼人は自身の術式でやっている。それも乙骨のと違い無駄なく純度の高い圧縮が出来ている。

 

 見誤った。

 

 玻座真が小さくされた時点で『山岳大人の術式は相手を小さくするもの』と決めつけていた。

 だが違った。正確には小さくする術式でもあるが……大きくする術式でもあるのだ。

 刀を弾かれ、その勢いで乙骨は後ろに飛ばされる。着地しながら相手の術式を推測する。

 

(先輩の縮小化が解かれたのは自分に使って圧縮するため。……多分、本来はもう少し大きい程度の呪霊なんだ。そして心棄弄の幻覚で夢遊病状態になった人たちを潰すために術式で体格を大きくして、範囲を広げていた)

 

 相手を一人一人殺すよりも、一気に踏み潰すため。

 だが乙骨の一撃から自身を祓えるほどの実力を持っていると危機感を覚えた山岳大人は拘束解除を兼ねて、攻撃を回避するためにも自身の巨大化を解いたのだ。それから自身の体を小さくし、圧縮した肉体を得て玻座真達を攻撃した。

 玻座真の様子から見るに密度強化は敵には適用されておらず、自身にだけ発動する現象なのだろう。もしくは術者だからこそ、その辺りの操作が可能なのか。

 どちらにせよ状況が一気に変わった。

 

「はぁ!!」

『GiGiGi……!』

 

 乙骨の刀と鬼人の腕がぶつかり合う。

 正エネルギーによる特攻を持つ乙骨の方が有利であるはずなのだが、若干力負けしている。

 このままではマズいと感じ取り、手札を切る。

 

「――『僕だけを見ろ(ウォンテッド)』」

 

 模倣した注意を引き付ける術式を追加する。

 相手は乙骨にだけ意識を強制的に奪われる上に弱体化を食らい、乙骨の方には強化を得る。

 それは本来の術式持ち以上の効力を発揮し、乙骨の方が優勢になる。

 ただし、乙骨が気にしていた場所は優劣(そこ)ではなかった。

 

(体が戻ったから呪力の使い方も戻ったはずだろうけど、それでも先輩は大ダメージを食らったはず。領域が維持されているってことから先輩は意識を失っていない。だからこのまま僕が引き付ける……!)

 

 今の山岳大人は玻座真が苦手としているパワータイプだ。

 再び攻撃を食らえば今度こそ玻座真は領域を維持出来なくなるだろう。

 玻座真の方には絶対に行かせるわけにはいかなかった。

 

『お前、消えろぉぉおおお!!!』

 

 そこに、回り込んだリカが上から襲撃をする。

 鬼人は指名術式に抵抗が出来ているのかリカの方をその一つ目でチラリと見るが、回避しようと言う考えは浮かばない様子。

 回避した方が良いとわかっている。それでも動かないのは術式の効果で乙骨から離れられないからだ。

 

『……うぅ!?』

 

 そして攻撃が当たる瞬間……リカの動きが止まった。

 それはリカ自身の意思で止めたのであり、同時に鬼人が止めたのだ。

 

 リカのサイズが山のような大きくなっていた。

 

 位置はビル群よりも上に移動している。領域の解除などで見られる座標の移動にも似た現象だ。

 このまま腕を振るえばビルを壊し、乙骨まで巻き込んでしまう。

 そのためリカは攻撃の手を止めてしまった。

 乙骨は反転術式による回復が出来るため、普通の味方だったら巻き込んだとしても彼ごと攻撃していたかもしれない。だが里香の意志を継ぐリカには、乙骨を己の手で傷付けることなんて出来なかった。

 

『GaaaaaaaAAAAAAAA!!!!!』

「クッ……!!」

 

 自身の策が上手くはまったことが嬉しいのか、雄叫びを上げながらさらに力を込める。

 術式バフが入っているはずであるが、乙骨は圧されて再び劣勢を強いられる。

 どうする。

 リカは攻撃を封じられた。玻座真もダメージが大きいのかまだ来ない。

 このままだと五分の接続が終わってしまう。そうなれば膨大な呪力による反転術式を中心軸とした戦闘も出来なくなってしまう。

 ならば、戦い方を変えるべきだ。

 

「――リカ!! 先輩の方を頼む!!」

『…………!』

 

 乙骨の言葉にリカは逡巡する。

 離れたくない。彼を一人にしたくない。

 だが同時に今の自分が出来ることが限られている。

 

『すぐ、戻ってくる……!!』

 

 ならば、自分が出来ることをする。そうした方が乙骨のためになる。

 心がざわめきながらもそのことを頭に入れ、彼女はその場を離れ玻座真の元へ向かった。

 

    ◆◆◆

 

「……さすがにきついな」

 

 反転術式で粗方治し終わり、玻座真は立ち上がる。

 少しばかりまだ痛みは残っているが無視出来る範疇である。

 問題は呪力だ。

 玻座真の反転術式の効率は悪くない。それでも重傷を短時間で治すとなると大量の呪力を消費する必要がある。

 だがそれ以上に呪力消費が激しいのは、領域である。

 玻座真の技量であれば普通の領域だろうが外殻がない特殊な領域だろうが、呪力の消費量に影響はない。ただそれでも今回の領域展開は問題だらけであり、玻座真の体が小さくされたり大きく戻ったりでその都度、範囲の調整を強いられているのだ。

 基本的に領域なんて一度発動すればそこから範囲を広げたりすることはない。玻座真にしても狭めることはあっても広げることなんてない。と言うよりも外殻があれば相手に合わせて広げる必要なんてないのだ。

 いくら結界術の技量が高く、呪力消費の効率が良い玻座真でも今回はさすがに色々と無理をしており、すでに呪力の終わりが半分に近づいている。

 

「とは言え、さすがにあれの相手を乙骨とリカだけじゃ大変だよな……」

 

 乙骨が強いのは玻座真もちゃんと理解しているが、今回のケースは特殊過ぎる。

 今の乙骨は特級術師と言えど大きく弱体化している。強力な術式はストックの中にそこまで無かったはずだ。

 前線に出て戦闘経験値を稼ぐと言う目的があったのは玻座真だけではなく、多くの術式を取り込む必要がある乙骨もそうだったのだ。

 一人と二体の位置を呪力から感知し、向かおうとする……が。

 

「――あ?」

 

 奇妙な感覚を抱いた。

 

「…………」

 

 薄く、悪寒が背筋を撫でる。

 何か良くないことが起こっている、と玻座真の感覚が訴えている。

 それも乙骨と山岳大人とはまた別のところで。

 

「……コガネ」

『は~い』

 

 玻座真の言葉に応じ、死滅回游の式神が現れる。

 

「ここ数分内での参加人数の変化に関して、表示しろ」

『りょ~かーいしました~』

 

 コガネの胴体が変化し、電子パネルのようなものが出現する。

 そしてそこに参加者リストが表示される。

 

「…………想定はしていたが、最悪なタイミングで来やがった」

 

 各結界に多くの外国人がここ数分内で入っていることを玻座真は確認する。

 そう、この恐山結界にも……だ。

 問題は一つの国からではなく、複数の国から派遣されていること。

 出兵、という言葉が玻座真の脳裏に過ぎる。

 呪力のことが情報漏洩した以上、国外から手が伸びることは想定されていた。

 だが今は対応出来る人間の数が足りておらず……さらには無法状態と言うこと。

 呪力や術式の研究のため、保護と言う名の下に外の国の者たちが戦力派遣(・・・・)してきたのだろう。

 そして高専側はいま、人手が足りてないため助けることが出来ない。

 

 誘拐される人間を外国兵たちから……そして、派遣された外国人たちを、呪霊や術師から。

 

「…………」

 

 恐山結界に絞り、泳者リストを玻座真は見つめる。

 最初は参加者が増えていったが……今はどんどん減っている。

 何が起こっているのかわかりやすかった。

 

「面倒臭ぇ……」

 

 玻座真の嘆息と共に、遠くで爆発が起こった。

 音の方は乙骨たちがいる方とは反対の場所であり……推定、災王臥馬がいるエリアからであった。

 

 

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