呪術世界の結界術師 作:ペンギンくん
死滅回游参加者の増加は、少なくとも恐山結界は止まった。
さらに死者の増加も止まったが……恐山結界の内部事情を理解している玻座真からすれば、それは単に死んでないと言うだけなのがわかる。
「
心棄弄側のエリアは領域を展開していることにより、玻座真はやってきた兵士たちの人数を正確に把握出来ている。それをコガネのリストと照合することによってどれほどの人間が、どこにいるのかわかった。
そしてこの人数とは生存者の数であり、死者は数えられていない。
つまり――
「最初の死者は……入ってきた軍用ヘリが操縦出来なくなって爆発したやつかな」
どこの国から、どれだけの人間が派遣されたのかはわからない。
そしてこの戦力派遣は今後も行われるはずなので、
死滅回游の結界外ならともかく、内部に入ってからは地獄を見るはずだ。
心棄弄の術式を食らったのか、それとも災王臥馬の呪病を食らったのか不明だが、操縦不能になって墜落したのはわかる。
助かったグループもいるようだが……心棄弄エリアはともかく、災王臥馬のエリアは駄目だろう。
「ゾンビ化かなぁ……これは」
実質、災王臥馬の戦力補強である。
手駒が増えて徴収出来る呪力も増える。
はっきし言えば兵士たちは玻座真たちにとって敵も同然の勢力だが、だからと言って助けられそうな人間は助けるべきだろう。
仕事が増えた、と玻座真は内心愚痴る。
(どちらにせよ呪霊を祓う方が先だな。言葉も通じない相手を説得する時間なんてないし)
特段、玻座真は人並みにしか外国語を学んでいないし、英語ですら会話となると怪しくなる。
はっきり言えば問答無用で気絶させて捕まえて拘束して『君ら、死ににきただけだよ』と教えた方が早いように思えた。
「……死ににきた?」
ふと、頭の中でどう説明するか考えていたところで、自身の思考に意識が向く。
適当に言葉を並べていたが……。
「………………いや、まさか。本当に殺すために?」
渋谷事変を境に呪力や呪霊だとかを知ったとしても、外国勢の動きが早すぎる。国として動くならもっと尻込みしたり、調査に時間を掛けたりするのではないだろうか。
死滅回游なんて明らかにおかしなことが行われているのはわかるはずだ。死滅回游の結界は呪力を持たぬ一般人でもわかるのだから。
多くの国が仕掛けてくるにしてはタイミングが良すぎる……要するに、誰かが煽ったのだ。
早い者勝ちだ、と。
「…………」
混沌を愛す狂人。それが羂索だ。
だがどんな混沌でも良いと言うわけでもない。低俗なものは低俗なものと切り捨てる身勝手さを持ち合わせている。
つまり、国外を巻き込んだ軍人VS……みたいな展開は別に好きそうじゃない、と玻座真は考える。
じゃあ何故他国を巻き込んだのかと言うと……
「死者を大勢出して呪力を結界内に満たすためか? それとも本当に儀式が完成するまで泳者を注ぎ続けるつもりなのか」
高専組が動かなければそのまま殺し合いは続き、そして結界には最後の一人以外残らなかったはずだ。いつかは他の結界に移動出来る総則が追加され、次の獲物を探し求め……極端なことを言えば、日本にいる人間や呪霊を皆殺しにしてしまえば、次のポイントを得る手段が得られず、総則8で死んでしまう。
よくあるバトルロワイアルもののように、例え最後まで生き残ったとしても願いが叶う、と言うご褒美はないのだ。総則が追加出来ると言っても、永続に差し支える内容のものは追加出来ないはずだ。
じゃあどうやって永続を維持するのか。
単純な話、中にいる人間が動かないのであれば、動く人間を外から呼び込めば良いのだ。
「…………」
他国の目的が呪力の確保であるのであれば、泳者たちも抵抗するはずだ。
そうなれば生け捕り目的だったとしても抵抗され、殺してしまうケースもあるだろう。
つまり、高専組が追加した総則10によって停滞した殺し合いを加速させるためにも武装した勢力を呼び込んだ。
軍人たちは術師と殺し合い……そしてその軍人たちは、呪霊たちに殺される。
(低俗な混沌は嫌いそうだが……停滞はもっと嫌いっぽいんだよなぁ)
渋谷での会話。天元様からの説明。そして死滅回游と言うゲーム。
それらから構築される羂索の
「いや、その辺を考えるのは後だな。今は……」
ふと、玻座真の領域内で乙骨たちの方に変化が起きたことを感じ取る。
リカが巨大化させられ、下手に動けなくなったので玻座真の迎えに行かせた。
その様子を感知し、そちらの方面を思わず向く。
「乙骨……」
リカと接続し完全顕現中の乙骨でさえも苦戦している様子だ。
玻座真の手助けが欲しいと言うのが本音なのだろう。
『いた! ハザマ!!』
「……来たか」
そして待っているうちに巨大化したリカがやってくる。
距離を離しても巨大化が解けていないことから術式範囲が想定以上に広い可能性が出てきた。
そして残念なことに、山岳大人の方と違ってリカの巨大化は玻座真たちの方にはなんのメリットにもならない。攻撃範囲が広がったことにより
残念ながら山岳大人を祓わない限り、リカは戦力外のままだ。
そのためにも早々に山岳大人の戦いに戻るべきだが……。
『ハザマ、早く一緒に来て!』
「…………」
『ハザマ?』
焦る様子を見せるリカに対し、玻座真は彼女を置いて今の状況を冷静に分析する。
霧や呪病が漂う恐山結界。それによって探知精度は落ちているが、それでも玻座真の探知能力は他の術師たちと一線を画す。ゆえに、結界内で何が起きているのか把握出来ている。
それによって至った考えを、玻座真はリカに言う。
「乙骨には悪いが、俺は行かない」
『――なんで?』
玻座真の言葉にゾッとするような声音でリカは尋ねる。
殺気にも似た睨みをリカは玻座真に向けるが、それに対し玻座真は気にした様子もなく話し続ける。
「推定、羂索の手引きで外から大量の外国兵が入ってきた。そのせいで災王臥馬が強化されてる。……早急に対処する必要があるから、山岳大人の方は乙骨に任せる」
『だったら、先にあの鬼を祓えば……!』
「もう一度言うが、早急だ。少しでも放置すれば手に負えなくなる」
本来であれば災王臥馬は明日、戦う予定だった。
戦い終わった後は休んで回復して、万全な状態で向かう。それが最初の予定だったが恐山結界の参加者が増えてしまった結果、今のうちに祓わないといけないレベルにまで発展してしまった。
端的に言えば、後回しにする余裕がなくなってしまった。
「だからプランAに戻す」
『それって――』
「そうだ。つまり……」
◆◆◆
『GiGi……?』
「……!」
その変化を一人と一体は感じ取り、片方は不思議そうにして……もう片方は覚悟を決めたような表情をした。
乙骨と山岳大人が今いる場所には、玻座真の外殻の無い領域が展開されている。
その領域の呪力が薄れるのを感じたのだ。
「…………」
弱まった、とも言える変化。
心棄弄の領域による必中効果は相殺出来ているが、それでも玻座真の方で何かが起きたことがわかった。逆に山岳大人の方はただ呪力が薄まった程度の変化であるため、その意味が分からなかった。
だが……乙骨からしたら、その変化には大きなメッセージを含まれていた。
(今までみたいな領域を維持するのが難しくなってきた? いや、違う。
戦闘中であるため乙骨はコガネによる参加者の増加の確認が出来ていないが、それでもここから離れたところで大きな爆発がしたのは聞こえていた。
それを切っ掛けに玻座真の動きが変わったのだろう、と言うことを乙骨は理解して、
(……そう言うことか)
全てが伝わったわけではないが、乙骨にどうして欲しいのか……そして玻座真がこれからどうしようとしているのかを、彼は理解出来た。
つまり……ここから先は玻座真に全面的な信頼を寄せる必要があると言うことだ。
例えそれが、死ぬ可能性が高い選択だとしても。
だが、それでも乙骨はその選択肢を躊躇いなく選ぶ。
「領域展開――【真贋相愛】」
玻座真の薄くなった領域の上に、乙骨は自身の領域を展開する。
天女茶吉尼天の掌印と共に広がる結界。そして巨大な水引きと地面に突き刺さった大量の刀。
その乙骨の生得領域に山岳大人は連れ込まれた。
『――――』
そして山岳大人もようやく理解する。
玻座真が自身の領域を薄めたのは、乙骨の領域を消さないため。
結界の外殻同士の押し合いなんてせずとも、その
だから、今回は許した。
心棄弄の領域の必中効果は玻座真の領域で対処している。そのため乙骨の領域に組み込まれた必中効果は生きている。
一つの空間に三つの領域が展開されている。その調整をしているのは、離れた位置にいる玻座真である。
「…………」
故に、乙骨はこの後どうなるのか理解していた。
だがそれを今は気にせず、目の前の呪霊を祓うことだけに集中する。
『GuGu!!』
山岳大人も乙骨の領域を警戒し、集中度を上げる。
玻座真のものと違い、明確に相手を殺すための領域。
あの大量の刀は単なる振り回すための武器なのか、それとも乙骨が複数使えている術式が形になったものなのか。
山岳大人は他の二体と違い、領域を使えない。そのため乙骨の領域に組み込まれた必中化した術式を食らうしかない。
ゆえに、呪力による強化を防御に寄らせた。
そして――乙骨の攻撃が始まった。
不可視の攻撃を、山岳大人は食らう。
目に見えない何か。
災王臥馬の目に見えない微粒子レベルの肉食細菌とはまた違う、本当の意味で目に見えない攻撃。
呪力によって汚染された空間自体が攻撃しているのだと山岳大人は悟る。
「…………」
乙骨の領域は模倣された術式の一つを領域に設定して必中効果を適用させ、残りの術式は刀の形としてランダムに領域内に配置する……と言う内容となっている。
仙台結界の術師、ドルゥヴの術式を乙骨は領域に設定した。
領域内の空間全てにドルゥヴの不可視の攻撃化が適用されており、中にいるだけで敵は空間から攻撃を食らい続けるのだ。
だが……効果は薄い。
どれだけ攻撃回数が増えようとも、その分厚い呪力装甲を越えなければまともなダメージを与えられない。山岳大人の動きが多少鈍くなる程度だ。
無論、乙骨もそのことは理解出来ている。その上でこの術式に必中効果を乗せたのだ。
『UuuuuuGAAAAAAA!!!』
攻撃力が足りていないが、それでも乙骨が勝負を仕掛けてきたと……そして決めにかかってきたと理解している。だからこそ山岳大人も今まで以上の攻めに出る。
呪霊の肉体は呪力によって構成されており、欠損しても再生出来る。それの応用で山岳大人は自身の肉体を変形させる。
防御用の呪力以外は全て右腕に注ぐ。それによって左腕が縮むが、代わりに右腕が巨大化する。
パワーの一点集中。
その巨腕による攻撃を食らえば、例え膨大な呪力で身を守っている乙骨と言えどタダでは済まない。
「…………っ」
それを見て乙骨は一本の刀を抜き取りながら、山岳大人に向けて駆ける。
領域による攻撃だけで倒せる相手ではない。自分も攻撃する必要がある。
「――『
刀に宿した注視の術式を起動する。
再び食らう術式であるため先程よりは抵抗出来るが、意味はない。
何故ならこの場にいるのは乙骨と山岳大人だけだ。領域で逃げ場を閉ざしている以上、この注視の術式はほとんど意味を成さない。
ならば自己強化と対象弱化の効果を求めたのか、あるいは欲した術式ではなかったため空撃ちしたのか。
どちらか不明であるが逆に乙骨の居場所を見失うことは無くなった。
『GuGaaaaaaaa!!!』
乙骨に向けて拳を振りかぶろうとした瞬間、彼はその急停止して刀を下から上へと振り上げる。
その光景はゴルフクラブを振り上げてボールをショットする姿に似ていたかもしれない。
刀を振るうと同時に、その刀身から乙骨は反転エネルギーを放出する。
ただでさえ消耗が激しい反転術式。それを放出攻撃として使う以上、乙骨の呪力も底が見えてくる。
リカとの接続により呪力は回復したが、領域展開と同じくらいのタイミングで彼女との接続は切れた。領域発動中であれば接続時と同じように模倣術式を制限なく使えるが、呪力の供給はされない。
呪力の終わりがあるのと無いのでは戦い方が変わるが、今はそんなことを言っていられない。
故に呪力の残量なんて考えずに攻撃を続ける。
『Gi……Gi……Gi……』
咄嗟に腕で顔面を守ったが大量の正エネルギーを防ぎ切れず、視界は歪む。
火傷のような痛みを覚えながらも山岳大人は次の行動に移る。
視界は歪んだが先程の注視術式によって乙骨の位置はわかっている。
その一つ目が焼けたことがわかるのか、乙骨の位置は山岳大人の背後へと移動している。最初と同じように首の後ろから斬るつもりなのだろう。
――本当にそうか?
山岳大人の戦闘勘が疑問を抱く。
乙骨は強力な術師だ。領域まで使ってきた以上、
あれほどの術師が本気を出してきたならば、今まで以上を想定するべきだ。
つまり、この注目状態の移動はブラフ。
位置がはっきりわかること自体が罠。動きがわかる乙骨自体が囮であり……このケースなら――すでに攻撃をしている。
『置き撃ち』という概念。
強さに見合うようなまともな言語と知能を持たぬ山岳大人であるが、それでも培った戦闘経験と本能がその作戦に至る。
どっちが本命か。
考えすぎか、それとも普通に攻撃してくるのか
不明であるのならば……どちらにも対処出来る動きをすればいい。
『GuAAAAAAAAAAAAAA!!!』
リカの巨大化と自身の縮小化を解除し、再び最初と同じことをする。
すなわち、自身の巨大化と相手の縮小化。
玻座真の時と違いすでに展開された領域は歪められない。さらに結界の性質上、残念ながら内側から壊せず肉体が圧迫されて自分だけが傷付くだろう。
だが、その圧迫に乙骨も巻き込まれるはず。そうなれば領域を解除する必要が出てくる。
術式『磊落降臨』を発動。
リカの時と同じように巨大化によって座標を若干ズラして置き攻撃の回避に備え、さらには見えなくても位置が術式によってわかっている乙骨に縮小化を掛ける。
頭が領域の天井にぶつかる前に変質させてさらなる巨大化をした右腕を地面に叩きつけ、さらに隙間なく腕を動かして潰しにかかる。ロードローラが地面を踏み固めるように、小さくなった乙骨を圧死させるためなぞるよう動かし――。
「やっぱ、術式の再使用をしたか」
――正面から、乙骨の声がする。
その声量は小さくなった人間のそれではなく、今まで通りのものと変わらない大きさだ。
縮小術式からどうやってか逃れている。そして今、山岳大人の目の前に跳んでいる。
「…………」
位置情報対象にちゃんと術式は発動した。
だがそれは乙骨ではなかったと言うこと。何らかの方法で欺いたのだ。
そして巨大化をすると予測し、事前に跳んで攻撃しやすい位置で……刀を構えている。
『AuGuuaaaaAAAAAAAAAAA!!!』
まだ術式は発動途中であり、巨大化を解いて緊急回避をすると言うことは行えない。
せめてものの抵抗として振り下ろした腕を振り上げ、乙骨に攻撃しようとする……が。
「これで、終わり――!!」
膨大な呪力を糧に反転術式が回る。そして正エネルギーが刀身に纏う。
巨腕を回避しながら、乙骨はその一つしかない眼球に……突き刺した。
『Au……GiGiGi……GaGa……!?』
やられた。負けた。
倒れながらその言葉が、山岳大人の頭に過ぎる。
せめて最期の抵抗として攻撃するべきか。そう歯噛みしたところで……ふと、目の前に何かがあることに気づく。
『Aa……?』
未だにぼやけた視界が捉えたそれは……横になって地面に置かれている、一本の刀だった。
『…………』
あぁ、なるほど。
つまりあの注目させる術式は自分だけではなく、他のモノにも施すことが出来たのだとそれを見て理解する。
常に把握していた位置情報は……術式が宿った刀そのものだったのだろう。
それを乙骨は山岳大人の背後に投げながら、自身は跳躍した。
『…………』
最後の最後で作戦負けした。それで消滅する。
だがわからなかったことがわかり、いつの間にか反撃すると言う考えは霧散していた。
多くの人間を踏み潰してきた呪霊が最後に抱き頭に占めたものは、人間への悪意や憎悪ではなく……『納得』だった。
◆◆◆
「ふぅ……」
戦いが終わり、乙骨は溜息を吐く。
肉体へのダメージは少なかったが、ギリギリの戦いだっただけに心労は溜まっていた。
それが溜息と言う形となって口から漏れたのだ。
だが、そこに込められたものは疲労だけではない。
これから起こることに関する想いも、その溜息には含まれていた
「……先輩、リカちゃん。後は任せましたよ」
乙骨が自身の領域を解くと、そこには濃霧が漂っていた。
今までは玻座真の領域によって押し退けられていた濃霧は再び恐山結界の中に広がり、現実と夢幻の世界を繋げていく。
「…………」
プランA。それは乙骨が領域を発動し、山岳大人を倒すと言うシンプルなものだった。
だが山岳大人が巨大過ぎたために断念したが、相手が縮小化したことにより作戦を戻すことにした。
玻座真のあの領域の動きは乙骨一人で山岳大人を祓え、と言う意味であり。
……合流する余裕が無いため乙骨を置いて玻座真が災王臥馬を祓いに行く、と言う意味があの領域にはあったのだ。
そして乙骨が山岳大人を祓うと同時に、玻座真は領域を解除した。
自身が災王臥馬に使うために。
「…………」
乙骨は自身の意識がぼやけていくのを感じる。それは戦闘の疲労によるものではない。
これから彼は心棄弄の術式に囚われ、幻覚の世界に送られるからだ。
再び自分は霧の中を彷徨うことになるのだろう。
次に目覚めるのがいつになるかわからないが、それでも玻座真とリカなら時間を掛けず自身を解放してくれるはずだ。
そのことを信じ……乙骨の意識は、夢に落ちた。
超久しぶりにOutlast2の実況動画とかを視聴したので、僻地にある土着信仰によるグロくて残酷な風習が未だに存在している村とか死滅回游中に行く話とか思い浮かびましたが、今はリアルが大変なのもあるから、そんなの書いていたら永遠に完結しないと言う。