呪術世界の結界術師   作:ペンギンくん

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割と見直しているつもりですけど、結構誤字報告来ますね……。やっぱ自分だと頭の中で補完してしまうのか。報告助かります。


02.結界術の少年

 

「うん、君が言った通り、結界に関する生得術式を持っているね」

「やっぱそうなんですね」

 

 日下部篤也にスカウトされてから一ヶ月が経過した。

 時間を作ることが出来た高専の人間である五条悟と顔を合わせることになり、呪術高専の一室に訪れている。

 何でもその瞳は『六眼』と言うもので、呪力の詳細を観測することが出来るとのこと。それによって玻座真の潜在資質の確認をしてもらっていた。

 

「簡単な結界や式神とかは呪力操作の範疇で生得術式が無くても使えるんだけど、護良の場合はもう一歩進んだ使い方が出来るって感じかな」

「“帳”を目にした時、結界の情報が入ってきました。なので結界に関するものを持っているのだろうとは思ってましたが……」

「一応透明な結界を生み出してぶつけることは出来るっぽいから、汎用型の結界術とは差異があるけど。ま、あんま戦闘型って感じはしないね」

 

 小さいから厳しいね、と目隠しで『六眼』を覆い直している。

 

「戦闘で活用したいならシンプルに呪力をもっと注ぐか、『縛り』や『呪詞』とかで効力上げるしかないかな。あ、どうせなら日下部さんが戦闘教えたら? この子だったら『簡易領域』もすぐ覚えるでしょ」

 

 ちょうど良いじゃん、と言うように壁を背にしていた日下部篤也に言う。

 それに日下部は苦い顔をする。

 

「んな簡単に言うな。確かに簡易をすぐ覚えそうだが、抜刀術はまた別だろ」

「……なんでも良いですけど、出来れば専門用語で言葉を交わさないでくれますか」

 

 五条含めて未来の教職候補に対し、この人たちは……と言う感情を顔に出して話しかける。

 

「祝詞と言うのはいわゆる魔法の詠唱みたいなものでしょうが……縛り?」

「呪詞に関してはその認識で合ってるよ。縛りって言うのはデメリットを用意して、別の要素の効力を上げるって感じだね。ちなみに他人と縛りを結ぶのは……ま、いわゆる指切りげんまんだね」

「破ったら針千本クラスの契約ですか。……デメリットって、どんな感じですか?」

「よくあるやつだと術式の開示だな。自身の情報を教えることによって、代わりに効力を上げるってやつだ」

「……弱点に繋がることを教えるデメリット、ですか」

 

 ふむふむ、と頷く玻座真に理解力が高いな、と五条は感心する。

 幼くても達観したその様子に彼の教え子である伏黒恵を思い浮かべながら、説明を続ける。

 

「縛りや呪詞以外だと舞や楽、あとは掌印があるよ」

「舞や楽は……いわゆる巫女さんとかがやっているやつですよね。しょういんとは」

「手の平に印字の印で掌印だ。手で形を作る行為で、仏様とかがやっているものだな」

 

 前世で読んだ某忍者漫画のあれか、と当たりを付ける。

 

「あとは……拡張術式か?」

「それと反転術式かなー。領域も結界術の才能だからすぐ覚えそうだけど、付与する術式効果が今のところ持ってないのがね」

「…………」

「あ、全部言うよ」

 

 またか、と言うような玻座真の視線にごめんごめんと五条は軽く謝る。

 

「拡張術式って言うのは生まれた時から持っている生得術式の派生技、って感じかな。イメージや解釈で術式を文字通り拡張する……君の言うところ、炎を放つ魔法から剣に炎を纏わせる技に発展させる、って感じかな」

「領域は術者の心の中である生得領域を呪力で展開する、呪術の奥義だ」

 

 ある程度の会話から玻座真への理解を深めていき、説明の仕方も五条は変えていく。一方他に例えるのが難しいものである『領域』を、日下部が話す。

 

「基本的に呪術は術者が腹で呪力を練り、頭で術式を構築し、それを放出するものだが……領域は結界を用意し、そこに生得術式を付与する」

「……内部を体の中から結界の中にする技術、ですか」

「そうだ。要するに結界内は術者の呪術がすでに発動している扱いだから、相手に当たっている状態から始められる。術式の内容によっては必中必殺とも言われるほどの高等術だ」

「ちなみに、当然ながら他の結界とは違って領域用の結界は構築するのが極めて難しくてかなりのセンスと才能、それと呪力量が必要とされるよ。あと領域使用後は生得術式が焼き切れ、少しの時間使えなくなってしまうんだ」

「少しの時間……具体的には?」

「基本的には数分くらいかな。ただ呪力操作は出来るから身体強化はもちろんのこと、生得術式とは別に構築される結界術や反転術式は使えるんだ」

 

 即死能力ただし命中率30%の技を、結界に付与することでその効果で満たし、問答無用で当てられる……どころか当たった扱いの状態にする、と言う呪術なのだろう。

 確かにどれだけ必中能力が素晴らしいものでも、当てるモノが無ければ無意味だ。

 ゼロ距離で拳銃の引き金を引いても中に弾が入っていなければ、怪我一つ負わせられないので拳銃としての価値が下がる。

 

「さっきも言った通り、領域は基本的には必中必殺だ。それを何とかするには同様に領域を展開して押し合いをするか、もしくは簡易領域で守るしかない」

「さっき言ってた、日下部さんが使えるやつですよね」

「あぁ。基本的には必中効果を相殺させて術式を無効化する結界って感じなんだが、本物の領域と押し合いをすると削られちまう。まぁ、俺とかはこれを応用して範囲内に入ったやつを斬る抜刀術で戦っている」

「ちなみに簡易領域も入った者に特殊なルールを課すものとかもあるから、単なる領域の下位互換って考えない方が良いよ」

 

 後で見せてやる、と日下部が言ってくれる。

 

「最後に反転術式だが……これもちょっと難しくてね」

「難しい、ですか」

「反転術式って言うのは負のエネルギーである呪力を掛け合わせて正のエネルギーを生み出す術だ。このエネルギーは肉体の再生に使えるんだが、アウトプット……つまり他者に掛けることが出来るなら他人の治療だけじゃなく負のエネルギーの塊である呪霊への特攻として使うことも出来るんだ。ちなみに既存の生得術式に流し込むことによって、文字通り反対の効果を持つ呪術を発動することも出来るよ」

「ただ反転術式はかなりのものでな。領域もそうだが、こっちもこっちで別のセンスが必要なんだ。アウトプットはもっと厳しくて、高専でも使えるやつがここで働いている医師一人だけだ」

 

 そう言いながら五条が適当に人差し指を切り、それを治して見せる。

 

「領域も反転もそれぞれ感覚と才能の極致で……普通に教えるのは難しいんだ。ま、領域の方は君なら覚えられそうだけど」

「……とりあえず、その二つは今は置いて先程の縛りなどの工夫を覚えた方が良い感じですか。両方とも言語化が難しい超感覚の技術らしいですし」

「そんな感じだな」

 

 ここまで教えてくれるのは、彼らが多忙で一緒に説明をする時間が次にいつ取れるかわからないからだろう。ここに来て教えてもらったことの中に、夏は呪霊が多く発生して忙しい季節なのだと言うことも聞いたので、理由はわかる。

 なお、黒閃と言う別系統の超感覚の世界の先にある技があるのだが、まだ体が出来上がっていない子供に打撃の極致を今は教えない。

 

「…………」

 

 五条と日下部は呪術の基礎を教えた、程度かもしれない。

 だがおかげで今日まで考えていた膨らんだイメージが……固まった。

 自分には結界の才能がある。それを知った時から『これ』が出来るのではないだろうか、と考えていたがやれるかどうか不透明だったのだ。

 ゆえに、ここでそれを形にする。

 

「五条先生、その空き缶を机に置いてもらって良いですか?」

「ん? 良いけど」

 

 玻座真が来るまでの間、飲んでいたジュースの空き缶。

 元々は呪術の実験か何かのために捨てず残していたのであろうそれを、使わせてもらうことにする。

 

「――『方囲』」

 

 左手の人差し指と中指だけを真っすぐ立て、二のような形を作る。

 

「――『定礎』」

 

 そして空き缶を囲うように机の上に四角形の薄青色の線が出現する。

 

「――『結』」

 

 その線から薄青色の障壁が出現し、天辺を塞いで箱を生み出す。

 

「――『滅』」

 

 出現した結界の中が押し潰され、抹消される。

 

「へぇ」

「まじかよ……」

 

 笑みを浮かべる五条と、目を見開いている日下部。

 面白そうに五条は今の光景を評価する。

 

「元々透明だった結界を誰にでも視認出来るようにする縛りと、薄い色を使うことによって視覚遮断をないことにしてこちらも誰にでも結界の向こう側を見えるようにしている縛り。そして掌印を構えながら結界構築の手順を呪詞にしつつ相手に開示する縛り。……もしかしてここに来るまでに今のやつを考えてた?」

「結界を使う漫画を過去に読んだことがあって、それをそのまま自分の術式で再現した形ですね。縛りも祝詞も、イメージに寄せるためにちょうど良く使っている感じです。拡張術式って言う、イメージから術式を形作る方法も教えてもらえたので」

 

 【結界師】。

 前世で読んだ漫画の一つであり、結界と言うものを武器にして戦うことから印象にかなり残っている作品だ。

 内容に関しても主人公やメインヒロインが結界術を使い戦うと言うものであり、基本的に結界術以外のもので戦闘することはない。結界から応用・強化・発展……そして最終奥義も結界である。

 結界以外にも特殊な力は登場するが、漫画の結界術と拡張術式は極めて相性が良いと玻座真は踏んだ。

 そのためすぐに頭の中でイメージを描き、教師二人から貰った記号を埋め込んで形にした。

 

「縛りとして機能してくれてましたが、個人的にはこれありがたいですね。先程も言った通り漫画の描写に近づけているので、こっちの方が扱いやすいです」

「その感じだと、次のイメージも出来てる感じかな?」

「“帳”の術式構成見る限り、視覚遮断効果や進入禁止効果などの組み分けが出来そうなので、例えば呪霊にだけ効く縛りの結界とか作れそうです。理想は自身を守る結界の中から、相手を別の結界で攻撃する感じ……なんですけど。当分は滅する結界を指定する鍛錬ですね。自分の方の結界も滅するわけにはいかないですし」

「なるほどねぇ」

 

 最初にあまり戦闘向きではないと評価したが、五条は内心で撤回する。

 玻座真の才能であるから相性が良いのは当然であるが、それでもここまで戦闘向きじゃないはずの術式を攻撃に転化出来るとは。

 

「色々と良い子だね。この調子ならすぐに一級呪術師になれるんじゃない?」

「……個人的には他人も守れるって言うのが良いな。練度が必要だが、後方から防御張れるのは戦略が広がる」

「遠隔攻撃出来る術師と相性良いだろうね。……恵と掛け合わせるのもありかな」

 

 二人で玻座真の評価をしつつ、ぼそりと五条はどんな人と相性が良さそうかと頭の中で考える。

 それからもう少し話していると、部屋の扉が開いた。

 誰かがこの部屋に来る予定は無いため三人は振り向く。

 

「あれ、夜蛾学長どうしました? 将来有望な子の見学に来ましたか?」

「…………」

「……学長?」

 

 サングラスを掛けた厳つい男性が、そこにはいた。

 子供が見たら泣いてしまいそうな見た目をしているが、彼自身は見た目と違い思慮深く生徒や身内に優しいことを五条と日下部は知っている。

 だが、そんな彼がいつも以上に緊張感を持った表情で三人を……いや、玻座真を見ていて二人は訝し気な顔をする。

 

「……玻座真君、すまないが一緒に来て欲しい」

「……用件は?」

「君を見込んで、ある人物が会いたいとのことだ。すぐに話し終わるとのことだ」

 

 夜蛾の言葉に玻座真は首を傾げるが、五条は思わずと言ったように守るような姿勢で玻座真の前に出る。

 

「学長、もしかして上っすか?」

「違う。いや……違わないが、少し違う」

「……?」

 

 呪術界上層部、もしくは呪術総監部。呪術規定を管理する人間たちであり、五条曰く腐った権力者たち。

 究極の保守派である彼らと改革派の五条は仲が悪く、散々嫌がらせを受けてきた。

 そのためそちらの線を警戒したが、違うと言われ片眉を上げる。

 

「――天元様からだ」

 

 さらに上の存在の名前に、五条と日下部は表情を硬くする。

 

 

   ――◆◆◆――

 

 

   ――◆◆◆――

 

「おっ」

「よっ」

 

 教室に戻ると同級生二人が目に入り、軽く挨拶する。

 11歳の時に呪術高専にスカウトされ、結局そのまま中学卒業後に入学して、現在は二年生。

 予想通り生徒の人数は少なく、全生徒合わせても両手で数えられるぐらいの人数しかいない。

 性格が合わなくても死線をくぐる職場である以上、ほぼ自動的に仲良くなる。

 まだ高校生だって言うのにおっさんみたいな見た目の秤金次と、ギャルっぽい見た目をした少年の星綺羅羅。前者は行儀悪く椅子を反対に置いて背の部分に両腕を置いて座っており、後者は机の上に座っている。

 

「帰ってきたか。遅かったな」

「モリちゃんだけ呼ばれた場所、違ったしねー」

「…………」

 

 二人の言葉には答えず嘆息だけ零し、自身の椅子を二人に寄せて座る。

 その様子に金次は違和感を覚える。

 

「……なんかあったのか?」

「次の呪詛師のテロ、前線から外された」

「え、そうなの?」

 

 特級呪詛師、夏油傑。

 支配下に入れた呪霊を操れる術式を持つ、選民思想を持つ人間、

 彼の宣告により東京の新宿と京都が千の数の呪霊に襲われることが確定しており、日々人材不足で喘いでいる呪術界の戦力たちが珍しく集まっている。

 学生であるが強力な術式を持つ秤金次も戦力として数えられており、京都に出向することが先の会議で決まっていた。

 準一級術師として登録されている玻座真もどこかに配置されるだろうと金次たちは思っていたが、予想外の結果に怪訝な顔をする。

 

「どうなったんだ?」

「天元様の護衛。……正確に言うと、天元様の元に通ずる道を守るよう言われた」

「私たちは天元様と会ったことないんだけど、そう命令してきたの?」

「いや、そう言う人じゃないし……多分天元様は今回のことに全く関わっていないと思う」

 

 直接顔を合わせたことがあるのは三度。

 一度目は自身に何かあった時用に国中に張られている、大規模な結界の管理をしてくれないだろうかと言うお願いだった。

 二度目の時に了承し、三度目含めて結界のノウハウを教えてもらった。

 少ない接触だが、言動からその超越者の性格がある程度読み取れた。

 

「んじゃ総監部か? さすがのアイツらも天元様の予備のお前に下手なことをするわけにはいかないから、現場から外して前線の人間に何かしようと企んでいるのか?」

「金ちゃんが東京じゃなくて京都なのも、何かあるのかなー」

「東京には超戦力(せんせい)がいるからね。向こうの校長や東堂だけじゃなく御三家がいるが、それでも五条先生に戦力的な意味合いでは釣り合ってないから、分配としてはあっているんだろうけど」

「けど?」

 

 微妙な言い方で言葉を止めた玻座真に綺羅羅は彼を見つめる。

 

「……ほぼ妄想だろうけど、総監部の思惑だけならそれこそ五条先生が抵抗してると思う」

「妄想? 五条先生が天元様の護衛に配置したってことか?」

「と言うよりも、拒否しなかったが正解かな」

 

 考えるよう顎に手をやる仕草をしながら、玻座真はしゃべる。

 

「誰かの思惑があると言う前提で話すなら、総監部がさっき金次が言ったような考えがあると思う。――ただし、五条先生も別の思惑があるんだと思う」

「あるとしたら、なんだ?」

「……今回の主犯格の呪詛師は五条先生の昔の知り合いらしいんだよね。だからその呪詛師と戦えそうな戦力は戦地からわざと外しているんじゃないかな。戦えるってことで、自分から接敵しにいかないように」

「夏油傑だったか? そいつが俺らが思っているよりもめちゃくちゃ強いから、前に出る可能性あるやつは外しているってことか?」

「と言うよりも、強力な戦力は外しているからさっさと自分の場所に来いよ、って言う考えかもしれないし」

「あー……まあ、確かに。先生はそう言うところあるよな」

 

 思惑と言うほどのものではない、私情に近いもの。

 それらを上位者たちが乗せて動くから、巨大な渦となってしまっている。

 

「怖いのは乙骨くんだなぁ。宣戦布告してた時、露骨に近づいていたみたいだし」

「……某リカちゃんが狙われているってことか?」

「資料によると契約している呪霊は取り込めないらしいけど、これって過去の情報だしなぁ。せっかく出来た後輩なんだから危険から守りたいけど、俺らは外側に配置されているし」

 

 そもそも東京と京都を千の呪霊に襲わせると言うが、いまいちゴールが見えてこない。

 五条悟がいなくても、ある程度の強力な駒は存在しているのだ。

 東と西の主軸を落とそうとしても、上手く行くとは思わないし、落とせたとしても少しの時間があれば取り戻されるとしか思えない。

 となるとゴールは別の場所に……と考えたところで椅子に寄りかかり、溜息を吐いた。

 

「ここであれこれ考えても駄目か。向こうの呪詛師のこと、校長とかは深く考えているだろうし」

「だな。出来ることと言えばさっさと祓って東京に戻ってくることぐらいだな。五条先生みたく瞬間移動は無理だが」

「……てか、東京から離れるからってハメ外すなよ。ただでさえ“熱”ってやつでお前は感情的に動く時あるし」

「うるせーお前は俺の保護者かよ。遠くに行くっつっても行って戦って帰ってくるだけだろうが」

「あ、お土産お願いねー」

 

 なお、この京都への出張で保守派を殴って金次は停学となり、綺羅羅も付き合って学校に来なくなる。

 そのためただでさえ高専の生徒は片手で数えられる人数にまで減ってしまい、さらに忙しくなってしまう。

 

 


 

 

 

 

 夜蛾に呼ばれて部屋を去っていった玻座真を心配しつつ、適当な椅子に日下部は座る。

 単なる少し早い授業になる予定だったのに、唐突なビッグネームに思わずと言ったように溜息を吐く。

 

「天元様かぁ……直接会ったことはないが、取って食おうって感じのタイプじゃないよな」

「……あぁ。むしろ偉ぶらず意志を尊重するタイプだ」

「……会ったことあるのか?」

「いや、直接は会ったことはないけど、天元様が関わっていた任務が過去にあってね。その時に天元様の考えの一端に触れたことがあるだけだよ」

 

 いつもは軽快な性格である五条の重い雰囲気に、日下部は過去に何かあったのだろうと考えるが、聞いたりはしない。

 天元様は総監部とは違う、本当の意味で上界の存在である。

 下手なことに首を突っ込みたくない日下部としては、わざわざ聞いたりはしない。

 

「にしても、やっぱあいつ……イカレてるよな」

「んー? まぁ、確かに子供にしては達観しているけど、僕のところにいる恵もあんな感じだよ。もしかしたらもっと素っ気ないかも」

「そんなことじゃない。確かにそれも気になりはするが、おかしいのはさっきの結界のことだ」

 

 日下部の言葉に興味がわいたのか、強張らせていた顔を崩し、五条は彼の方を見る。

 

「確かに飲み込みは早かったけど、そんなにおかしかった?」

「お前は天才だからわかりづらいかもしれんが……感覚が狂っているお前にもわかりやすく説明してやる」

 

 不思議そうに首を傾げている目隠しに溜息を吐きながら、日下部は話す。

 

「あいつはさっき、漫画の技を再現したって言ってたよな」

「言ってたね。確かに漫画とかってイメージの教材には良いかもね」

「それがおかしいって言ってるんだ」

 

 天才の呑気な言葉に、凡才である日下部は彼の異常性を言う。

 

「例えば、素人が俺の抜刀術を見て頭に入れていれば……それを再現出来ると思うか?」

「……無理だろうね」

 

 日下部の言わんとしていることにようやく五条は理解し、納得する。

 

「あいつが言っているのはそれだ。イメージの元があるからって、それをあっさりと出来るのは……正直普通じゃない」

「“帳”を見た時に色々と理解したって言ってたし、それの派生じゃない?」

「お前はその六眼で漫画を読んで、その技を読み取れるか?」

「あー……知識から原理は思い浮かべられるかもしれないけど、確かに無理だろうね」

 

 実のところ六眼の視界は一般の視界と違い過ぎるため、同意を求められても日下部が感じているものと同じものを自分が抱いているかちょっと不明なため、少し曖昧な言い方をしてしまう。

 だが、言いたいことはわかった。

 

「となると……漫画の技を再現出来るだけの才能を持っているか――」

「――自分がその技を出来て当然のようなやつだと思い込んでいる(・・・・・・・)か、だな」

 

 何か問題があるわけではない。

 だが、呪術師としての高い資質を持っている……と言うことがわかる確認だ。

 

「良いね。恵もそうだけど、そう言う人材が生まれる時代になってきたのかな」

「あーあ。あいつは基本的にはまともっぽいから、性格までお前らみたく歪まなきゃ良いんだが」

 

 ニヤリと笑みを浮かべる五条とは対照に、日下部は溜息を吐く。

 玻座真が戻ってくるまで、適当に駄弁っていた。

 

 

 

 

 




※誤字報告で引っかかったので追記。
登場人物による会話では割と「会話っぽさ」を意識したりして文章を打ってます。なので呪術廻戦の世界観だと「呪詞」が主ですが、主人公は今回の場合はそのことを知らないので「祝詞」と一般的な方で表記しています。
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