呪術世界の結界術師   作:ペンギンくん

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あんま評価とか気にせず書いているんですが、ランキング見たら一位にこの作品があったのでびっくりしました。やっぱり呪術は人気で、結界師も根強いものがあるんだなぁ、と実感しました。評価ありがとうございます。






【無想】、と言うものが本家漫画『結界師』にある。簡略して言うと心を無にして結界の質を上げる、と言うものである。
管理者と言う術者の分身によって支えてもらうことを前提したものであり、この作品の主人公である玻座真も式神を使って無想を修得出来ないかと考えたが……そもそも呪力が負の感情によって生まれるエネルギーである以上、心を無にする状態は前提として破綻すると思い直し、断念している。
どれだけ上手く技を再現出来たとしても、根本的に漫画『結界師』の世界との差異がある限り、再現が厳しいどころか無理なものもある。


03.最終準備

 

「うーん、珍しいケースだね」

「でしょうね」

 

 中学二年生の秋。

 夏の多忙時期が終えたのを見計らって五条に連絡して、少し前に覚えた新技を見てもらっている。

 

「壊れた物を修復出来る結界……から抽出して反転術式を覚える、か」

「本来のものはもっとスケールが違うものなんですけど、劣化に劣化を重ねた結果それっぽいものが出来上がり……んで、それが感覚的に反転術式に近いものかと思って狙い撃ちしたんですが」

「反転術式によって生成した正エネルギーを既存の術式に流し込むことによって発動出来る、術式反転。ただ護良の場合は技の再現をしようとした結果、逆転現象が起きていて術式反転を先に会得していた……と。いやー面白いね」

 

 かつて五条がやったように彼の目の前で指先を切って、治癒の様子を見せる。

 五条たちが見越した通り、中学一年の時に玻座真は領域を獲得した。

 ただし反転術式を覚える兆候は無かったので、そちらはゆっくり……と考えていたところ、覚えてきたのだ。

 

「『真界』だっけ? そもそもどういう技だったの?」

「結界の中を初期化して、術者の思うように中身を書き換える術ですね。……具体的には違うんですけど、簡単に言うと結界の中を新たな世界として創れる術ですね」

「世界を作るかー。さすがにそこまで行くとスケールが違うなー」

 

 無限を操る呪術師は面白そうに笑う。

 対して玻座真は肩をすくめる。

 

「問題点はいくつもありまして。呪力は圧倒的に足りないでしょうし、何より前提として無想が必要ですし」

「あー前に言ってたやつね」

「もしかしたら無想が無くても出来るのかもしれないですけど、かなり厳しいでしょうし。……何より、自分がその技を発動出来るイメージがさすがにないので、最初から妥協している状態からスタートしているんですよね」

「まぁ、世界の書き換えと比べれば反転術式は修得難易度低いだろうね」

 

 呪力量が足りないと玻座真は言っているが、玻座真の内包呪力はむしろ多い方だ。

 さらには六眼を持つ五条ほどではないが、結界術に関しては極めて効率良く扱えるはずだ。

 その玻座真が使用する前から呪力量の問題で諦めているのだから、本当に厳しいものだろう。

 

「さすがにこれを真界と呼ぶのも微妙なので、素直に修復術って呼びます」

「どうする? 発表する?」

「家入さんのことを考えると死ぬほど忙しくなりそうなんですけど……どうなんでしょう」

 

 今のところ唯一他人を治癒することが出来る術師、家入硝子。

 五条の同期であり、反転術式の天才である。

 ゲームだと転職すればあっさりと就けるヒーラーであるが、ここはゲームの世界ではない上に反転術式は才能に左右され過ぎる技術であるため、彼女は常に治癒師として忙しくいつ会っても目の下に隈を作っている。

 唯一性と言うものは素晴らしいものなのかもしれないが、常に多忙である五条と家入の姿を見ると、そんな希少性羨ましくないと思ってしまう。

 

「……個人的には重要な施設や重要文化財だとかならともかく、普通に呪霊退治に参加したいですね」

「割と積極的だよね。元々幽霊とか妖怪を退治する漫画なんだっけ」

「ですね。そう言うのもありますが、まぁ俺の結界術は複数相手でも戦えるので、多く倒せば倒すほど犠牲者が減りますので……出来れば積極的に祓いに行きたいですね」

 

 前回、『絶界』と言うある意味五条の無下限以上の不可侵を誇る攻性結界を見せてもらった。

 特級術師であり六眼を持つ五条でも見たことがない縛りを課した強力な術。

 絶界、領域、反転術式とくれば一級術師としてすぐに登録されるだろう。

 問題は本人の意志とは反して一部の人間は知っている、天元の予備と言うことが前線から下げられる要素として機能してしまっていることだ。

 呪術師として本格的に働くのは高専に入学してからだが、このままだと実践経験が薄いまま後方に置かれてしまうだろう。

 

「才能の使い方と言えばそうなのかもしれないけど……やっぱ本人の意向を尊重したいよねぇ」

「ファンタジーに出てくるギルドみたく、ある程度は自分の意思で任務を選べたら良いんですけどね」

 

 ある程度等級などの精査がされた状態で任務が下されるが、上から任務を下されると言う性質の関係で……過去に大被害が起きたことがある。

 それは偶然だったり、総監部の嫌がらせだったり。

 人手不足かつ一般人を守るのが高専である。保守派の権力が強いのもあって拒否すると言うのも難しい話であり、上の人間の意向で呪術師が減っていく。

 保守派側や家系の呪術師はその辺り意識が鈍いが、外部から入るとそう言った陰湿なものが露骨に見えてしまう。上層部嫌いの五条じゃなくてもぶっ壊したい、と思ってしまうぐらい呪術界は腐っていた。

 

「いやーどんどん強くなっていくねー。この前、天元様に教えてもらったって言ってたやつも面白かったし。もしかしてそろそろ僕超えちゃう?」

「継戦能力としての呪力量の限界もありますが、絶界でもさすがに『茈』はきついっすね。めちゃくちゃ強力な一撃ってやつだと突破されますし」

 

 五条悟が使う最強の一撃、術式の順転と反転を合わせた虚式『茈』と言う技。

 さすがに試したことはないが、技の威力からダメージオーバーしてしまう可能性が非常に高い。

 

「領域対決になれば押し合いに勝てる自信ありますが、そもそも俺が高位の結界術師ってわかれば領域の押し合いなんてしないで逃げるでしょうし」

「否定はしないね。僕も『蒼』とかで逃げられるし。……簡易領域で時間稼ぎすら出来ないし、逃げるのが一番楽だね」

 

 簡易領域による領域の押し合いは、本来の領域と違い押し合いと言うよりも防御に近いものなので、ずっとは守れなくても“削られる”と言う最低限の時間稼ぎが出来たりする。

 それを踏まえて試しに五条が簡易領域を使って対抗してみたところ……一瞬で破壊された。

 弱者のための領域であるはずの簡易領域だが、耐えると言うことすら許されなかった。押し合いと言うよりも高速で動くロードローラーに轢き潰された感覚だった。

 その光景に思わず笑いながら、実力の高過ぎる相手だとこうなってしまうのか……と五条は記憶した。

 

「でも護良って前もって結界で逃げ道を閉じるよね。あれって空間移動系も阻害しているよね?」

「俺の結界は空間支配系なので、まぁ空間移動系だったら阻害出来ますね」

 

 なお、後の高校一年の時に交流戦で出会う東堂の不義遊戯によって空間移動は阻害出来るが、置換は可能だと言うことが発覚する。

 

「……結局、やろうとしていた四つのうち二つは駄目だったってことだよね。残り二つは?」

「微妙ですね。そもそも同漫画でかつその結界使いが扱えた術ってことで無理やり拡張術式の範囲に入れようとしてますが……本質的には違うんだろうなぁってことは頭の隅でわかっているので。無想の時と違って、自分の資質だけで完結しているものなので代替案も浮かばないんですよね」

「そもそも拡張術式含めて、並の術師は基本となる術式以外の技となると一つや二つ、生み出すだけでも大変なんだけどね」

「まぁ完成形を知っている以上、出来るだけ手中に収めたいと思ってしまうんですよね」

「向上心があるね」

 

 前々からどんな技を手にしようとしているのか話していることもあり、五条も面白がって鍛錬の成果などを見てあげることが多い。

 

「……逆に完成形が見えているからこそ、自分で新技を作るのが難しいんですよね。応用ならともかく、例えば五条先生の『茈』のような順転と反転を掛け合わせた技とかは思い浮かばないんですよね」

「あれは『六眼(これ)』があること前提みたいなもんだからね。緻密な呪力操作が必要だから、ミスると暴発するし」

 

 よく漫画で出てくる魔眼ほど特殊能力を持っているわけではないが、こうして超常的な能力を持つとどれだけ利便性が高いかわかる。

 オン・オフ不可。呪力の視認能力の高さにより精密な操作が可能。漫画とかによってはこの程度……場合によってはデメリットが目立つ瞳であるが、能力者側に立つとその偉大さを知る。

 

「とりあえず、もうちょい技術を磨く必要がありますね」

「個人的にはもうちょっと接近戦の鍛錬をして欲しいんだけどね」

「……まぁ、はい」

「体術苦手って言うこともあって武具に目を付けるのは良いんだけど、それ含めてもうちょっと頑張りましょうってやつだね」

 

 漫画『結界師』を参考に矛のような呪具を用意してみたが、そもそも本家でもそれを武器として扱う場面は見受けられないため、選んでおいてなんだが微妙だよなぁ、と玻座真は考えている。

 掌印の問題を考えると片手は空けておきたいのだが、どうにも素人の自分が両手で握らず長物を振り回すと体が持っていかれてしまう。呪力で身体強化しても、その辺の扱いはまた違うものなのだろう。

 なお、結局使わなくなってしまったため未来で真希に譲渡してしまっている。

 

「実際、今後を考えると素手で戦える方が良いんですけどね……運動音痴とまでは行かないですけど、別に体育の成績普通な自分としては何というか限界見えちゃうんですよね」

「術に関してはすごい向上心高いのに、体術に関してはめちゃくちゃ“やろうとしない人”の発言し始めるよね」

「情けない通りこして醜いことは理解しているんですが」

「さすがにそこまでは言わないよ」

 

 夏休みの宿題を後回しにしてしまう心境である。

 

「……高校までにはしっかりと覚えなくちゃなぁ」

 

 五条悟と言い、日下部と言い。

 近接に強い人物たちが自分の教師となるのだ。覚える土壌がある以上、限界が見えていようともしっかりと学ぶべきである。

 

「そう言えば反転術式を覚えたんだし、今後はもう少し厳しく鍛錬が出来るね」

「うぇ」

 

 決意を抱こうとしたところで、ろくでもないことを言われ、思わず変な声が出てしまった。

 

 

   ◆◆◆

 

 

 三年。

 教室にいることの方が少なくなってきたこの頃。クラスメイトの金次と綺羅羅がいなくなったこともあり、尚更多忙を極めていた。

 呪霊が活発化する時期は通り過ぎたが、元より呪霊を祓うこと以外の仕事の方が中心である玻座真としては年間の仕事量は悪い意味で変わらない。

 東京と京都の姉妹校交流会も当然のように欠席したのだが……今年は異変があった。

 

「ん? 珍しいのが来たな」

「しゃけ」

 

 男四人……ならぬ、男三人と動物一匹が駄弁っているのを発見し、近づく。

 二年生である狗巻棘とパンダが最初に気づき、次に新入生の二人……虎杖と伏黒が振り向く。

 

「あっ、先輩! ちわっす!」

「……本当に珍しいですね。どうしたんですか?」

 

 一度だけ顔を合わせたことがある虎杖の方はあまり玻座真の詳細について知らないため特に気にせず挨拶してくるが、古くからの五条の弟子であった伏黒は玻座真の忙しさについて知っている。

 そのため驚いた顔をしながら軽く頭を下げる。

 

「よっ。……ここで起きた事件の時に張られた“帳”について調べてくれって言われてね」

「あ、向こうのメカ丸って人の代役じゃないんすね」

「野球しに来たんじゃないよ。……てかなんで野球かつユニフォーム着てるんだ?」

 

 女性陣がいないのは着替えているためか、と考えながらもう少し話す。

 

「あのバカ目隠しの勝手で戦いから野球になった」

「ツナ」

「……東堂はともかく、京都組は野球のルール知ってるのか? 家系呪術師ってあんまそう言うのちゃんと知っている印象ないんだが。特に女性陣は雰囲気しか知らない気がするんだけど」

 

 東京組も知っているかは不明だが、少なくとも目の前の虎杖は知っているだろう。

 

「そう言えば途中までは本来の交流戦してたんだよな。東堂はどうした? 真希かパンダが対応した?」

「あ、俺が戦いました。最初はバカスカ殴られたりしたっすけど、途中から呪力の扱い方とか教えてもらってました」

「教えてもらった……? そんなに気に入られたのか」

 

 ある意味、交流会として正しい在り方をあの東堂がしていたことに酸っぱいものを口にしたような顔になる。

 

「先輩はあのゴリラ……東堂と戦ったことが?」

「あるよ。あいつゴリッゴリの近接型だから、正直金次……他の三年に任せたかったんだけど、戦うことになったんだよな。しかも金次の領域と違って、俺の方は普遍的な相手を倒すための領域だから、さすがに交流会で使うのは禁止されてたし」

「おかか」

「そうそう。忙しい上に去年は憂太が参加したから、護良の交流会での戦い、俺らも見たことないんだよな」

 

 興味を抱いた伏黒と狗巻、パンダの言葉に返答する。

 

「東堂の術式の不義遊戯は知ってるか?」

「あ、知ってます。拍手と同時に呪力持っているものと入れ替わる術式っすよね」

「あれと俺の術式はお互い相性が悪くてね」

「お互い?」

 

 不思議な言い方に伏黒は怪訝な表情を浮かべる。

 

「虎杖は知らないから少し説明するけど、俺の生得術式は結界でね」

「結界って、“帳”とか?」

「そう。俺の場合はもっと細かく、そして戦闘に使える感じ。――『結』、『滅』」

 

 ビシッと二本指を空中に指すと、そこに透けた青色の箱のようなものが出現する。

 そして『滅』と言うと圧縮されるように歪んでから、消滅した。

 

「おぉ!」

「俺の戦闘スタイルは典型的な術師のそれで、自身を守るための結界で覆いつつ、攻撃用の結界で相手を叩くってものなんだけど……東堂の不義遊戯で結界の外に呼び出されるんだよね」

「え、じゃあ先輩の方が不利じゃないっすか」

 

 東堂自身が結界の中の玻座真と入れ替わるわけにはいかないため、小石に呪力を込めて入れ替えると言う小細工をする必要がある。

 玻座真の結界は、内側にいる存在の空間移動による逃亡禁止が施されている。だが東堂の不義遊戯による交換は仕様が違う。

 

「実際に不義遊戯で位置替えが発生して判明したんだけど……まぁ原理を含めて戦闘のことを話すと長くなるからどこかで」

「長いんすか」

「長い。今の時間は五条先生が集合時間にどうせいつも通り数分遅刻してくることを前提にしているものだし」

「あー学長が言ってたあれね」

 

 虎杖は五条に連れられて夜蛾学長と出会った時に呈された苦言を思い出す。

 付き合いが長いとそれを前提とした動きになる。学長があのキモカワぬいぐるみを作っていたのも、今思えば五条が遅刻してくることを理解してた故だろうことがわかる。

 

「……護良先輩的には、今回の“帳”どう思ってます?」

「まだ報告書を読んだだけだから聞いた限りの所感だけど、すごい違和感がある」

「違和感?」

 

 伏黒の質問の返答に対し、虎杖が首を傾げる。

 

「五条先生だけを入れないようにしているだとか、視覚遮断効果を後回しにしている部分とか。……今回確認された呪詛師二人がそう言う細かいことを出来るやつかと言うと、報告聞く限り微妙っぽい」

「……他にもあの場に呪詛師がいたと?」

「と言うよりも、高位の結界使いが呪具とかに込めた結界だったんじゃないかな」

 

 実験、という言葉が虎杖以外の脳裏に過る。

 襲撃や忌庫の中身の強奪があったが、目的はそれだけじゃなかったらしい。

 

「ちょうど東西の教師陣たちがいるのもあって、この高度(レベル)の結界呪具を製作出来るようなやつに心当たりがないか話し合うのも予定に入ってる」

「御三家の当主に、東西の校長。それだけ聞くとネームバリューだけはすごく聞こえるが、御三家当主はあの適当なやつだぞ」

「その言い方だと加茂のやつも適当な奴になるから言い方変えてさしあげろ」

 

 癒し系な見た目に反して結構しゃべる内容、大体毒だよなと玻座真はパンダを見つめる。

 

「えーっと、つまり?」

「自分最強! な五条が他人のことを頭に入れているかって話だ」

「しゃけ」

 

 最近来たばかりの虎杖の反応に対し、二年二人は辛辣な評価を与える。

 

「金を吹っ掛けられそうだけど、冥さんもいるから。……冥さんってのは鳥を操る呪術使いで、五条先生たちの先輩。烏を操ると言う術式から情報収集能力に長けているんだ。戦闘能力も高いよ」

「へー! 大先輩ってことか!!……え、大先輩にお金を吹っ掛けられるの?」

「いわゆる守銭奴ってやつだ。これは自他共に認めている」

 

 知らないであろう虎杖に説明するが、話を聞いて冥冥の特徴とも言える部分に言及する。

 困惑する虎杖に、一応悪い人じゃないはず、と言うフォローになっていないフォローにますます虎杖は困惑を深めた表情を浮かべる。

 虎杖の性格上、そんな反応になるよなと思っていて、ふと思い浮かんだことを口にする。

 

「そう言えば虎杖、少年院で両面宿儺と入れ替わったんだって?」

「あ、はい。そうっす」

 

 色々あった事件。特に伏黒にとっては虎杖が生きていたとは言え、事実一度は目の前で死んだのだ。

 話が分かる人だが、それでも宿儺を出したことに何か言おうとしているかもしれない。

 伏黒の身に緊張が走るが、それを気にした様子を見せず玻座真はしゃべる。

 

「入れ替わっている間って、虎杖って外の状況を認識しているのか?」

「見えてるっすね。あと聞こえてます」

「感覚とかって共有しているのか?」

「いや、そっちは」

「……テレビを見ている感じか」

 

 話し始めた内容から特に叱ると言うわけではなかったらしく、内心伏黒は安堵する。

 

「もしかして生得領域に飛ばされるのか?」

「生得領域……って、なんだっけ」

「術者の心の中みたいなものだ。少年院では呪霊が呪術で展開していたやつだが」

「あー! それか。んー……そう言えば、変な場所に行くような」

 

 伏黒の補足に虎杖は理解するが、その曖昧な言葉に玻座真は一瞬怪訝な顔になる。

 だが、まぁ死にかけてたようだし状況も切羽詰まった状態だったみたいだし、しっかりと記憶してないのもおかしくないかと一応納得する。

 

「感覚とか覚えているんだったら、両面宿儺の呪力操作や反転術式とかを覚えられないかと思ったんだが……無理そうだな。虎杖はフィジカル全押しだから、回復能力持っているとまた話は変わるんだが」

「護良は教えられないのか?」

「反転術式は特に感覚的なものが多いからなぁ。正直無理。だから覚えるんじゃなくて使った感覚を覚えていたらもしかしたら、と思ったんだけどね」

「あれ。俺、五条先生に術式持ってないって言われたんだけど」

 

 パンダの質問に答えていると、虎杖が新たな疑問を浮かべていた。

 まぁ新入生だしまだ教わってない部分か、と思いながら玻座真は答える。

 

「“帳”みたいな基本的な結界術や反転術式は生得術式とは違って、後天的に覚えられるものなんだ。別枠の才能みたいなものだけど、なんとか覚えようと思えば覚えられないわけじゃないもの。とは言えそう簡単に覚えられないから、反転術式を使える人間は少ないんだ」

「へー」

「本当だったらみんなにも簡易領域ぐらいは教えたいんだけど……俺も五条先生と同じで感覚派だからなぁ」

「簡易領域……?」

「あぁ、それもまだ教わってないのか。まぁ簡易領域は反転術式以上に限定的なものだし、後回しにされててもおかしくないか」

「いや、五条先生からは呪力操作しかまだ教わってないっすけど……」

 

 基礎の基礎じゃん、と思わず目を見張る。

 

「……忙しいのもあるんだろうけど、一年の先生として良いのか? もう講座関係はビデオに撮って流すみたいな方が良い気がしてきたんだが」

「機密の塊みたいなもんだから、無理だろうな」

 

 呆れた様子を見せる玻座真に、パンダは首を横に振る。

 

「……先輩。そろそろ時間は良いんですか?」

「あぁ、さすがにそろそろ行くか。……簡易領域は京都の東堂か、確かシン・陰流の三輪霞って子が使えるはずだから、場合によってはそっちから聞いてくれ。せっかくの交流会なんだし。それじゃ、真希と野薔薇によろしく」

「はい。先輩もお疲れさまです」

「またな~」

「じゃ、先輩また!」

「しゃけ」

 

 後輩たちに別れを告げ、指定された場所に向かう。

 少し歩くと、自動販売機の横に五条が立っていた。

 

「どーも」

「やっ。珍しく遅かったね」

「五条先生のことだから遅刻するだろうしってことで、後輩たちと少し駄弁ってました」

「えー」

 

 いつもと違って黒い上着を脱いでおり、目隠しもサングラスに変更している。

 一般人とも言えるような夏の姿に珍しいなと玻座真は思うが、もしや向こうの野球と何か関係しているのかと考えつく。

 

「……それで、用件は?」

「はいこれ」

 

 尋ねると五条は懐から二つに割れた釘を取り出し、玻座真に渡す。

 それを受け取り釘を観察しながら、口を開く。

 

「六眼で見た結果は?」

「残念ながら込められていたっぽい呪力が完全に抜けていたんだよね。捕まえた下手人からの証言だとこれこそが結界の発生源なのは確かなはずだから……そう言う仕掛けがあったっぽい」

「六眼対策……いや、結界の内容を含めると五条悟対策ですか」

 

 五条が言うように釘には特段呪力が残ってないが、それでも今までの情報を含めると見えてくるものがある。

 

「釘を使っているのはそこまで強い理由はなく、ただ結界術を込めやすい上に持ち運びやすかったってのが理由でしょうが……五条先生にだけ適用する結界って内容は面白いですね。過去に俺が考えた呪霊特化結界の、さらに質を上げた版みたいな感じがします」

「へぇ。高位の結界術師としての見解は気になるね」

「まず、この時点でこの“帳”使ってくるってことは、今後もっと強力な五条悟対策のカードを持っているって言ってるようなものですね」

「それに関しては僕らも見せ札として考えているよ」

「個人的に気になる点は二つ」

 

 手の中で釘を弄びながらしゃべる。

 

「五条先生……と言うよりも特定の人物を指定した結界。これ、もしかしたら今後もっと広い範囲の指定が入るかもしれません。俺でしたら一般人・術師・呪霊みたいな感じに」

「……呪具を使えば遠隔でも“帳”を発動するようにしているのも、複数結界を展開する予定かな」

「かもしれません」

「だとするとデカいイベントの日に非術師を大きく巻き込んだ呪術テロがされる可能性はある、か」

「この手のことはここで話しても後手になるのが厳しいですよね」

 

 公的ヒーローではないので、一般人の動きを制限出来ないのだ。

 ある程度は公的機関に声を掛けることが出来るが、問題は呪霊である。あれは呪力を持たない者には見えない存在であるため一般人への注意や警告が難しいのだ。

 無いものに対し、人は従う気が生まれない。

 見える脅威に対しては身を震わせられるが、見えない脅威に対しては恐怖しない。

 それはつまり、幽霊への恐怖心と同じものである。

 人々に対して幽霊が襲ってくるから家に閉じこもっていろ、なんて言って従ってくれるとは思えない。

 

「それで、もう一点は?」

「天元様です」

「……天元様?」

 

 その名前に思わずと言うように五条は玻座真を見つめる。

 

「先生も知っている通り器の継承が失敗したことによる、不死の術式による人外への昇華。それが理由で天元様が俺と言う後継者と言う名の予備を用意することにした……と誰もが思っています。俺もそうでした」

「…………」

「が、あの人は自分のことをそんなに話しませんし見た目も人外のそれですが……普通に感情が顔に出たりします」

「へぇ、そうなんだ」

 

 天元と直接顔を合わせる人間が少ない。それは五条悟とて例外ではない。

 ゆえに玻座真の意見に耳を傾ける。

 

「本人はそのつもりはないかもしれませんが……少し、焦っているような感じがします」

「護良としては自身の身に迫る何らかの存在を天元様は認知しているんじゃないか、と思っているんだね。――そして今回の首謀者じゃないか、と」

「……今回の騒動。特級呪霊や対五条悟結界に目が行きますが、普通に見たらおかしい部分があります」

「…………」

「資料を見ましたが訪れた特級呪霊が植物系であり、木々を通じた侵入だった……と五条先生は考えていましたが、そもそも侵入しようと思う時点で違和感があります」

 

 突発的ではなく計画的な犯行。すなわち、最初からその呪霊だったら侵入出来ると理解していたと言うこと。

 

「ようするに対五条悟――よりも、注目すべき点は天元様の結界への対応度。そもそもこの場は天元様のお膝元とも言える場所です。“帳”を張れていることが異常です」

 

 少し前に特級呪詛師である夏油傑が乙骨憂太を狙って、高専を囲う“帳”を発動している。

 だが彼は特級としての実力云々以前に、元高専の学生である。

 内部のことは把握しているだろうことから、自身の行動を阻害されないよう事前に準備出来るはず。

 何より天元の結界は守るよりも隠すことにリソースが振られているため、高位の力で物理障壁的な方法で入れないようにされているわけではないのだ。

 そのため――外部の存在が今回起こした事件は、異様なのだ。

 

「高専に内通者がいる、もしくは天元様のことをよく知っている呪詛師がいる、と考えているわけか」

「どっちかと言うと後者ですね。……特級呪霊が忌庫の物を盗むだけで終わっているのも、どことなく示唆を感じますね。……まとめますと」

 

 釘を五条に返しながら、

 

「天元様のことをよく知っている呪詛師が今回は結界の確認・特級呪物の強奪、あと個人的な推測ですが挑発をしていた。――本当にこれは俺の所感……いえ、直感なんですけど」

「…………」

「多分、かなり古い術師です。天元様の不死の術式の例があるのでこの発想が浮かんできましたが」

 

 直感。

 その言葉を五条は否定しない。

 効力は失われているが高位の結界術師として呪具を観察し、さらには話に出た天元とも少ないながらも交流を持っている。

 玻座真が言語化出来ていないだけで、何らかの情報を拾えているのかもしれない。

 何より両面宿儺と言う古き時代の、呪いの王が部分的とはいえ復活している。

 呪術に関するノウハウや手札の数を、六眼と御三家当主としての知識を持つ五条よりも多く持っている可能性が高い。――それが、今回の敵。

 

「結界術に強いとなると……玻座真と前に試したみたく、領域勝負もきつかったりするのかな」

「さすがにそれはないと思いたいですが」

 

 とりあえず思いついたことを適当に挙げながら、五条は思い返す。

 かつて自身の不可侵を乱した黒縄と、自身の命を脅かした天逆鉾と言う呪具。あれらのような物がまた来るかもしれない、と頭の中に入れておく。

 

「とりあえず俺が見て感じたことは、そんな感じです」

「ありがと。……今日はこの後は?」

「これの相談ってことで時間を取っておいていますので余っているとも言えますが、まぁたまの休みですし……金次と綺羅羅の顔でも見に行きます」

「はいはい。じゃあ二人にもよろしく言っておいて」

 

 ひらひらと手を振る五条に、玻座真も軽く手を挙げてその場を去る。

 その後ろ姿を見送りながら、

 

「さーてと。僕もみんなのとこへ向かうかー」

 

 青春の舞台に、足を向けた。




秤金次:ルールをあっさりと破る姿勢は合わないが、それはそれとして仲はそれなりに良い。

東堂葵:漫画好きの玻座真は自分より背が低い女の子の頭に手を置く、自分が屈んでキスをする、みたいなシチュエーションが好き。かつ胸は小さいなら小さい、大きいなら大きい……と言う胸の大きさ(貧乳と巨乳と言うわかりやすいキャラクター性)を重要視する人間であるため、背が高い上に尻派の東堂とは相性が良くない。
さらっと流しているけど、玻座真は交流戦で負けてます。ただし東堂側も色々と玻座真に制限があったことは理解出来ているので、まぁこんなものだろうと言う感想に落ち着く。

『不義遊戯』:呪術に置いて一卵性の双子とは同一の存在と見なす性質を持つ。すなわち別々の存在ではなく、等価の存在として認定される。不義遊戯はAとBと言う別々の存在をA=Bと偽証し、Aと同じ存在であるBがAの位置に、Bの位置にAが存在していても異常はないと勝手に証明する術式である。
そのため空間移動ではなく存在置換の術式ではないか、と言うのが玻座真と東堂が話し合って至った結論である。

原作に出ていない術式などの詳細に関しては大体捏造。
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