呪術世界の結界術師 作:ペンギンくん
とある場所に高専の人間が集まる。
そこは奇妙な場所であり、中央にいくつものテレビが縦に置かれている。
虎杖・乙骨・真希・狗巻・パンダ・秤・綺羅羅・玻座真・西宮・三輪。
脹相・家入・日下部・冥冥・憂憂・日車・来栖・鹿紫雲。
彼らは
とは言え全員が全員、戦うために集まったわけではない。家入は治療役であるし西宮は足役、三輪は戦闘には参加出来ないが万が一の領域対策要員としてここに来ている。
パンダに至っては本当に戦えない。なのでどこにいても良いと言うことで、この場所にいるようなものである。
「あぁ言う場面、自分って本当に陰キャなんだなぁーって思う」
「虎杖君のやつですか?」
「そ。爽やかな感じの見送り。王道的な発想が咄嗟に浮かばない辺り、自分の中にないものを持っているように見えて羨ましく思う」
「うーん……そこまで考えますか?」
「あ、いや。難しい話じゃなくて。クイズ番組とかで別の人に答えられて言われてみれば……ってなるような感じに近いな。つまり感心しているって意味」
なるほど、と頷く乙骨の椅子を隣に立っている真希が軽く蹴る。
何の話をしているんだよと言うような表情を開戦まで駄弁っている乙骨と玻座真に向けてから、部屋の中央に置かれているテレビに視線を戻す。なお玻座真の方から話しかけているため、乙骨は勝手に共犯者にされた形だ。蹴られている分、彼の方が損しているだろう。
授業中に話しかけられて先生に一緒に注意されている光景みたいだなーと他の人間が思いつつ、同じく画面に視線を戻す。
「予定では伊地知が結界を張り、そこで楽巌寺学長と歌姫による支援を行いながら五条君が『茈』を撃つ手筈になっているけど」
「今のところ宿儺は気付いた様子は無いが……一度相対したことある
「伊地知さんの結界なら気付かれずに撃てるでしょうが、宿儺の実力的にそれだけじゃ倒せないかと。不意打ちとは言え距離もあるので防御が間に合うでしょうし」
冥冥が『黒烏操術』によって使役しているカラスが見ている光景を映している画面を見ながら分析を口にする。
中でも宿儺と直接対峙したことがある玻座真の意見を日下部は聞く。
「んで、そこから先はどうなると考えてる」
「領域展延を使いながら殴り合い。感触を確かめてから領域展開をジャブ感覚で入れてくるかと」
「領域をジャブ扱いで使ってくるんだ……」
玻座真の発言に思わずと言うように綺羅羅が引くように呻く。
◆◆◆
術師が覚える体術は基礎の部分以外は我流寄りとなる。
術式が混ざる上に呪霊と言う人外と戦う以上、対人用の体術では限度が出てくる。
流派と言うものを否定しているわけではない。実際、使えそうな部分は使う。
だが武術と言うモノは人が人と戦うために作られていった技術であるため、どうやっても術師の体術と言うものは基本的なものから崩れて外れて、そして自分が戦いやすいものに研磨されていく。
五条と宿儺の体術戦は、その極みと言えるだろう。
「ふっ――!」
「ハハッ……!!」
呪力操作が極まった最高峰の術師二人。
彼らの呪力強化による身体能力は特級呪霊を傷付け、果てには単なる体術だけで祓えるだろう威力を誇る。
そしてそれは同時に高い防御力も意味しており、並の術師であれば防御の上から潰されるであろう攻撃を完全に防ぎっている
(こいつ……)
そう、防御が発生している。
そのことを宿儺は訝しんでいる。
肉体を打つ感覚が発生している。すなわちそれは、五条が無下限による防御を発動していない。
五条の代表と言える無敵の防御、いわゆるニュートラルの無下限呪術。それをまず超えなくては五条と言う術師は倒せない。
そのため彼に挑む者はまずその術の攻略を考えることを強制させられる。
それは宿儺と言えど変わらない……のだが。
(移動の補助として無下限を使っていることから、術式が使えないと言うわけではない。そちらに集中しているから使えないなどコイツのことを考えればありえぬだろう)
『解』を放ち様子見するが、五条はそれを術式で受け止めずそのまま回避する。
普通の術師であれば宿儺の膨大かつ繊細な呪力操作の中から術式発動の兆候を見抜くのは難しいものだが、六眼を持つ五条であれば出来ないことではない。ゆえにそこに関して宿儺は驚かなかった。
(こいつ……)
薄っすらと宿儺は己が笑みを浮かべていることに気づく。
それを見て五条もさらに笑みを深め、お互いに理解する。
(――気付いているな)
何故五条が無敵の無下限を解いて戦っているのか宿儺は察し、そして理解されたことを五条も察した。
ならば、と拳撃が加速する。
五条が術式による攻撃を誘うよう無下限防御を解いているのであればわざわざ付き合う必要もない。展延を使わずとも攻撃が通るのであれば、そのまま体術で攻めさせてもらう。
(この作戦はこやつのモノではなく、俺と戦ったことがある玻座真護良のものだな。ならば展延や領域勝負に関する対策も出来上がっているだろう)
大雑把にカテゴリー分けするなら、五条と宿儺は分析や細かい技術を使うには使うが基本的には大きな力で圧し潰すパワータイプ。
対して玻座真は羂索と同じよう手数と技術で細かく状況を動かし自身が有利であり続けるよう戦況を操るペースタイプ。
後者は強力な力を出す時には出して勝ちを掴み取る戦い方をするのだが、どちらかと言えば『負けない戦い方』が得意なのだ。故に自身のペースを無理やり押し付けられるパワータイプとは相性が悪かったりする。
五条と玻座真、宿儺と羂索。
この二組の違いは戦略に関して協力し合うかどうか、と言う部分に差異が存在する。
教師と生徒の二人は戦略を話し合い組み立てることも出来るが、ビジネスパートナーの二人はわざわざそんなことをしない。情報共有ぐらいはするが、そこで終わりだ。
つまり宿儺は1対1とは言わずとも1.4対1ぐらいの感覚で戦っている状況である。
(まぁ、そこはどうでも良いが)
五条が無下限呪術による防御をしてこないことにより、宿儺の作戦も狂っている。とは言えそれは五条のニュートラルの無下限を攻略する手順であり、最初から相手が使ってこないなら後回しにするだけだ。
「『捌』」
「……!」
拳撃からのフェイント、そして六眼でも反応が遅れるタイミングと速度で術式を発動。
真人の『無為転変』と同じで直接触れる必要がある『捌』。遠距離攻撃の『解』を避けられるのであれば、超近距離攻撃の『捌』を使う。
相手の強度や呪力量によって威力を自動で変える『捌』によって五条は傷付くが、彼の反転術式ならそれすらも一瞬のうちに治ってしまう。そのため五条はそれを気にした様子も見せず反撃の拳を放つ。
「お返し!」
「ちっ」
無下限呪術を強化した術式順転『蒼』の力を宿した拳が宿儺の腹部を襲う。
そして、
「――術式反転『赫』」
「……!?」
宿した力を反転させ、宿儺を吹っ飛ばす。
集束の力を宿した打撃により深いダメージを与え、さらにそこから発散の力によって攻め続ける。
「小賢しい!!」
強者であろうと吐くレベルの
『蒼』を球状に固定化し、それを八つに分けて宿儺の周囲を囲う。
強力であるが拡散してしまう『赫』よりも、引き寄せながら削る力を見せる『蒼』の方が場合によってはダメージを与えられる。
四方八方から襲い掛かる『蒼』はお互いがお互いを吸収する力を発揮し、宿儺の動きを封じつつ接近する。
「ふっ。……!?」
「ハッ!!」
だが引力の渦の中央にいる宿儺は己の膂力で無理やり抜け出し、『蒼』による攻撃を回避するが……それを見据えて五条も次の一手を繰り出す。
回避された『蒼』の集束を利用し五条は一瞬で距離を詰め、
(なるほど、こうなるのか)
虎杖の中にいた時に『蒼』による瞬間移動を体感しているが、それを戦闘中かつ敵側の視点で食らうとなるとまた話は変わる。
呪力による身体強化の加速とはまた違う感覚。
動体視力ではなく呪力の起こりで反応しなくてはいけない技だ。
「近づいたな?」
「そう何度も喰らうかよ」
再び『捌』のために手を伸ばしてきたがそれを五条は撥ね除ける。
宿儺の方も『蒼』が宿る拳を食らわないよう五条の胴体を蹴り、彼を引き剥がす。
「――『赫』」
蹴られた勢いを利用しながら『赫』を放つ。
本来なら指向性を操作して敵にだけ『赫』を食らうよう調整するのだが、今回はわざと散らして五条は宿儺と距離を開ける。
「またそれか。そんなに俺に使わせたいか」
「使わないなら使わないで僕としては構わないけど? 片手落ちで勝てると思っているならね」
「ぬかせ」
◆◆◆
「……ここまで来ると僕にもさすがにわかりますが。先生は遠距離の斬撃の『解』を撃たせたがっていますよね」
「まあね。まぁ最初の攻防でバレたっぽいけど、作戦続行しているのは挑発と嫌味が強いかな」
画面を見ながら乙骨は玻座真に確認を取る。
彼が五条と対宿儺用の作戦を立てていたのは知っていたが、彼らが忙しくて内容を聞くことが出来てなかったのでこの場で改めて聞く。
「無下限による防御を使わず、遠距離戦を意識させる距離の置き方をする。だからと言って別に近距離を嫌わない。……そして五条自体は移動にも無下限を使うから加速だけじゃなく空中戦も出来る。ここまで来たら宿儺と言えど戦えないってわけじゃないが『解』を使えって押し付けられるのは鬱陶しい状況だな。んで、お前らの狙いはなんなんだ」
「先生に『解』を慣れさせるためですね」
「……やっぱりか」
玻座真の言葉に五条のことを知るほとんどの者たちは怪訝な表情を浮かべる。だが玻座真に質問をした日下部は呻くような反応をした。
「日下部さん、やっぱりとは?」
「コイツから宿儺が編み出す術の推測を事前に聞いてたんだよ」
五条の無下限呪術は無敵だ。普通の術ではその無限を超えることが出来ず、それは宿儺であっても変わらない。無下限と同等の特殊性を持った術式か、領域関係の技術か。
宿儺の手札には同等の術式である『十種影法術』があり、それが無くとも領域を使える。
それに対し『解』は強力な斬撃であるが無下限呪術を超えることが許されない物理攻撃に過ぎない。そう考えるのであれば前者の方を最優先で警戒すべきなのでは、と思われたが。
「宿儺は虎杖が指を飲み込み目覚めた時、先生の無下限に阻まれたと聞いています。そして渋谷では俺の領域に負けています。……俺が宿儺だったら対空間用の
「……拡張術式か」
玻座真の言葉に鹿紫雲が反応する。
「呪力によってダメージ調整が入る『捌』だが触れることが必須。対して飛ぶ斬撃である『解』の方が強化する余地がある。俺だったらこっちを拡張術式の対象にするな」
「いやいやいや、意味不明過ぎるだろ。どうすれば斬撃で空間をなんとかしようってなるんだよ!!」
玻座真と鹿紫雲の発言に知識人である日下部は言いたいことは理解しているが、やっぱり納得出来ず思わずツッコミを入れる。
非常識過ぎる内容であるが、宿儺の実力を理解している二人はそのことに対し疑問を抱いていない。
「でも、玻座真たちの話が本当だったら悟のやつ不利だよな? それに慣れるよりも先にさっさとそれで悟のやつを攻撃すれば倒せたんじゃないのか?」
「例え用意出来たとしても無下限に対し使ったことがない以上、宿儺のやつも撃つタイミングを計っているんだろう。詳細は不明だが、無下限を突破出来るだけで斬撃自体は今まで通りの威力って可能性もある。それなら呪力防御と反転術式で対処出来るし」
「……そう言えば、展延ってやつを使わないのは分かりますが領域を使わないのは何故でしょう」
「そこら辺どうなんだ。結界術師」
「体感的なものだが領域の出力自体は互角だと思う。虎杖の中にいた時に先生の領域を宿儺も見ていたようだから、宿儺としてもそれを感じ取っているはずだ」
パンダと日下部が意見を交わし、そこから三輪と真希が別の話を引っ張ってくる。
最強同士の戦い。切る手札と残す手札の探り合いの内容を議論して考察を進める。
「ただ外殻の無い領域の特性については俺経由で知られているって分かっているだろうし、ならそっちの対策もしていると向こうも考えるはずだ」
「わざわざ領域を使うつもりがない、と。だけど外殻を付けて五条の動きを制限するパターンはどう?」
「それも悪くはないだろうが……宿儺は別の手を使うだろう」
冥冥の問いに答えたのは来栖の中にいる天使――便宜上、彼女と呼ぶ――を名乗る存在。
彼女の見解は高専組とは違う。玻座真以上に宿儺との戦闘経験がある天使は彼らが知らぬ手札を口にする。
「呪術連から報告があったはずだ。呪具が誰かに奪われた、と」
「呪具……それが向こうの陣営によるものだと?」
「形状は槍だったな。それが私の予想通りの物だとしたら、この状況を打破されるだろう」
画面の向こう側が変わる。
今まで接近戦に拘っていた宿儺が後方に跳び、自ら距離を開けた。
そのことに誰もが訝しむが彼は気にせず、あるビルの目の前で屈み地面に手を付ける。
――『捌』――
彼の宣言と共に地面を伝い、そしてビルも切り裂く。
そこで五条が何かに気づいたように宿儺に近づくが……彼は嗤い跳躍してビルの中へと手を伸ばす。
崩壊するビルの中に何かがあり、それを宿儺が掴む。
それは長物。
全員の脳内に先程天使が話した『槍の呪具』が思い浮かぶ。
「あれが……」
「やはりか」
誰かの呟き。そして天使の呻くような呟き。
そしてその名を口にする。
「あれは飛天だ」
「ヒテン?」
「天を飛ぶと書いて飛天だ」
「名前からして自律して攻撃する感じの呪具か?」
天使の言葉に綺羅羅とパンダが反応する。
ビュンビュンと空を飛びながら相手を攻撃する槍をイメージしながらパンダは聞くが、否定される。
「いや、違う。……飛天は元々風を操る術師を材料に作られた呪具だ。だがその槍を振るっても風を起こすことは無い。だが呪具とは呪いであり、時に本質を歪めてしまう」
「…………」
「――あの槍は、主の頭上を飛ぶことを禁ずる術式を宿している」
天使が説明するのと同時に、画面の向こう側の宿儺は槍を振るう。
瞬間、空中にいた宿儺に接近していた五条は驚いたような表情を浮かべるとともに……落下した。
彼の高い身体能力と呪力強化により怪我を負うようなことは無いが、いつもより動きがぎこちなくなっているのが画面越しでもわかる。
「あの呪具は自ら飛んで敵を殺す物でも無ければ、所有者を飛ばす物でもない。
「イカロスかよ」
「普段空中に浮かび戦う者はそれを禁じられると動きが鈍くなったりする。……そう、過去の私だ。他にも単純に飛んだり浮いたりするだけではない空中移動の禁止を行う。玻座真護良、お前のような結界を足場に空中移動するタイプでも墜とされるぞ」
「げ……」
話しているうちに状況が一変する。
動きが鈍くなった五条に飛天を握った宿儺が接近する。
槍が迫るのを見つめながら五条はどこかに向けて手を伸ばす。するとどこかからか何かが飛んできて五条は掴み、それで槍を受け止める。
太過ぎず、長過ぎない二本の棒が鎖で繋がっている。
中国拳法などの映画で見たことがある武器を見て、思わず虎杖は叫ぶ。
「ヌンチャク!?」
「私が使ってた『游雲』って言う三節棍の呪具が元だ。別のやつに一度奪われて壊れたんだが、残った部分を補助監督が回収してくれていたんだ。呪具のこと自体はこっちも聞いてたから念のためってな」
元々は夏油が使っていた頑丈と言うことだけが取り柄の特級呪具『游雲』。
逆に言えば頑丈であることに対してこの世の全てを置き去りにした特級呪具。
渋谷事変で降霊した禪院甚爾によって先端を尖らされてしまったが、五条が持つ双節棍は元の長さよりさらに短くなっているが棒状の形に整えられている。
普通の呪具であればここまで形を変えられると備わった術式が崩れ、呪具としての役割は破綻してしまうのだが……『游雲』は違う。特級クラスの呪力を内包した頑丈であることが特筆された呪具であるが、術式は無いため他とは違いここまで形が変わっても存在自体には影響が無いのだ。
所有者の膂力によって力を発揮する呪具。それは当然、最高峰の呪力強化を行える五条が振るえば爆発的な暴力を見せる。
無下限呪術によって双節棍の動きは無軌道を描き、棒自体が嵐のように乱れ宿儺を襲おうとする。それを宿儺は二本を繋ぐ鎖の部分を槍の持ち手で逸らし、引っ張るような動きで五条の体勢を崩そうとする。
だが五条はわざとそれに乗り、引っ張られる勢いを利用して宿儺に膝蹴りを浴びせようとする……が、防がれ弾かれる。
「……二人の近接戦闘の幅が広がりましたが、正直なところ質自体は変わってないように見えますね」
「つーか五条さんって別にヌンチャクみたいな扱い辛い武器を使ったことないはずだよな? なんであんな上手く使えているんだ」
「…………」
「どうしました? 真希さん」
三輪や秤の感想を置き、乙骨は真希が鋭い視線を画面へ向けていることに気づき声を掛ける。
「あいつ……」
「はい」
「……なんで影に武器を入れていなかったんだ?」
◆◆◆
(どう言うことだ? 魔虚羅を使って来ないのは倒されることを警戒してタイミングを見計らっているのかと思っていたけど、今の様子からすると十種が使えないのか?)
真希が気づいたことを五条も見抜いていた。
『解』を制限させられた時点で十種影法術を使い始めると考えていたが、そのような気配が無かったので違和感はあった。
ここまで来ると温存していると言うよりも何らかの理由で使えないと見るべきか。
(そもそも受肉と言う例が少ない上に器が術式持ちと言うパターンも想定されていない。十種を使ってくると考えていたが、そもそも器の術式は使えないのか?)
羂索のことを踏まえれば乗っ取った肉体に残った生得術式を使えると考えていたが、また違うのだろうか。
(いや、確か憂太と護良が遭遇したらしい敵方の受肉体は元の持ち主の術式を使っていたって言う報告はあった。受肉の時点でどちらかの術式しか使えなくなるのか? もしくは術式の切り替えに時間が掛かるのか。……あるいは)
「――縛りだ」
激しい攻防が突然止まる。
立ち止まり口を開いた宿儺に、五条も聞き入るように止まる。
「戦闘が始まれば
「……縛りの理由は?」
「伏黒恵の魂を、沈めるためだ」
宿儺の言葉に五条は内心舌打ちをする。
御三家の一角である五条家の当主であり六眼を持つ彼ですら、魂と言う分野に関してはどうしても見識が浅くなってしまう。
「…………」
この時点で、五条は自身の手で伏黒を助けると言う選択肢を捨てる。
どれだけ無下限や六眼が特殊性の高い能力と言えど、魂に干渉する術を持たない。
自分がやれることは目の前の存在を倒すことだけだ、とシンプルに考える。そして他のことは後方に任せるためにも、素直に宿儺の発言を聞いて情報を拾うことにする。
「本来の予定では”浴”の後に伏黒恵の姉を殺し、魂をより深く深くへ沈めるつもりであった」
「……なるほど。それを意図せず護良が妨げた、と」
「とは言えそれで手を尽くして終わり、などと言うことは無い。こちらとしても別の手を立て、さらに貴様との戦いを利用させてもらった」
五条悟に対し術式を封じる。
宿儺が五条をどう評価しようが、客観的に言えば五条悟と言う戦力は極めて大きい存在だ。
そんな彼に対し術式を封じると言うのは大きなディスアドバンテージと言える。
……正史では伏黒恵の象徴である十種影法術にて彼の姉を殺し彼の魂を強く圧し潰す方法を取った。だがこの世界では逆に、伏黒恵の象徴を封印して彼と言う要素を出来るだけ削ぐことにしたのだ。
無論、宿儺が望むほどの効果からは遠い。
正史では伏黒津美紀が死んでしまったことによって生きる気力が失われ抵抗することもなくなったのが大きい。それに対しこの世界では彼の姉は殺されていないし、受肉体としての優位性を強化する縛りによって彼の魂を沈めているに過ぎない。
宿儺としても慢心出来るような状態ではないのだ。
「思ったよりも必死じゃん」
「否定はしない。だが、貴様らを殺していけば……それこそさらに伏黒恵の魂は沈むだろう」
「だったら尚更負けるわけにはいかないね」
両手を鳴らしながら、改めて構える。
魔虚羅を相手が使って来ない以上、やはり宿儺は無下限の防御を超える手札を持っている。そしていつどのタイミングでその手札を切るのか測っているのだ。
そのことを理解しながらも五条は笑みを浮かべる。
「ま、結局のところ僕のやることは変わらないね。――お前を倒す。それだけだ」
「フンッ」
まだ戦いは始まったばかり。
そう言うように二人は呪力を滾らせる。
裏梅に『神武解』を持たせて届けさせていた辺り、魔虚羅が失われたら十種が機能しなくなることを頭に入れていたってことだよなー。その辺はやっぱ宿儺はクレバーだよなぁと思い返したり。