呪術世界の結界術師 作:ペンギンくん
「やけに慎重に見える」
天使の言葉に視線が集まる。
「先に聞いていた無下限呪術の攻略手段として伏黒恵の生得術式を使うだろうと想定されていたが、それを封印してきた。つまり宿儺は別の手段で突破出来る手を持ってきた、と言うわけだが」
「……それを全然使ってこないことに違和感があるってことですか?」
「別にそれに関してはおかしくないだろ」
三輪の言葉に日下部が返答する。
「はっきし言えば宿儺の斬撃は強力だが内容としてはそこまで特殊性が高いわけじゃない。そうなると玻座真たちが言うように無下限を突破出来るだけの力を加えるなら、何らかの縛りが必要だ。例えば掌印や呪詞で術式自体を強化するとかな」
「じゃあ……宿儺はその条件をクリア出来る瞬間を待っているってことですか?」
「どちらかと言えば、私は宿儺が領域を使ってこないことに違和感を覚えている」
日下部と三輪、天使の三者による会話に他の者が傾聴の姿勢に入る。
「そこはさっき話しただろ。宿儺の領域への対抗策を……」
「やつがその程度で抑えるような存在であれば、我々はここまで苦労しなかっただろう」
日下部の言葉を切り捨て、天使は経験を語る。
「やつの性格であれば自分が不利なのを分かった上でそれを乗り越え、そして潰しに行くはずだ」
「理解し辛いが、それをあの馬鹿目隠しに置き換えるとイメージはしやすくなるな」
「あー……」
自分が不利なのを分かって立ち向かうのか、と怪訝に思っていた者たちも真希の発言により納得する。
無下限を攻略する方法を持つ相手に対し、五条が怯えるかと言うとそんな訳無いと言うのが彼らの考えだ。むしろ嬉々として立ち向かいに行くだろう。
宿儺の立ち位置を五条に置き換えると、領域を使わないことに対し困っている姿ではなく……あいつは何を狙っているんだ。企んでいるんだ。そう心配よりも疑念を抱くはず。
「てことは……」
「そろそろ始まるってわけだな。世にも豪華な殴り合いが」
綺羅羅の呟きを秤が拾い、それに合わせるように再び画面を皆が見つめる。
相手の頭を押さえ、手足を奪い、そしてじわじわと封殺していく。
五条の戦い方から玻座真の気配を感じ、思わず宿儺は鼻を鳴らす。
敵に窮屈な思いをさせながら焦らせ、自分は有利な状況に持っていく。
だがそれは玻座真護良の戦法であり……五条悟の戦い方ではない。
つまり、いつ切り替えるかだ。
(……この状況)
ふと、既視感を覚える。
それこそ玻座真と戦った時のような感覚が宿儺に過ぎる。
(なるほど。ここまではやつの読み通りか)
戦いに関して百戦錬磨である宿儺であるが、『読み』に関しては玻座真もその性質から負けていない。故に彼が敷いた
だが、いつかは超えられてしまう。
どちらの方が読む力が高いとか、そう言う話ではない。
絶対にどこかで、その枠組みを大きく外れることになる。
――何故なら、戦っている彼らは特級だから。
「五条悟」
「ん?」
「今のところお前への期待値は、渋谷で戦った時の玻座真護良を超えられていないぞ」
「……ああ?」
安い挑発だが、五条はあえて乗る。
双節棍が宿儺を襲おうとする。五条の近接戦闘術には彼の無下限呪術である『蒼』が仕込まれているため、吸い込みの作用によって大きく後退して回避すると言う手は取れない。
全く出来ないと言うわけではないがそのためには体力を大幅に消耗する。対して五条自身は六眼による呪力効率によって消耗は0に等しいため、相手だけが消耗を強いられる。
『蒼』の集束を利用した加速によるカウンターも、五条の不可侵の無下限によって防がれる。
完璧とも言える組み合わせ。
だが当然であるが……例外はある。
「ふっ――!!」
宿儺と飛天に展延の結界が纏い、『蒼』の影響を出来るだけ削る。
首を逸らして最小限の動きで回避する。ついでに武器を持っている手とは反対の腕で双節棍の鎖を弾き、五条の体勢を崩そうとする。
例え直前で無下限による防御を使われても貫通出来るようにしている。
そしてその穂先が五条を貫こうとしたところで……。
「…………」
気づく。
五条の体勢は崩れていない。
彼が耐えたと言うわけではない。宿儺の力が弱かったわけではない。
鎖が異常なのだ。
ちらり、と二つある宿儺の右目が動く。
己が殴った鎖に引っ張られて棒が空中に投げ出されている。だがその棒は自由に動いておらず、無下限の支配を受けて暴れている。
異様な速度で回転して力を溜めている。
だが宿儺が見つめているのは棒の部分ではなく、鎖の部分。
その鎖は常識を無視して伸びており、ただ二本の棒を繋いでいるだけの鎖じゃないことを示していた。
「ちっ!!」
その鎖が無下限に動かされて宿儺の腕を拘束する。
回転している棒に合わせて力強く動いており、まるで獲物を捕らえようとする蛇のごとく宿儺の腕に巻き付いて締め上げる。
繊維を引き千切る音を鳴らしながら宿儺の腕を壊し、そのまま棒は翻り貪欲にも彼の命を狙う。
上空から叩きつけるように落ちてくる棒を、槍で受け止める。
木が裂けるような嫌な音を耳にしながら斜めに傾けて受け流そうとするが、
――術式反転『赫』
双節棍に纏われていた集束の『蒼』が反転し、発散の『赫』に変質する。
上から降り掛かる圧力が増大し、受け流しは失敗に終わる。
己の得物が悲鳴を上げているが、それに反して宿儺は笑みを漏らし始める。
(ただの繋ぎの鎖だと思っていたが、あれも呪具であったか。見た目通り伸縮自在と言った内容なのだろう。……どこまで伸ばせる?)
どこまでも伸ばせる鎖と聞くと利便性を感じるが、それ自体に殺傷能力は無い。
そのため呪具としてみるなら舐められかねない代物であるが……宿儺は理解している。
構築術式で分かる通り、エネルギーを別エネルギーに変換するのではなく物質に変える場合は多量の呪力を必要とする。それが変幻自在の質量変化となると、シンプルで非殺傷の内容に反して等級が高い呪具だと宿儺は見破る。
特級か、あるいはそれに比肩するレベルの物か。
宿儺の考えは正しく、まさにそれは特級呪具の一つであったもの。
かつて五条が死闘を繰り広げた相手である禪院が持っていた特級呪具の一つ、『万里ノ鎖』。戦闘中に放った『茈』によってその鎖は破壊された。
同じく彼が使っていた特級呪具『天逆鉾』は完全破壊したが、『万里ノ鎖』は危険性の低さから修復に回されていた。
結局、十数年の時間を掛けて『5m以下まで伸ばせる鎖』にまで直すことが出来た。
元は『形状不明となっている片端の部分が観測されていなければ際限なく伸び続ける』と言う特性であったことから、大きく弱体化した姿と言えるのだが……単体で駄目なら他の物も付けようと考えて出来上がった物が、この双節棍だ。
「思ったより良いモノを持っているな!!」
「ははっ、だろ?」
無理やり棍棒を跳ね退ける。
それにより宿儺の身は守られたが、代償として鈍い音と共に飛天は折れる。
得物を失ったことにより宿儺は体勢を崩したのか、体が若干傾く。
そう、若干だ。
他の者であれば宿儺にとって隙にすらならない動き。だが目の前にいるのは五条だ。
一瞬の好機を見逃さず、彼は宿儺の顔面に向けて棍棒を振り下ろす。
そして……映し出された光景に全員が息を飲む。
砕け散る、『游雲』の片割れ。
観戦している高専の面々が絶句している中、唯一正面から何をされたのか見ていた五条だけは……口元を笑みへと変えていく。
片割れを失った双節棍を後ろに投げ飛ばし、宿儺も同じように折れた飛天を場外へと放る。
お互い得物を放棄して次の戦いを始める。
【伏魔御廚子】
掌印を構え、呪力で空間を歪ませる。
半径五メートルほどの球状。
それが空中に浮かんでいるが、もう片方の領域は形を持たず展開される。
外殻がある五条の領域と、外殻がない宿儺の領域。
領域の結界は内側は強く、外側は脆い。その特性を利用して相手の領域を殺す術が、宿儺が辿り着いた技だ。
ただし、今回は結界術のスペシャリストである玻座真にその領域を見られている。
対策はされているはず。それを込みで宿儺は領域展開を行った。
広がる宇宙のような空間。
片面には空間の主である五条が立っているが、もう片面には宿儺の御廚子……御堂が存在しており、その上に彼は立っていた。
(……奴も外殻に依存しない領域を展開出来るようになった、と言う訳ではないようだな)
渋谷で魔虚羅に対し使った。羂索も天元の身を奪いに行った時に使った。
そのことから性質は完全に把握されているはずだ。
才能の塊である五条でも、玻座真の指導があろうとあの技は短時間で修得出来ていない様子。問答無用の領域潰しに至っては、あれは玻座真だからこそ出来る芸当だと宿儺は認識している。
今のところ特に変わった様子は無い、領域同士の重なり合い。
そして――宿儺の斬撃が五条を傷付け始めた。
◆◆◆
五条の領域に宿儺の斬撃が降り注いでいる。
それでも五条の結界は健在であるのだが……そもそも接触している様子は無い。
一見すると普通の領域にしか見えない。では耐久勝負となるのかと見ていたところ……そう言う訳ではない様子。
おかしなことが起こっているのは分かる。だがどこがどうおかしいのか分からない。
まるで騙し絵を見ているかのような感覚になり、思わず困惑する。
「ん!? あれ!? どうなってんのアレ!?」
「宿儺の斬撃が五条の結界に吸い込まれている……いや、素通りしているのか?」
「正解」
虎杖のリアクションを横目に、日下部の推察を肯定する。
「俺のように相手の領域を問答無用で押し潰すほどの結界術はさすがの五条先生でも無理だった。そのため宿儺の閉じない領域に対抗するための手段として二つ、考案した」
渋谷の時に宿儺が魔虚羅に対して使った【伏魔御廚子】を玻座真は見ており、その性質を把握していた。
このままだと領域勝負において五条先生は劣勢だと考えた玻座真は、1ヶ月の間に五条と結界術の強化訓練をしていた。
「シンプルなものだと領域の殻となる結界の強度を上げる。本来領域の結界は内側からの逃亡阻止に寄ってるから外からの攻撃に比較的弱いんだけど、外からの攻撃にも強くすると言うわかりやすい手法だ。試してみたけど、こっちに関しては五条先生もすぐに覚えた」
「さすがと言うかなんというか」
「んで、もう一つはそもそも攻撃を受けない……と言うもの。つまり今の状態」
画面に映る領域戦を見ながら玻座真は説明する。
「こっちは渋谷の“帳”とかでも設定されていた、指定されたもの以外は素通りすると言う要素が加わってる」
「指定されたもの……この場合は宿儺か?」
「そうっすね。正確に言うと最初に指定した相手以外は素通りする。例えば向こうの仲間の術師とかは自由に出入り出来る」
もっとも、五条と宿儺の領域戦に突っ込めるモノなどいないだろうが。
「ただ結界の設定として組み上げるためには他にも縛りが必要だった。だから実はと言うと、外側からの斬撃は領域の必中効果による相殺は発生していない」
「……もしかして、五条先生は外側からの斬撃はもろに受けているんですか?」
「受けてる。ただ領域を壊されるよりも多少のダメージは反転術式で無理やり回復して無視する方針にした方が良いと考えた結果だ。ついでに御三家秘伝の領域対策の防御があるみたいだから、さらにダメージは減るっぽい」
高専メンバーの中で玻座真以外の、必中必殺の領域を使える乙骨が疑問を呈す。
質問が来たのもあり、自身の説明がしばしば難しいものだったのも自覚していたので、さらに砕いて話す。
「前者の硬度を上げた結界だと宿儺側が縛りの追加とかで威力を上昇させられる可能性もある。だから根本的な部分にメスを入れて、『壊されないほど硬い結界』じゃなくて『壊されないようそもそも攻撃を食らわない結界』を用意することにした」
「淡々と語っているが、その結界を考案して組み立てまでしている玻座真と、それを覚えて実戦で使えている五条もおかしいからな」
苦言にも近い日下部の言葉に肩をすくめる。
厳密には他にも『最低でも自分より呪力量が多い相手にしか使えない』などの細かい縛りも付けて成立させているが、全部言うのは面倒なので口には出さない。
「ちなみに五条先生にも閉じない領域を覚えてもらうと言う手法もあったけど、これに関しては早期のうちに捨てた」
「無茶苦茶言ってるの理解しているか?」
なお、さすがの五条でもすぐに覚えられなかった上に閉じない結界との戦闘を想定した訓練をずっとしていたため、残念ながら閉じない領域対策を他のメンバーには教授出来ていない。
「……あれ、出入り自由な上に攻撃を受けないってことは閉じない領域と同じようなことが出来るってことか?」
「状況的に似ているだけで、全くの別物だよ。そもそも目的位置が全く違うし、外側からの攻撃を結界は受けないってだけで内側からは普通に受けるし」
必中同士の相殺で結果的に攻撃を防いでいるだけだし、と虎杖の疑問に答える。
「目的位置って言うのは閉じない領域による外側からの攻撃回避って言う受け身寄りの内容であって、宿儺の領域は攻撃力を増すための逃亡許可って点だ。五条先生のはメリットを維持するためにデメリットを付けているのに対し、宿儺のはメリットを上乗せするためにデメリットを付けたってとこだ」
「あ! そう言えばそうか。確かに全然違うじゃん」
「そもそもあの閉じない領域の本質は逃げられることへのアレコレじゃなくて、見ての通り他者の領域の外から、自身の領域による攻撃が行えることだし」
「あのー。結局五条さんの領域のメリットってなんなんでしょうか」
「逃亡阻止、それと内側限定だがダメージ軽減。つまり領域を壊されるよりはマシって言う考えだね」
「五条レベルだからこそ活きるやつだ。もう一度言うが
「……宿儺の領域は周辺の物も攻撃しているよな。私はどうなる?」
五条の領域に関しての話がいち段落ついたところで、真希が自分についての疑問を口にする。
天与呪縛のフィジカルギフテッドになり、呪霊と化した禪院直哉と戦闘した際、領域による必中効果からは外れていた。
だが、宿儺の領域は一般的なものと仕様が異なっているため、戦闘する可能性がある以上、先に聞いておくことにする。
「真希や無機物とかは呪力が無いから領域の必中効果に引っかからないんだが、見ての通り宿儺の閉じない領域には無機物にも攻撃をさせている。そもそもの必中効果の仕様が違う。んー……」
説明している途中で突如黙った玻座真に全員が目を向けるが、天井の方に目を向けていた玻座真はすぐに視線を戻した。
「そもそもの話、領域の必中効果って言うのはいわば電子レンジの仕様に近い」
「レンジ?」
「電子レンジの中はただ熱で中を満たして加熱しているんじゃなくて、マイクロ波とかを反射させて温めているわけだけど、領域の仕様もこれに近い」
結界の殻を用意する→結界に生得術式を組み込む→中を自身の呪力で満たす→結界の生得術式が反応し、相手を襲う。
「これが領域の基本なんだけど、もうちょい詳しく説明するとさっき言ったみたく結界の中で術が反射しているわけ。基本的に領域の攻撃が敵味方関係なく必中攻撃になってしまうのはこれのせいで、術者以外を襲ってしまうんだ。そのため選別して必中攻撃を行うのは割と難易度が高いんだ」
その言葉に虎杖は火山頭の呪霊との戦いで五条悟が領域を使った際、自身の傍から離れないで欲しいと言ったのを思い出し、他の人間は渋谷で一般人にも【無量空処】の被害が発生した報告を思い出す。
「ただ呪力が結界内に満たされただけなら、相手の位置を指定して術式を起動すれば遠隔発動になるけど、そう言う仕様じゃないから無差別攻撃になってしまうんだ」
「で、結局私はどうなるんだ?」
「呪力のない真希は無機物以上に透明だ。結界を反射して向かってくる術を、受けるんじゃなくてさらに反射するんだ。攻撃対象じゃないって感じに。……領域は無機物を基本的には巻き込まないが、全く呪力を帯びてないわけじゃない。必中効果はそれに掛かっているんだと思う」
「無機物が呪力を帯びている根拠は?」
「五条先生の六眼。人や呪霊、呪具が持つ呪力だけじゃなく空気中の呪力の流れや残穢とかを視認して先生は周囲の物を認識している。……今も言ったけど、領域が全ての呪力を持つものを巻き込むんだったらそれこそ残穢が付いた物も中に入れてしまう。だから中に入れるモノに関して一定量の呪力を保持していることが選別基準なんだと思う」
自分で話しながら、色々なことが見えてきた。
宿儺の見様見真似で玻座真は閉じない領域を使えるようになったが、その後も特段それを使って戦ってきたわけじゃない。そもそも五条との特訓以外でもさほど使わないため、検証をちゃんとしたと言えないレベルである。
感覚で今まで領域を使ってきたわけだが、こうしてしっかりと考えてみると、今まで見てこなかったものが目に入るなと感じる。
「要するに宿儺の領域は本来だったら拾わないはずの微量な呪力すらも必中効果に巻き込むもの、ってことか?」
「そうだな。ただ領域の設定を変えれば攻撃が当てられるようになると思うから、慢心しないように。俺も出来るし」
「しねーよ」
「一つ良いか?」
話が終わったところで今まで静観して五条の戦いと玻座真の解説を頭に入れていた日車寛見が手を挙げる。
「今更だが、両面宿儺はどうやってあの閉じない領域を展開しているんだ?」
そもそもの話。
閉じない領域を誰も使えないならともかく、少なくとも表面上だけでも同じことが出来る玻座真ならどうやって成立させているのか分かっているはずだ。
玻座真が五条の特訓に付きっ切りで忙しかったかつ、そもそも難易度が高いこともあってその成立方法に関しては聞くことはなかったが、今後のためにも日車はしっかりと聞くことにした。
「渋谷での戦闘時、あいつは何もない場所を蹴って空中移動をしていた」
「……空中移動」
玻座真の説明に真希が反応したが、それに気づかず話を進める。
「戦闘中は気づかなかったけど、後々思い返してみれば空気中の成分を利用していたんだと思う」
「温度や湿度とかの密度の違いを“面”として捉えて足場にする移動方法だな」
「……そうなのか? 多分、そうなんだろうけど」
真希の理解度の高さに首を傾げる。
感覚で出来てしまう側の人間の説明下手さに辟易としながら、日下部は自分なりに彼の話を噛み砕く。
「ちょっと待て。つまり宿儺はその空気の密度の違いを器として利用しているって言うのか?」
「そう。結界の代用として使っているんだろ」
「え、結局どう言うこと?」
結界術に造詣が深い二人の会話に追いつけず思わず綺羅羅が問うが、それは話を聞いてた鹿紫雲が答えた。
「要は空気中には何もないと考えるんじゃなく、ちゃんと見えないだけで“面”は存在すると解釈した上で、そこに生得術式を敷いて領域として使っているってことだろ」
「結局やってることはやべーことなんだが……」
「だけど原理を説明されればある程度、現実味が増すね」
げんなりする日下部とは対照に、冥冥はただただ納得したように頷く。
日下部は周囲に漂う霧をキャンパスとして代用することにより、そこに絵を描いている……とイメージしたが、そもそも霧に絵を描こうと言う実行能力以前にその発想に至る呪術の怪物に苦い表情を浮かべる。
冥冥が言うようにある程度イメージが固まったことにより現実味が増したが、理解度0/10から理解度1/10になったところで、じゃあ勝てるかどうかと言われると微妙なままである。
「五条先生でも閉じない領域をすぐに使えないのは、その辺が原因か?」
「モリちゃんの言う通りだったら、六眼は呪力がよく見えるだけだしねー」
「だけど五条先生の無下限は確か空間操作の類じゃなかったか? それでなんとか認知出来ないのか?」
「おかか」
「正確には無下限は無限を操るのが本質であって、空間自体を操っているわけじゃないんですよね。空間に干渉はしているんだけど」
「ぶっちゃけそこにいるやつがおかしいだけで、空間把握が出来ていたとしても普通だったらあの閉じない領域は使えないんじゃないか?」
「解せない」
東京校の二年生と三年生のおしゃべりを横目に、京都校の二人は画面の向こう側について話し始める。
「……五分以上は経過しているわよね? あれ」
「計画は成功している、ってことでしょうか。それで、これって呪力切れで領域が解けるまで中で戦うって感じですか?」
「そんな訳ねーだろ。二人の呪力効率は極限まで高い。ならどこかで戦い方を変えるはずだ」
二人の会話に鹿紫雲が口を挟む。
結界内で何が起こっているかは不明であるが、このまま膠着状態で進むことを本人たちが了承するわけがない。ならばどこかで動きがあるはず。
そう考え一同が画面を注視する。
「…………」
「…………」
「…………」
「……え? は?」
そして、二人の領域が切り裂かれた。
宿儺の外殻のない領域にどうやって対処するのか。
じゃあ壊されないよう攻撃を素通りさせよう、と言うアホな解決手段。
身に着けている鎧を壊されないよう、鎧を付けてない部分で防御しているようなモン。
必中必殺に対抗するための領域による相殺のはずなのに、内側の攻撃だけ相殺して外側の攻撃は食らうと言う傍から見たら結局食らってるじゃんとなる。実際に五条ほどの防御力と回復力が無ければ破綻する内容である。