呪術世界の結界術師 作:ペンギンくん
結界を張った以上、自分から逃げることを禁ずる。
結界を切ったり通り抜けたり出来るが、玻座真はこの場に残ることを決意する。
“帳”は玻座真の生得術式から生まれたものではない。そのため領域の結界とは違い封印に転用することは出来ない。
ゆえに一つの縛りを課した決戦用結界を展開する。
「……っ!」
「うわ!?」
展延を纏った拳を放つが真人は避ける。
だがそのまま腕を取って引き寄せ、無理やり真人の顔面を殴る。
掴まれている腕から棘を生やして玻座真の手の平を貫くが、気にせず蹴りを入れられる。
玻座真の手を振り払って後ろに下がりながら、手の中にあった改造人間を放とうと構える。
「はっ。いきなりテンションが上がったな!」
投げようと腕を上げたところでガツン、と拳が何かにぶつかった。
ジロリとそちらを見れば結界の天井に手が当たっていた。
よく見ると自身の背中もほぼ結界に触っており、本当に狭いことを理解する。
(これ……どうする?)
見えている光景以上に結界の中が狭い。
真人の得意技は無為転変で相手を殺すか、改造人間を使って削ることだ。
無為転変が主力として使えないため、今は改造人間を主体に戦っているが……結界内の広さからこちらにも不安を覚える。
(この結界の意味が読めてきた。俺を閉じ込めること以上に、空間を狭くすることか)
恥やプライドも捨てて必要であればする逃走。
手数を増やし、広く攻撃する肉体変化。
変幻自在の大きさと形状の改造人間。
自由度が売りの真人の多種多様な戦略だが、それだけの自由を味わうためには相応の自由な空間と言うものが必要である。
(俺が体を変形しようが改造人間を出そうが、大雑把にやればあっさりと結界内が圧迫される。形変えられるし、てか呪霊の俺は窒息死なんかしないから圧迫したところで極端な不利にならないが……動きが制限されるのがウザイな)
展延でダメージが入る以上、真人自身の体を広げて圧迫するのはあまり良くない。
ならばシンプルに改造人間の方を大きく膨らませた状態で出現させる。そうすれば相手は潰され、抵抗出来たとしても窒息するだろう。何だったら形状を棘状にして体中を串刺しにするのも手だ。
(だが、それは相手も理解しているはず。そんな温い手で攻めたら結界使いが死ぬよりも先に術式が回復する)
苦手な分野であるはずの近接戦闘。
それに限定されるとしても、真人から自由度を奪うことにした。
ようするに遠回しな時間稼ぎであり、相手も近接戦で勝とうとは思ってないはずだ。
(ちょっと面倒なことになったな。……てか、もしかしてそれだけじゃないのか? あの呪具を追いかけられたくないとか)
見逃したのミスったな、と思いつつも頭の中で今後の展開を組み立てていく。
(てかこれほぼ詰んでる? 小回り重視の動きにしても反転術式で回復されるだろうし。体をチョッキンするか頭を潰すかしないといけないけど、さすがにコイツが近接が苦手だろうと対応されるだろうし)
大振りが出来なくなり威力が出せなくなった。
展延が纏われた手を払いながら考えたところで……ニタァ、と真人は笑った。
(
ポケットに手を突っ込み、中身を後ろに投げつつ玻座真に接近する。
両手を伸ばしながら駆けると、展延を纏った両手で真人の手首を掴んでくる。
力比べをしつつ術式を発動して展延に関して肌感を探る。
(やっぱこの状態だと術式は発動しない……どころか俺の肉体すら変化を阻止されてんな。俺の術式が手を中心としたものだからか? それとも出力が高いからか?……ってか、普通に“帳”と併用して発動してんなコイツ。結界術なら別種の術でも複数行使が出来るのか)
領域を覚えたてかつ無為転変とあまりにも相性が悪いため、夏油からの領域展延の教授から外れていた。
ある程度近接戦は出来るとは言え、基本的に真人の近接戦闘能力は無為転変による自身の肉体改造を前提としている。術式が使えなくなると大きく弱体化する懸念点から真人も特に覚えようとしてなかったが……それが仇となっている。
今更展延の勉強をする必要が出てきていることに呆れながらも、攻略法を掴み取る。
(だけど、直接発動は阻害されるってだけで工夫すれば使える)
「…………っ」
玻座真の視界の端に何かが映る。
ひょこ、と真人の足から小人が顔を覗かせる。――ただし、その顔が異形化しているが。
露出した眼球が雑に付いているが、頭部は完全に人のモノではなくなっている。真っすぐ上に伸びた長く鋭い刃になっており、部分的に見れば刀に見えなくもない。
刀と言うには
それが、二体。
「まずっ……!」
術式効果の遅延発動。
手の中の改造人間に術式を施し、それを放出。
超小型の状態からゆっくりと小人型になるように丁寧な内容にしており、時間差で真人が望んだ改造人間となる。
動く凶器としての、改造人間に。
まるで公園の遊具に駆けよる無邪気な子供のごとく、頭部が刃物の改造人間は玻座真に近づく。
対応しようとするがそれは真人が許さず、体重を掛けることにより状況の変化を阻害する。
「で、どうする? 結界使い」
状況の優位性を得られたことに、思わず真人は煽る。
それに返答せず玻座真は対応しようとして――
「あっ! ごっめーん!! どうする、じゃなくて……どうした? でした!!」
ブスリ、と玻座真の腹部に何かが刺さった。
視線を少し下げると二体の刃とはまた別の刃物が突き刺さっており……その刃は真人の腹部を貫通して伸びている。
領域展延で無為転変を阻害している以上、この刃は左右にいる人造人間と同じで、先に用意していた刃。つまり……真人の後ろにもう一体、改造人間がいるのだろう。
基本的な攻撃が効かない真人だからこそ、自分ごと相手を突き刺すと言う手法がとれたのだろう。
ごぷり、と口から血が零れる。
反転術式があるとは言え、突き刺さったままなのは極めて不味い。
何より……この刃は、玻座真が逃げられないようにするための縫い針である。
「で? で!? それでどうするの!?」
嘲笑と共に煽る真人に返答する余裕もなく、次の対応を求められる。
残る二体の小人が刃を構え、左右から迫ってくる。さしずめハサミのように、玻座真の腹部をバッサリと切断するつもりなのだろう。
それを見て、覚悟を決める。
すぅ、と息を吸い、
「うぉ?」
両足の力を抜き、背中から倒れる。
引っ張られる真人が思わず間抜けな声を出すが、それに構わず同様に踏ん張っていた力が抜けてしまった真人を下から右足を振り上げ、胸を蹴る。
刃で縫われているため蹴ってもそこまで距離は広がらないが、それでも欲しい距離は得られた。
迫る左右の小人。彼らの目標が腹部から首に変わりながら迫るのを視界の端にやりながら、真人の手首を離し、それから片手印を作る。
(――まっず)
それを見た真人は何が起きるのか察し、自分から距離を離す。
真人が下がることにより後ろにいた小人も一緒に距離を離してしまい、玻座真の腹部から刃が抜けるが、もはや両方ともそんなこと構っていられない。
「『絶界』」
本日二度目の、拒絶の結界。
焼き切れた生得術式が回復し、極めて殺傷力が高い術を展開。
悠仁の肉体を乗っ取っていた宿儺の時とは違い、極めて有害かつ呪霊である真人に対して遠慮はしない。
黒い結界に触れた先から小人たちは塵へと解けていき、消滅していく。
強硬な小さい“帳”の中、きっとこの空間程度なら黒い結界で圧迫出来るだろうことを真人は感じ取る。
そして残念ながら真人にはこの“帳”を突破出来るだけの破壊力も、玻座真の結界を抜ける術も持っていない。
「――【自閉円頓裹】」
だから、“帳”より上位の結界で壊すことにした。
“帳”の黒とはまた違う、漆黒の結界が真人を中心に広がる。
それによって玻座真は飲み込まれ、改造人間たちは“帳”と結界により押し潰されてしまう。
真人の領域である以上、真人が招いた存在は結界内に入ることになるが……すでに改造人間たちは真人の意識外にあったため、哀れにも挟まれて潰れてしまった。
「…………」
そして内部において、玻座真は結界の中を見渡すことにより、細かく情報を修得する。
薄暗い空間に、青白い巨大な人間の手が浮かんでいる。
いくつもの手が別の手と絡み合っており、生々しさと不気味さを感じさせる生得領域を見せている。
領域内に引きずり込まれた以上、必中必殺の攻撃を玻座真は受けるはずだが……。
「この程度なら、要らないな」
玻座真の足元に広がる薄光。
先の戦闘で見せた簡易領域よりもかなり広く、もはや真人の領域の足元は全て玻座真の薄光によって占められていた。
ただ結界を生み出すのが玻座真の特徴ではなく、見ただけでその結界の詳細を把握することも出来る。
そのことから真人の結界術に関する練度を看破し、対応の内容を決める。
「……?」
簡易領域を展開して自身の感覚がさらに伸びたことにより、真人に対して違和感を抱く。
それに対し真人の方も笑みの顔を保ちながらも、内心苦々しく思う。
(さっきの簡易領域とは様式が違うな。あっちのは近接戦闘用のか? もしくは生得術式が回復したからか。どちらにせよ大き過ぎるだろ。……領域自体で対応しないってことは、俺の領域を維持時間丸々と耐えきるつもりだな)
もしくはさっきの俺みたく、領域終了と同時の奇襲を警戒しているのか。どちらにせよその自信に見合うだけの耐久度を持っているのだろう。
だが、気にするべきところは簡易領域の内容ではなく……簡易領域を使っているところだった。
「『結』――『滅』」
三重の結界が真人を囲う。
玻座真が片手印を振った瞬間、結界は圧縮され……真人は消滅した。
◆◆◆
本家『結界師』は
すなわち対呪霊特化の結界術を1から組み上げ、縛りなども含めて特級にも効くレベルのダメージを出せる結界を作れるようになっていた。
その上、真人の全身を囲っての圧殺であるため、魂云々の不死性ごと潰している。魂への攻撃以外で祓うには、真人の呪力が尽きるまで攻撃するか、あるいは真人の全身を消し飛ばす一撃が必要だ。
今回は後者の攻撃として、真人を一撃で倒せたとしてもそこまで違和感がないが……。
「…………やられた」
真人のような特殊能力に偏った呪霊である以上、そこまで本体強度は高くないと考えていたため、『絶界』の使用には至らなかった。実際、倒せたには倒せたが、異常事態を理解する。
「領域発動と同時に分裂したか」
3対7ぐらいの割合で分裂して、本体は領域発動と同時に逃走したのだろう。3割は領域を維持出来る存在体の割合であり、多分それ以下だったら領域を維持できなかったはずだ。
結界への理解度から真人が何をしたのか読み取っていく。
玻座真もやり方は全く違うが、領域を維持しながらも結界の外に出ると言う裏技を使えるため、何が起こったのかの状況把握が早かった。
「…………」
だからこそ、自身の中で嫌な感覚が滲み出る。ここまで結界術の練度が深い存在だったのだろうか、と。
七海氏の報告によると、成長速度が速い様子が見受けられたとのこと。
自分との戦いの中で結界術への
自身が成長させてしまったのではないか。そう言う一抹の不安が浮かぶが、今は目を瞑る。
「……他は、どうなってるんだ」
探査用の結界を広げ、改めて渋谷の状況を確認する。
狗巻の居場所、逃走した真人の居場所、目が覚めた虎杖の居場所、西から来てくれたらしい東堂たちの居場所、パンダや日下部さんたちの居場所、そして重傷者たちの居場所。
リストにいたはずの冥冥さんが見つからないので、結界の範囲外にまで行ったか
「……?」
その中に加茂と同じような呪力を持っている存在を認知する。
どうやらしゃがみこんでいるらしく、動いている様子はない。怪我はしているようだが、それが原因で動いていないかはわからない。
見知った加茂憲紀とは差異があるため、加茂家の人間だろうか。だが加茂家の人間がメンバーの中にいただろうか、と首を傾げる。
どちらにせよ動いてはいないが、動けないほどの重傷を負っている様子はないので後回しにする。
「伏黒連れてって……釘崎や新田と合流。重傷者を頼むか」
五条先生を封印したとされる下手人の呪詛師が探知に入らない。
想定していたことだが、向こうも高位の結界使いとして探知から逃れている様子だ。
黒姫がいたらな、と思いつつも今は手元にいないため、贅沢を言うことが出来ない。
「……一級以上がいるな」
時間もないので動き始め、呪詛師が封じられている玉を拾い気絶している伏黒を背負いながら、釘崎が歩いている方へ向かう。
その間も探知結界を走らせており、その中に知らぬ呪力を持つ術師が入った。
敵側だろうな、と思いながら合流を急ぐ。
玻座真護良の三種の領域。
基本的に内外両方とも硬い、広い、展開が早いのやりたい放題であるが、そもそも玻座真護良の性質だと上級者相手には領域頼りの戦いになってしまう。
絶界も出力の問題で防御力に限界があり、某四大特級呪霊の中だと漏瑚とは極めて相性が悪く、先んじて羂索に領域勝負してはならないと情報を与えられている場合、惨敗する危険性すらある。
・【封身淵祇】:特に内容を付けていない術式を付与された領域。相手の領域との押し合いに強く、呪術を中和・結界を利用した封印だけを目的に組み上げられた術式であり、割と燃費は良いが領域である以上、生得術式の焼き切れは発生する。手加減もしやすい術式のため、基本的にこれを使う。
領域を使えるほどの高位の術師ほど罠にはまりやすく、相手の領域を押し合いで潰し、術式の焼き切れ→何も出来ない術師を封印する、と言う戦法を玻座真は好んで使う。
・【独理隠望】:『絶界』を付与した必中必殺の領域。普通に強いが上記の領域よりも燃費は悪い上に必殺であるため、あまり使いたがらない。
・【真界辿生】:『真界』を付与した最終奥義。結界内にいる存在全てを初期化する。上記の【独理隠望】がダメージ計算式の必中必殺であるのであれば、【真界辿生】はレベルを0に戻す術式。問題は玻座真の『真界』は不完全なもののため、使うと自身も消滅の対象に入ってしまう。文字通り最終手段。
・【????】:完成度20%の技。侵食領域展開。こちらは上記のやつと違い、ちゃんと完成させる予定。さすがに上手く出来るとは限らない上に、真人相手だとそこまで旨味がないためやらなかった。
次回は9月1日22時30分