呪術世界の結界術師   作:ペンギンくん

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※改めて、今回編コピペが暴走して文章が重複していたので修正し再投稿しました。多分これで大丈夫なはず……。感想とか送ってくれた人、申し訳ない。詫びとしてもう1話、今週中に出します。


5.渋谷駅北口 -弐- 

 傷心状態から立ち直ったとは言え、虎杖悠仁の調子は万全とは言えない。肉体は宿儺に乗っ取られた際に反転術式によって怪我は完治し、何より渋谷で戦っていた時に消費した呪力は充填されている。だが精神は過去最悪であり、精神的な不調は肉体的な不調に繋がる。

 対峙する真人の調子は虎杖と釘崎は知らないが、それなりに悪い。

 有利な状態で奇襲したと言うのに玻座真護良に反撃され、結果的に3割ほど自身のHPを削られている。その上、領域も使ったことにより残量呪力が多いとは言えない。玻座真との戦闘からそれなりに時間が経ち、かつ他の呪霊たちとは違って呪力の自己補完が出来るとは言え、上振れに見積もって5割ぐらいが限度である。

 

「多重魂――幾魂異性体!」

 

 だからと言って、本人たちは戦わないと言う選択肢を持たない。

 口から大量の小型化した改造人間を取り出し、それを組み合わせる。

 拒絶反応が薄い魂同士を組み合わせ、2体の特殊な改造人間を作り出す。

 

「釘崎! コイツ等普通のやつとは違う!」

 

 渋谷に来てから高専側の呪術師たちは多くの改造人間と戦ってきた。

 だが他の術師たちとは違い、虎杖は前回真人の悪意を浴びながら戦った。その経験則から直感的に普遍的な改造人間とは違うことを察する。

 一体は虎杖に殴り掛かり、もう一体は虎杖の横を駆け抜け釘崎の元へ向かう。

 迎撃して素早く釘崎のところに向かおうと考え左腕で改造人間の拳を防ぐが、

 

「がっ、がぁ!?」

 

 想定以上の威力を食らい、思わず吹き飛ばされる。

 その光景を見て思った以上に不味そうだと考えた釘崎は後退しながら四本釘を取り出し、頭と胴と右足に向けて投げる。

 致命的な部位二ヶ所と足止め用の場所。

 近接戦闘が出来ないわけではないが、さすがに虎杖が苦戦している様子を見てまともに戦わないことにした釘崎であるが、改造人間は軽快なフットワークでその釘たちを避ける。

 だが、避けたはずなのに脇腹に一本の釘が刺さった。

 

「芻霊呪法――“(かんざし)”」

 

 最初の三本は当たればラッキー程度の視線誘導用。

 本命の釘が当たり釘崎の基本攻撃とも言える術式が発動され、呪力が爆ぜる。

 そして第二射を放とうと釘を構えるが、その動きを止める。

 死体だ。

 たった一度の攻撃を受けただけで強力なはずの改造人間は横たわり沈黙してた。

 本当はそこまで強くないのか? そう一瞬考えるが、未だに虎杖が手こずっているを見て理解する。

 

「虎杖! コイツら攻撃力に反して打たれ弱いぞ!」

(バレたか。ん~想定内っちゃ想定内だけど、どうしよっか)

 

 釘崎の言葉を聞き強力な攻撃を当てることよりも、とりあえず攻撃を当てる方向に虎杖が変えるのを見ながら真人はどう動くか考える。

 今の動きや術式から真人の中で釘崎は格下の認定はされた。少なくとも虎杖よりは脅威には思えないし、七海建人(七三術師)よりかは強そうには見えない。

 だが汎用性の高そうな術式であることから改造人間はあまり戦力になりそうにない。

 格下ではあるが……与幸吉(メカ丸)のような件もある。

 油断しなければ圧勝出来るだろうが、逆に言えば油断したら祓われるとは言わずとも痛い目は見るかもしれない。

 そしてこの場には真人にダメージを与えられる虎杖の存在がある。

 虎杖と七三術師の連携の時と同じように痛い目が、致命傷に繋がる可能性がある。

 

(釘なんて使っている以上、当然だけど残弾の概念はあるハズ。だけどここに来るまでに使っていたことを踏まえたとしても、俺の改造人間のストック数よりかはさすがに多いだろうな)

 

 使った後に拾うことも考えると、釘の残弾はかなりのモノになるはず。

 前衛のダメージ担当の虎杖、後衛の露払い担当の釘崎。

 釘女の精神性は不明だが、少なくとも虎杖よりかはナヨナヨしている様子は見られない。一般的な呪術師に見えることから、改造人間を使った精神ダメージは期待出来ないだろう。

 デカくて硬い改造人間を作る? 釘と言う形状から貫通性能が高そう。

 滅茶苦茶素早い改造人間を作る? アリっちゃアリだが、それで倒せるかと言うと微妙。

 大量に改造人間を大量に放出して対処能力を削る? これはアリ。

 

「ンンン――――オェエエエ!!」

 

 小型化して体内に保管していた改造人間を大量に吐き出す。

 それに『無為転変』を発動し、普遍型の改造人間に変化させる。

 その数、46体。

 その全てが釘崎の方へと向かう。

 

「釘崎!!」

「わかってるっつーの!!」

 

 幾魂異性体を倒したが、尋常ではない数に虎杖が思わず真人の方ではなく釘崎の方へ向かおうとする。

 それに応えながら釘崎はポケットに手を突っ込み、雑に大量の釘を掴み、それをばら撒く。

 そして再びポケットから釘を取り出し、改造人間たちの頭上へ放り投げる。

 

「“簪”!!」

 

 上に放った釘から呪力が迸り前に飛び出てきた改造人間を倒し……さらに下にばら撒かれた釘が反動で尖端部分を上に向かせる。

 

「もういっちょ! “簪”!!」

 

 呪力クソもったいねぇ! と思いながら大量の釘を対象に、それも連続で術式を発動する。

 改造人間たちにばら撒いた最初の釘からも呪力が突き刺さる。

 そして呪霊と違い、改造人間は実体がある。

 

「雑に出し過ぎたんじゃない? ほら、渋滞出来てるわよ!!」

 

 倒れた改造人間たちによって後ろにいた大群は突っかかってしまう。

 その間に釘崎はさらに退がり、虎杖は壁を走って傍に向かう。

 虎杖の心情から改造人間と言えど彼らを攻撃することは出来ても可能であれば踏むことは出来ず、さらに真人が改造人間たちに罠を仕込んでいてもおかしくないため、壁走りで近づく。

 案の定(・・・)、真人の仕掛けが発動する。

 

「……っ!!」

 

 渋滞により後方にいた改造人間たちの姿が変わり、槍のような姿となり虎杖へ射出される。

 打ち落とそうと拳を振るうが、槍の先端が枝分かれして縄の形に変化する。

 攻め気が見えない徹底的な分断工作に虎杖は顔をしかめる。

 基本的に真人はドンドン攻めるタイプであるが、思考は柔軟でありしっかりと引き際は見極めており、なおかつ狡猾である。

 基本的に直前まで執着していた物事に対しても必要であれば投げ捨てられる精神を持っている。例外として宿敵である虎杖悠仁に対しては延々と執着しているが、そのやり方に対しても肉体(からだ)が傷付き辛いのであれば精神(こころ)を抉ることにする、など自身のやり方を変えることに関しては特に何か思うことはない。

 最終的にやりたいことさえやれれば良い、と言う気質を真人は持っている。

 故に、戦略的にも……そして趣味的にも、虎杖がより傷付くだろう野薔薇の方を優先する。

 

「――んな狙いバレバレなんだよ! 脳もスカスカか!!」

 

 “簪”。

 釘が5本虎杖の方へ向かい、縄状に変化した改造人間たちをまとめて先端に引っ掛けて明後日の方へ飛んでいき、壁に縫い付ける。

 だが、その動きは目の前にいた改造人間から目を離す行為である。

 倒れた改造人間の口からソイツは出てきた。

 

「なら、お前の脳もスカスカにしてやろォかァ!!」

 

 自身の肉体を紙のようにペラペラにしていた真人が、両手を突き出して釘崎に迫る。 

 それに対して釘崎は……凶悪な笑みを返した。

 

「聞こえなかったか? バレバレなんだよ、お前の狙い」

 

 釘を投げた方とは逆の、槌を持っている手。

 この瞬間を待ち望み、そちらに1本だけ釘を隠し持っていた。それを真人の額に向けて鋭く投げる。

 確かに攻撃を受ければ仰け反り、その間に虎杖がこちらに跳んでくるかもしれない。

 ならそれよりも先に目の前の女を殺す。いや、改造して虎杖にぶつけるのもありだ。

 そう考えながら目の前の女を無為転変で冒すために手を伸ばし、

 

「どうせ、自分には虎杖の攻撃以外は関係ないって思ってんだろ」

 

 釘崎の声を耳が拾う。その言葉が酷く不吉に聞こえた。

 ブスリと真人の額に釘が深く刺さり、それに向けて思いっきり槌を振り下ろす。

 刹那、真人はそれを見た。

 それは見慣れた表情だ。

 まるで獲物に今か今かと食らい付こうとしつつ、その味を思い浮かべにやけてしまったような、笑み。

 嗜虐心が多分に含んだその笑みは……真人がよく浮かべるもの。

 

「“共鳴り”」

 

 そして槌に打たれ、釘がさらに深く食い込んだ瞬間……釘崎の呪力が真人の中で爆ぜた。

 

「――……は?」

 

 一瞬、何が起こったのかわからなかった。

 奇妙な感覚が自身の中で生まれ思わず動きを止めてしまったが、すぐにそれへの“名前”がわかる。

 

「あ……? がッ、あゥがぁあああアアアア!?」

 

 それは痛み。

 内側から巨大な釘が胸を突き破ってきたかのように、呪力が真人の中身を荒らす。

 まずい。

 まずいまずいまずい。

 ダメージ量が大きいが、それよりも問題なのは余韻だ。

 術式の展開は終わったのに、その痛みはまだ残っている。その痛みは動きに精細さを欠かすものである。

 真人の特性と実力なら、その程度の動作の不調は戦闘に支障を来すものではない。この痛みを抱えたまま目の前の女を殺せるだろう。

 だが――その不調を見逃すわけがない男が、ここにはいる。

 

「真人ぉぉおおおおおお!!!」

 

 壁を砕く勢いで蹴り、真人に目掛けて跳ぶ。

 その怒りの対象は対処しようと防御の姿勢を取ろうとするが、

 

――【黒閃】!!

 

 姿を防御用のものに変形出来ず、さらには強化のための呪力は乱れている。

 ただ腕を盾にすることしか出来ないその姿は、憐れすらも感じるだろう。

 同情なんてする価値もない。ゆえに、その拳を黒い火花と共に振り抜く。

 ぐしゃり、と言う感覚と共に真人が構えた両腕は吹き飛び、さらにその勢いのまま壁に叩きつけられる。

 それだけで終わらず、己も壁に突き進む勢いで接近し、鳩尾を殴る。

 さらにその苦しむ顔面を殴る……が、

 

「っ!」

 

 口から改造人間を出し、それを盾にした。

 さらにそれは大きく広がり虎杖を包み込もうとしてくる。

 

「くそっ!!」

 

 望まぬ後退を強いられ、思わず舌打ちが漏れる。

 

「虎杖、そいつはそのままアンタがやれ!! 私がこいつ等を引き付ける!!」

 

 釘崎の声が背後からする。

 一瞥すると、釘崎が先程とは違った形に変わっている改造人間たちの対処をしている。

 口から出て奇襲する際に無為転変で再変形させていたのか、俊敏性を意識した四つ足の獣型が多くなっている。

 元々は素早い虎杖への対処法の一環としての改造人間だったのだろうが、近接戦闘能力がそこまで高いと言えない釘崎も苦しめる結果となっている。

 それでも彼女は泣きごとを言わず適材適所として改造人間を自身が担当することにした。

 

「……っ!」

 

 サバサバとした性格であり、虎杖よりも呪術師としての精神は出来上がっている釘崎であるが、改造されているとは言え多くの人間を殺めるのは精神的な負担にならないはずがない。いや、それ以前に30体以上もいる改造人間と戦うのは厳しいはずだ。

 だが、だからと言って釘崎の方に向かい彼女と共に改造人間を倒しに行くのは……戦況的にも彼女の意志的にも良くない選択だ。

 歯噛みしながら虎杖は真人に集中する。

 

   ◆◆◆

 

 色を出し過ぎた。

 そう歯噛みし自分の未熟さを反省する。

 八十八橋の受肉体との戦闘。その時に発生させられた『黒閃』。

 真人を殴る直前まではその黒閃を打てると言う確信をどこか抱いていたが、殴る瞬間に霧散してしまった。

 あの呪霊は自身を狙ってくる。あのタイミングで奇襲を仕掛けてくる。そして自分ならダメージを受けないだろうと呑気に思い攻撃を無抵抗(ノーガード)で受けるだろう。

 全て自身が考えた通りの動きをしてくれ、思わず笑ってしまった。

 それが、雑念になった。

 

「“共鳴り”」

 

 一体の改造人間に釘を飛ばし、芻霊呪法の片割れである『共鳴り』を発動する。

 特級呪霊である真人相手だと改造人間に残った呪力の残穢を元に術式を使ってもそこまでダメージにはならないが、同じ改造人間たちには真人の呪力を伝ってダメージが入っていく。

 

「ちっ」

 

 だが、ある程度人の形を保っている相手ならともかく、人の形から外れた改造人間には効き目が薄い。

 元々共鳴りは相手の一部に藁人形を押し当てながら、呪力と共に釘打ちをしてダメージを伝達させる術式である。

 藁人形を使わなくとも相手が人型と言う解釈で真人や改造人間を術式対象に絡めとっている。

 しかし元々が人間とは言え、人形(ヒトガタ)から外れすぎると術式対象からも外れるらしい。

 そのことに歯噛みしていると勢いよくソレ(・・)が飛んでくる。軽く動くことによって避けるとドサリ、と言う音が真横から聞こえる。

 

(クソっ、獣も鬱陶しいけど……さっきから死体を投げてくるやつがいるのが面倒臭い!!)

 

 死んだ改造人間だ。

 改造人間は呪霊ではないので殺しても死体は残る。

 虎杖相手ならば自分たちの接近戦の邪魔になるだけなので真人はそんな戦略を取らないが、虎杖以外の……それも近接戦闘能力が低い釘崎だからこそ使われている手だ。

 これが近接戦闘能力の高い七海や真希、複数の手札で対応出来る伏黒だったらこのような稚拙な手を使われなかったはずだ。

 無論、対応出来る人が来ていたら別の手段で分断していただろうが、釘崎への対応はこの程度(・・・・)で済まされている。

 迫ってくる改造人間たちの後方に腕が大型化した改造人間が立っている。そいつは前線に来ず、置いていかれる死体を拾っては釘崎の方に投げてくる。

 つまり、真人に次の手札を使わせられず、ただ死体の再利用程度の対応で自分は消耗させられているのだ。

 

「“簪”!!」

 

 釘を撃ち出して巨体に攻撃しようとするが、守るようにプログラムされているようで獣型の攻撃が加速するか、もしくはまた別の盾用の人外型が軌道に入ってくる。

 問題はただこちらが消耗するだけではなく、死体が足場を占領してきていることだ。

 ただでさえ近接戦闘に手間が掛かっているのに、足場が悪いと体勢を崩す危険性がある。だが退()ける余裕なんてなく、ただただ後退させられる。

 

(このままだと虎杖の方まで下げられる――!)

 

 そうなれば真人は再び大量の改造人間を展開し、挟み撃ちの形にしてくるだろう。両方から迫る改造人間たちを対処している合間に真人は再び潜み、今度こそ釘崎を殺しに掛かってくるはずだ。

 いや、殺しに掛かってこなくても「もしかして今、殺しに掛かってくるんじゃないか?」と言う心理に駆られ、さらに精神が消耗していくことになるだろう。……特に釘崎本人よりも虎杖は神経を尖らせてしまうだろう。

 その虎杖の方を一瞥すると、彼の方も真人が防御態勢に移っており、思うようにダメージを与えられていない。

 共鳴りを決めてからは真人も釘崎を戦力と認め、虎杖共々消耗戦を強いられている。

 釘を打ち飛ばして改造人間に攻撃しているが、使った釘はその肉塊に呑み込まれるか蹄のような足で踏み潰されて折られている。

 

(一手! もう一手何かあれば……!!)

 

 思わず奥歯を噛み締めながらそんなことを考えてしまう。

 いつもだったら弱気だと思ってしまうような思考。だが今は本当に喉から手が出そうなほど、消耗を強いられている。

 今はまだ十全に戦える。だがこのままだとジリ貧だ。

 顔を(しか)めながら呪力を込めた槌で改造人間を殴る。

 釘の節約もあるが、素早く近づいてくる獣型相手だと撃った釘が当たらないのだ。どれだけ不利でも接近戦で対応しなくてはいけない。

 「誰でも良いから来てくんないかなぁ!?」と日下部やパンダ、狗巻のことを頭に浮かべながら対処していると……また死体が降ってきた。

 それを少し下がって避けるとドゴンッ、と言う音が足元からした。

 

(――ドゴン?)

 

 耳が拾った小さな情報。

 それを脳の端が重要視し、思考が加速して今の意味を分析するために頭が回る。

 先程から死体が降ってきた際にはドサリと重いがそこまで硬くないものが落ちたような音がしていた。だが、今のは重く硬いものが落ちたような音であった。

 ちょっとした変化。大きな意味はないのかもしれない。そんな小さなことにまで対応していたらもっと消耗してしまうかもしれない。

 だが、釘崎野薔薇は状況の変化を見逃さなかった。

 

「――――っ」

 

 後ろに跳びながら呪力を多く注いだ腕で自身を守るようにする。

 刹那、その判断が正しかったと理解する。

 改造人間の遺体が膨張を始め、中からウニのような鋭い棘の塊が突き破ってきた。

 その棘に体を突き刺されるが、それ以上に不味いのは破裂した遺体だ。

 今までとは違い高い硬度のそれは、勢いよく破裂したことにより破片が釘崎に向けて飛び散ってくる。

 榴弾や跳躍地雷と言うものがある。爆発によって鉄片や鉄球を飛散させ対象を傷付けると言うコンセプトの対人兵器。

 腕と足、さらには頬に裂傷が作られる。ただでさえ苦く歪んでいた表情に、赤色が付け加えられる。

 

()っつ……ああ、もう。不味いな」

 

 激痛に思わず体が止まりそうになりながらも、向かってくる改造人間を対処する。

 深い傷からは血が抜けていく。それにより顔が白くなっていくことを感覚的に理解しながら、状況の悪さも理解する。

 獣型や巨腕型、そして遺体に扮した爆弾型は虎杖と戦う前に仕込んだ改造のはずだ。時限式や衝撃式で改造の効果が発揮されるタイプだろうが、あとどのくらい仕掛けられているか釘崎にはわからない。

 そして爆弾型が今後も出てくるとなると、今まで以上に大きく後ろに下がって回避しなくてはならない。

 

(こんなタイミングまで爆弾型を使って来なかったのは、遺体への対応が雑になる頃合いを見計らっていたのか。それとも体力と呪力が消耗してきた辺りを見計らったのか。……つーかあいつ、私を殺すこと前提でこんな再改造してたのか)

 

 今は釘崎が対処しているが、そもそも真人が改造したのは奇襲して釘崎を殺そうとした時だ。

 ある程度回避される可能性は考えていただろうが、あの呪霊の性格を考えると釘崎を殺せる自信を持ち、それを前提とした行動をするはずだ。

 つまりあの再度術式を施された改造人間たちは、本来なら虎杖にぶつける予定のものだったはずだ。

 そのことを踏まえると、真人からしたら虎杖に対して注意を散らせるための獣型や爆弾型だったのかもしれない。彼なら上手く対処するだろうし、何ならそこまでダメージを受けなかっただろう。

 無茶を言って危険な場所に来たのに、これではただ足を引っ張っているだけになってしまう。

 

(また黒閃(アレ)を出せれば……いや、今の私だと出せる感じがしねぇ)

 

 先程は出せると感じた、黒閃。

 だが八十八橋の受肉体との戦闘の時に覚えたものは、今は遠く感じている。

 あの時とは状態(かんかく)が違い過ぎる。痛みはともかく、いま自分は焦りに焦っている。

 そんな状態じゃ絶対に出せないし……そして何より出せるかわからない黒閃(アレ)に頼らないとこの状況を打破出来ない、なんて弱気になっている自分に腹が立つ。

 血塗れになった手を握りしめ自戒する。色々と考えすぎて、まるでいつもの自分じゃない思考をしていることに思わず自嘲する。

 

「でも――あの時のことを思い出したのは、悪くなかった」

 

 可愛い自分であり続けたい。だが呪術師である以上、難しい場面はあるだろう。

 それを捨てたくない。わかっている。

 だけど……それに拘って愚図るよりも、敵を倒し仲間の力になる姿の方が格好いいはずだ。

 

 

 

 

「あン?」

「……釘崎?」

 

 その光景は戦っていた虎杖と真人の視界の端に映った。

 傷だらけの左腕を掲げ、槌を持った右手を添えている。……いや、よく見ると右手の指には釘が挟まれている。4本の指でそれぞれ釘を2本ずつ、計6本挟んでいる。

 その釘を挟んだ右腕を縦に降ろし、自身の腕をさらに傷付ける。

 

「なんだアイツ」

「…………」

 

 異様な光景に思わず虎杖と真人は動きを止めて見入ってしまう。

 自棄になったのだろうかと真人は不思議そうな顔をするが、虎杖はその腕を見てあることを思い出す。

 それは八十八橋の受肉体との戦い。あの兄弟が発動した血の術式による、蝕爛腐術の毒。

 その傷はまるであの痛ましくも美しい薔薇の紋様にも似ており……そしてその次の展開も見えた。

 傷付いた腕に呪力を込めながら噛みついてきた獣型を殴り、さらに追い払うよう思いっきり腕を振るう。

 血が飛び散る。

 思いっきり腕を振った結果、釘崎の近くにいる改造人間たちに降りかかる。

 無論、そんなもの改造人間たちは気にせず、プログラムされた通り釘崎に襲い掛かろうとする。

 

「――――」

 

 それに対しての釘崎の答え。

 それは……自身の腕に釘を突き刺すと言う行為。

 いよいよ自棄になったか、と真人は戦闘を続行しようとしたところで……ふとあの女の術式を思い出す。

 真人に対しては魂への攻撃として機能した『共鳴り』。

 対象の肉体の一部や呪力の断片となる物に人形を元に、相手にダメージを加えると言うもの。

 すなわち、共振の術式。

 同質の存在を元に、同質の存在に繋がりを作る。

 

「行かせるか!!」

「チッ。……邪魔だ!!」

 

 何をしようとしているのか気づき舌打ちと共に駆け出そうするが、それよりも早く虎杖も釘崎が何をしようとしているか気づき、真人の前方を塞ぐ。

 そして当の釘崎は「あーあ。絶対にこれ、腕に後遺症(あと)が残るよなぁ」と内心思いつつ、

 

「芻霊呪法“共鳴り”……!!」

 

 自身の撒き散らした血を元に、改造人間たちへ自身の腕が感じている痛みを共に感じさせる。

 最大ではそこ、最低でも多少はダメージを与えてやる。

 …………そのつもり、だった。

 

「――ァ?」

 

 改めて。

 芻霊呪法において、血液と言うものは価値が低い位置にある。ましてや今回触媒として使ったのは自身の血液である。

 相手の一部を触媒にし、それを元に相手にダメージを伝えると言うコンセプトである以上、今回釘崎がやろうとしているのは術式として破綻しかねないものである。傍目から見れば詐欺師が自作自演によって金をせびろうとしているのと変わらない。

 

「がっ、ぐ……えっ、ぎぃ…………がぁ!! あ……あ……ああっ!!」

 

 この結果は想定外ではないが、想定以上の状態ではあった。

 何とか悲鳴を押し殺そうとするが、耐えられず口から漏れてしまう。

 腕が()げたのではないかと錯覚するほどの激痛に襲われる。

 いつもなら泣き言なんて言わないが、いくらなんでもこれは酷い。例えるなら麻酔無しで勢いよく歯を抜かれているような、一瞬の痛みの後に続く熱がこもった痛み。出血による不愉快感と火傷にも似た鈍痛。

 それが何箇所も襲い掛かってきている。表面上では左腕に変化が無いことが不思議でしょうがない。

 

「ふ……ぐっ……」

 

 砕けそうになるほど奥歯を噛み締めて耐えながら、改造人間たちを見る。

 だが血が付着した改造人間たちは思ったよりもダメージを負っている様子はなく、ただ苦しそうに呻いているだけだ。

 

「くそ……割に合わねぇ……」

 

 死にそうなほどの激痛を感じている自分に対し、向こうは少し走ったら脇腹が痛くなってしまった……ぐらいの痛みのはずだ。

 今すぐにでも解除してこの痛みから解放されたい。いや、解除してもこの痛みは続くかもしれないが……それでも少しだけでも痛みが和らぐかもしれない。その可能性があるだけで解除したくなる。

 だが……解除しない。

 目的が虎杖の方に行かせないことだし、何より改造人間たちは無理やり肉体を変えられているためすでにショック死しているも同然らしい。つまり長期間の運用は不可。継続の小ダメージでも死ぬ可能性が高い。

 無為転変を持つ真人が己の体内に保管してストックしているのも、小型状態にしつつ死なないよう安定させるためのものだ。

 逃げ出したい。楽になりたい。

 そう言う考え方は甘えだと思うが、他人が思う分には勝手だ。

 

 ただ、釘崎野薔薇(わたし)はしない……いや、したくないと言う話なのだ。

 

「…………!…………っ!!」

「――――!!」

 

 誰かが叫んでいるような気がする。

 視界は涙で歪み、聴覚は痛みに引っ張られて機能していない。

 これから何が起こるのか、もうわからない。このまま何もわからず死んでしまうかもしれないが……それでも自分がすべきことだけは放棄しない。

 

 五感が閉じていく中、何かが弾けるような音だけが聞こえたような……気がした。

 

 

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