この今回起きた事件、仮に『トランクス事件』と言おうか……
この事件は俺のせいで起きた事件じゃない。
黒幕、そう、黒幕の仕業なんだ!
俺はクルミにやらないとネットに恥ずかしい映像を晒しあげるぞと脅されて仕方なくスティールを発動しただけで、俺に完全に非があったわけじゃないんだ!
確かに俺がスティールしなければ、千束が激しく動き回らなければ、こんなことにはならなかったが、それ以上にクルミが俺を煽ってスティールしろと言わなければこんなことにならなかったはずだったんだ。
だから……
「たきなさん! 俺は不服だ! どうして俺だけ土下座なんだ! 俺がやるんだったら千束とクルミもだろ! あと、この店を破壊したのは……」
「誰も正座してくださいとは言ってません。奪い取ってお腹に隠した私の銃とトランクス返してください! 話はそれからです」
「嫌だわ!? 銃まで返したら絶対殺す気で構えてくるじゃん! 誓えるか? 私はこのトランクスに誓って銃なしで話し合いに応じますって誓えるのか!」
「銃は脅しの道具ではないんです! ですが怒ってませんのでトランクスだけでも返してください!」
「銃使う気満々じゃねぇか!? やっ、激しい! ねじ込まないでっ!? トランクス返してくださいって言うんだったら俺の腹に突っ込んでるその手を一回抜こうか!」
そう、今の俺は背を丸め腹にトランクスと拳銃を隠し、土下座に近いポーズをしている。
たきなが店内で17発入りのマガジン2本を丸々撃ちきり、壁を穴だらけにしたのだが、3本目のマガジンを入れる直前の隙を突いてスティールをして拳銃を奪った俺の尽力によって人的被害なく今に至る。
どうにかこの状況を脱しないとと思ってるとさっきまで何か考えてる様子で黙りだった千束が「しょーがないなぁ! 私が何とかしちゃるわ!」みたいな感じでこっちに寄ってきてくれた。
た、助かった……!
今、千束を様付けして女神様として崇め奉って、アイスクリームを奉納したい気分だわ。
「ちょおっと失礼……」
「千束様! この話を聞かないたきなを何とかして……って何で俺の方に来るんですか!? っていやッッ!? 二人がかりで突っ込んじゃ駄目ぇええッッ!! お婿にいけなくなるからやめて!!」
「カズマならその料理で胃袋ガッチリ掴まえられるからだいじょーぶ……えーっとこれかなぁ?」
「セクハラしないでぇええッッ!? ソレ、俺のパンツだから!」
「鏡持ってきて自分の姿見せてやろうかぁん? 抵抗するから変なところ触っちゃったじゃん! あ! これだあ!! 獲ったどー!」
千束にあの狂犬対策の家宝を盗られてしまった……!
このままじゃその奥に潜ませていた弾なしの拳銃も奪われちまう!
と思っていたが追撃は来ない。
……一体どうしちまったんだと思って顔を上げて状況確認してみると、スンとした真顔の千束がトランクスを広げて持っていた。
「……」
「あ、あの、千束? 何かはいてないと想像を絶するほどスースーして落ち着かないので返してほしいのですが……」
「やっぱりか……」
「やっぱりって何です?」
「たきな、これ、ナニ?」
「何って何ですか? 下着ですが?」
「ぬぁんで男もんの下着はいてるのおおっ!? 」
「これが指定なのでは? というか、本当に返してください!」
「し、指定っ!? んな訳あるかぁい! こんな下着はゴミ箱の中へシュゥゥウウーーッッ!!」
「ああっ!? 何してるんですか!?」
「こっちのセリフじゃ! 先生! 話を聞かせてもらいましょうか!」
千束がカウンターを叩き、さながらドラマで取り調べを行う刑事のように店長に問い詰める始めた。
容疑者、もとい店長がその唐突な圧に驚き自供し始めたのを見て、俺から店長に意識の対象が変わったのに気づいた。
「指定とは言ってないぞ!? ただ店の服は支給するから下着だけ持参してくれと……」
「たきな、それ本当?」
「ええまあ……どんな下着が良いかわからなかったので」
「そっか……でもだからってなんでトランクスなの!?」
「好みを聞かれたからな」
「いやいや、自分の好みのパンツは聞いとらんでしょうが! どんなパンツにすればいいかって言われて真面目に答えるなんて! 純粋なたきななら何も思わずはいちゃうでしょうが!」
「べ、別に私のはいているパンツを言っただけではいてほしいと言ったわけでは……私が悪いのか!?」
「えっと……つまりどう言うことなのでしょうか?」
「たきなはトランクス禁止ってこと!」
「ええっ!?」
店長さんが千束に迫られてタジタジになってる。
たきなもたきなで千束にトランクスを捨てられ、事が飲み込めず目を回している。
というか、トランクス指定のお店って何だよ!?
「どうして驚いて……ってもしかして可愛いパンツ持ってないの!?」
「もちろんリコリスとしては可愛さを追求するより機能性重視の方が正解ですよね? それにこのトランクス、はいてみると通気性もよく結構開放的で……。……今はさらに解放的な気分です。まだ慣れませんが、慣れてくればこれはこれで……」
「な、ナニ言い出してんのたきなさん!? おい千束っ、たきなさんが新しい扉を解放する前にパンツはかせろッ!」
「いやいや、トランクスはかせたくないし……」
「たきなを銃乱射犯から危険な変態にジョブチェンジさせる気か!?」
「誰が危険な変態ですか!?」
「でもでも、たきなには可愛いパンツはいてもらいたいし……カスマからも言ってやってよ! さっきパンツを盗ったときにトランクスでどんだけ萎えたか、ほら言ってやったれ!」
「確かに色気はなかったが、それはそれでたきなさんっぽいって何言わせようとしてんの言わねえよ!? これ以上俺の評価下げて何したいの!?」
唯一この中で清楚担当なたきなさんは俺にとって貴重な心のオアシスだ!
たきなさんがダクネス化して残念美人になっちまったら癒しがなくなっちまって、奇天烈珍妙美人三人集が四人集になるなんて俺には堪えられない!
というか今さらりと侮辱の言葉が聞こえて来なかったか?
カスマって言ったこと、後悔させてやるッ!
「よしわかった! たきなさんのためにお前のパンツ剥いでやってトランクス代わりにはかせる。それで丸っと問題解決だあっ!」
「そ、それ私がノーパンになっちゃうから! ……あの、こんな酷いことしないよね? それしたら今度は事故じゃなくなるけど……」
「よく聞け! 俺はやるときはやる男、カズマさんだ。一度決めたことだ、たとえ国と敵対したとしてもやってやる!」
「ヒイ!? わ、わかった! 今日は! いや、新しいパンツ買うまではトランクスはいてもオッケイにするから! だからその気持ち悪くウネウネ指を動かすのは止めようか!」
俺の努力のかいがあってか、千束はたきなの手を掴み、更衣室の方へ連行していった。
もしかしてロッカーに替えの下着が入ってるのだろうか?
って言うか今俺がはいてるトランクスってたきなさんのなんじゃ?
……
……
……藪蛇だ、何も考えないようにしよう。
そんなことを思っていると更衣室から二人、疲れたような渋い顔をしている千束とさっきまで引けていた腰が元に戻ったたきなが出てきた。
「な、なあ? どうしてそんなにげっそりしてんだ千束は……」
「いや、想像以上にたきなのロッカーが機能性を重視した中身だったから明日の仕事は骨が折れるなぁって……」
「そ、そんなになるほどのロッカーって一体どうなってるんだ?」
「私的には全く問題は見当たらなかったんですが……」
「黒一色は大問題でしょうが!」
どうやらたきなの衣類は紅魔族琴線に触れそうなものばかりらしい。
黒といえば大人っぽい色だと思うが、トランクスじゃあ……な?
それにたきなさんはやっぱり大人っぽい色気も悪くはないと思うが、白とかの方がいいと思う。
アイドルプロデュースしたこの俺が言うんだから間違いない!
「まったくもう……明日は可愛さとはなんたるかを教えるから駅に12時集合ね! パンツ買いに行くぞ! ……あ、カズマは留守番ね」
「何勝手に予定決めて、俺をのけ者にしようとしてんの? そもそも女子のパンツ買いに同行するわけないだろ」
「いや、もしかしたらついてくる気満々なのかなって……」
「俺のことどういう目で見てるかはっきり言ってもらおうじゃないか!」
「たきな……言ったれ!」
「パンツ強盗」
「すみませんでした、調子乗りすぎました、俺が悪かったです、銃も返します、謝ります、これから態度を改めます。なので許してください」
俺の誠心誠意の土下座が炸裂した。
くそ、まさかクルミに言わせようとしてたのに俺が言う羽目になるとは……!
本当はクルミの挑発や千束の「超必殺 飛鳥文化アタック」(暴れないでくださいこんな狭い所で!)についても言及したいところだが、
異世界で命を何度も散らしてきた俺が命大事を信条にして生きてる言ってるんだ、命が一番大事だっていうことは間違いない!
……そこッ、命をホイホイ投げ捨てる奴が何言ってるんだとか言ってるんじゃない!
俺だって死にたくて死んでる訳じゃないんだ!
「……まあ、反省しているようですし、不運が重なってしまった結果とも言えるので今回は事故ということで許しましょう」
「おお! あ、ありがとうございますたきな先輩! ……あの、本当に許してくれるんですよね?」
「嘘は言いませんよ?」
「あの、ならどうしてこんなにも距離が空いてるんですかね?」
「距離感は……遠近法による気のせいです」
なるほどねぇ、遠近法かぁ……
いや、そんなわけないだろ!?
距離をおかれると怒られる以上に精神的に来るもんあるんでやめてください!
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そんなこんなありつつも無事に今日という日を生き延びることができた。
俺は命のありがたみに感謝しつつ冷蔵庫に入っていたどら焼きの元を焼いて、心安らぐ静かな癒やしの空間、喫茶店にてコーヒーをすすっていた。
「あ~。……流石はマスター、おいしいですね」
「それはよかった。人間、心にゆとりを持つことが大事だからな」
キッチンで食器を拭くのは店長。
普通の喫茶店なら普通の光景だが、騒がしい店員がいるこのリコリコにとっては珍しい。
銃撃戦があったというのに一切目を覚ますことはなかった、お酒で酔い潰れた肝が据わりすぎているミズキさんの寝息だけが聞こえてくる。
そんな喫茶リコリコは壁はボロボロ、発砲の跡がそこら中にあるせいで後処理のクリーナーさんが必須な状況だ。
……癒やしが一切ない殺伐とした惨状を目の当たりにしたらミズキさん、おったまげるんだろうな。
「……どうだ、落ち着いたか?」
「まあ、だいぶ」
「で、どうする?」
「ええっと、修理費用をDAから頼もうにも今月分はもう地下に作った銃撃練習場に費やしたせいでないんでしたっけ?」
「ああ」
「そうするとここでのバイトだけが生命線の俺は喫茶店としての仕事ができないので給料が出ないんですよね?」
「そうなるな」
スゥー……マジで俺の幸運値、機能してくれ!?
何だってぇ? 性格無慈悲な34発の銃弾を運だけで全部避けられただァ?
じゃあ幸運が舞い込んできた分、不幸になってバランス取らなくっちゃあなッ!!
次回の話はどっちかいいですか?(~11/11 9:00)
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アラン機関をお手伝いするカズマ
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工事バイト(お店の修理)するカズマ