「ぬぅおおおおおおおッッ!! 頑張れ俺の鍛冶スキル!!」
トランクス事件の翌日。
喫茶リコリコは臨時休業中で俺しかいない店内は静か……じゃない。
主に電動工具の音が鳴り響いていて、まあまあ五月蠅いのだが、そこにドアが開く音が混じる。
もしかして店長か誰かを助っ人としてが手配してくれたんじゃないかと思って期待の眼差しをドアに向けると。
「やっほー、工事の人お疲れ様でぇーす! 差し入れ持ってきましたよー……ってうっわ、ホコリっぽ!?」
「何だ? その声、千束?」
「おうおう! もしかしてカズマ?」
そこにはレジ袋いっぱいにエナジードリンクとアイスを入れてきた千束が目をキョトンとして突っ立っていた。
差し入れはありがたいんだが、流石にその量は多すぎる気がするっていうのと、圧倒的人手不足だからお手伝いの人が来てくれた方が嬉しかった……が、アクアみたいに空気を読めない俺じゃない。
というかこの差し入れを逃したらエネルギー不足で死にそうだ。
媚びへつらいまではしないがありがたく頂戴するため言葉を選ぶ。
「差し入れ持ってきてくれたのか? 冷蔵庫の方に入れてくれると助かる!」
「ああ、うん、差し入れなんだけど……アンタは何やってんの……?」
「労働基準法が適応されないブラックな仕事」
「そうじゃなくて! どうしてカズマが工事の仕事してんのさ!?」
「店長から聞いてないのか? 地下に作った射撃練習施設のせいで金がないから、工事のバイト経験アリ、かつ、鍛冶ができる俺が人件費削減のために現場にかり出されたって訳」
「へー、お疲れちゃん。……思ったんだけどカズマって料理もできるし壁の修理もできるし多芸を極めてるよね? 何目指してんの?」
「自堕落な生活」
「うわぉ……」
千束が「こいつ、夏の暑さで頭バグっちゃったのかぁ? ニート三昧したいって言ったのに手に職つけて……あべこべな言動してるな?」って顔してる。
俺だって何でこんなことになったのかわからない。
だってそもそも異世界に転生して、生活水準を上げるためにスキル取得して、なんやかんやあって魔王討伐して、現代に帰って来て、暗殺組織に配属されて……こんな波瀾万丈行き当たりばったりな人生、この世で誰一人体験してないだろ!?
「えっと、じゃあ冷蔵庫にジュース入れといたから」
「ほーい、サンキューってアイスは?」
「め、目敏いな!? 奥の方に忍ばせておいたのに普通気づくか!?」
「今の俺はカロリーに飢えてるんだ、餓死しないように一個か二個くらいおいていってくれ」
「餓死って大げさな……」
「事実を言っただけだが?」
「……どゆこと?」
……そろそろキリもいいし休憩ついでに説明してやるか!
そう思って千束のレジ袋にスティールをかけ、望みのアイスクリーム(一番値段が高いやつ)を引き当てる。
何も考えずにスティールすると問答無用で下着を盗っちまうスキル(カズマだけ)だが、ちゃんと欲しいものを意識すればほとんど100%ゲットできるのはほんと便利だよなぁ。
「何か日本に帰ってきたときに国籍消されて存在を抹消されてたんだよ」
「カズマ……とうとう重罪に手を染めて存在を偽造して……」
「そんなことしてねぇよ! とにかく! ここでのバイト以外できない俺は職を失ったも同然だから、急いでここを復旧させないと食事もできずに死ぬ……このアイスうんっま!?」
「ほえー……じゃあ今カズマはニートってことか! ってかいつの間にアイスとった!? それ私が食べたくて買ったやつ!!」
「今仕事してるからニートじゃねぇよ!? ……無給だけど」
「やっぱニートじゃん! 私のアイス返せよぉおニート野郎!」
「これくらい許せよ! というか真面目にそろそろ俺の生活費が底をつく! 唯一の生命線この店で働けないってなっちまったらまたあの職場に逆戻りなんだ!」
「……ちゃんとカズマがアイス作ってくれるなら、まあ、許す! というかここの前の職業って……?」
トッピング用に作っただけのアイスクリームだったんだが、想像以上に虜にしてしまったらしい。
……罪作りな男だぜ、俺ってやつは!
ちなみに前職についただが……
思い出すだけでも寒気がするほどの地獄だ。
○ンパンマンだって一日腕立て伏せ100回、上体起こし100回、スクワット100回、ランニング10kmしたらハゲて世界最強になったんだ!
それの倍以上やらされるあの地獄には戻りたくない!
リリベルは嫌だ……リリベルは嫌だ……!!
脳にすり込まれた恐怖で体が震えた来たぜ……
「そ、そんなになるほど地獄って……!?」
「年中無給無休ムキュー、命の保証もない地獄。救いだったのは寮があって、ある程度食事と睡眠が保証されてたくらいだ」
「ブラック職場過ぎる! というか寮という名の監禁部屋じゃないのソレ!? わ、わかった、これ以上深く追求しないから! だから泣きそうな顔しないで! ほらよーしよしよし!」
べ、別に泣いてねぇし!
そんなことを言う前に千束が俺を抱き寄せ頭や背中を撫でてくれる。
何だろう、この懐かしい暖かさ、千束から母性を感じる……
異性としてあまり意識しないからだろうか、それともしょっちゅう抱きつかれて馴れてしまったせいか、でかくて柔らかい感触がつらかった思い出の日々を消し去り、安心感を覚える。
……はっ!?
だ、駄目だ、これは人を駄目にするクッションだ!
早く脱出しないと餓死して死んでしまうのになんて巧妙なトラップ!
こたつと同じで人類誰もこの魔性の魅力にはあらがえない!
だが俺は鋼の精神力を以て魔王を倒した男。
この大きな二つのクッションから一回でも逃れられれば勝機がある!
そう思って俺は下の方に脱出を試みることにした。
……そこには先ほどより少し固めながらもハリと柔らかさが同時に存在する第二のクッションが。
クソッ、ふとももかっ!?
まさか二段構えのトラップまで仕組んでやがるとは、やるな!
こんなの自力で脱出することなんて不可能じゃないか、そうに違いない!
こうして先ほどまで魔性の母性に必死に抗っていた俺の鋼の精神はここで屈してしまった。
「ママァー……」
「誰がママじゃい同世代! ……そう言えばその、他の人たちは?」
「いないよ?」
「丁度お昼直前だから食べに行ってるのかぁ……。じゃあその人たちが戻ってきたらよろしく伝えておいて! ってことでそろそろ足が痺れてきたからどいてもらってもいい? いや、こっちから引き寄せたんだけどさぁ……さすがにこの状態を赤の他人に見られるのはちょっと恥ずかしいっていうか……」
「お構いなく。それに伝える相手はいない」
「構うわッ! ……ってうん? 伝える相手がいないって何? もしかしてカズマ一人?」
「うん、そう」
「一人でお店、ここまで直したの? にしてはスピードがおかしいんだけど……」
「昨日お前らが帰った後一人で無給かつ無休で黙々徹夜して今に至るからな。そう、一人で、ずっと一人で黙々とやってたから!」
「お、おう!? さすがにビフォーアフターがスゲーな……ってあ!!」
「背中イターっ!?」
急に立ち上がるなよ!
さっきまでヨシヨシヨシさんしてくれてたのに急に立ち上がりやがったせいで背中思いっきり角材に強打したぞ!?
一体何だってそんな勢いよく立つ必要があったんだ、もし俺がキモいとかで落としたかったんなら謝るんで俺のプレパラートなハートにダイレクトアタックしないでください!!
と思っているとあわあわしてる千束が。
「や、ヤッバ! もうこんな時間!? 私はたきなとこれから待ち合わせあるから! ばいばーい!」
「せめて俺のこと起こしてから行けよ!?」
そんな俺の言葉が届かなかったのか、千束は逃げ足速く外に出ようとして……
制服のポケットから軽快な三分間キッチンの音楽が流れてきた。
「げぇ……たきなからだ……」
「ああ、そう言えば今日はお前ら休みだからパンツ買いに行くっつってたな。……たきなさんのパンツは黒より白っぽいのがいいと思うからよろしく」
「確かにその通りだと思うけど別に買ってきたパンツ男どもに見せるわけないからな!? ……ってああ、私の携帯~っ!?」
げぇ……とか言って電話に出るのを渋る千束。
時計を見るとそろそろ待ち合わせの時間なのに約束の場所に来ない千束を心配したたきなが電話をかけてきたのに「げぇ」とは何だ!
ちょっと憤りを感じた俺はサッと奪って電話に出てやった。
……別に仕事中の俺が休みの人に対して僻んでちょっとした嫌がらせをしようと思ったわけじゃない。
それにこのままたきなさんが無視され続けたら可哀想だなって思っただけだ。
「もしもし、俺俺!」
「ちょ、何勝手に出て……!?」
『もしもし? もしかしてその声、カズマですか? ご、ごめんなさい!? 千束と間違って電話かけてしまったようで……』
「いや、これ、千束の電話だから」
『間違いではなかったようでよかったですが……千束はいますか?』
「おい、千束。何黙ってんだ……おまえをお呼び出しだぞ?」
「わ、わかったから耳に携帯押しつけないで!? ……えっと、も、もしもーしぃ……お、お電話替わりましたぁ……」
『千束さん? 私着きましたけど、カズマとどこにいるんです?』
「ちょ、ちょっとリコリコの工事の人に顔出しててさぁ……そっちに行くまであともうちょいかかるかも? だ、大丈夫! 時間内には着くはずだから!」
『もしかして遅刻ですか? 自分から時間指定したのに遅刻ですか? 今リコリコにいるなら間に合わないでしょうに……ってあれ? もしもし? 聞こえてますか? 別に怒ってないので正直に……』ピッ
コイツ、たきなが喋ってる途中で電話切りやがった!?
顔を見ると冷や汗をたらりと流す千束が、準備運動とばかりに肩周りのストレッチをし、クラウチングスタートの体勢をとっていた。
……これから陸上競技が始まるような緊張した雰囲気を醸し出しているが、単に遅刻ギリギリの学生が急いで走って学校の朝礼に間に合わないってだけだ。
「間に合わないのにどうして間に合うって言うんだよ……正直に遅刻しそうだって言えば……」
「間に合わない? この私を誰だと思ってるのかな? 超絶プリティな看板娘、千束さんだぞぉ、間に合わなくても間に合わせる技術くらいあるわ! それじゃ!」
「今の言葉のどこにも間に合わせられる要素がないんだが? ってはやッ!?」
自称超絶プリティな看板娘は駅の方へ壁があろうとも、家があろうとも、ビルがあろうとも、何があろうとも真っ直ぐ突っ切ってやるという信念のもと、壁を破壊しながら……ではなく、住宅の壁をよじ登って屋根を走り、物理的な最短ルートで飛んでいった。
……クラウチングスタートの体勢をとった意味なかったな。
****
騒がしいお転婆娘は俺をおいてお楽しみに行った。
……別に俺も水族館とか行きたかったなとか、おいしいもん食べて腹を満たしたいなとか、そんなことは思ってなかった、というか金がないせいで無理だった。
ついて行こうにも、女子に飲食の代金を出してくださいと頼むと世間の冷ややかな視線を感じることになる。
まあそんな視線は全然気にしない俺だが、真の男女平等主義者な俺は完全割り勘ができないから行かないだけだと自分に言い聞かせながら作業に戻ることにした。
そんな作業をノンストップでやってたら日が沈んだ頃に何とか修復が完了した。
「……うん、我ながら上出来なんじゃないだろうか! とくにこの壁! 親方に何とか教えてもらった成果がでたな! これなら明日から営業再開できる! ふぁ~あ……ねむ……帰って寝るかぁ……」
徹夜には耐性がある俺だが、いつもは体を動かさないゲームだ。
今回は昨日から体を酷使しっぱなしで徹夜してたせいか、すっごく眠い。
とりあえず明日からまた仕事してお金を貯めて堅実に生きれる!
そう思って帰路につき、何故か騒がしい駅前を通過して……
頭がおかしい奴に会ってしまった。
ちなみにカズマの持っている偽造身分証明書、現在高校生になっています。
……高校生は警察のお世話になっちゃうしパチンコ行っちゃ駄目だよねぇ?
Which do you like?(リコリコタイトル風)(~11/12 9:00)
-
アクシズ教みたいに頭がおかしいヨシさん
-
緑頭が爆発アフロで血に染まってる真島