「ぽぽんぽぽぉぉおお~~んっっ!!」
「……は?」
ふっ、つまらぬ戦いをしてしまったぜ……!
今回のじゃんけんの結果は14連戦中私が全14連勝!
これでまた私のじゃんけん不敗記録が更新されてしまった。
たきなの唖然とした顔が面白いけど、手加減しちゃったらそれはそれで対戦相手に失礼だしね、うん、仕方ないねっ!
ということで家事分担終わり!
パジャマ姿からリコリスの制服に着替えて、スーパーとかに寄り道しながら朝食を加えて、労働に勤しむために通勤するのであった。
そして……
「おはよう! 労働者諸君!」
「おはようございます」
「すらまっさむ」
リコリコの扉をバァァァァン!!って思いっきり開いて声高らかに入店した。
カズマの声はちょっと眠そう。
「って、今は朝じゃろがーい! それ、インドネシアでこんばんはーだから!」
「俺まだ2時間しか寝てないのにたきなに叩き起こされたんだよ……。まだ俺の夜は……睡眠時間は終わっちゃいない!!」
睡眠不足で頭おかしくなって!? 眠れっ……安らかに!
そんなアホなカズマのボケに適当に突っ込みながらカウンターの上に視線がとまる。
「ワーオすいか三昧だわ……」
「おっさんが安いからって買い込んだのよぉ」
「いくらあっても困らないだろ? 最近はジュースにするのが流行りらしい」
「それは一月前のことだよぉ……先生は古いなぁ」
「ふ、古い!? 一ヶ月前で!?」
電子機器が発達した現情報社会。
ネット文化によぉく馴染んだ若者の流行は秒刻みなんだよ!
それにこんなにいっぱいスイカがあったら見てだけでお腹いっぱいになっちゃうって……
そう思っていたらカズマの商才が閃いたのか手をポンと叩いて。
「じゃあそのスイカ、本日限定とか銘打ってスイカ味ところてんスライムにするのは……? 限定って言われたら買わなきゃいけない魔力が込もって売れに売れまくると……」
「だ、だよな! やはり無駄になんかならないよな! 流石カズマ、売り上げ貢献頼んだぞ!」
「う、うす! 任せてください!」
先生がほっとした様子でカズマの背中をポンっと叩いてるけど、今回の作戦はスイカを無駄にしないための苦肉の策で、売り上げ自体はあんまりな気がするのは私だけじゃないはず。
確かに限定って言われたら買わなきゃいけない気がしちゃうし売れるだろうけど……私は知ってる、来年とかに復刻することを。
そして今日の夜のデザートはスイカ味ところてんスライムになることを。
****
リコリコの営業が終わって帰宅ついでに買い出し。
今日のメインメニューはハンバーグ!
肉汁がじゅわりと溢れ出るのを想像しただけで涎が止まりませんわ!
そんなこんなで20%引きの合い挽き肉を買って買い出しも終わりっ!
今日の映画はど・れ・に・し・よ・う・か・なぁ~!
……なんて今晩のポップコーンのお供を厳選してるとキッチンの方でハンバーグをコネコネしてるカズマがたきなの方を、というか家事分担表を悪い目付きで見てた。
ちなみにたきなは今朝の出来事が受け入れられなかったのか朝と同じ風に表の前で立ち尽くしてる。
「カズマ? どした~そんな難しい顔して? もしかしてトイレにでも行きたいの? 我慢は体に毒なんだからそんな我慢することに快楽は覚えない方が……」
「ちゃうわ!! お前が容赦ねぇなって思って見てただけだわ!! まあ俺も人のこと言えないけどよ、流石に自分からじゃんけん提案しておいて全勝するのは控えめに言って鬼畜の所業だぞ?」
「いやいや、鬼畜とは聞き捨てならないなぁ……勝てちゃうもんは勝てちゃうし……。それに家事全部を一人でやれって言ってるわけじゃないし、カズマが料理担当してくれてるからそこまで負担はかかんないでしょ? それに快い同意の結果私が圧勝しちゃっただけだから!」
「それ、たきなのあの顔見てもいえるか? 魂が抜けかけてるぞ?」
たきなの方を見ると私のじゃんけんの必勝法を見破れなかったが故か、頭を抱えて「何故……どうして……どうやって……」って壊れたラジカセみたいにブツブツとループするボット化していた。
でもこれは私とたきなと(ついでにカズマ)の共同生活において一番いい結果なんだよ!
……だって考えてもみて?
この掃除を面倒くさがって、カズマが来るまでテーブルの上だけならまだしも、床の上までお菓子の箱とか下着とか服とかで散乱してて……
とにかくまあ、ついさっきまで戦場跡地みたいな我が家だったんだよ?
そんな私に掃除やらの家事をやらせてみい?
家事の分担表関係なくたきなが……
「何ですかこのたたみ方……一からたたみ直しです」とか
「洗剤入れ忘れてます。やり直しです」とか
「アイロンのかけ方はこれが一番早いと思います!」とか
「お風呂のカビ取りはラップを使った方が早いですよ? そんなゴシゴシ洗うより……私がやっておくのでゆっくりしててください」みたいな……
何から何まで徹底的にやり直しさせられるか仕事を奪われるんだそんなの耐えられない!!
というわけで生まれてこの方じゃんけんで負けなし、このじゃんけんで戦わせたら無敵の千束さんはたきなに家事を任せて、映画やらドラマやらを厳選するのに励んでるって訳!
ふっふっふ……私の才能が恐ろしい!
誰か私にじゃんけんで敵う相手はいないのかぁ!
「おい、DVD 散らかすなよ!? そんなことする暇あるんだったら片付けしろ……ったく、見かけ綺麗だがどーせそこの引き出し開けたら雪崩が起きるんだろ?」
「そ、ソンナコトナイヨォー……」
「たきなに恨み買われないうちに何とかしとけよ? あ、それとぼちぼち飯できんだからテーブルの上拭いてくれ」
「あいあーい」
とりあえずお客さんが来るって聞いて(カズマのことだったけど)準備してた「戦争回避だ!きのこたけのこモリモリ合わセット」をテーブルから片付けてサササァーっと布巾でテーブルをピカピカにしておく。
普通だったら面倒くさくてピカピカになるまでやらないけど、今日は率先して準備するほどやる気に満ち溢れている!
何でかって?
そりゃもちろん、カズマにデザートにところてんスライムをリクエストしたらOKの返事をもらって、いつもお客さんが全部食べちゃうあの幻の味を独り占めできるから!
だから、今部屋中に漂ってる煮込みハンバーグの良い匂いに屈して、ハンバーグでお腹を満たしてしまうような失態は犯さないのだ!
「誰か~、味見したいヤツいるかぁ? 今日も自信作だが、塩加減の意見聞かせてくれー」
訂正。私は自分のしたいこと最・優・先!
つまり美味しい食事を目の前にして我慢しない主義なのだ!
……別に我慢できない訳じゃない。
だけど我慢は体に毒って言葉もあるしね!
「う~んッッ!!
「ああっ!? 味見っつたろ!? 何肉の部分いっぱい切って食べてんの!?」
「ゴクン。いやだって毎度思うんだけどスプーン一杯だけでしっかり味がわかるかって! わかんないよなぁ! ってことでカ~ズマおかわりぃ~!」
「味見でどんだけ食う気だよ太るぞ!?」
「あー! 乙女に太るは禁句なんだぞぉ! 乙女は太らないんだから! 今日は完全勝利祝いでいっぱい飲み食いするわよ~!」
こうしてぇ、私たち3人の楽しい楽しい共同生活がはじまりましたぁ!
めでたしめでたしッ!
****
夕食の後、8時から予定通りたきなと(ついでにカズマと)映画を見てたら寝落ちしちゃってたみたいで、瞼を開けるとまぶしい朝日が飛び込んで来た。
「んぐぐぐ……」と体を伸ばしているとベーコンか何かが焼ける良い匂いと朝の静けさに混じり食器が並べられる音。
「お、起きたか、おはよーさん」
「うーん……はよぉ……」
「おはようございます。もうそろそろ朝食が出来上がりますよ? 顔でも洗って目を覚まして来てください」
「ふぁーい……二人は早起きだなぁ……」
「俺は寝てないだけだ。これから喫茶店のシフトの時間まで寝るからうるさくすんなよ?」
「うい……って寝てないの!? たきなと交代しなかったの!?」
「この時間はお前が見張りする時間だかんな? たきなは先に寝落ちした誰かさんとは違ってちゃんと映画真面目に観てたぞ? メモまでとって」
「い、いやぁ……二人ともめんご。お腹いっぱい食べたら眠くなっちゃって。って、映画はメモとるもんじゃない!」
「なかなか参考になる作戦や戦い方でしたので」
いや、リコリスあるあるかいっ!
この前フキに見せたときにも同じ反応してたぞ!?
それに加えて「この映画駄作だったな。まず現実的にオマエみたいに銃弾を避けれるやつなんていねぇだろクソがっ! それに銃の構え方も……」みたいに言われたし。
映画はあくまで創作物なんだからそういう観点から楽しまないでほしいんだけど!?
そう思っているとカズマが。
「ちなみに俺には別に謝んなくてもいいぞ? ……アニメ2クール通しでずっと見てたら朝になってただけだから」
「8時間もぶっ通しでみるとか体力あるな!?」
驚き桃の木きだわ!
カズマの顔を見ても顔色は悪くないし、もしやカズマってば徹夜常習犯か!?
自称プロゲーマーって言ってたけど、徹夜が当たり前だって言うのは本当だったのか!?
健康に悪いから嘘であってほしかったわ!
とまあ、顔を洗うまでもなく驚きの連続で目がバッチリ覚めちゃったから、今日は顔を洗う前にまずは朝食朝食!って席についてパクパク寝起き直後の食欲を爆発させた。
二人に驚かれてたけど、この朝食が高級ホテルの朝食からパクってきたんじゃないのかと思うほど豪勢で美味しいブレックファーストのせいなんじゃい!
出された朝食をぜぇんぶ胃の中に片付けた私は、デザートに昨日の余りところてんスライム(カズマ曰く冷蔵庫から脱走しかけてた)のプルプル食感を楽しんでたら……
「あっ、そう言えば思い出しました。千束、食事の後で決闘です」
「何故にぃ!? それに脈絡がない!?」
ナニナニ急に私をぶち殺がすの!?
ま、まあ私が負けるわけないけどさ?
ま、まさかじゃんけんでボコボコにしたから今度はたきなが「じゃんけん(物理)しましょう。ズルした千束には愛と怒りがこもった鉄槌のグーをお見舞いいます」ってコト!?
「お、おお、落ち着こうか! 拳じゃ何も解決しないよ!」
「そんなアザになるようなことするわけないじゃないですか」
「じ、じゃあもしかして平手打ちか腹パンか!? 陰湿たきな!! じゃんけんの恨みで暴力振るうのは良くないぞぉ!? しっかりじゃんけんで勝敗つけるべきそうすべきだから!」
「もとよりその予定なんですが……」
「暴力はんたーい! 運も実力って言うなら筋肉の動きから次の手を予測する私の方が実力者じゃいって今なんて?」
「もともとじゃんけんの再戦をお願いする予定だったのですが?」
な……なぁんだぁ……
よ、よかったあー、もしたきなに嫌われちゃったならどうしようかと。
冷や汗すんごくかいたけどいつも通りの仲良しのままで本当よかったわぁ!
ふぅーっと息ついたのも束の間、私に対して送られてくる呆れの視線を感じる。
「申し訳ない自覚あったんですね」
「うぐっ……た、確かにちょぉっとやり過ぎたなぁっては思ったけどぉ実力勝負だしぃ……」
「運勝負じゃなかったのなら公平性、全くなかったですね。……言い訳は?」
「スゥー……ないです」
ばれちゃあ仕方がねぇ!
大人しくお縄についてやっちゃる!
だからお仕置きは比較的辛くないのでお願いしますわ。
この前クルミにやってた痺れた足の裏を痺れがなくなるまでエンドレスでツンツンするのとかは勘弁してください……
土下座するんで、これで勘弁してください!!
そう思って床に思いっきり頭を打ち付けるとたきなのため息が聞こえてきて恐る恐る顔を上げると。
「別にそこまで気にしてませんし……まあこのことは水に流しましょう」
「ホントー! ありがとーたきなぁ!」
「ですが、じゃんけん勝負は受けてもらいますよ?」
たきなさんの広い御心に助かったぁ……
これがカズマなら「今日からお前は激辛メニューだけだ! 食らえ! ハバネロのハバネロ和えだぁぁああ!」って言って口を物理的に封じられてもだえ苦しむところだった。
……ってじゃんけん勝負?
私のじゃんけんの必勝法を話しちゃったけど最初はグーでやったらまた私が勝っちゃうんだけど……もしかして接待してほしいってこと?
「せ、接待はやだよ!? やるなら本気でやるからね……!」
「私が接待を希望すると思いますか? 嘗めないでください」
「お、おう……いつになくたきなが強気だ……」
「昨晩、映画見終わった後、カズマにじゃんけんの特訓をしてもらったんです! 千束がどんな姑息な手を使おうと関係のない必勝法を見せてあげます……」
「な、何言って……私が姑息!? それに必勝法!? そ、そんな即席の策、こ、この私の必勝法が破れるわけ……」
そうだ。
私のサイキョー戦法はサイキョーだからサイキョーなんだ!
こんなじゃんけんの素人に負けるはずなんて……
でも、どうしてこんなに私は緊張してるんだろう……
それにたきなの一欠片の緊張もない、余裕に満ち溢れた顔は……!
一体どんな作戦を!?
「青ざめましたね……負ける可能性を、恐ろしい結果になるのを考えましたね」
「ご、ごくり……ま、負けても文句言うなよぉ?」
「もちろん、どんな方法であれ負け惜しみは言わないと誓いましょう。千束こそ負けてもズルいとか言うのはなしですからね?」
「も、もちろん私だって誓ったるわっ!」
だ、大丈夫、大丈夫だ落ち着け震えるマイハート!
平常心を心がけて今の一瞬に燃えつきるほど魂をヒートアップさせるんだ!
うおおおおおっ! 刻むぞ血液のビート!
よしっ!
「いきます……!!」
「よしゃ来いッッ!」
「「最初は……!!」」
まだだ……カズマとさせるまでじゃんけんは終わらんよッ!!
(試験期間中の叫び)(にもかかわらず筆が乗り乗り)