「な……な……」
「か、勝ちました!! 私、千束に勝ちましたよカズマ!!」
「よかったな」
「邪智暴虐の千束に勝ちましたよ!!」
「はいはいよかったねってた、たきなさん!? ちか、近いっ!」
ま、負けた!?
この千束がサシのじゃんけん勝負で一夜漬けの素人相手に負けた!?
って違うっ!!
「む、無効だ! こんな試合は無効だぁ!」
「何ですか? 負け惜しみですか? さっき勝っても負けても恨みっこなしって、負けても文句はないって、そう言いましたよね?」
「でもこれはイカサマが過ぎるでしょうが! 何だよ最初はパーって! 最初はグーって日本津々浦々の常識で世間一般的に決まってるじゃろがい!」
最初はパーとかルール無視にもほどがあるわ!
せめてじゃんけんぽんから始めるとかだったらわかるけど、「最初は……」って言ったら絶対グー出さないと反則だよ反則!
これは罰として後でジュース奢らせないと……
「でもそれって千束の感想ですよね? じゃんけんの最初は『最初はグー』であるルールって、そう言うデータってあるんですか?」
「で、データ!? そ、そんなの関係ないでしょ!? これが日本の伝統だろぉん!? ってかどうしちゃったの!? たきなは、ほら、もっとこう……純粋だったじゃん! どうしてこんなカズマみたいな性格に!?」
「おい、貶しの言葉が俺みたいな性格って何なの!?」
「千束が卑怯な手を使ったので私もそうすれば良いってカズマ師匠が……」
「し、師匠!?」
なんてこった……
あの頭が固すぎて「このコンクリートの壁を頭を使って突破しろ!」って言ったらコンクリートを頭突きして突破しようとするイメージのたきながカズマのせいで……
「目から鱗でした。正々堂々と運勝負しないならこちらも策を弄すればよかったのだと師匠が諭してくれたときに『千束が最初はグーで必勝だっていうなら私はそれを見越して最初はパーで行けば必勝』だってひらめいたんです。どうですか? 参ったでしょう?」
「あ、ああ…………」
私が一晩寝ている間にたきながカズマに穢された……
私の可愛い可愛い真面目が取り柄の後輩パートナーが不真面目な不良になっちまった……
こんなことが罷り通っていいのか?
いいや、いいわけないだろ!(反語)
「私が思っていた以上にじゃんけんは奥深いゲームでしたが何とか勝てました……。たった一度限りの奥の手でしたのでさっきのような手はもう使えませんがこれで勝ち逃げできます! 満足です」
「一応まだ爆裂魔法級の奥の手はあるが……その禁断の一手は教えなくても良さそうだな」
「私、カズマの言葉を信じてよかったです! じゃんけんは運もありますが心理戦だって信じてよかったです!」
「じゃんけんは実は運勝負じゃない、相手の思考を読み取り、次の手を出す思考ゲームだって言ったろ? あとさっきから近いっす」
「ああ、ああ…………」
さっきからたきながカズマにべったりくっついてる……
昨日の夜に何があったんだ!?
ま、まさか、手取り足取り教えたの!?
そのせいで急に距離感が縮まって、純粋なたきなの心汚されたの!?
「ああああ、ああああ…………」
「うん? さっきからどしたんだ千束? そんな悲しみと怒りとがごちゃ混ぜになったような変な顔して……」
「うわああああぁぁああ!! このクズマ! 私の純粋でかわいいたきなを汚したぁぁああッッ!! この悪魔! 穢しよってからに許せん、許せんぞ!」
「ちょ、わ、悪かったって……って元はといえばお前がたきなに勝ち目のないじゃんけんを申し込んだのが原因だかんな!? 俺がちょっとくらい悪知恵を仕込んだからってどうこう言われる筋合いは……」
私の大好きなたきなを返せぇぇええ!!
カズマめぇ!!
君が泣くまで私が泣きわめき散らしてやる!!
「……うぷっ……わかった、わかったから! その肩を思いっきり揺さぶるのはやめようか! 食後なんだぞ! 俺の胃の中のもんをぶちまけてもいいのか!? ちょ、ホントにヤバいっ……おr」
……Nice boat.
ふー、危ない危ない!
私としたことが取り乱したわぁ…………うん? カズマがどうなったかって?
もちろんグロッキーになってトイレに駆け込んだだけだよ?
……ってことしてる間にもうリコリコに行かないといけない時間になってったからカズマをおいて私とたきなで猛ダーッシュしたらギリギリセーフ!
もちろんカズマは遅刻した。
私たちが喫茶店の制服に着替えてからテーブルとかを拭いてるとドアが開く音が。
「お゛はよ゛……」
「オーッス、おはよさん……って顔色悪いな声までゾンビかっ!? どうしたアンタぁ、もしかして女二人の家に放り込まれてドギマギして寝れなかったのかしらぁ?」
「ちがわい! さっき千束に暴力振るわれてダウンしてただけだわ。ミズキさん、着替えてくるのでとりあえず打刻押していて下さい……」
「アンタもお転婆娘の世話焼き大変ねぇ……」
「だぁれの話してんだぁ?」
「ピューピュー……」
ミズキ、口笛吹いて目ぇそらしてもわかってんだかんな?
年齢が上だからって私の方がここで長く先輩してんだからもっと敬いたまえ?
ジト目で先輩を敬わない年上どもを見てると開店前の準備を終えたたきなが私のとこに来た。
「千束、準備終わりました」
「おー、おつかれぇい……」
「……? あの、千束? どうしたんですかそんなほっぺを膨らませて……まださっきのこと怒ってるんですか?」
「もともと怒ってませ~ん! でももう一回じゃんけんしようよ! 負けっぱなしじゃ嫌なんだよね~」
「私だって嫌ですよ。それにさっきの必勝法は一回きりなんですし、じゃんけんぽんで始めたとしても私が勝つ確率より千束が勝つ確率が2倍なのでやりたくありません」
「そんな殺生なぁ……。カズマと夜な夜なじゃんけんの特訓してたんだろぉ? 私に見せつけてみなよ!」
「さっきのが集大成です。無表情でズルいことをするのに慣れなくて、一時間近く費やしてしまいました……」
「でもでもぉそれだけ時間かけたんだったらもう一回くらいやろうよぉ。じゃんけんぽんでいいからさ~! ね、お願~い!」
「駄々っ子ですか!」
だってぇあんな卑劣な手に引っかかったまま終わるのは私の中にあるじゃんけんにたいする熱い思いが許さないんだから!
せめてちゃんとしたじゃんけんで勝つか負けるかしないとモヤモヤする!
そんなことを思っていたらたきなが息を吐いて。
「仕方がありませんね……いいですよ」
「おおっ! マジでぇ!? よっしゃ! 結局、最初に負けなきゃいい話でしょ? じゃあいっちょ真剣に私の真の実力を見せてあげましょう!」
「とはいえ、私は分が悪い戦いはしたくありません。ということでカズマ先生ーお願いします」
「どういうことで!? そこは直接対決するとことじゃないの!?」
「私のじゃんけんの師を倒せば実質的に私を倒したことになるでしょう? ……私が勝ち越してるという事実は変わりませんが」
ええー……
というか先生って……確かに昨日の夜、じゃんけんの師匠と弟子って関係だって聞いたけども!
……いや待って?
ここでカズマと戦えばたきなを汚した恨みを晴らせるのではなかろうか!?
叩いてかぶってじゃんけんぽんだったらゲームを口実にカズマを思いっきり叩いて粛正できる!
そうとなればさっきまで直接対決じゃないと嫌だなって思ってたけど話は変わってくるぞ!
「いいねぇ……やろう、じゃんけん! カズマ~こちゃ来ーい!」
「カズマ、相手は常勝不敗だった歴戦の猛者です。油断せずに訓練の時に見せてくれた運の良さをぶちかましてやってください!」
「……俺、さっき吐いたばっかでダルいんだけど」
「いいじゃん! ただ叩いてかぶってじゃんけんぽんするだけなんだから!」
「急にルールが追加されたなオイ」
カズマが怠そうな目でこっちを見てくる。
でも私にはそんなの関係ない!
肩を回して肩甲骨をほぐして血行をよくしてじゃんけんの準備だ!
「はぁ……何回勝負だ?」
「おおっ、ようやくやる気になった?」
「やんなきゃ終わんないんだろ? しょうがないから俺の弟子がボコボコにされたお礼参りとでも洒落込みますか……」
「そんな余裕そうな感じでいいのかなぁ? 私だってカズマに純粋なたきなを穢された恨みをまだ晴らし切れてないんだよ?」
「……じゃんけんで負けたのが悔しくて鬱憤晴らしたかっただけだろ」
そ、そんなことないやい!
あんな不正行為も甚だしい結果で悔しいもくそもあるかっ!
とりあえず新聞紙を丸めたやつとノートを用意してっと……
「ルールは3回勝負! じゃんけんで勝った方が叩く、以上!」
ま、どーせ私の方が有利なゲームだから!
マイ千束アイにかかればじゃんけんに勝っても負けても攻撃か防御かにすぐ転じられるから最悪じゃんけんで負けても攻防で負けはありえないのだ!
カズマにはほんのちょぉっとだけ申し訳ない気もしなくもないけど大人しくやられ役に徹してもらいましょー!
っと思ってるとカズマが手を神に祈るように組んで。
「ブレッシング……」
「おっ? もしかして神頼みでもしてんのか? 勝利は自分の手で掴み取るもんだよ!」
「運も実力のうちって言葉を知らないのか?」
「な、何よ……実力で私が負けるわけ……」
「言っておくが………………俺、
じゃんけんで負けたことねぇから……!!」
何なんじゃこの気迫!?
まさか私が圧されてるっていうの!?
……は、ハッタリだッ!
私の思考を読みやすくするために怖がらせようたってそうはいくかぁ!
そもそも今回のじゃんけん、叩いた方が一勝だから私が負けるわけがない完璧な作戦なんだ!
何も恐れることなんてないんじゃい!
「ふー……じゃあその運とやらを見せてもらいましょうか…………いくぞぉ! じゃーん、けーん、ぽんっ!」
****
なっ……一発目は私の負けか……
ま、まあしょうがないよね、最初はグーで始めなかったし昨日のたきなとの14連勝が当たり前じゃない世界だからね!
私の必勝法が破られたわけじゃないし別にぃ悔しくなんか……
ま、まあじゃんけんで負けたくらい何でもない!
頭を守るようにノートで頭を覆っていつ衝撃が来てもいいように備えて……
……あれ? いつまでたっても衝撃が来ないなってワ、ワ、ワーオ!!
「な、何勝ち気取って拳高らかに掲げてんの!? さっき説明したじゃんか勝ったら叩くんだよ!」
「えー……じゃんけんだけじゃ駄目なのか? めんど……弱いヤツをぶん殴る趣味はないんだが?」
「今面倒って言ったろ!? 駄目に決まってんじゃん私じゃんけん強いじゃん! これだと私がただ単にじゃんけんに負けただけになっちゃうから! 負けたら防御、勝ったら叩くんだからね!」
「ふーん……わかった」
すごいよ、すごい仕打ちだよ! ある意味叩くよりひどいよ!!
じゃんけんで負けた屈辱がさらに増すあくどい戦法過ぎるよ!!
「じゃ、遠慮なく……」
「何が遠慮なくってアイタッ!?」
今、一瞬何をされたのかわからなかった……
遠慮なくって言われた瞬間にいつの間にか蛇腹状におられたハリセン新聞紙で頭を引っ叩かれていた。
バシィィイイーーン……って残響が部屋中に響いてる!?
「……って今じゃねぇーよ! 何で今殴ったぁ!?」
「いやさっき勝ったし叩けって言ったから」
「だとしても今じゃねぇよさっきだわ! 瞬間だよ! 刹那の時に生きるんだよ私たちはそういう生き物なんだよ!」
「へー。……とりあえず俺が一勝な?」
「んなわけないだろ! ……はぁ、じゃ、仕切り直していくよ? じゃーん、けーん、ポンッ!」
……ま、また私の負けか。
ま、まあいいでしょう、この負けは次に繋がるための希望の負け!
次、私がじゃんけんで勝ったらさっきまでの負けの分と叩かれた分を思いっきり返しちゃるわ!
さあ、私は頭を隠したぞいつでも来いっ!
「胴ーっ!」
「どうしてぇ!?」
酷いよ……叩いてかぶってじゃんけんぽんは頭を叩くか叩かれるかの勝負じゃん!
どうして防御してない腹を狙って攻撃すんの!?
仏も神も死んだのか!?
「はい、これで俺の二勝目」
「んな訳あるかぁい! ゼロ勝ゼロ敗だわ! そもそも叩くのは頭だけだから! 防御薄い部分を狙って攻撃する遊びじゃないから!」
「でも、そう言うルールあったか? 俺の聞いた限りじゃ頭を狙えってはいわれてないぞ?」
「そう言えばコイツ、たきなのことを悪の道に落とした犯人だった!? くそぉ、ひねくれ性格極悪非道野郎めぇ……」
「オイ、黙って聞いてりゃなんだ! 俺が肉体チートに敵うわけないだろ小賢しさを馬鹿にすんな!」
「ぎゃ、逆ギレ!? さっきから真面目にやってくれないし何よ何でよ!! 」
「正直怠かったってのがあるが……気が変わった。次は本気で相手してやる……だから千束も……オマエの本気でかかってこいや!」
「へぇ~? そんなこと言っていいんだ? だったら『最初はグー』で行かせてもらうけどぉ? それでも勝てるって言うんだ?」
慢心しすぎだよ、カズマ。
さっき二連勝したからって私の最強戦法『最初はグー』を使わせたらもうコンテニューできないくらいにボッコボコに叩いて……
新聞紙じゃ無理だわ……
ま、まあ気を取り直して!
カズマの反抗心を、精神的ダメージを与えて、たきなを悪の道に引きずり込んだ吐き気を催す邪悪を滅ぼしてやる!
「言っておくけど、最初はパーとか、グッチョッパとか、目潰しみたいなゲームの妨害行為は禁止だかんね? 正々堂々と勝負だからね!」
「お、この期に及んでビビッてんな? ガキの頃からじゃんけんで負けたことがない俺に挑もうとする気持ちはどうだ? 言わばゲームのラスボス的存在だ」
「やっぱり悪じゃん! でも、ゲームでは絶対勇者とか英雄とか正義が勝ってくれるんだ! なら私が勝ったも同然! いざお覚悟!」
相手にとっては最終ラウンドのつもりなのかもしれない。
でもさっきの勝負が有効だとしても、こっからはずっと私のターン!
私を嘗めまくって慢心で身を滅ぼそうとしているカズマか。
それとも全力を出し切って運命に抗おうとしてる私か。
……最後に運命の神様が微笑むのはどっちか決まってる。
「「最初はグー……ジャン、ケン…………!!」」
ラストじゃんけん
……何というかパンツとじゃんけんだけでここまで書けるのは才能なんじゃなかろうか
たぶんラストじゃんけんですが……
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ブレッシング和真が勝つ
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最初はグーの千束が勝つ