我が家の飼い猫を模して作ったチョコレート味のムースケーキ、略してちょむすけを販売開始してから約一週間が経った。
もちろん俺の表情筋は死にかけていた。
いや、最初の1日2日は順調だったんだ。
常連さんがいるいつも通りの「ザ・日常」!
徐々にお客さんが増えている気もしなくもなかったが爆発的ではなく、この調子じゃ大丈夫そうだなと高をくくってたんだが……問題が。
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まず問題その1。
それは販売開始初日、6日前のこと。
そこそこ繁盛している喫茶店の仕事を片手間に固定電話が鳴ってたから俺が出たんだ。
誰からだろうと思い電話に出てみるとこのお店の常連客の阿部さんだった。
『あー、こちら阿部です。喫茶リコリコの方でしょうか?』
「あ、阿部さんじゃないですか、どうしたんっすか? 依頼なら今千束たちは出払ってて……」
『カズマくんかい? 丁度よかった、実はちょっと……』
「な、何です? もしかして俺、なにか悪いことしました!?」
『いいやそうじゃないだが……まあ、話は署に来てもらえればわかるから、一先ず三谷刑事のパトカーに乗って……』
「本当に何か俺悪いことしました!?」
なんてことがあって。
俺は何も悪いことしてないはずなのに会話が筒抜けだったせいで。
「カズマ……アンタまさかとは思ってたけど痴漢をするにしても私だけで満足しときなさぁい?」
「だぁれがミズキになんか痴漢した過去あるって!? 冗談は休み休み言えよ酔っ払い!」
「私は素面よぉ? あっ、お迎え来たっぽいわね。じゃあお勤め頑張ってこいよー、他のみんなには私が『帰ってきたら温かいスープを作って心優しく迎え入れて』っつって説得しとくから~。三谷くん、犯罪者持ってってー」
「山田くん、座布団持ってってーみたいに言うなよ! いや、俺は犯罪者じゃなi……」
何故かパトカーに詰められ、ミズキにいたずらで白いハンカチ手首にかけられていた。
そしていつの間にかクルミにカメラのシャッターを連続でパシャシャシャh……と切られ、写真を撮られまくった。
「おつとめ、ファイトー……ふっw」
「写真とんな! 親指立てんな! 別に罪を犯したって決まったわけじゃないから!」
そう言って俺はとっさにそのカメラをスティールしようとした。
ただそれだけだったんだ。
……だがしかしとっさだったのがいけなかった。
よく狙いを定めず放たれた俺の渾身の一撃はクルミの服に対して効果を発揮してしまった。
パンツとパーカー以外何も着ていないと言っても過言じゃないクルミ。
そして俺たちは外に出てこのやりとりをした。
……静かにすべての状況を察した俺はそっと、何が起こったかわからず呆然としているクルミにパーカーを頭からかぶせ、パーカードアを閉め、自ら白いハンカチを手首にかけ直し、俯きながらタクシー代わりのパトカーの運転手三谷刑事に発車を促したのであった。
ミズキ、クルミ…………俺、お勤め行ってきます……ううっ
十数分後、俺は警察署に着いた。
あんな幼女の服をひん剥くとか言う犯罪まがいなことがあったせいでパトカーの中は気持ち悪いほど嫌に静か。
テレビで報道陣に写真を撮られる人の気持ちを体験できた気がする……知りたくもなかったが。
ま、まあ俺はメリハリをつけるのがうまいことで定評がある男、カズマだ!
これしきの体験でへこたれたまま引きずるなんてことはしない!
というわけで三谷刑事の案内の元、阿部さんがいる部屋に向かうのであった。
……途中やけに俺のことを見てくるメガネ青ジャケット蝶ネクタイ小学生、それと角を生やした千束くらいの歳の女の人とすれ違った気がするが気にしないものとする。
そして俺は「どうぞ、こちらの部屋です」と入室を促され、ノックをして扉を開けるとそこには阿部さん、それともう一人見覚えのある青髪が。
すみません、ほんと、うちのバカがすみません……
「んーおいひー! このカツ丼っていうの一度食べてみたかったのよね! それにしてもどうして取調室で食べるカツ丼ってこんなにもおいしく感じるのかしら? 強力な自白作用があるのは間違いないわね……」
「ははは……おじさんの奢りだけどね、喜んでもらえてよかったよ」
「ほんとおじさんには感謝してるわ!」
「オイ、アクア……いよいよ何やらかしやがった!」
「あら、カズマさんじゃない! おじさん、もう一つ出前をおねがいd」
「食べねーよ!」
俺は信じたくなかった。
だが嫌でも理解できてしまった、コイツがバカやらかしたってことに。
とりあえず喫茶が忙しくなってきたのに余計な手間をかけやがったこいつに拳骨数発食らわすことは確定した。
「じゃあ帰りましょ! カズマさんが迎えに来るのおっそいせいで私もんのすんごく退屈してたんですけどー。退屈しのぎにどんぶりこんなに食べさせられて太らされちゃったのよ! あ、でも運動してカロリー消費したいところだけど食後すぐの運動は体によくないって言うし、ちょっぴり苦しいしタクシーの手配を……」
「悪びれろ! 警官のお世話になりやがって一体何をやらかしたのか白状しやがれ! カツ丼めちゃくちゃ食いやがった分すべて吐いて楽になっちまえ!」
「べ、別に私何も悪いことしてないわよ!? ただ、強いて言うとするのなら芸は請われてるすものじゃないの。自ずから披露してしまうものなの。……というわけで私の内なる衝動が抑えつけられなかっただけなの!」
「みんなにはそういう風に伝えておく。お勤めしっかりして来いよ?」
「だから違うわよ! 別に人を集めてお捻りもらおうとしたわけじゃないの! だから許可とかはもらってないけど、アクシズ教の『自分を抑えず、本能のおもむくままに進みなさい』という教えに則って……」
「つまりナニ?」
「……無許可で芸を披露してたらメガネの子供に通報されておじさんに引き取られました、はい」
いや、教えとか知らんわ!
お前のさじ加減でいくらでも都合のいいように変わる頭のおかしい教義だろっ!
そしてリコリコのこと宣伝するのが一応お前の役目だろが!
何仕事忘れて人様に迷惑かけてんだよ!
と、まあ、そんなことがあった。
帰ったらたきなと千束にホットココアをたらふく飲まされたのも追記しておく。
いや、俺は犯罪犯してないかr……すみません、俺のスティールのやらかしの数々は誠に申し訳なく思っております、はい。
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問題その2。
それは3日前のこと。
たきな、デジタルタトゥーを刻み込む。
発覚のきっかけは些細なことだった。
その日はやけにお客さんが多かったんだ。
それこそ開店前なのに店の前に列ができるくらいには。
いよいよちょむすけの影響が拡散され始めたのかと思い嬉しかった……
が、負担のえげつなさを思いだして胃が痛くなり始めて。
「アクアー、胃荒れに聞く魔法とかないか?」
「えー、そんな便利な魔法あるわけないじゃない。私は怪我と毒の治療、それから解呪のスペシャリストなのよ、病気なんて治せないわ。……とりあえず気休めにヒールかけてあげるからこっちらっしゃいな」
「あんがと。……なあ、毎度思うんだがけがを治す魔法はあるのに病気はポーションじゃないと治らないの何なの?」
「それはほら、ばい菌とかもしぶとく必死に生きてるのよ。回復魔法かけたら一緒に元気百倍になっちゃうの。胃荒れもそう、ばい菌か胃酸が原因でしょ? 根本的には直らないのよ、痛みが続くみたいだったら医療機関への受診をお勧めするわ」
「へー」
そんなこと言われつつも胃の調子が割とよくなった気がする。(プラセボ)
俺は張り切っていつもの倍作ろうと厨房で気合いのたすき掛けして冷蔵庫にあるものを取り出し準備を開始したんだ。
そして、いよいよお客さんが入店。
張り切って俺のちょむすけを提供するか!
たきなが今セーラー服の中学生1人(CV:ゆんゆん)を相手してるところだからスタンバっておく。
「1名様お待たせしましたー。こちらにどうぞ」
「あ、はーい」
(たきな! ぼっちに一名様とか言わないであげて差し上げろ! かわいそうだろ!)
「ご注文が決まりましたらお声がけくださ……」
「あっ、えっと、実はもう決まってて……、このちょむすけとホットチョコパフェを二つずつでお願いします! 後おすすめのコーヒーを1杯」
(携帯の写真見せて注文ってことは初来店のお客さんだがやっぱカワイイ黒猫をSNSで見て来てくれたんだな? だが俺はできる男。しっかりそれを予知してもうすでに提供できる態勢は整って…………って今なんて?)
「コーヒー1杯ですか? もしかしてお一人で2つ食べるので? 量が多すぎませんか」
「い、いいんです! 私はジャッジメントの仕事で人一倍頭に糖分入れないといけないだけなんです! 別に太りませんので心配なさらずに!」
(たきなー世の中にはブラックホールを胃袋に持ってる能力者がいるんだ。余計な詮索すんなー)
「承りました、ではちょむすけとホットチョコパフェ2つずつにブレンドコーヒーお一つですね。コーヒーにシロップの方はお付けしますか?」
「はい! あとシロップはムースケーキの方にもお願いします」
「はい、わかりました」
(やっぱ聞き間違えじゃなかった!? 承るな承るな……って注文とってるのたきなだったわコンチクショー!)
「あ、あとお土産にホットチョコレートアイスがあるって聞いたんですが……」
(ホットなのか!? それともアイスなのか!? どっちなんだ!?)
「それを3つお願いします」
「ではそのホットチョコソフトはお会計の際にお渡ししますね」
「あ、ありがとうございます!」
おかしい……おかしすぎる!
俺の渾身のかわいいちょむすけが主な売り上げになると思ってたのにまさかたきなのパフェの方を注文するお客さんもいるだなんておかしいだろうがっ!
そもそも誰も宣伝もしていないしお品書きにも書いていない闇メニュー(裏メニューではない)なのにそのホットチョコパフェを注文するだとかどうなってやがる!
一回も提供したことがないホットチョコパフェを頼むとかどこでその情報が漏れたのか、一人でアイスを三つも持てるのか、注文の品の合計5千円超えたがお金は足りるのだろうか、比喩表現なしに頭に生い茂り咲いてる花は何なんだろうか……
いろいろ気になりすぎr……ってあのやけに大食いするボッチ中学生のことはどうだっていい!
一体どこから情報が漏れたのか……
こう言うときこそうちの天才ハッカーの出番だ。
「お-い、クルミー!」
「何だよ、今ボクは株の相場を見るのに忙しいんだ。仕事なら後でやるから待っててくれ」
「お前まさか株買って儲ける算段か!?」
「たきなの指示でな。これで一発波に乗れれば……」
「調子乗って有り金全部とかすんじゃないぞ?」
「バカだなカズマ、ボクはそんなヘマしないぞ」
「どうだかなぁ……じゃなくって! たきなのう○こがどっからかわからんが拡散された可能性が高い! 見つけ出してなんとかしてくれ!」
「……ア、ウン……ワカッタ」
クルミがどうしてか眉を顰めている。
アクアのせいで株が暴落したか?
とりあえずいいたいことは伝えたし、俺は仕事の続きをしなければということで厨房に戻りチョムスケ量産計画を実行しようとした。
しかしその計画は目の前にこんもりと絞られたいっぽんの茶色いとぐろをのせた皿が厨房のテーブルを覆い尽くす信じがたい光景を見たせいで実行に移れず、ただ呆然としてしまった。
そんな俺にこの光景を作り出したであろうたきなが心配そうに声をかけてくる。
「あのカズマ? あちらの一名様にチョコムースケーキを持って行ってくれませんか?」
「お、おう、たきなさん。その、大きな皿は……」
「ホットチョコパフェです! 今日からきっと売れますよ!」
「その根拠は?」
「SNSで季節限定商品と銘打って「ちょむすけ」「ホットチョコパフェ」「ホットチョコアイス」を紹介をしてみたんですが、ほら、見てください! 中々にアクセス件数が多くてですね……きっと多くのお客さんが来てくれますよ!」
「ま、まさかたきなさん? それはご自分の手でおやりに?」
「ええ、そうですよ。こう見えて私も高校生と同じ歳です! これくらいお茶の子さいさい、とまではいきませんができるんですよ?」
まさかのまさか、あのスマホを仕事以外の用途で使わないたきながSNSによる投稿をするとは。
自慢げに胸を張ってスマホをご印籠みたいに準黒歴史を見せつけるたきなが、昔中二の頃にダークフレイムマスターって設定を書いたノートを親に見せつけて鼻で笑われたあのときと重なって……古傷が疼きやがるッ!
……自分で言ったくせに吐血しそうな程ダメージ受けたわ。
ちなみにたきなが見せてくれたスマホの「元青い鳥のアプリ」を見るとちょうど画像は左にかわいい黒猫(左向き)、右にホットチョコパフェの構図で……
……まあ、何というか、猫が粗相した感じになってしまっていた。
ハートが付きまくってたしみんな面白がって拡散してるに違いない。
拡散してくれた人の投稿を見てみると「おいしい・かわいい・きたないがすごい店」みたいなのばっかりだ。
……「おいしい・かわいい・きたない」の三拍子は言い間違えなんかじゃない。
非意図的にこれをやってのけたたきな……恐ろしい子ッ!
その偶然の産物のおかげでミーハーな人がこぞって来店。
俺の平穏は崩れ去った。
「うぉおおおい! 何取り返しのつかないことやってんだたきな! お客さん集めすぎて大変なことになってるぞ!」
「す、すみません!? ですがこの集客率を持ってすれば1ヶ月もせずに黒字を取り戻せますよ! これはクルミに感謝ですね」
「黒字とかそんなのどうでもいい! 今お前は知らず知らずのうちに黒歴史を自ら拡散して……ってオイ、今クルミが何たらって?」
「ええ、実はクルミにSNSの利用方法を教えてもらってですね……」
「殺す!!」
絶対許さない……許さないからなッ!
忙しい今日はとりあえずたきなにSNSの使い方を教えたクルミに対して、他意はないが目が回るほど仕事量を増やしておくこととする。
お仕置きはこのチョコレートブームが去ってからだ!
……そして今現在に至るって訳だ。
ちなみにたきなさんは他の人の発信を見れる機能を知らないらしく、今もなお自分の作成物がうん…であることに気づかない。
マジで死にそうです、助けてえーりーん……
今回の特別出演:名探偵コナンから工藤くん、毛利さん。とあるシリーズから初春さん。東方Projectから八意さん。
次回「酷すぎる借金」
……なお書き溜めは無いようです。