なお、借金返済に躍起になって「ミニホットチョコパフェ+ミニちょむ+コーヒーのセット」を「例のセット(\1,500)」として売り出した模様。
今俺はアクアとたきなを引き連れとある駐車スペースに来ている。
え、千束はって?
アイツはアクアに作ってもらったカボチャの変なコスプレ衣装を着てバカ犬みたいに街中を走り回ってる。
というのも今日はハロウィン。
毎年10月31日に行われる豊穣祭前夜祭でカボチャをくり抜いて作るジャック・オー・ランタンを飾ったり、子どもどもが魔女やお化けに仮装して近くの家々を訪れてお菓子をもらったりする宗教のお祭りのはず……
異世界では秋の終焉をもたらす恐怖のカボチャが到来する時期で、俺も苦い経験を……いや、とてつもなく辛い料理を作りまくり、カボチャを一時撤退させるという意味不明な経験をしたもんだが……
だが、今の日本ハロウィンは企業の策略によってそんな不気味さはなくなり、妖精、死霊、鬼火などのモンスターはかわいく萌え萌えぴぴぴ萌えぴぴぴーされ、パリピがジャック・オー・ランタンをドン引きさせ、警察をも怯ませる勢いで東京の街でバカ騒ぎする日だ。
悲しいことにクリスマス、バレンタインデーに並ぶ経済の波に宗教が敗北を喫した三大イベントの一つ。
まあ多額の負債を抱えた俺にとってのボーナスイベントってことだ!
そんな稼ぎ時にいつも通りお店の業務をしてるのはアクシズ教大罪司教怠惰担当のアク公がすることだ俺は頑張るぜ!
……まあ、頑張るのは俺だけじゃなく、アクアにも休ませる気はないが。
「と言うわけだ。アクア、営業しろ」
「いきなりどう言うことなの!?」
「おいおいたきなの話、聞いてなかったのか? 昨日な店長にハロウィンイベントに乗じて売り上げを伸ばしたいって頼み込んだら移動販売用の車を用意してくれたんだ。そんで商品は昨日夜なべして死ぬほど作っといたから……」
「ああ、だから昨日私たちの夕食作った後にどこかに行っちゃったのね?」
「昨日私からも説明したんですが……その、『カズマが私を捨てて蒸発しだあ゛あ゛ッ』と叫ぶばかりで話を聞いてもらえず……。その後叫び疲れたのか秒でスカーと寝息を立てていたのは衝撃でした」
「おい誰が誰のせいで借金返済頑張ってると思ってんの!? 本来はアクアが全額返済すべきなんだかんな!?」
「わ、私は最初から信じてたわよ?」
嘘こけ!
はぁ……マジで一回日本海溝に捨ててこようかコイツ。
水の女神(仮)だからびしょ濡れになって帰ってくるだけだろうけど!
「とにかく! 昨日猫耳とかいろいろ仮装グッズ作ったろ? それつけて売ってきてほしい」
「わかりました。何でも屋としての仕事は全て千束に押しつけてきましたので私は準備万端です」
「さすがたきなその意気だ! 俺のためにも思う存分稼いできてくれ!」
「ねー、私には? 私にもそういう激励の言葉ちょうだいな! 今の面倒くさがってる私じゃ本来の力の半分も出せないと思うんだけど、カズマさんが『俺のためによろしくお願いしますアクア様!』って言ってくれたらきっとやる気出ると思うの!」
「アクア……」
「はい、アクアよ!」
「……お前は宴会芸して客引きしてろ」
「なぁぁんでよぉぉおおっっ!! 私にもソフトクリーム売らせてよ!」
「だめだ! だってやらかしに定評があるお前のことだ、売らせたらぼったくるかぼったくられるか、商品に余計なことするか何かして問題起こすだろ! ソフトだってありえんくらい高く巻いて提供しかねないから却下だ!」
「そ、そんなこと……ないわよ? この女神を見くびらないでくれるかしら引きニート」
一日中働きっぱなしの俺に何馬鹿なこと言ってんだよお前!
というか穀潰しはおまえの方だろが!
だが、俺は穀潰しは穀潰しなりに売り上げに貢献できる采配にしたわけだ。
たきなを監視係に任命して、移動販売の利点を最大限利用……人が多い場所を選び、そこで客の目を引きながら販売すればかなり儲けられるはず!
そのためにアクアの芸は必要なピースの一つなんだ!
と言う訳でいじるのはこの辺にしといて、駄々こねて家に帰られる前におだてておくか。
「アクア、よく聞け」
「な、何よ、急に改まって……」
「俺はお前にしかできないことを頼んでるんだ」
「わ、私にしか、でき、ない……!?」
「そうだ! このリコリコのメンバーの中で一番客引きに向いているのはお前だし、お前にしか頼めないことなんだ!」
「そ、そこまで言われちゃあ引き受けない訳にはいかないわね! じゃなきゃ女神が廃るってもんよ! いいわ、このアクアに任せなさい!」
ちょろい、ちょろすぎるぞこの駄女神!
これだから詐欺に引っかかるんだよ……
たきなに手綱を握ってもらえればなんとかなると信じたいが今更不安だわ。
そんなこと思っているとたきなが運転席に乗り込み窓を開けて。
「では、行ってきますね。本店の方はお任せしましたー」
「じゃ、逝ってくるわ!」
ドナドナ運び去られてく駄女神の無邪気な笑顔を見て俺は思う。
……やっぱ不安だ。
****
「ただまー……って飾り付けいい感じだな、ご苦労さん!」
「おかえりぃ、後はお客さんを呼ぶだけよぉ」
「ありがとうございますミズキ……さ、ん……」
たきなのことを信じて見送った後、店に戻るとくたびれた様子のミズキがお出迎えしてくれた。
……ハロウィンイベントの飾り付けはバッチリみたいだ!
ただ一つ問題があるとすればハロウィンなら店員さんもコスプレして面白おかしくいこうじゃないかと千束の案でアクアにいろいろ衣装を仕立ててもらったりしたんだが……
「まったくお姉さんを朝からこき使わせて。その分今日は忙しく働いてもらうわよー?」
「もちろんですよミズキさん……でもサキュバスのコスプレはやめといた方がいいと思う」
「ああん、もしかして男を魅了しちゃう魔性の唇に釘付けかしらぁ……ってだぁれがサキュバスじゃい! エルフよエルフ! 清楚な草食の!」
「……エロフだ」
「大人の魅力に当てられてもっと鼻の下伸ばしてもいいのy腰イタァーッ!?」
「馬鹿やってるんじゃない、それはボクの衣装だ」
「イテテテ……どーりで妙に胸がピッチピチのパッツパツな訳ね、ちょっと着替えてくるわー」
ちなみにエルフといえば耳が長く、白い肌の美形、弓と魔法を使うイメージで、性欲がなくて草食な種族を思い浮かべるだろうが、実際に出会ったエルフは違った。
人間とのハーフエルフがほとんどで、耳は尖ってなくて、わざわざ付け耳して観光客をもてなし、ゴリゴリの武闘家で、肉食である。
オークに捕まりがちというイメージは、スーパーサイヤエルフが「俺より強い奴に会いに行く!」と言って捕まりに行き、それを武勇として体験談を広める馬鹿が多いという何ともイメージと違うダクネス寄りの残念種族なのだ。
まあ、そんなことはさておき、腰を押さえつつ更衣室に向かうミズキを薄ら笑いを浮かべて見送るクルミ。
……クルミの服はそのままなんだが、頭には何か生えてる。
「なあクルミ?」
「何だ?」
「お前は何の衣装を用意してもらったんだ?」
「聞いてなかったのか? エルフだ」
「じゃあその頭のは、ミズキの弱点にクリティカルヒットさせたその凶悪なブツは!?」
「ユニコーンだ」
「じゃ、じゃあその横に生えてる耳は!?」
「ケット・シーだ」
「統一性なさ過ぎだろ異世界なめんな!」
「しょうがないだろ何でも似合うボク用にってアクアがいろいろ張り切って用意したんだ! まあ間に合わなくなってこの有様だが」
「よし、アクアのことをぶん殴ってやる権利をくれてやる、帰ってきたら思いっきりはっ倒せ!」
いや、このロリにはファンシーなやつ結構なんでも似合うのはわかる。
だけど昨日の今日でみんなの分の衣装作る無茶振りした俺も俺だが、自ら仕事量増やして失敗するアクアは何て馬鹿なの!?
というか、さっきのミズキが着たエルフの衣装はブン伸びて使い物にならないだろうし、開店前からもう問題多発なんだが!?
そう思ってるとクルミが肩をちょんちょんして……
俺が振り返るとそこにはクルミじゃなく、突っ込みどころの多い熊の着ぐるみが立っていた。
突然の出来事に唖然としているとモゾモゾと動き始めた着ぐるみの眼球がとれ、綿が飛び出している着ぐるみの首までもが外れた。
「ぷはー、やっぱりあっついな……どうだ? ボクはこのリスの着ぐるみの中に入って接客すればいいって思ったんだが……」
「いつの間に着替えたんだよ! というか熊じゃなくてリスかよ!? そしてどうしてそんなでかい着ぐるみ持ってんだよどうして全身から血があふれ出てんだよ!」
「これははミズキが『いらないからあげるわー。防弾性能あるから何かあったらこれ着ておきなさぁい?』って廃棄処分めんどくさがってボクに押しつけて……」
「お前も面倒くさがって廃棄してねぇじゃねぇか!」
「ハロウィンイベントならこういう不気味さあふれる衣装でもいいと思うんだ。フランケンシュタインのバケモノとかゾンビもボクは好きだぞ?」
「特殊メイクとかいうめんどくさい技術使わせようとするなよ! そういうのはアクアの専門だ! ……俺もできるかもしれなくもないが魔力温存させてくださいお願いします」
こういうとき手品スキルと芸達者になる魔法便利すぎなのに無駄に魔力消費量多いの困るんだよなぁ……
とりあえず猫耳だけでもつけてクルミには働いてもらうことにした。
最悪招き猫みたいに店の前に設置する方向でも可とする。
****
開店して数時間後。
クルミの招き猫効果とハロウィンテンションでお客さんが死ぬほど増えた。
現在調理担当の俺、コーヒー担当の店長、接客担当のミズキ、会計と呼び入れ担当のクルミの四人体制。
こういうときにクリエイト・アースゴーレムできればめっちゃ役立つのに俺の貧弱な魔力量的に一体も出せない!!
使用魔力を肩代わりしてくれるマナタイトの一つでもあれば何とかできるのかもしれないがそんなマナタイト代わりのアクアはドレインタッチさせてくれないし、どう足掻いてもこのうれし涙が出そうな忙しい状況はひっくり返らない!
「ひぃー! 代打カズマ! ピンチヒッターでご登場……」
「ミズキもうちょい待ってろ! 後少しでそっちに回れるかr……ミカ店長!? 肩に手を置いて何を……!?」
「大丈夫だ、ここは私に任せて行ってやれ」
「死ぬ気か!? て、店長は俺の料理を作れな……」
「ふっ、見くびってくれるな。お前が作る喫茶店の料理を一番間近で見てきたのはこの私だぞ? パフェの盛り付けくらい見て覚えたさ」
「と言いつつ、昨日の晩めっちゃ練習してたのボクは見てたぞー」
「お、おいクルミ! 私のことを何もばらす必要はないだろ!?」
「くっ、店長、ここは任せます! 必ず、必ず戻ってくるんでそれまで耐えてください!」
「ああ、大丈夫だ。落ち着いて行ってこい。それに…………私がすべて盛り付けてしまっても問題ないのだろう?」
「て、てんちょぉぉおおおおーーッッ!!」
「テメェらふざけてないで手伝え!」
そんなわけで料理をある程度作って後のことを若干心配ながら店長に任せて厨房から出た。
異世界で身につけたコミュニケーション技術(ツッコミ)を見せつけてやろう!
お客様がクルミの会計を済ませ、次お客様が来た。
早速接客サービスぅ!
「らっしゃっせぇ!」
「へいへーいタイショーやってるー? ってラーメン屋か!」
「……なんだぁ、千束かよ」
「何だとはなんじゃい! せっかく午前の仕事を超即急でわらせてきたのに私はいらないもの扱いか!?」
「いや、めっちゃ助かる! ありがとうございます千束様!」
「そうそう、私の奴隷なんだからもっと敬い奉れぃ!」
「俺の料理なしじゃ生きてけない体なのに調子のんな! ミズキの手伝い頼んだぞ、俺は呼び入れの仕事しとくから!」
「いよーし! 頑張っちゃいますよぉ!」
何というか出鼻をくじかれた気分だ。
だが次入ってくるお客さんに十分なサービスぅを提供するために気合いを入れ直せ!
ドアを開け次なるお客さんを呼び入れするんだ!
「お席が空きました! お次の2名様……えっと、ロボ太さま?」
「オィ、ロボ太ァ、こりゃ一体どう言うことだァ?」
「ええっ!? 名前書けって言ったのはお前の方だろ!?」
「ロボ太はねェだろロボ太は……」
「おい、僕の名前に何か言いたいことがあるなら聞こうじゃないか!」
そこにいたのは頭と名前のおかしい……ロボットの被り物をしているやつ。
それから包帯で顔中をぐるぐる巻きにして、片目しか見えていない……のに緑アフロで誰だか一瞬でわかってしまった危険思考の持ち主。
俺は心の平穏を願って静かにドアを閉めた。
目の前にいる奴らはきっと疲れてるせいで俺が見てる幻影だってな。
もう一度開ければさっきの怪しい二人は消えてどっかにいっているはず!
「俺は大の甘党だって調べはついてんだろォ? 情報収集ご苦労なこったマイハッカー? だがこの俺の舌を満足させられるとは限らねェ」
「フッフッフ、僕を誰だと思ってるんだ! 世界一のハッカーに抜かりはないっ! なんとここの喫茶店、見た目もさることながら味も星一つだ!」
「低いじゃねェかッ!!」
「み、ミシュランでって話だから! だから僕の頭に銃おしつけないでぇ!!」
「……ったく、本物の方みてェに騒ぐなバカが、おもちゃの方に決まってんだろ。そんなビビるくらいだったら最初からそう言えってんだ」
「お客様、他のお客様のご迷惑にならないようにお静かにしてくださいませ!」
「ああ゛ん? ……カズマじゃねェか?」
「……人違いでございますわ」
「そうか? ……まァいい。早く案内しろよォ? 俺は今砂糖が切れてカリカリしてんだ。早く補給させろォ?」
「ぼ、僕の寿命を思うんだったら早く届けてくれ~! 例のセットを僕とコイツに1つずつだからな!」
「あ、はい! ただいま!」
俺はここに来て必殺ヴァーサタイル・エンターテイナーを発動っ!
ここに俺がいるってバレたら一生「一緒にテロしようや!」って恐怖の勧誘がくるっ!
俺の切り札のうちの一つをこうも容易に切らせるとは……恐ろしい、恐ろしいわこの真島!
俺は素早く糖分を補充してもらうためにセットメニューとして売り出したアレを真島さんに。
目の前に出され、「おォー、きたなァ?」と口角を上げながら注文していた例のセットをまじまじ見る真島。
「おいロボ太ァ、カメラ寄こせ。オマエとパフェの写真とってやっからよォ」
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて……い、イェーイ!」
「オイもっと真剣にやれや! そんなんじゃ笑顔が伝わんねェぞ!」
「仮面ごしにどうやって笑顔を伝えろと!?」
「チッ……じゃあ俺が手本見せてやる。お前が俺を撮れ。ホラ」
「ちょっとっとっと!? 投げてよこすなよ! ……じゃあいくぞー、ハイ、チーズ」
「ギャハハハッッ!! ……ふう、こうやんだよ、わかったか三下ァ」
「いやいや! むちゃくちゃ他のお客さん怯ませてるから!」
「ああ゛ん? ……驚かせたみたいですまねェな、店員さんよォ。詫びって訳じゃねェが、追加でこれと、これ、二つずつシロップマシマシで頼むわ」
「次郎系のシステムじゃねぇですわよ! でも了解いたしましたわ」
……マジで純粋にパフェを食いに来たらしい。
悪党な笑いには驚いたが危害を加えるわけじゃないなら……まあいっか。
俺のためにたくさん金を落としていってくれ!
このまま今年はノンストップで書きたい(願望)