まあ、そんなの関係なく前回の数日後の話です。
ハロウィンイベントという名のボーナスステージが終わったが、それでも店の人気は低下しなかった。
マジで招きリスの効果が効いてるぜ!
一時はたきなパフェのせいで客足が遠のくかと思ってたが、例のセットが死ぬほどバズったおかげでこの調子だと俺の借金はスピード返済待ったなし!
このまま借金全額返済するまでこのセットを売り続けてやる!!
アクアも常識人のたきなに持たせた「自称女神のトリセツ~トラブル回避術・基礎編~」のおかげで大きな損害は出なかった。
……大きな損害は、な。
だがそれでもかなりの進歩だ、勝ったな、ガハハ!
「このパフェやめます……」
「はああああ!?!? 今更何を言ってるんだたきなさん!」
「見てしまったんです、SNSでこのパフェが何て言われているのか……ふふふ、うん…ですよ、ふふふ」
「おーい、たきなが枯れた笑いしながら虚空を見つめ始めたぞー。アクアー壊れた心にヒールをー!」
「いいえ、こういう壊れたときにはヒールよりショック療法が一番効くのよ、今から初心者殺しをこの何の変哲もない冷蔵庫から取り出してみせるから……」
「お前! それこの前たきなと一緒に移動販売したときに大変なことになったやつだろ! 顔を見せた瞬間にたきなが狙撃して一撃で仕留めてなきゃ大騒ぎになってたんだからな!?」
「あ、あれはなっちゃんの銃声で驚いた中級者殺しが帰っちゃっただけなんだから! というかいかにも私がトラブル起こしの張本人みたいな風に言うのはやめてくれないかしら、やめないならここに寝そべって癇癪起こすわよ!」
「め、めんどくせぇ!」
アクアに振った俺も俺だが今はたきなが傷心しているのをどう慰めて、そしてどうやって販売中止をさせない方向に持って行くかだ!
千束の奴隷から解放されるためにもさっさとまっとうに稼げる方法が必要な今、このいい流れを崩してはいけない!
そもそも借金返済したところで貯金がない。
安定した生活のためにもあと一ヶ月は働かないと……!
「た、たきなさぁん?」
「なんでしょうかカズマさん……」
「俺はあのパフェ好き、ですよ?」
「でも世間では……」
「い、いやでも、俺の知ってる宗教にはこんな得の高い教えがある。『アクシズ教徒はやればできる。できる子たちなのだから、うまく行かなくてもそれはあなたのせいじゃない。上手くいかないのは世間が悪い』ってな。だからたきなはできる子だ! パフェだってアイスだってあんなにおいしく作れたじゃないか! こんなところで落ち込んでる暇なんかないだろそうだろなあアクア!」
「そうよ! だからアクシズ教に入信すれば今回の失敗は全部なかったことになるの! 嫌な事からは逃げればいい。逃げるのは負けじゃない。逃げるが勝ちという言葉があるのだから!」
「……駄目人間の末路じゃないですか」
くっ、立ち直らせるためにポジティブな言葉をかけたはずなのに逆効果だったか!
というかどさくさに紛れてたきなをアクシズ教に勧誘してんなよアクア!
だがまだだ、まだ落ち込んだ様子で厨房の角にしゃがみこんでるたきなを励ますことはできる!
じゃないと俺の借金返済スピードが下がる!
「そんなに落ち込むなよ……」
「ですがこれはお店と私の汚点ですッ!」
「うまいこと言うわnキュー……」
「あっとぉ何を言おうとしたのかなアクアー? あらあら、急に意識失っちゃってぇ疲れたのかー?」
あっぶねぇー!!
このバカ、今う○こ=汚点がうまいって言うとしたろ!
これで余計たきなが落ち込んじゃったらどうしてくれんの!?
まあそうなる前に俺が目にも止まらぬ手刀で制裁を下してやったが。
というわけで地面にビタンっと寝てしまったお邪魔なアクアをゴミ箱かどこかに放り投げようとしたんだが、突如後ろからある声が。
「おそろしく速い手刀……私でなきゃ見逃しちゃうね」
「う、うわっ千束!? 俺の敵感知スキルをどうやって潜り抜けて俺の背後に!?」
「クセになってんだ……音殺して動くの」キルッ
「それは暗殺者の鑑だな……ってもしかして俺を殺す気か!? ゴム弾と不殺の誓いはどした!?」
「銃は凶器。どんな綺麗事やお題目を口にしてもそれが真実! いざお覚悟……じゃないわ! たきなのこと心配になって来ただけだわ! クルミとパソコンでリサーチしてたらたきなに見られちゃってね……」
「おまえが元凶かい! とりあえず一発ずつ殴らせろ!」
「そんなことしとる場合かい! カズマの返済スピードがうんたらって聞こえたけど?」
「そうだよ、お前らの不注意のせいでたきなが落ち込んであのパフェやめるとか抜かし始めたんだぞ! 俺とたきなは傷ついたんだ、責任を、慰謝料を請求する!」
「いいのかなぁご主人様にそんな嘗めた口きいとって? 給金減らしてもいいんだよぉ?」
「ヘイすみません千束様」
くそぉ! 奴隷の俺にその攻撃は効くッ!
こんな雑な2コマ落ち展開になるなんて思わなかったわ。
「で、でもたきなをこんなにしたのは千束、お前のせいだろ! そこはちゃんと元気づけろよ?」
「もっちろんよ! マリアナ海溝より深い友情で結ばれた私とたきなの絆を見せてやらぁ! ……たきな?」
「何ですか。私のパフェを止めてくれなかった人」
「名前呼びすらされてないじゃないか!?」コソッ
「ま、まだ焦るときじゃないよカズマ! これは言わば釣り。今は渓流でイワナを釣るために餌を針につけた状態でしかない! ……知らんけど」コソッ
知らねぇのかよ!
というかマジで千束さんとも言わないなんて相当落ち込んでるぞ?
こっからどうやってたきなのことを元気にするんだ!?
「あんなパフェを作っちゃうなんて流石たきなだよ!」
「ぐふっ……」
(オィィイイ!! 吐血させてどうするんだオマエ!)
「いや、ちゃうちゃうちゃうちゃう、うチーン が流石だってんじゃなくて」
「ぐあっ……」
(追い打ちやめたげて! たきなのライフはもうゼロだ!)
「ほらほらそういうことじゃなくて、ほら、これを一から作ったのはたきなじゃん!」
「があっ……」
マジでこの千束とか言うアクマ、とりあえずいっぺん地獄に落ちろ!
これ以上の追撃与えたらたきなはもうコンテニューできないぞマジで!
いや、もしかして俺の料理スキルのせいなのか?
俺に料理を一生作ってもらう権利をかけてそんな暴挙を!?
そんな理由で人はそこまで残虐非道な仕打ちを大事な人にできるものなのか!?
末恐ろしい……俺の罪なスキル!
「いやでもそれ、お店のことを考えて一生懸命頑張ってくれた結果でしょ!?」
「……そうです。でも……」
「いいや、でもでもなんでもない! その姿勢だよ! 普段はカズマがやってる料理開発をたきながやったわけでしょ? それ、誰しもができることじゃないんだよ! 夢でも目標でもそう、最初の一歩を踏み出すのが一番難しいのにもぉ、か・か・わ・ら・ずぅ!! たきなはそれを成し遂げたんだよ!!」
「なし……とげ、た……」
「そう! 一番の難関を乗り越えたんだ、たきなは新商品開発をクリアしたんだよ!」
「クリア……してる……私が……」
「しかもそれだけじゃない! その商品はおいしい! そしてバズったんだよ! 最初の最初でこんな成果出せる人はそうそういないから! でもたきなはそんな狭き門を通り抜けた! アラン機関の人もたきなを見つけたらそりゃびっくら仰天するよ!」
「狭き……門、ですか……」
「そう! たきなは初めてだから自分では気づいてないかもしれないけど、先生みたいな普通の人にはとっても難しいことをなしえたんじゃわ、冗談抜きで尊敬もんよこりゃ」
「そう、ですか……千束が私のことを……」
おおっ!?
もしや来たか!
さっきまでめちゃくちゃたきなのことをぼっこぼこのぐっちょぐちょめっちゃめちょにしたのにまさかここでヒットしたのか!?
下げるだけ下げて一気に急上昇させる作戦だったのか!?
ちょいミカ店長がバズれない料理しかつくれないみたいな言い方はかわいそうだが、このままならたきなのことを引っ張り上げられる気がしなくもない……
なら千束、このままいっけえええっ!!
「私はたきなの頑張りちゃんと見てるよ。こんなに忙しいのに頑張って、すごいことだと思う」
「……そうで、しょうか。私にはわかりません……」
「あのねたきな、私は結果より過程が大事だと思うんだ」
「過程……」
「そう、過程! たきなは謎製法技術を使ってあの溶けないチョコクリームを作り上げた。たきなは今まで使ったことのない特許もんのヤバい技術を開発するに至るまで真剣にお店のことを考えてたってことでしょ」
「……ですが、それでもカズマは私より前からずっと毎日キッチンに立ってますし、料理も私が及ばないほど絶品ですし」
「そ、それでもカズマよりたきなの方がすごい! だって毎日やってるっていうのはつまり惰性じゃん。怠惰なカズマは惰性で料理やってるだけそうでしょう? それに比べてたきなはいつもやってないことをやったんだよ」
「そう言われれば……そういうことに、なるのでしょうか?」
「うんなるなる!」
いやならねえよ!?
爽やかな笑顔で親指立てて……何で俺がいる前で惰性で料理してるって貶すんだよ怠惰じゃねぇよ勤勉だわ!
たきなが元気になってきたから今日のところは許してやるが、本来ならふて腐れて「奴隷にも人権が保障されてるんだ! だって悪人に人権があるのならニートにも奴隷にだって人権はある!」っつってストライキして、お前の晩飯なしにすることも辞さないんだからな!
いい調子でたきなが元気を取り戻してきたがまだ油断するなよ、慌てちゃ駄目だ。
少しずつ、少しずつだぞ!
「ねえ知ってる? 車や電車だって走り始めが一番エネルギーを必要とするんだよ」
「ええ、確かに空調も開始時に莫大なエネルギーが消費されますが、その後は……」
「ね! ってことはたきなも同じ、とてつもないパワーを秘めてるってことよ!」
「なるほど……一理、あるかもしれませんね」
「一理どころか無限理あるから! 私の知ってるたきなはすごいんじゃ! そしてそんな何事にも真っ直ぐ全力で取り組むたきなさんが私は好きだぜ!」バッチコーン☆ミ
き、決まったぁぁああーーっ!
千束渾身のウインク! たきなに効果は抜群だぁーっ!
褒めちぎられすぎて顔を赤くするたきな!
真っ赤な頬を隠そうとするたきなの手から漏れ出る湯気。
これは……これは?
「あ、ありがとうございます……そ、そんなに褒められると、なんというか、その……」
「なんじゃなんじゃぁ? もしかして照れてんのかいたきなぁんや? んもー! 初のう初のうかわいいなぁもー! そんなたきなも私はかわいくて好kダッ!?!?」
「これ以上褒めないでください殺す気ですか殴りますよ!! ……あっ」
ち、千束がノックダウンした!?
まさかたきなの胸に抱きつこうとして目の前の胸が死角を作ってたきなの拳を回避できなかったとでもいうのか!?
これは千束が勝負には勝って、試合には負けた……みたいなことか?
そんなことを思っているとふーっと息を吐き出し、荒かった息を整えるたきなが。
「お、お騒がせしました……」
「い、いやいいんだ元気になったみたいだな!」
「ええ、おかげさまで。千束には元気づけてもらったのに悪いことをしてしまいました……」
「いいんだ調子に乗って俺の悪口を言いやがったコイツを俺が殴らなくてすんだだけだ」
「そうですか……」
「じゃ、今日ももう少しで終わりだが残りの仕事もいけるか?」
「私は大丈夫です! ……ですが千束とアクアが」
「こいつらはどうせボドゲ大会の単語聞けば我先に参加したいって飛び起きるだろ」
「「ボドゲ大会!!」」
「ほらな? 寝起きそうそう悪いが注文の品運んでくれー」
「了解りょうかーい! あっくん行こうぜ! 運命の闘いが私たちを呼んでいる!」
「ええそうね! いっつもじゃんけんで最下位になるけど今日こそは!」
脳内お花畑の二人はいつも元気だな……
ま、いいか!
今は俺の収入が減らない現実に喜んでおこう!
「よし! たきなはう○こパフェ作っといてくれ! 俺はちょむすけ作るから!」
「いやです」
「やる気いっぱいみたいだなじゃあよろしk……今なんて?」
「いやですよ。誰が好き好んで汚物を運ぼうっていうんですか。今現時点をもってホットチョコパフェは終了です」
「た、たきなさん!? さ、流石に今すぐやめるのは厳しいんじゃないかぁ? お客さんからも注文いただいてるし、人気メニューを急に終了にしたら反発が……」
「でもこんな汚物は消毒したい気分ですよ」
「じゃ、じゃあこうしよう! たきなは経理に全集中するんだ、そうすれば気にならないだろ? だから俺のためにも変な気は起こさないでくれ!」
「私は何も変な考えではありませんよ、極めて正常です。むしろ今までがおかしかったんですよ、どうして私は自分自身でこのフォルムがよくないイメージをはらんでいることに気づけなかったんでしょう」
「おい、それは止める気満々なときにしかでない台詞ナンバーワンだぞ!? 俺はさっさと借金を返済して自由に生活したいんだ!」
「カズマ、一つ何か勘違いしてませんか?」
「か、勘違い!?」
何だ、この負ける匂いプンプンないやな空気は……
俺は何も変なことは言っていない。
たきなパフェがなくなってしまえばこの店の稼ぎが大幅に減少してしまう。
俺のちょむすけとうんピーパフェが合わさって相乗効果を引き起こし、初めて爆発的な人気が出るんだ、単品だと人気は半分にも満たないはず!
こんなのたきなが勝手に決めれるもんじゃないし、店長がストップをかけるに違いない!
それに借金返済に関しては、たきなは千束じゃなくて俺の味方だろ?
「カズマは私が借金返済に協力的だと思ってるみたいですね?」
「そ、そうだろ! 実際にたきなはパフェを開発してくれたし、アクアを連れて店の外での仕事もこなしてくれた、何が違うっていうんだ!」
「何も違いませんね」
「だろ! なら……」
「ですが! 勘違いだといっているのです。私はカズマの借金返済に協力的なのではなく経理としてただ当然の仕事をしたまでです」
「なあっ!?」
「もうおわかりですか? 私はカズマが千束の僕であることに関しては別に反対していないんですよ、おいしい料理いつもごちそうさまです」
つまり、裏切ったとかそいうわけじゃなく、元々敵でも味方でもなかった……
今のたきなに何か言っても石頭をほぐすことはできない。
店長になんとか頼むしかもう道はないのか!?
て、てんちょー! ちょっとご相談が、たきなのパフェなんですけど……えっ、ようやくやるのかですって?
そうじゃなくてたきながやめようって言い出しまして何か店長から……元の営業に戻ろう、ですか?
……どうやらもうしばらく借金が残り続けることが確定したらしい。
なんとか年内に書きたいところまで書けました!
……逆にもう話のネタがありません(泣)
この話の続きのネタを求ム、切実ニ。